特許第5796897号(P5796897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5796897
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】電子メールトラヒックの規制装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 13/00 20060101AFI20151001BHJP
   H04M 3/22 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   G06F13/00 610A
   H04M3/22 C
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-28771(P2012-28771)
(22)【出願日】2012年2月13日
(65)【公開番号】特開2013-164810(P2013-164810A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100084870
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 香樹
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】小頭 秀行
(72)【発明者】
【氏名】中村 元
【審査官】 小林 義晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−161500(JP,A)
【文献】 特開2011−048642(JP,A)
【文献】 特開2011−199468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 13/00
H04M 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線端末が、メール着信通知に応答して受信メールサーバとの間にプロキシ経由でメール受信のセッションを確立して受信メールを取得する電子メールトラヒックの規制装置において、
社会における各人の知人数とその割合との関係を統計的に定義する統計モデルと、
メール受信の1セッション当たりのデータ量を前記統計モデルに基づいて算出するデータ量算出手段と、
ネットワークのボトルネックを同時に利用するメールトラヒックの総量が当該ボトルネックの回線容量を超えないように、前記データ量に基づいてメール受信を規制するメール受信規制手段とを具備し、
前記データ量算出手段は、前記統計モデルから知人数の割合に応じた確率で求まるメール受信者の知人数で1セッション当たりの受信メール数を代表し、当該受信メール数および別途に与えられる1メール当たりのデータ量に基づいてメール受信の1セッション当たりのデータ量を確率的に算出することを特徴とする電子メールトラヒックの規制装置。
【請求項2】
前記データ量算出手段は、前記統計モデルにおいて各人の知人数ごとの割合が取り得る範囲内で乱数を発生させる手段を具備し、
前記乱数値と対応する知人数を、1セッション当たりの受信メール数とすることを特徴とする請求項に記載の電子メールトラヒックの規制装置。
【請求項3】
前記メール受信規制手段は、無線端末へメール着信通知を配信するメール着信通知配信装置に対する受信メールサーバからのメール着信通知の配信依頼を規制することを特徴とする請求項1または2に記載の電子メールトラヒックの規制装置。
【請求項4】
前記メール受信規制手段は、無線端末へメール着信通知を配信するメール着信通知配信装置による当該メール着信通知を規制することを特徴とする請求項1または2に記載の電子メールトラヒックの規制装置。
【請求項5】
前記メール受信規制手段は、無線端末と受信メールサーバとの間にプロキシ経由で確立されるメール受信セッション数を規制することを特徴とする請求項1または2に記載の電子メールトラヒックの規制装置。
【請求項6】
能動フェッチによるメール着信要求の発生レートを検知する能動フェッチレート検知手段をさらに具備し、
前記メール受信規制手段は、前記メール受信の規制を前記能動フェッチの発生レート分だけ予め強めることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の電子メールトラヒックの規制装置。
【請求項7】
前記着信通知に対してメール受信のセッションを確立しない無応答端末の発生レートを検知する無応答レート検知手段をさらに具備し、
前記メール受信規制手段は、前記メール受信の規制を前記無応答端末の発生レート分だけ予め弱めることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の電子メールトラヒックの規制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子メールトラヒックの規制装置に係り、特に、ユーザごとの電子メールトラヒック量の偏りを考慮して電子メールトラヒックのデータ量を推定し、これに基づいて電子メールトラヒックを規制する電子メールトラヒックの規制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子メールのトラヒックによるネットワーク回線の輻輳やサーバの過負荷を防止する技術が種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、電子メールのサイズ合計や総数を監視し、配信を担当するメールサーバを負荷の状況に基づいて変更するシステムが開示されている。
【0004】
特許文献2には、送信元ユーザのIPアドレスごとに送信メール数をカウントし、送信メール数が閾値を超えたユーザによるメールサーバへのアクセス、即ちメール送信を停止させるシステムが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ネットワークやサーバの輻輳状態により、メールの着信通知を規制あるいは遅延させ、さらには端末側の発信も規制することで、受信メールに対する返信メールの需要、すなわち発信需要を軽減するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−177432号公報
【特許文献2】特開2006−310902号公報
【特許文献3】特開2010−161500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子メールトラヒックの集中によるネットワーク回線の輻輳やサーバの過負荷(以下、輻輳で総称する場合もある)は、年末年始や震災発生後など、多数のユーザが一斉に集中して電子メールを送受信する際に発生する可能性が高い。
【0008】
特許文献1は、負荷の増大に伴ってメールサーバを変更する技術なので、ボトルネック回線において輻輳が発生しても、これを解消することはできない。
【0009】
特許文献2では、輻輳が発生するとユーザのメール送信を停止することでトラヒックを規制しているが、電子メールトラヒックの集中による輻輳等は、受信トラヒックのみによっても発生し得るので、送信トラヒックの規制だけでは十分に抑制することが難しい。また、メール送信の規制は送信端末のユーザに認知されやすいので、ユーザのサービス利用感が大きく損なわれてしまう。さらに、受信トラヒックによる輻輳を送信トラヒックの規制で解消しようとしても、その送信元が他のネットワーク事業者により管理されている他のドメインであると規制できない。
【0010】
特許文献3では、メール受信に伴う着信通知を規制または遅延させることで、受信メールの配信や受信メールへの返信に係る発信需要が抑制・軽減されるが、輻輳や過負荷を定量的に捉えることができないので、着信通知を規制または遅延させることはできても、輻輳等を発生させない適切な制御値を算出することはできない。
【0011】
また、個々のユーザのセッション当たりの受信メール数には偏りがあるために、これを考慮しなければ受信メールトラヒック量を正確に見積もることができず、不適切な規制制御となってしまう。しかしながら、ユーザ毎の受信状況を細かく、詳細に把握しようとすると処理負荷が増大するので、輻輳下にあっては貴重な処理リソースを測定の為に使用することになり、輻輳が更に増長されかねない。
【0012】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を全て解決し、監視や測定のための過大な処理負荷を新たに発生させることなく、ユーザごとの電子メールトラヒック量の偏りを考慮して電子メールトラヒックを規制することで、回線の輻輳やサーバの過負荷を抑制する電子メールトラヒックの規制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は、無線端末がメール着信通知に応答して受信メールサーバとの間にプロキシ経由でメール受信のセッションを確立し、受信メールを取得する電子メールトラヒックの規制装置において、以下のような手段を講じた点に特徴がある。
【0014】
(1)社会における各人の知人数とその割合との関係を統計的に定義する統計モデルと、メール受信の1セッション当たりのデータ量を前記統計モデルに基づいて算出するデータ量算出手段と、ネットワークのボトルネックを同時に利用するメールトラヒックの総量が当該ボトルネックの回線容量を超えないように、前記データ量に基づいてメール受信を規制するメール受信規制手段とを具備した。
【0015】
(2)データ量算出手段は、メール受信の1セッション当たりの受信メール数を前記統計モデルに基づいて算出する手段と、メール受信の1セッション当たりのデータ量を、前記1セッション当たりの受信メール数および別途に与えられる1メール当たりのデータ量に基づいて算出する手段とを含むことを特徴とする。
【0016】
(3)1セッション当たりの受信メール数を算出する手段は、統計モデルにおいて各人の知人数ごとの割合が取り得る範囲内で一様乱数を発生させる手段を具備し、乱数値と対応する知人数を、1セッション当たりの受信メール数として算出することを特徴とする。
【0017】
(4)能動フェッチによるメール着信要求の発生レートを検知する能動フェッチレート検知手段をさらに設け、メール受信の規制を能動フェッチの発生レート分だけ予め強めることを特徴とする。
【0018】
(5)着信通知に対してメール受信のセッションを確立しない無応答端末の発生レートを検知する無応答レート検知手段をさらに設け、メール受信の規制を無応答端末の発生レート分だけ予め弱めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0020】
(1)ユーザ毎に偏りのある1セッション当たりの受信メール数を、社会ネットワーク構造のモデルに基づいて、監視用あるいは測定用の処理負荷を新たに発生させることなく推定できるので、ネットワーク回線の輻輳やサーバの過負荷を生じさせないメール受信の規制値を、簡単かつ正確に求められるようになり、その結果、ユーザに対するサービス品質の低下を最小限に抑えながら、ネットワーク回線の輻輳やサーバの過負荷を確実に防止できるようになる。
【0021】
(2)受信メールトラヒックが、ネットワークのボトルネック部分の回線容量を下回るように規制されるので、ボトルネック部分での輻輳を防止できる。
【0022】
(3)着信通知の配信レートが能動フェッチレート分だけ予め低く設定されるので、能動フェッチセッションが発生しても、ボトルネック回線の使用帯域を許容帯域上限内に抑えられるようになる。
【0023】
(4)着信通知の配信レートが無応答レート分だけ予め高く設定されるので、無応答端末が存在する場合でも、プロキシ回線18の使用帯域を許容帯域上限内に抑えられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る電子メールシステムの第1実施形態の構成を示したブロック図である。
図2】電子メールの送受信シーケンスを示した図である。
図3】式(4)で表される次数分布の一例を線形軸および対数軸で示した図である。
図4】式(4)と社会のネットワークトポロジとの関係を模式的に表現した図である。
図5】携帯電話による電子メールおよび通話のイベント発生前後における次数(発信数)を比較した図である。
図6】本発明の第2実施形態の構成を示したブロック図である。
図7】本発明の第3実施形態の構成を示したブロック図である。
図8】本発明の第4実施形態の構成を示したブロック図である。
図9】本発明の第5実施形態の構成を示したブロック図である。
図10】本発明の第6実施形態の構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明を適用した電子メールシステムのネットワーク構成を示したブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。
【0026】
第1送信メールサーバ(群)11は、送信端末MNs1からインターネットなどの広域ネットワーク経由で送信された電子メールを一時記憶する。第2送信メールサーバ(群)12は、送信端末MNs2からRAN(Radio Access Network)経由で送信された電子メールを一時記憶する。各送信インメールサーバ11,12は、前記一時記憶した電子メールをインターネットなどの広域ネットワーク13およびGW/IX14経由で、その宛先アドレスに対応した受信メールサーバ(群)15へ送信する。
【0027】
受信メールサーバ15において新たな電子メールが受信されると、着信通知配信装置17は、RAN19を経由して宛先の受信端末MNdへ着信通知を配信する。前記受信メールサーバ15に蓄積された電子メールは、各受信端末MNdからの受信メール要求に応答して、プロキシサーバ16、プロキシ回線18およびRAN19経由で各受信端末MNdへ送信される。
【0028】
なお、受信メールの送信契機は、前記着信通知配信装置17からの着信通信に応答した端末ユーザによる受信メール要求(受動フェッチ)のみならず、前記着信通信とは無関係に端末ユーザが任意のタイミングでメール受信操作を行って受信メールサーバ15へ受信メール要求を送信(能動フェッチ)したときも、当該受信端末宛の受信メールがたまたま蓄積されていれば送信契機と成り得る。
【0029】
本発明では、前記受信メールサーバ15、プロキシサーバ16および着信通知配信装置17と協働して受信メールトラヒックを規制するため構成として、ユーザの知人・交友関係を表す社会ネットワークの構造に基づいてユーザの知人数とそのユーザ割合との関係を統計的に定義する統計モデル21、各ユーザのメール受信における1セッション当たりのデータ量を前記統計モデル21に基づいて算出する受信メールのデータ量算出部22および受信メールの総トラヒック量がボトルネックの回線容量を超えたり、受信メールサーバ15やプロキシサーバ16の同時接続コネクション数が上限値を超えたりしないように、各端末のメール受信を規制するメール受信規制部23が設けられている。
【0030】
図2は、上記の電子メールシステムにおける電子メールの送受信シーケンスを示した図であり、時刻t1で送信端末MNs1(MNs2)から送信された電子メールは、時刻t2において送信メールサーバ11(12)で受信、蓄積されたのち、直ちに受信メールサーバ15へ送信される。時刻t3では、受信メールサーバ15から着信通知配信装置17に対して、受信メールに関する着信通知の配信が依頼される。時刻t4では、着信通知配信装置17が前記依頼に応答して、宛先の無線端末MNdへ着信通信を配信する。
【0031】
時刻t5では、前記着信通知が宛先の受信端末MNdにおいて受信される。時刻t6では、前記受信端末MNdから受信メールサーバ15に対して受信メール要求が送信(受動フェッチ)される。時刻t7では、受信メールサーバ15が前記受信メール要求に応答して、蓄積されている受信メールを前記受信端末MNdへ送信する。時刻t8では、前記電子メールが受信端末MNdにおいて受信される。なお、受信メールの内容によっては、時刻t9において、当該受信メールに対して受信端末MNdから送信端末宛に返信メールが送信されることもある。
【0032】
このような電子メールシステムでは、1受信サーバ15から着信通知配信装置17への着信通知配信の依頼、2着信通知配信装置17から各宛先への着信通知の配信、3プロキシサーバ16に許容するメール受信のセッション数、をそれぞれ規制することにより、メール受信に係るトラヒックを制限できるようになる。
【0033】
次いで、本発明における受信メールトラヒックの制御方法を、受信側のプロキシサーバ16とRAN19とを接続するプロキシ回線18がボトルネックである場合を例にして説明する。
【0034】
プロキシ回線18の回線容量をBW,時刻tにおけるユーザの1セッション当たりの受信メールデータ量の平均値をsize[t]とすれば、ユーザに提供可能なメール受信レートλ[t](同時接続セッション数)の最大値は次式(1)で表される。
【0035】
【数1】
【0036】
前記受信メールデータ量size[t]は、i番目のユーザの時刻tにおける受信メール数をn[i,t]、当該時刻tにおける1メール当たりのデータ量をmean_mail_sz[t]、当該時点で新たに発生するメール受信セッション(ユーザ)数をNとすれば、次式(2)で表される。
【0037】
【数2】
【0038】
ここで、1メール当たりのデータ量mean_mail_szは、ユーザ毎に管理・測定する必要ないので、その測定・算出の処理負荷は軽い。したがって、受信メールサーバへの到着時などに算出するようにしても良い。
【0039】
本実施形態では、単位時間当たりの総トラヒック量がボトルネックの回線容量BWを超えないようにメール受信レートλ[t]を設定する必要があるので、次式(3)が成立しなければならない。
【0040】
【数3】
【0041】
一方、各ユーザの受信メール数n[i,t]には大きな偏りがあり、多くの人とメールを交換するユーザが存在する一方で、極めて少数あるいは特定の人としかメールを交換しないユーザも多く存在する。したがって、メール受信レートλ[t]の設定に際しては、このようなユーザの特性を考慮して受信メール数n[i,t]を推定する必要がある。本実施形態では、ユーザ毎の受信メール数n[i,t]が社会における各ユーザの人間関係に依存するものと仮定し、各ユーザの1セッション当たりの受信メール数n[i,t]を、その人間関係に基づいて統計的に推定するようにした。
【0042】
すなわち、社会のネットワーク構造は、人をノード、情報のやりとりを行う人間関係をリンク、としたネットワークトポロジであり、スケールフリー性を持つと考えられる。スケールフリー性を有するネットワークは、ごく一部のノードが数多くのリンク数を持ち、それ以外の大多数のノードはごく少数のリンクしか持たないという性質を備える。各ノードのリンク数を表す次数をkとすれば、スケールフリーネットワークにおけるノードの次数分布p(k)は、べき指数γを用いて次式(4)の比例式で表わされる。図3は、次式(4)で表される次数分布の一例を線形軸[同図(a)]および対数軸[同図(b)]で示した図である。
【0043】
なお、スケールフリー性とは、どのようなスケール(軸の単位)でみても特性が変わらないとの意味も持つので、スケールフリー性を有する特性では、その平均値は重要な意味を持たない。したがって、ユーザ毎の同時受信メール数を検討する際は、その平均値ではなく個別に算出することが重要となる。
【0044】
【数4】
【0045】
また、発明者等による携帯電話のトラヒック量やSNS (Social Networking Service)ユーザ数の観察、分析結果によれば、人間の情報交換関係に関する社会ネットワークのグラフ構造でも、通信サービスを利用する日本人の社会ネットワーク構造は、各ユーザの知人数を次数kに見立てれば上式(4)が当てはまる。
【0046】
図4は、上式(4)と社会のネットワークトポロジとの関係を模式的に表現した図であり、知人数の多いユーザはネットワーク上ではハブに相当し、少数でメール数が多いと考えられる。これに対して、知人数が少ないユーザほど受信メール数も少なくなる。
【0047】
図5は、携帯電話による電子メール(ここではEメール)および通話に関して、一時的に大量の発信が発生するイベント発生直後と、そのイベント発生前との次数(発信数)を比較して模式的に示した図であり、電子メール[同図(a)]については年明け前後の発信数に着目し、通話[同図(b)]については地震発生前後の発信数に着目している。
【0048】
同図(a)によれば、電子メールの発信数はイベント(年越し)の前後にかかわらず、上式(4)のγ=2の場合と高い相関を示す。これに対して、同図(b)によれば、音声通話の発信数は、イベント(地震)の発生前後にかかわらず、上式(4)のγ=4の場合と高い相関を示していることが判る。なお、図示は省略したが、発信に限らず受信の特性も同様の傾向を示す。
【0049】
このように、本発明では電子メールの発信数及び受信数が上式(4)においてγ=2の場合と高い相関を示すことに着目し、これに基づいてメール数n[i,t]を推定すべく、上式(4)が前記統計モデル21として予め用意されている。なお、本発明では受信メールのトラヒックが規制対象なので、右辺のべき指数γは「2」である。
【0050】
前記データ量算出部22は、各ユーザの1セッション当たりの受信メール数を前記統計モデル21に基づいて算出し、さらには各ユーザの1セッション当たりの受信メールデータ量を前記1セッション当たりの受信メール数および別途に与えられる1メール当たりのデータ量に基づいて確率的に算出する。より具体的には、ユーザの知人数ごとのユーザ割合の範囲内で「0」から「1」の一様乱数randを発生させ、上式(4)のp(k)が各rand値であるときの次数kを受信メール数n[i,t]とする。
【0051】
ここで、メールトラヒックの増大による輻輳は、ボトルネックを流れるメールトラヒックの総量が当該ボトルネックの回線容量を超えるような場合のみならず、着信通知を受信した受信端末から受信メールサーバ15への受信メール要求が増え、その結果、プロキシサーバ16や受信メールサーバ15の同時接続コネクション数が増えて新たなコネクションの接続が行えなくなることによっても生じ得る。
【0052】
しかも、サーバへの同時接続コネクション数が増えると、コネクション当たりの処理速度が低下するために各コネクションの完了時間に遅れが生じ、さらに同時接続コネクション数が増加してコネクション当たりの処理速度が低下するという悪循環に陥り、コネクションの接続時にサーバがエラーを返したり無応答となったりすることになる。
【0053】
特にTCPでは、ひとたび輻輳が生じると、再送処理の頻発やウインドウサイズの縮小によりスループットの更なる低下が生じ得る。したがって、メールトラヒックによる輻輳を防止するためには、ボトルネックのメールトラヒック総量を回線容量以下に抑えるのみならず、プロキシサーバ16や受信メールサーバ15への同時接続コネクション数を抑制する必要がある。
【0054】
そこで、本発明では前記一様乱数randの発生、および当該randに基づく次数kすなわち受信メール数n[i,t]の算出を、メール受信レートλ[t](初期値は、暫定値)回だけ繰り返し、その総和Σn[i,t]を求める。このようにして求められた総和Σn[i,t]は、メール受信レートを前記λ[t]に設定したときに、規制適用後のセッション数λ[t]で単位時間毎に受信処理されるメール数となる。
【0055】
ただし、前記受信処理できるメール数の総和Σn[i,t]は、当該時刻tにおける滞留受信メール数sum_mail[t]を超えることはできないので、次式(5)の制約条件が課される。したがって、次式(5)が満足されない場合には、前記総和Σn[i,t]がsum_mailに、規格化などの処理によって修正される。
【0056】
【数5】
【0057】
さらに、単位時間(ここでは1sec)当たりの受信メールトラヒック総量total_vol[t]は次式(6)で与えられ、この受信メールトラヒック総量total_vol[t]がボトルネックの回線容量BWを下回っていれば輻輳が回避されるので、次式(7)が成立しなければならない。
【0058】
【数6】
【0059】
【数7】
【0060】
前記メール受信規制部23は、上式(5),(7)が同時に満足されるように、受信メールサーバ15から着信通知配信装置17への着信通知配信の依頼を規制し、着信通知配信装置17から各端末への着信通知の配信を規制し、あるいはプロキシサーバ16に許容するメール受信セッション数を規制する。
【0061】
本実施形態によれば、ユーザ毎に偏りのある1セッション当たりの受信メール数を、社会ネットワーク構造のモデルに基づいて、監視用あるいは測定用の処理負荷を新たに発生させることなく推定できるので、ネットワーク回線の輻輳やサーバの過負荷を生じさせないメール受信の規制値を、簡単かつ正確に求められるようになり、その結果、ユーザに対するサービス品質の低下を最小限に抑えながら、ネットワーク回線の輻輳やサーバの過負荷を確実に防止できるようになる。また、受信メールトラヒックが、ネットワークのボトルネック部分の回線容量を下回るように規制されるので、ボトルネック部分での輻輳を防止できる。
【0062】
図6は、本発明の第2実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表しているので、その説明は省略する。本実施形態では、前記統計モデル21およびデータ量算出部22、ならびに前記メール受信規制部23として機能する着信通知依頼規制部231が、受信メールサーバ15に設けられている。
【0063】
前記着信通知依頼規制部231は、受信メールサーバ15が新たな受信メールの着信を検知した際、上式(5)、(7)がいずれも満足されていれば、前記着信通知配信装置17に対して直ちに着信通知の送信を依頼する一方、上式(5)、(7)の少なくとも一方が満足されていなければ、前記着信通知配信装置17に対する着信通知の送信依頼を中断することで受信メール要求の送信を規制する。
【0064】
本実施形態によれば、受信メールサーバ15から着信通知配信装置17への着信通知の送信依頼が規制され、その結果、着信通知配信装置17から各端末への着信通知の配信レートが低下し、各端末によるメール受信用の受動フェッチが減少するので、メール受信のトラヒックを減ぜられるようになる。
【0065】
図7は、本発明の第3実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表しているので、その説明は省略する。本実施形態では、前記メール受信規制部23として機能する着信通知配信規制部232が前記着信通知配信装置17に設けられている。
【0066】
前記着信通知配信規制部232は、上式(5)、(7)を満足できるメール受信レートλ(t)が受信メールサーバ15から通知されると、各端末に対する着信通知の配信レートを、当該メール受信レートλ(t)と同一または同等に制御する。
【0067】
本実施形態によれば、着信通知配信装置17から各端末への着信通知の配信レートが低下し、各端末によるメール受信用の受動フェッチが減少するので、メール受信のトラヒックを減ぜられるようになる。
【0068】
図8は、本発明の第4実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表しているので、その説明は省略する。本実施形態では、前記メール受信規制部23として機能するセッション数規制部233がプロキシサーバ16に設けられている。
【0069】
前記セッション数規制部233は、上式(5)、(7)を満足できるλ(t)が受信メールサーバ15から通知されると、メール受信用に受信メールサーバ15との間に許容するセッション数を、当該メール受信レートλ(t)に対応した数に制御する。
【0070】
図9は、本発明の第5実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、能動フェッチを考慮して着信通知の配信レートλctlが決定されるようにした点に特徴がある。ここでは、メール受信レートλ(t)が着信通知配信装置17において着信通知配信規制部232により規制される場合を例にして説明するが、他の規制方法にも同様に適用できる。
【0071】
着信通知配信装置17において、能動フェッチレート検知部234は、端末ユーザがメール着信通知とは無関係に任意のタイミングで自らメールの送受信操作を行う能動フェッチの発生レートλactを検知する。このような能動フェッチレートλactは、例えば着信通知配信装置17が送信した着信通知数と受信メールサーバ15において観測されたフェッチ数(受動・能動を問わない)との差分に基づいて求めることができる。
【0072】
また、着信通知配信装置17が着信通知を送信した端末の識別情報(例えば、ユーザID)を管理しておけば、これを各フェチセッションの端末識別情報と比較することで、能動フェッチレートλactをより正確に検知することができる。
【0073】
さらに、能動フェッチが必ずメールトラヒックを発生させるとは限らず、受信メールが存在しないときに行われた能動フェッチ(空フェッチ)ではメールトラヒックが発生しない。したがって、能動フェッチの数や割合と共に、各フェッチセッションでダウンロードされるデータの有無に基づいて空フェッチを検知し、これを能動フェッチ数から予め減じるようにすれば、真にメールトラヒックに影響する能動フェッチレートλactを算出できるようになる。
【0074】
なお、端末ユーザによる能動フェッチ動作は、受信メールトラヒックの規制が厳しくなるほど頻度が高くなると推定できるので、受信メールトラヒックの規制内容と能動フェッチレートλactとの関係を表すモデルや関数を予め用意しておき、受信メールトラヒックの規制状況に基づいて算出されるようにしても良い。
【0075】
前記着信通知配信規制部232は、前記受信メールサーバ15から通知されるメール受信レートλ(t)および能動フェッチレートλactに基づいて、受信メールサーバ15に蓄積された受信メールの宛先を有する端末への着信通知の配信レートλctlを、例えばメール受信の許容レートλと能動フェッチレートλactとの差分(λ(t)−λact)に決定する。すなわち、メール受信の規制を前記能動フェッチレートλactに相当する分だけ強める。
【0076】
本実施形態によれば、着信通知の配信レートλctlが能動フェッチレートλact分だけ予め低く設定されるので、能動フェッチセッションが発生しても、プロキシ回線18の使用帯域を許容帯域上限内に抑えられるようになる。
【0077】
図10は、本発明の第6実施形態の構成を示した機能ブロック図であり、前記着信通知配信装置17から配信される着信通知に無応答な端末の存在を考慮して着信通知の配信レートλctlが決定されるようにした点に特徴がある。ここでも、メール受信レートλ(t)が着信通知配信装置17において着信通知配信規制部232により規制される場合を例にして説明するが、他の規制方法にも同様に適用できる。
【0078】
着信通知配信装置17において、無応答レート検知部235は、無線端末の電源が切られていたり、所在地が電波の届かない圏外であったりするために前記着信通知を受信できない、あるいは着信通知を受信できても応答しないなど、着信通知に応答して受動フェッチセッションを確立しない無応答端末の発生レートλoffを検知する。
【0079】
このような無応答レートλoffは、例えば着信通知配信装置17が着信通知を送信した宛先端末の識別情報を管理し、これを応答端末の識別情報と比較することで応答率を算出し、その履歴情報を統計的に処理することで求められる。あるいは着信通知配信装置17による着信通知の配信失敗数を監視し、その履歴情報を統計的に処理することで求めるようにしても良い。
【0080】
前記着信通知規制部232は、前記受信メールサーバ15から通知されるメール受信レートλ(t)および無応答レートλoffに基づいて、受信メールサーバ15に蓄積された受信メールの宛先を有する端末への着信通知の配信レートλctlを、例えばメール受信の許容レートλ(t)と無応答レートλoffとの総和(λ(t)+λoff)に決定する。すなわち、メール受信の規制を前記無応答レートλoffに相当する分だけ弱める。
【0081】
本実施形態によれば、着信通知の配信レートλctlが無応答レートλoff分だけ予め高く設定されるので、無応答端末が存在する場合でも、プロキシ回線18の使用帯域を許容帯域上限内に抑えられるようになる。
【0082】
なお、上記の各実施形態ではProxy16を終端とする例を示して説明しているが、後段の受信メールサーバ(群)15が終端となる構成の場合も同様である。また、ボトルネック回線がProxy回線ではなく、無線回線あるいは受信メールサーバ(群)15とProxy16との間の回線の場合も同様である。
【符号の説明】
【0083】
11…第1送信メールサーバ(群),12…第2送信メールサーバ(群),13…広域ネットワーク,14…GW/IX,15…受信メールサーバ,16…プロキシサーバ,17…着信通知配信装置,18…プロキシ回線,19…RAN,21…統計モデル,22…データ量算出部,23…メール受信規制部,231…着信通知依頼規制部,232…着信通知配信規制部,233…セッション数規制部,234…能動フェッチレート検知部,235…無応答レート検知部
図1
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図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10