特許第5796735号(P5796735)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796735
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】後輪操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/14 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   B62D7/14 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-136350(P2011-136350)
(22)【出願日】2011年6月20日
(65)【公開番号】特開2013-1311(P2013-1311A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
【審査官】 柳元 八大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−057777(JP,A)
【文献】 特開平03−057775(JP,A)
【文献】 特開平03−114976(JP,A)
【文献】 米国特許第05261500(US,A)
【文献】 特開平03−243471(JP,A)
【文献】 特開平7−165099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後輪の両方が転舵可能な四輪操舵車に適用可能な後輪操舵装置であって、
1対の後輪間に連結されており、車幅方向にスライドすることによって1対の後輪を転舵させる連結アーム、
前記連結アームに設けられ、外側からピンが嵌まり込むことのできる凹部、
前記連結アームが車幅方向にスライドしない中立位置にあるときに前記凹部に対向する位置に設けられていて、進出状態にあるときには前記凹部に嵌まり込んで前記連結アームのスライドをロックし、退避状態にあるときには前記凹部から外れて前記連結アームのスライドロックを解除するピン部材、および
車速が所定速度以下の低速状態にある場合には前記ピン部材を退避状態とし、車速が前記所定速度を上回ると前記ピン部材を進出状態とする進退制御手段を含み、
前記連結アームには、前記凹部を中心に前記連結アームの長さ方向の両側に連設され、前記進出状態のピン部材を前記凹部へ案内するためのガイド溝が形成されていて、
前記ガイド溝は、前記凹部へ向けて階段状に徐々に深くなっていることを特徴とする、後輪操舵装置。
【請求項2】
前記ガイド溝を階段状に深くさせるように構成された複数の段部を含み、
前記所定速度が高くなるのに応じて、隣り合う前記段部の先端をつなぐ直線の前記車幅方向に対する傾斜角度が大きく設定されていることを特徴とする、請求項1記載の後輪操舵装置。
【請求項3】
前記ガイド溝は、前記長さ方向に関して前記凹部に近い第1領域と、前記長さ方向に関して前記第1領域よりも前記凹部から遠い第2領域とを含み、
前記第2領域における前記傾斜角度は、前記第1領域における前記傾斜角度よりも大きいことを特徴とする、請求項2記載の後輪操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前後輪の両方が転舵可能な四輪操舵車に適用可能な後輪操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前後輪の両方が転舵可能な四輪操舵車が知られている。四輪操舵車は、前輪に加えて後輪も転舵させることによって、駐車時などの低速走行状態において、小さな旋回半径で小回りすることができる。これにより、たとえば縦列駐車の際に、何度もハンドルを切り返さなくて済む。
このような四輪操舵車において後輪を操舵する後輪操舵装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、四輪操舵車の一例が示されている。具体的には、車体の後部には、後輪が取り付けられた左右1対のナックルシャフトが転舵自在に取り付けられていて、これらのナックルシャフトは、タイロッドによって連結されている。また、各ナックルシャフトには、車体に取り付けられたステアシリンダのピストンロッドが連結されており、ピストンロッドのストロークに応じて、各ナックルシャフトが後輪を伴って転舵する。特許文献1に記載の四輪操舵車では、これらのナックルシャフト、タイロッドおよびステアリングシリンダが、後輪操舵装置を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−35917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
四輪操舵車が高速走行している場合には、車体を安定させるために、後輪の転舵角が零の中立状態で、後輪の転舵がロックされていることが望ましい。しかし、予期せぬトラブル等によって、後輪の転舵角が零に戻りきっていない状態で後輪の転舵がロックされてしまうことも想定される。このような場合、後輪の転舵がロックされた後に、後輪を中立状態まで復帰させることができるとよい。
【0006】
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、中立状態に戻りきる前に後輪の転舵がロックされた場合に、後輪を中立状態まで確実に復帰させることができる後輪操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、前後輪(2,3)の両方が転舵可能な四輪操舵車(1)に適用可能な後輪操舵装置(11)であって、1対の後輪間に連結されており、車幅方向にスライドすることによって1対の後輪を転舵させる連結アーム(40)、前記連結アームに設けられ、外側からピンが嵌まり込むことのできる凹部(61)、前記連結アームが車幅方向にスライドしない中立位置にあるときに前記凹部に対向する位置に設けられていて、進出状態にあるときには前記凹部に嵌まり込んで前記連結アームのスライドをロックし、退避状態にあるときには前記凹部から外れて前記連結アームのスライドロックを解除するピン部材(63)、および車速が所定速度以下の低速状態にある場合には前記ピン部材を退避状態とし、車速が前記所定速度を上回ると前記ピン部材を進出状態とする進退制御手段(25)を含み、前記連結アームには、前記凹部を中心に前記連結アームの長さ方向の両側に連設され、前記進出状態のピン部材を前記凹部へ案内するためのガイド溝(62)が形成されていて、前記ガイド溝は、前記凹部へ向けて階段状に徐々に深くなっていることを特徴とする、後輪操舵装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記ガイド溝を階段状に深くさせるように構成された複数の段部を含み、前記所定速度が高くなるのに応じて、隣り合う前記段部の先端をつなぐ直線の前記車幅方向に対する傾斜角度が大きく設定されていることを特徴とする、請求項1記載の後輪操舵装置である。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記ガイド溝は、前記長さ方向に関して前記凹部に近い第1領域(A)と、前記長さ方向に関して前記第1領域よりも前記凹部から遠い第2領域(B)とを含み、前記第2領域における前記傾斜角度、前記第1領域における前記傾斜角度よりも大きいことを特徴とする、請求項2記載の後輪操舵装置である。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、連結アームが中立位置にあるときには、1対の後輪は、それぞれの転舵角が零となった中立状態にある。ここで、車速が所定速度を上回った高速状態にある場合には、ピン部材が進出状態になることで、連結アームが中立位置でロックされるので、後輪が中立状態でロックされて転舵できなくなる。一方、車速が所定速度以下の低速状態にある場合には、ピン部材が退避状態になることで連結アームのスライドロックが解除されるので、後輪の転舵が可能になる。
【0011】
万が一だが、連結アームが中立位置にない場合、つまり、後輪が中立状態に戻りきる前にピン部材が進出状態になって連結アームに当接することで、連結アームのスライド(後輪の転舵)がロックされることが想定される。
このようなことが発生したとしても、四輪操舵車がしばらく直進を続ければ、後輪が路面から受ける反力(いわゆるセルフアライニングトルク)によって中立状態へ戻ろうとし、これに応じて連結アームが中立位置へ戻ろうとする。ここで、連結アームには、進出状態のピン部材を凹部へ案内するためのガイド溝が形成されている。そのため、ピン部材は、後輪が中立状態に戻りきる前に進出状態になったとしても、中立位置へ戻ろうとする連結アームのガイド溝に案内されることで凹部に嵌まり込むことができ、これに応じて、連結アームがロックされた位置が中立位置まで矯正されるので、後輪を中立状態まで確実に復帰させることができる。
【0012】
ガイド溝は、凹部へ向けて階段状に徐々に深くなっているとい。
請求項記載の発明によれば、後輪が中立状態に戻りきる前に進出状態になったピン部材は、傾斜が急なガイド溝に案内されることで凹部に速やかに嵌まり込むので、後輪を中立状態まで速やかに復帰させることができる。
【0013】
請求項記載の発明によれば、後輪が中立状態に戻りきる前に進出状態になったピン部材は、ガイド溝において傾斜が急な第2領域に案内されることで凹部側へ速やかに向うので、後輪を中立状態近傍まで速やかに復帰させることができる。
そして、ガイド溝が深くなる度合いを、第1領域に比べて第2領域において高くすれば、ガイド溝の傾斜は、第2領域では急であるものの、第1領域では緩やかになる。この場合、ガイド溝が深くなる度合いが第1領域および第2領域の全域に亘って一律に高い場合に比べて、ガイド溝全体を浅くすることができる。これにより、ガイド溝が設けられる連結アームを、強度が高くない安価な材料で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、この発明の一実施形態に係る四輪操舵車1の模式的な平面図であって、四輪操舵車1が低速で直進している状態を示している。
図2図2は、四輪操舵車1の模式的な平面図であって、四輪操舵車1が低速で旋回している状態を示している。
図3図3は、四輪操舵車1の模式的な平面図であって、四輪操舵車1が高速で直進している状態を示している。
図4図4は、図2において後輪3が転舵したままロックした状態を示している。
図5図5(a)は、図4において前輪2を中立状態に戻した様子を示しており、図5(b)は、図5(a)の要部拡大図であり、図5(c)〜図5(e)は、四輪操舵車1が直進走行するのに従って図5(a)の要部の状態が時系列順に変わっていく様子を示している。
図6図6は、凹部61およびガイド溝62の付近における後側ラック軸40の要部断面図であり、図6(a)は、第1の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(b)は、第2の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(c)は、第3の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(d)は、第4の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(e)は、第5の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(f)は、第6の変形例に係るガイド溝62を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る四輪操舵車1の模式的な平面図であって、四輪操舵車1が低速で直進している状態を示している。図2は、四輪操舵車1の模式的な平面図であって、四輪操舵車1が低速で旋回している状態を示している。
なお、以下では、図1における四輪操舵車1の姿勢を基準として、四輪操舵車1の方向を規定する。具体的には、図1では、紙面左側が四輪操舵車1の左側で、紙面右側が四輪操舵車1の右側で、紙面上側が四輪操舵車1の前側で、紙面下側が四輪操舵車1の後側である。図1の左右方向が四輪操舵車1の車幅方向である。図示された太線矢印は、四輪操舵車1の進行方向を示している(図2や、後述する図3図5においても同様)。
【0016】
図1を参照して、四輪操舵車1は、左右1対の前輪2と、左右一対の後輪3と、四輪操舵システム4とを含んでいる。
前輪2および後輪3のそれぞれは、円筒状のホイール5と、ホイール5に取り付けられる円筒状または円柱状のハブ6と、ホイール5に外嵌される環状のタイヤ7とを含んでいる。前輪2および後輪3のそれぞれの回転軸方向は、ホイール5、ハブ6およびタイヤ7の軸線方向と一致している。
【0017】
四輪操舵システム4は、前輪操舵装置10と、後輪操舵装置11とを含んでいる。
前輪操舵装置10は、ステアリングホイール12と、入力軸13と、トーションバー14と、出力軸15と、中間軸16と、ピニオン軸17と、前側ピニオン18と、前側ラック軸19と、タイロッド20と、ナックルアーム21と、ウォームホイール22と、ウォーム23とを含んでいる。さらに、前輪操舵装置10は、第1電動モータ24と、進退制御手段としてのECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)25と、トルクセンサ26と、車速センサ27とを含んでいる。
【0018】
ステアリングホイール12は、入力軸13に連結されていて、入力軸13は、トーションバー14を介して出力軸15につながっている。入力軸13、トーションバー14および出力軸15は、同軸状に配置されていて、これらのまとまりは、ステアリングシャフト28を構成している。ステアリングホイール12を回転させると(操舵すると)、ステアリングシャフト28がステアリングホイール12とともに回転する。この際、トーションバー14が捩れることによって、入力軸13および出力軸15は回転方向においてずれるように相対的に変位する。出力軸15は、ユニバーサルジョイント29を介して中間軸16につながっていて、中間軸16は、ユニバーサルジョイント30を介してピニオン軸17につながっている。ピニオン軸17には、前側ピニオン18が連結されている。
【0019】
前側ラック軸19は、車幅方向に沿って長手であり、車幅方向において所定範囲内でスライド可能である。前側ラック軸19の長手方向途中(ここでは、長手方向中央)には、ラック31が当該長手方向に亘って形成されている。前側ピニオン18とラック31とが噛み合っており、ラックアンドピニオン機構が構成されている。前側ラック軸19の長手方向両端には、タイロッド20が連結されている。
【0020】
ナックルアーム21は、各前輪2のハブ6に取り付けられている。ナックルアーム21には、四輪操舵車1の車体1Aから延びるキングピン32が挿通されており、各前輪2は、キングピン32を中心に転舵することができる。また、左側の前輪2のナックルアーム21においてキングピン32より後側の部分は、リンクピン33を介して左側のタイロッド20に連結されており、右側の前輪2のナックルアーム21においてキングピン32より後側の部分は、リンクピン33を介して右側のタイロッド20に連結されている。
【0021】
ウォームホイール22は、出力軸15に対して一体化されている。ウォーム23は、ウォームホイール22と噛み合っている。ウォーム23には、第1電動モータ24の出力軸(図示せず)が連結されている。第1電動モータ24が駆動されると、ウォーム23が回転し、これに伴って、ウォームホイール22が回転する。ウォームホイール22は、回転することによって、ステアリングシャフト28およびステアリングホイール12に補助トルクを与える。なお、第1電動モータ24とステアリングシャフト28との間には、ウォームホイール22およびウォーム23以外の伝達機構が介在されていてもよい。
【0022】
ECU25は、第1電動モータ24の駆動を制御する。トルクセンサ26は、ステアリングホイール12を回転させたときに、回転方向において入力軸13と出力軸15との間で生じる相対的な変位量に基づいて、ステアリングホイール12の回転トルク(操舵トルクともいう)を検出する。車速センサ27は、四輪操舵車1の車速(進行速度)を検出する。
【0023】
図1では、左右の前輪2は、転舵しておらず、中立状態(転舵角が零の状態)にある。このときの車幅方向における前側ラック軸19の位置を中立位置という。前側ラック軸19が中立位置にあるとき、前側ピニオン18は、ラック31の長手方向中央部分と噛み合っている。この状態で、ステアリングホイール12をいずれかの方向(ここでは、図1における時計回りの方向)へ回転させると、ステアリングシャフト28、中間軸16、ピニオン軸17および前側ピニオン18がステアリングホイール12と共回りする。そして、前側ピニオン18の回転に伴って前側ラック軸19が車幅方向におけるいずれか(ここでは、左側)へスライドする。前側ラック軸19のスライドに連動して、各前輪2のナックルアーム21においてタイロッド20につながった部分が前側ラック軸19のスライド方向へ変位し、これに伴って、左右の前輪2は、キングピン32を中心として転舵する。左右の前輪2が転舵した後の状態が図2に示されている。図2では、前輪2の転舵角αが図示されている。
【0024】
この状態で、ステアリングホイール12を、先程回転させたときと同じ量だけ逆向きに回転させると、図1に示すように、前側ラック軸19が中立位置に戻るとともに、左右の前輪2が中立状態に戻る。
ここで、ステアリングホイール12を回転させる際、ECU25は、トルクセンサ26が検出した操舵トルク、および、車速センサ27が検出した車速に基づいて、ステアリングホイール12に必要な補助トルクの大きさを算出する。そして、ECU25は、当該大きさの補助トルクがウォームホイール22からステアリングシャフト28(ステアリングホイール12)に与えられるように、第1電動モータ24の駆動を制御する。このように、前輪操舵装置10は、いわゆる電動パワーステアリング装置を構成しているので、乗り手は、軽い力でステアリングホイール12を回転させることによって、前輪2を転舵させることができる。
【0025】
後輪操舵装置11は、連結アームとしての後側ラック軸40と、タイロッド41と、ナックルアーム42と、後側ピニオン43と、ピニオン軸44と、ウォームホイール45と、ウォーム46と、第2電動モータ47と、ステアリングセンサ51と、ラック軸センサ52とを含んでいる。さらに、後輪操舵装置11は、前述したECU25や車速センサ27も含んでいる。
【0026】
後側ラック軸40は、車幅方向に沿って長手であり、車幅方向において所定範囲内でスライド可能である。後側ラック軸40の長手方向途中(ここでは、長手方向中央)には、ラック48が当該長手方向に亘って形成されている。後側ラック軸40の長手方向両端には、タイロッド41が連結されている。
ナックルアーム42は、各後輪3のハブ6に取り付けられている。ナックルアーム42には、四輪操舵車1の車体1Aから延びるキングピン49が挿通されており、各後輪3は、キングピン49を中心に転舵することができる。また、左側の後輪3のナックルアーム42においてキングピン49より後側の部分は、リンクピン50を介して左側のタイロッド41に連結されており、右側の後輪3のナックルアーム42においてキングピン49より後側の部分は、リンクピン50を介して右側のタイロッド41に連結されている。そのため、後側ラック軸40は、タイロッド41およびナックルアーム42を介して、左右1対の後輪3間に連結されている。
【0027】
後側ピニオン43は、後側ラック軸40のラック48と噛み合っており、これよって、ラックアンドピニオン機構が構成されている。後側ピニオン43は、ピニオン軸44に連結されている。
ウォームホイール45は、ピニオン軸44および後側ピニオン43と一体化されている。ウォーム46は、ウォームホイール45と噛み合っている。ウォーム46には、第2電動モータ47の出力軸(図示せず)が連結されている。第2電動モータ47が駆動されると、ウォーム46およびウォームホイール45が回転することによって、後側ピニオン43が回転し、後側ピニオン43の回転に連動して、後側ラック軸40がスライドする。ECU25は、第2電動モータ47の駆動を制御する。なお、第2電動モータ47の出力軸(図示せず)が後側ピニオン43に直接つながっていてもよい。
【0028】
ステアリングセンサ51は、ステアリングホイール12の回転方向および回転量を検出する。ラック軸センサ52は、車幅方向における後側ラック軸40の位置を検出する。
図1では、左右の後輪3は、転舵しておらず、中立状態にある。このときの車幅方向における後側ラック軸40の位置を中立位置という。後側ラック軸40が中立位置にあるとき、後側ピニオン43は、ラック48の長手方向中央部分と噛み合っている。この状態で、ステアリングホイール12をいずれかの方向(ここでは、図1における時計回りの方向)へ回転させると、ECU25は、第2電動モータ47を駆動させる。このとき、ECU25は、ステアリングセンサ51が検出したステアリングホイール12の回転方向および回転量と、車速センサ27が検出した車速とに基づいて、第2電動モータ47のロータ(図示せず)の回転方向および第2電動モータ47の回転数または回転速度を制御する。このような第2電動モータ47の駆動により、後側ピニオン43が回転して、後側ラック軸40を車幅方向におけるいずれか(ここでは、右側)へスライドさせる。後側ラック軸40のスライドに連動して、各後輪3のナックルアーム42においてタイロッド41につながった部分が後側ラック軸40のスライド方向へ変位し、これに伴って、左右の後輪3は、キングピン49を中心として転舵する。左右の後輪3が転舵した後の状態が図2に示されている。図2では、後輪3の転舵角βが図示されている。ここで、後側ラック軸40は、車幅方向にスライドすることによって左右の後輪3を転舵させている。
【0029】
この状態で、ステアリングホイール12を、先程回転させたときと同じ量だけ逆向きに回転させると、第2電動モータ47の駆動によって、図1に示すように、後側ラック軸40が中立位置に戻るとともに、左右の後輪3が中立状態に戻る。
このように、この四輪操舵車1は、前輪2および後輪3の両方が転舵可能である。ちなみに、後輪3の転舵は、ステアリングホイール12を回転させる人力ではなく、第2電動モータ47の駆動によって行われる。また、図2に示すように、前輪2の転舵方向(図2では右向き)と後輪3の転舵方向(図2では左向き)とを逆にすれば、前輪2の転舵方向へ向けて、四輪操舵車1をより小さい回転半径で小回りさせることができる。また、設定に応じて、前輪2および後輪3を同じ方向へ転舵させることもでき、この場合には、四輪操舵車1を、前後方向に対して左右に傾斜する方向へ直線移動(斜め移動)させることができる。四輪操舵車1を、このように小回りさせたり、斜め移動させたりすることによって、円滑に駐車することができる。なお、前輪2および後輪3の両方が転舵する場合、一般的に前輪2の転舵角αは後輪3の転舵角βよりも大きくなるが、転舵角αと転舵角βとが同じになってもよい。また、ステアリングホイール12を回転させたときに前輪2および後輪3のそれぞれが転舵を開始するタイミングにずれがあってもよい。
【0030】
図1を参照して、後輪操舵装置11は、さらに、転舵ロック機構60を含んでいる。
図3は、四輪操舵車1の模式的な平面図であって、四輪操舵車1が高速で直進している状態を示している。図4は、図2において後輪3が転舵したままロックした状態を示している。図5(a)は、図4において前輪2を中立状態に戻した様子を示しており、図5(b)は、図5(a)の要部拡大図であり、図5(c)〜図5(e)は、四輪操舵車1が直進走行するのに従って図5(a)の要部の状態が時系列順に変わっていく様子を示している。
【0031】
転舵ロック機構60は、凹部61と、ガイド溝62と、ピン部材63と、ガイド窪み64と、付勢部材65と、アクチュエータ66とを含んでいる。
凹部61は、後側ラック軸40の表面においてラック48を避けた位置(図1では、ラック48より左側)に設けられており、後側ラック軸40の内部へ向けて凹んでいる。
ガイド溝62は、後側ラック軸40の表面に形成されていて、詳しくは、凹部61を中心に後側ラック軸40の長さ方向(車幅方向)両側に連設されている。つまり、ガイド溝62は、凹部61に対して車幅方向両側から連続するように設けられている。図1に示すガイド溝62は、凹部61へ向けて階段状に徐々に深くなっている。そのため、ガイド溝62は、凹部61の車幅方向両側のそれぞれに、所定数(ここでは、4つ)の段部67を有している。凹部61の車幅方向両側のそれぞれにおいて、これらの段部67は、凹部61の深さ方向かつ車幅方向において凹部61へ向けて徐々に接近するように、連なって傾斜している。このような階段状のガイド溝62および凹部61のまとまりは、後側ラック軸40において逆ピラミッド状の断面を形成している。
【0032】
また、ガイド溝62全体の車幅方向における寸法は、後側ラック軸40のスライド範囲(最大ストローク幅ともいう)以上となるように設定されている。
ピン部材63は、柱状の本体63Aと、本体63Aから細長く突き出たピン状の先端63Bとを一体的に含んでいる。
ガイド窪み64は、車体1Aにおいて後側ラック軸40を臨む位置に設けられており、後側ラック軸40から離れる方へ細長く窪んでいる。ピン部材63は、先端63Bが後側ラック軸40を臨んだ状態で、ガイド窪み64内に収容されている。ピン部材63では、本体63Aが先端63Bよりも、ガイド窪み64の底側に位置している。ピン部材63は、ガイド窪み64内に収容された状態で、スライド可能である。
【0033】
ここで、図1に示すように後側ラック軸40が車幅方向にスライドしない中立位置にあるときにおいて、ガイド窪み64内に収容されたピン部材63(特に先端63B)は、凹部61に後側ラック軸40の外側からちょうど対向する位置にある。つまり、ピン部材63(先端63B)は、中立位置にある後側ラック軸40における凹部61と車幅方向において同じ位置にある。このとき、凹部61には、後側ラック軸40の外側からピン部材63の先端63Bがちょうど嵌まり込むことができる(図3参照)。
【0034】
前述したようにガイド溝62全体の車幅方向における寸法は、後側ラック軸40のスライド範囲以上なので、後側ラック軸40がスライド可能な範囲内におけるいずれの位置(中立位置を除く)にあっても、ピン部材63(先端63B)は、必ずガイド溝62に対向するようになっている。
付勢部材65は、たとえば、圧縮ばねであり、ガイド窪み64の底とピン部材63の本体63Aとの間に、圧縮した状態で配置されている。付勢部材65は、伸びようとする付勢力によって、ピン部材63全体を、ガイド窪み64からはみ出て後側ラック軸40の凹部61へ接近する方向へ付勢している。
【0035】
アクチュエータ66は、たとえばソレノイドを含み、ECU25の制御によってON・OFFされる。アクチュエータ66は、ON状態では、ピン部材63全体を、ガイド窪み64内へ押し込む方向(破線矢印方向)へ付勢しており、OFFになると、この付勢を停止する。そのため、ピン部材63は、アクチュエータ66がONのときには、退避状態にあってガイド窪み64内にほとんど収容されており(図1および図2参照)、アクチュエータ66がOFFのときには、付勢部材65のみに付勢されることによって、ガイド窪み64から後側ラック軸40へ部分的にはみ出た進出状態になる(図3図5参照)。ECU25は、アクチュエータ66のON・OFFを制御することによって、ピン部材63を退避状態にしたり、進出状態にしたりすることができる。なお、退避状態にあるピン部材63が後側ラック軸40のスライドを邪魔することはない。
【0036】
ピン部材63では、少なくとも一部分がガイド窪み64内に常に収容されているので、ピン部材63は、進出状態と退避状態とにスライド可能であるものの、車幅方向に動くことはできない。そのため、図3に示すように、後側ラック軸40が中立位置にあるときに進出状態にあるピン部材63は、先端63Bにおいて凹部61に嵌まり込み、これによって、中立位置にある後側ラック軸40のスライドをロックする。逆に、図1に示すように、退避状態にあるときのピン部材63は、凹部61から外れて後側ラック軸40のスライドロックを解除する。
【0037】
次に、四輪操舵車1が走行している最中における転舵ロック機構60の動作について説明する。ここで、四輪操舵車1の走行状態を、車速が所定速度(たとえば、10km/h)以下の低速状態と、車速が当該所定速度を上回る高速状態とに区別することにする。駐車させるときの四輪操舵車1は、低速状態にある。ECU25は、車速センサ27の検出結果に基づいて、四輪操舵車1の走行状態を判別する。
【0038】
低速状態では、四輪操舵車1を小回りさせる頻度が高いことから、前輪2だけでなく、後輪3も転舵できるように、ECU25は、ピン部材63を退避状態にして後側ラック軸40のスライドロックを解除する(図1参照)。これにより、図2に示すように前輪2だけでなく、後輪3の転舵も可能になるので、低速状態において四輪操舵車1を小回りさせることができる。
【0039】
一方、図3に示す高速状態では、四輪操舵車1の車体を安定させるためには、後輪3を中立状態でロックして転舵させないほうが望ましいので、ECU25は、まず第2電動モータ47を駆動させて後側ラック軸40を中立位置にしてから、ピン部材63を進出状態にして、後側ラック軸40を中立位置でロックする。これにより、後輪3が中立状態でロックされて転舵できなくなる。
【0040】
なお、ECU25は、ラック軸センサ52による検出結果に基づいて、後側ラック軸40が中立位置にあるか否かを判別する。また、ECU25は、今まで転舵していた前輪2が中立状態に戻るのに連動して後側ラック軸40を中立位置に戻すようにしてもよいし、前輪2の転舵状態にかかわらず、四輪操舵車1が低速状態から高速状態に移る直前に後側ラック軸40を中立位置に戻すようにしてもよい。
【0041】
ここで、万が一だが、図4に示すように、低速状態において、後側ラック軸40が中立位置にない場合、つまり、後輪3が中立状態に戻りきる前にピン部材63が進出状態になって後側ラック軸40に当接することで、後側ラック軸40のスライド(後輪3の転舵)がロックされることが想定される。その原因として、ECU25がOFF指令を出力していないのにアクチュエータ66が故障によりOFFになることでピン部材63が進出状態になることが挙げられる。または、ラック軸センサ52の検出不良によって、後側ラック軸40が実際には中立位置にないのに、ECU25が、後側ラック軸40が中立位置にあると判別して、ピン部材63を進出状態にすることも原因として挙げられる。
【0042】
このように後輪3が中立状態に戻っていない状態でピン部材63が進出状態になっても、ピン部材63が進出した先には、必ずガイド溝62があるので、進出状態のピン部材63の先端63Bは、ガイド溝62に嵌まり込む。図4に示すように、後輪3が目一杯転舵した状態でピン部材63が進出状態になると、ピン部材63の先端63Bは、ガイド溝62の車幅方向における端部に嵌まり込む。図4では、ピン部材63の先端63Bは、ガイド溝62の車幅方向における端部(図4における左端部)にある段部67に係合している。このとき、ピン部材63の先端63Bが、ガイド溝62における後側ラック軸40に当接していることから、後側ラック軸40のスライドがロックされるとともに、後輪3が転舵したままの状態でロックされる。
【0043】
このとき、付勢部材65がピン部材63をガイド溝62側へ付勢しているとともに、ピン部材63の先端63Bがガイド溝62の段部67に車幅方向(図4では右側)から係合している。これにより、ピン部材63の先端63Bがガイド溝62から外れることで後側ラック軸40が中立位置からさらに離れ、後輪3の転舵角が大きくなってしまうことを防止できる。
【0044】
このように後輪3が中立状態に戻りきる前に後輪3の転舵がロックされても、図5(a)に示すように、ステアリングホイール12を操舵して前輪2を中立状態にすれば、四輪操舵車1は低速状態でしばらく直進を続ける。すると、転舵したままロックされている後輪3は、路面から受ける反力によるセルフアライニングトルクを受けることで中立状態まで戻ろうとする。図5(a)の場合には、各後輪3は、右向きに転舵しようとする。これに応じて、左右の後輪3間に連結された後側ラック軸40には、図5(b)に示すように、中立位置へ向かう左向きの力(破線矢印参照)が作用し、後側ラック軸40が中立位置へ戻ろうとする。ここで、ピン部材63が付勢部材65に付勢されてガイド溝62を押すことで生じる、後側ラック軸40の左右への動きを妨げようとする力よりも、セルフアライニングトルクにより後側ラック軸40が動こうとする力の方が大きくなるよう設定しておく。
【0045】
これにより、後側ラック軸40は、車幅方向において、中立位置側(図5では左側)へ向けてピン部材63に対して相対移動する。このとき、図5(c)および図5(d)に示すように、ピン部材63の先端63Bは、ガイド溝62にガイドされることで、ガイド溝62内において徐々に凹部61側へ近付いていく。ピン部材63の先端63Bに着目すると、ピン部材63の先端63Bは、ガイド溝62内において、凹部61に近い側の段部67へと順に受け渡されることによって、凹部61へ向けて車幅方向へずれつつ、ガイド溝62内へ深く進出していく。このように、ガイド溝62は、進出状態のピン部材63を凹部61へ案内している。そして、ピン部材63が凹部61に近付くのに応じて、後側ラック軸40が中立位置へ徐々に近付いていくとともに、後輪3が中立状態へ徐々に近付いていく。ここで、ピン部材63の先端63Bが、凹部61に近い側の段部67に受け渡されると、その都度、受け渡される直前の段部67に対して車幅方向(図5(a)〜図5(d)では右側)から係合するので、凹部61から離れる方向へずれないようになっている。
【0046】
そして、最終的に、ピン部材63の先端63Bは、図5(e)に示すように、凹部61に嵌まり込む。このとき、図3に示すように、後側ラック軸40が中立位置まで戻るとともに、左右の後輪3が中立状態まで戻る。後側ラック軸40が中立位置まで戻った状態では、ピン部材63の先端63Bが凹部61に嵌まり込んで後側ラック軸40のスライドをロックしているので、後側ラック軸40は中立位置に固定され、後輪3は中立状態で固定される。
【0047】
このように、ピン部材63は、後輪3が中立状態に戻りきる前に進出状態になったとしても、中立位置へ戻ろうとする後側ラック軸40のガイド溝62に案内されることで凹部61に嵌まり込むことができ、これに応じて、後側ラック軸40がロックされた位置が中立位置まで矯正されるので、後輪3を中立状態まで確実に復帰させることができる。
次に、変形例について説明する。
【0048】
図6は、凹部61およびガイド溝62の付近における後側ラック軸40の要部断面図であり、図6(a)は、第1の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(b)は、第2の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(c)は、第3の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(d)は、第4の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(e)は、第5の変形例に係るガイド溝62を示し、図6(f)は、第6の変形例に係るガイド溝62を示している。
【0049】
図6(a)〜図6(f)のそれぞれにおいて、ガイド溝62は、前述したように階段状であってもよいが(点線部分参照)、実線で示すように凹部61へ向けて直線状に徐々に深くなっていてもよい。ガイド溝62が直線状に深くなる場合には、ガイド溝62の溝壁62Aは、車幅方向に対して傾斜しつつ凹部61へ向かうテーパー面となる。
そして、後輪3の最大転舵角が小さければ、その分、後側ラック軸40の車幅方向へのスライド範囲も狭くなるので、ガイド溝62の車幅方向における寸法も小さくなる。後輪3の最大転舵角が相対的に小さい場合は、図6(a)〜図6(c)に示されており、後輪3の最大転舵角が相対的に大きい場合は、図6(d)〜図6(f)に示されている。図6(d)の場合では、図6(a)の場合に比べて、後輪3の最大転舵角が大きくなる分、ガイド溝62の車幅方向における寸法Xが大きくなっている。同様に、図6(e)の場合では、図6(b)の場合に比べて、後輪3の最大転舵角が大きくなる分、ガイド溝62の車幅方向における寸法が大きくなっており、図6(f)の場合では、図6(c)の場合に比べて、後輪3の最大転舵角が大きくなる分、ガイド溝62の車幅方向における寸法が大きくなっている。
【0050】
また、図6(a)および図6(b)を参照して、後輪3の最大転舵角に差がなくても、ピン部材63が進出状態になるときの車速(低速状態と高速状態との境界における車速の上限)が高くなるのに応じて、ガイド溝62が深くなる度合いが高く設定されている。「ガイド溝62が深くなる度合いが高い」とは、ガイド溝62が直線状に徐々に深くなっている場合には、車幅方向に対するガイド溝62の溝壁62Aの傾斜角度γが大きくなっていることであり、ガイド溝62が階段状に徐々に深くなっている場合には、隣り合う段部67の先端をつなぐ直線Y(前述した溝壁62A上に位置することになる)の傾斜角度γが大きくなっていることである。傾斜角度γが大きくなっていることは、溝壁62Aや直線Yの傾斜が急になっていることを意味する。
【0051】
図6(a)の場合において、ピン部材63が進出状態になるときの車速が高くなるのに応じて、図6(b)では、ガイド溝62が深くなる度合いが高く設定されている。同様に、図6(d)の場合において、ピン部材63が進出状態になるときの車速が高くなるのに応じて、図6(e)では、ガイド溝62が深くなる度合いが高く設定されている。ガイド溝62が階段状(点線部分参照)である場合、ガイド溝62が深くなる度合いが高くなるようにするために、ガイド溝62における各段部67の段差(ガイド溝62の深さ方向における寸法)を大きくしたり、隣り合う段部67の間隔(車幅方向における各段部67の寸法)を小さくしたり、段部67の数を増やしたりすることができる。
【0052】
図6(b)および図6(e)に示すように、車速が高くなるのに応じて、ガイド溝62が深くなる度合いが高く設定されていれば、後輪3が中立状態に戻りきる前に進出状態になったピン部材63は、傾斜が急なガイド溝62に案内されることで凹部61に速やかに嵌まり込む。そのため、後輪3を中立状態まで速やかに復帰させることができる。
なお、車速が低ければ、後輪3がある程度転舵した状態でロックされていても、そのことが四輪操舵車1の走行に与える影響はそれほど大きくない。そのため、後輪3が早急に中立状態に戻らなくてもよい(図6(a)および図6(d)参照)。この場合、ガイド溝62が深くなる度合いが低くてもよく、その分、ガイド溝62を浅くすることができる。ガイド溝62が階段状(点線部分参照)である場合、ガイド溝62が深くなる度合いが低くなるようにするために、ガイド溝62における各段部67の段差を小さくしたり、隣り合う段部67の間隔を大きくしたり、段部67の数を減らしたりすることができる。そして、ガイド溝62を浅くすることで、後側ラック軸40を、強度が高くない安価な材料で形成することができる。
【0053】
また、図6(c)では、ガイド溝62が深くなる度合いは、凹部61に近い第1領域Aに比べて、第1領域Aよりも凹部61から遠い第2領域Bにおいて高くなっている。同様に、図6(f)に示すように、ガイド溝62が深くなる度合いは、凹部61に近い第1領域Aに比べて、第1領域Aよりも凹部61から遠い第2領域Bにおいて高くなっている。
図6(c)および図6(f)の場合、後輪3が中立状態に戻りきる前に進出状態になったピン部材63は、ガイド溝62において傾斜が急な第2領域Bに案内されることで凹部61側へ速やかに向うので、後輪3を中立状態近傍まで速やかに復帰させることができる。
【0054】
そして、ガイド溝62が深くなる度合いを、第1領域Aに比べて第2領域Bにおいて高くすれば、ガイド溝62の傾斜は、第2領域Bでは急であるものの、第1領域Aでは緩やかになる。この場合、ガイド溝62が深くなる度合いが第1領域Aおよび第2領域Bの全域に亘って一律に高い場合(図6(b)および図6(e)参照)に比べて、ガイド溝62全体を、深さCの分だけ浅くすることができる。これにより、ガイド溝62が設けられる後側ラック軸40を、強度が高くない安価な材料で形成することができる。
【0055】
なお、後側ラック軸40の強度に極力影響を与えないためには、ガイド溝62を浅くする以外に、ガイド溝62の車幅方向の寸法を小さく抑えてもよい。
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…四輪操舵車、2…前輪、3…後輪、11…後輪操舵装置、25…ECU、40…後側ラック軸、61…凹部、62…ガイド溝、63…ピン部材、A…第1領域、B…第2領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6