特許第5796787号(P5796787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796787
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金及びニッケル水素蓄電池
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/00 20060101AFI20151001BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20151001BHJP
   C22C 1/00 20060101ALN20151001BHJP
【FI】
   C22C19/00 F
   H01M4/38 A
   !C22C1/00 N
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-504473(P2012-504473)
(86)(22)【出願日】2011年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2011055368
(87)【国際公開番号】WO2011111699
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2013年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2010-56357(P2010-56357)
(32)【優先日】2010年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】金本 学
【審査官】 蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/060666(WO,A1)
【文献】 特開平11−323469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 〜 49/14
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、下記一般式(1)で表され、
R1v Mgw Cax R2y ・・・式(1)
R1が、希土類元素より選択される1種又は2種以上の元素であり、R2が、Niであるか又はNiの一部をAl、Co、Cu、Mn、Fe、CrおよびZnからなる群より選択された1種または2種以上の元素で置換したものである水素吸蔵合金であって、
v,w,x,yが下記の式(2)を満たすように設定されたとき、
v+w+x+y=100 ・・・式(2)
v,w,x,yが、下記の式(3)、式(4)、及び、式(5)
2.0≦x≦5.0 ・・・式(4)
1.3≦ w/x ≦2.5 ・・・式(5)
を満たす水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記R2のNiの一部が置換されたAl、Co、Cu、Mn、Fe、CrおよびZnからなる群より選択された1種または2種以上の元素を、0原子%を超え2.2原子%以下含む請求項1記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記R2のNiの一部がAlで置換され該Alが0原子%を超え2.2原子%以下含まれている請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
前記R1としてのCeを0原子%より大きく2.3原子%以下含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金。

【請求項5】
PrCo19型結晶構造を有する結晶相を11質量%以上含む請求項1〜のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金及び該水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素蓄電池は、高エネルギー密度を有することから、デジタルカメラ、ノート型パソコン等の小型電子機器類の電源として、また、作動電圧がアルカリマンガン電池等の一次電池と同等で互換性があることから、該一次電池の代替として、広く利用されており、その需要は飛躍的に拡大している。
【0003】
この種のニッケル水素蓄電池は、通常、水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質を含んでなるニッケル電極、水素吸蔵合金を主材料とする負極、セパレータ、及びアルカリ電解液を備えて構成されている。これらの電池構成材料のうち、特に、負極の主材料となる水素吸蔵合金は、放電容量やエネルギー密度といったニッケル水素蓄電池の性能に大きな影響を及ぼすものであり、従来、種々の水素吸蔵合金が検討されている。
【0004】
近年、AB系希土類−Ni系の水素吸蔵合金を用いた場合の放電容量を上回る放電容量を示しうる合金として、希土類元素、Mg、およびNiを含んでいる水素吸蔵合金(以下、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金ともいう)が注目されており、例えば、希土類元素、Mg、およびNiと各種の金属とを組み合わせてなるものなどが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開平11−323469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
斯かる希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金においては、例えば、その水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池の放電容量を上げるべく、水素吸蔵合金に配合される金属の種類や量を調整することなどがおこなわれている。しかしながら、斯かる希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金は、水素吸蔵合金に配合する金属の種類や量によってその比重が低下することがあり、必ずしも電池のエネルギー密度を高め得るものではない。
【0007】
即ち、従来の希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金においては、その比重が比較的高いものであることで電池のエネルギー密度を優れたものにし得ること、及び、ニッケル水素蓄電池の放電容量が比較的高いものであることを必ずしも同時に満たせないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題点等に鑑み、ニッケル水素蓄電池の負極に含まれ得る水素吸蔵合金であって、その比重が比較的高いことで電池のエネルギー密度が優れたものであること、及び、ニッケル水素蓄電池の放電容量が比較的高いものであることを同時に満足する水素吸蔵合金を提供することを課題とする。また、該水素貯蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明に係る水素吸蔵合金は、化学組成が、下記一般式(1)で表され、
R1v Mgw Cax R2y ・・・式(1)
R1が、希土類元素より選択される1種又は2種以上の元素であり、R2が、Niであるか又はNiの一部をAl、Co、Cu、Mn、Fe、CrおよびZnからなる群より選択された1種または2種以上の元素で置換したものである水素吸蔵合金であって、
v,w,x,yが下記の式(2)を満たすように設定されたとき、
v+w+x+y=100 ・・・式(2)
v,w,x,yが、下記の式(3)、式(4)、式(5)
【数1】
2.0≦x≦5.0 ・・・式(4)
1.3≦ w/x ≦2.5 ・・・式(5)
を満たすことを特徴とする。
化学組成が上記一般式(1)で表される前記水素吸蔵合金においては、式(2)を満たすv,w,x,yが、上記式(3)、式(4)、及び式(5)を同時に満たす。そして、水素吸蔵合金を構成する結晶相に含まれるAユニットのAサイトにCa及びMgが配置されることにより、AユニットのAサイトに配置されたCaによって結晶格子の膨張が引き起こされ得る。ところが、明確にその作用原理が解明されているわけではないが、AユニットのAサイトに配置されたMgによって結晶格子の一部が収縮し、その分、合金全体における結晶格子の膨張が抑制されるものと考えられる。従って、合金の比重が小さくなることが抑制され得る。
【0011】
また、本発明に係る水素吸蔵合金は、前記R2のNiの一部が置換されたAl、Co、Cu、Mn、Fe、CrおよびZnからなる群より選択された1種または2種以上の元素を、0原子%を超え2.2原子%以下含むことが好ましい。斯かる構成により、電池の容量維持率がより優れたものになり得る。
また、本発明に係る水素吸蔵合金は、前記R2のNiの一部がAlで置換され該Alを0原子%を超え2.2原子%以下含むことが好ましい。斯かる構成により、電池の容量維持率がより優れたものになり得る。
また、前記R1としてのCeを0原子%より大きく2.3原子%以下含むことが好ましい。斯かる構成により、電池の容量維持率がより優れたものになり得る。
【0012】
また、本発明に係る水素吸蔵合金は、PrCo19型結晶構造を有する結晶相を11質量%以上含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係るニッケル水素蓄電池は、前記水素吸蔵合金を含む負極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る水素吸蔵合金は、ニッケル水素蓄電池の負極に含まれ得るものであって、その比重が比較的高いことで電池のエネルギー密度を優れたものとし得ること、及び、ニッケル水素蓄電池の放電容量を比較的高いものにすることを同時に満足するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る水素吸蔵合金の実施形態について説明する。
【0018】
本発明の実施形態の水素吸蔵合金は、化学組成が、下記一般式(1)で表され、
R1v Mgw Cax R2y ・・・式(1)
R1が、希土類元素より選択される1種又は2種以上の元素であり、R2が、Niであるか又はNiの一部をAl、Co、Cu、Mn、Fe、CrおよびZnからなる群より選択された1種または2種以上の元素で置換したものである水素吸蔵合金であって、
v,w,x,yが下記の式(2)を満たすように設定されたとき、
v+w+x+y=100 ・・・式(2)
v,w,x,yが、下記の式(3)、式(4)、式(5)
【数3】
2.0≦x≦5.0 ・・・式(4)
0.8≦ w/x ≦2.5 ・・・式(5)
を満たすものである。
【0019】
また、本発明の実施形態の水素吸蔵合金は、化学組成が、下記一般式(1’)で表され、
R1v Mgw Cax R2y R3z ・・・式(1’)
R1が、希土類元素より選択される1種又は2種以上の元素であり、R2が、Niであるか又はNiの一部をAl、Co、Cu、Mn、Fe、CrおよびZnからなる群より選択された1種または2種以上の元素で置換したものであり、R3が、前記R1、前記Mg、前記Ca及び前記R2以外の元素である水素吸蔵合金であって、
v,w,x,yが下記の式(2)を満たすように設定されたとき、
v+w+x+y=100 ・・・式(2)
v,w,x,yが、下記の式(3)、式(4)、及び、式(5)
【数4】
2.0≦x≦5.0 ・・・式(4)
0.8≦ w/x ≦2.5 ・・・式(5)
を満たし、zが0≦z≦0.4を満たすものである。
【0020】
前記水素吸蔵合金は、希土類元素、Mg、およびNi、さらにはCaを含有し、通常、Ni原子の数が、希土類元素の数、Mg原子の数、並びにCa原子の数の合計の3倍より大きく5倍未満である。また、Ni原子の数が、希土類元素の数、Mg原子の数、並びにCa原子の数の合計の3.4倍以上3.7倍以下であることが好ましい。即ち、いわゆるB/A比が、通常、3より大きく5未満であり、好ましくは3.4以上3.7以下である。
なお、前記水素吸蔵合金におけるAは、希土類元素とMgからなる群より選択される何れかの元素を表し、Bは、遷移金属元素とAlからなる群より選択される何れかの元素を表すものである。
具体的には、前記水素吸蔵合金のB/A比におけるAは、La、Sm、Pr、Ndなどの希土類元素、Mg、及びCaからなる群より選択される元素を表し、Bは、Ni、Al、Co、Cu、Mn、Fe、CrおよびZnからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を表す。
【0021】
前記一般式(1)又は一般式(1’)において、R1は、La、Ce、Pr、Nd、SmおよびYからなる群より選択される1種又は2種以上の元素であることが好ましく、少なくともLa又はNdを含む元素であることがより好ましい。
【0022】
前記水素吸蔵合金には、Ceが2.3原子%以下含まれていることが好ましい。Ceが2.3原子%以下含まれていることにより、電池のサイクル特性及び電池の容量維持率がより優れたものになり得るという利点がある。また、前記水素吸蔵合金の微粉化が大幅に抑制され電池の容量維持率が大幅に優れたものになり得るという点で、Ceの含有量が実質的に0原子%であることがより好ましく、Ceが含まれていないことがさらに好ましい。
【0023】
なお、本明細書において、原子%とは、存在する原子の全数に対する特定の原子の数の百分率をいう。従って、例えばカルシウムを1原子%含む合金は、合金の原子100個のうちカルシウム原子を1個含むものである。
【0024】
前記一般式(1)又は一般式(1’)において、R2は、Niであるか又はNiの一部をAl若しくはCoで置換したものであることが好ましく、Niであるか又はNiの一部をAlで置換したものであることがより好ましい。
【0025】
前記水素吸蔵合金は、前記R2におけるNi以外の元素を0原子%を超え2.2原子%以下含むことが好ましい。斯かる構成により、電池の容量維持率がより優れたものになり得る。
前記水素吸蔵合金は、具体的には、前記R2におけるNi以外の元素がAlであり、該Alを0原子%を超え2.2原子%以下含むことが好ましい。さらに好ましくは、前記R2がAlを含まずNiである。
【0026】
前記一般式(1’)において、zは、v,w,x,yの合計数100部に対する値を示す。即ち、v,w,x,yがv+w+x+y=100を満たすように設定されたときのzの数を示す。
前記水素吸蔵合金は、電池のエネルギー密度をより確実に優れたものとし、且つ電池の放電容量をより確実に優れたものにできるという点で、前記一般式(1’)において、z≦0.3であることが好ましく、z≦0.2であることがより好ましい。また、zが極めて0に近いこと、即ち、化学組成が前記一般式(1)で表されるものと実質的に同じであることがさらに好ましい。さらには、z=0であること、即ち、化学組成が前記一般式(1)で表されることが最も好ましい。
【0027】
前記水素吸蔵合金は、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相を備えたものであり、好ましくは、これら2以上の結晶相が、該結晶構造のc軸方向に積層されてなるものである。
前記結晶相としては、菱面体晶LaMgNi24型結晶構造からなる結晶相(以下、単にLaMgNi24相ともいう)、六方晶PrCo19型結晶構造からなる結晶相(以下、単にPrCo19相ともいう)、菱面体晶CeCo19型結晶構造からなる結晶相(以下、単にCeCo19相ともいう)、六方晶CeNi型の結晶構造からなる結晶相(以下、単にCeNi相ともいう)、菱面体晶GdCo型の結晶構造からなる結晶相(以下、単にGdCo相ともいう)、六方晶CaCu型結晶構造からなる結晶相(以下、単にCaCu相ともいう)、立方晶AuBe型結晶構造からなる結晶相(以下、単にAuBe相ともいう)菱面体晶PuNi型結晶構造からなる結晶相(以下、単にPuNi相ともいう)などを挙げることができる。
【0028】
なかでも、LaMgNi24相、PrCo19相、CeCo19相、及びCeNi相からなる群より選択される2種以上を有する水素吸蔵合金が好適に使用される。これらの結晶相を有する水素吸蔵合金は、各結晶相間の膨張収縮率の差が小さいために歪みが生じ難く、水素の吸蔵放出を繰り返した際の劣化が起こりにくいという優れた特性を有する。
また、前記水素吸蔵合金が、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相を該結晶構造のc軸方向に積層したものである場合、充電によって水素を吸蔵した際の結晶相の歪みが、隣接する他の結晶相によって緩和され得る。従って、該水素吸蔵合金を含むことにより、負極は、充放電によって水素の吸蔵及び放出を繰り返しても合金の微粉化が生じにくく、劣化が進行しにくいという利点がある。
【0029】
ここで、LaMgNi24型結晶構造とは、Aユニット間に、ABユニットが4ユニット分、挿入された結晶構造であり、PrCo19型結晶構造とは、Aユニット間に、ABユニットが3ユニット分、挿入された結晶構造であり、CeCo19型結晶構造とは、Aユニット間に、ABユニットが3ユニット分、挿入された結晶構造であり、CeNi型の結晶構造とは、Aユニット間に、ABユニットが2ユニット分、挿入された結晶構造であり、GdCo型の結晶構造とは、Aユニット間に、ABユニットが2ユニット分、挿入された結晶構造であり、AuBe型結晶構造とは、Aユニットのみで構成された結晶構造である。
【0030】
なお、Aユニットとは、六方晶MgZn型結晶構造(C14構造)又は六方晶MgCu型結晶構造(C15構造)を持つ構造ユニットであり、ABユニットとは、六方晶CaCu型結晶構造を持つ構造ユニットである。
【0031】
該結晶相が積層されたものである場合、各結晶相の積層順については特に限定されず、特定の結晶相の組み合わせが繰返し周期性をもって積層されたようなものであってもよく、各結晶相が無秩序に周期性なく積層されたものであってもよい。
【0032】
また、前記各結晶相の含有量については特に限定されるものではないが、前記LaMgNi24型結晶構造を有する結晶相の含有率は0〜50質量%、前記PrCo19型結晶構造を有する結晶相の含有率は11〜80質量%、前記GdCo型結晶構造を有する結晶相の含有率は15〜80質量%、前記CeNi型結晶構造を有する結晶相の含有率は0〜65質量%であることが好ましい。
【0033】
特に、前記水素吸蔵合金は、Caを含有してなるPrCo19型結晶構造を有する結晶相を11〜73質量%含むことが好ましく、37〜73質量%含むことがより好ましい。
【0034】
なお、前記各結晶構造を有する結晶相は、粉砕した合金粉末についてX線回折測定を行い、得られたX線回折パターンをリートベルト法により解析することによって結晶構造を特定することができる。
また、各結晶構造を有する結晶相の含有率は、実施例に記載された方法によって決定されるものである。
【0035】
また、互いに異なる結晶構造を有する2以上の結晶相が、該結晶構造のc軸方向に積層されていることは、TEMを用いて合金の格子像を観察することによって確認することができる。
【0036】
前記水素吸蔵合金においては、水素吸蔵合金を構成する結晶相に含まれるAユニットのAサイトにCa及びMgが配置されることにより、AユニットのAサイトに配置されたCaによって結晶格子の膨張が引き起こされるとも考えられる。ところが、v,w,x,yが上記式(3)、式(4)、及び式(5)を同時に満たす前記水素吸蔵合金によれば、明確にその作用原理が解明されているわけではないが、AユニットのAサイトに配置されたMgによって結晶格子の一部が収縮し、その分、合金全体における結晶格子の膨張が抑制され得ると考えられる。従って、合金の比重が小さくなることが抑制され得る。
【0037】
ここで、上記式(3)の左辺の分母は、前記水素吸蔵合金がAユニット及びABユニットで構成されていることに基づいて求めた、水素吸蔵合金における全てのサイト数に対するAユニットのAサイト数の割合を表す。
即ち、上記式(3)の左辺の分母は、上記式(1)の化学組成で表される水素吸蔵合金における全サイト数をv+w+x+yで表したときのAユニットのAサイト数を表す。詳しくは、下記の方法によって求められるものである。
A側元素が配置されるサイトの数は、水素吸蔵合金の結晶においてv+w+x+yで表される全てのサイトの数に対して、v+w+xで表され、B側元素が配置されるサイトの数は、yで表される。
一方、Aユニットの数に対するABユニットの数の比をk、即ち、AユニットとABユニットとの比を1:kとすると、A側元素が配置されるサイトの数は、(2+k)×nと表すこともできる。また、B側元素が配置されるサイトの数は、(4+5k)×nと表すこともできる。ここで、nは、1個のAユニットとk個のABユニットとを結晶単位としたときのその結晶単位の数を意味する。
以上の関係から、次の式(A)を得ることができる。
【0038】
【数5】
そして、式(A)を変形することにより、下記の式(B)を得ることができる。
【0039】
【数6】
さらに、式(B)を変形することにより、kを下記の式(C)で表すことができる。
【0040】
【数7】
他方、全てのサイト数をv+w+x+yで表したときのAユニットのAサイトの数は、次の式(D)で表される。即ち、Aユニット1に対してABユニットはk存在することから、Aサイトの総数は(2+k)×nで表され、AユニットにおけるAサイトの数は2nで表される。また、Aサイトの総数は、v+w+xでも表される。従って、全サイト数をv+w+x+yで表したときのAユニットのAサイトの数は、下記式(D)で表される。
【0041】
【数8】
また、式(C)を変形することにより式(E)が求められ、v+w+x+y=100を変形することにより式(F)が求められる。そして、式(E)及び式(F)を式(D)に代入することにより、式(3)の左辺の分母を得ることができる。
【0042】
【数9】
【0043】
【数10】
【0044】
前記水素吸蔵合金において、上記式(3)の左辺の値が0.8を超えると、即ち、AユニットにおけるAサイトの割合に対するCa及びMgの割合が0.8を超えると、明確にその作用原理が解明されているわけではないが、Ca及びMgが該AユニットのAサイトに入ることが困難となり、CaがABユニットのAサイトに配置されると考えられ、結果として結晶格子が膨張し、合金の比重が小さくなるというおそれがある。上記式(3)の左辺の値は0を超えていることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましく、0.6以上であることが最も好ましい。
なお、Mgは、AユニットのAサイトには配置され得るが、ABユニットのAサイトには配置されず、AユニットのAサイトに入れなくなると、偏析すると考えられる。
【0045】
前記水素吸蔵合金において、上記式(4)が満たされなくなると、即ち、xが2.0未満であると、水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池の放電容量が十分でないものになり得るというおそれがあり、xが5.0を超えると、水素吸蔵合金の比重が十分に大きいものにならないというおそれがある。
【0046】
また、xは、2.2≦xを満たす数であることが好ましく、2.3<xを満たす数であることがより好ましく、2.8<xを満たす数であることがさらに好ましく、3.1<xを満たす数であることが最も好ましい。また、xは、x≦4.7を満たす数であることが好ましく、x≦4.4を満たす数であることがより好ましく、x≦4.1を満たす数であることがさらに好ましい。
xが2.2以上であることにより、電池の放電容量がより優れたものになり得るという利点があり、4.7以下であることにより、水素吸蔵合金の比重がより大きいものになり得るという利点がある。
【0047】
前記水素吸蔵合金において、wは、2.2≦wを満たす数であることが好ましく、3.3≦wを満たす数であることがより好ましい。また、w≦5.6を満たす数であることが好ましく、w≦4.7を満たす数であることがより好ましい。
wが2.2以上であることにより、水素吸蔵合金の比重がより大きいものになり得るという利点があり、wが5.6以下であることにより、電池の放電容量がより優れたものになり得るという利点がある。
【0048】
前記水素吸蔵合金において、上記式(5)が満たされなくなると、詳しくは、w/xが0.8未満、即ちCaに対するMgの比率が0.8未満であるか、又は、w/xが2.5を超えると、水素吸蔵合金の比重が十分に大きいものにならないというおそれがある。
また、w/xは、1.0≦ w/xを満たす数であることが好ましい。また、w/x ≦2.0を満たす数であることが好ましい。
【0049】
前記一般式(1)又は一般式(1’)において、vは、13.0≦v≦18.0を満たす数であることが好ましく、14.0≦v≦17.0を満たす数であることがより好ましい。
【0050】
また、前記一般式(1)又は一般式(1’)において、yは、75.0≦y≦80.0を満たす数であることが好ましく、77.0≦y≦79.0を満たす数であることがより好ましい。
【0051】
ここで、本発明の水素吸蔵合金の他の実施形態について説明する。
他の実施形態の水素吸蔵合金は、化学組成が、下記一般式(1’)で表され、
R1v Mgw Cax R2y R3z ・・・式(1’)
R1が、希土類元素より選択される1種又は2種以上の元素であり、R2が、Niであるか又はNiの一部をAl、Co、Cu、Mn、Fe、CrおよびZnからなる群より選択された1種または2種以上の元素で置換したものであり、R3が、前記R1、前記Mg、前記Ca及び前記R2以外の元素である水素吸蔵合金であって、
v,w,x,yが下記の式(2)を満たすように設定されたとき、
v+w+x+y=100 ・・・式(2)
v,w,x,yが、13.0≦v≦18.0、2.2≦w≦5.6、2.0≦x≦5.0、75.0≦y≦80.0を満たし、zが0≦z≦0.4を満たし、且つ、w及びxが0.8≦ w/x ≦2.5を満たすことを特徴とする。
他の実施形態の水素吸蔵合金においては、上述した実施形態の水素吸蔵合金と同様の構成を採用することができる。
【0052】
前記水素吸蔵合金は、水素平衡圧が0.07MPa以下のものであることが好ましい。従来の水素吸蔵合金は、水素平衡圧が高い場合には水素を吸収し難く、吸収した水素を放出し易いという性質を有しており、水素吸蔵合金のハイレート特性を高めると、水素が自己放出しやすいものである。
ところが、互いに異なる結晶構造を有する結晶相が2以上積層されてなる希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金であって、特にCaCu型結晶構造を有する結晶相の含有率が15質量%以下である水素吸蔵合金においては、水素平衡圧を0.07MPa以下という低い値に設定した場合でも良好なハイレート特性が得られ、該水素吸蔵合金を負極として用いたニッケル水素蓄電池は、ハイレート特性に優れ且つ水素の自己放出(電池においては、自己放電)の生じ難いものとなる。これは、合金中の水素の拡散性が向上したためであると考えられる。
【0053】
なお、水素平衡圧とは、80℃のPCT曲線(圧力−組成等温線)において、H/M=0.5の平衡圧(放出側)を意味するものである。
【0054】
次に、本発明の実施形態の水素吸蔵合金の製造方法について説明する。
【0055】
前記水素吸蔵合金の製造方法においては、例えば、上述のような所定の組成比となるように配合された合金原料を溶融する溶融工程と、溶融した合金原料を1000K/秒以上の冷却速度で急冷凝固する冷却工程と、冷却された合金を加圧状態の不活性ガス雰囲気下で860℃以上1000℃以下の温度範囲で焼鈍する焼鈍工程と、該合金を粉砕する粉砕工程とをおこなう。
【0056】
各工程についてより具体的に説明すると、まず、目的とする水素吸蔵合金の化学組成に基づいて、原料インゴッド(合金原料)を所定量秤量する。
【0057】
溶融工程においては、前記合金原料をルツボに入れ、不活性ガス雰囲気中又は真空中で高周波溶融炉を用い、例えば、1200℃以上1600℃以下に加熱して合金原料を溶融させる。
【0058】
冷却工程においては、溶融した合金原料を冷却して固化させる。冷却速度は、1000K/秒以上(急冷ともいう)が好ましい。1000K/秒以上で急冷することにより、合金組成が微細化し、均質化するという効果がある。また、該冷却速度は、1000000K/秒以下の範囲に設定することができる。
【0059】
該冷却方法としては、具体的には、冷却速度が100000K/秒以上であるメルトスピニング法、冷却速度が10000K/秒程度であるガスアトマイズ法などを好適に用いることができる。
【0060】
焼鈍工程においては、不活性ガス雰囲気下の加圧状態において、例えば、電気炉等を用いて860℃以上1000℃以下に加熱する。加圧条件としては、0.2MPa(ゲージ圧)以上1.0MPa(ゲージ圧)以下が好ましい。また、該焼鈍工程における処理時間は、3時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0061】
前記粉砕工程は、焼鈍の前後のどちらで行ってもよいが、粉砕により表面積が大きくなるため、合金の表面酸化を防止する観点から、焼鈍工程の後に粉砕工程を実施するのが望ましい。粉砕は、合金表面の酸化防止のために不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
粉砕手段としては、例えば、機械粉砕、水素化粉砕などが用いられ、粉砕後の水素吸蔵合金粒子の粒径が、概ね20〜70[μm]となるように行うことが好ましい。
【0062】
さらに、本発明に係るニッケル水素蓄電池の一実施形態について説明する。
【0063】
本実施形態のニッケル水素蓄電池は、上述の水素吸蔵合金を水素吸蔵媒体として含む負極を備えたものである。即ち、上述した水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池である。
本実施形態のニッケル水素蓄電池は、前記水素吸蔵合金を負極に備えているため、前記水素吸蔵合金の比重が比較的高く、電池のエネルギー密度が比較的高いものとなり、且つ、電池の放電容量が比較的高いものとなり得る。
【0064】
本実施形態のニッケル水素蓄電池は、詳しくは、上述の水素吸蔵合金を主材料とする負極を備え、さらに例えば、水酸化ニッケルを主成分とする正極活物質を含む正極(ニッケル電極)、セパレータ、及びアルカリ電解液を備えて構成されている。
前記負極としては、例えば、前記水素吸蔵合金の粉末が導電剤、結着剤、又は増粘剤等と混合され、所定形状に加圧成形されたものが挙げられる。
【0065】
本実施形態のニッケル水素蓄電池の正極としては、特に限定されるものではないが、一般的には、水酸化ニッケルを主成分とし且つ水酸化亜鉛や水酸化コバルトが混合されてなる水酸化ニッケル複合酸化物を正極活物質として含む正極が挙げられ、好ましくは、共沈法によって均一分散した該水酸化ニッケル複合酸化物を含む正極が挙げられる。
水酸化ニッケル複合酸化物以外の添加物としては、導電改質剤としての水酸化コバルト、酸化コバルト等を用いることができ、また、前記水酸化ニッケル複合酸化物に水酸化コバルトをコートしたものや、これらの水酸化ニッケル複合酸化物の一部を酸素又は酸素含有気体、又は、K2S2O8、次亜塩素酸などの薬剤を用いて酸化したものが挙げられる。
また、添加剤としては、酸素過電圧を向上させる物質として、Y、Yb等の希土類元素の化合物や、Ca化合物が例示される。Y、Yb等の希土類元素は、その一部が溶解して、負極表面に配置されるため、負極活物質の腐食を抑制する効果も期待できる。なお、前記正極には、上述したような主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤等が、他の構成成分として含有されていてもよい。
【0066】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維、気相成長炭素、金属(ニッケル、金等)粉、金属繊維等の導電性材料の1種単独物又は2種以上を混合したものが挙げられる。
これらを混合する方法としては、できる限り均一な状態とし得るものが好ましく、例えば、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといった粉体混合機を、乾式、あるいは湿式で用いる方法を採用しうる。
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーの1種単独物又は2種以上を混合したものが挙げられる。該結着剤の添加量は、正極又は負極の総量に対して、0.1〜3質量%が好ましい。
前記増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、キサンタンガム等の多糖類等の1種単独物又は2種以上を混合したものが挙げられる。増粘剤の添加量は、正極又は負極の総量に対して、0.1〜0.3質量%が好ましい。
【0067】
正極及び負極は、前記活物質、導電剤および結着剤を、水やアルコール、トルエン等の有機溶媒に混合した後、得られた混合液を集電体の上に塗布し、乾燥することによって好適に作製される。前記塗布方法としては、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、パーコーティング等の手段を用い、任意の厚み及び任意の形状に塗布する方法が好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
前記集電体としては、構成された電池において前記活物質との電子の授受に悪影響を及ぼさない電子伝導体が特に制限されることなく使用され得る。該集電体としては、例えば、耐還元性及び耐酸化性の観点から、ニッケルやニッケルメッキした鋼板をその材料としたものが挙げられる。該集電体の形状としては、発泡体、繊維群の成形体、凹凸加工を施した3次元基材、或いは、パンチング板等の2次元基材が挙げられる。また、該集電体の厚みについても特に限定はなく、通常、5〜700μmのものが例示される。
これらの集電体のうち、正極用としては、アルカリに対する耐食性と耐酸化性に優れたニッケルを材料とし、集電性に優れた構造である多孔体構造の発泡体としたものが好ましい。また、負極用としては、安価で、且つ導電性に優れる鉄箔に、ニッケルメッキを施した、パンチング板が好ましい。
パンチング径は2.0mm以下、開口率は40%以上であることが好ましく、これにより、少量の結着剤でも負極活物質と集電体との密着性を高めることができる。
【0069】
ニッケル水素蓄電池のセパレータとしては、優れたレート特性を示す多孔膜や不織布等を、単独で、あるいは2以上併用して構成されていることが好ましい。該セパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、ナイロンを挙げることができる。
該セパレータの目付は、40g/mから100g/mが好ましい。40g/m未満であると、短絡や自己放電性能が低下する虞があり、100g/mを超えると単位体積当たりに占めるセパレータの割合が増加するため、電池容量が下がる傾向にある。該セパレータの通気度は、1cm/secから50cm/secが好ましい。1cm/sec未満であると、電池内圧が上昇する虞があり、50cm/secを超えると、短絡や自己放電性能が低下する虞がある。該セパレータの平均繊維径は、1μmから20μmが好ましい。1μm未満であるとセパレータの強度が低下し、電池組み立て工程での不良率が増加する虞があり、20μmを超えると、短絡や自己放電性能が低下する虞がある。
また、該セパレータは、親水化処理が施されていることが好ましい。該セパレータとしては、例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂繊維の表面にスルフォン化処理、コロナ処理、フッ素ガス処理、プラズマ処理を施したり、これらの処理を既に施されたものを混合したものが挙げられる。特に、スルフォン化処理を施されたセパレータは、シャトル現象を引き起こすNO3-、NO2-、NH3-等の不純物や負極からの溶出元素を吸着する能力が高いため、自己放電抑制効果が高く、好ましい。
【0070】
ニッケル水素蓄電池を構成するアルカリ電解液としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンの少なくとも何れか一方を含み、イオン濃度の合計が9.0mol/リットル以下であるものが好ましく、イオン濃度の合計が5.0〜8.0mol/リットルであるものがより一層好ましい。
【0071】
また、該電解液には、合金への防食性向上、正極での過電圧向上、負極の耐食性の向上、自己放電向上のため、種々の添加剤が添加され得る。該添加剤としては、イットリウム、イッテルビウム、エルビウム、カルシウム、亜鉛などの酸化物、水酸化物等の1種単独物又は2種以上混合したものが挙げられる。
【0072】
本実施形態のニッケル水素蓄電池が開放型ニッケル水素蓄電池である場合、該電池は、例えば、セパレータを介して負極を正極で挟み込み、これらの電極に所定の圧力がかかるようにこれらの電極を固定して、KOH及びLiOHを含む水溶液でなる電解液を注液し、開放形セルを組み立てることにより作製できる。
【0073】
本実施形態のニッケル水素蓄電池が密閉型ニッケル水素蓄電池である場合、該電池は、前記電解液を、前記正極、セパレータ及び負極を積層する前又は積層した後に注液し、外装材で封止することにより、好適に作製される。また、正極と負極とが前記セパレータを介して積層された発電要素を巻回してなる密閉型ニッケル水素蓄電池においては、前記電解液は、巻回の前又は後に発電要素に注液されるのが好ましい。注液法としては、常圧で注液することも可能であるが、真空含浸法、加圧含浸法、遠心含浸法も使用可能である。また、該密閉型ニッケル水素蓄電池の外装体の材料としては、ニッケルメッキした鉄やステンレススチール、ポリオレフィン系樹脂等が一例として挙げられる。
【0074】
該密閉型ニッケル水素蓄電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極および単層又は複層のセパレータを備えた電池、例えば、コイン電池、ボタン電池、角型電池、扁平型電池、あるいは、ロール状の正極、負極及びセパレータを有する円筒型電池等を挙げることができる。
【0075】
本発明は、上記例示の水素吸蔵合金、及び上記例示のニッケル水素蓄電池に限定されるものではない。
即ち、一般的な水素吸蔵合金において用いられる種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。また、一般的なニッケル水素蓄電池において用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
例えば、上述のごとく化学組成が前記式(1)で表される水素吸蔵合金は、該一般式を満たしている限り、本発明の効果を損ねない範囲において、該一般式で規定されていない元素が含まれ得る。前記式(1)で規定されていない元素を含む水素吸蔵合金の化学組成は、前記式(1’)で表すこともできる。該式(1’)におけるR3の含有量は、本発明の効果を損ねない範囲の量である。即ち、式(1’)のR3の量を規定するzがz≦0.4を満たせば、本発明の効果が損なわれないことが証明されている。前記水素吸蔵合金にR3の元素が含まれる原因としては、原料インゴット中に不純物が含まれていることが挙げられる。従って、原料インゴットの純度を制御することにより前記水素吸蔵合金中のR3の量を制御することができる。
【実施例】
【0076】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
以下に示す方法により、開放形ニッケル水素蓄電池を作製した。
・水素吸蔵合金の作製
化学組成が表1の実施例1となるように原料インゴットを所定量秤量してルツボに入れ、減圧アルゴンガス雰囲気下で高周波溶融炉を用いて1500℃に加熱し、材料を溶融した。溶融後、メルトスピニング法を適用して急冷し、合金を固化させた。
次に、得られた合金を0.2MPa(ゲージ圧、以下同じ)に加圧されたアルゴンガス雰囲気下で、910℃にて熱処理を行った後、得られた水素吸蔵合金を粉砕して平均粒径(D50)が20μmの水素吸蔵合金粉末とした。
・電極の作製
前記水素吸蔵合金粉末を負極に用いることによって開放形のニッケル水素蓄電池を製作した。具体的には、上記のようにして得られた水素吸蔵合金粉末100重量部に、ニッケル粉末(INCO社製、#210)3重量部を加えて混合した後、増粘剤(メチルセルロース)を溶解した水溶液を加え、さらに、結着剤(スチレンブタジエンゴム)を1.5重量部加えてペースト状にしたものを厚み45μmの穿孔鋼板(開口率60%)の両面に塗布して乾燥させた後、厚さ0.36mmにプレスし、負極とした。一方、正極としては、容量過剰のシンター式水酸化ニッケル電極を用いた。
・開放形電池の作製
上述のようにして作製した電極をセパレータを介して正極で挟み込み、これらの電極に1kgf/cmの圧力がかかるようにボルトで固定し、開放形セルに組み立てた。電解液としては、6.8mol/LのKOH溶液および0.8mol/LのLiOH溶液からなる混合液を使用した。
【0078】
(実施例、参考例2〜19
水素吸蔵合金の組成を表1の実施例、参考例2〜19に示した組成とした以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素蓄電池を作製した。
【0079】
(比較例1〜17)
水素吸蔵合金の組成を表1の比較例1〜17に示した組成とした以外は、実施例1と同様にしてニッケル水素蓄電池を作製した。
【0080】
<水素吸蔵合金の比重>
以下に示す方法により、各実施例及び各比較例で作製した水素吸蔵合金の比重を測定した。
なお、各合金の比重は真密度測定装置(商品名「ULTRA PYCNOMETER 1000」Quantachrome社製)を用いて測定した。
【0081】
<水素吸蔵合金における結晶相の含有率>
各実施例、各比較例で得られた水素吸蔵合金粉末をX線回折測定し、さらにリートベルト法で解析することにより、水素吸蔵合金に含まれる結晶構造を特定した。その結果、PrCo19型結晶構造を有する結晶相、CeNi型結晶構造を有する結晶相、及びGdCo型結晶構造を有する結晶相を特定した。
また、リートベルト解析から求められた各相の尺度因子、単位胞体積、化学式数、化学式量を用いることによって、PrCo19型結晶構造を有する結晶相の含有率を求めた。各実施例、各比較例の水素吸蔵合金におけるその結果を表1に示す。
【0082】
<水素吸蔵合金における結晶相の構造の観察>
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることにより、合金の格子像を観察した。その結果、各実施例、各比較例の水素吸蔵合金において、結晶相がc軸方向に積層されていることが確認された。
【0083】
<ニッケル水素蓄電池の容量維持率>
作製した各ニッケル水素蓄電池を用いて、20℃の水槽中において、0.1It(A)で150%の条件での充電、及び、0.2It(A)で停止電位−0.6V(vsHg/HgO)の条件での放電を1サイクルとして、充放電を50サイクル繰り返した。そして、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量を容量維持率として求めた。
【0084】
<ニッケル水素蓄電池の放電容量>
以下に示す方法により、各実施例及び各比較例で作製したニッケル水素蓄電池の最大放電容量を測定した。
作製した各ニッケル水素蓄電池を用いて、次の条件で充放電試験をおこなった。充電条件は、充電電流0.1ItmA、充電時間15時間の定電流定電圧充電とし、放電条件は、放電電流0.1ItmAの定電流放電とした。
【0085】
各実施例及び各比較例で作製した水素吸蔵合金の比重、各ニッケル水素蓄電池を用いた充放電試験において測定された初回の最大放電容量、及び電池の容量維持率を表1に示す。
表1からわかるように、実施例のものでは、比重7.5以上及び最大放電容量370mAh/g以上を達成できる。また、Alの含有量が2.2原子%以下の実施例10及び実施例18は、Alの含有量が3.3原子%の実施例19と比較して、容量維持率が大幅に優れたものになっている。
【0086】
【表1】