特許第5796893号(P5796893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796893
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】テーパ角度測定冶具
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20151001BHJP
   B23H 7/06 20060101ALI20151001BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B23H7/02 R
   B23H7/06 A
   B23Q17/22 Z
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-269566(P2011-269566)
(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公開番号】特開2013-119152(P2013-119152A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】早川 達朗
(72)【発明者】
【氏名】酒谷 幸男
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−088529(JP,U)
【文献】 特開平06−015529(JP,A)
【文献】 特開昭63−127830(JP,A)
【文献】 米国特許第04829151(US,A)
【文献】 特開2006−281439(JP,A)
【文献】 実開平03−103119(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/02
B23H 7/06
B23Q 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下面が平行であって直角に隣接し合う第1の側面と第2の側面との2つの側面が共に前記上下面に対して垂直である形状を有し前記上下面のうちの一方の面に前記第1の側面に直交する第1の溝と前記第1の溝に平行な第2の溝と前記第2の側面および前記第1の溝に直交する第3の溝と前記第3の溝に平行な第4の溝との4本の溝が形成されるとともに前記上下面のうちの他方の面に前記第1の溝と前記第2の溝との間に位置するように前記第1の溝および前記第2の溝に対して平行に垂直方向および水平方向にずらされて前記第1の側面に直交する第5の溝と前記第3の溝と前記第4の溝との間に位置するように前記第3の溝および前記第4の溝に対して平行に垂直方向および水平方向にずらされて前記第2の側面に直交する第6の溝との2本の溝が形成された導電性の材料でなる本体と、前記各溝にそれぞれ収容され導電性の材料でなる複数の円柱形状の接触検出子と、前記各溝にそれぞれ嵌合するようにネジで固定され前記第1の溝および前記第2の溝に収容される前記接触検出子に対して前記第5の溝に収容される前記接触検出子の突出長さが異なり前記第3の溝および前記第4の溝に収容される前記接触検出子に対して前記第6の溝に収容される前記接触検出子の突出長さが異なるように前記各接触検出子をそれぞれ前記各溝の側面に押し付けて取り付ける複数の押付部材と、を具備するワイヤカットのテーパ角度測定冶具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤカットにおけるワイヤ電極の傾斜角度を測定するためのテーパ角度測定冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤカットは、ワイヤ電極と被加工物とで形成される加工間隙に間歇的に放電を発生させ、放電エネルギによって被加工物を切断する放電加工方法である。一般に、被加工物は、加工槽の中に設けられているワークスタンドに水平に取り付けられる。工具であるワイヤ電極は、被加工物を挟んで対向配置される上下一対のワイヤガイド間に所定の張力が付与された状態で張架される。したがって、上下のワイヤガイドが水平方向における相対位置が同一であるように配設されているとき、ワイヤ電極が被加工物に対して垂直に張架される。
【0003】
ワイヤガイドは、走行するワイヤ電極を位置決めし案内する。ワイヤ電極は、ワイヤガイドによって位置決めされて規定される走行経路に沿って所定の速度で送出側から巻取側に送られる。一般的なワイヤカット放電加工装置は、上側のワイヤガイドを水平方向および垂直方向に移動させる移動装置を備えている。そのため、上側のワイヤガイドの水平方向における相対位置を下側のワイヤガイドの水平方向における相対位置に対して異ならせることによってワイヤ電極を被加工物に対して傾斜させることができる。
【0004】
ワイヤカットにおいてワイヤ電極を傾斜させて加工する方法は、特にテーパカットと称される。テーパカットにおけるワイヤ電極の傾斜角度をテーパ角度という。上側のワイヤガイドを水平方向に移動させてワイヤ電極を傾斜させる構成のワイヤカット放電加工装置においては、テーパ角度を決める要素は、実質的にワイヤガイドの水平方向における相対位置と一対のワイヤガイド間距離(ガイドスパン)である。
【0005】
高精度のワイヤカット放電加工装置における上側のワイヤガイドを移動させる移動装置は、1μm以下の位置決め精度を有しているので、正確に指定のテーパ角度でワイヤ電極を傾斜させることができるはずである。しかしながら、ワイヤ電極とワイヤガイドとの間には僅かなクリアランスが存在するので、水平方向に位置決め誤差が発生する。また、ワイヤ電極が傾斜するときにワイヤガイドのガイド本体における案内面の輪郭形状に沿ってワイヤ電極が屈曲するので、指定のテーパ角度に対して避けることができない誤差が発生する。
【0006】
そこで、ワイヤカットでは、加工前に指定のテーパ角度の通りにワイヤ電極が傾斜されているかどうかを実際に測定して、測定結果に対応してワイヤガイドの水平方向の相対位置を補正する必要がある。ワイヤガイドの移動装置は、ワイヤガイドを水平1軸方向(U軸方向)とU軸方向に直交する他の水平1軸方向(V軸方向)に移動させるので、少なくともU軸に平行なX軸方向とV軸に平行なY軸方向の水平2軸方向においてそれぞれプラス方向とマイナス方向でテーパ角度を測定することが要求される。
【0007】
テーパ角度の測定には、テーパ角度測定冶具を使用する。例えば、特許文献1に、水平2軸方向のテーパ角度を測定することができるテーパ角度測定冶具が示されている。ただし、各軸においてプラス方向とマイナス方向のうち加工進行方向の一方向にしかテーパ角度を直接検出することができない。
【0008】
特許文献2には、水平1軸方向におけるプラス方向とマイナス方向にテーパ角度を測定できるテーパ角度測定冶具が示されている。ただし、水平1軸方向にしかテーパ角度を直接検出することができない。また、測定できるガイドスパンに実質的に制約があり、被加工物の板厚が大きいときの大テーパ角度の測定ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭54−104099号公報
【特許文献2】特開2008−031039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
テーパ角度は、高精度に測定されることが要求される。テーパ角度測定冶具の接触検出子は、高い検出精度を得るために可能な限りワイヤ電極と点的に接触する形状を有している。そのため、ワイヤ電極に供給する電流が小さいとはいえども、接触検出子が僅かな損耗によって比較的短時間で要求される検出精度を維持することができなくなり、テーパ角度測定冶具が使えなくなってしまう。また、高い検出精度を有するテーパ角度測定冶具は、本体の形状が複雑にならざるを得ない。そのため、テーパ角度測定冶具の製作が容易ではない。
【0011】
したがって、公知のテーパ角度測定冶具を水平2軸方向においてそれぞれプラス方向とマイナス方向にテーパ角度を直接検出できるように設計し直して製作することは可能であるが、製作に要する費用と時間が見合わないので、実際には普及していないのが実情である。そのため、テーパ角度の測定作業の途中で一度テーパ角度測定冶具を取り付け直す必要がある。その結果、テーパ角度の測定作業の作業効率が低いままである。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、水平2軸方向においてプラス方向とマイナス方向にテーパ角度を直接検出することができる新規なテーパ角度測定冶具を提供することを目的とする。本発明のテーパ角度測定冶具のいくつかの有利な点は、実施の形態の説明において、具体的に詳細に示される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のテーパ角度測定冶具は、上記課題を解決するために、上下面(12)が平行であって隣接し合う第1の側面(13A)と第2の側面(13B)との2つの側面(13)が共に上下面(12)に対して垂直である形状を有し上下面(12)の一方の面(12B)に第1の側面(13A)に直交する第1の溝(15A)と第1の溝(15A)に平行な第2の溝(15B)と第2の側面(13B)に直交する第3の溝(15C)と第3の溝(15C)に平行な第4の溝(15D)とが形成され他方の面(12A)に第1の溝(15A)および第2の溝(15B)に対して水平方向にずらされて第1の側面(13A)に直交する第5の溝(15E)と第3の溝(15C)および第4の溝(15D)に対して水平方向にずらされて第2の側面(13B)に直交する第6の溝(15F)とが形成された導電性の材料でなる本体(1)と、各溝(15)にそれぞれ収容され導電性の材料でなる複数の円柱形状の接触検出子(3)と、各溝(15)にそれぞれ嵌合するようにネジ(5)で固定され第1の溝(15A)および第2の溝(15B)に収容される接触検出子(3A,3B)に対して第5の溝(15E)に収容される接触検出子(3E)の突出長さが異なり第3の溝(15C)および第4の溝(15D)に収容される接触検出子(3C,3D)に対して第6の溝(15F)に収容される接触検出子(3)の突出長さが異なるように各接触検出子(3)をそれぞれ各溝(15)の側面に押し付けて取り付ける複数の押付部材(4)と、を具備するようにする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のテーパ角度測定冶具は、高い検出精度を有しながら製作がより容易である。また、検出精度の低下を抑制して長期間使用することができる。そのため、水平2軸方向においてそれぞれプラス方向とマイナス方向の各軸各方向でテーパ角度を直接検出できるようにすることができる。その結果、テーパ角度の測定作業の作業効率を向上する効果を奏する。
【0015】
本発明のテーパ角度測定冶具は、具体的に、本体に溝を形成し押付部材で接触検出子を溝の側壁に押し付けて固定する構成である。したがって、接触検出子を任意の突出長さで高精度に取り付けることができ、本体と接触検出子を一体化しないで完全に分離することができる。そのため、本体を単純な形状にすることができ、容易に設計し製作することができる。また、接触検出子を簡単に交換できるので、本体が損傷しない限り使用し続けることができ、長寿命である。
【0016】
本発明のテーパ角度測定冶具は、円柱形状の接触検出子を備える。したがって、接触検出子の損耗による急速な検出精度の低下が抑制される。また、接触検出子の周面全面を検出部位として使用できる。そのため、接触検出子を長く使用することができる。また、検出精度に方向性を有していないので、プラス方向とマイナス方向との両方向で検出精度に差が発生せず、両方向から接触を検出することができる。同時に、取付時に方向性を考慮する必要がなく、接触検出子の交換作業が簡単である。その結果、突出長さが異なる必要最小限の接触検出子を本体に取り付ける簡単な構成にすることができ、製造が容易である。
【0017】
また、本体の直角に隣接し合う第1の側面と第2の側面のそれぞれに上下で突出長さが異なる一対の接触検出子を有し、一方の接触検出子に平行に突出長さが同じ接触検出子を有する構成である。そのため、各軸各方向でテーパ角度を直接検出することができる。また、測定可能なガイドスパンとストロークを大きくすることができる。そして、検出精度が機械またはワイヤガイドに依存しないので、機械の固有差あるいはワイヤガイドの製作上避けることができない精度のばらつきに関係なく、高い検出精度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のテーパ角度測定冶具の全体構成を示す斜視図である。
図2】本発明のテーパ角度測定冶具の本体の上下面を示す平面図である。
図3】押付部材を示す斜視図および平面図である。
図4】X軸方向の接触検出の動作を示す平面図である。
図5】テーパ角度を得る測定原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、本発明のテーパ角度測定冶具の典型的な実施の形態が示されている。図2に、本体の上下面および側面と上下面に形成された各溝との関係が示されている。また、図3には、押付部材の好ましい実施の形態が示されている。本発明では、便宜上、基準となる水平1軸方向をX軸とし、X軸のプラス方向をテーパ測定冶具の側、X軸のマイナス方向を側とする。また、基準となる水平1軸方向に直交する方向をY軸とし、Y軸のプラス方向をテーパ測定冶具の背面側とし、Y軸のマイナス方向を前面側とする。
【0020】
テーパ角度測定冶具は、本体1と、接触検出子と、押付部材とを具備する。本体1は、導電性の金属材料でなる。実施の形態のテーパ角度測定冶具の本体1は、耐蝕性を有し、比較的軽量で、熱変位が小さいステンレス(SUS440C)で製作されている。本体1には、素材の使用量と重量を削減するために中空穴11が設けられている。本体1は、高精度の測定が可能であり、経年劣化に対して強い点で有利である。
【0021】
本体1は、上下面12が平行であって、隣接し合う第1の側面と第2の側面との2つの側面13が共に上下面12に対して垂直である形状を有する。具体的に、上面12Aと下面12Bが平行であって、第1の側面(前面)13Aと前面13Aに対して直角に隣接する前面13Aに向かって右側の第2の側面(右側面)13Bが上面12Aと下面12Bに対して垂直である。特に、実施の形態のテーパ測定装置では、本体1が直方体形状である。したがって、実施の形態のテーパ角度測定装置は、形状が一層単純で製作がより容易である。
【0022】
本体1には、上面12A側に座繰り穴を有する貫通孔14が上面12Aから下面12Bにかけて垂直に穿設されている。貫通孔14は、本体1の後部側に偏って設けられる。複数の貫通孔14A,14Bが間隔をおいて並設される。テーパ角度測定冶具は、貫通孔14A,14Bのそれぞれに通される複数のボルト2によって図示しないワークスタンドに取り付けられる。ボルト2は、ワークスタンドに設けられている取付穴に締結される。
【0023】
本体1には、上下面12に合わせて6本の真直ぐな溝15が形成されている。複数の溝15は、Y軸方向に沿ってX軸方向にずらされて3本が平行に形成され、X軸方向に沿ってY軸方向にずらされて3本が平行に形成されている。実施の形態のテーパ角度測定装置においては、本体1の上面にY軸方向に沿って1本、X軸方向に沿って1本、下面にY軸方向に沿って2本、X軸方向に沿って2本ずつそれぞれ溝15が形成されている。
【0024】
実施の形態のテーパ角度測定冶具では、具体的に、図2に示されるように、本体1の上下面12の一方の面に相当する下面12Bに第1の側面である前面13Aに直交する第1の溝15Aと第1の溝15Aに平行な第2の溝15Bとが形成されている。また、下面12Bに第2の側面である側面13Bに直交する第3の溝15Cと第3の溝に平行な第4の溝15Dとが形成されている。
【0025】
一方、上下面12の他方の面に相当する上面12Aに第1の溝15Aおよび第2の溝15Bに対して水平方向にずらされて前面13Aに直交する第5の溝15Eが形成されている。また、上面12Aに第3の溝15Cおよび第4の溝15Dに対して水平方向にずらされて側面13Bに直交する第6の溝15Fが形成されている。
【0026】
接触検出子3は、円柱形状である。接触検出子3は、導電性の材料でなる。接触検出子3の断面の直径は、ワイヤ電極の直径が0.05mm〜0.3mmであるときの接触検出子3とワイヤ電極との接触状態を考えて、強度が不足して折損しない範囲で可能な限り小さくされる。実施の形態の接触検出子3は、金属製のピンのように、断面の直径が5±1mmφのステンレス製の丸棒である。ただし、実施の形態のテーパ角度測定装置では、全て同じ直径の接触検出子3を使用している。
【0027】
接触検出子3が円柱形状であるので、接触部位が先鋭な形状を有する接触検出子に比べて損耗によって必要な検出精度を得ることができなくなるまでの時間を長くすることができる。また、プラス方向とマイナス方向との両方向で接触部位の形状が同じであって実質的に検出精度に差が発生せず、両方向から接触を検出することができる。したがって、接触検出子3の数を減らすことができる点で、利益がある。結果的に、実施の形態のテーパ角度測定装置は、突出長さが異なる必要最小限の接触検出子3を本体1に取り付ける簡単な構成であって、製造が容易である。
【0028】
また、接触検出子3が円柱形状であることは、周面全面が検出部位として使用できるということであり、検出部位が限定されない点で有利である。例えば、接触検出子3を周方向に少しずつ回したり、突出長さを調整しながら使用することによって、接触検出子3を長く使用することができる。また、接触検出子3を交換するときに取付方向を気にする必要がなく、交換作業が簡単であるという利点がある。
【0029】
接触検出子3は、本体1に形成された6本の各溝15に本体1から突出するようにそれぞれ収容される。接触検出子3は、押付部材4によって収容されている溝15の中に固定されて本体1に取り付けられる。3本の溝15A,15B,15Eが水平方向(X軸方向)にずらされて設けられているので、各接触検出子3A,3B,3EがX軸方向にずらされて取り付けられる。同様に、3本の溝15C,15D,15Fが水平方向(Y軸方向)にずらされて設けられているので、各接触検出子3C,3D,3FがY軸方向にずらされて取り付けられる。
【0030】
押付部材4は、基本的な考えとして、溝15に接触検出子3を配置した状態で溝15に嵌合する平板形状を有する。押付部材4が平板形状である場合、押付部材4は、本体1に形成されている溝15の溝幅から溝15に取り付ける接触検出子3の直径を差し引いた幅を有する。押付部材4は、金属製または樹脂製であるが、本体1と同一の材質であることが推奨される。実施の形態の押付部材4は、図3に示されるように、楔形形状を有する。押付部材4を溝15に嵌め込んで接触検出子3を溝15の側面と底面に押し付けることによって接触検出子3を本体1に取り付ける。
【0031】
押付部材4は、本体1に形成されている各溝15にそれぞれ嵌合するようにネジ5で本体1に固定される。複数の押付部材4は、各溝15に収容された各接触検出子3をそれぞれ各溝15の側面に押し付けて本体1に固定する。接触検出子3を任意の長さ突出させて溝15に配置した状態で押付部材4を溝15に嵌め込んで接触検出子3を溝15の側面と底面に押し付けた状態で押付部材4をネジ5で本体1に固定することによって接触検出子3が位置決めして取り付けられる。
【0032】
押付部材4A,4Bは、第1の溝15Aに収容される接触検出子3Aと第2の溝15Bに収容される接触検出子3Bとが同じ長さで本体1から突出するようにそれぞれ接触検出子3A,3Bを固定する。押付部材4C,4Dは、第の溝15Cに収容される接触検出子3Cと第の溝15Dに収容される接触検出子3Dとが同じ長さで本体1から突出するようにそれぞれ接触検出子3C,3Dを固定する。
【0033】
一方、押付部材4Eは、第1の溝15Aおよび第2の溝15Bに収容される接触検出子3A,3Bに対して第5の溝15Eに収容される接触検出子3Eの突出長さが異なるように接触検出子3Eを固定する。また、押付部材4Fは、第3の溝15Cおよび第4の溝15Dに収容される接触検出子3C,3Dに対して第6の溝15Fに収容される接触検出子3Fの突出長さが異なるように接触検出子3Fを固定する。
【0034】
このように、実施の形態のテーパ角度測定冶具は、溝15に押付部材4を嵌めて接触検出子3を溝15に押し付けて固定するようにされているので、簡単に接触検出子を任意の突出長さで高精度に位置決めして取り付けることができる。そのため、本体1と接触検出子3とを一体化しないで分離して設けることができる。その結果、実施の形態のテーパ角度測定冶具は、本体を単純な形状にすることができ、容易に設計し製作することができる利点を有する。また、接触検出子3が使用できなくなっても、簡単に交換することができるので、テーパ角度測定冶具を長期間使用することができる。
【0035】
また、実施の形態のテーパ角度測定冶具は、直角に隣接し合う前面13Aと左側面13Bのそれぞれに上下で突出長さが異なる一対の接触検出子3A,3Eまたは接触検出子3C,3Fを有し、一方の接触検出子3A,3Cにそれぞれ平行に突出長さが同じ接触検出子3B,3Dを備えている。そのため、X軸とY軸の各軸においてプラス方向とマイナス方向の両方向で接触検出を行なうことができる。
【0036】
図4に、図1に示される実施の形態のテーパ角度測定冶具を用いてテーパ角度を測定するプロセスが示されている。図4の括弧内の番号は、工程順序を示す。また、図5に、円柱形状の接触検出子を用いてテーパ角度を測定するときの測定原理が示されている。図5の括弧内の番号は、図4と同一の工程順序を示す。図4図5では、テーパ角度測定冶具の前面が模式的に示されている。ただし、下側の接触検出子3Aよりも上側の接触検出子3Eが長く突出されている。以下に、テーパ角度測定冶具を用いたX軸プラス方向の“接触検出”の動作を説明する。
【0037】
第1の工程は、垂直の状態にあるワイヤ電極を基準位置OからX軸プラス方向に下側の接触検出子3Aに接触するまで相対移動させる。ワイヤ電極が接触検出子3Aに接触したらワイヤ電極の相対移動を停止させ、テーブルの移動距離xaを取得して記録する。
【0038】
第2の工程は、垂直の状態にあるワイヤ電極をX軸マイナス方向に距離xa相対移動させて基準位置Oに戻す。そして、基準位置OからY軸マイナス方向に所定距離移動させてからX軸プラス方向に上側の接触検出子3Eに接触するまで相対移動させる。ワイヤ電極が接触検出子3Eに接触したらワイヤ電極の相対移動を停止させ、テーブルの移動距離xbを取得して記録する。
【0039】
第3の工程は、垂直の状態にあるワイヤ電極をX軸マイナス方向に距離xb相対移動させてから上側のワイヤガイドをU軸マイナス方向に移動させ、ワイヤ電極をX軸マイナス方向にテーパ角度θ傾斜させる。そして、テーパ角度θ傾斜した状態にあるワイヤ電極をX軸プラス方向に上側の接触検出子3Eに接触するまで相対移動させる。ワイヤ電極が接触検出子3Eに接触したらワイヤ電極の相対移動を停止させ、テーブルの移動距離xcを取得して記憶する。
【0040】
第4の工程は、テーパ角度θ傾斜した状態にあるワイヤ電極をX軸マイナス方向に距離xc相対移動させてからY軸プラス方向に所定距離移動させて基準位置Oに戻す。そして、テーパ角度θ傾斜した状態にあるワイヤ電極をX軸プラス方向に下側の接触検出子3Aに接触するまで相対移動させる。ワイヤ電極が接触検出子3Aに接触したらワイヤ電極の相対移動を停止させ、テーブルの移動距離xdを取得して記憶する。
【0041】
このとき、ワイヤ電極を垂直の状態からテーパ角度θ傾斜させた状態にするために上側のワイヤガイドをU軸マイナス方向に移動させた距離は、ワイヤ電極を上側の接触検出子3Eに接触させたときに実際に測定できるX軸の位置座標値で上側のワイヤガイドの位置を表わすことによって、X軸方向の移動距離xeに置き換えることができる。そこで、X軸方向の移動距離xeを取得して記憶する。
【0042】
基準位置Oとワイヤ電極を接触検出子3に接触させる相対移動の方向およびワイヤ電極を傾斜させる方向を変えて、下側の接触検出子3Bと上側の接触検出子3Eを使って第1の工程から第4の工程と同じように接触検出することによってX軸マイナス方向のテーパ角度の測定を行なうことができる。また、接触検出子3C,3D,3Fを使って同じように接触検出することによってY軸プラス方向とY軸マイナス方向の測定を行なうことができる。
【0043】
次に、ワイヤ電極と接触検出子を接触させて移動距離を測定する接触検出によって取得した移動距離xa,xb,xc,xd,xeのデータを用いてX軸プラスの方向の実際のテーパ角度を測定する方法の一例を説明する。
【0044】
テーブル上面Tと上側のワイヤガイドの位置Uとの間の距離tu,テーブル上面Tと下側のワイヤガイドの位置Lとの間の距離tl,テーブル上面Tと下側の接触検出子3Aの位置との距離p,下側の接触検出子3Aの位置と上側の接触検出子3Eの位置との距離hは、それぞれ既知である。また、下側の接触検出子3Aの半径rlと上側の接触検出子3Eの半径ruは、既知である。なお、ワイヤ電極の半径wrは、既知のワイヤ電極の直径から求められる。
【0045】
ワイヤ電極を下側の接触検出子3Aに垂直の状態で接触させたときとテーパ角度θ傾斜させた状態で接触させたときとの下側のワイヤガイドのX軸方向の位置の差αは、数1で求められる。
【0046】
【数1】
【0047】
ワイヤ電極を上側の接触検出子3Eに垂直の状態で接触させたときとテーパ角度θ傾斜させた状態で接触させたときとの下側のワイヤガイドのX軸方向の位置の差βは、数2で求められる。
【0048】
【数2】
【0049】
図5に示されるように、ワイヤ電極を下側の接触検出子3Aに垂直の状態で接触させたときとテーパ角度θ傾斜させた状態で接触させたときとの接触位置の角度差はθである。したがって、垂直の状態のワイヤ電極を上側の接触検出子3Eに接触させたときの下側のワイヤガイドの位置と相対するテーパ角度θ傾斜した状態のワイヤ電極が仮想の下側の接触検出子に接触したと想定したときの位置との位置の差γは、数3で求められる。
【0050】
【数3】
【0051】
よって、ワイヤ電極を垂直の状態からテーパ角度θ傾斜させた状態にするために上側のワイヤガイドを移動させた距離δは、図4に示される位置関係と数値とから数4で求められる。数4の演算結果から求めることができるテーパ角度は、接触検出によって取得した実際の測定結果に基づく値であるから、正確な角度を示す。
【0052】
【数4】
【0053】
以上に説明される実際のテーパ角度を測定する方法は、円柱形状の接触検出子を使用して接触検出を行なうときに有効である。実施の形態のテーパ角度を測定する方法によると、垂直の状態のワイヤ電極とテーパ角度θ傾斜した状態のワイヤ電極とが接触検出子に接触するときの接触位置の差による誤差を考慮してテーパ角度を演算するため、より正確にテーパ角度の測定結果を得ることができる。
【0054】
本発明のテーパ角度測定冶具は、具体的に示された実施の形態のテーパ角度測定冶具に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で変形して実施することができる。例えば、テーパ角度測定冶具の本体は、取付面である下面の面積を効率的に確保するために、測定に関係がない背面を斜面にすることができる。また、例えば、複数の接触検出子の全て接触検出子が同じ直径である必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ワイヤカットに適用される。本発明のテーパ角度測定冶具は、高い検出精度を有しながら製作がより容易である。また、検出精度の低下を抑制して長期間使用することができる。そのため、水平2軸方向においてそれぞれプラス方向とマイナス方向の各軸各方向でテーパ角度を直接検出できるようにすることができる。本発明は、ワイヤカットにおける作業性を向上させ、金属加工の技術分野の発展に寄与する。
【符号の説明】
【0056】
1 本体
2 ボルト
3 接触検出子
4 押付部材
5 ネジ
11 中空穴
12 上下面
12A 上面
12B 下面
13 側面
13A 前面(第1の側面)
13B 側面(第2の側面)
14 貫通孔
15 溝
15A 第1の溝
15B 第2の溝
15C 第3の溝
15D 第4の溝
15E 第5の溝
15F 第6の溝
図1
図2
図3
図4
図5