特許第5796825号(P5796825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796825
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】梅類果実の赤化方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/212 20060101AFI20151001BHJP
   A23B 7/152 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   A23L1/212 D
   A23B7/152
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-56423(P2011-56423)
(22)【出願日】2011年3月15日
(65)【公開番号】特開2012-191861(P2012-191861A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】591023594
【氏名又は名称】和歌山県
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】大江 孝明
(72)【発明者】
【氏名】竹中 正好
(72)【発明者】
【氏名】根来 圭一
(72)【発明者】
【氏名】古屋 挙幸
(72)【発明者】
【氏名】三谷 隆彦
【審査官】 木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】 日本食品科学工学会誌,2011年 2月15日,Vol.58, No.2,p.43-50
【文献】 和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場平成21年度果樹試験研究成績,2010年 4月 5日,p.469-470
【文献】 香川県農業試験場研究報告,2010年 3月,No.61,p.35-41
【文献】 日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集,2011年 3月 5日,p.237,3J19p17
【文献】 園芸学研究,2013年12月17日,Vol.12, No.4,p.411-418
【文献】 和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場平成23年度果樹試験研究成績,2012年 8月28日,p.367-368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/212
A23B 7/144
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実硬度が0.6kg以上、2.0kg以下の露茜の果実を、エチレン濃度が2mL/L以上、温度が12℃以上、28℃以下、湿度が60%以上、100%以下の環境で、4日以上追熟する梅類果実の赤化方法。
【請求項2】
梅類果実の果実硬度が、1.1kg以上、1.3kg以下である請求項1に記載の梅類果実の赤化方法。
【請求項3】
追熟する環境のエチレン濃度が、4ml/L以上、8ml/L以下である請求項1に記載の梅類果実の赤化方法。
【請求項4】
追熟する環境の温度が、18℃以上、22℃以下である請求項1に記載の梅類果実の赤化方法。
【請求項5】
追熟する環境の湿度が、80%以上、100%以下である請求項1に記載の梅類果実の赤化方
法。
【請求項6】
4日以上、15日以下の期間、追熟する請求項1に記載の梅類果実の赤化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、果皮及び果肉に赤色色素を含む梅類の果実を追熟して赤化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露茜は、梅とスモモの種間雑種であり、その果皮は鮮紅色に着色し、その果肉も成熟に伴い鮮紅色に着色する。この性質から、梅酒や梅シロップにするときれいな紅色となるため、これらの用途での利用が期待されている(非特許文献1を参照)。
【0003】
ただ、露茜は、開花期と収穫期が南高などの他の品種に比べて遅く、樹勢が弱くて結果枝が下垂するため、完熟して果実が赤くなるには時間が掛かるという問題点があった。また、露地で栽培する際には、完熟する前に落下してしまうという問題点があった。反対に、落果を防ぐために完熟前に収穫すると、果実が完全に赤化せずに、紅色が薄くなってしまうとの問題点があった。
【0004】
さて、果実等を追熟する方法としては、果実をエチレンガス雰囲気下に一定条件下で追熟する方法が、一般的である(例えば、特許文献1を参照)。ただし、梅をエチレンガスで追熟しても果実中に赤色色素が増えるとの報告はなされていなかった。また、スモモは20℃で追熟できることは分かっているものの、エチレンガスの存在と赤色色素の増加との関係は不明であった。すなわち、露茜が赤化するまで追熟する方法については、研究されておらず、その追熟条件の詳細は不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−238450号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「果肉や果皮が赤くきれいな梅酒ができるウメ新品種『露茜(つゆあかね)』を育成」、[online]、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所、[平成23年2月25日検索]、インターネット<URL:http://www.fruit.affrc.go.jp/announcements/kisya/H19/10_03/tuyuakane.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、露地で栽培した露茜等の果実を落果することなく、かつ果実が赤化するまで追熟させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、露地栽培した露茜等の果実が完熟する前に収穫し、エチレン濃度、温度、湿度がある特定の範囲にある環境下で一定期間追熟させることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の梅類果実の赤化方法では、完熟する前に露茜等の果実を収穫して追熟するため、果実は落果しない。また、追熟することにより、完全に赤くなるまで熟することができる。そのため、梅酒や梅シロップに適した果実をより確実に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、エチレン発生剤の存在下で追熟した結果を示すグラフである。
図2図2は、他品種の完熟果の存在下で追熟した結果を示すグラフである。
図3図3は、閉鎖空間で追熟した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明の梅類果実の赤化方法は、(1)果実硬度が特定の範囲になるまで熟した露茜の果実を、(2)エチレン濃度、(3)温度、(4)湿度が特定の範囲になるように調節された環境で、(5)一定期間追熟して赤化する方法である。そこで、その詳細について以下に説明する。
【0012】
(1)果実硬度
この発明の梅類果実の赤化方法の対象となる梅類の品種、果皮及び果肉に赤色色素を多く含んでいるである。
【0014】
また、この発明の梅類果実の赤化方法は、果実硬度がレオメータ値で0.6kg(適熟果)以上、2.0kg(未熟果)以下程度の果実であれば、適用することができる。中でも、果実硬度が1.2kg程度、より具体的には1.1kg以上、1.3kg以下の果実に適している。
【0015】
果実硬度が2.0kgより大きな果実を使用した場合、追熟に時間が掛かる。反対に、果実硬度が0.6kg未満の果実を使用した場合、過剰に熟れてしまい商品にならない。なお、果実硬度とは、直径5mmの円柱形プランジャーを60mm/分の速度で1mmの深さまで果実に進入させるのに必要な力を意味する。
【0016】
(2)エチレン濃度
この発明の梅類果実の赤化方法で、梅類果実を追熟する際のエチレン濃度は、2ml/L以上である。中でも、6ml/L程度、具体的には4ml/L以上、8ml/L以下程度が適当である。2ml/L未満であれば果実の追熟に時間が掛かり不経済であり、8ml/Lより多くなればエチレンが多く必要なため不経済である。
【0017】
追熟場所のエチレン濃度を高める方法として、(a)エチレン発生剤やエチレンガスを使用する方法、(b)エチレンを発生する他の作物の果実と同一の場所に置く方法、(c)露茜の果実を気密性が高くて狭い空間で追熟する方法、などが挙げられる。
【0018】
(a)エチレン発生剤を使用して追熟する場合、公知のエチレン発生剤であれば特に限定することなく使用できる。具体的なエチレン発生剤として、大江化学工業(株)製ジーダスなどが挙げられる。また、(b)エチレンガスを使用して追熟する場合、例えば、市販のガスボンベに充填されているものを使用すればよい。
【0019】
(b)他の作物の果実と同一の追熟場所に置いて追熟する場合、他の作物としては、梅類果実よりも早く熟して、エチレンを発生するものであれば特に限定されず、例えば、バナナ、リンゴ、他の品種の梅の果実などが挙げられる。梅類果実が露茜の果実である場合には、それよりも早く収穫できる「南高梅」の完熟果が好ましい。例えば、「南高梅」の完熟果を使用する場合、保管場所の容積に対する完熟果の重量は、8kg/m3が最適である。
【0020】
(c)気密が高くて狭い空間において追熟する方法として、具体的には、気密性の高い金属容器、プラスチック容器などに、露茜果実を保管する方法が挙げられる。例えば、気密性の高いアルミ製の容器に露茜を保管する場合、露茜重量と容器の容積との割合は160kg/m3以上、550kg/m3以下が適当である。
【0021】
(3)温度
追熟する際の温度は、12℃以上、28℃以下の範囲であれば有効である。中でも、20℃程度、より具体的には18℃以上、22℃以下が適当である。温度が、12℃未満では果実を追熟させることができず、28℃を超えると果実が過剰に熟れてしまい商品にならない。
【0022】
(4)湿度
追熟する際の湿度は、80%以上、100%以下が最適であるが、果実硬度が1.5kg以上の未熟果実であれば60%以上、80%以下であっても充分な追熟効果が得られる。湿度が、60%未満では追熟しない。なお、湿度とは相対湿度のことであり、飽和水蒸気圧に対する水蒸気圧の分圧のことである。
【0023】
(5)追熟期間
追熟期間は、4日以上であれば充分追熟できるが、果実硬度やエチレン濃度などを考慮すると6日以上、15日以下が適当である。なお、追熟期間が4日未満では果実を充分に追熟させることができず、15日を超えると果実が過剰に熟して商品にならなくなり、追熟の生産性が低下する。
【0024】
以下、この発明を実施例に基づいてより詳しく説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(1)エチレン発生剤を使用する追熟
エチレン発生剤を使用するエチレン有区と、エチレン除去剤を使用するエチレン無区との追熟度の違いを、果実の着色指数に基づいて調べた。具体的には、エチレン有区は、露茜3kg(果実硬度1.20kg)をエチレン発生剤(大江化学工業(株)製ジーダス)とともに密閉した段ボール製の箱に同封し(エチレン濃度6ml/L)、温度20℃、平均湿度90%又は50%で5日間追熟した。エチレン無区は、エチレン発生剤の代わりにエチレン除去剤(大江化学工業(株)製クリスパーHF)を使用したことを除いて、エチレン有区と同様にして追熟した。また、着色指数は、目視により0〜5(数値が高いほど着色度合いが高い。)で評価した。その結果を図1に示す。
【0026】
図1から、湿度が90%でエチレンが存在する場合には、着色指数が4程度と高くなったことが分かった。これに対して、湿度が90%であってもエチレンが存在しなければ着色指数は低いこと、湿度が50%の場合はエチレンの存在の有無にかかわらず着色しないことが分かった。すなわち、露茜果実の追熟には、エチレン濃度と湿度との両方が関係していることが分かった。
【0027】
(2)他の果実(南高梅)を使用する追熟
エチレンを発生する他の果実(南高梅)の有無と、追熟温度の違いが、追熟に与える影響について調べた。
【0028】
具体的には、果実硬度が1.21kgの露茜(やや未熟)を、(a)エチレン無し、30℃で追熟した群、(b)約25 m3の部屋に段ボール箱に入れた南高梅の完熟果実200kgを置いてエチレン(エチレン濃度4mL/L)を発生させ、20℃で追熟した群、(c)10℃で追熟した群、(d)10℃で5日間追熟したのち、(b)と同様の環境で7日間追熟した群に分け、平均湿度80%の環境下で12日間追熟した。
【0029】
追熟中は2日毎に果肉中の赤色色素の量を測定した。なお、赤色色素の量は、果肉10gから赤色色素を5%蟻酸水溶液100mlで抽出し、その抽出液の530nmにおける吸光度から算出した。その結果を図2に示す。
【0030】
図2から、(a)追熟温度が30℃であってもエチレンが存在しなければ、露茜を追熟できないことが分かった。また、(c)追熟温度が10℃では、エチレンの有無にかかわらず、露茜を追熟できないことが分かった。さらに、(b)と(d)の比較から、エチレンの存在と温度が適当であれば、7日間だけ追熟した群と、20℃、12日間エチレン存在下で追熟した群との間に、赤色色素の量、すなわち追熟度にそれほどの違いがないことが分かった。
【0031】
(3)気密が高くて狭い空間を利用する追熟
気密が高くて狭い空間に露茜を詰め、露茜自身が発生するエチレンによる追熟について調べた。具体的には、果実硬度0.73kg(適熟)の露茜3kgを温度20℃、湿度90%の広い部屋(25 m3、エチレン濃度測定限界以下)と狭い部屋(0.123m3、エチレン濃度4mL/L)に置いて追熟したのち、(2)と同様にして赤色色素の量を調べた。その結果を図3に示す。図3から、気密性のある狭い空間で露茜を追熟すれば、エチレン発生剤や他の果実を使用しなくても、充分追熟することが分かった。
図1
図2
図3