特許第5796829号(P5796829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796829
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ピストン用潤滑装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/06 20060101AFI20151001BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   F01M1/06 C
   F02F3/00 301A
   F02F3/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-158041(P2011-158041)
(22)【出願日】2011年7月19日
(65)【公開番号】特開2012-26442(P2012-26442A)
(43)【公開日】2012年2月9日
【審査請求日】2014年7月1日
(31)【優先権主張番号】10170174.6
(32)【優先日】2010年7月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501082602
【氏名又は名称】ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(72)【発明者】
【氏名】マティアス スタルク
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−047112(JP,U)
【文献】 特開平08−261061(JP,A)
【文献】 実開昭64−051742(JP,U)
【文献】 特開平07−208134(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0112349(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/06
F02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結部材により互いに接続された上側ピストン部及び下側ピストン部と共に、ピストンが内部を前後に移動可能なシリンダの走行面を潤滑する潤滑装置を含む大型エンジン用のピストンであって、
前記潤滑装置は、前記締結部材の内部に配設され、
前記締結部材は、潤滑剤貯蔵スペースを含み、
前記上側ピストン部は、前記潤滑剤貯蔵スペースのサイズが変化可能なように、前記下側ピストン部に対して移動可能である、ピストン。
【請求項2】
前記締結部材は、締結スクリューである、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記潤滑剤貯蔵スペースは、第1遮蔽部材が配置される第1端部と、第2遮蔽部材が配置される第2端部とを有し、
潤滑剤源への接続は、前記第1遮蔽部材が開位置に保持されるときに前記第1遮蔽部材により開放され、潤滑場所までの通路は、前記第2遮蔽部材が開位置に保持されるときに前記第2遮蔽部材により開放される、請求項1又は2に記載のピストン。
【請求項4】
前記潤滑剤貯蔵スペースのサイズは、可動の潤滑ピストン部材により変化可能である、請求項3に記載のピストン。
【請求項5】
前記潤滑剤貯蔵スペースは、第1部分空間と第2部分空間とを含み、前記第1部分空間は、前記第1遮蔽部材と前記第2遮蔽部材の間の一定の容積を有し、前記第2部分空間は、前記第2遮蔽部材の下流側に配設され、前記第2部分空間の容積は、潤滑ピストン部材により変化可能である、請求項3に記載のピストン。
【請求項6】
前記締結部材は、前記上側ピストン部に接続されたスクリュー本体を含む、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のピストン。
【請求項7】
前記スクリュー本体は、スクリュー首部に接続され、前記スクリュー首部は、スクリュー頭部部材に隣接し、前記スクリュー頭部部材により前記下側ピストン部は前記上側ピストン部に接続されることができる、請求項6に記載のピストン。
【請求項8】
前記スクリュー本体は、ジャケット部を有し、前記ジャケット部に沿って把持部材は前後に移動可能であり、前記把持部材は前記スクリュー首部の一部として形成される、請求項7に記載のピストン。
【請求項9】
前記把持部材は、前記スクリュー本体の突起として形成された第1当接部と第2当接部の間で前後に移動可能である、請求項8に記載のピストン。
【請求項10】
前記把持部材は、潤滑剤用の出口開口を含む、請求項8に記載のピストン。
【請求項11】
ピストンスカートは、前記下側ピストン部と前記上側ピストン部の間に配置され、前記ピストンスカートは、前記上側ピストン部と前記下側ピストン部の間の所定位置に前記締結部材により保持されることができる、請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載のピストン。
【請求項12】
前記潤滑剤貯蔵スペースは、少なくとも1つの潤滑場所まで通路を介して接続され、前記潤滑場所への潤滑剤の供給は、遮蔽部材により調整されることができる、請求項1〜11のうちのいずれか1項に記載のピストン。
【請求項13】
前記潤滑装置までの潤滑剤の供給の前記第1遮蔽部材は、バルブ要素を含む、請求項3〜5のうちのいずれか1項に記載のピストン。
【請求項14】
前記ピストンは、複数の締結部材を有し、少なくとも1つの締結部材は、請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載による潤滑装置を含む、請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載のピストン。
【請求項15】
請求項1〜14のうちのいずれか1項に記載のピストンを含む大型エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン用の潤滑装置、大型エンジン用のピストン、及び、対応する独立項のプリアンブルによる対応する潤滑装置を有する大型エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
大型エンジン、特に大型のディールエンジンの形態は、2ストローク若しくは4ストロークエンジンとして設計できるが、船舶用の駆動ユニットとして、若しくは、例えば電気エネルギの生成用の大型の発電機を駆動するために、固定動作においても、頻繁に使用される。この点、エンジンは、概して、相当な長い期間、永久的な動作で運転し、これは、動作上の安全性及び利用可能性に対する挑戦を生む。特に、整備間の長い間隔、低い磨耗及び燃料の経済的な扱いは、それ故に、オペレータにとって中心的な基準である。
【0003】
動作状態において、ピストンは、シリンダスリーブ若しくはシリンダライナの形態で通常作成され、走行面として機能するシリンダの壁の表面に沿って摺動する。シリンダ潤滑若しくはピストン潤滑は、この点で提供される。一方、ピストンは、出来るだけ容易に即ち、シリンダ内に障害が無く、摺動しなければならず、他方、ピストンは、機械的仕事への燃焼プロセスで解放されるエネルギの効率的な変換を保証するため、できるだけ密着してシリンダ内の燃焼空間をシールすることが要求される。
【0004】
このため、潤滑剤、通常は潤滑油が、大型のディールエンジンの動作中にシリンダ内に導入され、ピストンの良好な走行特性を達成し、ピストンリングの表面とピストンの走行面の磨耗を出来るだけ低く維持する。潤滑剤は、更に、腐食の防止と共に攻撃的な燃焼性生物の中和に対して機能する。非常に高いグレード及び高価な物質は、しばしば、これらの多くの要求を満たすために潤滑剤として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP A 0 903 473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それ故に、出来るだけ小さい潤滑剤の割合で運転するエンジンの特に効率的で経済的な動作に関する必要性がある。
【0007】
実証された方法は、いわゆる、ピストンの内部を通って搬送され、次いで、ピストンの表面に設けられる1つ以上に潤滑場所を介してシリンダ走行面上に若しくは位置に塗布される、いわゆる内部潤滑である。かかるプロセスは、例えば特許文献1において開示される。大型エンジンのピストンの潤滑は、潤滑剤が正確な量で正確な時間に所望の潤滑場所に到達しなければならないので、複雑な課題であることが証明されている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ピストン内の既存の構造空間をより効率的に利用することを可能とする潤滑装置であって、同時に、シリンダ走行面上の潤滑剤の分布の質は、潤滑剤の損失が低減されるように改善されるべきであり、排気ガスのエミッションの低減は、より少ない潤滑剤が燃焼空間に入るので達成される、潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、請求項1による潤滑装置を有するピストンにより満たされる。
【0010】
潤滑装置は、また、以下ではパルス潤滑装置とも称され、従って、ピストン内に配置され、シリンダライナの内面とピストンジャケット間の中間空間内への潤滑の噴射の品質を改善する。潤滑装置は、潤滑剤噴射のために燃焼空間内の圧力を利用する。潤滑剤は、特に、ピストンリングの溝内に直接的に噴霧することができる。これは、高圧を潤滑剤にかけることができ、ピストンリング間の温度に実質的に晒されるためである。この効果は、潤滑剤の改善された分布に寄与し、それ故に、潤滑剤の損失の低減、及び、これに対応して低減されたエミッションをもたらす。これは、特に、潤滑剤は燃焼室の壁から剥がれないためである。
【0011】
ピストンは、締結部材により互いに接続された少なくとも1つの上側ピストン部及び少なくとも1つの下側ピストン部を含む。シリンダの走行面を潤滑する潤滑装置は、締結部材の内部に配設される。締結部材は、潤滑剤貯蔵スペースを含み、上側ピストン部は、潤滑剤貯蔵スペースのサイズが変化可能なように、下側ピストン部に対して移動可能である。上側ピストン部は、特に、締結部材に沿って下側ピストン部に対して移動可能である。効果的には、複数の締結部材が設けられ、これにより、上側ピストン部及び下側ピストン部が互いに接続される。
【0012】
従って、締結部材は、締結部材としてと潤滑部材としての組み合わせの機能を満足する。締結部材が引張り歪に晒された場合、締結部材は、上側ピストン部及び下側ピストンを、互いに対して規定された間隔で保持する。締結部材が圧縮歪に晒された場合、下側ピストンは、正確に規定された容積の潤滑剤が締結部材内に移動するまで上側ピストン部に近づく。この点、下側ピストンが上側ピストン部上に位置することも可能である。
【0013】
圧縮中、潤滑剤貯蔵スペースの容積は減少し、これにより、潤滑剤貯蔵スペース内の潤滑剤の圧力が増加する。潤滑剤は、特定の時間でピストンリングの溝間若しくは溝上に導入される。このため、チェックバルブとして設計できる第1遮蔽部材は開く。遮蔽部材が開くと直ぐに、潤滑剤は、圧力下にあるので直ぐに流れ出る。シリンダ空間内の温度では、潤滑剤の気化は、先行技術の解決策で起こるが、これは、例えば燃焼残留物に起因し、防止されるべきである。ピストンリングの領域では、熱歪は、実質的に低く、従って、潤滑剤の気化は通常の動作条件下で生じない。
【0014】
特に効果的な本発明の実施例は、従属項に記載される。
【0015】
好ましい実施例によれば、締結部材は締結スクリューである。
【0016】
潤滑剤貯蔵スペースは、第1遮蔽部材が配置される第1端部と、第2遮蔽部材が配置される第2端部とを有する。潤滑剤源への接続は、第1遮蔽部材が開位置に保持されるときに第1遮蔽部材により開放され、潤滑場所までの通路は、第2遮蔽部材が開位置に保持されるときに第2遮蔽部材により開放される。
【0017】
潤滑剤貯蔵スペースのサイズは、可動の潤滑ピストン部材により変化されることができる。
【0018】
潤滑剤貯蔵スペースは、第1部分空間と第2部分空間とを含み、第1部分空間は、第1遮蔽部材と第2遮蔽部材の間の一定の容積を有する。第2部分空間は、第2遮蔽部材の下流側に配設され、第2部分空間の容積は、潤滑ピストン部材により変化されることができる。
【0019】
締結部材は、上側ピストン部に接続されたスクリュー本体を含むことができる。
【0020】
スクリュー本体は、スクリュー首部に接続され、スクリュー首部は、スクリュー頭部部材に隣接し、スクリュー頭部部材により下側ピストン部は上側ピストン部に接続されることができる。
【0021】
スクリュー本体は、特に、ジャケット部を有し、ジャケット部に沿って把持部材は前後に移動可能であり、把持部材はスクリュー首部の一部として形成される。把持部材は、スクリュー本体の突起として形成された第1当接部と第2当接部の間で前後に移動可能である。把持部材は、ジャケット部において潤滑剤用の出口開口を含む。
【0022】
ピストンスカートは、下側ピストン部と上側ピストン部の間に配置されることができ、ピストンスカートは、上側ピストン部と下側ピストン部の間の所定位置に締結部材により保持されることができる。
【0023】
潤滑剤貯蔵スペースは、少なくとも1つの潤滑場所まで通路を介して接続され、潤滑場所への潤滑剤の供給は、遮蔽部材により調整されることができる。
【0024】
潤滑装置までの潤滑剤の供給の第1遮蔽部材は、バルブ要素を含む。
【0025】
ピストンは、複数の締結部材を有し、少なくとも1つの締結部材は、上述の実施例のいずれか1つによる潤滑装置を含む。
【0026】
大型エンジンは、上述の実施例のいずれか1つによるピストンを含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】大型エンジンの概略図。
図2図1による大型エンジンのシリンダの図。
図3】先行技術によるピストンを通る断面図。
図4】本発明によるピストンを通る断面図。
図5】本発明による潤滑装置の第1実施例の図。
図6】本発明による潤滑装置の第2実施例の図。
図7】本発明による潤滑装置の第3実施例の図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明の説明を行う。
【0029】
図1は、大型エンジン200を示し、大型エンジン200では、動作時、ピストン10は、走行面として機能するシリンダライナ202の壁の表面に沿って摺動する。シリンダ201及びピストン10は、作動空間若しくは燃焼空間204を画成する。燃焼空間204の容積は、ピストンの位置に応じて変化可能である。シリンダ201は、頭部205を有し、頭部205は、ガス交換バルブ206と、空気供給路210と、ガス交換バルブ206用の駆動ユニット207とを含む。更に、燃料用の複数の噴射ノズル208及び空気を始動する供給ノズル211は、頭部205にてガス交換バルブ206の高さに配設される。
【0030】
シリンダ本体212は、頭部205に隣接する。シリンダ本体212は、シリンダライナ202と共に、シリンダライナ202の下部領域において、ピストン10が下死点位置若しくはその近傍に位置するときに燃焼空間204とシリンダ空間216の間の接続を確立する掃気スリット214を含む。シリンダ空間216は、シリンダ本体212を囲繞し、環境からの空気がシリンダ空間216内に入ることができるように、環境に連通する。
【0031】
エンジン空間220は、シリンダ空間216に隣接する。ピストンロッド230は、エンジン空間220内に配設され、当該ピストンロッドは、ピストン10から始まり、大型エンジンの動作時にクロスヘッド232及びコネクティングロッド240を介してエンジン250のドライブシャフトに作用し、角速度でクランクシャフト252を回転させる。クロスヘッド232は、例えばレール222に沿って、前後に移動可能な摺動ブロック234を備える。レール222は、エンジン空間220内に固定して配設されてもよい。或いは、クロスヘッドは、また、略エンジン全体に亘り延在する長いスクリューであるタイロッドに沿ってガイドされることもできる。
【0032】
ピストン10が鉛直方向に上下で動く場合、クロスヘッド232は、レール222上の摺動ブロック232と共に上下に稼動し、上死点と下死点の間で動くピストン10により駆動される。ピストンロッド230は、クロスヘッド内のクロスヘッドスピゴット233で終端する。コネクティングロッドの第1端部242は、クロスヘッドスピゴット233に締結される。コネクティングロッドの第2端部244は、クランクシャフト252の外周カムに締結される。
【0033】
ピストンの動作ストロークは、燃焼空間204内で圧縮された混合気が点火し若しくは点火されたときに開始し、膨張として稼動するその燃焼反応が開始する。ピストンは、ガス圧に起因してシリンダライナ202内の頭部205から離れる方向に、即ち図1若しくは図2の下方向に移動する。ピストン10及びクロスヘッドスピゴット233に固定的に接続されたピストンロッド230は、同一の摺動運動を実行する。クロスヘッドスピゴット233は、摺動ブロック234を介してレール22に沿って導かれる。同時に、クロスヘッドスピゴット233上に回転可能にその第1端部242が支持されるコネクティングロッド240は振られ、その第2端部244を介してクランクシャフト252の回転運動を開始する。
【0034】
作動ストロークは、ピストンが下死点にあるときに完了する。クランクシャフトは、次いで、180度の回転を実行する。この位置では、コネクティングロッド240の第2端部244は、クランクシャフト252の長手軸の直下に位置し、摺動ブロック234は、その最下位置に位置する。
【0035】
ピストンがこの下死点に近づく時、ガス交換バルブ206は、開放され、新鮮な空気は、掃気スリット214を介して燃焼室内に導かれる。燃焼ガスは、開かれたガス交換バルブ206を介して燃焼空間から出る。コネクティングロッド240、及びそれ共にピストンロッド230及びピストン10は、クランクシャフト252の連続的回転により上方に移動される。ピストン10が掃気スリット215に近づくとき、ガス交換バルブ206は、燃焼空間204内に位置する空気を圧縮できるように閉じられる。圧縮工程は、ピストンが上死点に到達するまで継続する。この位置では、コネクティングロッド240の第2端部244は、クランクシャフト252の長手軸の真上に位置し、摺動ブロック234は、その最下位置に位置する。少なくともこの時点で、燃焼空間204への燃料の噴射が起こり、新たなサイクルは、混合気の点火で開始される。
【0036】
この点、シリンダ潤滑剤若しくはピストン潤滑剤は、一方では、ピストン10が、シリンダライナ202若しくはシリンダスリーブ内を、可能な限り容易に、即ち抵抗を受けずに、摺動できるように、他方では、ピストン10が、出来るだけ多くシリンダ201内の燃焼空間204をシールして、燃焼プロセスで開放されるエネルギの機械的仕事への効率的な変換を保証するように、提供される。
【0037】
このため、潤滑剤は、通常、大型エンジンの動作中にシリンダ201内に導入され、シリンダライナ201に沿ったピストンの良好な走行特性を達成し、ピストン10及びピストンリングの、走行面の磨耗を出来るだけ低く維持する。更に、潤滑油は、腐食の防止のためと共に、攻撃的な燃焼性生物の中和に対して機能する。非常に高いグレード及び高価な物質は、しばしば、これらの多くの要求を満たすために潤滑剤として使用される。
【0038】
図3は、ピストンが上死点若しくはその近傍に位置する先行技術のシリンダ201の部位と共に大型エンジン用のピストン10の断面を示す。ピストン10は、上側ピストン部1と下側ピストン部3を含む。頭部205は、ガス交換バルブ206を含む。更に、燃料用の噴射ノズル208が示される。更に、冷媒によりシリンダヘッドを冷却するため冷媒の受け入れ機能をする複数の中空空間209は、頭部内に示される。
【0039】
シリンダ本体212は、同様に部分的にのみ示されるが、頭部205の下方に位置する。シリンダ本体は、また、冷媒で満たすことができる中空空間も有し、従って、走行面、即ちシリンダライナ202の内壁は冷却されることができる。
【0040】
ピストンは、シリンダライナ202の内壁に沿って前後に摺動する。この目的のため、複数のピストンリング12は、効果的には、ピストンのジャケット面上に設けられる。ピストンリングは、ピストンのジャケット面、ここでは上側ピストン部1のジャケット面内に導かれるリング状の溝13内に位置する。ピストンスカート2は、上側ピストン部1と下側ピストン部3の間に配設される。
【0041】
上側ピストン部1、下側ピストン部3及びピストンスカート2は、締結部材4を介して互いに接続される。複数の締結部材は、上側ピストン部1、下側ピストン部3及びピストンスカート2を互いに密接に接続するために、ピストンの長手軸まわりに必然的に設けられることができる。締結部材4は、締結スクリュー9として形成される。締結スクリューは、上側ピストン部1のネジ穴125内に保持される。ネジ穴は、ブラインド穴として設計される。ボア70は、下側ピストン部3内に設けられ、締結スクリュー9が通ってガイドされるボア50は、ピストンスカート2に設けられる。締結スクリュー9は、1ピースで設計され、意図した位置に固定的に接続される上側ピストン部1、ピストンスカート2及び下側ピストン部3を保持する。締結スクリューは、締結ボルトとして形成されるので、ピストンの名前の付いた部品は、締結スクリュー9が締められたとき互いに相対的に固定される。この点で上側ピストン部はピストンスカート上に直接位置し、ピストンスカートは下側ピストン部上に直接位置する。接続は、流体的に密になされるべきであり、シリンダ空間と、冷却、ガス、燃料若しくは潤滑剤用の冷媒収集空間113若しくは冷媒分配空間117との間に連通が生じないようにされる。冷媒は汚染されるべきでない。即ち逆に、冷媒は、シリンダ空間内に入るべきでない。この理由のため、本実施例による個々のピストン部品の固定された接続は、絶対的に必要である。
【0042】
図4は、動作状態で締結部材4により互いに接続される上側ピストン部1と下側ピストン部3を含む大型エンジン用の例えばによるピストン10の半分の断面図を示す。図3と同一の機能の構成要素は、図4において同一の参照符号が付与される。
【0043】
上側ピストン部1は、頭部表面100と、ジャケット表面101と、少なくとも1つの支持表面102,103とを有する。頭部表面100は、ピストン及びそれを囲繞するシリンダにより形成される燃焼室に隣接する。大型エンジンのシリンダ内のピストンの絵は、例えば本出願人のEP1653078若しくはEP1329628において見出すことができる。燃焼室のシーリングは、複数のピストンリングにより生じ、複数のピストンリングは、この目的のために設けられる溝104,105,106内でピストンのジャケット表面101上に保持される。
【0044】
上側ピストン部は、流体の冷媒を受け入れる機能をするカットアウト107,108,109,110,112を有することができる。カットアウトは、冷却収集空間113と流体的に連通する。冷却収集空間113は、下側ピストン部3の内部に延在する冷却路114を介して冷媒が供給される。冷却路は、外部路115及び内部路116を有するリング通路として形成されることができる。外部路115は、カットアウト107,108,109,110,112に冷媒を供給するために使用される。内部路116は、冷媒を戻すように導く。外部路は、冷媒分配空間117内に開口し、冷媒分配空間117からは、冷媒は、カットアウト107,108,109,110,112内に入る。
【0045】
冷媒分配空間117及び冷媒収集空間113は、分離部材118により互いに分離される。分離部材118は、複数の締結スクリュー119により下側ピストン部3に締結される。かかる1つの締結スクリューのみが図1に示される。シール120は、下側ピストン部3と分離部材118の間に設けられる。これは、シリンダ空間内に若しくは潤滑回路内に冷媒が入ることが出来るのを防止する機能をする。更なるシール121は、分離部材118上及び/又は上側ピストン部1に設けられる。
【0046】
現在の絵では、上側ピストン部1は、下側ピストン部3から離れて示されている、即ち組み付け直前の状態で示されている。下側ピストン部3は、また、リング状に配設されたピストンスカート2を有する。ピストンスカート2の位置は、また、締結部材4により固定される。ピストンスカート2は、締結部材4が通って案内されるボア50を含む。
【0047】
下側ピストン部3は、同様に、締結部材4が通って案内されるボア70を含む。ボア70は、ピストン10の長手軸11に平行に略配設された長手軸71を有する。
【0048】
ピストンは、内部でピストン10が前後に移動することができるシリンダの走行面を潤滑する潤滑装置5を含む。潤滑装置は、図3による締結部材を通る断面を示す図5に詳細に示される。潤滑装置5は、締結部材4の内部に配設される。締結部材4は、潤滑剤貯蔵空間6を含む。締結部材4は、図4若しくは図5により締結部材9として形成される。上側ピストン部1では、締結スクリュー9のスクリュー本体127を受け入れる機能をするネジ穴125が設けられる。スクリュー首部128は、スクリュー本体に隣接し、スクリュー頭部部材129に隣接される。スクリュー頭部部材は、雄ネジ130を有する。雄ネジ130は、締結ナット126を受け入れる機能をする。
【0049】
潤滑剤貯蔵空間6のサイズは、変化可能である。スクリュー本体127は、この目的のために潤滑ピストン部材30を有する。潤滑ピストン部材30は、スクリュー本体127に対して移動可能である。スクリュー本体127は、ネジ穴125の雌ネジへの接続のために機能する雄ネジ135を有する。スクリュー本体127は、従って、組み付け状態で上側ピストン部1に固定的に接続される。潤滑ピストン部材30は、スクリュー本体127に対して移動可能である。潤滑ピストン部材30は、スクリュー首部128及びスクリュー頭部部材129を含む。下側ピストン部3、及び、任意的に、ピストンスカート2は、スクリュー首部128及び/又はスクリュー頭部部材129の領域内に締結ナット126により締結される。スクリュー首部128の部分は、また、上側ピストン部1のボア124内に配置されることができる。このボア124は、図3に示されるネジ穴125に隣接する。
【0050】
スクリュー本体は、ジャケット部136を有し、ジャケット部136に沿って、スクリュー首部128に属する把持部材131が摺動する。把持部材131は、ボア124内に潤滑剤が出現するのを防止するシール132を有する。シール132は、ジャケット部136と摺動接触する突起133内に配設される。ジャケット部136は、突起133がジャケット部136との接触を失うのを防止する当接部(係止部)134を有する。当接部137は、同様に、雄ネジ135とジャケット部136の間に設けられ、雄ネジ135に把持部材131が接触するのを防止する。同時に、当接部134,137は、スクリュー首部のストロークを境界付ける。潤滑剤貯蔵空間6の最大及び最小容積は、ここでは定義される。
【0051】
潤滑剤貯蔵空間6は、第1遮蔽部材17が配置される第1端部7を有する。第1端部は、スクリュー頭部部材129に配置され、入口開口を形成する。第1遮蔽部材17は、チェックバルブとして形成され、これにより、入口開口を閉めることができる。チェックバルブは、例えば、EP10165750 Aに示すような結合部材により、開かれる。潤滑剤源への接続は、潤滑剤が潤滑剤貯蔵空間6内に入ることができるように、結合部材により開かれる。
【0052】
潤滑剤貯蔵空間6は、第2遮蔽部材18が配置される第2端部8を有する。潤滑場所24までの通路20は、遮蔽部材18が開位置に保持される時に、第2遮蔽部材18により開放されることができる。潤滑剤貯蔵空間6は、潤滑剤用に少なくとも1つの出口開口141を有する。図示されていないがシール部材は、出口開口141を囲む把持部材131の壁と上側ピストン部1の間に設けられることができる。
【0053】
更なる実施例は図6に示される。潤滑剤貯蔵空間6は、第1部分空間16及び第2部分空間26を含む。第1部分空間16は、第1遮蔽部材17と第2遮蔽部材18との間の一定の容積を有する。第1部分空間16は、スクリュー首部128内に配置される。スクリュー頭部部材129は、図6には示されないが、図5に示されように設計される。
【0054】
第2部分空間26は、第2遮蔽部材18の下流に配設され、その容積は、潤滑ピストン部材40により変化されることができる。ピストン10が圧縮ストロークを実行するとき、スクリュー首部128は、スクリュー頭部部材129に対して移動する。これは、スクリュー首部が潤滑ピストン部材の機能を有することを意味する。下側ピストン部3は、また、この場合、上側ピストン部1に対して移動可能である。圧縮ストローク時、下側ピストン部3及び上側ピストン部1は、下側ピストン部3が上側ピストン部1に圧縮力を付与できるように、潤滑剤貯蔵空間6内に収容される潤滑剤が更なる動きを防止するまで互いに対して移動される。上側ピストン部1及び下側ピストン部3が互いの上に位置することは可能である。
【0055】
スクリュー本体127は、図5に示すように、潤滑剤貯蔵空間6の一部を含むことができ、若しくは、中実な本体として形成されることができる。図5に示すように、ジャケット部136が設けられ、それに沿って、スクリュー首部128の把持部材131が係合する。把持部材131は、下側の当接部134と上側の当接部137の間で変位可能である。把持部材とスクリュー本体127の基部により囲まれた第2部分空間26の容積は、従って、スクリュー本体127に対するスクリュー首部128の動きにより変化可能である。
【0056】
潤滑剤貯蔵空間6は、少なくとも1つの潤滑場所24,25に少なくとも1つの通路20,21を介して接続され、潤滑場所への潤滑剤の供給は、遮蔽部材27,28により調整されることができる。潤滑場所24,25は、ピストンジャケットにて異なる位置に設けられることができ、潤滑場所は、任意の2つの所望のピストンリング12間に配置されることができ、また、ピストンジャケットの外周上に分布されることができる。
【0057】
スクリュー首部128がスクリュー本体127に向かって移動される場合、第2部分空間26の容積は、低減し、潤滑剤の圧力はそれに従って増加する。部分空間26及び通路21,22内の加圧された潤滑剤は、所定量の潤滑剤は、それ故に、所定の時点でシリンダの走行面に供給されることができる。
【0058】
スクリュー本体127及び関連するスクリュー首部128に対する更なる実施例が図7に示される。図7では、スクリュー本体127は、スクリュー本体127及びスクリュー首部128の組立体が簡素化されるように、複数の部品で形成される。スクリュー本体127は、プラグイン部材138を受け入れる機能をするネジ穴を備える。このプラグイン部材138は、把持部材131の突起133に対する当接部として機能する段差139を有する。プラグイン部材138の突起133は、突起がジャケット部136に沿って密に摺動できるように、シール132を含む。プラグイン部材138は、更に、段差にてシール部材140を有する。
【0059】
把持部材131は、その壁に潤滑剤用の出口開口141を含む。把持部材131は、スクリュー首部の関連する雄ネジに係合する雌ネジを下端に有する。
【0060】
ピストンが燃料の燃焼により燃焼空間内に蓄積された圧力により下死点の方向に移動するとき、上側ピストン部1は、締結部材4を介して下側ピストン部3を押す。スクリュー首部128の把持部材131は、潤滑剤貯蔵空間6がその最小サイズを維持するように、当接部137に留まる。潤滑剤貯蔵空間は、把持部材131が突起の方向にジャケット部136に沿って当接部137から移動するとき、サイズが増加するだけであり、新たな潤滑剤の受け入れのために準備される。下側ピストン部3及び上側ピストン部1は、下側ピストン部3、上側ピストン部1、及び任意的にはピストンスカート2の間に隙間が生じるように、互いから離れる方向に移動する。ピストンが下死点にあるとき、第1遮蔽部材17を含む第1端部7は、この目的のために設けられる結合部材に係合する。結合部材は、図5に概略的に示すように、潤滑剤源22に接続される。結合部材の設計に関しては本出願人のEP10165750 Aを参照されたい。第1端部7が結合部材により受け入れられたとき、潤滑剤は、潤滑剤貯蔵空間6内に第1端部7にて入口開口19を通って流れることができる。ピストンが結合部材から離れる方向に再び動くと直ぐに、入口開口19は、第1遮蔽部材17により閉じられる。
【符号の説明】
【0061】
1 上側ピストン部
2 ピストンスカート
3 下側ピストン部
4 締結部材
5 潤滑装置
6 潤滑剤貯蔵空間
7 第1端部
8 第2端部
10 ピストン
16 第1部分空間
17 第1遮蔽部材
18 第2遮蔽部材
22 潤滑剤源
24,25 潤滑場所
26 第2部分空間
30 潤滑ピストン部材
40 潤滑ピストン部材
127 スクリュー本体
128 スクリュー首部
129 スクリュー頭部部
131 把持部材
136 ジャケット部
134、137 当接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7