(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796821
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】フィルタープレス用ろ布
(51)【国際特許分類】
B01D 25/12 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
B01D25/12 E
B01D25/12 C
B01D25/12 J
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-226586(P2012-226586)
(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公開番号】特開2014-76436(P2014-76436A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2014年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000197746
【氏名又は名称】株式会社石垣
(72)【発明者】
【氏名】元家 正二
【審査官】
増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−000564(JP,A)
【文献】
特公昭39−020697(JP,B1)
【文献】
実開平05−080504(JP,U)
【文献】
特開昭54−108068(JP,A)
【文献】
実開平06−085003(JP,U)
【文献】
特開平02−261509(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102100982(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフレーム2とリアフレーム3に支架された一対のガイドレール4、4に多数のろ板5・・・を開閉自在に並列して構成されたフィルタープレス1のろ板5、5間に吊設したフィルタープレス用ろ布8において、
ろ板5のろ過床7に当接して固液分離を行なうろ過面20と、
ろ過面20の上方に鉛直方向の縞状に弾性部材23を固着した非ろ過面22とを備え、
ろ布8の振動によりろ過面20を撓ませケーキ11を剥離する
ことを特徴とするフィルタープレス用ろ布。
【請求項2】
前記弾性部材23を非ろ過面22の左右両端及び中央に配設したことを特徴とする請求項1に記載のフィルタープレス用ろ布。
【請求項3】
フロントフレーム2とリアフレーム3に支架された一対のガイドレール4、4に多数のろ板5・・・を開閉自在に並列して構成されたフィルタープレス1のろ板5、5間に吊設したフィルタープレス用ろ布8において、
ろ板5のろ過床7に当接して固液分離を行なうろ過面20と、
ろ過面10の上方の全面に弾性部材23を固着した非ろ過面22とを有し、
ろ布8の振動によりろ過面20を撓ませケーキ11を剥離する
ことを特徴とするフィルタープレス用ろ布。
【請求項4】
前記弾性部材23を、ケーキ11の付着したろ過面20より弾性率の高い部材としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のフィルタープレス用ろ布。
【請求項5】
前記弾性部材23は樹脂であって、非ろ過面22に塗布したことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のフィルタープレス用ろ布。
【請求項6】
前記弾性部材23は弾性体であって、非ろ過面22に貼着したことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のフィルタープレス用ろ布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ布を加振させることによって付着したケーキを剥離するフィルタープレスに関し、ろ布の非ろ過面に弾性部材を配設し、弾性部材が配設された部分では振動による撓みを抑制するろ布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフィルタープレスでは、ろ板間のろ過室に原液を注入してろ布で固液分離を行っており、固液分離が終了した後、ろ布に付着したケーキを剥離するための技術として、ろ布を振動させる技術がある。
ろ布を振動させてろ布間のケーキを剥離する装置としては、例えば、ろ板の表裏のろ過床を覆うようろ布を設け、ろ板の上方でろ布上部を支持している支持部材に加振装置を対設し、開板したろ板間のろ布を一斉に振動させてケーキを剥離するフィルタープレスが特許文献1に記載されている。
【0003】
また、ろ布の振動をろ過面まで伝えるため、ろ布の左右両端に弾性部材を配設し、ろ布上部を振動させたときに、ろ布全体が反り返るように湾曲するようにしたフィルタープレスが特許文献2に記載されている。ろ布全体が湾曲と伸びの往復運動を繰り返し、これによってろ布の左右両側縁部及びその近辺全面に振動が有効に伝えられ、ケーキを迅速に剥離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平06−41806号公報
【特許文献2】特開昭62−11513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記特許文献1では、ろ布のろ過面ではケーキが固着しており、ろ布が波動しづらくなっている。そのため、ケーキが付着した状態でろ布上部を加振しても、ろ布上部の非ろ過面において撓みが発生するだけで、ケーキ付着部には上手く振動が伝わらない。
【0006】
上記問題を解決するために、上記特許文献2ではろ布の左右両端に、ろ布上端から下端までの長さの弾性部材を配設している。ケーキ剥離の際このろ布を振動させると、ろ布全体が湾曲するが、曲率が小さいためケーキが剥離しにくく、曲率を大きくしようとすると振幅の大きな振動を加えなくてはいけない。ろ布の動きにより剥離を促しているため、ろ布が一定の動きしかしないことにより、一度剥離し損ねたケーキに関しては、何度も繰り返して振動させなければケーキが剥離しない。また、ろ布左右両端に長大な弾性部材を設ける必要があるため、組立分解時の作業に手間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
フロントフレームとリアフレームに支架された一対のガイドレールに多数のろ板を開閉自在に並列し
て構成されたフィルタープレスのろ板間に
吊設したフィルタープレス
用ろ布において、
ろ板のろ過床7に当接して固液分離を行なうろ過面と、ろ過面の上方に鉛直方向の縞状に弾性部材を固着した非ろ過面とを備え、ろ布の振動によりろ過面を撓ませケーキを剥離することができる。
また、弾性部材を非ろ過面の左右両端及び中央に配設してもよい。
【0008】
フロントフレームとリアフレームに支架された一対のガイドレールに多数のろ板を開閉自在に並列して構成されたフィルタープレスのろ板間に吊設したフィルタープレス用ろ布において、ろ板のろ過床に当接して固液分離を行なうろ過面と、ろ過面の上方の全面に弾性部材を固着した非ろ過面とを有し、ろ布の振動によりろ過面を撓ませケーキを剥離することもできる。
前記弾性部材を、ケーキの付着したろ過面より弾性率の高い部材としてもよい。
【0009】
前記弾性部材は、非ろ過面に樹脂を塗布、あるいは非ろ過面に弾性体を貼着することで、ろ布に弾性を付加する。
【発明の効果】
【0010】
ろ布上部の非ろ過面に弾性部材を取り付けることで、ろ布加振時にろ布上部での撓みを抑制し、ケーキ付着部へ振動をより効果的に、より直接的に伝えることができる。ろ過面では波打つような振動が起き、小さな振動も可能で複雑に動くため、ケーキの剥離性が高くなる。また、ろ布の上部の非ろ過面にだけ弾性部材を取り付けるので、製作コストが抑えられ、組立分解時の作業も簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】同じく、ろ板とろ板に吊設されたろ布の側面図
【
図7】本発明に係るろ布構造における加振時のろ布側面図
【
図8】本発明に係るろ布構造における加振時のろ布詳細図
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明に係るフィルタープレスの側面図であって、フィルタープレス1はフロントフレーム2とリアフレーム3に橋架したガイドレール4上に、複数のろ板5・・・を開閉自在に支架している。並列したろ板5・・・の後端部にムーバブルヘッド6が配設してあり、ムーバブルヘッド6によってろ板5はガイドレール4に沿って摺動自在に開閉する。
ろ板5両面にはろ過床7面を覆うようにろ布8を吊設してある。ろ板5を閉板した時に、ろ布8はろ板5で挟持され、ろ板5のろ過床7を覆う一対のろ布8,8間でろ過室9を形成する。
【0013】
ムーバブルヘッド6にはリアフレーム3に支架した締付シリンダー10が連結してある。締付シリンダー10が伸縮してムーバブルヘッド6を移動させ、ろ板5の
開板及び閉板時の締付を行う。ムーバブルヘッド6と並列したろ板5は、所定の間隔に開板するよう移行チェーン(図示せず)で連結してある。
閉板したろ板5が形成するろ過室9に原液を圧入すると、ろ液はろ布8を通過して外部に排出される。ろ布8で捕捉された固形物はろ過室9内でケーキ層を形成しながら脱水される。脱水終了後、締付シリンダー10を収縮してろ板5を開板してケーキ11を排出する。
【0014】
図2はろ板とろ板に吊設されたろ布の側面図であって、(a)はろ板5が閉板した状態で、ろ過室9内では原液供給路12から原液が圧入され、ろ液が分離されてケーキ11を形成する。ろ板5の左右両側肩部には、ろ布8を吊設するための一対のスタンド13を配設しており、スタンド13上端にはろ布8を吊り下げるスプリング14が垂下してある。
【0015】
(b)はろ板5が開板した状態で、ろ板5に吊設してあるろ布8にケーキ11が付着している。ろ布11上端部にはろ布芯金15を取り付けており、ろ布芯金15をスタンド13に垂下したスプリング14下端と連結することで、ろ布8を吊設している。また、ろ布8下端部はろ板5下方でろ板5に係止している。
ろ板5,5間に吊設した対向する一対のろ布8,8は、ろ布芯金15を互いにチェーン等の連結具16で連結している。連結具16は、ろ板5開板時のろ板5,5間より短いもので、ろ板5が開板すると連結部でろ布芯金15が互いに引っ張り合うため、ろ布8のケーキ11付着面が内側に傾斜する。
【0016】
ろ布芯金15はエアシリンダー等の加振装置17で加振させ、加振装置17を作動することでろ布芯金15に吊られたろ布8が振動する。また、スプリング14によって振動は増幅され、より大きくろ布8が振動する。ろ布8に付着したケーキ11は、加振装置17によりろ布8が振動することで剥離され、下方に排出する。
【0017】
図3はフィルタープレスのろ板の正面図であって、ろ板5の両側肩部にはろ布8を吊設するためのスタンド13を立設している。スタンド13上端からスプリング14によってろ布8を吊設する。ろ板5のろ過床7には、ろ板5間に形成されるろ過室9に原液を供給するための原液供給路12を設けている。
【0018】
図4はフィルタープレスのろ布正面図であって、ろ布8上縁部には袋部19が形成され、袋部19にはろ布芯金15が挿通してある。ろ布芯金15は、ろ板5両肩に配設されたスタンド13上端にスプリング14で連結されることで、ろ布8を吊設している。ろ板5閉板時、ろ板5のろ過床7に当接する面をろ過面20とし、ろ過面20周囲のシール面21をろ板5で挟持される。ろ過面20には原液を供給する供給口18が設けられている。
【0019】
ろ布芯金15に吊設するろ布8上部の非ろ過面22には弾性部材23を配設しており、ろ過面20部より弾性
率が高くなっている。弾性部材23は振動時にろ布8の撓みを抑制できるだけの弾性を持ち、非ろ過面22の左右両端と中央部で、非ろ過面22の上端から下端にかけて垂直に配設している。また、左右両端に配設された弾性部材23は、ろ過面20上端付近まで延長して配設してもよい。
ここでは、弾性部材23は鉛直方向の縞状に固着することでろ布8の撓みを抑制している。
【0020】
ろ布8に添着した弾性部材23によって非ろ過面22では撓みが発生しなくなり、ろ布芯金15を振動させた際に、振動はろ過面20まで効率よく伝わる。ろ過面20では、非ろ過面22での振動の減衰がないため、通常より大きく振動し、ケーキ11剥離に有効となる。また弾性部材23は、ろ布8上部に弾性を持たせるものであればどのような材質のものでもよく、樹脂、薄い金属板、グラスファイバー等の弾性体が利用できる。樹脂等の目止め材を利用すれば、シール面21に関わらず、ろ過面20上端まで延長して配設することができる。
【0021】
配設位置としては、ろ布8上部の非ろ過面22の一部、又は全面に弾性体を貼着する他、同ヵ所に目止め材を塗布する等、非ろ過面22の撓みを抑制するだけの弾性を持たせられればどのように弾性部材23を配設しても構わない。
【0022】
図5は従来のろ布構造における加振時のろ布側面図であって、従来のろ布8で振動による剥離を行う場合、ろ布芯金15を加振した時、ケーキ11が付着していない一方のろ布8のようにろ布8全体が波打つように振動すれば理想的な剥離が行われる。ところがケーキ11がろ過面20に付着している他方のろ布8が振動する場合には、ろ布8上部の非ろ過面22においてのみろ布8が振動してしまう。これは、付着したケーキ11が持つ弾性によってろ布8のろ過面20は振動し難く、ろ布8上部の非ろ過面22でろ布8が撓むことにより振動が吸収されているためである。よって、ろ布8のろ過面20では効率よく振動しないため、ケーキ11の剥離がうまく行われない。
【0023】
図6は従来のろ布構造における加振時のろ布詳細図である。(a)のように、加振装置17によってろ布芯金15が降下した時、ろ布8の非ろ過面22は弾性
率が低く、ろ過面20はケーキ11により弾性
率が高いため、
弾性率が低い部分に変化が集中し、非ろ過面22の方が撓んでしまう。よって下方まで振動が伝わらず、ろ過面20では振動が起こらない。
また(b)のように、スプリング14の復元によりろ布芯金15が上昇した時も、撓んでいた非ろ過面22が伸びることで、ろ過面20は上昇せず振動が起こらない。
【0024】
図7は本発明に係るろ布構造における加振時のろ布側面図であって、本発明に係るろ布8は、従来のろ布8では撓むだけであったろ布8上部の非ろ過面22に弾性部材23を配設し、ろ布8の弾性
率を高めている。ろ布芯金15を振動させた際、ろ布8はケーキ11の付着していない一方のろ布8のように、ろ布8上部の非ろ過面22では振動は発生せず、ろ過面20が振動により波打つこととなる。ケーキ11が付着した他方のろ布8においても、ろ布
8上部の非ろ過面22では弾性部材23により撓みは起こらない。よってろ布は、弾性部材23が配設されていないろ過面20の部分から振動による波打ちが始まる。
【0025】
図8は本発明に係るろ布構造における加振時のろ布詳細図である。ろ布8の非ろ過面22は弾性部材23により剛性が高められているため、ケーキ11の付着したろ過面20より剛性が高くなっている。そのため(a)のように加振装置17によってろ布芯金15が下降した時、非ろ過面22では撓みが起こらず、ろ過面20で波打つような撓みが起こる。
そして(b)のようにスプリング14の復元によりろ布芯金15が上昇した時は、ろ過面20の撓みが伸びることになり、ケーキ11付着面の変化により剥離が促される。加振装置17による加振を繰り返し行えば、ろ布8のろ過面20では振動が直接伝わるため、効率よくろ過面20を振動させることができる。ろ過面20のみで波打つような複雑な振動が起こり、従来とは異なる振動によるケーキ11の剥離がなされる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明に係るフィルタープレスのろ布は、ろ布の非ろ過面に弾性部材を配設することで、非ろ過面の弾性を高めている。そのため、ろ布を振動させてケーキを剥離する際に非ろ過面では振動が発生せず、ろ過面へ直接振動が伝わる。弾性の高い非ろ過面では振動の減衰も防ぐことができ、ろ過面に効率よく振動を伝え、ろ布に付着したケーキを剥離することができる。従って、無機質を多く含む生産プロセスや産業排水に用いるフィルタープレスとして好適であり、上水・工水スラッジや化学プラントなどにも用いられ、剥離性の悪いケーキでも使用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 フィルタープレス
2 フロントフレーム
3 リアフレーム
4 ガイドレール
5 ろ板
7 ろ過床
8 ろ布
11 ケーキ
20 ろ過面
22 非ろ過面
23 弾性部材