(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796704
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ガラス膜抵抗測定回路
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20151001BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
G01N27/46 353Z
G01N27/04 Z
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-118028(P2011-118028)
(22)【出願日】2011年5月26日
(65)【公開番号】特開2012-247251(P2012-247251A)
(43)【公開日】2012年12月13日
【審査請求日】2014年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石井 誠
【審査官】
谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−076854(JP,U)
【文献】
特開2007−292686(JP,A)
【文献】
特開2005−207926(JP,A)
【文献】
特開昭61−096473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/04
G01N 27/00
G01R 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ出力に所定の周波数のPWM波形を重畳させるCPUと、前記PWM波形が重畳
したセンサ出力をそれぞれ入力して前記センサ出力を測定する複数の電圧検出手段と、該
複数の電圧検出手段で検出される前記センサ出力がそれぞれ異なる所定の電圧に達するま
での時間を測定する複数のタイマーを備え、前記複数のタイマーで測定した時間に基づい
て前記センサ内部の抵抗値を測定するとともに、前記所定の周波数を設定したときの所定の電圧値になるまでの時間に対し、前記所定の電圧値になるまでの時間が所定時間短くなったときに前記所定の周波数を変更することを特徴とするガラス膜抵抗測定回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばpHセンサやジルコニア酸素濃度センサ等における等価回路が電池と高抵抗からなるガラス膜抵抗の抵抗測定回路の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
図3はpHセンサの一般的な構成を示す要部構成図である。このようなpHセンサではガラス電極を用いてそのガラス膜の内外に生じる電位差を検出することにより被測定液のpHを測定している。
【0003】
図3において1はガラス膜、2は内部緩衝液、3は塩化銀電極等の内部電極、4はガラス支持管、5は液絡セラミック、6は比較電極、7はホルダー、8はKCl溶液等の内部液、9及び10は出力端子、100は被測定液である。
【0004】
ガラス膜1はガラス支持管4に溶着され、ガラス膜1内部には内部緩衝液2が充填される。この内部緩衝液2中には内部電極3が配置され、内部電極3からの出力は出力端子9に出力される。
【0005】
一方、液絡セラミック5はホルダー7により保持され、内部には内部液8が充填される。この内部液8中には比較電極6が配置され、比較電極6からの出力は出力端子10に出力される。
【0006】
上述の構成において。ガラス膜1及び液絡セラミック5は被測定液100内に配置される。内部電極3は内部緩衝液2を介してガラス膜1の内壁に電気的に接続されるので、出力端子9にはガラス膜1の内壁に生じる電位が出力される。
【0007】
一方、比較電極6は内部液8、液絡セラミック5及び被測定液100を介してガラス膜1の外壁に電気的に接続されるので、出力端子10にはガラス膜1の外壁に生じる電位が出力される。
【0008】
従って、出力端子9及び10の電位差を検出することにより被測定液100のpHを測
定することができる。
図4はこのようなセンサのインピーダンス検出の概念を示すもので、矩形波発生回路1
1から矩形波Vkを出し、ガラス電極12−液ア−ス極13間の
抵抗値(Rg)及び比較
電極14−液ア−ス極間13の
抵抗値(Rf)を検出している。
ガラス電極のインピーダンスは通常数十MΩであり、これが小さくなるとガラス電極の
破損とみなされ、比較電極のインピーダンス(通常数10kΩ程度)が大きくなると比較
電極の劣化とみなしている。
【0009】
図5(a)はこのようなセンサのガラス膜抵抗を測定する従来の回路の要部ブロック構成図を示すものである。ここではセンサのガラス膜抵抗を測定することによりガラス膜の劣化や破損を監視している。
図5(a)において、21はpHセンサの電極部の等価回路を示している。Vgは水溶液のpHに対する起電力で、Rgは電極膜の抵抗(ガラス膜抵抗)を示している。20は変換器であり、この変換器20にはCPU27、バッファー23a、23b、サンプルホールド回路25およびADコンバータ26が配置され、ガラス抵抗Rgとバッファ23aの入力端子の間には回路抵抗Rが接続されている。
【0010】
上述の構成において、CPU27からバッファ23bを介して例えばイで示すような100HzのPWM(Pulse Width Modulation・・・パルス幅変調)波形を出力しセンサ21の出力に重畳させる。
【0011】
その結果、変換器の入力端子Vinは
Vin={R/(Rg+R)}・(V+Vg)・・・(1)式
となる。このVinは交流出力なので、バッファ23aを介してサンプルホールド回路25に入力して直流電圧に変換し、ADコンバータ26を通して直流電圧V
0を測定する。
【0012】
図5(b)はサンプルホールド回路でホールドした値を測定電圧V
0に変換する状態を示している。
なお、サンプルホールドするためのタイミングパルスはCPU27から発せられる。
そして、測定電圧V
0と抵抗Rからセンサ21のガラス膜抵抗Rgを求めている。
【0013】
図6(a)は他の従来例を示す要部ブロック構成図である。この例においては、ガラス膜抵抗Rgとバッファ23aの入力端子間にコンデンサCが接続されている。その他の構成は
図5(a)と同様である。
【0014】
この従来例は、センサのガラス膜抵抗Rgとバッファ23aの入力端子間に接続されたコンデンサCの過渡応答を利用し、ある時間tでサンプリングホールドを行ない、直流電圧に変換後、ADコンバータでV
0を測定するもので、測定電圧V
0、コンデンサC、時間tよりセンサのガラス膜抵抗Rgを求めるものである。この測定回路では
図6(b)で示すようにV
0で示す点をCPUから発せられるタイミングパルスによりサンプルホールドして直流電圧に変換している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平09−5290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、
図5に示す測定回路では、センサの起電力Vgも抵抗RgとRによって(1)式に示すように分圧されてしまい誤差になる。また、オペアンプなどのオフセット電圧も誤差になる。
また、
図6に示す測定回路もセンサの起電力Vgの影響を受ける。さらに、ガラス膜抵抗Rgが1MΩ以上になると時定数が大きくなることから精度良く計ることが難しく、実際には抵抗値の値を表示することが出来ない。そのため、10MΩ以上、10M〜1MΩの間、1M〜1kΩの間など、抵抗値Rgはある範囲でしか表示することができない。
【0017】
従って本発明は、センサのガラス膜抵抗Rgとバッファ23aの入力端子間に接続されたコンデンサCの過渡応答を利用し、測定箇所を連続的に複数箇所測定することで、ガラス膜抵抗Rgの値を従来よりも幅広い範囲(10kΩ〜100MΩ程度)で測定できるようにし、また、サンプリングホールド回路を除去して、応答波形に重畳している直流成分を直流カットコンデンサなどを使用せずに計算で除去し、PWMの周波数を可変にすることで、測定時間を短縮し広範囲のガラス膜抵抗を高精度に測定可能としたガラス膜抵抗測定回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載のガラス膜抵抗測
定回路においては、
センサ出力に所定の周波数のPWM波形を重畳させるCPUと、前記PWM波形が重畳
したセンサ出力をそれぞれ入力して前記センサ出力を測定する複数の電圧検出手段と、該
複数の電圧検出手段で検出される前記センサ出力がそれぞれ異なる所定の電圧に達するま
での時間を測定する複数のタイマーを備え、前記複数のタイマーで測定した時間に基づい
て前記センサ内部の抵抗値を測定する
とともに、前記所定の周波数を設定したときの所定の電圧値になるまでの時間に対し、前記所定の電圧値になるまでの時間が所定時間短くなったときに前記所定の周波数を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したことから明らかなように本発明の請求項1によれば、
センサ出力に所定の周波数のPWM波形を重畳させるCPUと、前記PWM波形が重畳
したセンサ出力をそれぞれ入力して前記センサ出力を測定する複数の電圧検出手段と、該
複数の電圧検出手段で検出される前記センサ出力がそれぞれ異なる所定の電圧に達するま
での時間を測定する複数のタイマーを備え、前記複数のタイマーで測定した時間に基づい
て前記センサ内部の抵抗値を測定する
とともに、前記所定の周波数を設定したときの所定の電圧値になるまでの時間に対し、前記所定の電圧値になるまでの時間が所定時間短くなったときに前記所定の周波数を変更するように構成したので、従来よりも幅広い範囲(10kΩ〜100MΩ程度)を測定でき、PWMの周波数を変えることで抵抗値を精度よく測定することができ、直流成分の影響も受けないガラス膜抵抗測定回路を実現することができ、回路の直流成分を除去することで回路の簡略化を図ることができる。また、抵抗値測定精度の向上や測定時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のガラス膜抵抗測定回路の実施形態の一例を示す要部ブロック構成図である。
【
図2】本発明のガラス膜抵抗測定のフローを示す図である。
【
図5】従来のガラス膜抵抗測定回路の一例を示す要部ブロック構成図である。
【
図6】従来のガラス膜抵抗測定回路の他の例を示す要部ブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1(a〜c)は本発明のガラス膜抵抗測定回路の実施形態の一例を示すもので、
図1(a)は要部ブロック構成図、(b)は起動時における測定周波数の算出のための説明図、(c)は通常測定時におけるタイマーでの時間計測の一例を示す説明図である。
【0024】
図1(a)において、
図5、
図6と同一要素には同一符号を付して重複する説明は省略する。22は本発明における変換器であり、CPU27はセンサ21に対してバッファー23bを介してPWM波形を出力し、センサ21の出力に例えばデューティ比50%の矩形波を重畳させる。矩形波が重畳された信号はバッファー23aに入力され、その出力は後段に接続された第1電圧検出手段28aに入力される。バッファー23aからの出力信号は同じくバッファー23aの後段に接続された第2電圧検出手段28bにも入力される。
【0025】
これら第1,第2電圧検出手段28a,28bはバッファー23aからの電圧値を検出する。29aは第1電圧検出手段28aの後段に接続された第1タイマーであり、29abは第2電圧検出手段28bの後段に接続された第2タイマーである。
第1,第2タイマー29a,29bにはCPU27からPWMが入力されると共にタイマースタートパルスが入力される。
【0026】
図1(b)は
図1(a)に示すガラス膜抵抗測定回路における起動時の印加信号(イ)の周波数の算出例を示すもので、印加信号V(ステップ応答)に対して出力が70%になるまでの第2タイマー29bの時間を計測している。
【0027】
図1(c)は
図1(a)に示すガラス膜抵抗測定回路における第1,第2タイマー29a,29bでVinの電圧が印加信号Vの30%,70%になるまでの時間を測定している状態を示している。
【0028】
図2は本発明におけるガラス膜抵抗測定のフローを示す図である。フローに従って説明する。
ステップ1 起動時において、印加信号の周波数を決めるためにCPU27のPWM出力ポートをL→Hにする。
ステップ2 応答波形が70%電圧値になるまでの時間t70を第2タイマー29bで計測する(
図1(b)参照)PWM出力ポートをL→Hにする。そのタイミングで第2タイマー29bがスタートする。Vinの電圧が70%になると「70%電圧検出28b」の出力がL→Hになり第2タイマーに入力され第2タイマーがストップする。タイマーがスタートしてストップするまでの時間をCPU27はシリアル通信でタイマーより読み込む。
【0029】
ステップ3 CPUのPWM出力(印加信号)を周波数=1/(t70×8)[Hz]に設定し、PWM波形を出力する(ここで、周波数を1/(t70×8)[Hz]に設定するのは
図1(b,c)に示す応答波形が十分に100%になるまでの時間を確保するためのもので、必ずしも70%に達するまでの時間の8倍でなくても良い)。
ステップ4 応答波形が30%電圧値になるまでの時間t30を第1タイマー29aで測定する。
ステップ5 応答波形が70%電圧値になるまでの時間t70をタイマー29bで測定する
【0030】
ステップ6 ガラス膜抵抗Rgを計算する。
ステップ7 測定を終了するか否かを判断する。終了(YES)するのであればステップ9に進む。
ステップ9 PWM出力を停止する。ステップ7において、測定を終了しない(NO)場合は、ステップ8に進む。
【0031】
ステップ8 現在の周波数<「1/(t70×16)」Hzであるかを判断し、NOの場合はステップ4に戻る。YESの場合はステップ10に進む。
ステップ10 印加信号Vの周波数を1/(t70×8)Hzに設定し、CPUのPWM出力(印加信号)を出力し、ステップ4に戻る。
抵抗の測定はステップ4〜ステップ8→ステップ10を繰り返す。
【0032】
上記のフローにおいて、ステップ6におけるガラス膜抵抗は以下の計算式により計算する。
図1に示すコンデンサCの容量を100pF、印加信号V(イ)の電圧を2V、第1タイマーで測定した時間をt30(例えば3.5×10
-3秒)、第2タイマーで測定した時間をt70(例えば10×10
-3秒)としたとき、ガラス膜抵抗Rgは次のようになる。
【0034】
【数2】
ここでVoffは応答波形に重畳している直流成分で、(2),(3)式より求めることが出来る。
【0035】
ガラス膜抵抗Rgはセンサが劣化すると抵抗値が下がるため、抵抗の測定を続ける場合は、PWMの周波数が適切か否かを判断する。抵抗値が下がると70%電圧値になるまでに時間が短くなるため、周波数を設定したときの70%電圧値になるまでの時間に対し、現在の70%電圧値になるまでの時間が例えば半分になったら周波数の設定を変える。次の不等号が成り立つときはステップ8に示すように周波数の設定を変える。
(現在の周波数<「1/(t70×16)」)
【0036】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば、本実施例においては、CPUのPWM出力(印加信号)を周波数=1/(t70×8)[Hz]としたが8倍に限ることなく応答波形が100%になるまでの時間が十分に確保できれば例えば2以上に設定してもよい。また、実施例では応答波形の電圧が30%と70%になるまでの時間をタイマーで測定したがこの数値に限るものではなく、例えば40%と80%でもよい。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0037】
1 ガラス膜
2 内部緩衝液
3 内部電極
4 ガラス支持間管
5 液絡セラミック
6 参照電極
7 ホルダー
8 内部液
9,10 出力端子
11 矩形波発生回路
12 ガラス電極
13 液アース極
14 比較電極
20,22 変換器
21 センサ
23 バッファー
25 サンプルホールド回路
26 ADコンバータ
27 CPU
28 電圧検出回路
29 タイマー
100 被測定液