(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796867
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】キレート樹脂
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20060101AFI20151001BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
C02F1/42 H
C08F8/00
【請求項の数】2
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2009-45325(P2009-45325)
(22)【出願日】2009年2月27日
(65)【公開番号】特開2010-194509(P2010-194509A)
(43)【公開日】2010年9月9日
【審査請求日】2012年2月21日
【審判番号】不服2014-9588(P2014-9588/J1)
【審判請求日】2014年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106703
【弁理士】
【氏名又は名称】産形 和央
(72)【発明者】
【氏名】井上 嘉則
(72)【発明者】
【氏名】梁井 英之
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 満
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 重浩
【合議体】
【審判長】
大橋 賢一
【審判官】
真々田 忠博
【審判官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−213477(JP,A)
【文献】
第17回環境化学討論会講演要旨集、2008年、832−833頁
【文献】
第24回イオンクロマトグラフィー討論会講演要旨集、2007年、79−80頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42, B01J 39/00-49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基あるいはハロゲン化アルキル基を有する反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合体よりなる群より選ばれる共重合体の反応性官能基を有する高分子担体にポリエチレンイミン骨格を有する平均分子量が200ないし600の化合物を導入後、高分子担体に導入されたポリエチレンイミン骨格を有する化合物の窒素量の1.0〜3.0倍モルのハロゲン化酢酸を用いて部分カルボキシメチル化してなる重金属元素の除去、回収に用いられ、アルカリ土類金属類の妨害を受けにくいキレート樹脂。
【請求項2】
エポキシ基あるいはハロゲン化アルキル基を有する反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合体よりなる群より選ばれる共重合体の反応性官能基を有する高分子担体にポリエチレンイミン骨格を有する平均分子量が200ないし600の化合物を反応させ、ついで高分子担体に導入されたポリエチレンイミン骨格を有する化合物の窒素量の1.0〜3.0倍モルのハロゲン化酢酸を用いて部分カルボキシメチル化することを特徴とする重金属元素の除去、回収に用いられ、アルカリ土類金属類の妨害を受けにくいキレート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場排水、用水、環境水、食品、薬品等の被処理溶液中から重金属元素の除去、回収に用いられるキレート樹脂において、被処理溶液中に多量に存在するアルカリ土類金属類の妨害を受けず、かつ既存のアミノカルボン酸型キレート樹脂で捕捉しにくい金属のオキソ酸類をも含めた重金属元素を高度に捕捉しうるアミノカルボン酸型キレート樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重金属は高い有害性を示し、土中残留性や生体濃縮性が高いため、工場排水、用水、環境水、食品、薬品等から可能な限り除去する必要がある。また、廃棄された電子機器中には希少金属が大量に含まれており、これらは都市鉱山とも呼ばれる貴重な資源であるため、これらに含まれる有価金属の回収に関する技術開発が進められている。被処理液中から重金属を除去する手法としては、凝集沈殿をはじめとして種々の方法が行われているが、高度な除去・回収法としては、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いた方法が広く用いられてきた。一般に、これらの被処理液中には高濃度の塩類や有機物が含まれており、イオン交換樹脂での重金属除去が困難な場合も多く、キレート樹脂を利用したほうが効率良く除去・回収できるとされている。
【0003】
キレート樹脂としては、イミノ二酢酸 (IDA)、ポリアミン、アミノリン酸、イソチオウロニウム、ジチオカルバミン酸、グルカミン等の官能基が導入されたものが市販されている。この内、汎用性という点からはアミノカルボン酸の一種であるIDA型のキレート樹脂が多用されている。しかしながら、IDAは、代表的なキレート剤であるエチレンジアミン四酢酸 (EDTA) に比べ錯体の安定度定数が低く、被処理液中の夾雑イオン濃度が高い場合には、それらの妨害により除去率や回収率が変動しやすい等の問題も生じる。
【0004】
キレート性官能基における金属錯体形成のしやすさは、一般に安定度定数 (logK
ML) で示される。ポリアミノカルボン酸型キレート剤においては、金属元素にもよるが、エチレンイミンの繰り返し単位が多いほど、あるいはポリエチレンイミン鎖の鎖長が長いほど錯体の安定度定数が大きくなるが、カルシウムの安定度定数はさほど大きくはならない (非特許文献1及び非特許文献2)。つまり、鎖長が長いほど金属の捕捉性が高くなり、カルシウムとの選択性が相対的に改善されるということを意味している。
【0005】
IDA型キレート樹脂における捕捉性や選択性の低さの問題を解消するため、金属捕捉性や選択性の改善を目指した新たなアミノカルボン酸型キレート樹脂に関するいくつかの開示がある。特許文献1ではα-アミノ-ε-カプロラクタムを出発原料としたニトリロ三酢酸型、特許文献2ではジエチレントリアミンを導入しカルボキシメチル化したジエチレントリアミン-N、N、N´、N´−四酢酸型、特許文献3ではジエチレントリアミン等を導入しカルボキシメチル化したジエチレントリアミン-N、N´、N"、N"−四酢酸型、特許文献4では三級アミノ基を有する陰イオン交換樹脂に、高分子量ポリエチレンイミンを導入後にカルボキシメチル化した四級アンモニウム基を有する高分子型のキレート樹脂に関して開示されている。特許文献3においては、旧来のイミノ二酢酸型に比べ鎖長の長いジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン骨格の官能基の導入が記載されている。このように鎖長を長くすることにより錯体の安定度定数は改善されると考えられるが、特許文献3の実施例においては不明な点が多く、その効果も明確に記述されてはいない。また特許文献4は長鎖のポリエチレンイミンをイオン交換樹脂のイオン交換基に結合させたキレート樹脂に関するものであり、特に有機溶媒中での金属捕捉に関するもので、有機溶媒中での官能基の伸長を利用している。また、ポリアミン型キレート樹脂を、さらにカルボキシメチル化したキレート樹脂に関する記載もあるが、実施例によればカルボキシメチル化度が非常に低く、カルボキシメチル基は補助的であり、本質的にはポリアミン型キレート樹脂と同様の効果が得られる。
【0006】
一方、キレート樹脂を用いて実際の被処理液中の重金属を捕捉しようとする場合、被処理液中に共存するアルカリ金属による妨害は極端に高濃度の場合を除いてほとんど無視することができるが、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属類はキレート樹脂に捕捉されるため重金属の捕捉を妨害する。これらのアルカリ土類金属類は一般的な排水、環境水、金属処理液等の中には高濃度で共存しているため、目的とする重金属の除去率、回収率が大きく変動してしまうことも多い。
なお、厳密には、マグネシウムはアルカリ土類金属には含まれないが、本発明ではマグネシウムも含めてアルカリ土類金属類と表記する。
【0007】
前述のように、ポリエチレンイミンの鎖長を長くした場合には重金属の錯体の安定度定数は大きくなるが、アルカリ土類金属類の錯体の安定度定数が小さくなるわけではないため、アルカリ土類金属類の捕捉特性は大きく変化することはない。つまり,単純に鎖長を長くしても、アルカリ土類金属類の妨害を受けずに重金属を選択的に捕捉可能な、実用面で有効なキレート樹脂を得ることはできない。
【0008】
近年、このような問題に対して、酸性条件下でアルカリ土類金属類の妨害を受けにくい機能を有したキレート樹脂NOBIASChelate−PA1 (株式会社日立ハイテクノロジーズ社製) が市販されている。このキレート樹脂は、ジエチレントリアミン-N、N´、N"、N"-四酢酸型官能基を導入したものであり、特許文献3と同一の官能基構造を有する。このキレート樹脂では、酸性条件下においてアルカリ土類金属類を捕捉することはない (非特許文献3ないし非特許文献5参照)。このアルカリ土類金属類が捕捉されにくい機構に関しては明確化されてはいないが、樹脂中に残存するイミノ基に依存するものとされている。
【0009】
アミノカルボン酸型キレートは広範囲な金属を捕捉するとされているが、ヒ素、モリブデン、バナジウム等のオキソ酸を形成する金属の捕捉能力は低い。また、クロム (三価クロム、クロム(III)) はアミノカルボン酸と強く錯形成をするが、錯形成速度が遅く、流通型での高度捕捉は難しいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−71000号公報
【特許文献2】特開2008−115439号公報
【特許文献3】特開2005−213477号公報
【特許文献4】特開2005−21883号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】株式会社同仁化学研究所カタログ26版、p.320-321
【非特許文献2】L. G. Sillen、 A. E. Martell、 Stability Constants ofMetal-Ion Complexes、 2nd Ed.、the Chemical Society、 London (1964).
【非特許文献3】Y. Sohrin、S. Urushihara、 S. Nakatsuka、 T.Kono、 E. Higo、 T. Minami、 K. Noriyasu、 S. Umetani、 Anal. Chem. 80 (2008) 6267.
【非特許文献4】山本和子、坂本秀之、米谷明、白崎俊浩、日本海水学会誌 61(2007)260.
【非特許文献5】坂本秀之、山本和子、白崎俊浩、井上嘉則、分析化学 55(2006)133.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたもので、工場排水、用水、環境水、食品、薬品等の被処理溶液中に多量に存在するアルカリ土類金属類の妨害を受けずに、被処理溶液中からの重金属除去、及び有価重金属を高度に捕捉することが可能なキレート樹脂と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、至適な分子量 (鎖長) のポリエチレンイミン骨格を有する化合物が導入された高分子担体を、アルカリ性溶液中でハロゲン化酢酸を用いてカルボキシメチル化する際に、反応に供するハロゲン化酢酸の量を調節することで、優れた重金属捕捉性とともに、アルカリ土類金属類が捕捉されにくい機能を有するキレート樹脂を製造できることを見出した。
【0014】
本発明において、高分子担体に導入されるキレート性官能基としては、ポリエチレンイミン骨格を有する化合物であり、ハロゲン化酢酸によりカルボキシメチル化される。
【0015】
本発明では、反応性官能基を有する高分子担体に、ポリエチレンイミン骨格を有する化合物を導入後、アルカリ条件下でハロゲン化酢酸を用いてカルボキシメチル化を行うが、カルボキシメチル化反応に用いるハロゲン化酢酸の量は、高分子担体に導入されたポリエチレンイミン骨格を有する化合物中の窒素量の1.0〜3.0倍モルである。
【0016】
また、前記ポリエチレンイミン骨格を有する化合物は、平均分子量が200ないし600であるものが用いられる。
【0017】
本発明での高分子担体が有する反応性官能基としては、ハロゲン化アルキル基、エポキシ基、アルデヒド基、ケトン基、アシルクロリド基、酸無水物基等があげられ、アミンと反応する官能基である。
【0018】
本発明に用いる反応性官能基を有する高分子担体は,グリシジルメタクリレートあるいはハロゲン化アルキルスチレン (クロロメチルスチレン) のようなアミンと反応するエポキシ基やハロゲン化アルキル基を有する反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合体である。
【0019】
本発明は、上記のごとく、1)アミンと反応するハロゲン化アルキル基、エポキシ基、アルデヒド基、ケトン基、アシルクロリド基、酸無水物基等の反応性官能基を有する高分子担体に、2)ポリエチレンイミン骨格を有する化合物を反応させた後、3)ポリエチレンイミン骨格を有する化合物中の窒素量の1.0〜3.0倍モルのハロゲン化酢酸をアルカリ溶液中で反応させてなるキレート樹脂と、その製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アルカリ土類金属類の妨害を受けにくい機能を有し、金属のオキソ酸類を含めた重金属を高度に捕捉するキレート樹脂を容易に合成することが可能である。本発明のキレート樹脂は、酸性条件下でアルカリ土類金属類を捕捉しないため、排水や用水等からの重金属除去、海水や河川水等の環境水や金属処理溶液中からの有価金属の回収を効率よく行うことができる。さらには、微量金属の機器分析における妨害元素の除去及び分析対象元素の抽出・濃縮等の前処理用途にも使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施例1のキレート樹脂Aと市販IDA型樹脂との金属(10種類)の捕捉特性比較を示す。
【
図1b】
図1bは、ニッケルNiの捕捉特性比較を示す。
【
図1c】
図1cは、カドミウムCdの捕捉特性比較を示す。
【
図1e】
図1eは、マグネシウムMgの捕捉特性比較を示す。
【
図1f】
図1fは、カルシウムCaの捕捉特性比較を示す。
【
図1g】
図1gは、クロムCr(3価)の捕捉特性比較を示す。
【
図1h】
図1hは、モリブデンMoの捕捉特性比較を示す。
【
図1i】
図1iは、バナジウムVの捕捉特性比較を示す。
【
図1j】
図1jは、ヒ素Asの捕捉特性比較を示す。
【
図2】
図2は、実施例1のキレート樹脂Aと市販ポリアミノカルボン酸型キレート樹脂との10種類の金属の捕捉特性比較を示す。
【
図2b】
図2bは、ニッケルNiの捕捉特性比較を示す。
【
図2c】
図2cは、カドミウムCdの捕捉特性比較を示す。
【
図2e】
図2eは、マグネシウムMgの捕捉特性比較を示す。
【
図2f】
図2fは、カルシウムCaの捕捉特性比較を示す。
【
図2g】
図2gは、クロムCr(3価)の捕捉特性比較を示す。
【
図2h】
図2hは、モリブデンMoの捕捉特性比較を示す。
【
図2i】
図2iは、バナジウムVの捕捉特性比較を示す。
【
図2j】
図2jは、ヒ素Asの捕捉特性比較を示す。
【
図3】
図3は、実施例1のキレート樹脂Aと市販ポリアミノカルボン酸型キレート樹脂との試料通液量と相対捕捉回収率の比較を示す。
【
図4】
図4は、実施例1のキレート樹脂A、実施例2のキレート樹脂B及び比較例1のキレート樹脂fと市販ポリアミノカルボン酸型キレート樹脂における10種類の金属の捕捉特性比較を示す。
【
図4b】
図4bは、ニッケルNiの捕捉特性比較を示す。
【
図4c】
図4cは、カドミウムCdの捕捉特性比較を示す。
【
図4e】
図4eは、マグネシウムMgの捕捉特性比較を示す。
【
図4f】
図4fは、カルシウムCaの捕捉特性比較を示す。
【
図4g】
図4gは、クロムCr(3価)の捕捉特性比較を示す。
【
図4h】
図4hは、モリブデンMoの捕捉特性比較を示す。
【
図4i】
図4iは、バナジウムVの捕捉特性比較を示す。
【
図4j】
図4jは、ヒ素Asの捕捉特性比較を示す。
【
図5】
図5は、実施例3のキレート樹脂C、実施例4のキレート樹脂D及び比較例2のキレート樹脂gと市販ポリアミノカルボン酸型キレート樹脂における10種類の金属の捕捉特性比較を示す。
【
図5b】
図5bは、ニッケルNiの捕捉特性比較を示す。
【
図5c】
図5cは、カドミウムCdの捕捉特性比較を示す。
【
図5e】
図5eは、マグネシウムMgの捕捉特性比較を示す。
【
図5f】
図5fは、カルシウムCaの捕捉特性比較を示す。
【
図5g】
図5gは、クロムCr(3価)の捕捉特性比較を示す。
【
図5h】
図5hは、モリブデンMoの捕捉特性比較を示す。
【
図5i】
図5iは、バナジウムVの捕捉特性比較を示す。
【
図5j】
図5jは、ヒ素Asの捕捉特性比較を示す。
【
図6】
図6は、実施例5のキレート樹脂Eと市販ポリアミノカルボン酸型キレート樹脂との10種類の金属の捕捉特性比較を示す。
【
図6b】
図6bは、ニッケルNiの捕捉特性比較を示す。
【
図6c】
図6cは、カドミウムCdの捕捉特性比較を示す。
【
図6e】
図6eは、マグネシウムMgの捕捉特性比較を示す。
【
図6f】
図6fは、カルシウムCaの捕捉特性比較を示す。
【
図6g】
図6gは、クロムCr(3価)の捕捉特性比較を示す。
【
図6h】
図6hは、モリブデンMoの捕捉特性比較を示す。
【
図6i】
図6iは、バナジウムVの捕捉特性比較を示す。
【
図6j】
図6jは、ヒ素Asの捕捉特性比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、上記のように、至適な鎖長を有するポリエチレンイミン骨格を有する化合物を高分子担体に導入後、ハロゲン化酢酸の量を調節してカルボキシメチル化を行うキレート樹脂に関するものである。
【0023】
本発明の製造法において使用されるポリエチレンイミン骨格を有する化合物の製造法は、エチレンイミンの開環重合、塩化エチレンとエチレンジアミンとの重縮合、あるいは2−オキサゾリドンの加熱反応等が挙げられるが、いずれのものも使用することができる。これらポリエチレンイミン骨格を有する化合物は、鎖長の異なる化合物の混合物であるとともに、アミン構造が異なる複数の化合物の混合物である。例えば、化1に示す直鎖状構造の他、化2に示すような分岐構造も存在している。したがって、ポリエチレンイミン骨格を有する化合物に含まれるアミノ基構造は、一級、二級、三級のアミノ基が混在したものである。本発明において使用されるポリエチレンイミン骨格を有する化合物の構造や一級ないし三級アミンの比率はどの様なものであってもよく、本発明ではそれらを総合してポリエチレンイミン骨格の化合物という。
【0026】
本発明の製造方法において、高分子担体に導入されるポリエチレンイミン骨格を有する化合物は、至適な鎖長を有するポリエチレンイミン骨格の化合物であり、その平均分子量は200ないし600である。
【0027】
ポリエチレンイミン骨格の鎖長と錯体の安定度定数との関係は前述したように、鎖長が長いほど錯体の安定度定数が高くなることが知られている。鎖長が短い (化1におけるnが4未満のもの) 場合には、酸性条件下での金属の捕捉能力は低下するとともに、金属のオキソ酸の捕捉能力も低くなる。また、官能基鎖の自由度も低く、迅速な吸脱着ができないため、錯形成速度の遅いクロム(III) に対しては高い捕捉能を示すことができない。一方、鎖長が長い、たとえば平均分子量が600以上、特に1、000以上を有するポリエチレンイミン骨格を有する化合物を用いると金属の捕捉特性は改善されるものと考えられるが、高分子担体が多孔質体の場合には,高分子担体の細孔内部まで官能基を高度に導入させることができなくなるという問題が発生する。さらに,高分子鎖同士の絡み合いも発生するため,むやみに鎖長を長くしても官能基の自由度が必ずしも高くなるというわけではない。
【0028】
本発明では、反応性官能基を有する高分子担体にポリエチレンイミン骨格を有する化合物を反応させた後、アルカリ条件下でハロゲン化酢酸を用いてアミノ基及びイミノ基のカルボキシメチル化を行う。ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸等が用いられる。
【0029】
カルボキシメチル化に用いられるハロゲン化酢酸の使用量は、金属の捕捉特性及びアルカリ土類金属類の捕捉特性やそれらによる妨害の度合いに大きく関係する。反応性官能基を有する高分子担体に導入されたポリエチレンイミン骨格を有する化合物中の窒素量の1.0〜3.0倍モル、好ましくは2.0〜2.5倍モルのハロゲン化酢酸を使用してカルボキシメチル化反応を行う。3.0倍モルを超えるハロゲン化酢酸を用いるとカルボキシメチル化の度合いが高くなり、得られるキレート性官能基の金属捕捉力は向上するが、同時にアルカリ土類金属類の捕捉性も増加するため、酸性側からアルカリ土類金属類の捕捉が始まる。つまり、酸性条件下における選択性が低下し、アルカリ土類金属類の妨害により重金属を安定して高度に捕捉することはできなくなることとなる。一方、1.0倍モル未満のハロゲン化酢酸を用いると、カルボキシメチル化の度合いが低くなり、銅等の窒素親和性の高い元素を除き、重金属の捕捉能力は低くなる。また、アルカリ土類金属類の捕捉能力が極端に低くなるため、酸性条件下での重金属とアルカリ土類金属類との相互分離は可能となるが、キレート樹脂としての金属捕捉能力が低く、実際の重金属処理には適用しにくいものとなる。つまり、金属捕捉能力の向上と、アルカリ土類金属類の妨害低減を達成するためには、カルボキシメチル化度の至適範囲がある。
【0030】
本発明において,反応性官能基を有する高分子担体としては,エポキシ基あるいはハロゲン化アルキル基を有する反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合体が選ばれる。エポキシ基を有する反応性モノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基を有する反応性モノマーとしては、例えば、クロロメチルスチレン、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレート等が挙げられる。また、これら反応性モノマーと共重合が可能な架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼン,ジビニルナフタレン等の芳香族架橋性モノマー、エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールトリメタクリレート等の多官能メタクリレート系モノマー、エチレンジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレート系モノマー、この他、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等のシアヌル酸骨格をもつ架橋性モノマー等が挙げられる。これら反応性モノマーと架橋性モノマーとの共重合は公知の懸濁重合法によって行われ、反応性官能基を有する不溶性高分子担体が得られる。必要に応じて、他の重合方法、例えば、塊状重合法により、反応性官能基を有する不溶性高分子担体を得てもよい。
【0031】
高分子担体の形状に関しても特に限定はなく,公知の塊状重合法により得られた樹脂の粉砕による不定形粒子、公知の懸濁重合法により得られた球状粒子であってもよい。高分子担体の物理的構造は非多孔質型又は多孔質型の何れでも採用できる。非多孔質型の高分子担体を用いる場合には,錯体形成に係わる官能基は高分子担体の表層にのみ導入される。この場合、官能基導入量は低くなるが、細孔内部への拡散という要素を無視できるため、吸脱着速度は大きくなる。一方、多孔質担体を用いる場合には、比表面積が大きいため官能基の導入量を高くすることが可能となり、金属捕捉量を向上させることが可能となる。非多孔質型あるいは多孔質型の何れかを選択するかは使用目的に応じて判断すればよいが、一般的な使用条件等を考慮すると多孔質型のほうが好ましい。多孔質型の場合、細孔容積0.3〜2.0mL/g、平均細孔径4〜500nm、比表面積10〜1000m
2/gの範囲のものを採用するのが好ましい。
【0032】
高分子担体の材質に関しては特に制限はないが、ハロゲン化アルキル基、エポキシ基、アルデヒド基、ケトン基、アシルクロリド基、酸無水物基等のアミンと反応することが可能な官能基を有する不溶性高分子であればよく、公知の方法により得られる架橋ポリスチレン、架橋ポリメタクリレート、架橋ポリビニルアルコール等を基材とした高分子担体を用いることができる。また、公知の架橋樹脂に二次反応によって、これらのアミンと反応する官能基を導入した高分子担体でもよい。高分子担体の形状に関しても特に規定することはなく、公知の塊状重合法により得られた樹脂の粉砕による不定形粒子、公知の懸濁重合法により得られた球状粒子であってもよい。高分子担体の物理的構造は非多孔質型又は多孔質型の何れでも採用できるが、本発明では使用条件等から多孔質型のほうが好ましい。多孔質型の場合、細孔容積0.3〜2.0mL/g、平均細孔径4〜500nm、比表面積10〜1000m
2/gの範囲のものを採用するのが好ましい。
【0033】
本発明のキレート樹脂は、(1)アミンと反応するハロゲン化アルキル基、エポキシ基、アルデヒド基、ケトン基、アシルクロリド基、酸無水物基等の反応性官能基を有する高分子担体を得た後、(2)高分子担体にポリエチレンイミン骨格を有する化合物を反応させて、ついで(3)ポリエチレンイミン骨格を有する化合物中の窒素量の1.0〜3.0倍モルのハロゲン化酢酸をアルカリ溶液中で反応させることにより製造される。
【0034】
反応性官能基を有する高分子担体とポリエチレンイミン骨格を有する化合物との反応は、公知のとおり、ポリエチレンイミン骨格を有する化合物を、水、アルコール、ジメチルホルムアミド等あるいはそれらの混合溶媒中に溶解した反応溶液中に高分子担体を分散させて、攪拌下、室温〜80℃で、3〜24時間の反応によりポリアミノ化を行う。ただし、アルデヒド基やケトン基を有する高分子担体に反応させる場合、シッフ塩基型の結合であるため、LiBH
3CN、NaBH
3CN、(CH
3)
2NHBH
3等を用いた公知の方法により還元を行う。また、アミド構造で導入されたものを還元する必要がある場合には、LiAlH
4、BH
3-THFを用いた公知の方法で還元してもよい。
【0035】
反応終了後、水及び有機溶媒で洗浄後、真空乾燥を行う。導入されたポリエチレンイミン骨格を有する化合物中の窒素量は、元素分析装置 (いわゆるCHN計) で測定する。
ハロゲン化酢酸によるカルボキシメチル化は、公知のとおりアルカリ条件下で反応を行う。この時、使用するハロゲン化酢酸の量は、元素分析装置により得られた窒素量を基に決定する。また、アルカリの濃度に関しては、特に規定はしないが、一般には、0.5〜3mol/L(モル/リットル)の水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムを用いる。このようにして得られたキレート樹脂は、水、酸、水の順で洗浄し、目的に応じて対イオン交換を行った後、使用する。
【0036】
つぎに実施例によって本発明を説明するが、この実施例によって本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0037】
キレート樹脂Aの合成
(1)高分子担体の製造
高分子担体の合成は、公知の懸濁重合法にしたがい行った。グリシジルメタクリレート80g、エチレンジメタクリレート120g、酢酸ブチル200g及びアゾビスイソブチロニトリル2gの混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液2,000mL(ミリリットル)中に加え、油滴の径が60μmになるように攪拌した。その後、70℃で6時間重合反応を行った。反応物を冷却した後、生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノール、水の順で洗浄した。次いで、一日風乾後、分級して45〜90μmの多孔性架橋重合体粒子85gを得た。
【0038】
(2)ポリアミノ化反応
イソプロピルアルコール50mL、水200mLに平均分子量600のポリエチレンイミン(日本触媒社製、商品名:エポミンSP−006、平均分子量:600、アミン比:一級35%、二級35%、三級30%) 35gを溶解し、前記(1) で得られた多孔性架橋重合体粒子20gを加え、50℃で6時間反応させた。反応物を濾過し、水、メタノール、水の順で洗浄した。このポリアミノ化樹脂の窒素量を元素分析装置 (パーキンエルマー社製2400 Series II CHNS/O Elemental Analyzer) で測定したところ7.88%−N/gであった。
【0039】
(3)カルボキシメチル化
2MNaOH水溶液200mLにクロロ酢酸ナトリウム31.5g (導入窒素量の2.4倍モル相当) を溶解し、前記(2) で得られたポリアミノ化樹脂を20g入れ、40℃で6時間反応させ、反応物を濾過し、十分に水で洗浄後、メタノールに置換し、乾燥してキレート樹脂Aを得た。
【0040】
(4)評価
得られたキレート樹脂Aを60℃の真空乾燥機内で3時間乾燥後、250mgをとり、下部に孔径20μmのフィルタを挿入した注射筒型固相抽出カートリッジに充てんし、さらに上部にも孔径20μmのフィルタを挿入した。このカートリッジに、アセトニトリル、純水、3M硝酸、純水及び0.1M酢酸アンモニウム緩衝液 (pH5) の順で、それぞれ10mLずつ通液して、カートリッジのコンディショニングを行った。その後、0.05M酢酸アンモニウム緩衝液 (pH5) で調整された0.5M硫酸銅溶液3mLをゆっくり通液し、充てんされたキレート樹脂Aに銅を吸着させた。その後、純水10mL、0.005Mの硝酸5mLの順で洗浄した後、キレート樹脂Aに吸着捕捉させた銅を3M硝酸3mLで溶出させ、溶出液を純水で10mLに定容し、吸光光度計で805nmにおける銅の吸光度を測定し、キレート樹脂Aにおける銅の捕捉量を求めた。その結果、銅の捕捉量は、0.43mmolCu/gであり、十分な捕捉性を示した。
【0041】
金属捕捉特性の評価
実施例1で得られたキレート樹脂Aを実施例1(4)と同様に固相抽出カートリッジに充てんし、同様のコンディショニングを行った。その後、種々のpHに調整した金属イオン混合標準液(銅Cu、ニッケルNi、カドミウムCd、鉛Pb、マグネシウムMg、カルシウムCa、クロムCr(3価)、モリブデンMo、バナジウムV、ヒ素Asの10種類)を通液し、金属を捕捉させた。捕捉した金属は、前記実施例1(4)と同様に3M硝酸3mLで溶出させ、ICP発光分析装置 (パーキンエルマー社製、Optima 3000 DV) を用いて溶液中濃度を測定し、捕捉回収率を求めた。比較として、IDA型キレート樹脂であるキレックス100 (商品名、バイオラッドラボラトリーズ社製、交換容量:0.4meq/mL) を用いて同様の金属の捕捉特性比較試験を行った。結果を
図1(
図1aないし
図1j)に示す。
図1に示すとおり、銅、ニッケル、カドミウム、鉛のような重金属の酸性条件下での捕捉回収率は、IDA型に比べ大きく改善されていた。また、キレート樹脂Aでは、アルカリ土類金属類はpH7以下では全く捕捉されず、アルカリ土類金属類の妨害を受けずに高度に重金属を捕捉回収できることができた。さらに、クロム、モリブデン、バナジウム、ヒ素に関しては、キレート樹脂AはすべてのpH範囲で高い捕捉回収率を示した。
【0042】
金属の捕捉特性の評価
実施例1で得られたキレート樹脂Aと、ジエチレントリアミン骨格のポリアミノカルボン酸基を有する市販キレート樹脂カートリッジNOBIASChelate-PA1 (株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、金属捕捉量:0.25mmol−Cu/g、以下では単にPA1と略記することがある。)とをそれぞれ実施例1(4)と同様に固相抽出カートリッジに充てんし、両者の金属捕捉特性(試料pHと捕捉回収率との関係)を実験し、比較した。充てん量はともに250mgとした。銅Cu、ニッケルNi、カドミウムCd、鉛Pb、マグネシウムMg、カルシウムCa、クロムCr(III、3価)、モリブデンMo、バナジウムV、ヒ素Asの10種類の結果を
図2(
図2aないし
図2j)に示す。
図2に示すとおり、銅、ニッケル、カドミウム、鉛に関しては本質的に大きな差はみられず、同等の金属捕捉性能を示した。アルカリ土類金属類の捕捉に関しては、キレート樹脂AのほうがpH7付近まで捕捉せず、PA1よりも広いpH範囲でアルカリ土類金属類の妨害を受けずに重金属を捕捉・回収できることが判明した。また、他の重金属に比べアミノカルボン酸型キレート樹脂における錯形成速度が非常に遅いとされるクロム(III) においては、キレート樹脂Aのほうが、より低いpHから高度に捕捉された。このことは、官能基鎖長が長くなったことによる錯体の安定度定数の向上、並びに錯体形成に係わる官能基の自由度の増加が大きく寄与しているものと判断される。モリブデン及びバナジウムの捕捉に関しても、アルカリ側での捕捉性の向上が観察された。さらに、ヒ素に関しては、全pH範囲において2倍以上の捕捉回収率が得られた。以上の通り、本発明のキレート樹脂は、市販キレート樹脂に比べ、アルカリ土類金属類の妨害を受け難く、広いpHで重金属を高度に捕捉・回収でき、さらには、従来のキレート樹脂では捕捉しにくい、クロムや金属オキソ酸等の捕捉特性を改善できることが判明した。
【0043】
試料通液量の評価
比較試験2と同じく2つの固相抽出カートリッジに実施例1で得られたキレート樹脂AとPA1をそれぞれ250mg充てんし、試料通液量と捕捉回収率の関係を調べた。測定対象元素は、カドミウム、バナジウム、モリブデンとした。試料中の金属量は、一定重量(10μg)として純水で希釈後、比較試験1に準じてpH5.5に調整して、10mL、100mL、500mL及び1,000mLの4種類の試料を作製した。この4種類の試料をそれぞれ固相抽出カートリッジに通液して金属を捕捉し、捕捉した金属を3M硝酸で溶出後、ICP発光分光分析装置で捕捉された金属量を測定した。試料通液量が10mLの場合の捕捉回収量 (両カートリッジ共ほぼ100%の捕捉回収率) を100としたときの相対捕捉回収量を相対捕捉回収率として算出した。その結果を
図3に示す。カドミウムに関しては両者の差はほとんどなく、250mgの充てん剤で約1,000mLまで通液できた。しかし、バナジウム及びモリブデンに関しては、大きな差がみられ、PA1では捕捉回収率の大きな低下が観察されたが、実施例1のキレート樹脂Aでは500mLまでは大きな減少はみられなかった。試料溶液のpH5.5は、前記比較試験2の結果から明白なように、両カートリッジともほぼ100%回収する条件である。この差は、キレート性官能基の鎖長の影響、つまり本発明のキレート性官能基の鎖長が長いことによる錯体の安定度定数の向上、並びに、スペーサ的効果による自由度の向上により、金属捕捉性能が改善されている。
【実施例2】
【0044】
キレート樹脂Bの合成
キレート樹脂Bを実施例1と同様な方法により合成した。すなわち、イソプロピルアルコール50mL、水200mLに平均分子量300のポリエチレンイミン(日本触媒社製、商品名;エポミンSP−003、平均分子量:300、アミン比:一級45%、二級35%、三級20%) 35gを溶解し、実施例1(1)で得られた多孔性架橋重合体粒子20gを加え、50℃で6時間反応させた。反応物を濾過し、水、メタノール、水の順で洗浄し、ポリアミノ化樹脂を得た。このポリアミノ化樹脂の窒素量は7.31%-N/gであった。このポリアミノ化樹脂20gを、1M NaOH水溶液200mLにクロロ酢酸ナトリウム29.0g (導入窒素量の2.4倍モル相当) を溶解した液に加え、40℃で6時間反応させ、反応物を濾過し、十分に水で洗浄後、メタノールに置換し、乾燥してキレート樹脂Bを得た。このキレート樹脂Bの銅の捕捉量は、0.40mmol Cu/gであった。
【0045】
キレート樹脂fの合成
イソプロピルアルコール50mL、水200mLにエチレンジアミン (和光純薬社製、試薬特級) 35gを溶解し、実施例1(1)で得られた多孔性架橋重合体粒子20gを加え、50℃で6時間反応させた。反応物を濾過し、水、メタノール、水の順で洗浄した。このポリアミノ化樹脂の窒素量は6.91%−N/gであった。ついで、このポリアミノ化樹脂20gを1MNaOH水溶液200mLにクロロ酢酸ナトリウム27.5g (導入窒素量の2.4倍モル相当) を溶解した液に添加し、40℃で6時間反応させ、反応物を濾過し、十分に水で洗浄後、メタノールに置換し、乾燥してキレート樹脂fを得た。銅の捕捉量は、0.41mmol Cu/gであった。
【0046】
金属の捕捉特性の評価
実施例1で得られたキレート樹脂A、実施例2で得られたキレート樹脂B、比較例1で得られたキレート樹脂f、及びPA1を用いて、試料pHと捕捉回収率との関係を調べた。評価方法は前記比較試験1にしたがって行った。銅Cu、ニッケルNi、カドミウムCd、鉛Pb、マグネシウムMg、カルシウムCa、クロムCr(III、3価)、モリブデンMo、バナジウムV、ヒ素Asの10種類の結果を
図4(
図4aないし
図4j)に示す。
図4に示すとおり、銅に関してはすべてのキレート樹脂で良好な結果が得られた。ニッケル、カドミウム、鉛に関しては、比較例1のキレート樹脂fでは酸性条件下での捕捉回収率が低かったが、キレート樹脂A及びキレート樹脂Bは良好な捕捉特性を示した。アルカリ土類金属類の捕捉に関しては、キレート樹脂A及びキレート樹脂BではpH7付近まで捕捉せず、比較例1で得られたキレート樹脂f及びPA1よりも広いpH範囲でアルカリ土類金属類の妨害を受けずに重金属を捕捉・回収できることができることが判明した。また、クロム(III) は、キレート樹脂A及びキレート樹脂Bでは低いpHから高度に捕捉することができた。モリブデン及びバナジウムの捕捉に関しては、キレート樹脂A及びキレート樹脂Bでアルカリ側での捕捉性の向上が観察された。さらに、ヒ素に関しては、キレート樹脂A及びキレート樹脂Bでは全pH範囲において比較例1のキレート樹脂fよりも2倍以上の捕捉回収率であった。
【実施例3】
【0047】
キレート樹脂Cの合成
(1)ポリアミノ化樹脂の合成
実施例1と同様の方法でポリアミノ化樹脂を合成した。グリシジルメタクリレート90g、エチレンジメタクリレート210gを用いて45〜90μmの多孔性架橋重合体粒子の高分子担体125gを得た。ついで、イソプロピルアルコール300mL、水1200mLにポリエチレンイミン300 (日本触媒社製、商品名:エポミンSP−003) 250gを溶解し、これに得られた高分子担体125gを加え、50℃で6時間反応させた。反応物を濾過し、水、メタノール、水の順で洗浄してポリアミノ化樹脂を得た。このポリアミノ化樹脂の窒素量は5.91%−N/gであった。
【0048】
(2)カルボキシメチル化
1M NaOH水溶液200mLにクロロ酢酸ナトリウム20g (導入窒素量の2.0倍モル相当) を溶解し、前記(1) で得られたポリアミノ化樹脂20gを入れ、40℃で6時間反応させ、反応物を濾過し、十分に水で洗浄後、メタノールに置換し、乾燥してキレート樹脂Cを得た。このキレート樹脂Cの銅の捕捉量は、0.33mmol Cu/gであった。
【実施例4】
【0049】
キレート樹脂Dの合成
実施例3(1)で得られたポリアミノ化樹脂20gとクロロ酢酸ナトリウム10g (導入窒素量の1.0倍モル相当) とを実施例3と同様に反応させて、ポリアミノカルボン酸型キレート樹脂Dを製造した。このキレート樹脂Dの銅の捕捉量は、0.31mmol Cu/gであった。
【0050】
キレート樹脂gの合成
実施例3(1)で得られたポリアミノ化樹脂20gとクロロ酢酸ナトリウム35g (導入窒素量の3.5倍モル相当) とを実施例3と同様に反応させて、ポリアミノカルボン酸型キレート樹脂gを製造した。このキレート樹脂gの銅の捕捉量は、0.32mmol Cu/gであった。
【0051】
金属の捕捉特性の評価
比較試験1にしたがい、4種のキレート樹脂C、D、g及びPA1を用いて金属の捕捉特性の比較を行った。銅Cu、ニッケルNi、カドミウムCd、鉛Pb、マグネシウムMg、カルシウムCa、クロムCr(III、3価)、モリブデンMo、バナジウムV、ヒ素Asの10種類の金属の補足特性の結果を
図5(
図5aないし
図5j)に示す。窒素親和性の高い銅に関しては、すべての樹脂で良好な捕捉特性を示した。ニッケル、カドミウム及び鉛の酸性側での捕捉特性は、キレート樹脂D<PA1=キレート樹脂C<キレート樹脂gの順(=は、ほぼ同程度であることを示す。以下同じ)で増加し、カルボキシメチル化度の高いキレート樹脂のほうが良好な結果となった。アルカリ土類金属類が捕捉されるかどうかに関しては、PA1=キレート樹脂g<キレート樹脂D=キレート樹脂Cの順で捕捉されにくいが、カルボキシメチル化度が低いほうがアルカリ土類金属類を捕捉せず、高いpHまでアルカリ土類金属類が捕捉されなかった。クロム(III) の捕捉に関しては、PA1<キレート樹脂D<キレート樹脂g=キレート樹脂Cの順で大きくなり、モリブデン及びバナジウムのアルカリ側での捕捉に関しては、PA1<キレート樹脂D<キレート樹脂g<キレート樹脂Cの順であった。また、ヒ素の捕捉に関しては、PA1<キレート樹脂g<キレート樹脂C<キレート樹脂Dの順であった。これらの結果から、金属捕捉特性とアルカリ土類金属類が捕捉されにくい特性とのバランスが取れたキレート樹脂を得るにはカルボキシメチル化度の至適範囲が存在することが明白となった。
【実施例5】
【0052】
キレート樹脂Eの合成
クロロメチルスチレン30g、ジビニルベンゼン70g、トルエン150g及びアゾビスイソブチロニトリル2gの混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液2、000mL中に加え、油滴の径が60μmになるように攪拌し、70℃で6時間重合反応を行った。反応物を冷却した後、生成した共重合体を濾取し、水、メタノール、水の順で洗浄した。ついで、一日風乾後、分級して45〜90μmの多孔性架橋重合体粒子35gを得た。イソプロピルアルコール40mL、水160mLにポリエチレンイミン300 (日本触媒社製、エポミンSP−003) 35gを溶解し、これに得られた多孔性架橋重合体粒子20gを加え、50℃で6時間反応させた。反応物を濾過し、水、メタノール、水の順で洗浄してポリアミノ化樹脂を得た。このポリアミノ化樹脂の窒素量は6.81%−N/gであった。ついで、1M NaOH水溶液200mLにクロロ酢酸ナトリウム20.5g (導入窒素量の1.8倍モル相当) を溶解し、得られたポリアミノ化樹脂の全量を入れ、40℃で6時間反応させ、反応物を濾過し、十分に水で洗浄後、メタノールに置換し、乾燥してキレート樹脂Eを得た。このキレート樹脂Eの銅の捕捉量は、0.39mmolCu/gであった。
【0053】
金属捕捉特性の評価
実施例5のキレート樹脂Eを用いて、比較試験1にしたがい、PA1と比較して金属捕捉特性を評価した。銅Cu、ニッケルNi、カドミウムCd、鉛Pb、マグネシウムMg、カルシウムCa、クロムCr(III、3価)、モリブデンMo、バナジウムV、ヒ素Asの10種類の結果を
図6(
図6aないし
図6j)に示す。
図6に示すとおり、銅、ニッケル、カドミウム、鉛に関しては本質的に大きな差はみられず、同等の金属捕捉性能を示した。アルカリ土類金属類の捕捉に関しては、キレート樹脂Eのほうが広いpH範囲でアルカリ土類金属類の妨害を受けずに重金属を捕捉・回収できることができることが判明した。また、クロム(III) においては、キレート樹脂Eのほうが、より低いpHから高度に捕捉された。モリブデン及びバナジウムの捕捉に関しても、アルカリ側での捕捉性の向上が観察された。さらに、ヒ素に関しては、全pH範囲において2倍以上の捕捉回収率が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のキレート樹脂は、酸性条件下ではアルカリ土類金属類を捕捉しないため、排水や用水等からの重金属除去、海水や河川水等の環境水や金属処理溶液中からの有価金属の回収を効率よく行うことができる。さらには、微量金属の機器分析における妨害元素の除去及び分析対象元素の抽出・濃縮等の前処理用途にも使用することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
●:
図1(
図1aないし
図1j)における実施例1のキレート樹脂Aの回収率を示す。
□:
図1(
図1aないし
図1j)における市販IDA型樹脂の回収率を示す。
●:
図2(
図2aないし
図2j)における実施例1のキレート樹脂Aの回収率を示す。
□:
図2(
図2aないし
図2j)における比較対象のNOBIASChelate-PA1の回収率を示す。
元素記号-A:
図3における実施例1のキレート樹脂Aの相対回収率を示す。
元素記号-R:
図3における比較対象のNOBIAS Chelate-PA1の相対回収 率を示す。
◆:
図4(
図4aないし
図4j)における実施例1のキレート樹脂Aの回収率を示す。
●:
図4(
図4aないし
図4j)における実施例2の型キレート樹脂Bの回収率を示す。
△:
図4(
図4aないし
図4j)における比較例1のキレート樹脂fの回収率を示す。
□:
図4(
図4aないし
図4j)における比較対象のNOBIASChelate-PA1の回収率を示す。
●:
図5(
図5aないし
図5j)における実施例3のキレート樹脂Cの回収率を示す。
△:
図5(
図5aないし
図5j)における実施例4のキレート樹脂Dの回収率を示す。
○:
図5(
図5aないし
図5j)における比較例2のキレート樹脂gの回収率を示す。
□:
図5(
図5aないし
図5j)における比較対象のNOBIASChelate-PA1の回収率を示す。
●:
図6(
図6aないし
図6j)における実施例5のキレート樹脂Eの回収率を示す。
□:
図6(
図6aないし
図6j)における比較対象のNOBIASChelate-PA1の回収率を示す。