(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットであって、比抵抗が1Ω・cm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体の製造方法であって、酸化インジウムと;酸化ガリウムと;酸化錫とを混合し、成形型にセットした後、焼結温度850〜1250℃まで昇温した後、該温度域での保持時間0.1〜5時間、加圧圧力59MPa以下で焼結することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、従来のIn−Ga−Zn系酸化物半導体薄膜(IGZO)と比べて、キャリア移動度が高いことによって評価されるTFTの移動度に優れた酸化物半導体薄膜として、後記する特定の比率の金属元素を有するIn−Ga−Sn系酸化物半導体薄膜(IGTO)を発明し、先に出願をした。
【0020】
もっとも、In−Ga−Sn系酸化物半導体薄膜(IGTO)の製造に用いられるスパッタリングターゲットの素材である酸化物焼結体は、生産性や製造コストなどを考慮すると、ボンディング工程での酸化物焼結体の割れをより一層抑制することも重要であり、そのためには酸化物焼結体の改善が必要となる。
【0021】
そこで本発明者らは、上記酸化物半導体薄膜を成膜するのに適したIn−Ga−Sn系スパッタリングターゲットの素材である酸化物焼結体について、ボンディング時の割れを抑制すべく、検討を重ねてきた。
【0022】
その結果、後記式(1)〜(3)を満足する特定の金属元素の割合を有する酸化インジウムと;酸化ガリウムと;酸化錫を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、(ア)酸化物焼結体をX線回折したとき、InGaO
3相の割合を制御することによって、ボンディング時の酸化物焼結体の割れを抑制する効果があること、(イ)相対密度を高めることによって、ボンディング時の酸化物焼結体の割れの抑制効果を一層向上できること、(ウ)酸化物焼結体の平均結晶粒径を微細化すると酸化物焼結体の割れの抑制効果をより一層向上できること、を突き止め、本発明に至った。
【0023】
更に、(エ)上記酸化物焼結体を得るためには、所定の焼結条件で焼結を行えばよいことを見出した。
【0024】
まず、本発明に係る酸化物焼結体の構成について、詳しく説明する。
【0025】
TFT特性に優れた効果を有する酸化物半導体薄膜を形成するためには、酸化物焼結体に含まれる金属元素の含有量を夫々適切に制御する必要がある。
【0026】
具体的には酸化物焼結体に含まれる酸素を除く全金属元素に対する各金属元素(インジウム、ガリウム、錫)の含有量(原子%)の割合をそれぞれ、[In]、[Ga]、[Sn]としたとき、下記式(1)〜(3)を満足するように制御する。
30原子%≦[In]≦50原子%・・・(1)
20原子%≦[Ga]≦30原子%・・・(2)
25原子%≦[Sn]≦45原子%・・・(3)
【0027】
上記式(1)は、全金属元素中のIn比([In]=In/(In+Ga+Sn))を規定したものである。[In]が低すぎると酸化物焼結体の相対密度向上効果やスパッタリングターゲットの比抵抗の低減を達成できず、また成膜後の酸化物半導体薄膜のキャリア移動度も低くなる。一方、[In]が高すぎると、キャリアが多くなりすぎて導体化するほか、ストレスに対する安定性が低下する。したがって[In]は、30原子%以上、好ましくは35原子%以上、より好ましくは40原子%以上であって、50原子%以下、好ましくは47原子%以下、より好ましくは45原子%以下である。
【0028】
上記式(2)は全金属元素中のGa比([Ga]=Ga/(In+Ga+Sn))を規定したものである。[Ga]は、酸素欠損を低減し、酸化物半導体薄膜のアモルファス構造を安定化させるほか、ストレス耐性(特に光+負バイアスストレスに対する耐性)を向上させる作用を有する。但し、[Ga]が高すぎると、移動度が低下する。したがって[Ga]は、20原子%以上、好ましくは22原子%以上、より好ましくは24原子%以上であって、30原子%以下、好ましくは29原子%以下、より好ましくは28原子%以下である。
【0029】
上記式(3)は全金属元素中のSn比([Sn]=Sn/(In+Ga+Sn))を規定したものである。[Sn]は、ウェットエッチング性など、酸化物半導体薄膜の薬液耐性を向上させる作用を有する。但し、薬液耐性の向上に伴いエッチングレートは遅くなるので、[Sn]が高すぎると、エッチング加工性が低下する。したがって[Sn]は、25原子%以上、好ましくは26原子%以上、より好ましくは27原子%以上であって、45原子%以下、好ましくは40原子%以下、より好ましくは35原子%以下である。
【0030】
本発明の酸化物焼結体では、金属元素が上記比率のInとGaとSnから構成され、Znを含まない。後記する実施例に示すように、InとGaとZnを含む従来のIGZOターゲットを用いて薄膜を成膜すると、IGZOターゲットとIGZO膜との間で組成ずれが大きくなると共に、IGZOターゲットの表面に、ZnとOからなる黒色の堆積物が生成することが判明したからである。上記黒色堆積物は、スパッタ中にターゲット表面から剥離してパーティクルとなり、アーキングの原因となるなど、成膜上、大きな問題を招く。
【0031】
ここで、IGZOのターゲットを用いたときに上記の問題が生じる主な理由は、Znの蒸気圧が、GaおよびInに比べて高いことに起因すると考えられる。例えばターゲットを用いて薄膜を成膜する場合、コストを考慮すると、酸素を含まずアルゴンなどの不活性ガスのみでプリスパッタした後、所定分圧の酸素含有不活性雰囲気でスパッタすることが推奨される。しかし、上記プリスパッタ中にZnが還元されると、Znの蒸気圧が高いために蒸発しやすくなってターゲット表面に付着し、黒色堆積物が生成される。その結果、ターゲットと膜の組成ずれを招き、ターゲットに比べて膜中のZnの原子比が大幅に低下する。
【0032】
本発明の酸化物焼結体は、好ましくは上記所定の金属元素含有量を満足する酸化インジウムと;酸化ガリウムと;酸化錫で構成されており、残部は、製造上不可避的に生成される酸化物などの不純物である。
【0033】
次に上記酸化物焼結体をX線回折したときに検出されるInGaO
3相について説明する。InGaO
3相は、本発明の酸化物焼結体を構成するInとGaが結合して形成される酸化物である。InGaO
3相は、本発明の酸化物焼結体において、ボンディング時の応力による割れを抑制する効果を有する。
【0034】
このような効果を有する酸化物焼結体とするためには、X線回折で特定したInGaO
3相のピーク強度が下記式(4)を満足する必要がある。
[InGaO
3]≧0.05・・・(4)
但し、[InGaO
3]=(I(InGaO
3)/(I(InGaO
3)+I(In
2O
3)+I(SnO
2))
式中、I(InGaO
3)、I(In
2O
3)、およびI(SnO
2)はそれぞれ、X線回折で特定されたInGaO
3相、In
2O
3相、SnO
2相の回折強度の測定値を意味する。
【0035】
これらの化合物相は、酸化物焼結体をX線回折して得られた回折ピークについて、ICDD(International Center for Diffraction Data)カードの21−0334、71−2194、77−0447に記載されている結晶構造(それぞれ、InGaO
3相、In
2O
3相、SnO
2相に対応)を有するものである。
【0036】
本発明は上記酸化物焼結体をX線回折したとき、InGaO
3相を所定の割合で含むところに特徴がある。InGaO
3相のピーク強度比([InGaO
3])が小さくなるとボンディング時の酸化物焼結体の割れが生じやすくなるため、0.05以上とする必要がある。好ましくは0.06以上、より好ましくは0.07以上、更に好ましくは0.1以上である。一方、上限については、上記観点からは高いほどよく、例えば1であってもよいが、熱平衡状態を考慮すると、好ましくは0.84以下、より好ましくは0.67以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0037】
なお、InGaO
3相は、金属元素の含有量が上記範囲内に制御されていると共に、後
記する所定の焼結条件で製造することによって生成する特異な相である。酸化物焼結体を構成する金属元素の種類が同じであっても金属元素の含有量や製造条件が異なる場合、得られる結晶相が相違する。例えば特許文献1(In−Ga−Sn系酸化物焼結体)で形成されているGa
3-xIn
5+xSn
2O
16相は本発明では形成されていない。
【0038】
また、酸化物焼結体を構成する金属元素の種類が異なる場合にも得られる結晶相は相違する。例えば特許文献2(In−Ga−Zn−Sn−O系酸化物焼結体)で形成される(Ga、In)
2O
3相は、本発明と表記が類似しているがICDDカードが異なっており、結晶構造が異なる相である。また本発明では(Ga、In)
2O
3相は形成されていない。
【0039】
本発明の酸化物焼結体の相対密度は90%以上である。酸化物焼結体の相対密度を高めることによってボンディング時の割れ抑制効果を一層向上できる。このような効果を得るために本発明の酸化物焼結体は相対密度を少なくとも90%以上とする必要があり、好ましくは95%以上であり、より好ましくは98%以上である。上限は特に限定されず100%であってもよいが、製造コストを考慮し、99%が好ましい。
【0040】
また、ボンディング時の割れ抑制効果をより一層高めるためには、酸化物焼結体の結晶粒の平均結晶粒径を微細化する必要がある。具体的には酸化物焼結体の破断面(酸化物焼結体を任意の位置で厚み方向に切断し、その切断面表面の任意の位置)において走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)により観察される結晶粒の平均結晶粒径を10μm以下とすることによって、酸化物焼結体の割れをより一層抑制することができる。好ましい平均結晶粒径は8μm以下、より好ましくは6μm以下である。一方、平均結晶粒径の下限は特に限定されないが、平均結晶粒径の微細化と製造コストのバランスから、平均結晶粒径の好ましい下限は0.05μm程度である。
【0041】
また、本発明では酸化物焼結体の平均結晶粒径のみならず、粒度分布を適切に制御することが好ましい。具体的には結晶粒径が15μmを超える粗大結晶粒は、ボンディング時の酸化物焼結体の割れの原因となるため、できるだけ少ない方がよく、粗大結晶粒は好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下、よりさらに好ましくは4%以下、最も好ましくは0%である。
【0042】
次に、本発明の酸化物焼結体を製造する方法について説明する。
【0043】
本発明の酸化物焼結体は、酸化インジウムと;酸化ガリウムと;酸化錫を混合および焼結して得られるものである。また、本発明のスパッタリングターゲットは上記酸化物焼結体を加工することにより製造できる。具体的には、酸化物の粉末を(a)混合・粉砕→(b)乾燥・造粒→(c)予備成形→(d)脱脂→(e)ホットプレスにて焼結して得られた酸化物焼結体を、(f)加工→(g)ボンディグしてスパッタリングターゲットを得ることができる。上記工程のうち本発明では、以下に詳述するように(e)ホットプレスの焼結条件を適切に制御したところに特徴があり、それ以外の工程は特に限定されず、通常用いられる工程を適宜選択することができる。以下、各工程を説明するが、本発明はこれに限定する趣旨ではない。
【0044】
まず、酸化インジウム粉末と;酸化ガリウム粉末と;酸化錫粉末;を所定の割合に配合し、混合・粉砕する。用いられる各原料粉末の純度はそれぞれ、約99.99%以上が好ましい。微量の不純物元素が存在すると、酸化物半導体薄膜の半導体特性を損なう恐れがあるためである。各原料粉末の配合割合は、上記範囲内となるように制御することが好ましい。
【0045】
(a)混合・粉砕は、ボールミルまたはビーズミルを使い、原料粉末を水と共に投入して行うことが好ましい。これらの工程に用いられるボールやビーズは、例えばナイロン、アルミナ、ジルコニアなどの材質のものが好ましく用いられる。この際、均一に混合する目的で分散材や、後の成形工程の容易性を確保するためにバインダーを混合してもよい。混合時間は2時間以上とすることが好ましく、より好ましくは10時間以上であり、更に好ましくは20時間以上である。
【0046】
次に、上記工程で得られた混合粉末について例えばスプレードライヤなどで(b)乾燥・造粒を行うことが好ましい。
【0047】
乾燥・造粒後、(c)予備成形をする。成形に当たっては、乾燥・造粒後の粉末を所定寸法の金型に充填し、金型プレスで予備成形する。この予備成形は、ホットプレス工程で所定の型にセットする際のハンドリング性を向上させる目的で行われるため、49〜98MPa程度の加圧力を加えて成形体とすればよい。本発明では金型プレスでの予備成形を行わず、直接成形型内に粉末を装填して加圧焼結してもよい。
【0048】
なお、混合粉末に分散材やバインダーを添加した場合には、分散材やバインダーを除去するために成形体を加熱して(d)脱脂を行うことが望ましい。加熱条件は脱脂目的が達成できれば特に限定されないが、例えば大気中、おおむね500℃程度で、5時間程度保持すればよい。
【0049】
脱脂後、所望の形状が得られるように成形型に成形体をセットして(e)ホットプレスにて焼結を行う。焼結時の成形型としては焼結温度に応じて金型、黒鉛型のいずれも用いることができるが、900℃以上の高温での耐熱性に優れた黒鉛型を用いることが好ましい。
【0050】
本発明では成形体を焼結温度:850〜1250℃まで昇温した後、該温度での保持時間:0.1〜5時間で焼結を行う。これらの温度範囲および保持時間で焼結することにより、上記式(4)を満足するInGaO
3相の比率と適切な粒径を有する焼結体が得られる。焼結温度が低いと、上記式(4)を満足するInGaO
3相を生成できない。また酸化物焼結体を十分に緻密化することができず、所望の相対密度を達成できない。一方、焼結温度が高くなりすぎると、結晶粒が粗大化してしまい、結晶粒の平均結晶粒径を所定の範囲に制御できなくなる。したがって焼結温度は850℃以上、好ましくは875℃以上、より好ましくは900℃以上であって、1250℃以下、好ましくは1200℃以下とする。
【0051】
また、上記焼結温度での保持時間が長くなりすぎると結晶粒が成長して粗大化するため、結晶粒の平均結晶粒径を所定の範囲に制御できなくなる。一方、保持時間が短すぎると上記InGaO
3相を前記割合以上形成することができず、また十分に緻密化することができなくなる。したがって保持時間は0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上であって、5時間以下とすることが望ましい。
【0052】
また、本発明では予備成形後、上記焼結温度までの平均昇温速度を600℃/hr以下とすることが好ましい。平均昇温速度が600℃/hrを超えると、結晶粒の異常成長が起こり、粗大結晶粒の割合が高くなる。また相対密度を十分に高めることができない。より好ましい平均昇温速度は500℃/hr以下、更に好ましくは400℃/hr以下である。一方、平均昇温速度の下限は特に限定されないが、生産性の観点からは10℃/hr以上とすることが好ましく、より好ましくは20℃/hr以上である。
【0053】
上記焼結工程においてホットプレス時の加圧条件は、特に限定されないが、例えば面圧(加圧圧力)59MPa以下の圧力を加えることが望ましい。圧力が高すぎると黒鉛型が破損する恐れがあり、また緻密化促進効果が飽和すると共にプレス設備の大型化が必要となる。一方、圧力が低すぎると緻密化が十分に進まないことがある。好ましい加圧条件は10MPa以上、39MPa以下である。
【0054】
焼結工程では、成形型として好ましく用いられる黒鉛の酸化、消失を抑制するために、焼結雰囲気を不活性ガス雰囲気、真空雰囲気とすることが好ましい。雰囲気制御方法は特に限定されず、例えば炉内にArガスやN
2ガスを導入することによって雰囲気を調整すればよい。また雰囲気ガスの圧力は、蒸気圧の高い金属の蒸発を抑制するために大気圧とすることが望ましい。上記のようにして得られた酸化物焼結体は相対密度が90%以上である。
【0055】
上記のようにして酸化物焼結体を得た後、常法により、(f)加工→(g)ボンディングを行なうと本発明のスパッタリングターゲットが得られる。酸化物焼結体の加工方法は特に限定されず、公知の方法によって各種用途に応じた形状に加工すればよい。
【0056】
加工した酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディング材によって接合することでスパッタリングターゲットを製造できる。バッキングプレートの素材の種類は特に限定されないが、熱伝導性優れた純銅または銅合金が好ましい。ボンディング材の種類も特に限定されず、導電性を有する各種公知のボンディング材を使用することができ、例えばIn系はんだ材、Sn系はんだ材などが例示される。接合方法も特に限定されず、例えば酸化物焼結体およびバッキングプレートをボンディング材が溶解する温度、例えば140〜220℃程度に加熱して溶解させ、バッキングプレートのボンディング面に溶解したボンディング材を塗布し、それぞれのボンディング面を貼り合わせて両者を圧着した後、冷却すればよい。
【0057】
本発明の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットは、ボンディング作業時の衝撃や熱履歴などで発生した応力などによる割れがなく、また比抵抗も、非常に良好なものであり、好ましくは1Ω・cm以下、より好ましくは10
-1Ω・cm以下、さらに好ましくは10
-2Ω・cm以下である。本発明のスパッタリングターゲットを用いれば、スパッタリング中での異常放電、およびスパッタリングターゲット材の割れを一層抑制した成膜が可能となり、スパッタリングターゲットを用いた物理蒸着(スパッタリング法)を表示装置の生産ラインで効率よく行うことができる。また得られた酸化物半導体薄膜も良好なTFT特性を示す。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
実施例1
(スパッタリングターゲットの作製)
純度99.99%の酸化インジウム粉末(In
2O
3)、純度99.99%の酸化ガリウム粉末(Ga
2O
3)、純度99.99%の酸化錫粉末(SnO
2)を表1に示す質量比率および原子比率で配合し、水と分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)を加えてナイロンボールミルで20時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥して造粒を行った。
【0060】
このようにして得られた粉末を金型プレスにて下記条件で予備成形した後、常圧にて大気雰囲気下で500℃に昇温し、該温度で5時間保持して脱脂した。
(予備成形の条件)
成形圧力:1.0ton/cm
2
厚みをtとしたとき、成形体サイズ:φ110mm×t13mm
【0061】
得られた成形体を黒鉛型にセットし、表2に示す条件A〜Fでホットプレスを行った。この際、ホットプレス炉内にはN
2ガスを導入し、N
2雰囲気下で焼結した。
【0062】
得られた酸化物焼結体を機械加工してφ100mm×t5mmに仕上げた。該酸化物焼結体と、Cu製バッキングプレートを10分かけて180℃まで昇温させた後、酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディング材(インジウム)を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを製作した。
【0063】
(相対密度の測定)
相対密度は、以下のようにして測定した気孔率を引き算することにより求めた。まず、酸化物焼結体の破断面(酸化物焼結体を任意の位置で厚み方向に切断し、その切断面表面の任意の位置)を鏡面研削した試料を用意した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて1000倍で写真撮影し、50μm角の領域に占める気孔の面積率(%)を測定して気孔率とした。上記試料について、同様の操作を合計20箇所について行い、その平均を当該試料の平均気孔率(%)とした。平均相対密度は、[100−平均気孔率]により算出し、その結果を表4に「相対密度(%)」として記載した。本実施例では、このようにして得られた平均相対密度が90%以上のものを合格と評価した。
【0064】
(平均結晶粒径)
表4に記載の「平均結晶粒径(μm)」は以下のようにして測定した。まず、酸化物焼結体の破断面(酸化物焼結体を任意の位置で厚み方向に切断し、その切断面表面の任意の位置)を鏡面研削した試料を用意した。次に、その組織を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率400倍で写真撮影し、任意の方向で100μmの長さの直線を引き、この直線内に含まれる結晶粒の数(N)を求め、[100/N]から算出される値を当該「直線上での結晶粒径」とした。同様に粗大結晶粒が重複しない間隔(少なくとも20μm以上の間隔)で直線を20本作成して各直線上での結晶粒径を算出した。そして、[各直線上での結晶粒径の合計/20]から算出される値を「酸化物焼結体の平均結晶粒径」とした。本実施例では、このようにして得られた酸化物焼結体の平均結晶粒径が10μm以下のものを合格と評価した。
【0065】
(粗大結晶粒の割合)
表4に記載の「粗大結晶粒の割合(%)」は以下のようにして測定した。まず、上記平均結晶粒径と同様、酸化物焼結体の破断面をSEM観察して、任意の方向に100μmの長さの直線を引き、この直線上で切り取られる長さが15μm以上の結晶粒を粗大な結晶粒とした。この粗大な結晶粒が直線上に占める長さL(複数ある場合はその総和:μm)を求め、[L/100]から算出される値を当該「直線上での粗大結晶粒の割合」(%)とした。同様に粗大結晶粒が重複しない間隔(少なくとも20μm以上の間隔)で直線を20本作成して各直線上での粗大結晶粒の割合を算出した。そして、[各直線上での粗大結晶粒の割合の合計/20]から算出される値を「酸化物焼結体の粗大結晶粒の割合」(%)とした。本実施例では、このようにして得られた酸化物焼結体の粗大結晶粒の割合が10%以下のものを合格と評価した。
【0066】
(InGaO
3相の比率)
表4に記載の「InGaO
3相(%)」は以下のようにして測定した。まず、スパッタリングして得られたスパッタリングターゲットをバッキングプレートから取り外して10mm角の試験片を切出し、以下のX線回折により、結晶相の回折線の強度(回折ピーク)を測定して求めた。
分析装置:理学電機社製「X線回折装置RINT−1500」
分析条件:
ターゲット:Cu
単色化:モノクロメートを使用(Kα)
ターゲット出力:40kV−200mA
(連続焼測定)θ/2θ走査
スリット:発散1/2°、散乱1/2°、受光0.15mm
モノクロメータ受光スリット:0.6mm
走査速度:2°/min
サンプリング幅:0.02°
測定角度(2θ):5〜90°
【0067】
このようにして得られた各結晶相の回折ピークについて、ICDD(International Center for Diffraction Data)カードに基づいて表3に示す各結晶相のピークを同定し、回折ピークの高さを測定した。これらのピークは、当該結晶相で回折強度が十分に高く、他の結晶相のピークとの重複がなるべく少ないピークを選択した。InGaO
3の(h k l)=(1 1 1)の回折ピークが確認できない場合は、重複のない(h k l)=(−3 1 1)のピークを選択し、(ピーク高さ×2.2)から求まるピーク高さをI(InGaO
3)とする。各結晶相の指定ピークでのピーク高さの測定値をそれぞれI(InGaO
3)、I(In
2O
3)、I(SnO
2)とし、下式によって[InGaO
3]のピーク強度比率を求めた。
[InGaO
3]=I(InGaO
3)/(I(InGaO
3)+I(In
2O
3)+I(SnO
2))
【0068】
本実施例では、このようにして得られた[InGaO
3]が0.05以上のものを合格と評価した。
【0069】
(ボンディング時の割れ)
表4に記載の「ボンディング時の割れ」の有無は以下のようにして測定した。上記機械加工した酸化物焼結体を加熱し、バッキングプレートにボンディングした後、酸化物焼結体表面に割れが生じていないか目視で確認した。酸化物焼結体表面に1mmを超えるクラックが確認された場合を「割れ」があると判断した。ボンディング作業を10回行い、1回でも割れがある場合を不合格と評価して、表4中に「有」と記載した。一方、10回中、1回も割れがない場合を合格と評価して、表4中に「無」と記載した。
【0070】
これらの結果を表4に併記する。表4の最右欄には総合評価の欄を設け、上記評価項目のうち全てが合格のものをOK、いずれか一つが不合格のものにNGを付した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
本発明の好ましい組成、および製造条件を満足する試料No.1〜6のスパッタリングターゲットは、スパッタリング時はもちろんのこと、ボンディング作業時のターゲットに割れが生じることがなかった。また、このようにして得られたスパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗も良好な結果が得られた。
【0076】
一方、[Sn]が高く、本発明の組成を満足しない試料No.7、および製造条件を満足しない試料No.8〜10は、ボンディング時の加熱条件を高温且つ長時間にすると、表4に示すようにボンディング作業時にスパッタリングターゲットの割れが発生した。そこで、これらの例では、スパッタリングターゲットに割れが生じないようなボンディング条件でボンディングして割れが発生しなかったスパッタリングターゲットを使用して、前述したInGaO
3相(%)を測定した。
【0077】
具体的には、試料No.7は、酸化物焼結体の組成について[Sn]の比率が高くて本発明の規定を満たさない表1の鋼種dを用いた例である。その結果、表4に示すように平均結晶粒径が大きく、粗大結晶粒の好ましい割合が高く、更にInGaO
3相のピーク強度比率も低かった。この例ではボンディング作業時に酸化物焼結体に割れが発生した。
【0078】
試料No.8は、酸化物焼結体の組成は本発明の規定を満たす表1の鋼種aを用いたが、焼結時の保持温度が低い表2の製造条件Dを採用した例である。その結果、表4に示すように相対密度が低くなると共に、InGaO
3相のピーク強度比率も低かった。この例ではボンディング作業時に酸化物焼結体に割れが発生した。
【0079】
試料No.9は、酸化物焼結体の組成は本発明の規定を満たす表1の鋼種aを用いたが、焼結温度までの昇温速度が速く、且つ、焼結時の保持温度が高い表2の製造条件Eを採用した例である。その結果、表4に示すように平均結晶粒径が大きく、粗大結晶粒の好ましい割合が高かった。この例では、ボンディング作業時に酸化物焼結体に割れが発生した。
【0080】
試料No.10は、酸化物焼結体の組成は本発明の規定を満たす表1の鋼種aを用いたが、焼結時の保持温度が高い表2の製造条件Fを採用した例である。その結果、表4に示すように平均結晶粒径が大きく、粗大結晶粒の好ましい割合が高かった。この例では、ボンディング作業時に酸化物焼結体に割れが発生した。
【0081】
実施例2
本実施例では、従来のIn−Ga−Zn酸化物焼結体(IGZO)に比べて、本発明で規定するIn−Ga−Sn酸化物焼結体(IGTO)の有用性を実証するため、以下の実験を行った。
【0082】
まず、前述した実施例1の表4のNo.1のターゲットを用い、以下の条件で、本成膜前のプリスパッタおよび本成膜であるスパッタを行って、ガラス基板上に酸化物半導体薄膜を成膜した。参考のため、表5のNo.1に、上記表4のNo.1のターゲットの組成(表1の成分No.aと同じ)を併記する。
スパッタリング装置:株式会社アルバック製「CS−200」
DC(直流)マグネトロンスパッタリング法
基板温度:室温
(1)プリスパッタ
ガス圧:1mTorr
酸素分圧:100×O
2/(Ar+O
2)=0体積%
成膜パワー密度:2.5W/cm
2
プリスパッタ時間:10分
(2)本成膜
ガス圧:1mTorr
酸素分圧:100×O
2/(Ar+O
2)=4体積%
成膜パワー密度:2.5W/cm
2
膜厚:40nm
【0083】
比較のため、表5のNo.2に記載のIGZOターゲットを用い、上記と同じ条件で酸化物半導体薄膜を成膜した。上記No.2のターゲットにおけるInとGaとZnの原子比は1:1:1である。上記IGZOターゲットの作製方法は以下のとおりである。
【0084】
(IGZOスパッタリングターゲットの作製)
純度99.99%の酸化インジウム粉末(In
2O
3)、純度99.99%の酸化ガリウム粉末(Ga
2O
3)、純度99.99%の酸化亜鉛粉末(ZnO
2)を表1に示す質量比率および原子比率で配合し、水と分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム)とバインダーを加えてボールミルで20時間混合した。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥して造粒を行った。
【0085】
このようにして得られた粉末を金型プレスにて下記条件で予備成形した後、常圧にて大気雰囲気下で500℃に昇温し、該温度で5時間保持して脱脂した。
(予備成形の条件)
成形圧力:1.0ton/cm
2
厚みをtとしたとき、成形体サイズ:φ110mm×t13mm
【0086】
得られた成形体を黒鉛型にセットし、表2に示す条件Gでホットプレスを行った。この際、ホットプレス炉内にはN
2ガスを導入し、N
2雰囲気下で焼結した。
【0087】
得られた酸化物焼結体を機械加工してφ100mm×t5mmに仕上げた。該酸化物焼結体と、Cu製バッキングプレートを10分かけて180℃まで昇温させた後、酸化物焼結体をバッキングプレートにボンディング材(インジウム)を用いてボンディングし、スパッタリングターゲットを製作した。
【0088】
このようにして得られた各酸化物半導体薄膜について、各薄膜中の各金属元素の比率(原子%)を高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)法で測定した。表6にこれらの結果を記載する。
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
表5に示すターゲットの組成(原子%)と表6に示す膜の組成原子(%)を対比すると、本発明の組成を満足するNo.1のIGTOターゲットでは、ターゲットと膜の間の組成ずれは全く見られなかった。
【0092】
これに対し、本発明の組成を満足せずSnでなくZnを含むNo.2のIGZOターゲットでは、ターゲットと膜の間の組成ずれが大きくなった。詳細にはNo.2では、ターゲット中のZn比=33.3原子%から、膜中のZn比=26.5原子%と、6.8原子%も減少した。
【0093】
よって、本発明のターゲットを用いれば、ターゲットの組成と組成ずれのない膜を成膜できることが実証された。
【0094】
更に、上記の各ターゲットを用いて各膜を成膜した後の、各ターゲットの表面状態を目視で観察し、黒色堆積物の有無を評価した。参考のため、これらの写真を
図1に示す。
【0095】
その結果、本発明例のNo.1のIGTOターゲットを用いたときは、
図1の左図に示すように成膜後のターゲット表面に黒色の堆積物は観察されなかったのに対し、従来例のNo.2のIGZOターゲットを用いたときは、
図1の右図に示すように成膜後のターゲット表面に黒色の堆積物が観察された。このようにターゲットの表面に黒色堆積物が存在すると、スパッタ中にターゲット表面から剥離してパーティクルとなって、アーキングを招く虞がある。よって、本発明のターゲットを用いれば、組成ずれのない膜を成膜できるのみならず、スパッタリングの際のアーキングを防止できるなど、非常に有用であることが実証された。