特許第5796863号(P5796863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5796863-腫瘍検査用組成物及び腫瘍検査用試験紙 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5796863
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】腫瘍検査用組成物及び腫瘍検査用試験紙
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/52 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   G01N33/52 C
   G01N33/52 B
   G01N33/52 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-223288(P2014-223288)
(22)【出願日】2014年10月31日
【審査請求日】2014年10月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514279172
【氏名又は名称】山田 節郎
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】特許業務法人パテントボックス
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 節郎
【審査官】 海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】 山木敏雄、竹田和夫,がん増殖因子と考えられるインドール酢酸の簡易バイオアッセイ系の確立,Journal of UOEH ,1986年 3月20日,Vol.8特集号,P.297-302
【文献】 下条えみ ほか,尿中IAAモニタリングの悪性腫よう検知への応用について,日本内科学会雑誌,2000年 2月20日,Vol.89臨時増刊号,P.168
【文献】 今村和之ほか,胃癌患者におけるインドール酢酸の臨床的検討,基礎と臨床,1988年 9月,Vol.22,No.12,P.4089-4092
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アルデヒドと、ヒドロキシカルボン酸とを含む腫瘍検査用組成物であって、前記芳香族アルデヒドは、シンナムアルデヒドであり、前記ヒドロキシジカルボン酸はL−酒石酸である、腫瘍検査用組成物。
【請求項2】
前記シンナムアルデヒドはカシア油由来のものである、請求項1に記載の腫瘍検査用組成物。
【請求項3】
濾紙に、請求項1又は2に記載の腫瘍検査用組成物を吸収させ、その後、前記濾紙を乾燥させて得られる、腫瘍検査用試験紙。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の腫瘍検査用組成物を、尿に接触させる工程を含む、腫瘍検査方法。
【請求項5】
尿に請求項3に記載の腫瘍検査用試験紙を接触させる工程を含む、腫瘍検査方法。
【請求項6】
尿に接触させた前記腫瘍検査用試験紙を、トリクロロ酢酸溶液に接触させる工程と、
トリクロロ酢酸溶液に接触することによって前記試験紙において発色した色調と、あらかじめ準備してある比色表とを比べる工程とをさらに含む、請求項5に記載の腫瘍検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍、特に悪性腫瘍の検査用組成物及び検査用試験紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヒト癌組織中にはポリアミンと総称される癌関連物質が存在していることが知られている。ポリアミンは低分子の非蛋白性窒素化合物であり、細胞の増殖や分化が活発になると増加する物質である。悪性腫瘍があると、このポリアミンは尿へ排泄されることが認められている。また、特にポリアミンの一種であるジアセチルスペルミンは他のポリアミンと比べて癌との関連性が高いことが知られている。したがって、尿中のポリアミン、特にジアセチルスペルミンを測定することにより、悪性腫瘍検査を行うことができる。
【0003】
しかしながら、尿中のポリアミンの測定だけで悪性腫瘍を判定するのは、偽陽性率が高く正確性に欠けるものである。したがって、ポリアミンの測定と、他の腫瘍マーカーとを組み合わせて、尿検査による悪性腫瘍を実施しているのが現状である。
【0004】
このような状況から、血液検査以外でポリアミンの検査に代わる新しい悪性腫瘍検出方法が期待されている。
【0005】
ポリアミンと並んで癌組織が特異的に産出する物質としては、インドール酢酸(IAA)が挙げられる。IAAは重要な必須アミノ酸であるトリプトファンからトリプタミン(セロトニン)、そして、インドールアセトアルデヒドを経てIAAを得る生成合成経路が知られている。このインドール酢酸も腫瘍マーカーとしての可能性があると言われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J UOEH(産業医科大学雑誌),5(2):213−220,1983年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
身体を傷つける血液検査ではなく、被検者にとってストレスフリーであり、しかも簡便で、偽陽性率の低い、新しい悪性腫瘍検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の組成物が癌細胞から産出された尿中のIAAと呈色反応することを見出し、これを利用して簡便な悪性腫瘍検出方法を確立した。また、この特定の組成物を使用して得られる試験紙を使用すれば、非常に低い偽陽性率で悪性腫瘍を検出することができること見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、芳香族アルデヒドを含む腫瘍検査用組成物;濾紙に、芳香族アルデヒドを含む腫瘍検査用組成物を吸収させ、その後、乾燥させて得られる、腫瘍検査用試験紙;前記腫瘍検査用組成物を尿に接触させることを含む腫瘍検査方法;及び尿に、前記腫瘍検査用試験紙を接触させる工程を含む、腫瘍検査方法、に関する。
【発明の効果】
【0010】
[1]芳香族アルデヒドを含む腫瘍検査用組成物は、尿中のIAAと反応し、変色する。IAAは癌組織から排出されている可能性が極めて高いため、変色の有無を観察することにより、癌検査を簡便で低偽陽性率で悪性腫瘍を検出することができる。
[2]前記[1]に記載の腫瘍検査用組成物がさらにヒドロキシジカルボン酸を含む場合は、呈色の強度を高まり、色の変化が明確になり、さらに偽陽性率を低下させることができる。また、呈色の強度が強まることでIAA量の算出の少ない初期の悪性腫瘍も発見でき、癌の早期発見が期待できる。
[3]前記[1]又は[2]に記載の腫瘍検査用組成物において、前記芳香族アルデヒドが、ベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒド、アントリルアルデヒド、フェナントリルアルデヒド、サリチルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、3−フェニルプロピオンアルデヒド、トリルアルデヒド、(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、アセトキシベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ビニルベンズアルデヒド、メチルシンナムアルデヒド、エチルシンナムアルデヒド、及びベンジルアルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも一種である場合は、反応による呈色が明確に発現するため、誤認等を防ぐことができる。
[4]前記[2]又は[3]に記載の腫瘍検査用組成物において、前記芳香族アルデヒドが、ベンズアルデヒド及びシンナムアルデヒドの少なくとも一種であり、前記ヒドロキシジカルボン酸はL−酒石酸である場合は、さらに、反応による呈色がはっきり発現するため、誤検出等を防ぐことができる。
[5]前記[4]に記載の前記ベンズアルデヒドは、イチジクの種由来のものであり、前記シンナムアルデヒドはカシア油由来のものである場合は、極めて低価格で腫瘍検査用組成物を提供することができる。
[6]濾紙を、前記[1]乃至[5]のいずれかに記載の腫瘍検査用組成物を吸収させ、その後、前記濾紙を乾燥させて得られる、腫瘍検査用試験紙は、IAAが含まれる尿に当該試験紙を接触させることで、数秒〜数分程度で試験紙が変色する。一方、IAAを含まない尿や、極めてわずかな量のIAAを含む尿の場合は、試験紙は変色しない。このため、腫瘍検査用試験紙は、癌検出に非常に簡便で有用である。
[7]前記[1]乃至[5]のいずれかに記載の腫瘍検査用組成物を、尿に接触させる工程を含む、腫瘍検査方法は、液体である腫瘍検査用組成物と尿とを接触させて、呈色反応を確認するだけで、悪性腫瘍を判断できるので、非常に簡便である。
[8]尿に前記[6]に記載の腫瘍検査用試験紙を接触させる工程を含む、腫瘍検査方法は、腫瘍検査用組成物の使用量を低く抑えることができ、かつ、明確に呈色反応を確認できるため、非常に簡便である。
[9]尿に接触させた前記腫瘍検査用試験紙を、トリクロロ酢酸溶液に接触させる工程と、トリクロロ酢酸に接触させることによって前記試験紙において発色した色調と、あらかじめ準備してある比色表とを比べる工程とをさらに含む、[8]に記載の腫瘍検査方法のであれば、より明確に変色を確認できるため、簡易で、しかもより正確に検査できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、腫瘍検査組成物にL−酒石酸を含有させた場合(実線)と、L−酒石酸を含有させない場合(点線)について、それぞれの組成物を使用して得られた試験紙の吸光度の違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、悪性腫瘍を簡易に、しかも正確な判定に利用できる、腫瘍検査用組成物、及びそれを利用した腫瘍検査用方法、及び腫瘍検査用試験紙に関する。
【0013】
後記する表1において、各種慢性疾患者の尿中のIAAの濃度(μg/mg)を示されている。この結果からわかるように、悪性腫瘍があると、尿中のIAAの濃度が、正常の人に比べて高い。したがって、尿中のIAA濃度が一定値以上であれば、悪性腫瘍を疑うべきである。このような試験結果から、尿中のIAAの存在は癌に関与する「癌関連物質」としてみなすべきであり、癌のマーカーとして有用なスクリーニングの検査に使用することができる。また、慢性疾患者の試験成績において胃潰瘍・胃ポリープの例で偽陽性率が高くなかったことからも尿中のIAAは特に胃癌のスクリーニング検査や胃癌治療のモニタリングに有効であると言える。
【0014】
尿中のIAAの測定方法は、IAAとシンナムアルデヒド(3−フェニルプロぺナール)などの芳香族アルデヒドとの呈色反応を利用している。この反応を利用して、尿中の一定濃度以上のIAAを検出することができる。尿と組成物を接触させ、呈色反応が確認されれば、尿中に所定量のIAAが含まれることを意味し、癌である可能性を示唆する。当該呈色反応の詳細は不明であるが、IAAの一部が、シンナムアルデヒド等の芳香族アルデヒドのアルデヒド基を酸化させ、共役二重結合を形成し可視光を吸収して呈色しているものと推察される。
【0015】
[腫瘍検査用組成物]
本発明の腫瘍検査用組成物は、芳香族アルデヒドを含むものであり、腫瘍、特に悪性腫瘍を発見するために利用できる液体組成物である。本発明の腫瘍検査用組成物を、IAAを一定濃度以上含む尿に接触させることにより、液体は赤〜赤褐に呈色する。
【0016】
本明細書において、芳香族アルデヒドは、ベンゼン核を有するアルデヒドである。本発明において、芳香族アルデヒドは、特に限定されるものではないが、例えば、ベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒド、アントリルアルデヒド、フェナントリルアルデヒド、サリチルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、トリルアルデヒド、(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、アセトキシベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ビニルベンズアルデヒド、メチルシンナムアルデヒド、エチルシンナムアルデヒド、ベンジルアルデヒド等が挙げられ、中でも、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒドが反応性の面で好ましく、経済性も考慮するとシンナムアルデヒドがさらに好ましい。
シンナムアルデヒドは、カシア油から抽出及び/又は濃縮したシンナムアルデヒドを使用することができる。例えば、上記液体組成物は、カシア油に塩酸を加えて油分を分離し、上澄液の主要成分であるシンナムアルデヒドの濃度を高めたものを前記液体組成物とすることができる。また、ベンズアルデヒドは、イチジクの種から抽出及び/又は濃縮したものを使用することができる。
【0017】
本発明の腫瘍検査用組成物における芳香族アルデヒドの含有量は、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、例えば、85重量%〜90重量%である。芳香族アルデヒドを30重量%以上含めば、明確な呈色反応を確認することができる。
【0018】
本発明の腫瘍検査用組成物は、ヒドロキシジカルボン酸類をさらに含むことができる。ヒドロキシジカルボン酸は、分子中に1つ以上のヒドロキシ基と2つのカルボキシル基を含むものであり、例えば、リンゴ酸、酒石酸を挙げられ、L−酒石酸が好ましい。腫瘍検査用組成物に、ヒドロキシジカルボン酸類が含まれると、呈色反応が5〜20%程度強くなり、呈色反応が明確に表れて、誤検査を防ぐことができる。
【0019】
ヒドロキシジカルボン酸は、本発明の腫瘍検査用組成物に10%以下で含むことができ、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であり、例えば、0.01重量%以上、1重量%以下含むことができる。ヒドロキシジカルボン酸類を多く含みすぎると、かえって検出能力が低下してしまう。
【0020】
本発明の腫瘍検査用組成物は、さらに他の化合物を含むことができる。前記他の化合物は、例えば、エタノール等のアルコール類、塩酸等の無機酸類、酢酸等の有機酸類、その他、亜硝酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0021】
前記他の化合物の含有量は、各化合物につき、本発明の腫瘍検査用組成物に10%以下で含むことができ、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であり、例えば、0.01重量%以上、1重量%以下含むことができる。
【0022】
本発明の腫瘍検査用組成物の使用方法としては、常温・常圧で、本発明の腫瘍検査用組成物を尿に接触させる方法が挙げられる。具体的には、腫瘍検査用組成物と尿の割合を重量で1:1〜1:10000、好ましくは1:10〜1:1000の割合で混合する。
【0023】
この混合液に蛋白除去剤であるトリクロロ酢酸溶液を添加すると、尿中に一定濃度以上のIAAが含まれている場合は、すみやかに混合液が赤〜赤褐に呈色する。これにより、尿中にIAAが一定以上含まれているかどうかが、判断できる。
【0024】
[腫瘍検査用試験紙]
本発明における腫瘍検査方法としては、すでに述べた腫瘍検査用組成物を尿に接触させる方法があるが、別の方法として、腫瘍検査用試験紙を作成し、腫瘍検査用試験紙を尿に接触させ、腫瘍検査用試験紙の色の変化を観察する方法も挙げられる。
【0025】
本発明の腫瘍検査用試験紙の製造方法としては、次の方法が挙げられる。すなわち、芳香族アルデヒドを含む腫瘍検査用組成物に濾紙を浸漬させ、乾燥させる。次に、乾燥させた濾紙に亜硝酸ナトリウム水溶液を噴霧させ、再び乾燥させる。そして濾紙の片面に両面接着テープを貼り付けて所定の大きさに切断して、IAA測定用片(腫瘍検査用試験紙)を作成する、このような工程を含む方法である。
【0026】
腫瘍検査用試験紙の製造に使用する腫瘍検査用組成物は、すでに述べた腫瘍検査用組成物と同じである。使用する亜硝酸ナトリウム水溶液の濃度は、2重量%〜15重量%である。
【0027】
本発明の腫瘍検査用試験紙の使用方法は、作成した腫瘍検査用試験紙を測定対象の尿に接触させ、それを蛋白除去剤であるトリクロロ酢酸溶液に接触させる。尿にIAAが一定濃度以上含まれていれば、腫瘍検査用試験紙は赤〜赤褐色に変色する。これにより、尿にIAAが含まれているかどうか、検査することができる。任意選択的に、前記試験紙において発色した色調と、あらかじめ準備してある比色表とを比べることにより、さらに容易に検査結果を出すことができる。
【0028】
本発明の腫瘍検査用試験紙は、液体である本発明の腫瘍検査用組成物よりも取扱いが極めて容易である上、非常に変色がわかりやすいため、誤検査を防ぐことができる特徴を有している。
【0029】
験紙に尿を吸収させると尿中のIAAの反応生成物は吸光係数ε=1.7×10−1・cm−1をともない波長495nmで吸収する。本発明の腫瘍検査用試験紙は、IAA量の少ない初期の悪性腫瘍癌の患者の尿であっても変色するため、癌の早期発見が期待できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0031】
[実施例1]
各種癌患者及と健常者の尿中インドール酢酸との関係
各種癌患者及び非癌患者の尿液1mlに内部標準液インドール酢酸(IAA)を0.1ml添加して、ここに、0.01mlの酢酸エチル及び0.01mlのL−酒石酸を加え4000rpmで10分間遠心した後、上澄液をHPLCに注入し、尿中のIAAを定量した。各種癌患者及び健常者の尿中のIAAの量の情報が得られた(表1、表2参照)。
【0032】
[腫瘍検査組成物の調製]
また、カシア油(symarom Pte Ltd製造 製造番号 cassia 0−3031)100mlに塩酸0.5mlを加えて油分を分離し上澄液の主要成分であるシンナムアルデヒドの濃度を高めたもの(濃度95%)を検査試薬(腫瘍検査用組成物)として調製し、1mlの得られた検査試薬を試験管に採取された新鮮な尿液15mlに加え、さらにトリクロロ酢酸0.5mlを投下した。
【0033】
所定量のIAAが含まれている場合は、瞬時に呈色反応があり、呈色反応(赤色)があったものを陽性、わずかな呈色反応(ピンク色)が見られたものを陽陰性、変色が見られなかったものを陰性とし、結果を表1、表2に記載した。
【0034】
なお、実施例で試料として使用した尿はいずれも検査の5分前に採取した、他の薬を服用しない者の新鮮な尿液であった。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
表1、表2に示すように、IAAの量が約15μg/mg程度を含む尿の場合は、呈色反応を示し、悪性腫瘍発見に効果があることがわかった。また、癌以外の患者も陽性反応である場合もあるが、正常尿では陰性反応であり、はっきりと違いが表れた。
【0038】
[実施例2]
[腫瘍検査用試験紙の作製及びそれによるスクリーニング検査]
市販のシンナムアルデヒド100ml、塩酸1.5ml、・酢酸0.3ml、エタノール1.0mL、及びL−酒石酸0.5mLの混合液に、濾紙(ADVANTEC社 101 285)を浸漬させて常温で乾燥させた。乾燥後の濾紙に亜硝酸ナトリウムの水溶液(98%亜硝酸水溶液1mlを10mlの蒸留水で薄めたもの)をスプレーして、再び乾燥させた。そして濾紙の片面に両面接着テープを貼り付けて長手方向に切断して、0.5cm×2cmの大きさのIAA測定用試験紙片を作成した。この試験紙を尿に浸漬させて、約5秒後に取り出し、それをトリクロロ酢酸溶液に浸してから取り出し、試験紙の変色状況を確認した。
【0039】
表3は、胃癌の進行によるIAA量及び試験紙による変色状況を確認した結果である。また、表4は、この試験紙によるスクリーニングテストの結果である。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
表3に示すように、癌の進行によらず、試験紙によって陽性反応が示された。また、表4で示すように、早期の悪性腫瘍の癌を発見することができた。
【0043】
具体的には、1200名の一般尿液を対象にした呈色反応の検査試験において6名の癌を発見することができた。その内訳は肝臓癌2名、胃癌2名、食道癌1名でいずれも尿中インドール酢酸(IAA)量は平均値が20μg/mLであった。一方、大腸癌や肝炎・肝硬変にも弱い陽性反応が認められるものもあった。その他の成人病患者及び慢性型患者の陽性反応は認められなかった。この試験結果によって検査試薬の陽性反応を示すμgの値が明確に示された。すなわち、陽性反応値として、20μg/1mL(20ppm)以上で癌の可能性が極めて高く、15μg〜19μg/1mL(15ppm)範囲で早期癌の可能性と肝疾患の可能性を示唆した。
【0044】
図1は実施例2において、L−酒石酸の有無について、吸光度を測定した。極大吸光波長における吸光度が、15%も増加することがわかった。
【0045】
[比較例]
表5は、実施例1において、L−酒石酸の代わりにジカルボン酸であるフタル酸を使用した結果である。HPLC測定では、実際のIAA値よりも高いIAA値が測定された。これは、おそらくフタル酸の反応によって生じた5−HIAAも測定されてしまった結果である。すなわち、フタル酸を使用すると、偽陽性になってしまう場合があることが示された。
【0046】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の腫瘍検査用組成物は、IAAを検出試薬として有用である。IAAは、癌細胞から産出される化合物であるので、癌患者の尿に混入する。したがって、尿中のIAAを、本発明の腫瘍検査用組成物を使用して検出することにより、癌検査を実施することができる。また、発明の腫瘍検査用試験紙を使用すれば、より簡易に癌検査を実施することができる。
【0048】
現在の癌検診は血液中に存在する癌の特異性蛋白質や特定酵素などを検出して癌の診断を行っているが、本発明の癌検査はシンナムアルデヒドを呈色試薬とする尿定性試験紙による胃癌の体外診断用医薬品であること、そして癌の標的マーカーとして尿中IAA(インドール酢酸)を指標にしていることが特徴である。
【0049】
癌の検査として試験紙を使用することは、従来にはなく画期的なことである。また、腫瘍検査用組成物、腫瘍検査用試験紙に酒石酸を含むことで、尿中IAAの呈色強度が得られ早期癌の発見に有効であること。更に本検査試験紙は検体が尿であるため検査に刺激や苦痛が伴わない利点の他に検査が迅速で簡易で家庭で容易に検査ができる。
【0050】
癌の腫瘍マーカーとして認められている尿中ポリアミンの測定検査よりも、尿中IAAの測定検査の方が12%高い陽性率を示していること。これは胃癌の指標にIAAが最も効果的であると示唆している。
【要約】
【課題】身体を傷つける血液検査ではなく、被検者にとってストレスフリーであり、しかも簡便で、偽陽性率の低い、新しい悪性腫瘍検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】芳香族アルデヒド、特にシンナムアルデヒドを含む腫瘍検査用組成物、及びそれを濾紙に含ませて乾燥させた腫瘍検査用試験紙。
【選択図】なし
図1