【実施例】
【0027】
−第1実施例−
図1に、第1実施例であるプラズマトーチすなわち第1実施例のプラズマアークトーチの、外筒14の内部を上方から見下ろして示し、
図2には
図1上のII−II線方向の縦断面を示す。第1実施例のプラズマアークトーチは、プラズマ溶接を行う形態のものである。
図2を参照すると、インサートチップのチップ基体1は、インサートキャップ6をチップ台5にねじ締めすることにより、チップ台5に固定されている。チップ基体1のチップ台5に当接する背面には位置合せピン1p(
図4,
図5)があり、チップ台5に固定する前にこのピン1pをチップ台5の位置合せ穴に差し込むことにより、固定後には、チップ基体1は、
図2に示された、トーチ本体の溶接方向yにノズル部材20a,20bのノズル3a,3bが並んだ姿勢となる。チップ台5は絶縁本体7に固定され、絶縁本体7に電極台10a,10bおよび絶縁スペーサ11が固定されている。
【0028】
シールドキャップ8は絶縁本体7に固定されている。2つ割で外筒14の直径方向に分離した第1電極台10aと第2電極台10bは、絶縁スペーサ11で分離されている。
【0029】
本実施例のインサートチップは、チップ基体1に、溶接方向yで先頭となる先行ノズル部材20aおよび後尾となる後行ノズル部材20bを装着したものであり、詳細を示す
図5を参照すると、各ノズル部材20a,20bには、中央にノズル3a,3bが開いた笠部21a,21b,該笠部に連続する幹部22a,22bおよび該幹部に連続する雄ねじ部24a,24bがあって、前記幹部と雄ねじ部の間にシール材であるOリング23a,23bがあり、内部に前記ノズル3a,3bに連通する電極配置空間2a,2bがある。
【0030】
チップ基体1には、各ノズル部材の前記雄ねじ部から幹部までが挿通する各ノズル部材挿入穴18a,18b,各ノズル部材挿入穴に挿通した各ノズル部材の笠部が先端平面1d,1eに当接することにより閉じられる、ノズル部材挿入穴の一部をなし幹部との間に冷却水通流空間を形成する冷却水循環穴1f,1g,水受穴1h(
図4),水出穴1i,隣り合う冷却水循環穴をつなぐ横通水穴1j,冷却水循環穴1fを水受穴1hにつなぐ横通水穴1k、および、冷却水循環穴1gを水出穴1iにつなぐ横通水穴1lがある。
【0031】
この実施例では、
図5の(a)に示すように、ノズル部材20a,20bの雄ねじ部24a,24bにナット25a,25bをねじ結合してチップ基体1に締め付けることにより、ノズル部材20a,20bをチップ基体1に結合している。
図6には、先行ノズル部材20aおよび後行ノズル部材20bの縦断面および底面を示す。
【0032】
図2を再度参照すると、ノズル部材20a,20bの電極配置空間2a,2bは、チップ基体1の中心軸(z)と直交する同一直径線(y)に分布し、該中心軸から等距離にあって中心軸(z)に平行に延びる。電極配置空間2a,2bに連続するノズル3a,3bはこの実施例では、電極配置空間2a,2bの中心軸と同心であって、図示しない母材に対向する。これらのノズル3a,3bも、本実施例では、チップ基体(外筒14)の中心軸(z)と直交する同一直径線(y)上に分布し、該中心軸に平行かつそれから等距離にある。
【0033】
各電極配置空間2a,2bに先端部が挿入された第1電極12a,第2電極12bが、絶縁本体7を貫通し各電極台10a,10bにねじ13a,13bで固定され、各電極配置空間2a,2bの軸心位置に、センタリングストーン9a,9bで位置決めされている。チップ基体1の、母材(図示せず)に対向する先端面(下端面)には、各電極配置空間2a,2bにつながったノズル3a,3bが開口している。ノズル3a,3bを結ぶ直線(y)が延びる方向が溶接方向である。チップ基体1は、該直線(y)が延びる方向(溶接方向)には
図2に示すように広幅であるが、該直線(y)と直交する方向(x)すなわち溶接対象の開先の幅方向では楔状であって側面が傾斜面1a,1b(
図4の(a))となっている。
【0034】
トーチ先端面(
図2上ではノズルが開いた下端面)を示す
図4の(a)も参照すると、
チップ基体1の先端の中心軸位置には先端突起1cがあり、溶接方向となるy方向で該先端突起1cの両側に、ノズル部材20a,20bの笠21a,21bの裏面をうける先端平面1d,1eがある。先端平面1d,1eは、チップ基体1の外周の手前で途切れ、これによりチップ基体1から対向突起1m,1nが下方に突出している。先端平面1dの、対向突起1mから半径Raの距離に先行ノズル部材挿入穴18aがあり、先端平面1eには、先端突起1cの右側面から半径Rbの距離に後行ノズル部材挿入穴18bがある(
図5の(b))。
【0035】
ノズル部材挿入穴18aに挿入された先行ノズル部材20aの笠部21aの、円弧の一部を直線状に削除した切欠面26aが、先端突起1cの左側面である係止面にぴったり係合し、また、笠部21aの円周面が対向突起1mの右側面である阻止面にぴったり係合する。これによりチップ基体1に対する先行ノズル部材20aの、中心軸を中心とする回転が阻止される。これらの係合は、先行ノズル部材20aをチップ基体1に挿入してナット25aでねじ締め付けして固定するときのノズル部材20aの廻り止め、および、ノズル部材20aをチップ基体1から取り外すためにナット25aを緩め廻しするときのノズル部材20aの廻り止め、として機能する。これらの係合は更に、ノズル軸がチップ基体中心軸(z)に対して傾斜したノズル部材20aの該ノズル軸の傾斜方向(
図5の(a),
図6)を溶接方向(y)に固定(設定)する機能もある。先行ノズル部材20aをチップ基体1に挿入してナット25aでねじ締め付けして固定するとき、チップ基体1に対して切欠面26aの一端(
図10のApaに相当する位置)を支点(中心)に回動させようとする振り力がノズル部材20aに作用するが、対向突起1mがこの回動を阻止する。このように、係合手段(26a,1c)によりノズル部材(20a)の回転を阻止し、しかも軸振れ防止手段(1m)によってノズル部材(20a)の軸振れを防止するので、先行ノズルから出るプラズマアークの指向方向がずれることがなくなる。
【0036】
ノズル部材挿入穴18bに挿入された後行ノズル部材20bの笠部21bの、円弧の一部を直線状に削除した切欠面26bが、対向突起1nの左側面にぴったり係合し、また、笠部21bの先端突起1cの右側面にぴったり係合する。これによりチップ基体1に対する後行ノズル部材20bの、中心軸を中心とする回転が阻止される。これらの係合は、後行ノズル部材20bをチップ基体1に挿入してナット25bでねじ締め付けして固定するときのノズル部材20bの廻り止め、および、ノズル部材20bをチップ基体1から取り外すためにナット25bを緩め廻しするときのノズル部材20bの廻り止め、として機能する。これらの係合は更に、ノズル軸がチップ基体中心軸(z)に対して傾斜したノズル部材20bの該ノズル軸の傾斜方向(
図5の(a),
図6)を溶接方向(y)に固定(設定)する機能もある。後行ノズル部材20bをチップ基体1に挿入してナット25bでねじ締め付けして固定するとき、チップ基体1に対して切欠面26bの一端を支点(中心)に回動させようとする振り力がノズル部材20bに作用するが、先端突起1cの右側面がこの回動を阻止する。係合手段(26b,1n)によりノズル部材(20b)の回転を阻止し、しかも軸振れ防止手段(1c)によってノズル部材(20b)の軸振れを防止するので、後行ノズルから出るプラズマアークの指向方向がずれることがなくなる。
【0037】
この実施例では、
図4および
図6に示す笠21a,21bの半径Ra,Rbは同一であるが、先行ノズル部材20aの中心軸からの切欠面26aの距離Daと後行ノズル部材20bの中心軸からの切欠面26bの距離Dbとは、Da>Dbと異なっているので、先行ノズル部材20aの笠部21aは、後行ノズル部材20bの笠部21bがぴったりと嵌り込む突起1c/1n間空間には入ることが出来ない。これにより、先行ノズル部材20aをチップ基体1の後行ノズル挿入穴18bに誤装着することがなくなる。
【0038】
なお、後行ノズル20bの笠部21bは、先行ノズル部材20aの笠部21aが嵌り込む突起1m/1c間空間に入ることが出来るので、後行ノズル部材20bを最先にチップ基台1に装着する場合は、後行ノズル20bを誤装着する可能性がある。このような誤装着をすると、次に先行ノズル部材20aを装着しようとしても装着できないので、誤装着のまま溶接を行ってしまうことはない。しかし、最先に後行ノズル20bを装着するときの誤装着を防止する態様では、後行ノズル20bの笠部21bの半径Rbを先行ノズル20aの半径Raより大きくする。これにより、後行ノズル20bの笠部21bは、先行ノズル部材20aの笠部21aがぴったりと嵌り込む突起1m/1c空間に入らず、最先に後行ノズル部材20bをチップ基台1に装着する場合でも、誤装着を防止できる。このように、距離Da,Dbを異なった値とし、しかも半径Ra,Rbを異なった値にすることにより、先行ノズル部材20aおよび後行ノズル部材20bは、何れを最先に装着しても、装着位置エラーを生ずることはない。
【0039】
図4の(c)および
図5の(b)に示すように、ノズル部材挿入穴18a,18bの、先端平面1d,1e側の部分は大径の冷却水循環穴1f,1gとなっており、冷却水循環穴1f,1gとその中を貫通した幹部22a,22bの外周面との間に冷却水通流空間(冷媒通流空間)が形成される。
図4の(c)は、チップ基体1の横断面(
図2上のIVc−IVc線断面)を示す。チップ基体1には、水受穴1h,水出穴1i,冷却水循環穴1f,1gをつなぐ横通水穴1j,冷却水循環穴1fを水受穴1jにつなぐ横通水穴1k、および、冷却水循環穴1gを水出穴1iにつなぐ横通水穴1lがある。
【0040】
図3に、
図1上のIII−III線方向の縦断面を示す。チップ基体1の水受穴1hは水流管16aに、水出穴1iは水流管16bに連通している。
図4の(c)も参照すると、水流管16aに注入された冷却水は、電極台10a,絶縁本体7およびチップ台5の水流路を通ってチップ基体1の水受穴1hに入って穴底に至り、そこから横通水穴1kを通って、水循環穴1fと幹部22aの外周面との間の冷却水通流空間に入り、つぎに横通水穴1jを通って、水循環穴1gと幹部22bの外周面との間の冷却水通流空間に入り、つぎに横通水穴1lを通って水出穴1iに入りそして水流管16bに流れ、そしてトーチ外部に流出する。
【0041】
冷却水が、水循環穴1fと幹部22aの外周面との間の冷却水通流空間と、水循環穴1gと幹部22bの外周面との間の冷却水通流空間を流れている間に、ノズル部材20a,20bの幹部22a,22bが効果的に冷却され、しかも冷却水が、水受穴1h,横通水穴1k,水循環穴1f,横通水穴1j,水循環穴1g,横通水穴1lおよび水出孔1iを流れている間に、チップ基体1が効果的に冷却されるので、インサートチップの冷却能力が高い。溶接時にはノズル部材20a,20bが最も加熱されるが、その外周面が直接に冷却水に触れて冷却されるので、ノズル部材20a,20bの使用寿命が長い。
【0042】
再度
図1および
図2を参照すると、パイロットガスは、パイロットガス管15a,15bおよび電極挿入空間を通って電極配置空間2a,2bに入り、電極先端部でプラズマとなってノズル3a,3bを通ってトーチの先端面から噴出する。シールドガスは、シールドガス管17を通って、インナーキャップ7とシールドキャップ8との間の円筒状の空間に入り、そしてトーチの先端から図示しない母材に向けて噴出する。
【0043】
図示しない各パイロット電源により各電極12a,12bとチップ1との間にパイロットアークを発生させて、電極12a,12bと母材の間に、電極側が負で母材側が正のプラズマアーク電流を流す、溶接方向で先行の電極12aに給電するプラズマ電源(溶接又は予熱用)および溶接方向で後行の電極12bに給電するプラズマ電源(なめ付け溶接又は本溶接用)により、溶接アーク(プラズマアーク)を発生させると、プラズマアーク電流が各電極12a,12bと母材の間に流れて、1プール2アーク溶接が実現する。この溶接態様では、電極12aのプラズマアークによる溶接又は予熱と、電極12bによるなめ付け溶接又は本溶接とが行われる。すなわち、先行する電極12aで溶接又は予熱で生成した溶融プールに後行する電極12bでなめ付け溶接又は本溶接のプラズマアークが当たって、例えばキーホール溶接で形成される溶融プールを後方に送り、キーホール溶接で形成される溶融ビードを後行のなめ付け溶接が均す。これにより、母材表面と滑らかにつながるなめ付け溶接ビードとなる。3mm未満の薄板の場合は、キーホール溶接が不可能なため、先行の溶接又は予熱によりビードが形成され、これが後行のなめ付け溶接により、滑らかなビードに変わる。従来のように、大電流ワンプール広幅溶接をするのとは違い、先行,後行ともそれぞれの機能に分け、必要最小限の低い電流で、ビード幅の狭い高速溶接ができる。また、先行アークを予熱として使い、後行アークで本溶接を行う方法でも高速化はできる。いずれの場合も、インサートチップ、特に焼損しやすいノズル部材、の冷却能力が高いので、溶接電力をアップしてより高速に溶接を行うことができる。
【0044】
−第2実施例−
図7に、第2実施例のインサートチップを示し、
図8には、それに装着された先行ノズル部材20aおよび後行ノズル部材20bを拡大して示す。第2実施例では、ノズル部材20a,20bの笠部21a,21bには、切欠面26a,26bの他に、追加の切欠面27a,27bがある。先行ノズル部材20aの追加の切欠面27aは、先行ノズル部材20aの中心軸の位置にあってもとからある切欠面26aに平行な断面で笠部21aを左右に2分割すると、左半分の領域にある(切欠面26aは右半分の領域にある)。しかし、追加の切欠面27bは、もとからある切欠面26bが存在する右半分の領域にある。すなわち、先行ノズル部材20aの切欠面26aと追加の切欠面27aの、笠部21aにおける分布パターンと、後行ノズル部材20bの切欠面26bと追加の切欠面27bの、笠部21bにおける分布パターンとは、異なっている。そして、
図7の(a)を参照すると、追加の切欠面27aに端部が当たるように、対向突起1mが「く」の字型に形成され、また、追加の切欠面27bに端部が当たるように、対向突起1nも「く」の字型に形成されている。
【0045】
先行ノズル部材20aをチップ基体1に挿入してナット25aでねじ締め付けして固定するとき、チップ基体1に対して切欠面26aの一端(
図10のApaに相当する位置)を支点(中心)に回動させようとする振り力が先行ノズル部材20aに作用するが、追加の切欠面27aの回動を、対向突起1mの「く」の字型の先端が阻止する。すなわち、先行ノズル部材20aの軸振れを防止する。同様に、後行ノズル部材20bをチップ基体1に挿入してナット25bでねじ締め付けして固定するとき、チップ基体1に対して切欠面26bの一端を支点(中心)に回動させようとする振り力が後行ノズル部材20bに作用するが、追加の切欠面27bの回動を、対向突起1nの「く」の字型の先端が阻止する。すなわち、後行ノズル部材20bの軸振れを防止する。
【0046】
また、もとの切欠面26a,26bと追加の切欠面27a,27bの分布パターンが先行ノズル部材20aと後行ノズル部材20bとは異なって、追加の切欠面27a,27bの位置に対向突起1m,1nの「く」の字型の先端があるので、後行ノズル部材20bを装着すべき位置に先行ノズル部材20aを装着することは出来ないし、先行ノズル部材20aを装着すべき位置に後行ノズル部材20bを装着することは出来ない。各ノズル部材を間違った位置に装着することがなくなる。第2実施例のその他の構造および機能は、第1実施例と同様である。
【0047】
−第3実施例−
図9の(a)に、第3実施例のインサートチップを示す。第3実施例では、追加の切欠面27a,27bに当接する対向突起1m,1nの「く」の字型の先端が、追加の切欠面27a,27bの傾斜と同等の斜面となっており、軸振れ防止精度が高い。第3実施例のその他の構造および機能は、第2実施例と同様である。
【0048】
−第4実施例−
図9の(b)に、第4実施例のインサートチップを示す。第4実施例では、追加の切欠面27aに当たるように、軸振れ防止ピン28aが先端平面1dに立てられ、追加の切欠面27bに当たるように、軸振れ防止ピン28bが先端平面1eに立てられている。先行ノズル部材20aをチップ基体1に挿入してナット25aでねじ締め付けして固定するとき、チップ基体1に対して切欠面26aの一端(
図10のApaに相当する位置)を支点(中心)に回動させようとする振り力が先行ノズル部材20aに作用するが、追加の切欠面27aの回動を、軸振れ防止ピン28aが阻止する。すなわち、先行ノズル部材20aの軸振れを防止する。同様に、後行ノズル部材20bをチップ基体1に挿入してナット25bでねじ締め付けして固定するとき、チップ基体1に対して切欠面26aの一端を支点(中心)に回動させようとする振り力が後行ノズル部材20bに作用するが、追加の切欠面27bの回動を、軸振れ防止ピン28bが阻止する。すなわち、後行ノズル部材20aの軸振れを防止する。第4実施例のその他の構造および機能は、第2実施例と同様である。