(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796788
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 73/06 20060101AFI20151001BHJP
C08L 79/04 20060101ALI20151001BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20151001BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20151001BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20151001BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20151001BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20151001BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20151001BHJP
C09J 179/04 20060101ALI20151001BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20151001BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20151001BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
C08G73/06
C08L79/04 Z
C08K5/13
C08K5/17
C08L63/00 C
C08G59/40
C09K3/10 Z
C09J163/00
C09J179/04 C
C09J11/06
C08J5/24CEZ
B32B15/08 105Z
【請求項の数】18
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2012-555890(P2012-555890)
(86)(22)【出願日】2012年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2012052127
(87)【国際公開番号】WO2012105547
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2014年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-22763(P2011-22763)
(32)【優先日】2011年2月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】津布久 亮
(72)【発明者】
【氏名】池野 健人
(72)【発明者】
【氏名】片桐 誠之
(72)【発明者】
【氏名】辻本 智雄
【審査官】
内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−073177(JP,A)
【文献】
特開2006−169317(JP,A)
【文献】
特開2006−143874(JP,A)
【文献】
特開平5−301852(JP,A)
【文献】
特開昭63−022821(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/008667(WO,A1)
【文献】
特開2010−191156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/06
C08L 63/00
C08L 79/04
C09J 11/06
C09J 163/00
C09J 179/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
で示されるシアン酸エステル化合物(A)と、
金属錯体触媒(B)と、
添加剤(C)と、
を少なくとも含んでなり、
前記添加剤(C)が、下記一般式(II)で示される化合物、下記一般式(III)で示される化合物、および三級アミンからなる群より選択されるいずれか1種以上を含んでなる、硬化性樹脂組成物:
【化2】
(式中、R
1〜R
5は、各々独立して水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表すが、少なくとも一つは炭素数1以上のアルキル基または炭素数6以上のアリール基である。)
【化3】
(式中、R
6〜R
10は、各々独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜15のアリール基、またはヒドロキシ基を表す。)。
【請求項2】
下記一般式(IV):
【化4】
(式中、R
11は、下記一般式(i)〜(vi):
【化5】
[式中、R
12、R
13、R
14は、各々独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはトリフルオロメチル基であり、lは4〜7の整数である。]からなる群より選択されるいずれかである。)、
下記一般式(V):
【化6】
(式中、R
15は水素原子またはメチル基を示し、mは1〜50の整数を示す。)、または
下記一般式(VI):
【化7】
(式中、R
16〜R
18は、各々独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはフェニル基であり、nは1〜50の整数を示す。)
で示される、シアン酸エステル化合物(D)、
エポキシ樹脂(E)、および
マレイミド化合物(F)、
からなる群より選択される1種以上を、さらに含んでなる、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属錯体触媒(B)が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、または亜鉛の、オクチル酸塩、ナフテン酸塩、およびアセチルアセトン錯体からなる群より選択される1種類以上である、請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記添加剤(C)が、炭素数2〜10のアルキル基を有するモノアルキルフェノール、1−ナフトール、2−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、トリアルキルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、4−ジメチルアミノピリジン、および1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセンからなる群より選択される1種類以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂(E)が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、および脂環式エポキシ樹脂からなる群より選択される1種以上である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記マレイミド化合物(F)が、下記一般式(VII):
【化8】
(式中、
R
19およびR
20は、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基を示し、
p+q=4であり、
R
21は、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、スルホン結合、炭素数1〜5のアルキレン基、アルキリデン基、炭素数6〜14のアリーレン基、またはアリーレンオキシ基を示す。)
で示される化合物である、請求項2〜5のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記マレイミド化合物(F)が、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、2,2’−ビス−[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、および3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
前記金属錯体触媒(B)が、前記シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、0.01〜5質量部含まれてなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
前記添加剤(C)が、前記シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部含まれてなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
前記シアン酸エステル化合物(D)が、前記シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、1〜250質量部含まれてなる、請求項2〜9のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記エポキシ樹脂(E)が、前記シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、1〜250質量部含まれてなる、請求項2〜10のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
前記マレイミド化合物(F)が、前記シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、1〜100質量部含まれてなる、請求項2〜11のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の硬化性樹脂組成物を含んでなる、封止用材料。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに一項に記載の硬化性樹脂組成物を含んでなる、接着剤。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれかに一項に記載の硬化性樹脂組成物を含んでなる、注型材料。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれかに一項に記載の硬化性樹脂組成物を、基材に含浸または塗布してなるプリプレグ。
【請求項18】
請求項17に記載のプリプレグを、少なくとも1枚以上重ね、その片面もしくは両面に金属箔を配して積層成形して得られる、積層板。
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、硬化性樹脂組成物に関し、より詳細には、硬化時のクラック発生が抑制され、硬化物の熱膨張率および吸水率を改善することができる硬化性樹脂組成物、およびその硬化物に関する。
【0002】
背景技術
近年、半導体関連材料の分野においては携帯電話、超薄型の液晶やプラズマTV、軽量ノート型パソコンなど、軽・薄・短・小がキーワードとなるような電子機器があふれ、これらに使用される電子部品の高密度集積化、さらには高密度実装化等が進んでいる。したがって、これら電子部品に使用される高密度実装対応のプリント配線板等には、従来にも増して小型化かつ高密度化が求められている。
【0003】
プリント配線板の高密度化には、ビルドアップ方式による多層プリント配線板が採用されることが多く、その絶縁層には、通常、エポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂組成物が用いられる。しかしながら、熱硬化性樹脂は、硬化の際の自由体積減少による内部応力蓄積という問題を有している。そのため、プリント配線板の絶縁材料として熱硬化性樹脂を用いると、硬化収縮によって成形品にクラックや反りが発生する場合があり、また、内部歪みの蓄積によってプリント配線板としての信頼性が低下する場合がある。したがって、硬化時に内部応力の蓄積が少なく、クラックの発生が少ない硬化性樹脂組成物が希求されている。
【0004】
また、樹脂の硬化後においても、半導体装置の製造時における多層プリント配線板に半導体素子を実装する工程では、実装温度が250℃以上と高いことから、実装時に多層プリント配線板の反りが増大する場合がある。また、樹脂が吸湿すると、反りの程度が更に大きくなることが知られている。したがって、硬化時にクラック発生が少なく、低熱膨張性および低吸水性に優れる樹脂組成物が求められている。
【0005】
ところで、シアン酸エステル樹脂は、耐熱性に優れるとともに、低誘電率、低誘電損失である熱硬化性樹脂として従来から知られている。特に、特公昭54−30440号公報(特許文献1)において提案されているような、ビスフェノールA型シアン酸エステル樹脂とビスマレイミド化合物とを併用した樹脂組成物は、“BTレジン”と称され、電気特性、機械特性、耐薬品性などに優れる樹脂として、多層配線板の絶縁層に用いられている。しかしながら、ビスフェノールA型シアン酸エステル樹脂を含有する樹脂組成物は、電気特性、機械特性、耐薬品性に優れているが、吸水率が高く、耐熱性や熱膨張性においても更なる改善が求められており、他の構造を有するシアン酸エステル樹脂の開発が進められている。
【0006】
例えば、特開平11−124433号公報(特許文献2)にはノボラック型シアン酸エステル樹脂が提案されている。しかしながら、ノボラック型シアン酸エステル樹脂を用いた硬化物は、BTレジンに比べて吸水率が大きく、吸湿耐熱性が低下する場合がある。
【0007】
また、特開2006−169317号公報(特許文献3)には、トリフェニルメタン型のシアン酸エステル化合物とビスマレイミド化合物と併用した樹脂硬化物は、熱膨張性に優れることが開示されている。さらに、特開2006−143874号公報(特許文献4)には、トリフェニルメタン型のシアン酸エステル化合物とノボラック型シアン酸エステル化合物とを併用した樹脂硬化物は、吸水性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭54−30440号公報
【特許文献2】特開平11−124433号公報
【特許文献3】特開2006−169317号公報
【特許文献4】特開2006−143874号公報
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、特開平11−124433号公報で提案されている樹脂を用いた硬化物は、BTレジンに比べて吸水率が大きく、吸湿耐熱性が低下する場合があった。また、特開2006−169317号公報で提案されている樹脂を用いた樹脂硬化物は、熱膨張性に優れるものの吸水性についての検討がなされていない。さらに、特開2006−143874号公報提案されている樹脂を用いた樹脂硬化物は、熱膨張性が十分とは言えず、また、吸水性についても改善の余地があった。
【0010】
本発明者らは、特定の2官能型シアン酸エステル化合物と、金属錯体触媒と、特定の添加剤とを併用することにより、硬化時のクラックの発生を抑制しつつ、低熱膨張率および低吸水性を両立する硬化物を実現できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、硬化時のクラックの発生を抑制しつつ、低熱膨張率および低吸水性を両立する硬化物が得られる硬化性樹脂組成物を提供することである。
【0012】
本発明によるシアン酸エステル化合物は、下記式(I):
【化1】
で示されるシアン酸エステル化合物(A)と、
金属錯体触媒(B)と、
添加剤(C)と、
を少なくとも含んでなり、
前記添加剤(C)が、下記一般式(II)で示される化合物、下記一般式(III)で示される化合物、および三級アミンからなる群より選択されるいずれか1種以上を含んでなる、硬化性樹脂組成物:
【化2】
(式中、R
1〜R
5は、各々独立して水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表すが、少なくとも一つは炭素数1以上のアルキル基または炭素数6以上のアリール基である。)
【化3】
(式中、R
6〜R
10は、各々独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜15のアリール基、またはヒドロキシ基を表す。)。
【0013】
また、本発明の別の態様においては、上記硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物も提供される。
【0014】
また、本発明の別の態様においては、上記硬化性樹脂組成物を含んでなる封止用材料も提供される。
【0015】
また、本発明の別の態様においては、上記硬化性樹脂組成物を含んでなる接着剤も提供される。
【0016】
また、本発明の別の態様においては、上記硬化性樹脂組成物を含んでなる注型材料も提供される。
【0017】
また、本発明の別の態様においては、上記硬化性樹脂組成物を、基材に含浸または塗布してなるプリプレグも提供される。
【0018】
また、本発明の別の態様においては、上記プリプレグを、少なくとも1枚以上重ね、その片面もしくは両面に金属箔を配して積層成形して得られる積層板も提供される。
【0019】
本発明によれば、上記のような特定の2官能型シアン酸エステル化合物と、金属錯体触媒と、特定の添加剤とを併用した硬化性樹脂組成物とすることにより、硬化時のクラックの発生を抑制しつつ、低熱膨張率および低吸水性を両立する硬化物を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、合成例1で得たビス(4−シアナトフェニル)フェニルメタンの
1H−NMRチャートである。
【
図2】
図2は、合成例2で得たα,α−ビス(4−シアナトフェニル)エチルベンゼンの
1H−NMRチャートである。
【
図3】
図3は、合成例3で得たビス(4−シアナトフェニル)エーテルの
1H−NMRチャートである。
【
図4】
図4は、合成例5で得た1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタンの
1H−NMRチャートである。
【
図5】
図5は、合成例6で得た1,1−ビス(4−シアナトフェニル)イソブタンの
1H−NMRチャートである。
【
図6】
図6は、合成例8で得た1,1,1−トリス(4−シアナトフェニル)エタンの
1H−NMRチャートである。
【0021】
<硬化性樹脂組成物>
本発明による硬化性樹脂組成物は、特定のシアン酸エステル化合物(A)と、金属錯体触媒(B)と、特定の添加剤(C)とを必須成分として含むものである。以下、各成分について説明する。
<シアン酸エステル化合物(A)>
本発明による硬化性樹脂組成物に含まれるシアン酸エステル化合物(A)は、下記式(I)で示されるものである。
【化4】
【0022】
シアン酸エステル化合物として、上記式(I)で示されるビス(4−シアナトフェニル)フェニルメタンを含む硬化性樹脂組成物は、他のシアン酸エステルを含む樹脂組成物と比較して、硬化物の吸水性が小さく、また、高温環境下においても硬化物の線膨張係数が小さいため、高密度化された多層プリント配線板の絶縁層用の樹脂とすることができる。とりわけ、金属錯体触媒および後記する添加剤と併用することにより、硬化収縮が抑制されてクラック発生のない外観の良好な注型品を得ることができる。
【0023】
上記式(I)で示されるシアン酸エステル化合物の製造方法は、特に制限されるものではなく、下記式(VIII)で示されるフェノールからシアネート合成法として公知の方法を適用することにより、所望の化合物を得ることができる。
【化5】
【0024】
例えば、IAN HAMERTON,“Chemistry and Technology of Cyanate Ester Resins”,BLACKIE ACADEMIC & PROFESSIONALに記載された方法により、上記式(VIII)のフェノールをシアネート化して、上記式(I)のシアン酸エステル化合物を得ることができる。また、溶媒中、塩基の存在下で、ハロゲン化シアンが常に塩基より過剰に存在するようにして反応させる方法(米国特許3553244号)、塩基として3級アミンを用い、これをハロゲン化シアンよりも過剰に用いながら合成する方法(特開平7−53497号公報)、連続プラグフロー方式で、トリアルキルアミンとハロゲン化シアンを反応させる方法(特表2000−501138号公報)、フェノールとハロゲン化シアンとを、tert−アミンの存在下、非水溶液中で反応させる際に副生するtert−アンモニウムハライドを、カチオンおよびアニオン交換対で処理する方法(特表2001−504835号公報)、フェノール化合物を、水と分液可能な溶媒の存在下で、3級アミンとハロゲン化シアンとを同時に添加して反応させた後、水洗分液し、得られた溶液から2級または3級アルコール類もしくは炭化水素の貧溶媒を用いて沈殿精製する方法(特許2991054号公報)、さらには、ナフトール類、ハロゲン化シアン、および3級アミンを、水と有機溶媒との二相系溶媒中で、酸性条件下で反応させる方法(特開2007−277102公報)等の公知の方法によって、上記したシアン酸エステル化合物を製造することができる。上記のような方法により得られたシアン酸エステル化合物は、NMR等の公知の方法により同定することができる。
【0025】
<金属錯体触媒(B)>
本発明による硬化性樹脂組成物に含まれる金属錯体触媒(B)は、上記したシアン酸エステル化合物等の重合を触媒する機能を有するものである。金属錯体触媒(B)としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、オクチル酸、ステアリン酸、アセチルアセトネート、ナフテン酸、サリチル酸等の有機酸のZn、Cu、Fe、Co、Mn、Al等の有機金属塩等が挙げられ、これらの中でもオクチル酸亜鉛、オクチル酸銅、オクチル酸コバルト、オクチル酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸銅、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸アルミニウム、アセチルアセトン亜鉛、アセチルアセトン銅、アセチルアセトン鉄、アセチルアセトンマンガン、アセチルアセトンコバルト、アセチルアセトンアルミニウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸アルミニウムが好ましく、オクチル酸亜鉛、オクチル酸銅、オクチル酸コバルト、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸コバルト、アセチルアセトン亜鉛、アセチルアセトン銅、アセチルアセトンマンガン、アセチルアセトンコバルト、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸アルミニウムがより好ましい。これらの金属錯体触媒は1種または2種以上混合して用いることができる。金属錯体触媒(B)を添加することによって、硬化性樹脂組成物の硬化温度を下げることができる。
【0026】
金属錯体触媒(B)の含有量は、シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、0.01〜5質量部の範囲であることが好ましい。上記範囲で金属錯体触媒(B)を含むことにより、より一層、低温の硬化条件でも耐熱性の優れた硬化物を得ることができる。
【0027】
<添加剤(C)>
本発明による硬化性樹脂組成物は、下記一般式(II)で示される化合物、下記一般式(III)で示される化合物、および三級アミンからなる群より選択されるいずれか1種以上の添加剤(C)を含む。
【0028】
【化6】
(式中、R
1〜R
5は、各々独立して水素原子、炭素数1〜15のアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基を表すが、少なくとも一つは炭素数1以上のアルキル基または炭素数6以上のアリール基である。)
【0029】
【化7】
(式中、R
6〜R
10は、各々独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜15のアリール基、またはヒドロキシ基を表す。)
【0030】
上記した一般式(II)で示される化合物としては、エチルフェノ−ル、ブチルフェノ−ル、オクチルフェノール、ノニルフェノール、4−α−クミルフェノール等のフェノール化合物が挙げられる。これらの中でも、ブチルフェノ−ル、オクチルフェノール、ノニルフェノール、4−α−クミルフェノールが好ましく、オクチルフェノール、ノニルフェノールがより好ましい。また、これら化合物を、1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0031】
また、一般式(III)で示される化合物としては、1−ナフトール、2−ナフトール、4−メトキシ−1−ナフトール、6−メチル−2−ナフトール、7−メトキシ−2−ナフトール、2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のナフタレン化合物が挙げられる。こられの中でも、1−ナフトール、4−メトキシ−1−ナフトール、6−メチル−2−ナフトール、7−メトキシ−2−ナフトール、2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンが好ましく、1−ナフトール、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。また、これら化合物を、1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0032】
さらに、三級アミンとしては、特に制限なく公知のものを使用でき、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルメチルアミン、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、トリベンジルアミン、N,N−ジメチル−4−メチル−ベンジルアミン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N−メチルヘキサメチレンイミン、N−(2−ヒドロキシエチル)ヘキサメチレンイミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、1,4−ジザビシクロ[2.2.2]オクタン、3−キヌクリジノン等が挙げられる。これらの中でも、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルメチルアミン、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノピリジン、N−メチルモルホリン、N−メチルヘキサメチレンイミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセンが好ましく、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセンがより好ましい。また、これら化合物を、1種または2種以上混合して用いてもよい。
【0033】
添加剤(C)の含有量は、シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲であることが好ましい。上記範囲で添加剤(C)を含むことにより、より一層、硬化物の外観が良好で、耐熱に優れた硬化性樹脂組成物とすることができる。
【0034】
<その他の成分>
本発明による硬化性樹脂組成物は、上記したシアン酸エステル化合物(A)に加えて、さらに他のシアン酸エステル化合物(D)を含んでいてもよい。このようなシアン酸エステル化合物(D)としては、下記一般式(IV)〜(VI)で示される化合物を好適に使用することができる。
【0035】
【化8】
(式中、R
11は、下記一般式(i)〜(vi):
【化9】
[式中、R
12、R
13、R
14は、各々独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基またはトリフルオロメチル基であり、lは4〜7の整数である。]からなる群より選択されるいずれかである。)
【0036】
【化10】
(式中、R
15は水素原子またはメチル基を示し、mは1〜50の整数を示す。)
【0037】
【化11】
(式中、R
16〜R
18は、各々独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはフェニル基であり、nは1〜50の整数を示す。)
【0038】
上記一般式(IV)で示されるシアン酸エステル化合物は、下記一般式(IX)で示されるフェノールを、上記したシアン酸エステル化合物(A)と同様の方法によりシアネート化することにより得ることができる。
【0039】
【化12】
(式中、R
11は上記の定義と同じである。)
【0040】
また、上記一般式(V)で示されるシアン酸エステル化合物は、下記一般式(X)で示されるフェノールを、上記したシアン酸エステル化合物(A)と同様の方法によりシアネート化することにより得ることができる。
【0041】
【化13】
(式中、R
15およびmは、上記の定義と同じである。)
【0042】
また、上記一般式(VI)で示されるシアン酸エステル化合物は、下記一般式(XI)で示されるフェノールを、上記したシアン酸エステル化合物(A)と同様の方法によりシアネート化することにより得ることができる。
【0043】
【化14】
(式中、R
16〜R
18およびnは、上記の定義と同じである。)
【0044】
上記一般式(IV)で示されるシアン酸エステル化合物としては、一般に公知のものを使用することができ、例えば、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、2,4’−ジシアナトジフェニルメタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−2,2−ジメチルプロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−3−メチルペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−3,3−ジメチルブタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)ヘプタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)オクタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルペンタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2,2−ジメチルペンタン、4,4−ビス(4−シアナトフェニル)−3−メチルヘプタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルヘプタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2,2−ジメチルヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2,4−ジメチルヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2,2,4−トリメチルペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[2−(4−シアナトフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロヘキサンが挙げられる。これらの中でも、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、2,4’−ジシアナトジフェニルメタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−3,3−ジメチルブタン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[2−(4−シアナトフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロヘキサンが好ましく、特に、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、2,4’−ジシアナトジフェニルメタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)−2−メチルプロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[2−(4−シアナトフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)シクロヘキサンが好ましい。
【0045】
また、上記一般式(V)で示されるシアン酸エステル化合物としては、従来公知のナフトールアラルキル型シアネート樹脂が挙げられる。これらの中でも、式中のR
15が水素原子またはメチル基であるシアン酸エステル化合物を好適に使用することができる。
【0046】
また、上記一般式(VI)で示されるシアン酸エステル化合物としては、従来公知のフェノールノボラック型シアネート樹脂、クレゾールノボラック型シアネート樹脂、フェノールアラルキル型シアネート樹脂が挙げられる。これらの中でも、フェノールノボラック型シアネート樹脂、クレゾールノボラック型シアネート樹脂が好ましく、特にフェノールノボラック型シアネート樹脂が好ましい。上記した一般式(IV)〜(VI)で示されるシアン酸エステル化合物(D)は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0047】
シアン酸エステル化合物(D)の含有量は、シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、1〜250質量部の範囲であることが好ましい。上記範囲でシアン酸エステル化合物(D)を併用することにより、硬化物の耐熱性および吸水性をより一層改善することができる。
【0048】
本発明による硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(E)を含んでいてもよい。エポキシ樹脂(E)は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば、一般に公知のものを用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、3官能フェノール型エポキシ樹脂、4官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジルエステル、ブタジエンなどの2重結合をエポキシ化した化合物、水酸基含有シリコーン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物等が挙げられる。これらのなかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジルエステル等が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等がより好ましい。これらのエポキシ樹脂は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0049】
エポキシ樹脂(E)の含有量は、シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、1〜250質量部の範囲であることが好ましい。上記範囲でエポキシ樹脂(E)を併用することにより、硬化物の耐熱性および吸水性をより一層改善することができる。
【0050】
また、本発明による硬化性樹脂組成物は、マレイミド化合物(F)を含んでいてもよい。マレイミド化合物(F)としては、1分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば特に制限なく使用することができる。例えば、下記一般式(VII)で示されるビスマレイミド、m−フェニレンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、2,2’−ビス−[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、ポリフェニルメタンマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。
【0051】
【化15】
(式中、R
19およびR
20は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基を示し、p+q=4であり、R
21は、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、スルホン結合、炭素数1〜5のアルキレン基、アルキリデン基、炭素数6〜14のアリーレン基、またはアリーレンオキシ基を示す。)
【0052】
上記一般式(VII)で示されるビスマレイミドとしては、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。
【0053】
上記したマレイミド化合物の中でも、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、m−フェニレンビスマレイミド、2,2’−ビス−[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド等が好ましく、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、2,2’−ビス−[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド等がより好ましい。また、マレイミド化合物(F)としては、上記したマレイミド化合物のプレポリマー、もしくはマレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマーなどが挙げられ、これら化合物およびプレポリマーを1種または2種以上を適宜混合して使用することも可能である。
【0054】
マレイミド化合物(F)の含有量は、シアン酸エステル化合物(A)100質量部に対して、1〜100質量部の範囲であることが好ましい。上記範囲でマレイミド化合物(F)を併用することにより、樹脂組成物の注型性をより一層改善することができる。
【0055】
本発明による硬化性樹脂組成物は、上記したシアン酸エステル化合物(D)、エポキシ樹脂(E)、および マレイミド化合物(F)に加えて、さらにベンゾオキサジン化合物および/または重合可能な不飽和基を有する化合物等を含んでいてもよい。ベンゾオキサジン化合物としては、1分子中に2個以上のジヒドロベンゾオキサジン環を有していれば一般に公知のものを用いることができる。例えば、特開2009−096874号公報に記載のベンゾオキサジン化合物が挙げられる。これらのベンゾオキサジン化合物は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0056】
また、重合可能な不飽和基を有する化合物としては、一般に公知のものが使用でき、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル等のビニル化合物、メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の1価または多価アルコールの(メタ)アクリレート類、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート類、ベンゾシクロブテン樹脂等が挙げられる。これらの重合可能な不飽和基を有する化合物は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0057】
また、本発明による硬化性樹脂組成物は、上記した触媒に加えて、さらに、他の重合触媒が含まれていてもよい。他の重合触媒としては、シアン酸エステル、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ベンゾオキサジン化合物、重合可能な不飽和基を有する化合物の重合を触媒する機能を有するものであれば、特に制限なく使用できる。これら重合触媒としては、1−ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、ホスフィン系やホスホニウム系のリン化合物が挙げられる。また、エポキシ−イミダゾールアダクト系化合物、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシカーボネート等の過酸化物、またはアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等を使用してもよい。これらの重合触媒は市販のものを使用してもよく、例えば、アミキュアPN−23(味の素ファインテクノ社製)、ノバキュア HX−3721(旭化成社製)、フジキュアFX−1000(富士化成工業社製)等が挙げられる。
【0058】
本発明による硬化性樹脂組成物は、無機充填材を含んでいてもよい。無機充填材としては、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラス等のケイ酸塩、酸化チタン、アルミナ、シリカ、溶融シリカ等の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素等の窒化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩等を挙げることができる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、2種類以上を併用することもできる。これらの中でも特に、シリカが好ましく、溶融シリカが低熱膨張性に優れる点で好ましい。また、破砕状、球状のシリカが存在するが、樹脂組成物の溶融粘度を下げる点において、球状シリカが好ましい。
【0059】
球状シリカは、さらに予め表面処理する処理剤で処理されたものであってよい。処理剤としては、官能基含有シラン類、環状オリゴシロキサン類、オルガノハロシラン類、およびアルキルシラザン類からなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の化合物を好適に使用することができる。これらのなかでも、オルガノハロシラン類およびアルキルシラザン類を用いて球状シリカの表面処理することは、シリカ表面を疎水化するのに好適であり、硬化性樹脂組成物中における球状シリカの分散性に優れる点において好ましい。
【0060】
上記した処理剤として用いる官能基含有シラン類は、特に限定されるものではなく、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、および2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメトキシシラン等のエポキシシラン化合物、3−メタクロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクロキシプロピルトリエトキシシラン、および3−メタクロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン、3−メルカトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカトプロピルトリエトキシシラン、および3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプトシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、およびビニルトリクロロシラン等のビニルシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネートシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、および3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイドシラン、(5−ノルボルネン−2−イル)トリメトキシシラン、(5−ノルボルネン−2−イル)トリエトキシシラン、および(5−ノルボルネン−2−イル)エチルトリメトキシシラン等の(5−ノルボルネン−2−イル)アルキルシラン、フェニルトリメトキシシラン等のフェニルシランなどを挙げることができる。
【0061】
本発明による硬化性樹脂組成物は、シリコーンレジンパウダーをさらに含んでいてもよい。シリコーンレジンパウダーは、シロキサン結合が(RSiO
3/2)
nで表わさせる三次元網目状に架橋した構造を持つ硬化物粉末であり、その平均粒子径は、0.1〜10μmのパウダーが好適である。具体的には、KMP−590(信越シリコーン製)、KMP−701(信越シリコーン製)、X−52−854(信越シリコーン製)、X−52−1621(信越シリコーン製)、XC99−B5664(モメンティブ・パフォーアンス・マテリアルズ製)、XC99−A8808(モメンティブ・パフォーアンス・マテリアルズ製)、トスパール120(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)などが挙げられ、1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することも可能である。
【0062】
<硬化性樹脂組成物の製造方法>
本発明による硬化性樹脂組成物は、上記したシアン酸エステル化合物(A)、金属錯体触媒(B)、および添加剤(C)、さらに必要に応じて、上記一般式(VI)、(VII)および(VIII)で表わされるシアン酸エステル化合物(D)、エポキシ樹脂(E)、マレイミド化合物(F)、ベンゾオキサジン化合物および/または重合可能な不飽和基を有する化合物や各種添加剤を、溶媒とともに、公知のミキサー、例えば高速ミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、ニーダー、インテンシブミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、スタティックミキサーなどを用いて混合して得ることができる。混合の際の、シアン酸エステル化合物、各種添加剤、溶媒の添加方法は、特に限定されるものではない。
【0063】
<硬化物>
本発明による硬化性樹脂組成物は、熱や光などによって硬化させることにより硬化物とすることができる。硬化物は、硬化性樹脂組成物を溶融または溶媒に溶解させた後、型内に流し込み、通常の条件で硬化させることにより得ることができる。熱硬化の場合、硬化温度は、低すぎると硬化が進まず、高すぎると硬化物の劣化が起こることから、120℃から300℃の範囲内が好ましい。
【0064】
<硬化性樹脂組成物の用途>
上記した硬化性樹脂組成物を、基材に含浸または塗布することにより、プリプレグを製造することができる。
【0065】
プリプレグの基材としては、特に限定されないが、ガラス織布、ガラス不織布等のガラス繊維基材、ポリアミド樹脂繊維、芳香族ポリアミド樹脂繊維、全芳香族ポリアミド樹脂繊維等のポリアミド系樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維、芳香族ポリエステル樹脂繊維、全芳香族ポリエステル樹脂繊維等のポリエステル系樹脂繊維、ポリイミド樹脂繊維、フッ素樹脂繊維等を主成分とする織布または不織布で構成される合成繊維基材、クラフト紙、コットンリンター紙、リンターとクラフトパルプの混抄紙等を主成分とする紙基材等の有機繊維基材等が挙げられる。これにより、プリプレグの強度が向上し、吸水率を下げることができ、また熱膨張係数を小さくすることができる。
【0066】
上記したガラス繊維基材を構成するガラスとしては、特に限定されないが、例えば、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、Hガラス等が挙げられる。
【0067】
プリプレグを製造する方法は、特に限定されないが、例えば、前述したエポキシ樹脂組成物を用いて樹脂ワニスを調製し、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法、各種コーターにより塗布する方法、スプレーにより吹き付ける方法等が挙げられる。これらの中でも、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、基材に対する樹脂組成物の含浸性を向上することができる。なお、基材を樹脂ワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布設備を使用することができる。例えば、樹脂組成物ワニスを無機および/または有機繊維基材に含浸させて乾燥し、Bステージ化してプリプレグとする方法などが適用できる。
【0068】
また、本発明による硬化性樹脂組成物は、金属張積層板および多層板の製造に使用することができる。これらの積層板等の製造方法は、特に限定されるものでなく、上記したプリプレグと金属箔とを重ねたものを加熱加圧成形することで積層板を得ることができる。加熱する温度は、特に限定されるものではないが、65〜300℃が好ましく、特に120〜270℃が好ましい。また、加圧する圧力は、特に限定されるものではないが、2〜5MPaであることが好ましく、2.5〜4MPaであることがより好ましい。
【0069】
また、本発明による硬化性樹脂組成物を用いて、封止材料を製造することができる。封止材料の製造方法は特に限定されるものでなく、上記した各成分を、公知のミキサーを用いて混合して得ることができる。混合の際の、シアン酸エステル化合物、各種添加剤、溶媒の添加方法は、特に限定されるものではない。
【0070】
また、本発明による硬化性樹脂組成物を用いて繊維強化複合材料を製造することができる。強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、および炭化ケイ素繊維などの繊維が挙げられる。強化繊維の形態や配列については、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップド等から適宜選択できる。また、強化繊維の形態としてプリフォーム(強化繊維からなる織物基布を積層したもの、またはこれをステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物・編組物などの繊維構造物)を適用することもできる。これら繊維強化複合材料の製造方法として、具体的には、リキッド・コンポジット・モールディング法、レジン・フィルム・インフュージョン法、フィラメント・ワインディング法、ハンド・レイアップ法、プルトルージョン法等が挙げられる。これらの中でも、リキッド・コンポジット・モールディング法の一つであるレジン・トランスファー・モールディング法は、金属板、フォームコア、ハニカムコア等、プリフォーム以外の素材を成形型内に予めセットしておくことができることから、種々の用途に対応可能であるため、比較的、形状が複雑な複合材料を短時間で大量生産する場合に好適である。
【0071】
本発明による硬化性樹脂組成物は、優れた低熱膨張性、高い耐熱性、および低吸水性を有するため、高機能性高分子材料として極めて有用であり、熱的、電気的および機械物性に優れた材料として電気絶縁材料、封止材料、接着剤、積層材料、レジスト、ビルドアップ積層板材料のほか、土木・建築、電気・電子、自動車、鉄道、船舶、航空機、スポーツ用品、美術・工芸などの分野における固定材、構造部材、補強剤、型どり材などに好ましく使用される。これらの中でも、注型性、低熱膨張性、耐燃性、高度の機械強度およびが要求される電気絶縁材料や半導体封止材料、電子部品の接着剤、航空機構造部材、衛星構造部材および鉄道車両構造部材に好適である。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【0073】
<シアン酸エステル化合物の合成>
合成例1:ビス(4−シアナトフェニル)フェニルメタン(Bis−BA CNと略記)の合成
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン(和光純薬工業株式会社製)27.6g(100mmol)およびトリエチルアミン28.3g(280mmol)をテトラヒドロフラン100mLに溶解させた(溶液1)。塩化シアン18.4g(300mmol)の塩化メチレン溶液46.2gとテトラヒドロフラン100mLを混合させた液に−10℃で溶液1を1.5時間かけて滴下した。反応の完結が確認されたところで反応液を濃縮し、得られた粗製物を塩化メチレン300mLに溶解した。これを1M塩酸、蒸留水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。塩化メチレンを留去することで、目的とするビス(4−シアナトフェニル)フェニルメタンを30.0g得た。上記のようにして得られた化合物の構造をNMRスペクトルにより同定した。NMRスペクトルは、
図1に示される通りであった。
1H−NMR:(270MHz、クロロホルム−d、内部標準TMS)
δ(ppm)5.59(s,1H)、7.04(d,2H)、7.06−7.36(complex,11H)
【0074】
合成例2:α,α−ビス(4−シアナトフェニル)エチルベンゼン(Bis−AP CNと略記)の合成
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンの代わりにα,α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチルベンゼン(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は合成例1と同様に実施し、α,α−ビス(4−シアナトフェニル)エチルベンゼンを23.1g得た。上記のようにして得られた化合物の構造をNMRスペクトルにより同定した。NMRスペクトルは、
図2に示される通りであった。
1H−NMR:(270MHz、クロロホルム−d、内部標準TMS)
δ(ppm)2.18(s,3H)、7.00(d,2H)、7.01−7.34(complex,11H)
【0075】
合成例3:ビス(4−シアナトフェニル)エーテル(Bis−Ether CNと略記)の合成
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンの代わりにビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は合成例1と同様に実施し、ビス(4−シアナトフェニル)エーテルを22.0g得た。上記のようにして得られた化合物の構造をNMRスペクトルにより同定した。NMRスペクトルは、
図3に示される通りであった。
1H−NMR:(270MHz、クロロホルム−d、内部標準TMS)
δ(ppm)7.07(d,4H)、7.31(d,4H)
【0076】
合成例4:1,3−ビス[2−(4−シアナトフェニル)−2−プロピル]ベンゼン(Bis−M CNと略記)の合成
特開平4−221355号公報の実施例1に記載の方法に基づき、1,3−ビス[2−(4−シアナトフェニル)−2−プロピル]ベンゼンを得た。
【0077】
合成例5:1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタン(Bis−E CNと略記)の合成
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンの代わりに1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は合成例1と同様に実施し、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタンを23.1g得た。上記のようにして得られた化合物の構造をNMRスペクトルにより同定した。NMRスペクトルは、
図4に示される通りであった。
1H−NMR:(270MHz、クロロホルム−d、内部標準TMS)
δ(ppm)1.62(d,3H)、4.22(q,1H)、7.42(complex,8H)
【0078】
合成例6:1,1−ビス(4−シアナトフェニル)イソブタン(Bis−IB CNと略記)の合成
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンの代わりに1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブタン(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は合成例1と同様に実施し、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)イソブタンを28.3g得た。上記のようにして得られた化合物の構造をNMRスペクトルにより同定した。NMRスペクトルは、
図5に示される通りであった。
1H−NMR:(270MHz、クロロホルム−d、内部標準TMS)
δ(ppm)0.88(d,6H)、2.41(m,1H)、3.51(d,1H)、7.20−7.35(complex,8H)
【0079】
合成例7:トリス(4−シアナトフェニル)−1,1,1−メタン(TRPCNと略記)の合成
特開2006−290933号公報の合成例に記載の方法に基づき、トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−メタンからトリス(4−シアナトフェニル)−1,1,1−メタンを得た。
【0080】
合成例8:1,1,1−トリス(4−シアナトフェニル)エタン(TRPECNと略記)の合成
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンの代わりに1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は合成例1と同様に実施し、1,1,1−トリス(4−シアナトフェニル)エタンを33.0g得た。上記のようにして得られた化合物の構造をNMRスペクトルにより同定した。NMRスペクトルは、
図6に示される通りであった。
1H−NMR:(300MHz、クロロホルム−d、内部標準TMS)
δ(ppm)2.19(s,3H)、7.13(d,6H)、7.26(d,6H)
【0081】
合成例9:ナフトールアラルキル型シアン酸エステル(SNCNと略記)の合成
特開2006−193607号公報の合成例1に記載の方法に基づき、α−ナフトールアラルキル樹脂からナフトールアラルキル型シアン酸エステルを得た。
【0082】
<硬化性樹脂組成物の調製>
例1
合成例1で得られたBis−BA CN100質量部とオクチル酸亜鉛(日本化学産業株式会社製、商標ニッカオクチック酸亜鉛、金属含有量18%)0.02質量部と、4−ノニルフェノール(東京化成工業株式会社製)1質量部とを加熱して、真空ポンプで脱気して組成物を得た。
【0083】
<硬化物の作製>
上記のようにして得られた組成物を、再度加熱し、アルミニウム板(120mm×120mm×5mm)、とPTFE板で作製した型に注型し、オーブンで250℃、4時間加熱して硬化させ、1辺80mm、厚さ2mmの硬化物を得た。
【0084】
例2
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、1−ナフトール1質量部用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0085】
例3
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、1,6−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬工業株式会社製)1質量部用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0086】
例4
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、2,7−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬工業株式会社製)1質量部用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0087】
例5
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、2,7−ジヒドロキシナフタレン(和光純薬工業株式会社製)2質量部用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0088】
例6
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、トリブチルアミン(和光純薬工業株式会社製、)0.5質量部用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0089】
例7
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、N,N−ジメチルアミノエタノール(三菱瓦斯化学株式会社製、DMAEと略記)0.5質量部用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0090】
例8
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、4−ジメチルアミノピリジン(東京化成工業株式会社製、DMAPと略記)0.2質量部用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0091】
例9
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(東京化成工業株式会社製、DBUと略記)0.1質量部用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0092】
例10
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いる代わりに、ノニルフェノール1.5質量部と、2,7−ジヒドロキシナフタレン0.5質量部とを用いた以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0093】
例11
例1において、4−ノニルフェノール1質量部用いない以外は例1と同様にして硬化物を得た。
【0094】
例12
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CNを85質量部と、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(三菱瓦斯化学株式会社製、Bis−A CNと略記)を15質量部とを用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0095】
例13
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CNを70質量部と、合成例3で得られたBis−Ether CNを30質量部を用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0096】
例14
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CNを80質量部と、合成例4で得られたBis−M CNを20質量部を用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0097】
例15
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CNを50質量部と、合成例6で得られたBis−IB CNを50質量部を用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0098】
例16
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CNを65質量部と、合成例6で得られたBis−IB CNを25質量部と、フェノールノボラック型シアン酸エステル樹脂(ロンザ社製 商標PRIMASET PT−15、PT−15と略記)を10質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0099】
例17
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CNを80質量部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製 商標jER828、DGEBAと略記)を20質量部を用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.016質量部に変更し、かつ、オーブンでの硬化温度を200℃とした以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0100】
例18
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CNを70質量部と、合成例7で得られたTRPCNを10質量部と、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製 商標Epiclon N−680、ECNと略記)を8質量部と、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社 商標NC−3000、NC−3000と略記)を12質量部用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.017質量部に変更し、かつ、オーブンでの硬化温度を200℃とした以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0101】
例19
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CNを60質量部と、Bis−A CNを10質量部と、4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタン(東京化成工業株式会社製、BMIと略記)を30質量部用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.014質量部に変更した以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0102】
例20
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CN30質量部と、PT−15を30質量部と、NC−3000を10質量部と、マレイミド化合物(ケイ・アイ化成株式会社製 商標BMI−70)を30質量部用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.012質量部に変更し、かつ、オーブンでの硬化温度を200℃とした以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0103】
例21
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−BA CN60質量部と、Bis−E CN10質量部と、合成例9で得られたSNCNを30質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0104】
例22
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、合成例2で得られたBis−AP CNを100質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0105】
例23
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−A CNを100質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0106】
例24
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、合成例7で得られたTRPCNを100質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0107】
例25
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、合成例8で得られたTRPECNを100質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0108】
例26
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、PT−15を100質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0109】
例27
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−A CNを65質量部と、合成例5で得られたBis−E CNを35質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0110】
例28
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、合成例4で得られたBis−M CNを40質量部と、合成例5で得られたBis−E CNを30質量部と合成例9で得られたSNCNを30質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0111】
例29
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、合成例3で得られたBis−Ether CNを50質量部と、ECNを50質量部用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.01質量部に変更し、かつ、オーブンでの硬化温度を200℃とした以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0112】
例30
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−A CNを70質量部と、BMIを30質量部用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.014質量部に変更した以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0113】
例31
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−A CNを70質量部と、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製 商標jER806、DGEBFと略記)を30質量部用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.014質量部に変更し、かつ、オーブンでの硬化温度を200℃とした以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0114】
例32
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−A CNを80質量部と、DGEBAを20質量部用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.016質量部に変更し、かつ、オーブンでの硬化温度を200℃とした以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0115】
例33
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−A CNを30質量部と、PT−15を30質量部と、NC−3000を10質量部と、BMI−70を30質量部用い、オクチル酸亜鉛の添加量を0.02質量部から0.016質量部に変更し、かつ、オーブンでの硬化温度を200℃とした以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0116】
例34
例4において、Bis−BA CNを100質量部用いる代わりに、Bis−A CN60質量部と、合成例5で得られたBis−E CNを10質量部と、合成例9で得られたSNCNを30質量部用いた以外は例4と同様にして硬化物を得た。
【0117】
<硬化物の評価>
上記のようにして得られた各硬化物について、成型性、ガラス転移温度、線膨張係数および吸水率の測定を下記のようにして行った。
【0118】
(1)成型性評価
成型性は、得られた硬化物(40mm×40mm×2mm)の外観を観察し、クラック発生の有無を目視にて確認した。判定基準は以下の通りとした。
OK:クラック発生が認められないもの
NG:クラック発生が認められたもの
【0119】
(2)ガラス転移温度の測定
ガラス転移温度は、JIS−K7244−7−2007に準拠して測定を行い、動的粘弾性測定装置(AR2000、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、開始温度100℃、終了温度400℃、昇温速度3℃/分、測定周波数1Hzの測定条件において動的粘弾性測定を実施し、その際得られた損失正接(tanδ)の最大値をガラス転移温度とした。
【0120】
(3)線膨張係数の測定
線膨張係数は、JIS−K−7197−1991に準拠して測定を行い、熱機械分析装置(TMA/SS7100、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)に試験片(5mm×5mm×2mm)をセットし、開始温度100℃、終了温度300℃、昇温速度5℃/分、加重0.05Nの測定条件において、膨張・圧縮モードでの熱機械分析を実施し、所定の温度における1℃当たりの平均熱膨張量を測定した。なお、例17、18、20、29、31、32、および33以外については、200℃〜300℃における平均線膨張係数を測定し、例17、18、20、29、31、32、および33については、150℃〜250℃における平均線膨張係数の測定を行った。
【0121】
(4)吸水率の測定
吸水率は、試験片(40mm×40mm×2mm)を沸騰水中に300時間浸漬したときの重量増加率を算出し、得られた値を吸水率とした。
【0122】
測定結果は、下記の表1〜3に示される通りであった。なお、表1中の数値の単位は質量部表し、「−」の記載部分は該当する原料の配合がないことを意味する。また、表1中のガラス転移温度(Tg)において、「>400」とは、測定温度範囲(25℃〜400℃)内においてtanδの最大ピーク値が明瞭でなく、その範囲内でTgが確認できなかったことを意味する。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】