【実施例】
【0015】
図1から
図2を用いて実施例1を説明する。
図1においてレーザー光源1から放射されたポンプ光23は、第1の非線形光学材料24へ入射する。第1の非線形光学材料24からは、ポンプ光23からパラメトリックダウンコンバージョンにより発生する、偏光状態がエンタングルした(もつれた)第1の光子2と第2の光子3が放射される。ポンプ光と非線形光学材料による偏光のエンタングル状態の生成方法については、例えば非特許文献1「工学系のための量子光学」、森北出版、第9章に詳しく説明されている。
図1では第1の非線形光学材料24だけを図示しているが、実際には前記の非特許文献1に紹介されている1つまたは複数の非線形光学材料を用いる方法で偏光のエンタングル状態が生成できる。また
図1中、第1の光子2と第2の光子3の伝播方向を実線矢印で図示した。光子の垂直方向の偏光状態を|V>、水平偏光状態を|H>とすると、前記エンタングル状態は以下の(式1)で表される。
【0016】
【数1】
ここで添え字Aは第1測定器5へ向かう第1の光子2を表し、添え字Bは第2の光子3を表す。したがって前記の(式1)は、第1の光子2と第2の光子3がともに水平偏光である状態と、第1の光子2と第2の光子3がともに垂直偏光である状態がエンタングルして(もつれて)いることを示している。特にこの(式1)であらわされる状態は、垂直方向と水平方向に限らず、任意の角度の偏光状態とそれに直交する偏光状態の組み合わせを用いても同様に表すことが出来る(例えば非特許文献1「工学系のための量子光学」、森北出版、第9章参照)。
【0017】
図1において、垂直偏光を透過する偏光板4により第1の光子2の垂直偏光成分のみが第1測定器5へ向かう。図中、偏光板4を通過した第1の光子2を点線矢印で図示した。また偏光板4を通過した第1の光子2が垂直偏光成分であることを縦方向の両側矢印で図示した。ここで第1測定器5にて第1の光子2が検出されると、第1の光子2が垂直偏光であることが確定する。また第1測定器5にて第1の光子2が検出されなかった場合は第1の光子2が水平偏光であることが確定する(例えば非特許文献1「工学系のための量子光学」、森北出版、第9章参照)。
【0018】
図1において、第1の光子2に対する前記測定により波束の収縮(干渉性の消失)が起こり、第2の光子3も第1の光子2と同じ偏光状態に確定する。これは前記エンタングル状態の特性である(例えば非特許文献1「工学系のための量子光学」、森北出版、第9章参照)。
【0019】
前記第1の光子2に対する測定の後、第2の光子3は、ハーフビームスプリッター25へ入射する。このとき同時にローカルオシレーター光26もハーフビームスプリッター25へ入射して、第2の光子3とローカルオシレーター光26が混合され、第1の出力光3Aと第2の出力光3Bがハーフビームスプリッター25から出力される。ローカルオシレーター光26は垂直偏光しており、第2の光子3よりも十分に強い光強度を持つものとする。ここでハーフビームスプリッター25を、第1の出力光3Aでは第2の光子3とローカルオシレーター光26が逆位相で混合され、第2の出力光3Bでは同位相で混合されるように設定することができる(例えば非特許文献6「量子光学と量子情報科学」、数理光学社、第1章1.4節参照)。
【0020】
したがって前記第1の出力光3Aと第2の出力光3Bの光強度は、下記の(式2)のようになる。(式2)中のESの符号は、第1の出力光3Aではマイナスで、第2の出力光3Bではプラスとなる。ここでESはハーフビームスプリッター25へ入射する第2の光子3の光電場を表し、ELはローカルオシレーター光26の光電場を表す。またES*はESの複素共役、EL*はELの複素共役を表す。EL*・ESまたはEL・ES*は光電場ベクトル同士の内積を表す。1/2の因子はハーフビームスプリッター25での光の2分割に起因する。また、ローカルオシレーター光26は第2の光子3よりも十分強い光であることを想定しているため、下記の(式2)中の2行目以降でESの2乗の項を省略した。(式2)より第2の光子3の光電場ES(またはES*)に依存する項δは、ローカルオシレーター光26の光電場EL*(またはEL)との内積である。そのため、第2の光子3の光電場ESのうちローカルオシレーター光26と同じ偏光方向(垂直偏光)の成分のみが取り出されることになる。
【0021】
【数2】
【0022】
次に第1の出力光3Aと第2の出力光3Bは、それぞれ第2測定器5Aと第3測定器5Bで光強度が測定される。前記(式2)に示したように、第1の出力光3Aの光強度は(β−δ)/2、第2の出力光3Bの光強度は(β+δ)/2なので、第3測定器5Bの測定値から第2測定器5Aの測定値を引いた値である信号値はαδとなる。このように測定したい光(第2の光子3)をローカルオシレーター光とハーフビームスプリッターにおいて混合した後、ハーフビームスプリッターからの2つの出力光の光強度の差分を計測する測定を「バランス型ホモダイン測定」という。(例えば非特許文献6「量子光学と量子情報科学」、数理光学社、第1章1.4節参照)ここでαは測定器の感度を表す比例定数とする。したがって
図1の場合では、第2の光子3が垂直偏光であれば信号値はαδ、第2の光子3が水平偏光であれば信号値は0となる。これは前記のように、δは垂直偏光であるローカルオシレーター光26の光電場と第2の光子3の光電場の内積からなるためである。
【0023】
次に
図2に、第1の光子2が45度偏光を透過する偏光板4を通った後で、第1測定器5において第1の光子2が測定される場合を示す。
図2は偏光板4の角度が45度であること以外は
図1と同じ構成となっている。この場合、第1測定器5において第1の光子2が検出されると、第1の光子2と第2の光子3の偏光がともに45度偏光に確定する。第1の光子2が検出されない場合は、第1の光子2と第2の光子3の偏光がともに−45度偏光に確定する。これは、(式1)で表される前記エンタングル状態が、任意の角度の偏光状態とそれに直交する偏光状態の組み合わせを用いても同様に表すことが出来ることに起因している(例えば非特許文献1「工学系のための量子光学」、森北出版、第9章参照)。
【0024】
次に第2の光子3が、ハーフビームスプリッター25へ入射する。
図1の場合と同様にローカルオシレーター光26もハーフビームスプリッター25へ入射して、第2の光子3とローカルオシレーター光26が混合され、第1の出力光3Aと第2の出力光3Bがハーフビームスプリッター25から出力される。ここで、ローカルオシレーター光26は
図1の場合と同じ光強度で垂直偏光しているものとする。この
図2の場合には、(式2)の中で第2の光子3の光電場ESに依存する項δは、
図2では第2の光子3が45度偏光のため
図1の垂直偏光の場合の1/K倍になる(ここでKは2の平方根)。これは前記のようにδが第2の光子3の光電場とローカルオシレーター光26の光電場の内積からなっていて、垂直偏光と45度偏光の内積が1/Kとなるためである。
【0025】
次に第1の出力光3Aと第2の出力光3Bは、それぞれ第2測定器5Aと第3測定器5Bで光強度が測定される。この場合前記で説明したことから、第3測定器5Bの測定値から第2測定器5Aの測定値を引いた信号値はαδ/Kとなる。ここでαは測定器の感度を表す比例定数、Kは2の平方根とする。したがって、
図1の場合と
図2の場合の信号値の違いを計測することにより、前記2つの場合を区別できる。
【0026】
ここで前記の構成を通信に用いる方法を説明する。送信者と受信者は偏光方向がエンタングル状態にある2光子を準備する。そして、前記エンタングル状態の2光子のうち、第1の光子2を送信者に送付し、残りの第2の光子3を受信者へ送付する。
【0027】
予め送信者と受信者間で決めておいた時刻1に、送信者は「1」を送信する場合は、垂直偏光を透過する偏光板4を通過させた後で第1の光子2の測定(光子の検出)を行う。また送信者は「0」を送信する場合は、45度偏光を透過する偏光板4を通過させた後で第1の光子2の測定を行う。
【0028】
次に受信者は時刻1よりも後の時刻2に、第2の光子3をハーフビームスプリッター25においてローカルオシレーター光26と混合し、第1の出力光3Aと第2の出力光3Bを生成する。
【0029】
受信者は、前記第1の出力光3Aと第2の出力光3Bの光強度を測定し、その差分である信号値を求める。そして受信者は、「信号値の絶対値が0またはαδの場合」には信号「1」と判別する。また受信者は、「信号値の絶対値がαδ/Kの場合」には信号「0」と判別する。前記で説明したことから、この方法で第2の光子3の偏光状態を判別することが可能であることが分かる。
【0030】
前記の方法では、送信者が第1の光子2の偏光状態を垂直方向で測定するか45度方向で測定するかの2選択を通信に用いる。つまり、測定結果自体を送信に用いるわけではないため、エンタングル状態の測定結果自体はランダムであっても構わない。実際、送信者が第1の光子2の偏光状態を垂直方向で測定した場合には、測定結果は垂直偏光または水平偏光となる。また、送信者が第1の光子の偏光状態を45度方向で測定した場合には、測定結果は±45度偏光となる。このように測定結果自体はランダムである。しかし前記実施例1の方法によって受信者は、送信者が行った垂直方向または45度方向の2選択を判別することができる。
【0031】
前記の実施例1では(式1)で表される偏光状態がエンタングルした(もつれた)2光子を用いたが、下記の(式3)または(式4)で表されるエンタングルした(もつれた)2光子を用いても良い。
【0032】
【数3】
(式3)のエンタングル状態は第1の光子2と第2の光子3の片方が垂直偏光、片方が水平偏光である2状態がエンタングルしたものになっている。(式4)は(式1)と第2項の符号のみが異なる(例えば非特許文献1「工学系のための量子光学」、森北出版、第9章参照)。(式3)または(式4)で表されるエンタングル状態でも、第1の光子2と第2の光子3が垂直偏光と水平偏光のどちらかであるか、または±45度偏光のどちらかであるようにすることができる。これには前記実施例1と同様に、第1の光子2の偏光状態を垂直方向で測定するか45度方向で測定するかの2選択を行えば良い。したがって、これらの場合にも前記実施例1と同じ通信方法を用いることが出来る。
【0033】
前記実施例1の(第2の光子3Aの)測定を連続して複数回測定し、出力値を積分することも可能である。これにより微少な位相変調量の測定精度を向上させることができる。