特許第5796922号(P5796922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5796922ポリエステル系合成繊維用処理剤、ポリエステル系合成繊維の処理方法及びポリエステル系合成繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5796922
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ポリエステル系合成繊維用処理剤、ポリエステル系合成繊維の処理方法及びポリエステル系合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/292 20060101AFI20151001BHJP
   D06M 13/165 20060101ALI20151001BHJP
   D06M 11/71 20060101ALI20151001BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20151001BHJP
【FI】
   D06M13/292
   D06M13/165
   D06M11/71
   D06M101:32
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-104031(P2015-104031)
(22)【出願日】2015年5月21日
【審査請求日】2015年5月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀章
(72)【発明者】
【氏名】小室 利広
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−103099(JP,A)
【文献】 特開昭53−106896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M11/00〜15/715
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に炭素数12〜22のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を40〜80質量%、下記の界面活性剤を20〜59.99質量%及び下記のリン酸金属塩を0.01〜3.0質量%(合計100質量%)の割合で含有して成り、アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩の酸価が0.1〜90KOHmg/gであることを特徴とするポリエステル系合成繊維用処理剤。
界面活性剤:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルアミノエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテルと無機酸との塩及びポリオキシアルキレンアルケニルアミノエーテルと無機酸との塩から選ばれる少なくとも一つ
リン酸金属塩:リン酸水素二金属塩及びリン酸三金属塩から選ばれる少なくとも一つ
【請求項2】
アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩の酸価が、0.l〜80KOHmg/gのものである請求項1記載のポリエステル系合成繊維用処理剤。
【請求項3】
アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩中のアルキル基が、炭素数16〜18のものである請求項1又は2記載のポリエステル系合成繊維用処理剤。
【請求項4】
リン酸金属塩が、リン酸水素二金属塩である請求項1〜3のいずれか一つの項記載のポリエステル系合成繊維用処理剤。
【請求項5】
アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を40〜80質量%、界面活性剤を20〜59.99質量%及びリン酸金属塩を0.01〜1.0質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る請求項1〜4のいずれか一つの項記載のポリエステル系合成繊維用処理剤。
【請求項6】
アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を50〜70質量%、界面活性剤を29.5〜49.5質量%及び下記のリン酸金属塩を0.01〜0.50質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る請求項1〜5のいずれか一つの項記載のポリエステル系合成繊維用処理剤。
【請求項7】
ポリエステル系合成繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維である請求項1〜6のいずれか一つの項記載のポリエステル系合成繊維用処理剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つの項記載のポリエステル系合成繊維用処理剤を、ポリエステル系合成繊維に対し0.01〜0.5質量%となるよう付着させることを特徴とするポリエステル系合成繊維の処理方法。
【請求項9】
請求項8記載のポリエステル系合成繊維の処理方法により得られることを特徴とするポリエステル系合成繊維。
【請求項10】
ポリエステル系合成繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維である請求項9記載のポリエステル系合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系合成繊維用処理剤、かかる処理剤を用いるポリエステル系合成繊維の処理方法及びかかる処理方法により得られるポリエステル系合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系合成繊維用処理剤として、アルキルリン酸エステルのカリウム塩及びアルキルアミン類を特定割合で含有して成るもの(例えば、特許文献1参照)、有機リン酸エステル塩及びオキシアルキレンポリマーを特定割合で含有して成るもの(例えば、特許文献2参照)、アルキルリン酸エステルのカリウム塩、パラフィンワックス及び乳化剤を特定割合で含有して成るもの(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。しかし、これら従来のポリエステル系合成繊維用処理剤には、ポリエステル系合成繊維の製造工程における延伸時に延伸性不良による糸切れがしばしば起こるという問題があり、また近年の紡績工程の高速化に対応できず、練条工程にてスカムが堆積したり、加工工程で白粉発生を伴う糸切れや糸品位低下が起こり、更に長期在庫に伴う繊維強度の低下が起こるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−224867号公報
【特許文献2】特開平3−174067号公報
【特許文献3】特開平6−108361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、ポリエステル系合成繊維の製造工程における延伸性不良、練条工程でのスカム堆積、加工工程での糸品位低下、更には長期在庫に伴う繊維強度の低下等を抑制できるポリエステル系合成繊維用処理剤、かかる処理剤を用いるポリエステル系合成繊維の処理方法及びかかる処理方法により得られるポリエステル系合成繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定の3成分を特定割合で含有して成るポリエステル系合成繊維用処理剤が正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、分子中に炭素数12〜22のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を40〜80質量%、下記の界面活性剤を20〜59.99質量%及び下記のリン酸金属塩を0.01〜3.0質量%(合計100質量%)の割合で含有して成り、アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩の酸価が0.1〜90KOHmg/gであるポリエステル系合成繊維用処理剤に係る。また本発明は、かかるポリエステル系合成繊維用処理剤を用いるポリエステル系合成繊維の処理方法、かかる処理方法により得られるポリエステル系合成繊維に係る。
【0007】
界面活性剤:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルアミノエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテルと無機酸との塩及びポリオキシアルキレンアルケニルアミノエーテルと無機酸との塩から選ばれる少なくとも一つ
【0008】
リン酸金属塩:リン酸水素二金属塩及びリン酸三金属塩から選ばれる少なくとも一つ
【0009】
先ず、本発明に係るポリエステル系合成繊維用処理剤(以下、本発明の処理剤という)について説明する。本発明の処理剤に供する分子中に炭素数12〜22のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩としては、ドデシルリン酸エステルアルカリ金属塩、トリデシルリン酸エステルアルカリ金属塩、ミリスチルリン酸エステルアルカリ金属塩、ヘキサデシルリン酸エステルアルカリ金属塩、オクタデシルリン酸エステルアルカリ金属塩、イソステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩、ドコシルリン酸エステルアルカリ金属塩等が挙げられるが、なかでもヘキサデシルリン酸エステルアルカリ金属塩、オクタデシルリン酸エステルアルカリ金属塩等の、アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩中のアルキル基が炭素数16〜18のものが好ましい。これらのアルキルリン酸エステルアルカリ金属塩は脂肪族1価アルコールと無水リン酸に代表されるリン酸化剤との反応、及びその後のアルカリ金属水酸化物との中和反応により合成されるが、用いる脂肪族1価アルコールは単一成分でも2種以上の成分の混合物でもよい。また一般にアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩は、モノエステル、ジエステル及びP−O−P結合を含むポリ体からなる混合物であるが、その構成比率は特に制限されない。またアルカリ金属塩としてはカリウム塩が好ましい。合成原料に含まれる不純物については、一般的な原料規格内であれば許容される。かかる不純物としては例えば、水酸化カリウムに含まれるナトリウム成分、リン酸化剤の一つである無水リン酸に含まれる重金属やヒ素化合物等の各種不純物及び副生物が挙げられる。
【0010】
本発明の処理剤に供するアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩は、その酸価が0.1〜90KOHmg/gのものであるが、なかでも0.l〜80KOHmg/gのものが好ましい。アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩の酸価が高すぎると、乳化不良が起こり易く、逆に酸価が0であると、繊維強度の経時低下が起こり易い。本発明において酸価とは、アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩をエタノール/キシレン=1/2(容量比)の混合溶媒に溶解し、電位差滴定装置にセットして、0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液で滴定し、下記の数1から算出される値である。
【0011】
【数1】
【0012】
数1において、
f:0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液のファクター
S:試料採取量(g、固形分換算量)
R:変曲点までの0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液の使用量(mL)
【0013】
本発明の処理剤に供する界面活性剤としては、1)2−エチルヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の炭素数8〜18の飽和又は不飽和の脂肪族1価アルコールにアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)エーテル、2)カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸、リシノール酸等の炭素数8〜18の飽和又は不飽和の脂肪酸にアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)エステル、3)オクチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノールにアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、4)オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等の炭素数8〜18の飽和又は不飽和の脂肪族アミンにアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)アミノエーテル、5)前記4)のようなポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)アミノエーテルとリン酸の塩等が挙げられる。以上例示したいずれについても、ポリオキシアルキレン基としては、特に制限するものではないが、オキシアルキレン単位の数が2〜150のものが好ましく、またオキシアルキレン単位がオキシエチレン単位のみ又はオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とが好ましい。
【0014】
本発明の処理剤に供するリン酸金属塩は、リン酸水素二金属塩及びリン酸三金属塩から選ばれる少なくとも一つである。具体的にリン酸水素二金属塩としては、リン酸水素二カリウム塩等が挙げられ、リン酸三金属塩としては、リン酸三カリウム塩が挙げられる。なかでもリン酸金属塩としては、リン酸水素二カリウム塩等のリン酸水素二金属塩が好ましい。
【0015】
本発明の処理剤は、前記した分子中に炭素数12〜22のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を40〜80質量%、前記した界面活性剤を20〜59.99質量%及び前記したリン酸金属塩を0.01〜3.0質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものであるが、なかでもアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を40〜80質量%、界面活性剤を20〜59.99質量%及びリン酸金属塩を0.01〜1.0質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましく、アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を50〜70質量%、界面活性剤を29.5〜49.5質量%及びリン酸金属塩を0.01〜0.50質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものがより好ましい。
【0016】
次に本発明に係るポリエステル系合成繊維の処理方法(以下、本発明の処理方法という)について説明する。本発明の処理方法は、本発明の処理剤をポリエステル系合成繊維に対し0.01〜0.5質量%となるよう付着させる方法である。付着工程は、紡糸工程、延伸工程、捲縮工程等のいずれでも良いが、紡糸工程、捲縮工程の前又は捲縮工程の後に付着させるのが好ましい。付着方法としては、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられるが、浸漬給油法、スプレー給油法又はローラー給油法が好ましい。
【0017】
最後に本発明に係るポリエステル系合成繊維(以下、本発明の合成繊維という)について説明する。本発明の合成繊維は、本発明の処理方法により得られるポリエステル系合成繊維である。本発明において、ポリエステル系合成繊維種としては、ポリエチレンテレフタレート繊維やポリトリメチレンテレフタレート繊維等が挙げられるが、なかでもポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明した本発明によると、ポリエステル系合成繊維の製造工程における延伸性不良、練条工程でのスカム堆積、加工工程での糸品位低下、更には長期在庫に伴う繊維強度の低下等を抑制できるという効果がある。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0020】
試験区分1(ポリエステル系合成繊維用処理剤の5%水性液の調製)
・ポリエステル系合成繊維用処理剤(実施例1)の5%水性液の調製
オクタデシルリン酸エステルカリウム塩(酸価が10KOHmg/g)(A−1)69.5部、α−ノニルフェニル−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)(nはオキシエチレン単位の数、以下同じ)/α−ドデシルアミノ−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)=70/30(質量比)の混合物(B−1)30.0部及び燐酸水素二カリウム塩(C−1)0.5部を、80℃に加熱した所定量の半量のイオン交換水中へプロペラで撹拌下に加えて完全に溶解させた。溶解後、残りの半量のイオン交換水を一気に加えて均一になるまで撹拌し、ポリエステル系合成繊維用処理剤(実施例1)の5%水性液を調製した。
【0021】
・ポリエステル系合成繊維用処理剤(実施例2〜14及び比較例1〜8)の5%水性液の調製
ポリエステル系合成繊維用処理剤(実施例1)の5%水性液の調製と同様にして、ポリエステル系合成繊維用処理剤(実施例2〜14及び比較例1〜8)の5%水性液を調製した。各例で調製したポリエステル系合成繊維用処理剤の内容を表1にまとめて示した。
【0022】
【表1】
【0023】
表1において、
A−1:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩(酸価が10KOHmg/g)
A−2:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩(酸価が3KOHmg/g)
A−3:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩(酸価が90KOHmg/g)
A−4:オクタデシルリン酸エステルカリウム塩(酸価が25KOHmg/g)
A−5:セトステアリルリン酸エステルカリウム塩(酸価が5KOHmg/g)
A−6:ドデシルリン酸エステルカリウム塩(酸価が20KOHmg/g)
a−1:オクチルリン酸エステルカリウム塩(酸価が20KOHmg/g)
B−1:α−ノニルフェニル−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)/α−ドデシルアミノ−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)=70/30(質量比)の混合物
B−2:α−ドデシル−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)/α−ドデシル−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=5)(ポリオキシプロピレン)(m=5)/α−ドデシルアミノ−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)=25/25/50(質量比)の混合物(mはオキシプロピレン単位の数)
B−3:α−ドデシル−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)/α−ドデシルアミノ−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)の燐酸塩=50/50(質量比)の混合物
B−4:ヤシ脂肪酸−ポリオキシエチレン(n=10)/α−ドデシルアミノ−ω−ヒドロキシ(ポリオキシエチレン)(n=10)=50/50(質量比)の混合物
b−1:ポリエチレングリコール(数平均分子量が1000)
C−1:燐酸水素二カリウム塩
C−2:燐酸三カリウム塩
【0024】
試験区分2(ポリエステル系合成繊維用処理剤の5%水性液の安定性の評価)
試験区分1で調製した各例のポリエステル系合成繊維用処理剤の5%水性液について、肉眼観察によりその安定性を下記の基準で評価した。結果を表2にまとめて示した。
【0025】
安定性の評価基準
○○○:全く潤みがなく、安定性極めて良好
○○:僅かに潤みはあるが、安定性良好
○:少し潤みはあるが、全体として安定性良好
×:沈殿及び浮遊物が発生しており、安定性不良
【0026】
試験区分3(ポリエステルステープル繊維への処理剤の付着とその評価)
・ポリエステルステープル繊維への処理剤の付着
試験区分1で調製したポリエステル系合成繊維用処理剤の5%水性液を水希釈して2%水性液とした。この2%水性液を、製綿工程で得られた繊度1.3×10−4g/m(1.2デニール)で繊維長38mmのセミダルのポリエステルステープル繊維に、付着量が0.15%となるようスプレー給油法で付着させ、80℃の熱風乾燥機で2時間乾燥した後、25℃×40%RHの雰囲気下に一夜調湿して、ポリエステル系合成繊維用処理剤を付着させた処理済みポリエステルステープル繊維を得た。
【0027】
・練条工程での耐スカム堆積性の評価
前記の処理済みポリエステルステープル繊維10kgを用い、フラットカード(豊和工業社製)に供してカードスライバーを得た。得られたカードスライバーを、30℃で70%RHの雰囲気下にPDF型練条機(石川製作所社製)に供し、紡出速度=250m/分の条件で5回繰り返して通過させた。PDF型練条機のゴムローラー、レジューサー及びトランペットの各部分におけるスカムの程度を以下の基準で肉眼判定した。結果を表2にまとめて示した。
【0028】
耐スカム堆積性の評価基準
○○○:全くスカムの堆積が認められない
○○:僅かにスカムの堆積が認められるが、問題ない
○:少しスカムの堆積が認められるが、全体として問題ない
×:明らかにスカムの堆積が認められ、スライバー巻きつきが生じ、問題がある
【0029】
・糸品位の評価
前記の処理済みポリエステルステープル繊維10kgを用い、フラットカード(豊和工業社製)に供してカードスライバーを得た。得られたカードスライバーをPDF型練条機(石川製作所製)及び粗紡機(豊田自動織機社製)に供して粗糸を得た。得られた粗糸をリング精紡機(豊田自動織機社製)に供し、スピンドル回転数=20000rpm、撚り数775T/m、供給粗糸=0.59g/m、トータルドラフト=40倍の条件で2時間、20錘で運転し、アンチノードリングへの白粉堆積を肉眼観察して、糸品位を以下の基準で評価した。結果を表2にまとめて示した。
【0030】
糸品位の評価基準
○○○:白粉堆積が認められず、繊維損傷も殆ど無く、糸品位は極めて良好
○○:僅かに白粉堆積が認められ、僅かに繊維損傷があるが、糸品位は良好
○:少し白粉堆積が認められ、少しの繊維損傷があるが、全体として糸品位は良好
×:白粉堆積が多く認められ、繊維損傷も多く認められて、糸品位は不良
【0031】
・繊維強度の評価
前記の処理済みポリエステルステープル繊維について、初期強度と、30℃で70%RHの雰囲気下に3カ月間保管した後の強度を強伸度測定機にて測定した。3カ月後の強度を初期強度比較することにより、繊維強度を以下の基準で評価した。結果を表1にまとめて示した。
【0032】
繊維強度の評価基準
○○○:初期強度に対して98%以上の強度
○○:初期強度に対して97%以上98%未満の強度
○:初期強度に対して95%以上97%未満の強度
×:初期強度に対して95%未満の強度
【0033】
・延伸性の評価
試験区分1で調製したポリエステル系合成繊維用処理剤の5%水性液を水希釈して1%水性液とした。離間して軸受した上流側のフリーローラと下流側のフリーローラとの間に、容器に収容した円筒状の摩擦体を配置し、容器内に前記の1%水性液を満たした。脱脂したポリエステルフィラメント(120デニール/36フィラメント)を、上流側のフリーローラと下流側のフリーローラとでガイドしつつ、1%水性液に完全に浸した摩擦体に接触させ、低速ワインダーにより50m/分の速度で引っ張った。このときの上流側のフリーローラの直前の張力T1と、下流側のフリーローラの直後の張力T2を求め、T2/T1を算出し、延伸性を下記の基準で評価した。結果を表2にまとめて示した。
【0034】
延伸性の評価基準
○○○:T2/T1=6.00未満
○○:T2/T1=6.00以上6.10未満
○:T2/T1=6.10以上6.30未満
×:T2/T1=6.30以上







【0035】
【表2】
【0036】
表1に対応する表2の結果からも明らかなように、本発明によれば、ポリエステル系合成繊維の製造工程における延伸性不良、練条工程でのスカム堆積、加工工程での糸品位低下、更には長期在庫に伴う繊維強度の低下等を抑制できるという効果がある。
【要約】
【課題】ポリエステル系合成繊維の製造工程における延伸性不良、練条工程でのスカム堆積、加工工程での糸品位低下、更には長期在庫に伴う繊維強度の低下等を抑制できるポリエステル系合成繊維用処理剤、かかる処理剤を用いるポリエステル系合成繊維の処理方法及びかかる処理方法により得られるポリエステル系合成繊維を提供する。
【解決手段】ポリエステル系合成繊維用処理剤として、分子中に炭素数12〜22のアルキル基を有するアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を40〜80質量%、特定の界面活性剤を20〜59.99質量%及び特定のリン酸金属塩を0.01〜3.0質量%(合計100質量%)の割合で含有して成り、アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩の酸価が0.1〜90KOHmg/gであるものを用いた。
【選択図】なし