(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
継手本体の内周面に被接続管の外周面に挿入するパッキンを装着し、前記継手本体に螺合させた袋ナットの内周面の奥側と開口側に二段のテーパ角度を有する内周テーパ面を形成し、奥側の内周テーパ面の勾配角を開口側の内周テーパ面の勾配角より小さくすると共に、前記内周テーパ面に前記ロックリングを装着して前記袋ナットの締結時に前記ロックリングを被接続管の外周面に喰い込ませることにより被接続管の引き抜きを阻止した請求項1に記載のロックリングを用いた継手。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、伸縮可撓性継手にパイプを接合する際には、溝付き又は溝なし用の継手に対して誤ったタイプのパイプを接合することがあり、特に、溝付きタイプの継手に対して溝なしのパイプを接続する誤りが発生することが少なくない。この場合には、溝なしパイプと袋ナットとの間にロックリングが強く挟着され、このロックリングが所定の位置に配置されず変形して損壊するおそれがあった。ロックリングが損壊した場合、例えば、
図11の継手においても要求される引抜阻止力や可撓性を発揮することができなくなる。
【0008】
しかも、このようなロックリングの破壊が想定されるにもかかわらずロックリングの強度が不十分である。このロックリングは、切り割り部と樹脂の弾性とによってリング部材が拡径するようになっており、パイプを挿入してリング部材が拡径するときの抵抗を低減するために、特許文献1の引抜阻止部材において、交互に設けられた切り割り部が反対側の半割体まで差し掛かった形状とすることで割れ易くなっている。
【0009】
同文献2の伸縮可とう式継手においては、ボールガイドの外周にスナップリングが嵌着されているため部品点数が多くなり、組立て工数も増加する。これに加えて、スナップリングが袋ナット内周のテーパ面に接する部位に配置されてしまうため、袋ナットの締め込みやパイプに引き抜き力が加わった際に、ボールガイドの縮径に支障が生ずるおそれもあった。
【0010】
本発明は、上記の課題点を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、溝付きと溝なしの双方の被接続管の接続に使用できる継手用ロックリングであって、何れの場合にも損壊を防ぎつつ継手と被接続管とを強固に接合でき、被接続管の挿入も容易で引抜阻止力を安定させた継手用ロックリングとこれを用いた継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、環状のボールリテーナの円周上に、
等間隔で、かつ巾方向中央位置に埋設した複数個のボールを求心方向
に突設させ、前記ボールリテーナの
外周面の中央位置から両側の巾方向に沿って同一の勾配角を有する傾斜面をそれぞれ形成し、かつそれぞれの傾斜面の勾配角を継手用袋ナットの内周面の開口側のテーパ面より小角度に形成した奥側のテーパ面と略同等とし、前記ボールリテーナの隣接するボール同士間に両端部より交互に切込部を設け、この切込部の切込み深さは、前記傾斜面の一方の傾斜面の長さに形成して前記ボールリテーナの環状外周面の中央位置までの深さとし、前記ボールリテーナの環状内周面の両端部にそれぞれ両端に向って被接続管案内用の縮径状のテーパ面を設けると共に、前記切込部の一つに
前記ボールリテーナの端部に向って切込みを
続けて設けることにより前記切込部と同等の巾を有し、かつ切り離した開口部を形成した継手用ロックリングである。
【0015】
請求項
2に係る発明は、継手本体の内周面に被接続管の外周面に挿入するパッキンを装着し、継手本体に螺合させた袋ナットの内周面の奥側と開口側に二段のテーパ角度を有する内周テーパ面を形成し、奥側の内周テーパ面の勾配角を開口側の内周テーパ面の勾配角より小さくすると共に、内周テーパ面にロックリングを装着して袋ナットの締結時にロックリングを被接続管の外周面に喰い込ませることにより被接続管の引き抜きを阻止したロックリングを用いた継手である。
【0016】
請求項
3に係る発明は、
奥側の内周テーパ面
と開口側の内周テーパ面とがなす勾配角を2°〜5°の範囲内として、溝付きと溝なしのいずれかの被接続管の締結時に袋ナットの締結によりボールリテーナを縮径して、ボールを開口側の内周テーパ面から奥側の内周テーパ面に移動させるようにしたロックリングを用いた継手である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、ボールリテーナの隣接するボール同士間に両端部より交互に切込部を設けるとともに、切込部の一つに切込みを設けて開口部を形成しているので、この開口部によりボールリテーナに切込部のみを形成した場合よりも大きく縮径させて溝付きと溝なしの双方のタイプの被接続管の接続に使用することができる。しかも、何れのタイプの被接続管を接続する場合であっても、ボールリテーナがその傾斜面の勾配角により継手用袋ナットの奥側の内周テーパ面の位置に収まるため、損壊を生じさせることなく継手とパイプとを強固に接続でき、ボールリテーナがパイプの挿入時に拡径方向に変形しやすいことから、パイプの挿入も容易となる。
【0024】
しかも、切込部の切込み深さを環状外周面の略中央位置までの深さとすることで全体を左右対称形状にでき、双方向の利用が可能になることで組込みミスを回避することができる。締結時においては、全体の強度を維持して引きちぎれなどの損壊を防ぐことができる。
特に、成形時と被接続管(パイプ)接合前のロックリングは略真円状を呈し、ロックリングを拡径すると、開口部を基点としてその円周方向に沿って拡径されるので、溝なし又は溝ありのパイプに確実に接合可能であり、ロックリングの縮径時に開口部を含めた切込部が均等に狭ってボール同士の巾も均等に狭まりながら縮径するので、パイプの撓みを吸収すると同時に確実に伸縮機能を発揮されると共に、ロックリングの剛性が高く、使用時に損傷することなく、ロックリングの拡縮時の応力を緩和することができ、もって、溝付き溝なしの双方の被接続管に適用できる。
【0025】
さらに、被接続管の挿入時にこの被接続管の先端が環状内周面に当接したときにこの先端をテーパ面に案内することで容易に挿入することができるため施工性の向上を図ることできる。
【0027】
また、袋ナットの締結時にボールリテーナを開口側内周テーパ面から奥側内周テーパ面まで案内して縮径させて、溝付きと溝なしの何れの被接続管の場合でも損壊を伴うことなくこの被接続管を挿入しながら強固に接続できる。外力によるパイプの軸方向と横方向の変動を吸収して優れた伸縮可撓性を発揮でき、パイプの抜け止めを図りながらシール性を向上させながら被接続管を接続できる。
【0028】
所定の勾配角による二段の内周テーパ面を設けることで、溝付きと溝なしの何れのタイプの被接続管の場合にも接続管への引張力に応じてテーパ面に沿ってボールリテーナを縮径させて適切な状態で接続できるため接合時の施工性が高まり、締結完了時には被接続管を確実に所定の抜け止め状態にして強い抜け止め性を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明における継手用ロックリングとこれを用いた継手の実施形態を
図1乃至
図10に基づいて詳細に説明する。
図1においては、本発明の継手用ロックリングの側面図、
図2には継手用ロックリングの断面図を示している。
【0036】
先ず、
図1において、本発明におけるロックリング本体10は、環状外周面11を有するボールリテーナ12、複数個のボール13を有し、ボールリテーナ12の円周上に略等間隔でボール13が求心方向に突設状態で埋設されている。本例において、18個のボール13が等間隔に配設され、ポリアセタールなどの合成樹脂材よりなるボールリテーナ12に一体に設けられている。ボール13の個数は限定されない。
【0037】
ボールリテーナ12の隣接するボール13同士間には両端部14、14より交互に切込部15が設けられ、この切込部15の一つに端部に向かって切込みを設けて切り離した開口部16が形成されている。
図2に示すように、切込部15の切込深さDは、本例では、ボールリテーナ12の環状外周面11の略中央位置までの深さである。
【0038】
図2、
図7に示すように、ボールリテーナ12の外周面11の略中央位置には、この略中央位置から両側の巾方向に沿うように傾斜面17が形成されている。この傾斜面17は、管軸Pの方向から傾斜する所定の勾配角θを有し、この勾配角θは、後述する継手用袋ナット18の内周側に形成された内周テーパ面20である奥側の内周テーパ面21、開口側の内周テーパ面22のうち、締付完了時の内周テーパ面である奥側内周テーパ面21と略同等の角度に設けられている。
また、ボールリテーナ12の環状内周面23の両端部においては、所定角度のテーパ面24が形成されている。
【0039】
ロックリング本体10は、ボールリテーナ12の開口部16を基点としてボールリテーナ12の円周方向に沿って開口部16が成形されている。具体的には、開口部が開放された状態でロックリング本体10を成形する際に、ステンレス製のボール13により冷却機能があることで樹脂製ボールリテーナ12の内側が冷やし固められ、その段階でまだ固まっていない外側にボールリテーナ12が拡径される。これにより、被接続管の挿入が容易となる。
【0040】
一方、
図3に示すように、ロックリング本体10において、開口部16を必要以上に拡がらないよう部分的につなげた形状に成形冷却して連結部(繋ぎ部)19を設けるようにしてもよい。連結部19は、管挿入時に開口部16が切り離されるようになっており、これによってボールリテーナ12の必要以上の拡径を抑えることが可能になる。連結部19は、ロックリング本体10の装着後に切断可能な細さによりボールリテーナ12と一体に成形され、開口部16において対向する端面間に設けられている。従って、部品点数が増加することがなく、ボールリテーナ12の縮径作用の支障になることもない。
【0041】
開口部16の周方向の巾は切込部15と同等に成形され、成形時のロックリング本体10は、
図1に示すように略真円状を呈している。これにより、ロックリング本体10のボール13と被接続管25の位置は、
図8に示す状態となる。被接続管26をロックリング本体10に内挿してロックリング本体10が拡径する際には、開口部16の周方向の巾は切込部の2倍以上となる。この拡径の際には連結部19が切断されてもよく、すなわち、連結部19は、少なくともロックリング本体10の成形時に存在していればよい。
【0042】
ロックリング本体10は、上記のような構成によって継手内に設けられ、このロックリング本体10を介して継手にステンレス鋼管からなる溝付きの被接続管25、溝なしの被接続管26が接合可能に設けられている。
【0043】
上記継手は、継手本体30、袋ナット18、パッキン32、Oリング33、ダストシール34を有しており、これらとともに前述したロックリング本体10が継手内部に装着される。この継手は、溝付き被接続管25、或は溝なし被接続管26の各タイプの被接続管の接続用として兼用可能になっている。
【0044】
この継手において、継手本体30と袋ナット18は、ステンレス鋼等により形成され、継手本体30は、被接続管25、26の外径よりも大きい径に形成され、
図4に示すように両端側には拡径部35、35が形成され、この拡径部35、35の内周面にテーパ面36とフラット面37とが設けられている。継手本体30の外周端部には、袋ナット18の内周側に設けられためねじ部38に螺合可能なおねじ部39が設けられている。継手本体30の内周面には、被接続管25、26の外周面に挿入するパッキン32が装着される。
【0045】
図5に示すように、袋ナット18の内面には、前記めねじ部38に続けて係合面47が形成され、最も奥側には鍔部42、装着溝43が設けられている。前述したように、
図6において袋ナット18の内周には奥側内周テーパ面21と開口側内周テーパ面22とからなる二段のテーパ角度を有する内周テーパ面20が形成され、この内周テーパ面20にロックリング本体10が装着される。内周テーパ面20において、奥側内周テーパ面21と管軸Pとがなす勾配角α
1は、開口側内周テーパ面22と管軸Pとがなす勾配角α
2より小さく形成される。
袋ナット18を継手本体30に締結した際には、ロックリング本体10を被接続管25、26の外周面に喰い込ませることにより、これらの被接続管25、26の引き抜きが阻止される。
【0046】
図6に示すように前記二段の内周テーパ面20において、奥側内周テーパ面21と開口側内周テーパ面22とがなす勾配角βを2°〜5°の範囲とし、溝付き被接続管25と溝なし被接続管26の双方の被接続管の締結時には、袋ナット18の締結によりボールリテーナ12を縮径して、ボール13を開口側の内周テーパ面22から奥側の内周テーパ面21に移動させるようになっている。内周テーパ面20において、例えば、奥側内周テーパ面21の勾配角α
1を11°としたときには、開口側テーパ面22の勾配角α
2を13°〜16°とすることが望ましく、本実施形態では、この勾配角を14°に設けている。更に、二段の内周テーパ面21の間の勾配角βが2°〜5°の範囲内であれば、奥側内周テーパ面21、開口側内周テーパ面22の各勾配角α
1、α
2を変更することもできる。本実施形態においては、勾配角βを2°〜3°に設定している。
【0047】
更に、奥側内周テーパ面21から鍔部42にかけては、管軸Pから略45°の傾斜角度γで傾斜部45が設けられている。傾斜部45がこのような傾斜角度γで設けられていることで、ロックリング本体10の合成樹脂部分であるボールリテーナ12がこの部分に当接したときにはこのボールリテーナ12部分をダストシール34側に逃す役割を発揮し、ボール13が鍔部42に係止されることにより、引き抜き阻止力の向上を図ることが可能になる。
【0048】
パッキン32は、ゴム等の弾性環状部材からなり、継手本体30に設けられたテーパ面36とフラット面37の拡径部35とに当接する外周面46を有している。このパッキン32を装着することで、被接続管25、26を接合したときに、この被接続管25、26が可撓性を持った状態で支持される。袋ナット18に設けられた係合面47とパッキン32との間にはワッシャ49が装着され、このワッシャ49の外周側にOリング33が装着されている。このOリング33により、継手本体30と袋ナット18との間のシール性が発揮される。
【0049】
ダストシール34は、袋ナット18の装着溝43に装着される。このダストシール34により被接続管25、26と袋ナット18との間のシール機能が発揮され、この部分から被接続管25、26と袋ナット18との間へのダストの浸入等が防がれる。
【0050】
上記した継手に溝付き被接続管25を接続する場合には、この被接続管25の切断する範囲に傷や変形のないことを確認し、図示しないロータリーチューブカッター等の工具によってこの被接続管25を切断する。そして、被接続管25の内外面に付着しているゴミや異物などをウエス等で拭き取った後に、溝付け位置に図示しないペン等で印をつける。その後、図示しない専用の溝付け工具を使用して印をつけた位置に、例えば、深さ0.75mm程度の所定深さの溝50を形成する。
【0051】
袋ナット18においては、この袋ナット18内の内周テーパ面20にロックリング本体10を挿入し、その上からOリング33、係合面47に係合させるようにこの袋ナット18内にワッシャ49を装着する。このとき、ロックリング本体10は、ボールリテーナ12の外周面側の略中央位置から両側の巾方向に沿って左右対称形状の傾斜面17が形成されているので、双方向の利用が可能になっている。これにより、装着方向にこだわることなく組込みミスを防ぎながらロックリング本体10を装着できる。
【0052】
継手本体30においては、拡径部35内にパッキン32を装着する。この場合、継手本体30に対して奥側までパッキン32を挿入する必要はない。この継手本体30と袋ナット18とを、おねじ部38とめねじ部39とを螺合させるより一体の仮組み状態に組み込むようにする。
【0053】
この継手に対して、溝付き被接続管25を継手のダストシール34側から差し込むようにする。その際、継手本体30に対して図示しないねじ山のねじが1〜2山程度ねじ込まれた状態まで袋ナット18を緩めておく。この被接続管25の差し込み時には、継手の奥まで差し込んだ後に引き抜くようにし、引き抜き音と同時にボール13が溝50に嵌り込んで被接続管25が抜けなくなることを確認する。
【0054】
このように溝付き被接続管25を継手本体30に差し込んだときには、
図8に示すように溝50がボール13の位置に達したときにボールリテーナ12がその弾性力により縮径して上記のようにボール13が溝50に収まることになる。この場合、ロックリング本体10の傾斜面17が締付完了時の内周テーパ面である奥側内周テーパ面21に位置し、この状態から継手本体30に袋ナット18を締結させてロックリング本体10の締付けをおこなうようになっている。
【0055】
一方、継手本体30に溝なし被接続管26を接続する場合にも、溝付きの場合と同様に切断する範囲に傷や変形のないことを確認した後に、ロータリーチューブカッター等の工具でこの被接続管を切断する。そして、内外面に付着しているゴミや異物などをウエス等で拭き取った後に差込み長さを確認する位置にペン等で図示しない確認線をつける。
【0056】
この溝なし被接続管26を、溝付きの場合と同様に、袋ナット18のねじが1〜2山程度緩められた継手本体30に差し込むようにする。その差し込み時には、差込み長さ確認線を袋ナット18の端面に合わせる位置まで被接続管26を差し込むようにする。
【0057】
このように溝なし被接続管26を継手本体30に差し込んだときには、
図9に示すようにボール13が溝50に収まることがなく、ロックリング本体10の傾斜面17が開口側内周側テーパ面22に位置した状態になる。この状態から継手本体30に袋ナット18を締結させて、ロックリング本体10の締付けをおこなうようになっている。
【0058】
上記の継手への差し込み時においては、溝付き被接続管25、或は溝なし被接続管26の何れの場合にも、ボールリテーナ内周面23の両端部にテーパ面24を設けていることにより、被接続管25、26の管端部25a、26aがボールリテーナ12に差し掛かったときにこの管端部25a、26aをテーパ面24に案内しやすくなるため、被接続管25、26を容易に挿入できる。
【0059】
被接続管25、26を挿入し、この被接続管25、26がボール13の内側を乗り越えるときは、ロックリング本体10がボールリテーナ12の開口部を基点とし円周方向に沿ってその弾力性により拡径される。ロックリング本体10が拡径される時、ボール13を被接続管25に密着させることが望ましい。そのため、前述したように開口部を部分的につなげた形状に成形することで必要以上の拡径を防止できるため、特に、溝付けの施工をする際に被接続管25を継手に挿入し、この被接続管25を引き戻すときに溝にボール13が納まり、被接続管25が抜けるということがなく施工性の向上を図ることができる。
【0060】
続いて、これらの仮組みの状態から袋ナット18を締結する。溝付き被接続管25を差し込んだ継手の袋ナット18を締結する場合には、ロックリング本体10と溝50がずれない程度に袋ナット18を手で締め付け、次いで、図示しないパイプレンチなどを使用して回転不能となる状態までこの袋ナット18を締付けるようにする。
【0061】
このとき、奥側内周テーパ面21の勾配角α
1とボールリテーナ12の勾配角θが略同等になっていることにより、ロックリング本体10が袋ナット18により内周方向に押付けられる。
図5に示すように、締付け後のロックリング本体10の収まり位置は、締付け前の位置と同じになっており、切込部15と開口部16とを介してボールリテーナ12が縮径することにより、ボール13が溝50に嵌り込んで被接続管25が接続される。
【0062】
一方、溝なし被接続管26を差し込んだ継手の袋ナット18を締結する場合、差し込み長さ確認線の位置がずれない程度にこの袋ナット18を手で締め付け、次いで、パイプレンチなどで回転不能状態まで締付ける。この際、継手本体30が袋ナット18とともに回転しないように注意する。
【0063】
このときには、袋ナット18の軸方向への移動によって、ボールリテーナ12が開口側内周テーパ面22から奥側内周テーパ面21の勾配角α
1に接しながら滑り移動する。そして、ロックリング本体10がこの奥側内周テーパ面21の形状に沿って縮径し、勾配角α
1に収まるように変形することで被接続管26を接続できる。ボール13は、ロックリング本体10の縮径変形により溝50を形成しながら被接続管26に嵌り込むようになっている。このように、溝なし被接続管26の場合においても、溝付き被接続管25の場合と同様に、袋ナット18を締結するだけで接続することが可能になっている。
【0064】
図4においては、継手と被接続管25或は26との接続状態を示している。図に示すように、両側に接続部位を有する継手を用いて被接続管25或は26をそれぞれ接続することもでき、この場合にも上記と同様の手順によって継手の両側に被接続管25或は26を1つずつ接続できる。
【0065】
図10においては、継手に引抜荷重による負荷が加わった場合のボール13の移動を示している。継手に引抜荷重が加わった場合、先ず、ボール13が鍔部42まで移動し、この鍔部42の略45°の傾斜角度γを有する傾斜部45に樹脂であるボールリテーナ12が変形しながら当たってダストシール34側に逃げるように移動する。そして、ボール13が鍔部42に到達するとこの鍔部42を乗り越えてダストシール34の隙間に移動する。このとき、ボール13がダストシール34の隙間部分に移動するときの荷重が最大引抜荷重となる。また、ボール13がダストシール34の隙間に移動することでロックリング本体10が抜け出ず、管端が抜けるまで引抜荷重を維持することができる。
【0066】
本発明のロックリングは、ボールリテーナ12の円周上に埋設した複数個のボール13を求心方向へ突設させ、ボール13同士間に両端部14、14より交互に切込部15を設けるとともに、この切込部15の一つに開口部16を形成し、ボールリテーナ12の外周面の略中央位置から傾斜面17を形成し、この傾斜面17の勾配角θを締付終了時のテーパ面である奥側内周テーパ面21の勾配角α
1と略同等としているので、溝付き被接続管25、溝なし被接続管26の何れの場合であっても、これらを継手に接続できる。しかも、開口側と奥側との二段の内周テーパ面21、22を有する内周テーパ面20により、袋ナット18の締結時に被接続管25、26の外周面にロックリング本体10を喰い込ませてこの被接続管25、26の引き抜きを阻止しているので、何れの被接続管25、26の場合にも強固に接続することが可能となり、機能性に優れた継手を設けることが可能になる。
【0067】
しかも、何れの被接続管25、26の場合にも、ロックリング本体10の縮径時にボールリテーナ12の両端部より交互に設けた切込部15の巾が均等に狭まり、かつ、ボール13、13同士の巾が均等に狭まりつつ縮径しながら被接続管25、26が均等に接続されて安定した引張性能を発揮できる。更に、ボール13と被接続管25、26とが点接触するため、これらが互いに可撓性を発揮して被接続管25、26の撓みを吸収すると同時に伸縮機能も有効に発揮される。
【0068】
また、切込部15の切込み深さDをボールリテーナ環状外周面11の略中央位置までの浅い深さとしているので、ロックリング本体10の剛性が高まり、内周テーパ面20による縮径動作によってロックリング本体10が引きちぎれる等の損壊が生じることがない。この切込部の切込深さDにより、ロックリング本体10の金型製作時において、図示しない相互の金型プレートにスリットを形成するためのパーティングラインを超えた当接面が不要になるため、金型の精度を緩和することも可能になる。このため、ロックリング本体10を成形するための型費も安価になる。開口部16を設けていることにより、ボールリテーナ12拡径時の応力を緩和することもできる。
【0069】
袋ナット18の奥側内周テーパ面21から鍔部42にかけて略45°の傾斜角度γを有する傾斜部45を設けていることにより鍔部42の強度が高まって引抜阻止力が安定する。さらに、鍔部42の寸法を調整することによってこの引抜阻止力を向上させることも可能である。
【0070】
次に、他の発明における継手用ロックリングとこれを用いた継手を示した実施形態を
図12乃至
図17に基づいて説明する。なお、
図12〜
図17に示したロックリングと継手は、
図1〜
図10に示したロックリングと継手の同一部分は同一符号を用いて説明の一部を省略する。
【0071】
前述の本発明におけるロックリングは、ボールリテーナ12の開口部16を部分的につなげた形状にしているが、被接続管25,26の挿入時に連結部19が確実に切断されにくいという課題点を有しており、また、施工時のロックリングの位置が不明確な状態で被接続管25,26を挿入することになるので、作業者に不安を与えていた。後述する他の発明は、これらの前述の本発明における課題点を解決するために開発に至ったものである。
【0072】
図13〜
図15において、環状のボールリテーナ12の円周上に略等間隔で埋設した複数個のボール13を求心方向へ突設させ、ボールリテーナ12の隣接するボール13同士間に両端部より交互に切込部15を設け、この切込部15のうちの一つの切込部15を端部に向って切込形成してボールリテーナ12に開口部16を形成し、この開口部16を部分的につなぐための繋ぎ部(連結部)19をボールリテーナ12と一体に形成している。
【0073】
この繋ぎ部19は、
図15に示すように、ボールリテーナ12に埋設したボール13の配列線上に設けて開口部16を繋ぎ形成している。このようにすることによって、ロックリングに方向性がなく、組立て等に便利であると共に、切断する力が確実に伝わりやすくなっている。
【0074】
図16において、ボールリテーナ12の外周面を平面視して繋ぎ部19の両側にV字形又はU字形の溝部51,51を形成している。したがって、被接続管25,26の挿入端面53がロックリングのボール13に接触した時点で、ボールリテーナ12が拡径されて溝部51,51に応力が一点に集中して繋ぎ部19を切断することができる。
【0075】
更に、
図17において、ボールリテーナ12の厚み側を側面視して繋ぎ部19の底部側にV字形又はU字形の溝部52を形成している。この場合、繋ぎ部19の両側の溝部51,51と底部の溝部52を2ヶ所形成しているので、繋ぎ部19の軸方向と外周方向の2ヶ所に応力を集中することができるため、繋ぎ部19よりスムーズに切断することができる。
【0076】
この繋ぎ部19に設けた溝部51,52はV字形が好ましいが、V字形に近いU字形を形成した溝部であっても良い。また、溝部52の厚みは、本例では、ボールリテーナ12の厚みの1/4以下であり、本例によると、溝部51,51のつながっている部分の厚みを0.1〜0.6mmの範囲にすることで容易に切り離すことができ、0.7mm以上になるとスムーズに切断できないことを確認した。
【0077】
図12において、継手本体30の内周面に被接続管25,26の外周面に挿入するパッキン32を装着し、継手本体30に螺合させた袋ナット18の内周面に内周テーパ面20を形成し、この開口側の内周テーパ面22に位置しているロックリングを内蔵した継手に溝付用被接続管25又は溝なしの被接続管26を挿入したとき、被接続管25,26の挿入端面53でロックリングを拡径させて繋ぎ部19を確実に切断させ、安定した引抜阻止力を有することが可能となる。
【0078】
上記のように、繋ぎ部19の切断時における切断音で被接続管25,26の挿入状態を確認するようにしている。したがって、施工者に、正常に挿入されたことを知らせることができ、施工性の向上を図ることができる。
【0079】
次に、
図12に本発明における継手の施工状況を示す。まず、被接続管25,26を継手に接続するとき、溝付け用、溝なし用ともにロックリングの初期位置は、本例では、内周テーパ面22の開口側13°〜16°の勾配角からのスタートとなる。被接続管の端面がロックリングのボール13に接触した時点で、開口部に連結されている部分は、ロックリングが拡径されていることで切断され、切断時は切断音がする。したがって、切断音により被接続管25,26が正常に挿入されたことを施工者に知らせることができ、さらに、ロックリングを対称形状にしたことで、パッキン32、ワッシャと共に部品の方向性がないので、袋ナット18を外し分解した際に、部品の方向性がなくなったことで施工者は部品の組込みを心配することなく、施工性の向上を図ることができる。
【0080】
ところで、被接続管25,26を袋ナット18に挿入するとき、袋ナット18を緩めて被接続管を挿入させるが、袋ナット18を緩めすぎて、継手本体の端面から袋ナット内周テーパ面の始点までの寸法が大きくなると、ロックリングは袋ナット18の開口側に掛からずに隙間に落ち込み被接続管を挿入することができない。前述の寸法が小さくても袋ナット18の開口側にロックリングが掛かりすぎて被接続管の挿入に必要なだけの拡径が得られず、被接続管が挿入できないといった施工者側にとっては施工がしづらい。
【0081】
そこで、袋ナット18の緩め位置が袋ナット18の開口側のテーパ面20にロックリングが掛かった状態で、ロックリングが芯ずれを防止すること、かつ被接続管を挿入するときに必要なだけロックリングを拡径できるようにすることが必要である。
【0082】
そのためには、袋ナット18の最大緩め量を制限し、袋ナット18と継手本体30のおねじ部39の掛かりを1〜1.5山にした状態を被接続管を挿入するための最適状態とする。従って、
図18に示すA寸法の調整が重要となり、ねじ長さを変えたり、またはめねじ部38の入口部分もしくはおねじ部39の先端部にぬすみ部54を入れて調整することが好ましい。
【0083】
すなわち、めねじ部38の入口部分又はおねじ部39の先端部にぬすみ部54を設けることにより、ロックリングが落ち込むところまで袋ナット18を緩めた場合、袋ナット18が外れて施工をできなくすることで、パイプの挿入トラブルを防止できると共に、パイプ挿入の最適な袋ナット緩め位置の範囲を絞り込むことができるため、特に溝付けタイプの場合に、パイプの溝にロックリングの球が嵌った状態で、パイプを引戻す際にロックリングが開口側のテーパ内に収まり固定しやすくなる。
【0084】
継手の製造段階では、
図5に示すように、袋ナット18は継手本体30に充分にねじ込まれた状態をしている。施工時には、
図18、
図19に示すように、被接続管をやや緩めた状態とする。この状態とは、袋ナット18と継手本体30とが外れないように螺合された状態であり、ロックリングは、袋ナット18の内周テーパ面20に掛かる位置に配置されており、ロックリングの外周と袋ナット18の内周テーパ面20との間には、隙間55を有している状態をいう。
【0085】
また、本例において、袋ナット18が継手本体30に外れない状態とは、例えば、継手の呼び径20Aにおいて、ねじの呼び径がM42×2であれば、ねじの掛かりを1〜1.5山に設定している。
【0086】
本例において、袋ナット18の素材を共通しつつ、所定のねじの掛かり、或はA寸法を確保するため、袋ナット18の端部内径を切り欠いて、
図19に示すように、ぬすみ部54を設け、このぬすみ部54の奥側に、めねじ部38を形成している。
【0087】
また、他の発明におけるロックリングを他例のロックリングに応用した一形態を示す。このロックリングは、環状のボールリテーナの円周上に略等間隔で埋設した複数個のボールを求心方向へ突設させ、前記ボールリテーナの巾方向に沿って切り離した開口部を形成して前記リテーナを略C字形状に形成している。さらに、このボールリテーナの外周囲をスナップリング又はゴムリングを嵌着することにより、前記ボールリテーナの開口部を縮径して略円形状の形態に保持するようにしている。この例に示したロックリングのボールリテーナに形成した開口部に、前述の本発明における繋ぎ部を設けることにより、前記のスナップリングやゴムリングを用いることなく本発明と同様の作用効果を得ることが可能である。
【実施例】
【0088】
表1に、開口部16をつなげない状態と部分的につなげた状態の成形後の拡径幅を示す。これより、開口部16をつなげない場合(比較例)とつなげた場合(本発明)で比較すると、約2倍の拡径の差異が確認された。開口部16を部分的につなげることで、ロックリングのボール13は被接続管25,26に密着し、被接続管25に形成した溝にボール13が引っ掛かりやすくなり、施工位置がより明確になるため、この種のロックリングに生じるトラブルを防止できると共に、開口部16を部分的につなげた形状で成形することにより、部品点数や組立て工数の増加を抑えることができる。
【0089】
【表1】
【0090】
以上、本発明における継手用ロックリングとこれを用いた継手の各種の実施形態について詳述したが、本発明は、前記実施の形態記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更ができる。