(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
厚みが0.4〜3.5mm且つ着磁ピッチが2.0〜7.0mmの多極着磁マグネットシートの着磁面に表装材を装着してなる表装マグネットシートが、仏壇の内外の表面、扉、及び/又は、仏壇の棚、壇、及び段の水平上向き面に装備されており、該表装マグネットシートに対して、その表示状態とは異なる装飾であって、蛍光材及び/又は蓄光材がそれぞれ単独または任意に混合されたインクまたは塗料でもって1つの図柄表示層の全部又は一部分がそれぞれ形成されると共に、それぞれの図柄表示層を併せることでもって完成させた図柄表示層を設けることのできる装飾磁性シートを、磁気吸着にて着脱自在に構成し、内部に照明光源及び/又は紫外線源が配設されたことを特徴とする装飾衣換え仏壇。
表装材が、仏壇に使用されている表装素材と同一又は模して作られていて、且つその厚みが0.06〜4.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の装飾衣換え仏壇。
表装マグネットシートを装備する面が垂直な場合は、多極着磁マグネットシートの磁極が水平方向に長く伸びる様に配置されており、又は、表装マグネットシートを装備する面が水平な場合は、多極着磁マグネットシートの磁極が仏壇の正面方向に対して直角方向に長く伸びる様に配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の装飾衣換え仏壇。
多極着磁マグネットシートの厚みが1.0〜3.5mmであり、且つ着磁ピッチが3.0〜7.0であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装飾衣換え仏壇。
多極着磁マグネットシートが仏壇本体に組み込まれ、表装材がその上にその周辺部と一体的に貼られて装備されているか、若しくは、多極着磁マグネットシートと表装材とが一体にシート化されており、且つ既存の仏壇に接着または粘着されて配設されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装飾衣換え仏壇。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の様に、特許文献1,2、及び3は、従前の仏壇や仏具に新たな技術を加えてはいるものの、祀られている人(故人)に固有の仏壇、すなわち故人の業績や趣味や人徳を偲ばせる物では無く、また、祀る人の想いを十分に表現することは困難であった。
【0008】
他方で、大多数の人々は昔からの仏壇とその厳かで静的な雰囲気を尊く思い、また必要とする心理を失わず持ち合わせている。そこで、必要な時には個性的に装飾された仏壇を演出することが自在に出来る一方で、通常時には厳粛な雰囲気を醸し出す伝統的な仏壇に還ることが可能な仏壇の出現が待たれていた。
【0009】
他方で特許文献4は、仏壇の本体に組み込んだ鉄に対して、表皮層としての磁石を着脱させるというもので、好適な磁石、或いは好適な被磁着体についての具体的な仕様や形状などが開示されていない。
【0010】
本発明は上述した課題を解決するために成されたもので、仏壇の平面を効果的に装飾することでもって、祀られる人と、その故人を祀る人の想いを現すことが出来る個性的に装飾された衣を纏う仏壇を提案するものである。
その際、1つの仏壇に祀る対象は多くの場合複数であり、都度自在に個性を発露できることが肝要である。
他方で家族の中でとりわけ年配者は、没個性で画一的ではあるが伝統的な仏壇を求めている。
また、仏壇は高重量であり、自由に移動ができないことも考慮が必要である。
そこで、本発明は、仏壇を据え置き状態のままで、伝統的な状態と個性的な状態とに、簡単な構成でありながら、確実に切り替えることができる装飾衣換え仏壇を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために本発明は、厚みが0.4〜3.5mm且つ着磁ピッチが2.0〜7.0mmの多極着磁マグネットシートの着磁面に表装材を装着してなる表装マグネットシートが、仏壇の内外の表面、扉、及び/又は、仏壇の棚、壇、及び段の水平上向き面に装備されており、該表装マグネットシートに対して、その表示状態とは異なる装飾であって、蛍光材及び/又は蓄光材
がそれぞれ単独または任意に混合
されたインクまたは塗料でもって1つの図柄表示層の全部又は一部分
がそれぞれ形成
されると共に、それぞれの図柄表示層を併せることでもって完成させた図柄表示層を設けることのできる装飾磁性シートを、
磁気吸着にて着脱自在に構成し、内部に照明光源及び/又は紫外線源
が配設
されたことを特徴とする装飾衣換え仏壇とした。
この構成によれば、仏壇における各壁面は、装飾磁性シートを磁気吸着力(以下磁着力という)で取り付けるという簡単な作業で、伝統的な装飾状態から個性的な装飾状態に相互に切り替えることができる。
また、仏壇内部に照明光源及び/又は紫外線源を配設するようにすることにより、蛍光材や蓄光材などで印刷された図柄を発光させて、より効果的な装飾・演出が可能になる。
【0012】
なお、表装材は、その仏壇に使用されている表装素材と同一又は模して作られていて、且つ厚みが0.06〜4.5mmとするのが好ましい。
また、表装マグネットシートを装備する面が垂直な場合は、多極着磁マグネットシートの磁極が水平方向に長く伸びる様に配置されており、又は、表装マグネットシートを装備する面が水平な場合は、多極着磁マグネットシートの磁極が仏壇の正面方向に対して直角方向に長く伸びる様に配置されているようにすることも、好ましい態様となる。
【0013】
さらに、多極着磁マグネットシートの厚みが1.0〜3.5mmの範囲であり、且つ着磁ピッチが3.0〜7.0mmの範囲であれば、より確実な磁着が実現する。
【0014】
多極着磁マグネットシートが仏壇本体に組み込まれ、表装材がその上にその周辺部と一体的に貼られて装備されているか、若しくは、多極着磁マグネットシートと表装材とが、一体にシート化されており、且つ既存の仏壇に接着または粘着されて配設されていても良い。
【0016】
装飾磁性シートに使用する磁性シートは、印刷受理層を有するコート紙の裏面
に、粒径が1〜数百ミクロンのソフトフェライト粉、又は鉄を主成分とする軟磁性分又は、ハードフェライト粉の3つの群から選ばれる1〜3種の単独又は混合物
が乾燥後の体積で58〜74%含
まれる磁性塗料
からなり、
厚さ0.05〜1.0mm
の磁性粉層
が設け
られて構成
されればよい。
【0017】
なお、この磁性シートは、印刷受理層を有するコート紙の裏面
に、厚さ0.05〜0.2mmのスチールシート
が貼着
されて構成
されても良い。
【0018】
あるいは、この磁性シートは、印刷受理層を有するコート紙の裏面
に、表装マグネットシートの着磁ピッチと同じ着磁ピッチで厚さが0.2〜1.6mmでなる多極着磁マグネットシートの着磁面の裏側
が貼着
されて構成
されてもよい。
この場合は、対向するマグネットシートの異極同士が吸引し合って、より強い磁着が実現する。
【発明の効果】
【0020】
仏壇の特定の面に磁場を発生させるためのマグネットシートは、有効な磁場を発生させるために一定以上の厚さが必要であるため、高重量となるが、本発明においては、該マグネットシートを仏壇本体側に装備させ、相対的に薄くて軽い装飾磁性シートを着脱させる構成としているので、装飾磁性シートの取り付け作業が、小さな力でスムーズ且つ確実に行うことができる。
【0021】
装飾磁性シートの表面は、各種の印刷や塗装により多くの表現が可能であり、従来の伝統的な装飾状態を施した仏壇を、多くの個性的な装飾状態に、自由に切り替えることができる。
【0022】
特に、蛍光材や蓄光材などを用いて任意の方法で祀られる人固有の装飾図柄を、祀る人の感性でもって思いを込めて表現すると効果的であり、祀る人は、装飾された仏壇と共に特別なひと時を過ごすことが出来る。
そして、該装飾された磁性シートを取り替えたり、或いは取り除くことによって、気分を変えたり季節に合わせたり、或いは従前の伝統的な仏壇に還ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
従来の仏壇の伝統的で重厚な質感との対比で、祀られる人や祀る人の「人となり」を表現し演出する手段として、個性的な図柄が自在に選べ、更に光を採用し、広い面積での装飾が効果的なので、シート状の装飾とした。
本発明において、仏壇の平面でシートを着脱する広さは1ヶ所辺り、大略、用紙サイズA5〜A1程度であるので、ハンドリングの容易さ、或いは磁着力が弱すぎて装飾を施すシートが自重落下する不具合や、逆に強過ぎると着脱の操作が難しくなる事など、交換の容易さを顧慮して、磁気的吸着・脱着に着目した磁気的な仕様を検討した結果、以下が好適なことを見出し、本発明に至った。
【0025】
図1で、本発明の実施態様の1つを説明する。本発明で採用する表装マグネットシート7は、体積換算で56〜70%のストロンチュームフェライト粒子叉はバリウムフェライト粒子を塩素化ポリエチレン樹脂に分散させ、カレンダーロール法で成型した厚さ0.4〜3.5mm、着磁ピッチ2.0〜7.0mmの多極着磁マグネットシート5の、着磁面に表装シート6が接着されている。
【0026】
該表装シート6は、仏壇の表装素材、例えば銘木の黒檀や紫檀であり、又は模して作られているシートであって、厚さが0.06〜4.5mmである。模して作られているシートは、住友スリーエム株式会社製ダイノックス装飾フィルムや、シーアイ化成株式会社製ベルビアン化粧フィルムなどが採用される。厚さが薄ければマグネットシートが表装表面に形成する磁場が強くなって好都合だが、磨耗や圧迫、打撃衝撃などの機械的強度が弱くなってしまう。また、厚さが大きいと、該磁場が非常に弱くなって装飾磁性シート4の磁着が不確実になってしまうので好ましく無い。
【0027】
該表装マグネットシート7は、接着材、又は粘着剤によって、仏壇基材8に貼り付けられ、仏壇と一体化している。この場合、該マグネットシートは該仏壇が製造される過程で組み込まれ、表層シートは周辺の表装シートと区別されること無く一体化して装備されている。
或いは、
図2の本発明の他の実施態様の様に、表装マグネットシート12は所定の大きさで製作され、表装シート10の裏面に貼着された多極着磁マグネットシート9の裏面に設けられた粘着剤層11で、既製の仏壇の表装材8aに粘着、配設される。
【0028】
なお、多極マグネットシート5,9の厚みが0.4mmより薄いと、反磁界が急激に大きくなって、
磁着力の低下が著しくなってしまう。本発明で、装飾磁性シートを確実に磁着させるためには、0.4mm以上の厚みが必要である。
また、厚みが大きい程高い表面磁束密度を確保する事が出来るが、3.5mmを超えると、単位面積当たりの自重が著しく重くなり好ましく無いと共に、該シートを生産後、ロール巻きで保管・運搬する過程で巻き癖が付き、平面を保持したり、或いは矯正して平面に戻すことが困難であり、平面状に装備又は配設しなければならない本発明に於いては好ましく無い。
【0029】
これらの多極着磁マグネットシート5,9の着磁ピッチは、2.0mm〜7.0mmが好適である。2.0mm未満の着磁ピッチの場合、電流着磁ヨークの製作が煩雑で、かつ寿命が短くなる。更に、着磁されたマグネットシートの吸着力が弱い。
一般に着磁ピッチが大きい程高い表面磁束密度を確保する事が出来るが、着磁ピッチが7.0mmを超える場合は、着磁のための一定以上の磁場を着磁ヨークで発生させる必要から、ピッチの大きさに相応した特別大電流を流す必要があり、現実的ではない。
【0030】
本発明において、より確実な磁着力を確保するためには、多極着磁マグネットシートの厚さは1.0〜3.5mm、着磁ピッチは3.0〜7.0mmがより好ましい。
【0031】
該マグネットシートは、等方性、若しくは異方性を選択することが出来る。等方性に比べて異方性は表面磁束密度がやや高いので
磁着力が勝り、該マグネットシートが薄い場合に好適である。
【0032】
表装マグネットシートを装備する仏壇の面が垂直な場合は、該多極着磁マグネットシートの磁極が水平方向に長く伸びる様に配置することが好ましい。また、該仏壇の面が水平な場合は、該磁極が、仏壇の正面方向に対して直角方向に長く伸びる様に配置することが好ましい。
【0033】
図1及び
図2で示す、表装マグネットシート7に磁着させる装飾磁性シート4,16は次の様にして作成することが出来る。すなわち、磁石に吸引される磁性シート3,15の片面に、図柄表示層Eを形成するが、該図柄表示層Eは、蛍光材、蓄光材、および通常のインクあるいは塗料の3種類の群から、1〜3種を選択して、それぞれ単独又は混合したインク或いは塗料でもって、1つの図柄の全部又は一部をそれぞれ製作すると共に、それぞれの図柄を1枚の磁性シートに印刷又は塗装することによって、図柄を完成させる。
【0034】
該磁性シート3,15は、コート紙2,14の印刷受理層の裏側に、粒径が1〜数百ミクロンのMn−Znフェライトなどのソフトフェライト粉或いはその焼結粉砕粉を、乾燥後の体積で58〜74%含む磁性塗料とし、乾燥後の厚さが0.05〜1.0mmになる様に塗布して乾燥させた磁性粉層1,13を形成させて作製することが出来る。
このソフトフェライトは錆びる事が無く化学的に安定なので、数十年以上に亘って受け継がれて行く仏壇にとっては特に好適である。
【0035】
なお、ソフトフェライトに代えて、鉄を主成分とする軟磁性粉を採用しても良い。鉄粉は燐酸処理が防錆処理として有効である。センダストは、鉄を主成分としてアルミニウムを4〜5%、シリコンを9.5〜10%含み比較的錆に強い。鉄粉やセンダスト粉は、高圧水−アトマイズ法で安価に生産することが出来る。
【0036】
さらに、ソフトフェライト粉に代えて、マグネットシートの主原料として採用したストロンチュームフェライト粒子やバリウムフェライト粒子、或いはまたその焼結体の粉砕品を採用することが出来る。これら硬質磁性粉は着磁されたマグネットシートの磁場でもって弱く磁化し、磁着することが出来る。これらハードフェライト粉は錆びる事が無く化学的に安定なので、数十年以上に亘って受け継がれて行く仏壇にとっては特に好適である。
【0037】
なお、磁性粉層1,13の厚さが0.05mm未満では、表装マグネットシートへの磁着力が弱く好ましくない。また、厚さが1.0mmを超えると、重量が大きくなると共に柔軟性が無くなって取り扱いが難しくなるので好ましくない。
【0038】
また、
図1に示すように、磁性シート3は、磁性粉層1に換えて、印刷受理層を有するコート紙2の裏側に、厚さが0.05〜0.2mmのスチールシート1aを貼って構成することも出来る。
なお、スチールシート1aの厚みが0.05mm未満のものは、製造が容易では無く、更に該箔にしわが入らない様に取り扱う事が困難である。また、0.2mmを超えた場合も、機械的柔軟性が無くなり、且つ重くなってしまう。所定の寸法に鋏みなどで切断することも困難になるので好ましくない。
ちなみに、スチールシート1aは、亜鉛や錫で鍍金処理することでもって錆を防ぐことが出来る。
【0039】
そして、磁性シート3に図柄表示層Eを描いて装飾磁性シート4を得る。
固有性や想いを現す為に、通常のカラー印刷に限らず、蛍光材、或いは蓄光材のインクや塗料を採用して、それぞれ単独、或いは混合してデザインされた1つの図柄の部分を、1枚の磁性シートにそれぞれで順次描き、最終的に該図柄表示層Eを完成させる事が出来る。
なお、表示方法は、インクジェット方式、或いは版画方式など、任意の手段が使える。
【0040】
本発明で用いる蓄光材は、アルミン酸ストロンチューム系として知られているアルミンサンストロンチューム・ユウロビウム・ジスプロシウムが好適である。屋外で使用することは無いが、発光の明るさが硫化亜鉛系に比べて約100倍明るい。
なお、発光色は、一般には青〜緑の弱く淡い色であり、可視光〜紫外線を吸収して、それらが照射されなくなっても、数〜8時間程度の間、発光を継続する。
【0041】
本発明で用いる蛍光材は、発光色をどの様にデザイン・選択するかでもって、おのずと決まる。最近多くの組成が開発され、可視光から紫外線の領域の電磁波で励起し発光するので、その中から選択することが出来る。例えば赤色に対してはY2O2S系、青色に対してはBaMgAl10O17系などがある。
なお、蛍光材の発光は、蓄光材の発光に比べて遥かに明るいので、通常の照明下で、より鮮やかで鮮明になる特長がある。
【0042】
これらの蓄光材や蛍光材は、いずれも粉末状で、可視光や紫外線を良く透過するバインダーに混練されて、印刷又は塗布される。
なお、蓄光材と蛍光材はそれぞれ化学的に比較的安定なので、通常、印刷部分を隣接させる事が可能で混在させる事も出来る。
そして、図柄Eやその色のデザインにしたがって、通常の照明時の発色、紫外線のみ照射時の発色、及び可視光、紫外線共に停止した場合の発色を考慮して、採用する材料を選択する。
【0043】
図柄表示層Eは、磁性シート3の全面を使って描かれるか、若しくは一部のみに描かれる。
仏壇全体を考慮して、或いは、図柄によっては、発光材を塗らない平面があっても良い。
更に、仏壇全体で1つの図柄を構成する様に、図柄をデザインすることが出来る。
或いは、磁性シート毎に、異なる図柄であっても良い。祀られる故人の固有性や祀る人の想いがデザインを決める。
【0044】
該蓄光材や蛍光材の発光材は、仏壇や仏具に直接塗布しても良いが、衣換えする目的からは磁性シート3に印刷又は塗布する。該装飾を施された磁性シート3は、仏壇本体の面の部分に装備又は配設した多極着磁マグネットシート5に磁気吸引されるので、貼ったり、取り去ったりする事が自在である。磁気的な吸引力は、シートや壁面の汚れや経時の影響を受けずに安定しているので好便である。
【0045】
上述した様に、装飾磁性シート3に、蛍光材、蓄光材或いは通常の塗料やインクを用いて図柄を形成して装飾されたシートを得て、それらを仏壇の表装マグネットシート7に磁着させれば、個性的に装飾された仏壇を演出することが出来る。
【0046】
磁着させてあったシートを交換させることでもって、他の個性的雰囲気へと模様換えを行う事が出来る。
該模様換えと同時に、他の模様換えを実施すれば気分は一新する。位牌は勿論、例えば欄間21の空間に置かれた彫刻物(図示せず)の交換や欄干の交換、或いは、内背面18、外壁19、内扉(下)20a、内扉(上)20bの垂直面などに磁着していた装飾磁性シート(例えば高僧の姿図の図柄を表現/図示せず)を、別の図柄表示層を描いた装飾磁性シートに交換、或いは取り外しを行う。
本説明は主に仏壇内部の装飾衣換えについて説明しているが、仏壇の外扉や側面などの外装についても同様の装飾衣換えが出来る事は言うまでもない。
【0047】
仏壇内部に可視光照明光源と紫外線源の両者を備えることが好ましい。可視光照明下では、蛍光材は鮮やかな色彩を放って装飾性や演出性を高め、紫外線源は、可視光照明が乏しくなった際蛍光材及び蓄光材を発光させて、個性的に装飾された仏壇を鮮やかに演出する。
仏具や装飾彫刻などの一部に蛍光材や蓄光材を塗り、特別な効果を挙げることが出来る。蝋燭や提燈、或いは燈篭に設置された蝋燭の炎の模型に、赤橙色に発色する蛍光材を塗布すれば、照明を落とした深夜に、紫外線照射によって火災の危険性の無い蝋燭の光を発し続ける事が出来る。
天女の彫刻の装飾が施されていれば、天女の羽衣部分に薄い桃色に発色する蛍光材を塗布することも効果的である。該部分に蓄光材を重ね塗りすれば、紫外線や可視光を絶った後、異なる雰囲気の天女を演出する事が出来る。
【0048】
該仏具や装飾物は、模様換え時に取り去るか若しくは交換して文字通り模様換えを行う事によって、本発明の目的がより効果的に達成される。
【0049】
該装飾磁性シートは、仏壇内部だけでは無く、扉や台座などへの適用が可能である。特許文献4は、扉外面の模様替えが可能とし、仏壇を載置する部屋の雰囲気や好みによって変更することが提案されているが、本発明は部屋や季節を越えて、該仏壇に祀られている複数の故人やその故人と関わってきた祀る人自身の個性、想いを、然るべき時に表現・演出し、やがて模様換えを行うことによってたちまちにして、日常の生活に戻ることが出来る。
【0050】
なお、
図1に表わした表装マグネットシート7に磁着させる装飾磁性シート4は、マグネット製としてもよい。
即ち、この場合の磁性シート3はマグネット製となっていて、具体的には、印刷受理層を有するコート紙2の裏面に対し、厚さ0.2〜1.6mm、着磁ピッチ2.0〜7.0mmの多極着磁マグネットシート1bを、その着磁面の裏側を貼着させるようにして作製する。
そして、コート紙の印刷受理層には、上述したような図柄表示層Eが表現される。
但し装飾は、このコート紙2に換えて、市販されている装飾シート等を貼って代用しても構わない。
この多極着磁マグネットシート1bの厚さは、表装マグネットシート7に対向させて、磁石同士で磁着させるので、0.2mmの厚さ以上で目的が達せられる。厚さが1.6mmを超えると、自重が大きくなり取り扱いが難しくなると共に鋏みやカッターで所定の寸法に切断することが困難になるので好ましくない。
【0051】
なお、多極着磁マグネットシート1bの着磁ピッチは、仏壇に装備された表装マグネットシートの着磁ピッチに一致させているので、磁石同士が磁極の方向を揃えて強固に磁着する。
【0052】
表装マグネットシート7が垂直な面に装備されている場合は、表装マグネットシートの磁極が水平方向に伸びる様に装備されているので、該表装マグネットシート7に磁着した装飾マグネットシート4が自重で下方へ移動する力が働いても、装飾マグネットシート4の磁極と表装マグネットシート7の磁極の同極同士が近づき磁気的反発力を受けるので、装飾マグネットシート4が下方へ自重で移動することが妨げられる。本効果は表面の状態=摩擦に無関係なので、摩擦係数が非常に小さい艶のある仏壇表面の表装であっても、比較的重量のある装飾マグネットシート4を磁着・固定しておく事が出来るので好都合である。
【0053】
なお、水平な面に装備されている表装マグネットシート7の場合は、磁極が長く延びた方向は仏壇正面に向かって直角方向になる様に装備されているので、装飾マグネットシート4を磁着させる際、無造作な作業であっても、磁極が伸びた方向をキチンと揃えることが出来る。
【0054】
以上は仏壇に限って説明したが、本発明は祭壇にも適用出来る。通夜や本葬時の祭壇、その付帯設備・道具に対しても適用できる。
更に本発明は、仏教に限らず他の宗教・宗派やその装飾・演出に適用する事が出来る。
【実施例1】
【0055】
図1に表わした本発明の1つの実施態様を、
図3に示す仏壇17の内扉(下)20aに適用した。
具体的には、厚さ2.08mm、着磁ピッチ4.0mmの多極着磁マグネットシート5の着磁面を表にして、内扉(下)20aに組み込み、その表面を仏壇本体に使用されている紫檀の木材の1.0mmの厚さにスライスされたシート状素材を貼って、表装マグネットシート4を内扉(下)20aに一体化させた。
【0056】
なお、磁性シート3は、最大粒子径が約70ミクロンの防錆処理された鉄粉を塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とポリエステルウレタンとの混合物を適量の有機溶媒に溶かした溶液中に分散させた磁性塗料を、コート紙の裏面に乾燥後の厚さが約0.07mmにコーティングした総厚約0.17mmのメタリックなシートを使用し、その印刷受理層に、図柄表示層Eとして、故人が好んで育てていた赤い牡丹に因んで、
図5に示すような牡丹の花の
図28を描いた。
【0057】
具体的には、葉の部分29は緑色に発光する蛍光材、外側の花弁30は鮮やかな赤色に発色する蛍光材、内側の花弁31は赤色に発色する少量の蛍光材に加えて白色に近い発色の蛍光材を混合して桃色に見える様に、そして花芯部分32は橙色に発色する蛍光材で描いた。
該図柄の輪郭は蓄光材インクをインクジェット法で描いた。
【0058】
そして、装飾磁性シート4を鋏みで所定の寸法に切り出し、上記表装マグネットシート7を一体化させた内扉(下)20aの面に磁着させた。該装飾磁性シート4を該表装マグネットシート7に仮止めしてから、位置の微調整が簡単なので、周辺に不均等な隙間や、或いは該装飾シート4に皺を発生させる事無く、容易に且つ確実に貼る事が出来た。
装飾磁性シート4を完成後、花に舞う蝶を描くことを忘れている事に気付き、新たに、
別の磁性シートに紫アゲハチョウを蛍光材で描き、切り出して、該牡丹の図柄表示層の上に重ねて磁着
させることができた。
【0059】
日中や室内の照明が明るい間、牡丹の花は、可視光による色彩に加えて蛍光材が発光して鮮やかに燃える様であったが、暗くなって照明を落とすとともに紫外線を照射すると、暗闇の中に鮮やかな色彩の牡丹が浮かび上がり、あたかも故人が自慢している様であり、仏壇内も明るくなった。
紫外線照射を止めると鮮やかな赤い花びらが薄緑色のはかない縁取りに様変わりして、故人の自慢の牡丹の色彩が残像として浮かび、あたかも思い出となった様であった。
【実施例2】
【0060】
図1に表わした本発明の1つの実施態様を、
図3に示す仏壇17の内背面18と内扉(上)20bに適用した。
具体的には、厚さ0.6mm、着磁ピッチ2.5mmの多極着磁マグネットシート5の着磁面を表にして、内背面18全面と内扉(上)20bの部分に埋め込み、その表面を、厚さ0.2mmの装飾シートで覆って、表装マグネットシート7を仏壇と一体化させた。
なお、表装シート6は、塩化ビニール系樹脂のシートに紫檀の木目模様を
精巧に印刷したシートで、接着材で貼り付けて仏壇に一体化させた。
【0061】
そして、装飾磁性シート4は、防錆処理された厚さ約0.05mmのスチールシートの片面にコート紙を貼った総厚約0.16mmの磁性シートを2枚用意した。
1枚は、青白く発色する蛍光材を中央部分は厚く、放射状に外側に行くほど薄くなる様に傾斜させ、他の1枚は前面により青っぽく発色する蓄光材を均一に塗った。
所定の寸法に鋏みで切断し、前者の1枚は内背面18全体に磁着させ、後者の1枚は2分割してそれぞれ内扉(上)20bに磁着させた。
【0062】
内背面18は用紙サイズA1相当の広さがあり、その広さが約4900cm
2程度と大きいので該装飾磁性シート4は総重量約0.5kg弱あったが、厚さ0.6mmのマグネットシートを採用した仮の場合の重量である約1.3kgに比べると取り扱いが容易だった。更に、折り目や皺が付かないように注意深く装着する必要があるが、一旦大まかな位置に磁着させておいてから、隅に隙間や皺が出来ない様に位置の調整が出来るので、容易に且つ精確に磁着させることが出来た。
【0063】
室内照明時には蛍光材の発色で仏壇内が一層明るくなった。夜になって、可視光照明を落とし紫外線を照射すると、仏壇の中央に置かれた位牌の後方の面の蛍光材が発色して、あたかも後光が発せられているかの様であった。
紫外線照射を止めると一瞬暗闇になったが、一対の扉内面が淡い青色に浮かび上がり、仏壇内部をかすかに照らして、静かに故人を偲ぶ世界への入り口の門の様であった。
【実施例3】
【0064】
実施例1において、防錆処理された鉄粉に換えて、マグネットシートの主原料の1つであるストロンチュームフェライト粒子(粒径約2ミクロン)を採用した。
該磁性粉を塩化ビニルと酢酸ビニル共重合体をバインダーとする溶媒溶液中に分散させ、溶媒乾燥後の厚さが0.4mmに成る様に、コート紙に塗布・乾燥させて、装飾のための磁性シートを準備した。
【0065】
実施例1と同様にして、該磁性シートに通常のインクで蓮の花を描き、平常時には、牡丹の図柄などの特別な装飾に変えて内扉を飾った。
更に、義理の両親が孫に会いに来た平日には、該蓮の花の装飾を外して本物の紫檀の木の質感で装った。
【実施例4】
【0066】
従前の仕様で製作した
図3に示す仏壇17の欄間21の正面奥の面に、
図2に表わした本発明の他の実施態様を適用した。
具体的には、厚さ0.8mm、着磁ピッチ3.0mmの多極着磁マグネットシート9の着磁側に、実施例2で用いた厚さ0.2mmの表装シート10を張り、反対側に粘着剤層11を設けて、該粘着剤でもって該欄間21の正面奥の面に、表装マグネットシート12を配設した。
【0067】
次に、実施例3で用いたストロンチュームフェライトに換えて、Mn‐Znソフトフェライト粒子を採用した事の他は実施例3と同様にして、装飾のための磁性シートを得た。
該磁性シートに蓄光材を塗布して所定寸法に切り抜き、該表装マグネットシートに磁着させた。
【0068】
実施例2に加えて本実施例を実施した。可視光照明を落とし紫外線を照射すると、位牌に後光が射すかの様な光に加えて、欄間の奥深くからの微かな光が認められ、紫外線を断つと、一対の門とともに、欄間の彫刻(図示せず)のシルエットがかすかに浮かび上がり、その陰影が奥行きを一層深めていた。
【実施例5】
【0069】
特別な日を終えたあと、実施例2で用いた装飾磁性シート4を外した。
通常の仏壇では平常時には、ご本尊と両脇仏の印刷物を小さな掛け軸の様に天井から吊るすか、若しくは背面に設けた金具に引っ掛けていたが、本発明においては、磁気的に吸着させ、貼り付ける事が出来た。
【0070】
すなわち、半立体的な彫像が施されたご本尊及び両脇仏の背面に設けられた面の部分に、厚さ0.4mm、着磁ピッチ2.5mmの多極着磁マグネットシートの非着磁面を接着材で貼る事により、金具や吊り糸を使わずに、該仏具を内背面18の所定の位置に磁着・固定することが出来た。
【0071】
表装マグネットシート7、及び該仏具に貼り付けられた多極着磁マグネットシートの着磁ピッチは同一(2.5mm)であり、さらに、該磁極は、水平方向に伸びた配置になっている。
そのため、該2枚のマグネットシートは、表装シート6の厚さの0.2mmを鋏んで異極同士が強力に吸引する一方で、該仏具の自重で該仏具が下方へ落下しようとすると、マグネットシートのお互いの同極が近づき、重なろうとするが、この時、反発力が働くので、該仏具が下方へ移動することが妨げられた。
装飾された羽子板の様に立体的で決して軽くは無い該仏具を、磁気的に固定して飾ることが出来た。
【実施例6】
【0072】
仏壇には、壇、段、或いは棚と呼ばれる階段状に似た構造があり、そこに、様々な仏具が載置される。例えば
図6は仏壇の段のみの略図を表したものであり、複数の段34,34...からなる基台33に、打敷35と呼ばれる敷物が、夫々の段34から垂下がった状態で使用される。更に、色々な仏具が、該段に直接、或いは該打敷の上に置かれる。
【0073】
そして、厚さ3.0mm、着磁ピッチ5.0mmの多極着磁マグネットシートを、段34の水平面に適用した。
段34の上面全体に該多極着磁マグネットシートを、着磁面が上面になる様に貼り、その上に、厚さ3.0mmの該段を製作する無垢材を張り合わせて、あたかも1枚の無垢材で製作した様に見える段を製作した。
【0074】
段34に敷く打敷35の、段34の上面に載る部分の裏側に、厚さ0.4mm、着磁ピッチ5.0mmのマグネットシートを予め貼っておくと、マグネットシート同士の磁着によって打敷の位置が決まり、且つ斜めにずれたり、ずり落ちることが無くなった。
【0075】
(比較例1)
図4は、本発明の比較例1の断面図を示したものであり、表装マグネットシートを装備していない従来の仏壇に対して、実施例1における装飾磁性シート4に代わり、装飾粘着シート27を採用した構成を表している。
具体的には、コート紙24の裏面に粘着剤層23を設け、その表面を離型紙25で覆った粘着シート26が形成されており、コート紙24の表面には、実施例1と同様な図柄表示層Eを設けた構成の装飾粘着シート27が示されている。
【0076】
なお、この構成では、内扉(下)20aの紫檀材表面に装飾粘着シートを貼り付ける際、仮留めをして位置の微調整をすることが困難であり、周辺部を隙間無くピッタリと貼る事が出来なかった。更に該作業の際に該装飾シートに皺が入ってしまった。
また、取り外した該装飾粘着シート27は再使用する目的で保管する必要があり、粘着剤層23の表面を汚れから守るには当初剥がした離型紙25を保管して置かねばならないが、それは事実上不可能である事が明らかになった。
更に、長期間何も貼る事無く放置されていた仏壇の内張り表面は埃で汚れていて、粘着剤が付きにくく、且つ、粘着剤層23の表面に該埃が粘着してしまい、該装飾粘着シート27を再び粘着させる事が難かしくなってしまい、繰り返し使用が出来なかった。
【0077】
(比較例2)
実施例2において、蛍光材や蓄光材を用いず、通常のインクで同様の図柄表示層を描いた。
照明を落とすと一様な暗闇となり、故人を偲んだり、故人と対話する雰囲気にはなれなかった。