【実施例】
【0141】
実施例1.ライブラリーの設計および構築
抗体の抗原結合部位は、抗原を認識するための3つのCDRループをそれぞれ含有する重鎖(HC)および軽鎖(LC)の可変ドメイン(V
H、V
L)を結合させることによって形成される。多くの場合、これら2つの可変ドメインのうちの1つ、しばしばV
Hが、抗原の特異性を決定する。トランスジェニックなHCを有するが、未変化のLCレパートリーも有するマウスから、中和抗体価が生じる(Sennら、Eur.J.Immunol.33:950〜961、2003)。本発明者らは、抗体の二重特異性が発生し得る機序、ならびにV
HドメインおよびV
Lドメインの異なる活用によって、二重の抗原結合特異性が可能となり得るかどうかの調査に着手した。
半経験的アプローチをとり、アミノ酸組成および抗体軽鎖のCDRの長さを多様化するための設計、ならびにタンパク質抗原に特異的に結合する抗体を選択することができる、機能性ファージ表出抗体ライブラリーの生成を可能にするライブラリー鋳型を見出した。Kabatデータベースに示されているおよそ1500個のヒトカッパ軽鎖配列のCDR領域の配列および長さの多様性は、ライブラリーの設計プロセスを導くのに役立った。溶媒に露出する残基を標的にして、ランダム化を行った。サブセットのランダム化した位置は、これらの部位における天然レパートリーの一部をなすアミノ酸となるように合わせ、一方、残りの部位は、20種の天然に存在するアミノ酸すべてを含むようにランダム化した。
【0142】
特に、以下に記載する軽鎖鋳型(可変ドメイン)を、本明細書の記載に従って改変した(下線を引いた残基がランダム化した残基である)(配列番号10)。
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQ
D28VNTAVAWYQQKPGKAPKLLIY
S50AS
FLYSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQ
H91YTTPPTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
4つのセットのライブラリーを、3つのヒトFabおよびscFvの鋳型に基づいて生成し、明確に異なるセットの位置を標的にして、ランダム化を行った(
図1)。
ライブラリーのすべてにおいて、重鎖は一定に保ち、その配列はライブラリー鋳型によって定義された。重鎖鋳型(可変ドメイン)の配列を、以下に記載する(配列番号11)。
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTH
【0143】
ライブラリーの設計を、
図1および
図2に要約する。すべてのライブラリー鋳型が、CDR L1中に組み込まれた終止コドン(Sidhuら、2004)を含有して、ファージ表出抗体ライブラリーのメンバーの間に鋳型軽鎖が存在するのを阻止した。鋳型のCDR配列を、
図3に要約する。
一例では、本発明者らは、元々の結合特異性を保持する一方で、異なるタンパク質抗原に結合することができる変異体を同定するために、HER2に特異的な抗体のLC可変ドメイン中に突然変異を導入した。本発明者らは、安定に発現することができる変異体を生成するために、保存的アプローチをとって、LC CDRをランダム化した。溶媒に露出する12箇所のLC CDR位置、すなわち、CDR1中の5箇所(28、29、30、31、32)、CDR2中の3箇所(50、51、53)、およびCDR3中の4箇所(91、92、93、94)を選択して、ランダム化を行った。さらに、選ばれた部位におけるアミノ酸の多様性の設計を導くために、およそ1500のヒトカッパLC CDR配列を解析することによって、これらの位置の天然の多様性も調べた(JohnsonおよびWu、Nucleic Acids Res.28:214、2000;ChothiaおよびLesk、J.Mol.Biol.196:901、1987)(
図4)。比較的大きな天然の多様性を有するいくつかの位置(30、31、50、92、93)は完全にランダム化し、一方、その他の位置では、わずか2つのアミノ酸の種類に限定して天然の抗体を模倣した。また、天然のLCのCDR1およびCDR3の長さの変化も、ライブラリーに反映させた(
図4)。
図4中、Xは、表示した低い頻度で設計したアミノ酸の種類を意味する。長さの多様性は、1〜5つの残基を、残基30と残基31との間および残基93と残基94との間に挿入することによって構築する。
【0144】
このLCライブラリーは、生産的なナイーブレパートリーである(表1)。95個のランダムクローンをスクリーニングした、4回の選別の終了時の結果を列挙する。特に、新たな結合特異性についての選別を、記載に従って、固定化した標的(VEGF、DR5およびヒトFc)に対して実施した(Sidhuら、J.Mol.Biol.338:299、2004)。4回の選別後、標的HER2および非標的タンパク質BSAに対する結合性についてELISAを使用して、95個のファージクローンをアッセイして、特異的結合性を確かめた。HER2結合性を維持する、標的に結合するクローンを濃縮するために、HER2に対する最終回の選別を実施した。陽性クローンについて配列決定した。最も高い親和性の結合体を同定するために、抗原結合性についてのIC
50を、競合ELISAによって決定した(Sidhuら、J.Mol.Biol.338:299、2004)。特有のクローンの数を、配列解析により決定し、HER2結合性を維持する特有のクローンの数(二重特異性クローン)を示す。これらのクローンは、BSA等の不適切な抗原に対しては最小のバックグラウンド結合シグナルを示す。
【表1】
【0145】
3つのタンパク質抗原、すなわち、ヒト血管内皮増殖因子(hVEGF)、デスレセプター5(DR5)、およびIgGの補体結合断片(Fc)に対する選別によって、多くの結合性クローンを生成した(
図5A)。クローンの中には、HER2に対する結合親和性を喪失したものもあれば、HER2結合性を維持し、したがって、二重特異性であったものもあった。新たな結合特異性を有する131個の特有のHerceptin(登録商標)抗体変異体の配列解析によって、Herceptin(登録商標)抗体(
図5B)と比較したアミノ酸の置換および挿入が同定された。
突然変異の数は、3〜17個の範囲に及んだ。HER2結合性を保持したクローン(二重特異性クローン)は平均して、HER2結合性を喪失したクローンよりも少ない突然変異を含有した。Herceptin(登録商標)抗体のCDR−L3配列を保持することが好まれたが、それだけではHER2結合性を保存するのには十分ではなかった。このことは、Herceptin(登録商標)抗体のCDR−L3が、HER2結合性についての最も重要なLC CDRであるという報告と一致する(KelleyおよびO’Connell、Biochemistry 32:6828.1993)。代表的なVEGF結合性クローンを、Fabタンパク質およびIgGタンパク質として発現させた(表2)。
【表2】
【0146】
本発明者らは、これらの抗体が、それらの同族抗原(cognate antigen)に特異的に結合し、その他のタンパク質とは非特異的に相互作用しないことを実証するために、1パネルの哺乳動物細胞溶解物および非抗原性タンパク質に対しては、検出可能な結合性がないことを示した。このアッセイにより、精製したIgGまたはFabの単一特異性および二重特異性が確認された(
図6)。
LCライブラリー由来の単一特異性抗体の平衡結合親和性(K
D)は、15〜150nMの範囲に及んだ。二重特異性抗体は、新たな抗原(すなわち、VEGF)には、高nMから低μMまでの親和性で結合し、HER2には、低nMの親和性で結合した(表2)。表2に示す抗体のうち、抗体bH1が、2つの異なるタンパク質抗原、すなわち、VEGF(K
D=300nM)およびHER2(K
D=26nM)に対して最も高い二重特異性の親和性を表出した。
【0147】
材料
酵素およびM13−KO7ヘルパーファージは、New England Biolabsから入手した。E.coli XL1−Blueは、Stratageneから入手した。ウシ血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミンおよびツイーン20は、Sigmaから入手した。ニュートラアビジン、カゼインおよびSuperblockは、Pierceから入手した。固定化されているプロテインGおよび抗M13コンジュゲート化西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)は、GE Healthcare(Piscataway、NJ)から入手した。Maxisorpイムノプレートは、NUNC(Roskilde、デンマーク)から入手した。テトラメチルベンジジン(TMB)基質は、Kirkegaard and Perry Laboratories(Gaithersburg、MD)から入手した。すべてのタンパク質抗原は、Genentech,Inc.の研究グループが生成した。DNAの縮重は、IUBコードを使用して示し、別段の記載がない限り、等モルの混合物を示す:N=A/C/G/T、D=A/G/T、V=A/C/G、B=C/G/T、H=A/C/T、K=G/T、M=A/C、R=A/G、S=G/C、W=A/T、Y=C/T。
例えば、特定のランダム化した位置において、野生型のコドンを、全20種の天然アミノ酸をコードする縮重NNKコドン(等モル比のN=A/T/G/C、K=G/T)で置き換えた。XYZコドンは、コドンのトリプレットのそれぞれの位置のヌクレオチドの比が等しくないコドンを指す。Xは、38%のG、19%のA、26%のTおよび17%のCを含有し;Yは、31%のG、34%のA、17%のTおよび18%Cを含有し;Zは、24%のGおよび76%Cを含有した。
【0148】
ライブラリー構築のためのファージミドベクター
標準的な分子生物学の技法を使用して、ベクターを構築した。3つの鋳型を、ライブラリーを生成するために構築した。すべての鋳型は、改変ヒト化4D5(8版)(Leeら、2004a)に基づいた重鎖ライブラリーにおいて使用したプラスミドpV0354の誘導体である。
Fabの軽鎖および重鎖の両方について、アルカリホスファターゼプロモーター(Lowmanら、1991)およびstII分泌シグナルを含有するpV0354−Fab−Cベクターに2C4重鎖可変ドメインをクローニングすることによって、2C4Fab−C鋳型ファージミドpJB0290を構築した。これを、以前の記載(Leeら、2004b)に従って、単一のシステインを重鎖可変ドメイン1のC末端において含有するように工学的に操作して、2C4Fabの二価のM13ファージ表出を可能にした。2C4軽鎖CDRを、Fab−Cベクターに、Kunkelらの方法(Kunkelら、1987)を使用する部位特異的変異誘発によって組み込んだ。記載(Sidhuら、2004)に従って、エピトープタグ(gDタグ)(LaskyおよびDowbenko、1984)を、軽鎖のC末端に付加して、表出レベルの決定を可能にした。高表出の重鎖可変ドメインをpV0354−Fab−Cにクローニングすることによって、Fab12−Gライブラリー鋳型pV1283を創出し、軽鎖可変ドメインをFab−12(ヒト化A4.6.1、抗VEGF抗体)のCDR−L3を含有するように改変した。高表出のV
Hは、G6Fabの重鎖CDR残基をショットガンアラニンスキャニング変異誘発(Liangら、2006;Vajdosら、2002)を使用してランダム化し、CDR−L3がFab−12に転換している(Y
91STVPW
96;配列番号24)Fabライブラリーから、固定化抗gD抗体上でのパニングによって選択した。M13ファージ粒子の表面上で4d5(LC−R66G)scFvを二価性に表出するファージミドpV1384の設計および構築を、以前に記載されている(Sidhuら、2004)鋳型pS2018から改変した。scFv断片は、軽鎖と重鎖との間のリンカー領域中にgDエピトープタグを含有した。LCフレームワークの残基Arg66を、95%超の天然のカッパ軽鎖中のこの位置の優勢な残基であるGly66に突然変異させた。KelleyおよびConnellの記載(Biochemistry 32:6828、1993)によれば、このR66Gの突然変異によって、HER2に対するHerceptin(登録商標)抗体の結合親和性はわずかに低下するに過ぎない(<2倍)。ライブラリー鋳型のCDR配列を、
図3に要約する。
【0149】
ライブラリーの構築
ファージ表出ライブラリーを、記載(Sidhuら、2004)に従って、オリゴヌクレオチド指定変異誘発を使用して創出した。このライブラリー鋳型ベクターは、CDR−L1中に組み込まれた終止コドン(TAA)を含有し、これは、変異誘発反応の間に、CDR−L1、CDR−L3(すべてのライブラリー)、CDR−L2(L1/L2/L3−A、−B、−C、+L4−D)、ならびに軽鎖フレームワーク3(L1/L4およびL1/L2/L3+L4−D)をコードする配列上にアニールする縮重オリゴヌクレオチドを使用して修復された。ライブラリーの変異誘発反応は、Kunkelらの方法(Kunkelら、1987)に従って実施した。ライブラリーのための軽鎖CDRの設計を、
図1に記載する。
図1には、異なるライブラリーのために各位置で使用した縮重コドンが要約されている。ランダム化の標的となる各位置において所望の頻度のアミノ酸の種類をコードするように、各CDRについて、3つまたは4つのオリゴヌクレオチドを特定の比でミックスした(
図4)。オリゴヌクレオチドを異なる比で組み合わせて、選択した位置においては、天然の軽鎖カッパ配列中のアミノ酸頻度を反映するように多様性を微調整した。CDR1の場合、91〜94位のコドンを含有する3つのオリゴヌクレオチド、すなわち、CAT NNK NNK RST(配列番号25)、KMT XYZ XYZ RST(配列番号26)またはDGG XYZ XYZ RST(配列番号27)を、1:3:1の比でミックスした。XYZは、脂肪族の疎水性アミノ酸の範囲を低下させるために、各部位について等しい比率のA/G/T/Cを有するNNKの変化形態である(Leeら、J.Mol.Biol.340:1073、2004)。CDR2の場合、50〜53位のコドンを含有する4つのオリゴヌクレオチド、すなわち、NNK GST TCC NNK(配列番号28)、TGG GST TCC NNK(配列番号29)、KGG GST TCC TMT(配列番号30)またはNNK GST TCC TMT(配列番号31)を、1:1:2:10の比でミックスした。CDR3の場合、それぞれの長さは、28〜33位のコドンを含有する3つのオリゴヌクレオチド、すなわち、G
70A
70C
70 RTT NNK NNK TAC STA(配列番号32)、G
70A
70C
70 RTT NNK NNK DGG STA(配列番号33)またはG
70A
70C
70 RTT NNK NNK NMT STA(配列番号34)の1:1:2の比の混合物であった。G
70A
70C
70は、「ソフト」コドンであり、指定したヌクレオチドを70%有し、その他の3つヌクレオチドをそれぞれ10%有し、約50%のGluおよび約50%のその他のアミノ酸をコードする。
カッパLCを有するいくつかの代表的な抗体の構造解析から、CDR1が最も広い範囲の立体構造を有し、このことは、ループの長さが変動すること(24位と34位との間で11〜17残基)の結果である可能性が高いことが示されている。したがって、異なるCDR−L1の長さ(11〜16残基長)を、ライブラリーに含めた。また、天然のCDR−L3も長さが変動し(89位と96位との間で7〜10残基長)、これも、ライブラリーの設計によって反映されている(8〜10残基長;
図4)。
【0150】
図1に、軽鎖の天然の多様性と実際のライブラリーの設計との比較を示す。変異誘発産物を、1つのライブラリー当たり1つの反応にプールし、KO7ヘルパーファージを補った大腸菌SS320細胞中に電気穿孔し、30℃で一晩増殖した(Leeら、J.Mol.Biol.340:1073、2004)。約10
11個の細胞および約5〜10μgのDNAを、各エレクトロポレーション反応において使用した。ライブラリーファージを精製した(Sidhuら、J.Mol.Biol.338:299、2004)。形質転換体の数は、10
9〜10
10個の範囲に及んだ。ファージ表面上の未変化のFabまたはscFvの表出レベルを、ELISA結合アッセイにおいて決定し、この場合、各ライブラリーから無作為に選択した96個のクローンを、抗gD抗体と結合するそれらの能力について試験した。この表出レベルは、5〜25%の範囲に及んだ(
図2)。抗体を表出するクローンのうちの25%が、HER2結合性を保持した。およそ150個の表出クローンを配列決定して、設計の多様性と比較した実際のライブラリーの多様性を調べた。機能を表出したライブラリーメンバーのうちの一部(約30%)が、Herceptin(登録商標)抗体のCDR−L2配列および/またはCDR−L3配列を保持し、これは、不完全な変異誘発に起因した(scFvの発現においては、CDR−1中の鋳型の終止コドンによって、このCDRの100%の突然変異が保証された)。これらは、実際のライブラリーの多様性の配列解析から除外した。大半のランダム化した位置において、ファージ表出ライブラリーの表出クローンの多様性は、設計した多様性から有意には逸脱しなかった(p>0.05、オッズ比検定)。例外は、Ileと比較して若干過剰出現する(p=0.005)ことが見出されたCDR−L1の29位、ならびにGlyおよびSerがそれぞれ、AlaおよびTyrよりも優勢である(p<0.01)CDR−L2の51位および53位であった。
【0151】
実施例2.ライブラリーの性能の評価
ライブラリーの分類およびスクリーニング
種々のタンパク質抗原に特異的に結合する抗体を、4〜5回の分類後に単離することができる場合に、ライブラリーが機能を有するとみなした。多くのタンパク質標的は、機能性に固定化してライブラリーのパニングを行うことが可能であることが知られており、妥当性が確認されたファージ表出ライブラリーから特異的な抗体が生成されている(Fellouseら、2005)(Leeら、2004a)。本発明者らは、各セットのライブラリーを評価するために、これらの標的のサブセットを選んで、選別を行った(
図2)。これらのライブラリーに対して、抗gD抗体またはプロテインLを捕捉標的として用いて結合性の選別の初回を行って、Fab/scFv遺伝子が欠失しているクローンを排除し、それに続いて、4〜5回の抗原の選別を行った。あるいは、それらのライブラリーに対して、抗gDまたはプロテインLを用いる前選別なしで、標的結合性の直接的な選別も行った。NUNC製96ウエルMaxisorpプレートを、抗原(5μg/ml)を用いて一晩コートし、遮断剤を交互に用いて1時間遮断した(
図7)。最初の選別サイクルでは、10
13ファージ/mlのファージ溶液を、コートしたイムノプレートに添加した。ファージ濃度は、選別の回が進むにつれて減少させた。イムノプレート上のファージ溶液をインキュベートして、固定化抗原に結合させた後、プレートを、PBS、0.5%ツイーン20を用いて繰り返し洗浄した。ストリンジェンシーを増加させるために、選別の回が進むにつれて、インキュベーション時間を短縮し(1回目4時間、2回目3時間、3回目3時間、4回目2時間、5回目1.75時間)、洗浄回数を増加させた(
図7)。結合しているファージを、0.1M HClを用いて30分間溶出し、溶出液を、1.0M Tris塩基を用いて中和した。抗原でコートしたイムノプレートウエル1つ当たりのファージの回収率を計算し、抗原でコートされていないが遮断されているウエルの回収率と比較して、標的抗原に特異的に結合する、FabまたはscFvを表出するファージクローンの濃縮を調べた(
図7)。溶出したファージを、大腸菌中で増幅し、その後の選別のために使用した。ランダムクローンを4回目および5回目から選択して、ファージELISAを使用してスクリーニングおよびアッセイを行い、ここでは、標的および抗gDに対する結合性を関連のないタンパク質(BSA)に対する結合性と比較して、非特異的な結合を調べた。抗gD抗体および標的に結合するが、非特異的タンパク質には結合しないクローンを、特異的陽性とみなした。ライブラリーL1/L3、L1/L4、L1/L2/L3−A、L1/L2/L3−B_1およびL1/L2/L3−B_2は、いずれの特異的陽性のクローンも産生しなかったが、ライブラリーL1/L2/L3−CおよびL1/L2/L3+L4−Dからは、標的抗原に対して特異的な抗体を単離することができた。
【0152】
例えば、4回目から得られたランダムクローンを、ファージELISAを使用してアッセイし、ここでは、個々に増幅したクローンの、標的およびHER2に対する結合性を、非標的タンパク質(BSA)に対する結合性と比較して、結合特異性を試験した。HER2結合性を維持するファージクローンを濃縮するために、VEGFまたはDR5による選別の3回目および4回目から溶出したファージを増殖し、それに対して、HER2でコートしたウエル上でさらに1回選別を行った。陽性クローンのV
L領域およびV
H領域を、PCRにより増幅し、配列決定した。
hFC、hVEGFおよびhDR5−lfのヒット率はそれぞれ、63%、77%および85%であった。陽性クローンのV
L領域を、記載(Sidhuら、2004)に従ってPCRにより増幅し、配列決定した。陽性の特異的な結合体のDNA配列解析から、特有のクローンのパーセントが、51%(hFC)、55%(hVEGF)および6.1%(hDR5−lf)であることが明らかになった。特有のhVEGF結合性クローンの配列を、
図8に要約する。
【0153】
hVEGF結合性クローンのプレート選別と溶液選別との組合せ
4回の分類の後のhVEGF結合性クローンに大きな多様性が観察された。高い親和性のhVEGF結合性クローンを同定するために、4回目のプレートに基づいた分類に続いて、溶液に基づいた選別のアプローチをとった。50nMビオチン化hVEGFを、固定化抗原上での4回目の選別から得て繁殖させたファージと共にインキュベートした。攪拌しながら室温で2時間インキュベートした後、hVEGFに結合しているファージを、ニュートラアビジンでコートし遮断したイムノプレート上に捕捉し、それに続いて、繰り返し洗浄した。ファージクローンを、先の記載に従って、溶出、スクリーニングおよび配列決定した。この最後の溶液選別ステップから得られたhVEGF結合性クローンの配列を、
図9に示す。
【0154】
ライブラリーL1/L2/L3−CおよびライブラリーL1/L2/L3+L4−Dからの二重特異性クローンの単離
ライブラリーL1/L2/L3−CおよびライブラリーL1/L2/L3+L4−Dのライブラリー鋳型は、Her2に高い親和性で結合する、hu4D5抗体から改変したscFv断片であった。hu4D5−5のHer2結合性についての機能性パラトープを、CDR領域のアラニンスキャニング変異誘発によって位置付けると、重鎖の残基が、大半の結合の自由エネルギーに寄与し、一方、個々の軽鎖の残基が寄与する程度はそれより少ないことが示された(KelleyおよびO’Connell、1993)。ヒトHer2−ECDと複合したHerceptin(登録商標)抗体のFabの原子構造の解析から、軽鎖は、抗原との接触を起こすことに関与し、一方、重鎖は、抗原との構造的な界面の大部分をもたらすことが実証されている(Choら、Nature 421:756、2003)。本発明者らは、Herceptin(登録商標)抗体の鋳型上に構築した機能性の軽鎖ライブラリーのいくつかのメンバーが、Her2への結合能を保持することを観察した。Her2にも第2の抗原にも結合することができる機能性ライブラリーであるL1/L2/L3−CおよびL1/L2/L3+L4−Dから、二重特異性scFv断片を単離する試みにおいて、2つの戦略を適用した。1つのアプローチでは、先に記載した標的抗原の選別から得られた陽性のクローンを、ELISAにより、Her2結合性を保持するものについてスクリーニングした。Her2に結合することができる特異的陽性のクローンのパーセントは、第2の抗原の特異性に依存して変化した。61個の特有のhFcに特異的陽性のクローンのうちわずか1個のクローンが依然としてHer2に結合するに過ぎず(1.6%)、41個の特有のhVEGF結合性クローンのうち30個が依然としてHer2に結合し(73%)、5つの特有のhDR5結合体のうち2つが依然としてHer2に結合した(40%)。さらに、選別に基づくアプローチもとって、二重特異性抗体を、hVEGF結合性抗体およびhDR5結合性抗体のプールからHer2結合体を選択することによって単離した。標的抗原の分類の4回目から得られた溶出液に対して、2×10
13個のファージ/mlを、Her2(5μg/ml)でコートしBSAで遮断したMaxisorpイムノプレート上で1時間インキュベートすることによってさらに1回選別を行った。これらのプレートを、先の記載に従って、PBS、0.5%ツイーン20を用いて15回洗浄し、結合しているファージを溶出した。ランダムクローンを、Her2、抗gDおよび標的に対する結合性について選択およびアッセイし、非関連のタンパク質(BSA)への非特異的な結合と比較した。試験した192個のクローンすべてが特異的陽性であると同定され、これらを先の記載に従って配列決定した。配列決定から、94個の特有の配列が明らかになった。要約すると、この方法により、試験した94個の特有のクローンから、94個のHer2/hVEGF二重特異性クローンを生成した(100%)(
図8)。両方の単離戦略から単離した特有のhVEGF/Her2二重特異性抗体すべての配列を、
図10Aおよび10Bに要約する。Her2に対する検出可能な結合性すべてを喪失した単離クローンの配列を、
図11に示す。二重の特異性を有するクローンのうち、ほとんどすべてがHerceptin(登録商標)抗体のCDR−L3を保持し、このことは、CDR−L3の維持がHER2結合性を維持するために重要である可能性を高めている。hDR5の場合には、7個の特有のHer2結合性クローンのうち2個が、二重特異性であった(29%、12個のクローンを配列決定した)。これらの二重特異性のクローンのうちの1個が、CDR−L3中にいくつかの相同的な変化を有した。
【0155】
hVEGF結合性クローンの高スループットによる特徴付け
96ウエルフォーマット中での高スループットのシングルスポット競合ELISA(Sidhuら、2004)を使用して、hVEGFに対する高い親和性のクローンについてスクリーニングし、VEGFR1遮断プロファイルを研究した。手短に述べると、Maxisorp Immunoplateを、2μg/mlhVEGF
109を用いて4℃で一晩コートし、1%(w/v)BSAを用いて1時間遮断した。大腸菌XL1−Blue中のファージミドクローンを、カルベニシリンおよびM13−KO7ヘルパーファージを補った150μlの2YTブロス中で増殖した。96ウエルフォーマット中で、培養物を攪拌しながら37℃で一晩増殖した。親和性スクリーニングのために、ファージを含有する培養上清を、PBST(0.05%ツイーン20および0.5%(w/v)BSAを有するPBS)中で100nM hVEGF
109を添加した状態または添加しない状態で5倍に希釈した。レセプター遮断スクリーニングのためには、hVEGFでコートしたウエルをVEGFR1ドメイン1〜3(D1〜3)およびVEGFR1ドメイン2(D2)がある状態またはない状態でインキュベートしてから、5倍に希釈したファージ上清を添加した(Liangら、2006;Wiesmannら、1997)。室温(RT)で1時間インキュベートした後、混合物を、hVEGF
109を用いてコートしたプレートに移し、10分間インキュベートした。プレートを、PBT(0.05%ツイーン20を有するPBS)を用いて洗浄し、PBST中で5000倍に希釈して1nMとなした抗M13抗体の西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートと共に30分間インキュベートした。プレートを洗浄し、TMB基質を加えておよそ5分間展開し、1.0M H
3PO
4を用いて消光し、450nmにおける分光光度を読んだ。シングルスポット親和性アッセイでは、溶液相hVEGF
109の存在下における吸光度の、溶液相hVEGF
109の非存在下における吸光度に対する比を、親和性の指標として使用した。低い比は、最初のインキュベーションの段階で大部分のFab−ファージが溶液相hVEGF
109に結合し、したがって、固定化hVEGF
109により捕捉されるものがなかったことを示すことになる。最初の41個の特有のクローンの高スループット親和性アッセイの結果を、
図12に要約する。同様に、遮断アッセイの場合も、低い比は、クローンのhVEGF
109に対する結合がhVEGF
109とVEGFR1との相互作用によって遮断されることを示し、このことは、いくつかのクローンが、VEGF上に、それぞれのVEGFレセプター断片と重複する結合部位(エピトープ)を有し(
図13Aおよび13B)、これらのクローンは、遮断性の抗体を表出している可能性が高いことを示した。
【0156】
二重特異性hVEGF/Her2クローンの高スループットによる特徴付け
先のセクションで記載したのと同じ原理を適用して、さらなる特徴付けのために、hVEGFおよびHer2に対して高い親和性を有するクローンを単離することができた(
図14A)。高スループットのシングルスポット競合ELISAを使用して、hVEGFおよびHer2に対する高い親和性クローンについて、Maxisorp Immunoplateを2μg/mlのhVEGF
109およびHer2−ECDを用いて4℃で一晩コートし、それに続いて、1%(w/v)BSAを用いて1時間遮断することによってスクリーニングした。先のシングルスポットELISAスクリーニングにおいて二重特異性であると同定されたファージクローンを、先の記載に従って増殖し、20nM Her2−ECDおよび50nM hVEGFを添加した状態ならびに添加しない状態でインキュベートした。室温で1時間インキュベートした後、溶液を、先のセクションの記載に従って、コートしたイムノプレートに適用し、結合シグナルを記録および解析した。hVEGFおよびHer2の両方について低い比を有するクローンを選択して、さらなる特徴付けを行った。シングルスポット競合ELISAにおいて最も低いシグナル比を発生させたhVEGF特異的ファージクローンおよびhVEGF/Her2二重特異性ファージクローンを選択して、競合ELISAによる親和性の測定を行った。同様に、最初のシングルスポットELISAスクリーニングから得られたDR5結合性ファージクローンおよびDR5/Her2二重特異性ファージクローン、ならびにプレート選別と溶液選別との組合せから得られたVEGF結合性クローンについても測定を行った。単一コロニーから得られたファージクローンを、カルベニシリンおよびKO7ヘルパーファージを補った25mlの2YT培地中、30℃で一晩増殖することによって繁殖させた。PEG/NaCl中で沈殿させることによって精製したファージを最初に、PBST中で段階的に希釈し、抗原でコートしたプレートに対する結合について試験した。50〜70%の飽和シグナルを発生させる希釈度を、溶液結合アッセイにおいて使用し、この場合、ファージを、最初に、漸増濃度の抗原と共に1〜2時間インキュベートし、次いで、抗原でコートしたプレートに移し、10〜15分かけて未結合のファージを捕捉した。IC
50を、50%のファージが固定化抗原に結合するのを阻害する溶液−結合段階の抗原濃度として計算した(Leeら、2004a)。
図14Bは、プレートによる分類戦略から得て、解析したhVEGF結合性クローンについてIC
50を計算した曲線を示す。このIC
50値は、22nM〜>1μMの範囲に及んだ(
図14B)。プレートに基づいた選別と溶液に基づいた選別との組合せによって単離したhVEGF結合体についてのIC
50値は、41nM〜226nMの範囲に及んだ(
図9)。DR5結合性クローンのIC
50値は、20nM〜>1μMの範囲に及んだ。hVEGF/Her2二重特異性クローンについてのIC
50値を、
図15に要約する。
【0157】
実施例3.軽鎖ライブラリーから得られた抗体の特徴付け
scFvのFabへの変換
ファージ上に表出したFv’2のFabへの変換が、ライブラリーから得られた結合性クローンの親和性に影響を及ぼすかどうかを試験するために、2つのクローン(3−7抗hVEGFおよび4−1抗hDR5)を、Fabへの変換のために選び、ファージ上に表出させた。選択したhVEGFのscFv断片およびDR5のscFv断片についてのファージミドDNAのV
L領域を、制限酵素を用いて消化し、これらの酵素によって、CDR−L1をコードする領域のDNAの上流(EcoRV)、およびCDR−L3をコードする領域の下流(KpnI)が切断された。この消化したDNA断片を、同様に消化した、Fab hu4D5のファージ表出のために設計されているベクター(pAP2009)に、M13遺伝子−3マイナーコートタンパク質のC末端ドメインに融合することによってライゲーションした(Leeら、2004b)。得られたバイシストロニックなファージミドは、アルカリホスファターゼプロモーターの制御下にある、C末端においてエピトープ(gD)タグに融合した軽鎖と、C末端においてM13マイナーコートタンパク質(p3)遺伝子に融合した重鎖(V
HおよびC
H1)とを含有する。第1のオープンリーディングフレームは、stII分泌シグナル、それに続く、CDRが3−7抗hVEGFのscFv’2および4−1抗hDR5のscFv’2のCDRで置換されているFab4D5軽鎖、ならびにそれに続く、gD−タグエピトープからなるポリペプチドをコードした。第2のオープンリーディングフレームは、以下からなる融合ポリペプチドをコードした:stII分泌シグナル、Fab4D5重鎖、アンバー(TAG)終止コドン、Gly/Serリンカー配列、およびg3タンパク質のc末端ドメイン(cP3)。M13−KO7を同時感染させた大腸菌XL−1 Blue中における発現により、3−7scFv’2および4−1scFv’2のFab変異形を表出するM13バクテリオファージを産生した。ファージ競合ELISAを使用して、hVEGFおよびhDR5に対する、ファージが表出したscFvおよびFabの親和性を、IC
50値として推定した。これら2つの異なるフォーマットから得られたデータは十分に一致した(データ示さず)。
【0158】
M13バクテリオファージ表面上におけるbH1 Fabの表出を可能にするために、プラスミドpAP2009を、bH1 Fabをコードするように改変した。bH1 Fabの変異形を、LCライブラリーおよびHCライブラリーのそれぞれのために、3つのLC CDRまたは3つのHC CDRの中に終止コドン(TAA)を含有するライブラリー鋳型として使用した。別個の重鎖および軽鎖のアラニンスキャニングライブラリーおよびホモログスキャニングライブラリーを、以前の記載(Vajdosら、J.Mol.Biol.320:415、2002)に従って構築した。縮重度は、1×10
5〜1×10
8の範囲に及び、実際のライブラリーのサイズは、6×10
9〜4×10
10の範囲に及んだ。ライブラリーは、上記に従って構築した。2〜3回の選別を、固定化標的(VEGF、HER2−ECD、プロテインLまたは抗gD mIgG)上で実施した(Vajdosら、J.Mol.Biol.320:415、2002)。標的結合性クローンを、ファージELISAによって標的への結合についてスクリーニングし、それに続いて、DNA配列決定および配列アライメントを行って、各位置における野生型/突然変異の比を計算した。F
wt/mut値を求めるために、VEGF結合性クローンおよびHER2結合性クローンのおよそ100個の特有の配列の配列解析から得られた比を、表出およびタンパク質の折畳みの作用について、100個超の抗gD結合性クローンの配列から計算した比で割ることによって補正した。Fab重鎖のみが、ファージのコートに融合することから、軽鎖に融合するgDタグのファージ表出が、適切な折畳みおよび軽鎖と重鎖との結合の指標となる。また、一貫して、Fabの軽鎖上の非直鎖状エピトープに結合するプロテインLからも、gDタグにより選別した場合、類似の野生型/突然変異の比が得られた。F
wt/mut値を、Vajdosらの記載(J.Mol.Biol.320:415、2002)に従って、式ΔΔG=RTln(K
a,wt/K
a,mut)=RTln(F
wt/mut)を使用してΔΔGに変換した。
【0159】
ライブラリー結合体の、遊離のヒトのFabおよびIgGとしての発現
これらの抗体の親和性、特異性およびその他の特性を正確に決定するために、競合ELISA実験において最も高い親和性を示す、それぞれの特異性の群から得られた代表的なクローンを選択して、遊離のFabおよびhIgGとして発現させた(
図16)。軽鎖および重鎖の可変ドメインを、大腸菌中でのFabの発現または哺乳動物細胞中での一過性のヒトIgG発現のために以前に設計されているベクター(Leeら、2004a)にクローニングした。Fabタンパク質を、記載(Prestaら、1997)に従って、形質転換34B8大腸菌細胞を完全C.R.A.P.培地中、30℃で26時間増殖することによって生成した。hIgGsを、293細胞の一過性のトランスフェクションによって発現させ、それを、プロテインA親和性クロマトグラフィーを用いて精製した(Fuhら、J.Biol.Chem.273:11197、1998)。1Lの大腸菌培養物を、プロテインG親和性クロマトグラフィーを用いて精製した。カラムを、PBSを用いて洗浄し、Fabタンパク質を、100mM酢酸を用いて溶出し、PBSに対して透析した。4Lの大腸菌培養物を、以前の記載(Mullerら、1998)に従って、プロテインA親和性カラム上で精製し、それに続いて、カチオン交換クロマトグラフィーを行った。タンパク質濃度を、分光光学的に決定した。Fabの最終的な収率は典型的には、小規模な振とうフラスコによる増殖物から精製した場合、0.8〜15mg/lであった。IgG産物の収率は、小規模な培養の場合、6.7〜60mg/lの中〜高の程度であった(
図17)。精製したタンパク質を最初に、分子ふるいクロマトグラフィーおよび光散乱を使用して特徴付けて、これらのタンパク質が顕著なレベルのタンパク質凝集を示さない(<5%)ことを保証した。
【0160】
手短に述べると、発現させたFabおよびhIgGを、ELISAにより、それらのそれぞれの抗原(複数可)への結合についてスクリーニングした。1つの変異体を除きすべてが、それらの同族抗原(複数可)に結合することが見出された。クローン4−6は、FabおよびhIgGへ転換した場合、hDR5への結合能を喪失した。より短い形態であるhVEGF
109に対して産生させ、選択した抗VEGFクローンを、hVEGF
165に対する結合性について、標準的なELISA(H3 hIgG、H4_N hIgG、H4_D hIgG)および競合ELISA(bH1 hIgG、3−1 hIgG、3−6 hIgG、3−7 hIgG)を使用して試験した。G6 hIgG(Fuhら、2006)を、陽性コントロールとして使用した(
図18Aおよび18B)。予想したように、すべてのクローンがhVEGF
165に結合した。
【0161】
タンパク質凝集の程度を研究するために、選択したクローンを、精製したFabおよびIgGとして、分子ふるいクロマトグラフィー(SEC)により解析し、それに続いて、光散乱(LS)解析を行った。これらの試料を、PBS中で、0.5mg/ml(hIgG)および1mg/ml(Fab)の濃度でアッセイした。最大5%の凝集が、これらの指定した濃度で、すべての試料について観察され(
図17)、この値は、本発明者らが、その他のファージ表出由来抗体について以前に観察したことがある値の範囲に属する。クローン3−6および3−7は、予想した時点では出現せず、このことから、これらの再フォーマットしたIgGおよびFabは、凝集および/または樹脂との非特異的な相互作用を示すことが示唆された(データ示さず)。これらのクローンは、その後の解析を行うクローンのセットから外した。
【0162】
本発明者らは、交差反応性および非特異的結合を排除するために、標準的なELISAアッセイにおいて、全細胞溶解物、同族抗原および相同体を含めた、1パネルの固定化タンパク質標的に対する、高い濃度(100nM)の選択したhIgGの結合性を研究した。本発明者らは、抗原に加えて、hVEGFのマウス変異形も固定化して、抗hVEGFクローンの異種間の反応性を試験した。具体的には、この1パネルのタンパク質を、Maxisorpプレート上に固定化し、PBS中の1%BSAを用いて1時間遮断した。hIgG(またはFab)を、PBST中で100nMまたは500nMの濃度に希釈し、コートしたプレートに移した。1時間のインキュベーションの後、プレートを洗浄し、HRPコンジュゲート化プロテインAと共にインキュベートした。結合シグナルを、TMB基質の添加によりおよそ5分間発色させ、1M H
3PO
4を用いて消光し、A
450における分光光度を読んだ。試験したhIgGは、それらの抗原(複数可)に特異的に結合した。クローンbH1およびクローン3−1は、マウスVEGF(mVEGF)に対して交差反応性を示した(
図19)。
二重特異性抗体であるbH1、H3(抗hVEGF/Her2)、およびD1(抗hDR5/Her2)が、それらの同族抗原に同時に結合することができるかどうか、またはこれらの抗原が、抗体の結合について競合するかどうかを試験するために、hVEGFおよびhDR5を、2μg/mlの濃度で固定化した。一定の濃度のhIgGを、段階希釈したHer2−ECDと共にインキュベートし、それに続いて、これらの固定化抗原上のhIgGの捕捉を行った。いずれの場合も、Her2−ECDに対する結合が、その他の抗原に対する結合と競合することが見出された(
図20)。
【0163】
本発明者らは、IgGおよびFab(すなわち、ライブラリーから単離した抗hVEGF Fabおよび抗hVEGF/Her2 Fab、ならびにIgG)の親和性を正確に決定するため、さらに、結合プロファイルをリアルタイムで研究するために、BIAcore(商標)−3000(BIAcore、Uppsala、スウェーデン)装置上での表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを使用し、研究する分析対象に応じて40〜300の応答単位(RU)でhVEGF、mVEGF、DR5およびHer2−ECDを固定化したCM5センサーチップを用いた。固定化は記載(Chenら、1999)に従って実施した。二価のIgG分析対象のアビディティー作用を最小限に留めるために、これらの場合には、センサーチップ上のより低い密度のリガンドを標的とした。(競合ELISA実験に基づいて)推定されたK
Dのおよそ10倍未満から10倍超までの濃度の範囲に及ぶ漸増濃度の試料を、22〜30μl/分で注入し、結合応答を、参照フローセルからのRUを減じることによって補正した。さらに、これらの応答を、二重参照して、装置のドリフトについて、サンプルバッファー(0.05%ツイーン20を有するPBS)を注入した、リガンドをコンジュゲートさせたフローセルからのRUを減じることによっても正規化した。Fabの動態解析のために、1:1のラングミュア結合モデルを使用して、k
onおよびk
offを計算した。(高い分析対象濃度においては)必要に応じて、物質移動限界がある1:1のラングミュア結合モデルを適用した。IgG分析対象の場合、物質移動限界があるまたはない二価の分析対象の結合モデルを使用した(BIAcore Evaluation Software 3.2)。H3 hIgG、H4_N Fab、およびH4_D hIgGの場合、動態結合モデルへの応答の適合は、満足なものではなかった。したがって、平衡応答を分析対象濃度に対してプロットする定常状態の結合解析を適用した。K
Dを、EC
50として推定した。BIAcore結合解析の概要を、
図21に見出すことができる。hVEGF結合性抗体の3−1、3−6および3−7の親和性が、ナノモルの範囲にあることが見出された。解析した二重特異性抗体(bH1、H3、H4_N、H4_D)は、hVEGFに対して、低マイクロモルからマイクロモルの親和性を示した。対照的に、Her2に対する親和性は、8〜59nMの範囲に及んだ(Fab)。
抗hVEGF結合体であるbH1、H3およびH4_Nの軽鎖が、関連の重鎖の配列に依存せずに、hVEGFに結合することができるかどうかを決定するために、軽鎖可変ドメインを2C4 Fab発現ベクターpJB0524にクローニングし、したがって、2C4軽鎖可変ドメインを置換することによって、軽鎖可変ドメインを抗Her2 2C4 Fab上にグラフトした。これらのFabを、先の記載に従って発現させた。bH1/2C4キメラFabおよびH3/2C4キメラFabは、検出可能なレベルでは発現しなかった。H4_N/2C4キメラFabタンパク質を、単離し、hVEGF(bH1の元々の特異性)およびHer2(bH1、2C4の元々の特異性)に対する結合性について試験した。hVEGFおよびHer2に対する結合性は、標準的なELISA結合アッセイによっては検出されなかった(
図22)。これらの結果から、bH1の重鎖は、抗原結合性に必要であることが示唆される。
【0164】
抗hVEGFエピトープの比較
hVEGF上の、抗hVEGF抗体のエピトープを大まかに位置付ける試みとして、本発明者らは、これらの新たに単離した抗VEGF抗体が、その他のhVEGF結合性抗体および既知の結合部位を有するVEGFレセプターと競合する能力を研究した(Fuhら、2006;Mullerら、1998;Wiesmannら、1997)。これらのアッセイは、競合ELISAフォーマットにおいて行い、この場合、VEGFR1(Flt)ドメイン1〜3、および抗hVEGFである抗体Avastin(登録商標)(IgG)、B20−4.1(IgG)、G6(Fab)、およびKDRドメイン1〜7のFc融合タンパク質を、Maxisorpイムノプレート上に、2μg/mlで固定化した。この溶液競合結合アッセイは、段階希釈した精製IgGタンパク質を用いて平衡化したビオチン化VEGFを使用し、未結合のビオチン−VEGFを、Maxisorbプレート上にコートした固定化されているFabまたはIgGを用いて捕捉し、ストレプトアビジンコンジュゲート化HRPを用いて検出した(Leeら、J.Mol.Biol.340:1073、2004)。hVEGFが、その他のhVEGF結合性抗体またはhVEGFレセプターに結合するのを遮断する抗体は、重複するエピトープを共有する可能性が高い。高濃度(μM)の二重特異性hVEGF/Her2結合性抗体であるbH1によって、hVEGFの、そのレセプターであるVEGFR1およびVEGFR2に対する結合を完全に遮断することができ、このことから、bH1のエピトープは、VEGFR1(
図23)およびVEGFR2(
図23)と十分に重複することが示唆される。さらに、bH1は、hVEGFのB20−4.1に対する結合も遮断する(
図24)。また、H3、H4_NおよびH4_Dも、両方のレセプターに対するhVEGFの結合を遮断し、このことは、bH1と類似するエピトープがあることを指している(
図23)。不完全な遮断プロファイルは、hVEGFに対するそれらの親和性が比較的低いことの結果である可能性が高い(
図21)。対照的に、3−1は、hVEGFがVEGFR1に結合するのを最も高い濃度(0.5μM)においてさえ遮断しない(
図23)。さらに、本発明者らは、3−1 hIgGがAvastin(登録商標)抗体を遮断するのを検出することができなかった(
図25)。しかし、3−1 hIgGは、VEGFR2(KDR)(
図23)およびB20−4.1(
図24)に対するhVEGFの結合を遮断する。これらの結果から、3−1は、その他の抗体と比較して、特有のエピトープを有することが示されている。
【0165】
実施例4.bH1、抗hVEGF/Her2二重特異性抗体の構造−機能研究
bH1とその2つの抗原、VEGFおよびHER2との相互作用の性質を解明するために、構造的および機能的研究を行った。Herceptin(登録商標)抗体とbH1とは、CDR−L1(V
29NTA
32対I
29PRSISGY
32、配列番号35および36)ならびにCDR−L2(S
50ASF
53対W
50GSY
53、配列番号37および38)が異なる。bH1抗VEGF/Her2を、VEGFおよびHer2に対するその二重特異性性質およびその比較的高い親和性に基づく構造的特徴付けの代表的として選択した。VEGFおよびHer2上の機能的および構造的エピトープを研究するために、VEGF
109と複合体形成したbH1 FabおよびhHer2の細胞外ドメインを結晶化し、2つの複合体の構造をX線結晶構造解析によって解析した。さらに、記載のようにコンビナトリアルファージ表出ライブラリーを用いたアラニンおよびホモログのショットガンスキャニング分析を行った(Vajdosら、2002)。
【0166】
bH1 Fabの発現、精製、結晶化およびデータ収集
以前に記載のように、残基8〜109からなるヒトVEGFのレセプター結合部分を発現させ、再折畳みを行い、精製した(Christingerら、1996)。以前に記載のようにHer2の細胞外ドメインの残基1〜624を発現させ、精製した(Franklinら、2004、HudziakおよびUllrich、1991)。
大スケールのbH1 Fabの調製には、全細胞ペレットを10リットルの大腸菌発酵から得た。220グラムの細胞ペーストを1LのPBS、25mMのEDTA、1mMのPMSF中で解凍した。混合物をホモジナイズし、その後、マイクロ流動化装置に2回通した。その後、懸濁液を250mlのアリコートで90分間、12kで遠心分離した。その後、タンパク質をPBSで平衡化したプロテインGカラム(25ml)上に5ml/分間で載せた。カラムを平衡化バッファーで洗浄し、その後、0.58%の酢酸で溶出させた。画分をSDS PAGEによってアッセイした(データ示さず)。bH1 Fabを含有する画分をプールし、その後、20mMのMES、pH5.5で平衡化した50mlの陽イオン交換SPセファロースカラム(Pharmacia)上に載せた。Fabを平衡化バッファー中の塩化ナトリウムの勾配で溶出させた。勾配は0.5MのNaCl、20mMのMES、pH5.5まで直線的であった。Fabを含有する画分をSDS−PAGEによって同定し(データ示さず)、プールした。bH1 Fabは約0.5MのNaCl濃度で溶出させた。Fab濃度はA
280を測定することによって決定した。bH1 Fabの最終収率は、1lの発酵槽増殖物あたり67mgであった。
【0167】
複合体は、精製したbH1 FabおよびVEGFまたはHer2 ECDを2:1のモル比で混合し、VEGF−Fab複合体には25mMのトリス−HCl、pH7.5および0.3Mの塩化ナトリウム、Her2 ECD−Fab複合体には25mMのトリス−HCl、pH8および0.15Mの塩化ナトリウム中でのサイズ排除クロマトグラフィー(SP−200、Pharmacia)によって精製することによって得た。生じた複合体の組成はSDS PAGEによって検証した(データ示さず)。タンパク質複合体を濃縮し、結晶化の試行で使用した。19℃の蒸気拡散方法を用いた初期の懸滴実験の結果、bH1−VEGF複合体の場合では1週間以内に14通りの異なる条件から小さな同形結晶が生じた。bH1−Her2複合体の結晶は4つの条件で1週間以内に出現した。それぞれの場合について、1つの条件からの結晶をさらなる最適化のために選択した。
bH1 Fab−VEGF(8〜109)の結晶化には、等体積のタンパク質複合体溶液(10.6mg/mlのタンパク質、300mMのNaCl、25mMのトリス−HCl、pH7.5)および0.15MのD,Lリンゴ酸、pH7.0、20%のPEG
3350を含有する結晶化バッファーを19℃で混合し、平衡化した。24時間後に、a=100.6、b=198.0、c=77.7のセル寸法を有する空間群C222
1に属する大きな結晶が出現した。結晶形は不斉ユニット中に1個のFabおよび1個のVEGF単量体を含有していた。人工母液中に5%、10%、および15%のグリセロールを含有する液滴間を移送させ、続いて液体窒素中でフラッシュ凍結することによって、データ収集前に結晶を凍結保護した。データはAdvanced Light Source(Berkeley)のビームライン5.0.1で2.6Åまで収集した。
bH1 Fab−Her2(1〜624)の結晶は、タンパク質溶液(11mg/ml、25mMのトリス、pH8および150mMの塩化ナトリウム)を、25%w/vのPEG
2000、0.1MのMES、pH6.5を含有する結晶化バッファーと混合することによって得た。12時間後に、a=62.3、b=115.1、c=208.2のセル寸法を有する空間群P2
12
12
1に属する結晶が出現した。不斉ユニット中に1個のHer2−Fab複合体が含有されていた。データ収集の前に、20%のエチレングリコールを凍結保護剤として用いて結晶を液体窒素中でフラッシュ凍結した。データはAdvanced Light Source(Berkeley)のビームライン5.0.1で2.9Åまで収集した。
【0168】
データ処理、構造決定、および洗練
データはDenzoおよびScalepackを用いて処理した(Otwinowski、1997)。bH1 Fab複合体の構造はPhaserによって解析した(L.C.Storoni、2004、Read、2001)。bH1−Fab−VEGF(8〜109)複合体は、以前に記載されているVEGF−Fab複合体(2FJG)からのVEGFおよびHerceptin(登録商標)抗体Fab−Her2複合体(1N8Z)の可変ドメインV
L/V
Hまたは定常ドメインC
H1/C
Lのいずれかを含有するFab断片の座標を用いて解析した。Her2の断片およびHer2−Fab複合体1N8ZからのHerceptin(登録商標)抗体Fabの可変ドメインを、bH1−Her2構造を解析する際の検索モデルとして使用した。bH1 Fabの定常ドメインは、Herceptin(登録商標)抗体Fab定常部分を検索モデルとして使用した場合に見つけることができず(1N8Z)、Herceptin(登録商標)抗体Fab−Her2複合体構造によって導いて手動でドッキングしなければならなかった。モデルの構築および洗練は、それぞれプログラムRefmac(Collaborative Computational Project、1994)およびCoot(EmsleyおよびCowtan、2004)を用いて行った。立体化学的なパラメータはMolProbityを用いて分析した(Lovellら、Proteins、50:437(2003))。構造は、Fab−VEGF−複合体にはR
value=0.22およびR
free=0.27まで、Fab−Her2−複合体にはR
value=0.25およびR
free=0.31まで洗練させた。VEGFおよびHer2−ECDとの複合体中のbH1 Fabの結晶構造をモデリングした。一部のbH1 Fab残基は抗原の4.5、4.0、および3.5Å以内にあった。同じ抗体上の2つの抗原の2つのパラトープ(抗原との接触を行う抗体上の領域)は顕著に重複し、軽鎖および重鎖の両方からの残基が、両方の抗原との結合に関与している。bH1は、Avastin(登録商標)抗体と同様のVEGF上のエピトープと結合し、また、bH1は、Herceptin(登録商標)抗体と本質的に同一のエピトープ上のHer2と結合する。
【0169】
HER2の細胞外ドメイン(ECD)(残基1〜624)およびVEGFレセプター結合ドメイン(残基8〜109)と結合したbH1 Fabの結晶構造を、それぞれ2.9Åおよび2.6Åの分解能で決定した(
図26および表3)。
図26は、Herceptin(登録商標)抗体/HER2複合体と重ね合わせたbH1 Fab/HER2の結晶構造、およびbH1 Fab/VEGF複合体の結晶構造を示す。
bH1/HER2複合体では、FabはHerceptin(登録商標)抗体と同様の様式でHER2のドメインIVと結合する(Choら、Nature、421:756、2003)。2つの複合体は2.3ÅのCα位置の標準偏差(r.m.s.d.)と重なる。VEGF複合体中では、bH1は、VEGFレセプターVEGFR1およびVEGFR2ならびに他のVEGF抗体の結合部位と重複するエピトープを認識する(Wiesmannら、Cell、91:695、1997、Mullerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94:7192、1997)。一貫して、VEGFとそのレセプターとの結合のbH1遮断が観察された(
図27)。
図27に示すデータでは、ビオチン標識したヒトVEGF
165を漸増濃度のIgG(x軸)で平衡化した。結合していないhVEGF
165を固定化したVEGFR2−ECD Fc融合体上に捕捉し、分光光度によって検出した(450nmの光学密度、y軸)。
【0170】
図28に示すように、bH1上のVEGFおよびHER2の結合部位は広範に重複する。HER2と結合する14個の残基のうちの12個はVEGFとも接触する。どちらの結合部位にもHCおよびLCからのCDR残基が含まれる。HER2複合体中では、LCおよびHC CDRは、ほぼ等しい抗原接触面積に貢献する(それぞれ53%および47%)一方で、VEGF複合体中では、LC CDRは埋没した表面のほぼ70%を構成する(
図29)。Herceptin(登録商標)抗体およびbH1上のHER2結合部位は類似しており、Herceptin(登録商標)抗体配列がbH1中で保存されていないCDR−L1および−L2領域中のみが異なる(
図28)。
図28では、bH1またはHerceptin(登録商標)抗体のFab表面上の残基は、VEGFまたはHER2によって埋没された程度に従って陰影をつけた(濃い色および白文字、>75%埋没した、中間の色および白文字、50〜75%埋没した、薄い色および黒文字、25〜49%埋没した)。下線を引いた残基はbH1およびHerceptin(登録商標)抗体の間で異なる。白い点線は軽鎖および重鎖の境界線を示す。
【0171】
【表3】
【0172】
HER2との複合体中のbH1 Fabのコンホメーションは、VEGFと結合したFab(標準偏差=0.7Å、Cα)のそれと顕著に類似している。両方のbH1 Fab構造のCDRは互いに良好に重なり合い、親Herceptin(登録商標)抗体FvおよびbH1 Fv(HER2)は標準偏差=0.6Åであり、Herceptin(登録商標)抗体FvおよびbH1 Fv(VEGF)は標準偏差=1.2Åである。CDR−L1は例外であり、2つの複合体の構造が顕著に異なり、偏差は4.6Åである(残基27〜32のCα)。
図30は、CDR−L1を例外として、VEGFと結合したbH1 FabのCDRコンホメーションが、HER2と結合したbH1およびHerceptin(登録商標)抗体と顕著に類似していることを示す。
図30は、VEGFと結合したbH1(濃い色)、HER2と結合したbH1(白)およびHER2と結合したHerceptin(登録商標)抗体(薄い色)のチューブとしてのCDRループの重ね合わせである。CDR−L1ループは、2つのbH1構造において顕著に異なるコンホメーションを示す(bH1残基27〜32の標準偏差
Cα=4.6)(
図31)。HER2複合体中では、CDR−L1は抗原相互作用に最小限しか関与しておらず、ループの一部(残基28〜30b)は柔軟に見える。VEGF結合には、ループ全体が良好に構成されており、VEGFによって埋没された表面積の26%に貢献する。
【0173】
CDR−L1中の2個の残基、Ile30cおよびTyr32は異なるコンホメーションを有し、bH1とHER2またはVEGFとの結合において異なる役割を果たす。HER2複合体中では、Ile30cの側鎖は、CDR−L1およびCDR−L3残基によって形成される疎水性コア中に埋没している。VEGF複合体中では、この側鎖はVEGFと疎水性接触を形成する。Tyr32のCαは2つの構造中で同じ位置にあるが、その側鎖は約130度回転している。HER2複合体中では、Tyr32はレセプターに対してパッキングしているが、VEGF複合体中では、側鎖はIle29と一緒になって疎水性コアを形成し、CDR−L1およびCDR−L3のコンホメーションを支持する。CDR−L1コンホメーションは、Tyr32とLCフレームワーク残基Gly72との間の水素結合によってさらに安定化される。構造解析により、アラニンまたはフェニルアラニンのどちらへの突然変異も許容されないため、Tyr32がVEGF結合に重要であることが確認される。VEGF結合とは反対に、Tyr32からアラニンへの突然変異(Herceptin(登録商標)抗体の残基に戻る)はHER2結合に好ましい。2つの複合体の重ね合わせにより、VEGFは、そのHER2と結合した状態のCDR−L1のTyr32と衝突することが明らかとなる(
図31)。
図31では、残基Tyr32、Ile30c、Ile29、およびGly72の側鎖を棒として示す。平均よりも高い温度要因を有する残基を濃い色で示す(残基28〜30b)。Tyr32とGly72との間の水素結合を点線によって例示する。
上記結果は、CDR−L1を再編成する能力がbH1の二重特異性に必要であることを示している。CDR−L1の同様のコンホメーション柔軟性が、天然抗体の抗原認識において役割を果たすことが示されている(Jimenezら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、100:92、2003、Mylvaganamら、J.Mol.Biol.、281:301、1998)。
図26、28、30、31、および32は、PYMOL(DeLano Scientfic、San Carlos,CA)を用いて結晶構造の座標から作成した(PDBコード、3BDY、3BE1、1N8Z)。
【0174】
bH1ショットガンスキャニング
bH1Fabの抗原結合部位を研究するために、ファージ表出Fabライブラリーを用いたショットガンスキャニングコンビナトリアル突然変異誘発を行った(Vajdosら、J.Mol.Biol.、320:415、2002、Weissら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97:8950、2000)。機能的クローンを単離するために抗原(hVEGFおよびHer2−ECD)に対する結合選別、続いてDNA配列決定を行うことで、それぞれの変化させた位置での野生型/突然変異体の比の計算が可能となった(Vajdosら、2002)。その後、これらの比を使用して、VEGFおよびHer2の結合に対するそれぞれのスキャニングした側鎖の貢献を決定する。結果により、VEGFおよびHer2を結合することに関する機能的パラトープのマッピングが可能となった。
【0175】
bH1ショットガンライブラリーの設計
CDR中の溶媒に曝露された残基を、野生型残基をアラニンもしくは野生型(アラニンスキャニング)またはホモログ残基もしくは野生型(ホモログスキャニング)のどちらかとして変動させたファージ表出ライブラリーを用いてスキャニングした。遺伝暗号の性質により、Wt/アラニンまたはWt/ホムログ(Homlog)残基に加えて何らかの他の置換をライブラリー中に含めることが必要であった(
図33)。別々の重鎖および軽鎖のアラニンおよびホモログスキャニングライブラリーを構築した。ライブラリーは
図34に記載する。縮重は1.3×10
5〜1.3×10
8個の範囲であり、実際のライブラリーの大きさは6×10
9〜4×10
10個であった。
【0176】
ショットガンスキャニングライブラリーの構築
上述のように、M13バクテリオファージの表面上にbH1 Fabの表出を可能にするため、M13遺伝子−3マイナーコートタンパク質のC末端ドメインと融合させたファージ上でhu4D5Fabを表出するように設計された以前に記載したプラスミドAP2009を、標準の分子生物学技法を用いて、bH1Fabをコードするように改変した。軽鎖のC末端はエピトープ(gD)タグを含有していた。bH1 Fabの「ストップ鋳型」バージョンをライブラリーの鋳型として使用した(Sidhuら、2004)。軽鎖のアラニンおよびホモログスキャニングライブラリーはCDR−L1、CDR−L2およびCDR−L3中にストップコドンを有しており、重鎖のアラニンおよびホモログライブラリーはそれぞれの重鎖CDR中にストップコドンを含有していた。ライブラリーは、以前に記載されている方法によって(Sidhuら、2004)、対応するストップ鋳型にKunkel突然変異誘発を用いて(Kunkelら、1987)、構築した。
【0177】
ライブラリーの選別
NUNCの96ウエルMaxisorp免疫プレートを5μg/mlの捕捉標的(hVEGF
109、Her2−ECDまたは抗gD mIgG)でコートし、PBS中の1%のBSA(w/v)で遮断した。記載のように上述のライブラリーからのファージをKO7ヘルパーファージ(NEB)と共に繁殖させた(Leeら、2004a)。ライブラリーファージ溶液をコートしたプレートに10
13個のファージ粒子/mlの濃度で加え、1〜2時間室温でインキュベートした。プレートをPBSTで8回洗浄し、続いて、結合したファージを0.1MのHClで30分間溶出させた。各回の選別後の濃縮は既に記載のように決定した。2回の標的選別後、5〜10倍の濃縮を示したhVEGF上で分類したLC−AlaおよびLC−Hom以外のすべてのライブラリーで、50〜1000倍の濃縮が観察された。50〜1000倍の濃縮を示すそれぞれのライブラリーからのいくつかのランダムクローンを、記載のように配列決定のために選別した(Sidhuら、2004)。ライブラリーLC−AlaをファージELISAにおいてhVEGF結合についてスクリーニングした(Sidhuら、2000)。BSAでコートしたコントロールプレート上のシグナルよりも少なくとも2倍高いhVEGF ELISAシグナルを示したクローンを、配列決定のために選別した。LC−Homライブラリーは、hVEGF上でのさらに1回の選別、続いてファージELISAスクリーニングおよびVEGF結合クローンの配列決定に供した。
【0178】
DNAの配列解析
様々な標的選別からのそれぞれのライブラリーからの高品質配列を翻訳およびアラインメントした(データ示さず)。分析に供したそれぞれのライブラリーからの配列の数を以下の表4に要約する。
【表4】
【0179】
変化させた位置でのWt/Mut比を計算することで(
図35および
図36)、記載したF
wt/mut値の計算が可能となり(
図35および
図36)、これらは、記載のように標的選別からの比を表出選別からの比で除算することによって、表出について補正されている(Vajdosら、2002)。1より高いF
wt/mut値は、Wtがこの位置で好ましいことを示し、1より低いF
wt/mutは、突然変異が好ましいことを示す。F
wt/mut>5は、抗原結合におけるその重要な役割を示している。それぞれのスキャニングしたCDR残基の重要性を
図37A〜37Dに例示する。結果により、重鎖および軽鎖のどちらからの残基も、どちらの抗原(Her2およびhVEGF)の結合にエネルギー的に貢献することを実証している。Her2結合に対するbH1軽鎖および重鎖残基の影響を、その親抗体hu4D5と比較した(KelleyおよびO’Connell、1993)(
図38)。
図39Aおよび
図39Bは、VEGFおよびHER2との結合における、bH1 Fabのショットガンアラニンおよびホモログスキャニングを示す。アラニンの突然変異(m1)、もしくはさらなる突然変異(m2、m3、ショットガン−アラニンコドンの制限による)、または相同的アミノ酸への突然変異(m4)の効果を、ヒトVEGF(
図39A)またはHER2(
図39B)と結合するクローンの中での野生型および突然変異体の発生率の比(wt/mut)として計算する。野生型残基のみが出現した場合は、比は野生型計数よりも大きい「>」として示す。アミノ酸置換(m1〜m4)が何であるかは、F値の上付き文字として示す。野生型残基がアラニンである場合は、これをグリシンによって置換した(m1)。「
*」は、VEGFまたはHER2複合体の形成の際に埋没されるbH1残基の程度を示す(
*25〜49%の接近可能な面積が埋没している、
**50〜75%の接近可能な面積が埋没している、
***75%以上の接近可能な面積が埋没している)。
【0180】
エネルギー的相互作用に顕著に貢献する残基が機能的パラトープを構成し、これは構造的結合部位の部分組を構成する。抗原接触部位間の広範な重複とは対照的に、2つの機能的パラトープは限定的な重複を示す(
図32および40)。具体的には、ショットガンスキャニング突然変異誘発に基づいて、VEGF(
図40A)またはHER2(
図40B)結合について、ΔΔG値(y軸、kcal/mol)をそれぞれのアラニン(黒バー)または相同的アミノ酸(白バー)への突然変異についてプロットする。「†」は、この位置では突然変異が観察されなかったため、下限を表す。「
*」は、VEGFまたはHER2複合体の形成の際に埋没されるbH1残基表面積の程度を示す。(
*25〜49%が埋没した、
**50〜75%、
***>75%)。VEGF結合相互作用は、コアホットスポットとしてCDR−L1のTyr32およびCDR−L3のHis91を有するLC CDRによって主に媒介されている(ΔΔG
wt/ala>1.5kcal/mol)。HER2結合は主にHC CDRによって貢献されている。
図32は、bH1およびHerceptin(登録商標)抗体の残基をその機能的重要性に基づいてFab表面上に陰影をつけた、結晶構造を示す(濃い色および白文字、ΔΔG≧1.5kcal/mol、中間の色および黒文字、1≦ΔΔG<1.5kcal/mol、薄い色および黒文字、0.5≦ΔΔG<1kcal/molのアラニン突然変異)。黒い点線は
図28と同様に接触面積の輪郭を示す。白い点線は軽鎖および重鎖の境界線を示す。
VEGF結合およびHER2結合では、機能的パラトープ残基はHCおよびLCにわたって分布されており、2本の鎖の相乗作用を示している。CDR−H3のTrp95が2つの相互作用の唯一の共通のホットスポット残基である(ΔΔG
wt/ala>1.5kcal/mol)。上述のように、VEGF結合相互作用は主にLC CDRによって媒介される一方で、HER2結合はHC CDRによって支配される。Herceptin(登録商標)抗体と比較して、より弱いHER2結合親和性を有するbH1(300倍)はHER2結合に対して同じコアホットスポット残基を維持し(Arg50、Trp95、およびTyr100a)、他方で、周辺残基の重要性は再分布されている(
図32)。前提的に、hu4D5/Her2結合に貢献する重鎖中の重要な側鎖のほとんどは、bH1/Her2結合にも重要である(ΔΔG>1.5kcal/mol)。一部の変化は存在する。軽鎖残基は貢献により多くのシャフリングを有し、一部の残基は重要性が減り、一部は重要性が増す。全体的に、機能的部位はbH1−VEGFおよびbH1−Her2複合体の結晶構造からの構造的界面の一部である。
【0181】
手短に言うと、bH1と2つの構造的に非関連の大きなタンパク質との相互作用は、それぞれの抗原とエネルギー的に相互作用しているbH1残基の明確な組の結合によって特徴付けられている。2つの異なる抗原の2つの広範に重複する結合部位のほとんどは単一のコンホメーションを示すが、1つのCDRループ(L1)の柔軟性により、HER2およびVEGFの両方の収容が容易となる。この機構は、非関連の小ハプテンまたはペプチドと結合する多重特異的性抗体で観察される分子万能性によく似ている。以前の研究が、単一の抗体コンホメーションの空間的に明確に異なる領域での小リガンドの示差的な配置(Sethiら、Immunity、24:429、2006)、または抗原結合部位の複数の既存のコンホメーション(Jamesら、Science、299:1362、2003)のどちらかによって媒介される、多重特異性を説明している。限定的LC突然変異によって2つの非関連のタンパク質抗原と結合する抗体を産生させる方法によって、抗原認識における抗体分子の万能性をさらに強調する。
【0182】
bH1親和性成熟
構造的および機能的な結果が利用可能になる前に軽鎖配列の最適化によってbH1のVEGF結合親和性を増加させることができるかどうかを調査する試みとして、bH1 Fabに非常に似ていると予想されるh4D5
42 Fabの結晶構造に基づいて高度に溶媒接近可能な位置にあるCDR残基を多様化したライブラリーを構築した(Eigenbrotら、2001)。標的残基を野生型または数個の相同的残基のいずれかとして変動させた(
図34)。ライブラリーは、「ショットガンスキャニングライブラリーの構築」のセクションで記載のように構築した。溶液に基づく選別方法を用いて、記載のようにより高い親和性VEGF結合体を選別した。2回の溶液に基づく選別を行った。ビオチン標識したVEGFの濃度を、1回目の50nMから2回目の20nMまで減少させることによって、各選別の回でストリンジェンシーを増加させた。最終回の選別で138個のクローンを配列決定した。ほとんどのクローンはユニークであることが判明した。固定化したVEGF(8〜109)、抗gD抗体、およびHer2−ECDを用いた高スループットELISAアッセイを使用して、VEGF、Her2−ECD、および抗gD mIgGと結合したがBSAと結合しなかったクローンを同定した。VEGF−ELISA結合シグナルを抗gD ELISAシグナルによって正規化して、VEGF結合クローンの相対的親和性を推定した。高いVEGF/抗gD比を有するクローンを、さらなる特徴付けのために選別した。選別したクローンのVEGFおよびHer2に対する親和性は、競合ELISAによって以前に記載したファージ表出Fabとして推定した。bH1変異体は、親bH1クローンと比較して改善されたVEGF結合親和性を示す。興味深いことに、Her2の親和性に基づく選別を行わなかったにもかかわらず、一部のクローンはHer2結合に対してわずかに改善されたIC
50値を有する。Her2結合に能力を顕著な影響を与えずに、VEGF結合についてbH1クローンを親和性成熟させることが可能なことを示している。親bH1クローンと比較してHer2結合親和性が低下した、VEGFの親和性が改善されたクローンが一部存在する。この結果は、bH1−Her2複合体構造およびショットガンアラニンスキャニング分析に基づいて重鎖が結合エネルギーへの主な貢献者であることにもかかわらず、軽鎖がbH1とHer2との結合能力に能動的に貢献することを示している。特徴付けたクローンの配列およびIC
50値を
図41に要約する。ほとんどの配列がユニークであるという発見は、これらの変異体の軽鎖配列はVEGF結合に対して未だ完全に最適化されておらず、さらなる回数の選別によってbH1クローンの親和性をさらに改善させることが可能であることを示唆している。
表5に示すように、単一のFabの2つの抗原に対する顕著な親和性改善が達成可能であり、一般的に適用可能である。例えば、ヒトVEGFのK
Dは250(bH1、IgG)から41(bH1−81、IgG)または16nM(bH1−44、IgG)に増加し、HER2のK
Dは21(bH1、IgG)から7(bH1−81、IgG)または1nM(bH1−44、IgG)まで増加した。
【0183】
親和性は、bH1のHCおよびLC CDR中に突然変異を導入することによって改善させた。位置は、本明細書中に記載のVEGFおよびHER2の機能的パラトープに関する情報に基づいて選別した。bH1変異体は、2つのステップで、本明細書中に記載のファージ表出ライブラリーの選別およびスクリーイング(screeing)によって単離した。改善されたクローンbh1−81は、記載した軽鎖ホモログショットガンスキャニングライブラリーの親和性に基づく選別によって単離した。第2のステップでは、bH1−81の残基をランダム化することによって、最高の親和性のクローン(bH1−44)をライブラリーから単離した。具体的には、bH1−81のHCおよびLC中の部位をランダム化されたオリゴヌクレオチドを設計して(表5)、それぞれの位置で約50%の野生型および50%のすべての他の19種のアミノ酸をコードさせた(Gallopら、Journal of Medicinal Chimistry、37:1233、1994)。
【0184】
bH1親和性改善変異体のK
D(表5)を、Fab断片およびIgG抗体について測定した。本明細書中に記載のように、Fab断片およびIgG抗体をそれぞれ大腸菌および293細胞中で発現させ、精製した。Leeら(J.Mol.Biol.、340:1073、2004)に記載のように、BIAcore3000を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)の測定値を使用して、Fab断片およびIgG抗体の結合親和性を決定した。一価Fab断片としての抗体の親和性を研究するために、抗原(hVEGF
109、マウスVEGF
102、およびHER2 ECD)を低密度でBIAcore CM5チップ上において固定化した。Fab断片の段階希釈液を固定化した抗原と接触させ、結合応答をSPRによって測定した。1:1のラングミュア結合モデルを使用してk
on、k
off、およびK
Dを計算した。IgG抗体のK
Dを決定するために、固定化した抗Fc抗体によってIgGをBIAcore CM5チップ上に捕捉し、hVEGF
109、マウスVEGF
102、およびHER2−ECDの段階希釈液に曝露させた。HER2では、単純な1;1のラングミュア結合モデルを用いてK
Dを決定し、一方で、VEGFは二価分析物モデルを要した。すべての実験は30℃で行った。
【0185】
表5には、ランダム化された位置を太字で示し、bH1、bH1−81、およびbH1−44のCDR配列(配列番号1〜9および39〜41)ならびにその親和性(表面プラズモン共鳴によって決定)を要約する。
【表5】
【0186】
ヒトVEGF
109、マウスVEGF
102、およびHER2 ECDに対する抗体の一価親和性をBIAcoreによって測定した。表5は、それぞれの結合相互作用の代表的な解離定数(K
d)を示す。bH1変異体は溶液競合実験において完全長タンパク質(VEGF
165)およびVEGF
109と同様の親和性で結合するため(データ示さず)、VEGF(VEGF
109)のレセプター結合断片をBIAcore実験で使用した。様々なアッセイ様式および評価モデルを用いて本明細書中に記載のFab断片/IgG抗体K
dを計算した。様々なアッセイ/評価様式により、個々の相互作用について一貫した解離定数が得られた。
【0187】
実施例5.細胞アッセイにおけるIgG活性の分析
bH1および3−1抗体がhVEGF
165に誘導されるヒト臍静脈内皮(HUVEC)細胞の増殖を阻害できるかどうかを決定するために、これらを増殖アッセイで試験した。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)(Cambrex、East Rutherford,NJ)を成長させ、記載のようにアッセイした(Fuhら、J.Biol.Chem.、273:11197、1998)。約4000個のHUVECを96ウエル細胞培養プレートのそれぞれのウエル中にプレートし、1.0%(v/v)のウシ胎児血清を添加したダルベッコ変法イーグル/F−12培地(1:1)(アッセイ培地)中で18時間インキュベートした。その後、準最大DNA合成を刺激することができるVEGFのレベルとして最初に滴定した固定量のVEGF(0.2nMの最終濃度)を含む新鮮なアッセイ培地、および漸増濃度の抗VEGF抗体(例えばbH1)を細胞に加えた。37℃で18時間インキュベートした後、細胞を0.5μCi/ウエルの[
3H]チミジンで24時間パルスし、収集してTopCountマイクロプレートシンチレーションカウンターで計数した。結果は、3−1およびbH1はどちらも、hVEGFに誘導されるシグナルおよび続く増殖を妨げることによって、VEGFに誘導されるHUVEC細胞の成長を阻害できることを実証している。Avastin(登録商標)抗体(抗VEGF)を陽性コントロールとして使用し、Herceptin(登録商標)抗体を陰性コントロールとして使用した(
図42)。
二重特異性抗Her2/VEGF抗体と哺乳動物細胞上で発現されるHer2との結合を研究するために、bH1およびbH3抗体とHer2を過剰発現するNR6線維芽細胞(NR6−Her2)との結合をフローサイトメトリーによって研究した。100万個のNR6−Her2細胞を100μg/mlのFabおよびIgGと共に1時間インキュベートし、続いて、Alexa488とコンジュゲートさせたマウス抗ヒトIgG抗体と共に1時間インキュベートした。陰性コントロールとして、非発現NR6細胞と結合するFabおよびIgGを研究した。
図43に実証するように、bH1およびbH3はNR6細胞上のHer2とFabとしておよびIgGとして特異的に結合する。
【0188】
図44は、bH1とVEGFまたはHER2との競合的結合実験の結果を示す。bH1は、VEGFに誘導されるヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖を200nMのIC
50で阻害し、これは300nMというその親和性、および、その減少した親和性が原因でHerceptin(登録商標)抗体よりも低い効率ではあるが、5日間のインキュベーション後のHER2を発現する乳癌細胞系BT474の増殖と一貫している(
図45)。Herceptin(登録商標)IgG抗体およびベバシズマブ(抗VEGF)がコントロールとして役割を果たした。
図45に示すように、bH1−81およびbH1−44抗体は、VEGFに誘導されるHUVEC細胞の増殖およびBT474細胞の成長をbH1よりも高い程度で阻害する。bH1変異体の増加した力価は、その相対的な親和性と相関している。最も高い親和性の変異体bH1−44は、それぞれベバシズマブまたはHerceptin(登録商標)抗体に同様の力価でHUVECおよびBT474細胞の成長を阻害する。
これらの実験を実施するために、VEGFで刺激したHUVECを漸増濃度のヒトIgGで処置し、2日間のインキュベーション後の増殖阻害をLiangら(J.Biol.Chem.、281:951、2006)に記載のように測定した。乳癌細胞BT474は10%のFBSを添加したRPMI培地中で培養した。アッセイでは、96ウエルプレート中に1個のウエルあたり10
4個の細胞をプレートし、終夜(18時間)、37℃でインキュベートした。漸増濃度のヒトIgGを細胞に加えた。その後、細胞を37℃で5日間インキュベートし、続いて10%のAlamarBlue(Biosource International、Camarillo,CA)を製造者の指示に従って加えた。HER2発現細胞の増殖の抗体依存性阻害は、6時間後の蛍光シグナルを測定することによって決定した。
【0189】
実施例6.結合特異性の分析
LCライブラリーに由来する抗体の結合特異性を決定した。IgGと同族抗原を含めた様々な固定化した精製したタンパク質または細胞溶解物との結合をELISAによってアッセイした。抗原を固定化し、15μg/mLの濃度のhIgGと共に1時間インキュベートした。結合したIgGを分光光度によって検出した(450nmの光学密度、y軸、
図46)。アッセイに含めたタンパク質は(
図46中の左から右)、血管内皮増殖因子A(VEGF)、マウス血管内皮増殖因子(マウスVEGF)、血管内皮増殖因子C、(hVEGF−C)、血管内皮増殖因子D、(hVEGF−D)、HER2細胞外ドメイン(HER2 ECD)、表皮増殖因子レセプター細胞外ドメイン(hEGFR)、ErbB3/HER3細胞外ドメイン(HER3 ECD)、ヒトデスレセプター5(hDR5)、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ウシ胎児血清(FBS)、Neutravidin、5%の乳、マウス線維芽細胞溶解物、およびhVEGF−AまたはHER2 ECDを入れたマウス線維芽細胞溶解物であった。
図46では、誤差バーは2つ組の標準誤差(SEM)を表す。抗体bH3、3−1、bD1、bD2、4−1、および4−5は、マウスVEGF、HER3 ECD、Neutravidin、5%の乳、hVEGF−Aを入れた細胞溶解物、およびHER2 ECDを入れた細胞溶解物との結合について試験しなかった。
様々な抗体(Avastin(登録商標)抗体、Herceptin(登録商標)抗体、bH1、bH3、bH4、bH1−81、およびbH1−44)がVEGFとVEGFレセプターとの結合を遮断する能力も決定した(
図47)。ビオチン標識したヒトVEGF
165(
図47A)またはマウスVEGF
164(
図47B)を漸増濃度のIgGで平衡化した(x軸)。結合していないVEGFを固定化したヒトVEGFR2−ECD Fc融合タンパク質上に捕捉し、分光光度によって検出した(450nmの光学密度、y軸)。同様の阻害がVEGFR1でも観察された。抗VEGF抗体は、VEGFとVEGFレセプターとの結合を遮断する。
【0190】
抗原VEGFおよびHER2は、溶液中のbH1−44二重特異性IgG抗体との結合を競合することが示されている(
図48)。0.1nMの濃度のヒトbH1−44 IgG抗体を、0.1nMのビオチン標識したヒトVEGF
165と共に、漸増濃度のHER2 ECDの存在下でインキュベートした。bH1−44を固定化した抗ヒトFcによって捕捉し、bH1−44と結合したビオチン−VEGFをストレプトアビジン−HRPで検出した。捕捉されたbH1−44と結合したHER2 ECDは、HER2上の非重複エピトープと結合するマウス抗HER2抗体、続いてHRPとコンジュゲートさせたヤギ抗マウスIgGを用いて検出した(
図48A)。0.2nMの濃度のヒトbH1−44 IgGを、0.6nMのビオチン標識したHER2と共に、漸増濃度のヒトVEGF
165の存在下でインキュベートした。bH1−44を固定化した抗ヒトFcによって捕捉し、bH1−44と結合したビオチン−HER2をストレプトアビジン−HRPで検出した(
図48B)。
また、bH1およびbH1−44と細胞との特異的結合を、FACSを用いて検出した(蛍光活性化細胞分類、
図49)。二重特異性抗体(bH1およびbH1−44)はHER2を発現するマウス線維芽細胞(NR6)と結合するが(
図49B)、HER2陰性のNR6細胞とは結合しない(
図49A)。50〜100万個の細胞を15μg/mLのhIgGと共に氷上で1時間インキュベートした。細胞と結合した一次抗体は、二次の蛍光PEとコンジュゲートさせたヤギ抗ヒトIgGを用いて検出した。細胞はFACS Caliburフローサイトメーターを用いて分析した。ラットneu(HER2のラット相同分子種)でトランスフェクトしたマウス線維芽細胞に対する結合は検出されなかったため、bH1およびbH1−44はHER2のラット相同分子種と交差反応しなかった。
【0191】
bH1抗体変異体bH1−81およびbH1−44の特異性をさらに特徴付けるため、免疫沈降実験を実施し、bH1抗体変異体は、VEGFまたはHER2をマウス線維芽細胞(NR6)溶解物から特異的に免疫沈降させるが、他のタンパク質はさせないことが示された(
図50)。NR6細胞を非特異的にビオチン標識し、溶解し、細胞膜タンパク質を洗剤で溶かした。500〜1000万個の細胞/mLのNR6細胞に対応する細胞溶解物、0.1μg/mLのビオチン標識したVEGF
165を入れたNR6細胞、またはNR6細胞を過剰発現するHER2を、15μg/mLの抗体と共にインキュベートした。抗体を、プロテインAでコートしたセファロースビーズを用いて捕捉し、結合したタンパク質を溶出させた。溶出させたタンパク質をSDS−PAGEによって分離した。約25〜50,000個の細胞に対応する細胞溶解物および約12〜25万個の細胞からの免疫沈降物をゲルに載せた。捕捉されたビオチン標識したタンパク質は、ストレプトアビジン−HRPを用いたウエスタンブロッティングによって検出した。
【0192】
実施例7.in vivoアッセイにおけるIgG活性の分析
in vitroのこれらの抗体の二重活性がin vivoの対応する活性に変換されるかどうかを評価するために、抗VEGF抗体(Colo205、結腸直腸癌細胞系)またはHerceptin(登録商標)抗体(BT474M1、乳癌細胞系)による処置に応答性であることが知られているマウス異種移植腫瘍モデルを用いた。具体的には、Colo205異種移植体をnu/nuマウスで使用し、BT474M1異種移植体をベージュヌードXIDマウスで使用した。すべての動物研究は米国実験動物管理認定協会(American Association for Accreditation of Laboratory Animal Care)およびGenentech施設内動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の指針に従っていた。
具体的には、BT474M1(インハウス)およびColo205(ATCC、Manassas,VA)細胞をRPMI培地/10%のウシ胎児血清中で培養した。5×10
6個のBT474M1細胞をハンクス緩衝塩溶液(HBSS)に懸濁させ、マトリゲル(1:1)混合物を、エストラジオールペレットを皮下移植したHarlanベージュヌードXIDマウス(Indianapolis,IN)の乳腺脂肪体内に注射した。Colo205異種移植体では、HBSS中の5×10
6個のColo205細胞をCharles River nu/nuマウス(Hollister,CA)内に皮下注射した。平均の腫瘍の大きさが約200mm
3に達した後、マウスを8匹のマウス(BT474M1)または10匹のマウス(Colo205)の7つの群へとランダムに群分けした。抗体は1週間に1回腹腔内投与した。腫瘍の大きさを1週間に2回測定した。体積はV=0.5ab
2(aは腫瘍の最長の寸法であり、bはaに垂直である)として計算した。統計的評価では一方向分析、続いて両側スチューデントt検定を使用した。多重比較(ボンフェローニ)によるアルファレベルの調節では、本発明者らの結論の有意性は変更されなかった。部分的応答(PR)とは、V0と比較して腫瘍体積が50〜99%低下した応答として定義した。血清試料は最初および3回目の処置の後の7日目に収集した。ヒト抗体の濃度はELISAを用いて決定した。ロバ抗ヒトIgG Fcを免疫プレート上に固定化した。血清および標準抗体の希釈液をプレート上で2時間インキュベートした。結合した抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートさせたヤギ抗ヒトIgG Fc、続いてTMB基質/1Mのリン酸によって検出した。プレートは450/620nmで読み取った。試料の濃度は4−パラメータのアルゴリズムを用いて決定した。
bH1−44で処置した群を、抗VEGF(B20−4.1)(Liangら、J.Biol.Chem.、281:951、2006)、Herceptin(登録商標)抗体、または組合せ(Herceptin(登録商標)抗体+抗VEGF)で処置した群と比較して、bH1−44抗体がVEGFおよびHER2に媒介される腫瘍成長を阻害できることをさらに確立させた。すべての群で、抗体は、処置の開始後の7日目にColo205異種移植体からの血清中に高レベルで存在しており(ELISAによって推定)、これは正常な薬物動態を示している(表6)。
【0193】
【表6】
10mg/kgで1週間に1回投薬したbH1−44は、コントロール抗体と比較してColo205の腫瘍成長を阻害し(p<0.0001、n=10)、抗VEGF(10mg/kg/週)としても同様の有効性を有している一方で、Herceptin(登録商標)抗体はColo205の成長に影響を与えなかった(p=0.12、n=10)。予測どおり、組合せ処置では抗VEGF単独と同様の有効性が示された。10および20mg/kg/週で投与したbH1−44抗体では用量依存性の応答が得られた。BT474M1モデルでは、bH1−44抗体で処置したマウスの群において有意な腫瘍成長の阻害が観察された(10mg/kg/週、p=0.0005、n=8および20mg/kg/週、p=0.0001、n=7)。Herceptin(登録商標)抗体またはHerceptin(登録商標)/抗VEGFの組合せを投薬した群と同様、bH1−44抗体で処置した腫瘍の半数より多くが、初期体積から50%を超える回帰を示した(すなわち、部分的応答、
図51)。他方で、抗VEGF単独では、コントロールと比較してBT474M1に対して中程度の成長阻害効果しか示されず(p=0.06、n=7)、部分的応答を示さなかった。したがって、二重特異性bH1−44抗体はin vivoでの腫瘍成長に重要な2つの明確に異なる機構を阻害することが示された。
上記結果は、in vivoの腫瘍成長に重要な2つの機構を阻害する、bH1抗体の親和性が改善された変異体(例えばbH1−44およびbH1−81)の潜在性を示している。
【0194】
実施例8.VEGFおよびHER2とbH1およびbH1−44との結合界面の特徴付け
bH1およびbH1−44の構造的特徴をさらに比較するために、VEGFおよびHER2とこれらの抗体との結合界面を同定した。表7に記載した構造的接触を、結晶構造座標3BDY(bH1/VEGF)および3BE1(bH1/HER2)に基づいて同定した。結合界面はプログラムXSAEを用いて計算した。このプログラムにより、界面が極性、疎水性、および混合として定義された。表7には、全表面積の>25%がHER2またはVEGFの結合の際に埋没したbH1残基を記載する。また、表7には、bH1残基の4.5Å以内のVEGFおよびHER2残基も記載する。複合体形成の際に埋没されるそれぞれの残基の表面積を、IMOLを用いて、結晶構造の座標3BDY、3BE1、および1N8Z(PDB)に基づいて計算した。表11に報告する極性および疎水性界面の領域は、極性界面領域および混合の半分を反映している。報告されている疎水性界面領域は、疎水性領域および混合の半分からなる。
結晶構造およびアラニンスキャニングにより、bH1がHerceptin(登録商標)抗体と同じHER2上の結合エピトープを保持することが示された(Bostromら、2009)。HER2との複合体中のHerceptin(登録商標)Fabの結晶構造は、bH1/HER2複合体上に良好に重ね合わされる(標準偏差0.8Å)(Bostromら、2009、Choら、2003)。さらに、アラニンスキャニング突然変異誘発に基づいて全結合エネルギーの10%よりも多くに貢献するHerceptin(登録商標)抗体残基は保存されており、その多くはbH1およびbH1−44の結合ホットスポットの一部でもある(Bostromら、2009、KelleyおよびO’Connell、1993)(表14、
図62)。bH1/VEGFとbH1/HER2との間の界面はそれぞれ1506Å
2および1579Å
2を埋没し、主に疎水性である(それぞれ60%および63%)。Herceptin(登録商標)/HER2結合界面はbH1/HER2界面と同様の大きさおよび組成を有しており(1524Å
2、60%の疎水性、表11)、高い形状相補性によっても特徴付けられている(表8)(Bostromら、2009)。
【0195】
【表7】
【0196】
抗体と抗原との間の形状相補性(表8中でScとして表す)を記載のように決定した(Lawrenceら、1993)。Herceptin(登録商標)抗体およびHER2の間の相補性に類似した、bH1/VEGFおよびbH1/HER2複合体の高い形状相補性は、報告された抗体−抗原複合体の範囲内にある(Sc約0.64〜0.68、Lawrenceら、1993)。HER2とVEGFと結合したコンホメーションのbH1との重ね合わせ、またはVEGFとHER2と結合した形態のbH1との重ね合わせにより、抗体を非関連の抗原と並置した際にわずかな形状相補性しか観察されないことが明らかとなる。(Sc約0.35、Lawrenceら、1993)。この結果は、bH1が再編成されて2つの異なる抗原を収容する程度を実証している。
【表8】
【0197】
高親和性変異体bH1−44をbH1のファージ表出抗体ライブラリーから選別することによって、bH1の親和性を改善させた。ショットガンアラニンスキャニング突然変異原により、bH1−44がbH1の抗原結合のホットスポットを保存していたことが実証された(表9A〜B、10、および14)。bH1−44のショットガンアラニンスキャニング突然変異原は、bH1のショットガンアラニンスキャニング突然変異誘発について上述した技法を用いて行った。
表9A〜Bでは、アラニンへの突然変異(m1)、もしくはさらなる突然変異(m2、m3、ショットガンコドンの制限による)、または相同的アミノ酸への突然変異(m4)の効果を、VEGF(表9A)またはHER2(表9B)結合クローンの野生型(wt)の発生率の比またはwt/mutの発生率の比として計算する。wtがアラニンである場合は、これをグリシンによって置換した(m1)。wt/mut比は、表出選別からのwt/mut比で除算してF値をうることによって、タンパク質の折畳み/発現の効果について補正されている。表出の選別は、抗体軽鎖の非直鎖エピトープと結合するタンパク質Lと結合するクローンを選別することによって、独立して行った。Fab重鎖のみをファージコートタンパク質(p3)と融合させるため、タンパク質Lの結合は、適切な折畳みならびに軽鎖および重鎖の会合を示す。
表10では、結晶構造中でVEGFおよび/またはHER2と接触するbH1およびbH1−44の抗体残基を記載する。結合のエネルギー的ホットスポットは、相互作用の全結合エネルギーの約10%よりも高いΔΔG
wt/alaをもたらす抗体残基によって定義される。
表11中のデータは、結合界面の極性および大きさがbH1/VEGF、bH1/HER2、およびHerceptin(登録商標)/HER2の複合体で類似していることを示す。XSAEを用いてそれぞれの界面の極性を分析した。表11に示すすべての数字は、別段に指定しない限りはÅ
2での面積を表す。
【0198】
【表9A】
【表9B】
【表10】
【表11】
【0199】
HER2/VEGF二重特異性bH1−44抗体はHerceptin(登録商標)抗体のHER2結合動態を維持する
bH1およびそのFab変異体と固定化したVEGFまたはHER2との結合動態を研究するために、表面プラズモン共鳴を行った(表12)。SPRに基づくアッセイは、BIAcore 3000を用いて行った。VEGF
109およびHER2細胞外ドメインを、50〜150RUの範囲のRmaxを許容する密度でCM5チップ上に固定化した。0.05%のTween20を含むPBS中のFabの段階希釈液を30μl/分で注入した。結合応答は、ブランクのフローセルからの応答を減算することによって、およびバッファー効果を正規化することによって補正した。1:1のラングミュア当てはめモデルを用いてk
a(会合速度)およびk
d(解離速度)を推定した。K
D値はk
aおよびk
dの比から決定した。
bH1 Fab/VEGFの相互作用は、比較的高い会合速度(k
on=3.7×10
4)および速い解離速度(k
off=0.013)によって特徴付けられており、これは300nMという中等度K
Dをもたらす。bH1/HER2相互作用の親和性(K
D=26nM、k
on=9.6×10
4、k
off=2.4×10
−3)は、より遅い会合速度および速い解離速度を有するHerceptin(登録商標)/HER2相互作用(K
D=0.5nM、k
on=7.1×10
5、k
off=3.5×10
−4)よりも52倍低い。親和性が改善されたbH1変異体であるbH1−81およびbH1−44は、VEGFおよびHER2の相互作用の会合速度および解離速度のどちらの改善も表出した。高親和性クローンbH1−44は、Herceptin(登録商標)と同様の親和性でHER2と結合する(K
D=0.2nM、表12)。
【0200】
表12は、BIAcoreを30℃で用いた表面プラズモン共鳴の測定によって決定した、bH1変異体およびHerceptin(登録商標)抗体の動態プロファイルを示す。これらの実験では、Fabを固定化したVEGFまたはHER2と結合させ、1:1のラングミュア結合当てはめモデルを用いて会合速度(k
a)、解離速度(k
d)、および解離定数(K
D)を決定した。bH1−44抗体は、Herceptin(登録商標)抗体と同様のHER2に対する動態プロファイルおよび親和性を有する。VEGFまたはHER2との結合を失った2つの二重突然変異体(bH1−44 I29A+Y32AおよびbH1−44 R50A+R58A)は、他方の抗原に対する動態プロファイルおよび親和性を保っていた。
【表12】
【0201】
二重特異性抗体はHER2およびVEGFと同様の熱力学的特性で相互作用する
bH1 Fab変異体と2つの抗原、VEGF(VEGFのレセプター結合ドメイン、VEGF
8〜109)およびHER2細胞外ドメイン(ECD)との間の相互作用のエンタルピー(ΔH)およびエントロピー(ΔS)変化も、等温滴定熱量測定(ITC)を用いて決定した(
図59A〜F、
図60、表13)。
FabとヒトVEGF
109およびHER2の細胞外ドメインとの間の相互作用のマイクロ熱量測定を、VP−ITC滴定熱量計(Microcal Inc.)で記載のように行った(Starovasnikら、1999)。タンパク質溶液を広範にリン酸緩衝生理食塩水中へと透析した。バッファーの組成の違いによる混合熱効果を最小限にするために、抗原およびFabは同じ容器中で透析した。100〜220μMの濃度のFabを10〜22μMの濃度の抗原溶液(HER2−ECDまたはVEGF
109)中へ滴定した。この抗原濃度は正確なエンタルピー測定に必要であったが、結合親和性が高い場合はK
Dの決定が妨げられる。15または20回の注入を行って2倍過剰の抗体を得た。反応の熱を決定し、Fab希釈の熱を減算し、ΔHを計算した。
表面プラズモン共鳴によって決定した解離定数(K
D)(表12)を用いて、
ΔG=RT ln(K
D)
に従って結合自由エネルギー(ΔG)を計算した。会合の際のエントロピー変化(ΔS)は、
ΔS=(ΔH−ΔG)/T[式中、Tは温度(K)である]
に従って計算した。
ΔCpを決定するために、20〜37℃の範囲の様々な温度でマイクロ熱量測定を上述のように行った。ΔCpは、ΔHを温度の関数としてプロットすることによって、直線回帰によって決定した(
図62)。
二重特異性抗体bH1とその2つの抗原VEGFおよびHER2のどちらかとの相互作用を、最初に特徴付けた。bH1とVEGFおよびHER2との結合は同様の熱力学的特性を示した(表13)。30℃でpH7.4のPBS中で測定したどちらの相互作用も発熱性(VEGFおよびHER2でそれぞれΔH=−2.4および−2.4kcal/mol、表13、
図60)であり、結合エネルギーに貢献する非常に好ましいエントロピー変化を有する(VEGFおよびHER2でそれぞれ−TΔS=−6.6および−7.9kcal/mol、表13、
図60)。
【0202】
表13は、ΔG(結合自由エネルギー)、ΔS(エントロピー変化)、およびΔH(エンタルピー変化)をkcal/molで示す。示した親和性は、BIAcore、30℃による動態分析を用いた少なくとも2つの独立した実験で測定した。ΔHはITCを用いて測定し、2回または3回の独立した測定の平均、続いて標準偏差を表す。ΔGおよびΔSは上述のように計算した。
高親和性変異体bH1−81およびbH1−44は、bH1と同様の熱力学的プロファイルを表出した。また、VEGFおよびHER2とのその相互作用も、好ましいエンタルピーおよびエントロピーから特徴付けた(表13、
図60)。VEGF相互作用では、親和性の改善は、顕著により好ましいエンタルピー変化(bH1−44ではΔH=−7.1対bH1では−2.4kcal/mol、30℃)およびわずかにより少ない正のエントロピー変化(bH1−44では−TΔS=−6.6対bH1では−4.7、30℃、表13、
図60)に関連していた。HER2に対する改善された親和性も、より好ましいエンタルピー変化に関連していた(ΔH=−5.3対−2.4kcal/mol、30℃、表13、
図60)。
【表13】
【0203】
bH1−44およびHerceptin(登録商標)は明確に異なる熱力学でHER2と相互作用する
二重特異性抗体とは対照的に、HER2/Herceptin(登録商標)相互作用は、顕著なエントロピー変化を全く伴わない(−TΔS=−0.3kcal/mol、
図60、表13)大きな好ましいエンタルピー変化(ΔH=−13.6kcal/mol)によって特徴付けられている(Kelleyら、1992)。bH1−44はHerceptin(登録商標)と同様の親和性でHER2と相互作用するが、結合自由エネルギーはより大きなエントロピーコンポーネント(−TΔS=−8.1kcal/mol、30℃)およびより小さなエンタルピーコンポーネント(ΔH=−5.3kcal/mol、30℃)からなる。明確に異なる熱力学的特性は、親和性、動態、およびエネルギー的ホットスポットの残基の多くを含めた、Herceptin(登録商標)とbH1−44との間のHER2結合特徴の多くの類似性と対照的である。HER2において全結合エネルギーの10%よりも多く貢献するHerceptin(登録商標)のホットスポット残基はbH1およびbH1−44のそれに類似しているが、明らかな差異が存在する。
表14は、アラニンスキャニング突然変異誘発によって決定したHER2結合におけるbH1、bH1−44、およびHerceptin(登録商標)抗体ホットスポットを示す。突然変異誘発はKelleyら、1993に記載のように行った。表14中の数字は、残基をアラニンへと突然変異させた場合の結合自由エネルギーの変化(ΔΔG
wt−mut)を表す。表14中のホットスポット残基に陰影をつけ、全結合自由エネルギー(ΔG)の10%以上のΔΔGとして定義する。
残基LC−Thr94、HC−Tyr33、HC−Asp98はbH1中の配列中で保存されているが、HER2結合において異なる機能を有する(表14、
図61)。したがって、VEGF結合を補充したHerceptin(登録商標)の抗原結合部位中の突然変異は、HER2との相互作用に影響を与える抗原結合部位に何らかの基礎的な変化を行ったと考えられる。二重特異性抗体は、HER2に対してHerceptin(登録商標)と同等に高い親和性をもたらす、異なるHER2認識戦略を利用することによって、導入された突然変異を収容する。bH1−44のLC−Ser94以外は、HER2に対する親和性をbH1と比較して100倍より高く改善させた突然変異は、結合ホットスポットの一部ではなく、既存の相互作用を最適化すると考えられることは、興味深い注記点である。
【0204】
二重特異性相互作用における大きな負の熱容量
二重特異性相互作用を駆動する共通のエネルギーおよびそれらがどのように単一特異性親Herceptin(登録商標)のそれと区別されるかをさらに理解するために、一連の実験を行って、bH1−44とVEGFまたはHER2、およびHerceptin(登録商標)とHER2の3つのFab/抗原の相互作用を研究した。二重特異性相互作用の熱容量は、結合のエンタルピー(ΔH)を20℃〜37℃の範囲の複数の温度(ΔT=17℃、
図62、表15)で決定することによって測定した。熱容量(ΔCp)はΔHおよび温度(T)の関数であり、方程式:
ΔCp=δ(ΔH)/δT
によって説明することができる。
ΔCpはΔHの温度依存性の勾配から直線回帰によって推定した(
図62、表15)。bH1−44のΔCpは、VEGFとの相互作用では−400cal/molK、およびHER2との相互作用では−440cal/molKであると決定された。大きな負の熱容量は、以前に記載のように疎水性効果の重要性を示しており(Kauzmann、1959)、これは、2つの複合体の構造的界面の疎水性性質と一貫している(表11)。以前に同様の温度間隔で−370cal/molKであると決定されたHerceptin(登録商標)/HER2のΔCpは(Kelleyら、1992)、bH1−44/HER2のΔCpよりも小さいが、それでもHER2結合の疎水性効果の重要な役割を示す。
【0205】
結合自由エネルギーの全エントロピー変化(ΔS)は、3つの供給源(Murphyら、1994)、すなわち、結合表面の脱溶媒和に関連するエントロピー変化(ΔS
SOLV)、回転および並進の自由度の損失からのエントロピー変化(ΔS
RT)、ならびに相互作用分子の立体配置およびコンホメーションの力学の変化によるエントロピー変化(ΔS
CONF)からのエントロピー変化の和である。
(1)ΔS
TOT=ΔS
SOLV+ΔS
RT+ΔS
CONF
典型的には、ΔS
SOLVのみが正であり、ΔS
RTおよびΔS
CONFはどちらも負である。2つの分子の会合のクラティック(cratic)なエントロピー用語ΔS
RTは、記載のように−8cal/Kmolであると推定することができる(Murphyら、1994)。ΔS
SOLVは、無極性表面積の埋込みによる疎水性効果によって支配されると予測することができ、ΔCpの関数として説明することができる。
(2)ΔS
SOLV=ΔCp ln(T/T
*)、T
*=385K
したがって、ΔS
CONFは、
(3)ΔS
CONF=ΔS
TOT−ΔS
RT−ΔS
SOLV
として推定することができる。
方程式(3)によれば、ΔS
SOLVは、bH1−44/VEGFでは96calmol
−1K
−1、bH1−44/HER2では105calmol
−1K
−1、およびHerceptin(登録商標)/HER2では89calmol
−1K
−1であると推定される(表15)。これは、bH1−44/VEGFでは−72calmol
−1K
−1、bH1−44/HER2では−70calmol
−1K
−1、およびHerceptin(登録商標)/HER2では−80calmol
−1K
−1のΔS
CONFへと変換される(表15)。
その親Herceptin(登録商標)と比較した二重特異性Fabの全体的な構造的安定性を検査するために、示差スキャニング熱量(DSC)を用いた熱変性実験を行った。熱変性実験はMicrocal Inc.の示差スキャニング熱量計で行った。Fabを10mMの酢酸ナトリウム、pH5、150mMの塩化ナトリウムに対して透析した。溶液を0.5mg/mlの濃度に調節し、1℃/分の速度で95℃まで加熱した。融解プロファイルをベースライン補正し、正規化した。融解温度(T
M)は製造者によって供給されたソフトウェアを用いて決定した。予測どおり、どのFabも可逆的な熱変性プロファイルを表出しなかった(Kelleyら、1992)(データ示さず)。二重特異性変異体のT
M(bH1、bH1−81、およびbH1−44でそれぞれ77.2℃、75.6℃、74.3℃、表16)は、Herceptin(登録商標)(82.5℃)よりもわずかに低かったが、高いものであり、他の治療的抗体で報告されているものの範囲内であった(GarberおよびDemarest、2007)。
【0206】
VEGFまたはHER2のみに対して高い親和性を有するbH1変異体の結合動態および熱力学
興味深いことに、二重特異性抗体は、その結合エネルギーの大部分を共有のVEGF/HER2結合部位の完全に異なる領域から引き出す。これらのデータは、残りの結合特異性に影響を与えずに二重特異性抗体のVEGFまたはHER2結合機能を選択的に破壊することができることを示している。構造的研究により、VEGFおよびHER2のbH1上の構造的パラトープは顕著に重複することが示されたが、bH1およびbH1−44のショットガンアラニン突然変異誘発により、VEGFおよびHER2の相互作用はわずかな重複しか有さない2つのユニークなCDR残基の組によって媒介されることが実証された(
図54および57、表9A、9B、および10)。bH1およびbH1−44のショットガンアラニンスキャニングにより、VEGF結合に重要なLC−Ile29、LC−Tyr32、およびHER2結合のHC−Arg50、HC−Arg58を含めた(
図54および57、表9および10)、一部のCDR残基がVEGFまたはHER2のどちらかの結合に排他的に重要であることが示された(
図54および57、表9A、9B、および10)。それぞれの相互作用におけるこれらの残基の側鎖のユニークな重要性を確認するために、それぞれの残基を、bH1−44(LC−Ile29、LC−Tyr32、HC−Arg50、HC−Arg58)またはHerceptin(登録商標)(HC−Arg50、HC−Arg58)の足場中で、個別にまたは組み合わせて、アラニンへと突然変異させ、突然変異体をFabおよびIgGとして発現させた。
重鎖を介して遺伝子IIIのN末端と融合したbH1−44またはHerceptin(登録商標)Fabをコードしているベクターを、Kunkel突然変異誘発の鋳型として使用した(Kunkelら、1987)。所望のアラニン突然変異を選別した位置に導入されるようにオリゴヌクレオチドを設計した。Fabアラニン突然変異体をファージとして発現させ、結合を競合ELISAによって確認した(
図58)。その後、記載のように、重鎖および軽鎖可変ドメインをFabおよびIgG発現ベクター内にクローニングし、FabおよびIgGを発現させ、精製した(Bostromら、2009)。SDS−PAGEにより正しいタンパク質の大きさが確認された(
図65)。サイズ排除クロマトグラフィーにより5%未満の凝集レベルが示された。
【0207】
2つの抗原との結合を競合ELISAおよび/またはBIAcoreによって検査した。bH1−44足場中のすべての単一アラニン突然変異が、結合を様々な度合で損なわせた(データ示さず)。最も著しい単一突然変異はLC−Y32Aであり、VEGF結合を顕著に破壊した一方で、HER2結合の親和性および動態が維持された(表12、
図58、および
図63)。二重突然変異I29A+Y32A(LC)またはR50A+R58A(HC)は、それぞれVEGFまたはHER2との結合をほぼ完全に破壊した一方で、他の抗原に対する結合の親和性および動態が維持された(表12、
図58、および
図63)。Herceptin(登録商標)足場中のアラニン突然変異HC−R50A、HC−R58AもHER2との結合を様々な程度まで破壊した一方で、二重突然変異体HC R50A+R58Aは検出可能なHER2結合を示さなかった(表12)。
次に、二重突然変異体の熱力学的パラメータを分析し、bH1−44の値と比較した。bH1−44突然変異体LC−I29A+Y32AおよびHC−R50A+R58AとそれぞれHER2またはVEGFとの結合自由エネルギーは、エンタルピーおよびエントロピーの好ましい貢献から生じ(VEGFではΔH=−7.7および−TΔS=−3.9、HER2ではΔH=−6.4および−TΔS=−7.6、表13、
図60)、これは30℃で測定したbH1−44とほぼ同等である(表13、
図60)。したがって、二重突然変異体はbH1−44と同じ熱力学および動態のプロファイルを表出した。
【0208】
特異性を変更させる残基の機能の構造的基礎
次に、それぞれの抗原複合体中の結合決定要因の特異的相互作用を明らかにするために、VEGFまたはHER2との複合体中のbH1の結晶構造を分析した(Bostromら、2009)(
図64)。生じた分析により、2つの特異性決定残基の突然変異が、どのように他方の親和性、動態、および結合熱力学に影響を与えずに一方の抗原の結合能力を破壊するかが説明された。bH1のCDR−L1はHerceptin(登録商標)からの配列の変化の大多数を含有し、VEGF結合に重要である。bH1のCDR−L1のコンホメーションは2つの複合体の構造で顕著に異なり、平均の偏差は4.6Åである(残基27〜32のC
α)。対照的に、VEGFとの複合体中のbH1 Fabの全体的なコンホメーションは、HER2と結合したFabのそれと顕著に類似している(標準偏差=0.7Å、398個の主鎖原子、C
α)。CDR−L1ループはVEGFによって埋没された表面積の26%を構成する一方で、このループはHER2パラトープの周辺に位置し、HER2との接触に最小限しか関与していない。
2つの複合体の重ね合わせにより、VEGFは、HER2と結合したコンホメーションでCDR−L1のTyr32および隣接残基と衝突することが示された。Tyr32の主鎖C
α原子は2つの構造において同じ位置に存在するが、その側鎖は約130°回転している。VEGF複合体中では、Tyr32およびIle29は、VEGF結合に必要なCDR−L1のコンホメーションを可能にすることにおいて構造的な役割を果たすと考えられる。Tyr32からAlaまたはPheのどちらかへの突然変異は、VEGF結合には許容されない(Bostromら、2009)。Tyr32の側鎖はHER2に向けられているが、生産的な抗原接触に関与していると考えられていない。Ile29はHER2から遠く離れており、その側鎖は溶媒に曝露されており、また、Ile29およびTyr32からAlaへの突然変異はHER2結合に良好に許容される。
【0209】
【表14】
【表15】
【表16】
【0210】
bH1/HER2複合体中のHER2結合にユニークに重要な残基の構造も検査した。Arg50およびArg58の側鎖は、bH1−HER2構造中のHER2上の酸性残基(Glu558およびAsp560)に対してパッキングしている(
図64)。LysおよびAlaへの突然変異は破壊的であるため、相互作用は側鎖に高度に特異的であると考えられる(Bostromら、2009)。しかし、VEGF構造中では、Arg50およびArg58は溶媒に曝露されており、VEGFから遠く離れており、AlaまたはLysへの突然変異は良好に許容される(Bostromら、2009)。
【0211】
引用文献:
Baselga, J., L. Norton, J. Albanell, et al., 1998, Cancer Res. V. 58, p. 2825.
Bostrom, J., S. F. Yu, D. Kan, B. A. Appleton, C. V. Lee, K. Billeci, W. Man, F. Peale, S. Ross, C. Wiesmann, and G. Fuh, 2009, Science, v. 323, p. 1610-4.
Chen Y., C. Wiesmann, G. Fuh, B. Li, H. W. Christinger, P. McKay, A. M. de Vos, and H. B. Lowman, 1999, J Mol Biol, v. 293, p. 865-81.
Cho, H. S., K. Mason, K. X. Ramyar, A. M. Stanley, S. B. Gabelli, D. W. Denney, Jr., and D. J. Leahy, 2003, Nature, v. 421, p. 756-60.
Chothia, C., A. M. Lesk, 1987, J. Mol. Biol., v. 196, p. 901.
Christinger, H. W., Y. A. Muller, L. T. Berleau, B. A. Keyt, B. C. Cunningham, N. Ferrara, and A. M. de Vos, 1996, Proteins, v. 26, p. 353-7.
Collaborative Computational Project, N., 1994: Acta Crystallogr. Section D. Biol. Crystallogr., v. 50, p. 760-763.
Dall'Acqua, W., E. R. Goldman, E. Eisenstein, et al., 1996, Biochemistry, v. 35, p. 1967.
Emsley, P., and K. Cowtan, 2004, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr, v. 60, p. 2126-32.
Fellouse, F. A., B. Li, D. M. Compaan, A. A. Peden, S. G. Hymowitz, and S. S. Sidhu, 2005, J Mol Biol, v. 348, p. 1153-62.
Fields, B. A., F. A. Goldbaum, X. Ysern, et al., 1995, Nature, v. 374, p. 739.
Franklin, M. C., K. D. Carey, F. F. Vajdos, D. J. Leahy, A. M. de Vos, and M. X. Sliwkowski, 2004, Cancer Cell, v. 5, p. 317-28.
Fuh, G., B. Li, C. Crowley, B. Cunningham, and J. A. Wells, 1998, J Biol Chem, v. 273, p. 11197-204.
Fuh, G., P. Wu, W. C. Liang, M. Ultsch, C. V. Lee, B. Moffat, and C. Wiesmann, 2006, J Biol Chem, v. 281, p. 6625-31.
Gallop, M. A., R. W. Barrett, W. J. Dower, et al., 1994, Journal of Medicinal Chemistry, V. 37, p. 1233.
Garber, E., and S. J. Demarest, 2007, Biochem Biophys Res Commun, v. 355, p. 751-7.
Hudziak, R. M., and A. Ullrich, 1991, J Biol Chem, v. 266, p. 24109-15.
James, L. C., Roversi, P., Tawfik, D. S., 2003, Science, v. 299, p. 1362.
Jimenez, R., G. Salazar, K. K. Baldridge, et al., 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, v. 100, p. 92.
Johnson, G., T. T. Wu, 2000, Nucleic Acids Res., v. 28, p. 214.
Kauzmann, W., 1959, Adv Protein Chem, v. 14, p. 1-63.
Kelley, R. F., and M. P. O'Connell, 1993, v. 32, p. 6828-35.
Kelley, R. F., M. P. O'Connell, P. Carter, L. Presta, C. Eigenbrot, M. Covarrubias, B. Snedecor, J. H. Bourell, and D. Vetterlein, 1992, Biochemistry, v. 31, p. 5434-41.
Kunkel, T. A., J. D. Roberts, and R. A. Zakour, 1987, Methods Enzymol, v. 154, p. 367-82.
L. C. Storoni, A. J. M. a. R. J. R., 2004, Acta Cryst., p. 432-438.
Lasky, L. A., and D. J. Dowbenko, 1984, DNA, v. 3, p. 23-9.
Lawrence, M.C., Colman, P.M. et al., 1993, J Mol Biol, v. 234, pp. 946-950.
Lee, C. V., W. C. Liang, M. S. Dennis, C. Eigenbrot, S. S. Sidhu, and G. Fuh, 2004a, J Mol Biol, v. 340, p. 1073-93.
Lee, C. V., S. S. Sidhu, and G. Fuh, 2004b, J Immunol Methods, v. 284, p. 119-32.
Lee, C. V., S. G. Hymowitz, H.J. Wallweber, et al.
Liang, W. C., X. Wu, F. V. Peale, C. V. Lee, Y. G. Meng, J. Gutierrez, L. Fu, A. K. Malik, H. P. Gerber, N. Ferrara, and G. Fuh, 2006, J Biol Chem, v. 281, p. 951-61.
Lovell, S. C., I. W. Davis, W. B. Arendall, et al., 2003, Proteins, v. 50, p. 437.
Lowman, H. B., S. H. Bass, N. Simpson, and J. A. Wells, 1991, Biochemistry, v. 30, p. 10832-8.
McCoy, Y. A. J., R. J. Read, and L. C. Storoni, 2004, Acta Cryst., 432.
Muller, Y. A., Y. Chen, H. W. Christinger, B. Li, B. C. Cunningham, H. B. Lowman, and A. M. de Vos, 1998, Structure, v. 6, p. 1153-67.
Muller, B., H. Li, W. Christinger, et al., 1997, Proc. Natl. Acad. Sci USA, v. 94, p. 7192.
Murphy, K. P., D. Xie, K. S. Thompson, L. M. Amzel, and E. Freire, 1994, Proteins, v. 18, p. 63-7.
Mylvaganam, S. E., Y. Paterson, and E. D. Getzoff, 1998, J. Mol. Biol., v. 281, p. 301.
Nemazee, D., 2006, Nat. Rev. Immunol., v. 6, p. 728.
Otwinowski, Z., and Minor, W. , 1997, Methods Enzymol., v. 276, p. 307-326.
Pauling, L., 1940, J. Am. Chem. Soc., v. 62, p. 2643.
Presta, L. G., H. Chen, S. J. O'Connor, V. Chisholm, Y. G. Meng, L. Krummen, M. Winkler, and N. Ferrara, 1997, Cancer Res, v. 57, p. 4593-9.
Read, R. J., 2001, Acta Cryst., v. D57, p. 1373-1382.
Reichert, J. M., Rosenzweig, C. J., Faden, L. B., et al., 2005, Nat. Biotechnol., v. 23, p. 1703.
Senn, B. M., Lopez-Macias, C., Kalinke, U., et al., 2006, Eur. J. Immunol., v. 33, p. 950.
Sethi, D. K., Agarwal, A., Manivel, V., et al., 2006, Immunity, v. 24, p. 429.
Sidhu, S. S., B. Li, Y. Chen, F. A. Fellouse, C. Eigenbrot, and G. Fuh, 2004, J Mol Biol, v. 338, p. 299-310.
Sidhu, S. S., H. B. Lowman, B. C. Cunningham, and J. A. Wells, 2000, Methods Enzymol, v. 328, p. 333-63.
Starovasnik, M. A., M. P. O'Connell, W. J. Fairbrother, and R. F. Kelley, 1999, Protein Sci, v. 8, p. 1423-31.
Vajdos, F. F., C. W. Adams, T. N. Breece, L. G. Presta, A. M. de Vos, and S. S. Sidhu, 2002, J Mol Biol, v. 320, p. 415-28.
Weiss, G. A., C. K. Watanabe, A. Zhong, et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, v. 97, p. 8950.
Wiesmann, C., G. Fuh, H. W. Christinger, C. Eigenbrot, J. A. Wells, and A. M. de Vos, 1997, Cell, v. 91, p. 695-704.
Winn, M. D., M. N. Isupov, and G. N. Murshudov, 2001, Acta Crystallogr. D. Biol. Crystallogr., v. 57, p. 122.
【0212】
本明細書中で引用又は参照した特許、特許出願、特許出願公報及び他の出版物のすべては、特許、特許出願、特許出願公報又は他の出版物の各々が出典明記によって援用されるために具体的及び個々に示されるのと同程度に、出典明記によって本明細書中に援用される。