特許第5796888号(P5796888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5796888光直交周波数分割多重伝送方式による受信装置および受信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796888
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】光直交周波数分割多重伝送方式による受信装置および受信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/61 20130101AFI20151001BHJP
   H04B 10/2543 20130101ALI20151001BHJP
   H04J 11/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   H04B9/00 610
   H04B9/00 260
   H04J11/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-147476(P2011-147476)
(22)【出願日】2011年7月1日
(65)【公開番号】特開2013-16980(P2013-16980A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2014年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100084870
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 香樹
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】ウェイレン ペン
(72)【発明者】
【氏名】森田 逸郎
【審査官】 後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−050578(JP,A)
【文献】 特開2010−028470(JP,A)
【文献】 Ezra Ip 他,「Complexity versus Performance Tradeoff for Fiber Nonlinearity Compensation Using Frequency-Shaped, Multi-Subband Backpropagation」,OFC/NFOEC 2011,米国,2011年 3月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B10/00−10/90
H04J14/00−14/08
H04J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆伝搬法を用いて非線形光学効果の影響を抑圧する光伝送システムにおける受信装置であって、
受信した変調光信号を光電気変換して第1の電気信号を出力する手段と、
前記第1の電気信号からサイクリックプリフィックスを除去した後の信号に対して規定の回数の逆伝搬法を適用して第2の電気信号を出力する手段と、
前記第2の電気信号をFFTにより周波数領域の電気信号に変換し、該電気信号からデータを復調する手段と、
を備え、前記逆伝搬法は前記復調する手段のFFTを用いることを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記第2の電気信号を出力する手段は、
波長分散の補償を行う分散補償部と、IFFTと、非線形光学効果を補償する非線形補償部とを備え、
前記第1の電気信号を前記復調する手段のFFTで周波数領域の電気信号に変換し、前記分散補償部で波長分散の補償を行い、前記IFFTで時間領域の電気信号に変換し、非線形補償部で非線形光学効果を補償することを規定の回数繰り返す手段であることを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記規定の回数は、2以上であり、前記光伝送システム内のファイバのスパン数以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の受信装置。
【請求項4】
逆伝搬法を用いて非線形光学効果の影響を抑圧する光伝送システムにおける受信方法において、
受信した変調光信号を光電気変換して第1の電気信号を出力するステップと、
前記第1の電気信号からサイクリックプリフィックスを除去した後の信号に対して規定の回数の逆伝搬法を適用して第2の電気信号を出力するステップと、
前記第2の電気信号をFFTにより周波数領域の電気信号に変換し、該電気信号からデータを復調するステップと、
を備え、前記逆伝搬法は前記復調するステップのFFTを用いることを特徴とする受信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調信号を、光搬送波と共に伝送する光通信システムの受信装置および受信方法に関する。より詳細には、非線形光学効果耐力を向上した光OFDM通信システムの受信装置および受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM変調技術は、送信データを複数のサブキャリアを用いて並列に伝送する方式であり、各サブキャリアのシンボルレートが比較的低くなるためシンボル間干渉に強く、デジタル地上波放送や、無線LAN(Local Aera Network)システムで既に使用されており、光通信システムへの適用についても検討されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
OFDM変調技術を長距離光通信システムへ適用する場合、その伝送距離を制限する主要因は光ファイバ伝搬中の非線形光学効果となる。これは、多数のサブキャリアを重ね合わせた時間波形は、サブキャリア信号の重ね合わさり方により変化し、瞬間的に大きなピークが発生する可能性が高くなるためである。一般的に、多数のサブキャリアを有するOFDM信号は、単一キャリア方式と比較して、時間波形における、ピークパワーと平均パワーの比、ピーク・アベレージ・パワー比(PAPR:Peak Average Power Ratio)が高くなり、平均パワーを同一とした場合でも、非線形光学効果による影響が大きくなり、安定した信号特性が得られないという問題がある。
【0004】
光ファイバ伝搬中の非線形光学効果の影響を低減するためには、光信号のピークパワーを低減する必要がある。また、受信装置において所望の信号特性を得るためには、受信光信号の平均パワーをある一定値以上に大きくする必要がある。信号のピークパワーと平均パワーは無関係でないため、「ピークパワーの低減」と「平均パワーの増加」の間にはトレードオフの関係がある。
【0005】
信号のピークパワーと平均パワーの関係は、PAPRで示される。平均パワーを所望値以上に維持しつつ、ピークパワーを低減するためには、PAPRを低減する必要がある。PAPRを低減する方法としては、波形クリッピングを用いる方法が提案されている。本方法では、出力振幅が一定値以下に制限されたフィルタ等を用いることで、信号振幅を一定値以下とする。これにより、時間波形の変化が低減され、PAPRが低減される。しかし、信号の時間波形の一部をクリッピングすることにより、信号特性の劣化が避けらない。
【0006】
一方、光ファイバ伝送路のパラメータを用いた逆スプリットステップフーリエ法を用いて、非線形光学効果の影響を抑圧する方法も提案されている(例えば、非特許文献2)。
【0007】
図1は、逆スプリットステップフーリエ法を用いた既存の受信装置のブロック図を示す。ここでは、OA−FFT(Overlap-add FFT)、分散補償部、OA−IFFT(Overlap-add IFFT)、および非線形補償部を繰り返すことにより、逆伝搬法で非線形光学効果の影響を抑圧していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Arthur JamesLowery、et al.、“Orthogonal-frequency-division multiplexing for dispersioncompensation of long-haul optical systems”、2006 Optical Society of America、OPTICSEXPRESS 2079、Vol.14 No.6、2006年3月
【非特許文献2】Liang Du、et al.、“EfficientDigital Backpropagation for PDM-CO-OFDM Optical Transmission Systems”、OpticalFiber Communications (OFC 2010), 23rd March 2010, San Diego, CA, paper OTuE2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、既存技術では、サイクリックプリフィックス(CP)を除去する前に逆伝搬法を適用していたため、逆伝搬法のための専用のFFTブロック(OA−FFT)が必要となり、回路規模、計算量の増大が避けられなかった。
【0010】
したがって、本発明は、回路規模、計算量を大幅に増加させることなく、光ファイバ伝搬中の非線形光学効果の影響を抑圧することが可能な受信装置および受信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を実現するため本発明による受信装置は、逆伝搬法を用いて非線形光学効果の影響を抑圧する光伝送システムにおける受信装置であって、受信した変調光信号を光電気変換して第1の電気信号を出力する手段と、前記第1の電気信号からサイクリックプリフィックスを除去した後の信号に対して規定の回数の逆伝搬法を適用して第2の電気信号を出力する手段と、前記第2の電気信号をFFTにより周波数領域の電気信号に変換し、該電気信号からデータを復調する手段とを備え、前記逆伝搬法は前記復調する手段のFFTを用いる。
【0012】
また、前記第2の電気信号を出力する手段は、波長分散の補償を行う分散補償部と、IFFTと、非線形光学効果を補償する非線形補償部とを備え、前記第1の電気信号を前記復調する手段のFFTで周波数領域の電気信号に変換し、前記分散補償部で波長分散の補償を行い、前記IFFTで時間領域の電気信号に変換し、非線形補償部で非線形光学効果を補償することを規定の回数繰り返す手段であることも好ましい。
【0013】
また、前記規定の回数は、2以上であり、前記光伝送システム内のファイバのスパン数以下であることも好ましい。
【0014】
上記目的を実現するため本発明による受信方法は、逆伝搬法を用いて非線形光学効果の影響を抑圧する光伝送システムにおける受信方法において、受信した変調光信号を光電気変換して第1の電気信号を出力するステップと、前記第1の電気信号からサイクリックプリフィックスを除去した後の信号に対して規定の回数の逆伝搬法を適用して第2の電気信号を出力するステップと、前記第2の電気信号をFFTにより周波数領域の電気信号に変換し、該電気信号からデータを復調するステップとを備え、前記逆伝搬法は前記復調するステップのFFTを用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、光OFDM伝送システムにおける受信装置でのCP除去の後に非線形光学効果の影響を抑圧する逆伝搬法を適用する。これにより、本来、光OFDM信号受信のために必要なFFTブロックと逆伝搬計算に必要なFFTブロックを共通化することが可能となり、回路規模・計算量の減少することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】逆スプリットステップフーリエ法を用いた既存の受信装置のブロック図を示す。
図2】本発明の受信装置のブロック図を示す。
図3】本発明の受信装置の有効性を評価する実験系を示す。
図4図3の実験系において、従来法と本発明の効果を比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の実施形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。図2は、本発明の受信装置のブロック図を示す。本発明の受信装置は、同期部11と、位相雑音補償部12と、CP除去部13と、FFT14と、分散補償部15と、IFFT16と、非線形補償部17と、Ch推定部18と、MIMO等化器19とを備えている。
【0018】
同期部11は、OFDMシンボル同期を行い、受信信号から復調を行う箇所を検出する。位相雑音補償部12は、光源の周波数揺らぎ等により発生する位相雑音を補償する。CP除去部13は、マルチパスフェージングの影響を避けるため設けられ、CP(サイクリックプリフィックス)を除去する。
【0019】
FFT14は、受信信号を時間領域から周波数領域に変換する。これは、以下の波長分散(CD)の補償は、周波数領域で行った方が効率的であるためである。分散補償部15は、波長分散の補償を行う。IFFT16は信号を再度時間領域に戻す。非線形補償部17は、非線形光学効果を補償する。
【0020】
本実施形態では、CP除去部13によるCP除去後に、FFT14と、分散補償部15と、IFFT16と、非線形補償部17による逆伝搬法が繰り返し適用される。光ファイバ伝送路のパラメータを用いた逆スプリットステップフーリエ法を用いて、非線形光学効果の影響を抑圧するため、光ファイバのスパン数分繰り返しが行われることが望ましい。しかしながら、計算量を減少させるために、繰り返し回数を制限することも可能である。例えば、10スパンの光ファイバで構成される通信システムでは、光ファイバ伝送路のパラメータを用いて、逆伝搬法を10回繰り返し、非線形光学効果の影響を抑圧することが望ましいが、繰り返し回数を2回に制限することもできる。
【0021】
FFT14から非線形補償部17の繰り返しによる逆伝搬法が行われた後、再度FFT14を用いて周波数領域のデータへと戻され、このデータが復調器により2進数のデータへと変換される。
【0022】
本実施形態では、偏波多重OFDMを用いているため、Ch推定部18は、偏波の混合比を示すチャネル伝達関数を推定し、チャネル伝達関数を用いて、MIMO等化器19が偏波分散を行う。
【0023】
図3は、本発明の受信装置の有効性を評価する実験系を示す。送信装置から送信された光信号は、3スパンの80kmのシングルモード光ファイバをスイッチにより4回ループさせ、960km伝送後、受信装置に送られる。6GHzの信号帯域幅で16QAMを用いているため、伝送速度は1つの偏波で21.4Gb/sになる。本実験系では、偏波多重分離方式により、2つの偏波を用いるため、全体の伝送速度は42.8Gb/sになる。
【0024】
図4は、図3の実験系において、従来法と本発明の効果を比較した結果を示す。本図は、ファイバ入力パワー(Launch Power)対信号特性(Q値)の特性を示す。Q値は、値が大きいほど信号品質がよい(符号誤りが少ない)ことを示す。なお、S/sは1秒間のサンプル数を表す。多い方がアナログ波形を忠実に再現する。例えば、本実験系の21.4Gb/s(1偏波)では、20GS/sが最適なサンプル数である。
【0025】
図4でNoBPは、非線形光学効果に対する対処を行わない場合を示す。この場合、ファイバ入力パワーを大きくしていくとある段階(−2dBm)までは、Q値も同時に大きくなるが、−2dBmを超えると、非線形光学効果による影響により、Q値が急激に下がる。
【0026】
図4(a)は、逆伝搬をファイバのスパン数分12回繰り返した結果を示す。非線形光学効果に対する対処を行った従来法および本発明では、0dBmまでQ値が大きくなり、さらに0dBmを超えても、急激に下がらない。また、従来法と本発明を比べると、本発明は従来法よりわずかにQ値が低いだけで、本発明の構成で非線形光学効果の影響を十分抑圧できることが分かる。
【0027】
図4(b)は、逆伝搬の繰り返し回数を変化させた場合の結果を示す。繰り返し回数を2回に制限した場合(480km/step)では、従来法および本発明の両方とも12回繰り返した結果(80km/step)とほぼ同じQ値を示し、逆伝搬を2回適用するだけでも非線形光学効果の影響を十分抑圧できることが分かる。ただし、1回に制限した場合(960km/step)では、従来法および本発明の両方ともQ値の大幅な低下が見られる。
【0028】
以上のように、本発明では、従来法のようにFFTを2つ用いることなく、FFTを共通利用することにより、1つにして回路規模を減少させているが、従来法と同程度に非線形光学効果の影響を抑圧できる。
【0029】
上記実施形態は、OFDM変調方式について説明したが、FFTを使用する変調方式であれば、他の信号変調方式にも適用可能である。
【0030】
また、以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様および変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲およびその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0031】
11 同期部
12 位相雑音補償部
13 CP除去部
14 FFT
15 分散補償部
16 IFFT
17 非線形補償部
18 Ch推定部
19 MIMO等化器
図1
図2
図3
図4