特許第5797047号(P5797047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797047フライトシミュレーション装置、フライトシミュレーション方法、及びフライトシミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797047
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】フライトシミュレーション装置、フライトシミュレーション方法、及びフライトシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/08 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   G09B9/08
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-164521(P2011-164521)
(22)【出願日】2011年7月27日
(65)【公開番号】特開2013-29602(P2013-29602A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼住 直彦
(72)【発明者】
【氏名】永田 恵嗣
(72)【発明者】
【氏名】田島 稔幸
【審査官】 中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06199030(US,B1)
【文献】 特開2005−189908(JP,A)
【文献】 特開2009−008825(JP,A)
【文献】 特開2002−329158(JP,A)
【文献】 特開2009−031655(JP,A)
【文献】 特開2002−251129(JP,A)
【文献】 特開平05−204296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00
G06F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機動を模擬するフライトシミュレーション装置であって、
シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じた該対象航空機の機動の目的、該目的を達成するための行動計画、及び該行動計画を実行するためのパイロットによる前記対象航空機に対する操縦行動で構成されたデータベースを記憶した記憶手段と、
前記対象航空機の状況に応じて前記対象航空機の機動の前記目的を前記データベースから決定し、決定した前記目的を達成するための前記行動計画を前記データベースから決定し、決定した前記行動計画に応じた前記操縦行動を前記データベースから決定する操縦行動決定手段と、
前記操縦行動決定手段によって決定された前記操縦行動及び予め前記対象航空機毎に設定されている機体諸元に基づいて、前記対象航空機の機動を模擬する機動模擬手段と、
を備え、
前記操縦行動決定手段による前記目的の決定及び前記操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎、又は予め定められた状況の変化が発生する毎に実行するフライトシミュレーション装置。
【請求項2】
前記操縦行動決定手段は、決定した前記操縦行動を、前記パイロットの技量を数値化した情報に基づいて修正する請求項1記載のフライトシミュレーション装置。
【請求項3】
前記操縦行動決定手段は、前記目的を達成するための前記行動計画が複数可能である場合、該行動計画毎に評価値を導出し、該評価値に基づいて前記行動計画を決定する請求項1又は請求項記載のフライトシミュレーション装置。
【請求項4】
前記操縦行動決定手段は、前記行動計画から派生する第2目的を決定し、前記第2目的を達成するための前記操縦行動を決定する請求項1乃至請求項の何れか1項記載のフライトシミュレーション装置。
【請求項5】
シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じた該対象航空機の機動の目的、該目的を達成するための行動計画、及び該行動計画を実行するためのパイロットによる前記対象航空機に対する操縦行動で構成されたデータベースを記憶した記憶手段を備え、航空機の機動を模擬するフライトシミュレーション装置で用いられるフライトシミュレーションプログラムであって、
コンピュータを、
前記対象航空機の状況に応じて前記対象航空機の機動の前記目的を前記データベースから決定し、決定した前記目的を達成するための前記行動計画を前記データベースから決定し、決定した前記行動計画に応じた前記操縦行動を前記データベースから決定する操縦行動決定手段と、
前記操縦行動決定手段によって決定された前記操縦行動及び予め前記対象航空機毎に設定されている機体諸元に基づいて、前記対象航空機の機動を模擬する機動模擬手段と、
して機能させ、
前記操縦行動決定手段による前記目的の決定及び前記操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎、又は予め定められた状況の変化が発生する毎に実行するフライトシミュレーションプログラム。
【請求項6】
シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じた該対象航空機の機動の目的、該目的を達成するための行動計画、及び該行動計画を実行するためのパイロットによる前記対象航空機に対する操縦行動で構成されたデータベースによって、航空機の機動を模擬するフライトシミュレーション方法であって、
前記対象航空機の状況に応じて前記対象航空機の機動の前記目的を前記データベースから決定し、決定した前記目的を達成するための前記行動計画を前記データベースから決定し、決定した前記行動計画に応じた前記操縦行動を前記データベースから決定する第1工程と、
前記第1工程によって決定された前記操縦行動及び予め前記対象航空機毎に設定されている機体諸元に基づいて、前記対象航空機の機動を模擬する第2工程と、
を含み、
前記第1工程による前記目的の決定及び前記操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎、又は予め定められた状況の変化が発生する毎に実行するフライトシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライトシミュレーション装置、フライトシミュレーション方法、及びフライトシミュレーションプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の機動を模擬するフライトシミュレーションを行うシミュレーション装置として、種々の装置が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シミュレーションを実行して、イベントの発生結果を示すログデータを記録するとともに、シミュレーションの模擬時間毎に、各移動体の位置から各地点までの距離を示すログデータを記録するシミュレータを設け、重要イベント探索部が記録されているログデータを解析して、イベントの発生と因果関係がある移動体を特定し、イベントと移動体の因果関係から、発生を阻止する必要がある可能性があるイベントを探索する、シミュレーション装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、初期プラン作成装置が行動目標より作成した初期プランやプラン修正装置が修正した修正プランをシミュレーションし、監視した処理単位毎の内部状態とチェックポイント発生時の処理状況とシミュレーション結果より、評価結果を作成し、その評価結果よりプラン修正装置が作成した修正プランをシミュレータに送信することによって、ロバスト性及び汎用性に優れたプラン作成を実現する装置が開示されている。
【0005】
また、従来の戦闘機の機動を模擬するシミュレーション装置50では、図9の概念図に示されるように、パイロットモデル52によって戦闘機のパイロットの操縦行動を模擬し、機体ダイナミクス計算モデル54によって、模擬した操縦行動に基づいて、戦闘機の機体の機動を模擬する装置も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−8825号公報
【特許文献2】特開2002−329158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されている装置は、シミュレーションが終了しなれば、そのプランを修正できないため、シミュレーションを実行している最中、すなわちリアルタイムで行動目標を示したプランを変更することができない。
【0008】
また、図9の概念図に示されるシミュレーションにおいてパイロットモデルで模擬される操縦行動は、機動データとして予め設定されているデータに基づいて算出され、水平飛行や定常旋回等の単純な飛行機動や、脅威となる航空機がミサイル射程内に入れば即時にミサイルを発射等の機械的な戦術判断に限定されていた。そして、このような操縦行動に基づいて機体ダイナミクス計算モデルで算出される航空機の機動も、限定的な機動となり、現実の戦闘機としては極めて簡素な反応であった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、航空機の機動をより現実に即して模擬することのできるフライトシミュレーション装置、フライトシミュレーション方法、及びフライトシミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のフライトシミュレーション装置、フライトシミュレーション方法、及びフライトシミュレーションプログラムは以下の手段を採用する。
【0011】
すなわち、本発明に係るフライトシミュレーション装置は、航空機の機動を模擬するフライトシミュレーション装置であって、シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じた該対象航空機の機動の目的、該目的を達成するための行動計画、及び該行動計画を実行するためのパイロットによる前記対象航空機に対する操縦行動で構成されたデータベースを記憶した記憶手段と、前記対象航空機の状況に応じて前記対象航空機の機動の前記目的を前記データベースから決定し、決定した前記目的を達成するための前記行動計画を前記データベースから決定し、決定した前記行動計画に応じた前記操縦行動を前記データベースから決定する操縦行動決定手段と、前記操縦行動決定手段によって決定された前記操縦行動及び予め前記対象航空機毎に設定されている機体諸元に基づいて、前記対象航空機の機動を模擬する機動模擬手段と、を備え、前記操縦行動決定手段による前記目的の決定及び前記操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎、又は予め定められた状況の変化が発生する毎に実行する。
【0012】
本発明は、パイロットによる航空機の操縦行動を模擬し、模擬した操縦行動の結果に応じて該航空機の機動を模擬するフライトシミュレーション装置であり、シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じた該対象航空機の機動の目的、該目的を達成するための行動計画、及び該行動計画を実行するためのパイロットによる前記対象航空機に対する操縦行動で構成されたデータベースを記憶した記憶手段を備える
そして、操縦行動決定手段によって、シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じて、該対象航空機の機動の目的がデータベースから決定される。対象航空機の状況とは、例えば、対象航空機の速度、対象航空機及び他の航空機の位置、並びに対象航空機のレーダー索敵範囲、ミサイルの種類、及びミサイルの残弾数等の装備内容等である。また、対象航空機の機動の目的とは、例えば、脅威機に対する攻撃や脅威機からの回避機動等である。
【0013】
また、対象航空機の機動の目的を決定した後、操縦行動決定手段によって、目的を達成するための行動計画がデータベースから決定され、決定された行動計画に応じたパイロットによる対象航空機に対する操縦行動がデータベースから決定される。すなわち、操縦行動決定手段は、目的を達成するためのパイロットによる戦術判断を模擬することとなる。また、本発明のように、目的を達成するための行動計画をデータベースから決定することは、航空機を操縦するパイロットの実際の思考を模擬していることを意味する。このため、本発明は、航空機の機動をより現実に即して模擬することができる。
【0014】
そして、機動模擬手段によって、操縦行動決定手段で決定された操縦行動及び予め対象航空機毎に設定されている機体諸元に基づいて、対象航空機の機動が模擬される。
【0015】
さらに、対象航空機の状況である、例えば対象航空機及び他の航空機の位置や対象航空機が備えるミサイルの残弾数は、時間と共に変化する。そのため、本発明は、目的の決定及び操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎、又は予め定められた状況の変化が発生する毎に実行することによって、シミュレーションが実行されている最中、すなわちリアルタイムで対象航空機の機動を変化させる。
【0016】
以上のように、本発明は、目的を達成するためのパイロットによる戦術判断を模擬すると共に、リアルタイムで対象航空機の目的及びパイロットの操縦行動を変化させ、それにより対象航空機の機動を変化させるので、航空機の機動をより現実に即して模擬することができる。
【0017】
また、本発明に係るフライトシミュレーション装置は、前記操縦行動決定手段が、決定した前記操縦行動を、前記パイロットの技量を数値化した情報に基づいて修正してもよい。
【0018】
パイロットの技量(練度)は、新人と熟練者とでは異なる。例えば、対象航空機が戦闘機である場合は、脅威機をロックオンするのに要する時間が新人と熟練者とでは異なったり、新人では、脅威機からの攻撃を回避する回避機動時の進行方向が適正な方向からずれていたりする。
そこで、本発明によれば、パイロットの技量を数値化した情報に基づいて、決定された操縦行動が修正されるので、対象航空機の機動をパイロットの技量に即して模擬することができる。
【0019】
また、本発明に係るフライトシミュレーション装置は、前記操縦行動決定手段が、前記目的を達成するための行動計画を前記対象航空機の状況に基づいて決定し、決定した該行動計画に基づいて前記操縦行動を決定してもよい。
【0020】
本発明のように、目的を達成するための行動計画を対象航空機の状況に基づいて決定することは、航空機を操縦するパイロットの実際の思考を模擬していることを意味する。このため、本発明は、航空機の機動をより現実に即して模擬することができる。
【0021】
また、本発明に係るフライトシミュレーション装置は、前記操縦行動決定手段が、前記目的を達成するための前記行動計画が複数可能である場合、該行動計画毎に評価値を導出し、該評価値に基づいて前記行動計画を決定してもよい。
【0022】
本発明によれば、複数の行動計画の中から、評価値に基づいて行動計画が決定されることとなるので、航空機の機動をより現実に即して模擬することができる。
【0023】
また、本発明に係るフライトシミュレーション装置は、前記操縦行動決定手段が、前記行動計画から派生する第2目的を決定し、前記第2目的を達成するための前記操縦行動を決定してもよい。
【0024】
本発明における第2目的は、換言すると、目的から決定される行動計画から導き出されるより具体的な目的である。このため、本発明は、航空機の機動をより現実に即して模擬することができる。
【0025】
一方、本発明に係るフライトシミュレーションプログラムは、シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じた該対象航空機の機動の目的、該目的を達成するための行動計画、及び該行動計画を実行するためのパイロットによる前記対象航空機に対する操縦行動で構成されたデータベースを記憶した記憶手段を備え、航空機の機動を模擬するフライトシミュレーション装置で用いられるフライトシミュレーションプログラムであって、コンピュータを、前記対象航空機の状況に応じて前記対象航空機の機動の前記目的を前記データベースから決定し、決定した前記目的を達成するための前記行動計画を前記データベースから決定し、決定した前記行動計画に応じた前記操縦行動を前記データベースから決定する操縦行動決定手段と、前記操縦行動決定手段によって決定された前記操縦行動及び予め前記対象航空機毎に設定されている機体諸元に基づいて、前記対象航空機の機動を模擬する機動模擬手段と、して機能させ、前記操縦行動決定手段による前記目的の決定及び前記操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎、又は予め定められた状況の変化が発生する毎に実行する。
【0026】
さらに、本発明に係るフライトシミュレーション方法は、シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じた該対象航空機の機動の目的、該目的を達成するための行動計画、及び該行動計画を実行するためのパイロットによる前記対象航空機に対する操縦行動で構成されたデータベースによって、航空機の機動を模擬するフライトシミュレーション方法であって、前記対象航空機の状況に応じて前記対象航空機の機動の前記目的を前記データベースから決定し、決定した前記目的を達成するための前記行動計画を前記データベースから決定し、決定した前記行動計画に応じた前記操縦行動を前記データベースから決定する第1工程と、前記第1工程によって決定された前記操縦行動及び予め前記対象航空機毎に設定されている機体諸元に基づいて、前記対象航空機の機動を模擬する第2工程と、を含み、前記第1工程による前記目的の決定及び前記操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎、又は予め定められた状況の変化が発生する毎に実行する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、航空機の機動をより現実に即して模擬する、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係るフライトシミュレーション装置の電気的構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るフライトシミュレーションの概念図である。
図3】本発明の実施形態に係るPGG形式で記述された行動データベースの内容を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態に係るフライトシミュレーションプログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係るパイロットコマンド算出モデルの処理内容を示す模式図である。
図6】本発明の実施形態に係る行動データベースであって、ゴールを対空攻撃とした場合の具体例を示す模式図である。
図7】本発明の実施形態に係る行動データベースであって、ゴールを回避機動とした場合の具体例を示す模式図である。
図8】本発明の実施形態に係るヒューマンファクタ・データベースの具体例を示す模式図である。
図9】従来のフライトシミュレーションの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係るフライトシミュレーション装置、フライトシミュレーション方法、及びフライトシミュレーションプログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
本実施形態に係るフライトシミュレーション装置10は、パイロットによる航空機の操縦行動を模擬し、模擬した操縦行動の結果に応じて該航空機の機動を模擬する。
なお、本実施形態では、航空機の一例として、脅威となる他の航空機(以下、「脅威機」という。)の索敵や、脅威機に対するミサイルの発射等が可能な航空機(所謂、戦闘機)を適用する。また、シミュレーションの対象となる航空機は、脅威機及び僚機、すなわち全ての航空機を対象としてもよいし、全ての航空機をシミュレーションの対象とするのではなく、僚機のうち、選択した一機又は複数機をシミュレーションにより機動を模擬することなく、後述する操作入力部20を介してユーザが操作してもよい。
【0031】
図1は、本実施形態に係るフライトシミュレーション装置10の電気的構成を示すブロック図である。
本実施形態に係るフライトシミュレーション装置10は、フライトシミュレーション装置10全体の動作を司るCPU(Central Processing Unit)12、各種プログラム及び各種データ等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)14、CPU12による各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM(Random Access Memory)16、各種プログラム及びシミュレーションの対象となる航空機の機体諸元等の各種データを記憶する記憶手段としてのHDD(Hard Disk Drive)18を備えている。
【0032】
さらに、フライトシミュレーション装置10は、キーボード及びマウス或いは操縦桿や各種スイッチ等から構成され、フライトシミュレーション装置10に対する各種操作の入力を受け付ける操作入力部20、シミュレーションの結果を示す画像等の各種画像を表示する、例えば液晶ディスプレイ装置等の画像表示部22、通信回線を介して他の情報処理装置等と接続され、他の情報処理装置等との間で各種データの送受信を行う外部インタフェース24を備えている。
【0033】
これらCPU12、ROM14、RAM16、HDD18、操作入力部20、画像表示部22、及び外部インタフェース24は、システムバス26を介して相互に電気的に接続されている。従って、CPU12は、ROM14、RAM16、及びHDD18へのアクセス、操作入力部20に対する操作状態の把握、画像表示部22に対する画像の表示、並びに外部インタフェース24を介した他の情報処理装置等との各種データの送受信等を各々行なうことができる。
【0034】
図2は、本第1実施形態に係るフライトシミュレーション装置10によるシミュレーションの概念図である。
【0035】
フライトシミュレーション装置10によるシミュレーションは、パイロットコマンド算出モデル30、パイロットモデル32、及び機体ダイナミクス計算モデル34を含む。
【0036】
パイロットコマンド算出モデル30は、シミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じて、該対象航空機の機動の目的を決定する。対象航空機の状況とは、例えば、対象航空機の速度、対象航空機及び脅威機や僚機等の他の航空機の位置、並びに対象航空機のレーダー索敵範囲、ミサイルの種類、及びミサイルの残弾数等の装備内容等である。また、対象航空機の機動の目的とは、例えば、脅威機に対する攻撃(対空攻撃)や脅威機からの回避機動等である。
【0037】
そして、目的を決定した後、パイロットコマンド算出モデル30は、決定した目的を達成するためのパイロットによる対象航空機に対する操縦行動を、対象航空機の状況に基づいて決定する。すなわち、パイロットコマンド算出モデル30は、目的を達成するためのパイロットによる戦術判断を模擬することとなる。
【0038】
このような、パイロットコマンド算出モデル30による、目的及び機動は、行動データベース42に基づいて決定される。行動データベース42は、複数種類がHDD18に予め記憶されている。行動データベース42は、実際に航空機を操縦するパイロットの経験則等に基づいて、予め作成されているものであり、ある目的を達成するために、航空機の状況に応じて選択すべき最適な操縦行動を示したデータである。
【0039】
なお、本実施形態では、一例として行動データベース42がPGG(Plan Goal Graph)形式で記述さているものとする。
【0040】
図3は、PGG形式で記述された行動データベース42の内容を示す模式図である。
PGG形式で記述された行動データベース42は、主に、操縦行動の目標を示すゴール、ゴールを達成するための行動計画を示すプラン、及びプランを実行するための操縦行動を示すアクションで構成されている。
【0041】
ゴールは、対象航空機の状況のうち、例えば、対象航空機の速度、対象航空機と脅威機との位置関係等に基づいて決定される。ゴールが決定されると、リソースに基づいてプランが選択され、プランに応じたアクションが決定される。リソースとは、プランを実行するために必要な条件であり、対象航空機の状況のうち、例えば、僚機の位置、対象航空機のレーダー索敵範囲、ミサイルの種類、及びミサイルの残弾数等の装備内容等、すなわち戦力である。また、プランは、ゴールに関連付けられ、選択可能なプランとして予め複数が行動データベース42に含まれている。
このように、目的を達成するための行動計画を、対象航空機の状況に基づいて決定することは、航空機を操縦するパイロットの実際の思考を模擬していることを意味する。
【0042】
なお、プランから派生するゴールであるサブゴールを決定し、決定したサブゴールを達成するための行動計画を示すサブプランも行動データベース42の構成要素に含んでもよい。換言するとサブゴールとは、ゴールの下位概念であり、プランから導き出されるより具体的なゴールである。
サブゴールが決定されると、リソース(条件)に基づいてサブプランが選択され、サブプランに応じたアクションが決定される。
【0043】
また、パイロットの技量(練度)は、新人と熟練者とでは異なる。例えば、対象航空機が戦闘機である場合は、脅威機をロックオンするのに要する時間が新人と熟練者とでは異なったり、新人では、脅威機からの攻撃を回避する回避機動時の進行方向が適正な方向からずれていたりする。
【0044】
そこで、パイロットコマンド算出モデル30は、決定した操縦行動をパイロットの技量を数値化したヒューマンファクタ・データベース40に基づいて修正する処理を行う(以下、「ヒューマンファクター重畳処理」という。)。ヒューマンファクタ・データベース40は、対象航空機毎に定められ、HDD18に予め記憶されたている。
これにより、本実施形態に係るフライトシミュレーション装置10は、対象航空機の機動をパイロットの技量に即して模擬することができる。
【0045】
そして、パイロットコマンド算出モデル30は、上記のようにして決定された操縦行動を示すデータ(コマンド)をパイロットモデル32へ出力する。パイロットモデル32へ出力される操縦行動の内容としては、例えば機動開始のタイミング、旋回方向、操舵コマンド、攻撃対象等含む火器管制コマンド等である。
【0046】
パイロットモデル32は、パイロットコマンド算出モデル30から入力されたデータにより示される操縦行動を行うための、パイロットによる対象航空機の操縦を模擬する。
具体的には、パイロットモデル32は、対象航空機を旋回させる場合は、ピッチ、ロール、ヨー、及びスラスト等の制御量を決定し、決定した制御量や、パイロットコマンド算出モデル30から入力された火器管制コマンド等の数値を、パイロットコマンド算出モデルで算出されたタイミングで機体ダイナミクス計算モデル34へ出力する。
【0047】
機体ダイナミクス計算モデル34は、パイロットモデル32で算出された数値及び対象航空機に予め設定されている機体諸元に基づいて、対象航空機の機動を模擬する。なお、機体諸元は、機体諸元データベース44として予めHDD18に記憶されている。
【0048】
図4は、フライトシミュレーションを行う場合に、CPU12によって実行されるシミュレーションプログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、シミュレーションプログラムはHDD18の所定領域に予め記憶されている。なお、本シミュレーションプログラムは、対象航空機毎の機動を模擬するためのプログラムであり、複数の対象航空機をシミュレーションする場合は、各対象航空機毎に本プログラムが実行される。
本プログラムの開始時には、予め脅威機及び僚機の機数、脅威機及び僚機の装備(搭載しているミサイルの種類、ミサイルの残弾数等)、脅威機及び僚機の位置、並びにシミュレーションの対象となる領域の地形、地上設備の有無等が、予め設定されている。
【0049】
また、図5は、パイロットコマンド算出モデル30の処理内容を示す模式図であり、図5も参照しながら、シミュレーションプログラムの処理の流れを説明する。
【0050】
まず、ステップ100では、対象航空機の状況の設定を行う。ここでいう設定とは、上述したような、対象航空機と脅威機との距離及び方向、対象航空機と僚機との距離及び方向、対象航空機のミサイルの残弾数、ミサイルの発射の有無、発射されたミサイルの進行方向と速度、並びに対象航空機、脅威機、及び僚機の速度や進行方向等のシミュレーションが進行すると共に変化する状況を数値化し、状況データとすることをいう。
なお、ステップ100からステップ118までの処理が上述したパイロットコマンド算出モデル30の処理に相当する。
【0051】
次のステップ102では、状況データに基づいて、PGG形式で記述された行動データベース42から対象航空機の機動の目的であるゴールを決定し、設定する。
図5の行動データベース42の模式図に示されるように、行動データベース42には、設定可能なゴールが複数存在するため、状況データに基づいてゴールが決定される。例えば、対象航空機の進行方向に脅威機が存在すると共に脅威機が、対象航空機が備えるレーダーの索敵範囲内である場合は、「対空攻撃」がゴールとして決定される。また、例えば、脅威機がミサイルを発射している場合、「回避機動」がゴールとして決定される。
なお、行動データベース42に含まれる複数のゴールには、予め優先順位が付されており、状況データに基づいて優先順位の最も高いゴールが選択されることとなる。
【0052】
次のステップ104では、ゴールを達成するためのプランを選択する。プランは、上述したように、対象航空機の状況に含まれるリソースに基づいて、ゴールに関連付けられた複数のプランから選択される。なお、リソースに基づいて実行可能なプランが複数選択されてもよい。
【0053】
次のステップ106では、選択したプランが複数であるか否かを判定し、肯定判定の場合は、ステップ108へ移行し、否定判定の場合は、ステップ108の処理を実行することなく、ステップ110へ移行する。
【0054】
ステップ108では、プランが複数選択されているため、プラン毎に評価値を導出し、該評価値に基づいてプランを決定する。
評価値は、各プラン毎に固定値として与えられていてもよいし、各プランを選択するために用いた対象航空機の状況を変数とした関数から導出されてもよい。
【0055】
評価値を関数から導出する場合について説明する。
この関数は、各プランに応じて予め与えられている。また、変数とされる対象航空機の状況としては、例えば、対象航空機と脅威機との位置関係(方向)、対象航空機と脅威機との距離、ミサイルのステータス(発射準備中、誘導中、又はアクティブ等)を数値化したものである。なお、対象航空機の状況をさらに細分化し、例えば、対象航空機の高度、速度、進行方向、姿勢角、及びミサイルの残弾数、並びにレーダー情報、RWR(Radar Warning Receiver)情報、及びデータリンク情報等によって情報を数値化し、関数に対する変数としてもよい。
【0056】
そして、複数のプラン毎の評価値のうち、最も高い評価値を有するプランが選択される。なお、これに限らず、対象航空機のパイロットの技量に応じて、最も高い評価値を選択せずに、2番目に高い評価値又は3番目に高い評価値を有するプランが選択されてもよい。すなわち、予め技量を数値化して設定し、技量が高くないと設定されたパイロットが操縦すると模擬された対象航空機に対しては、最も高い評価値のプランを選択させず、2番目又は3番目に高い評価値のプランを選択させる。
【0057】
ステップ110では、サブゴールを設定する。なお、サブゴールの設定方法は、ステップ102で説明した方法と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
次のステップ112では、サブゴールを達成するためのサブプランを選択する。なお、サブプランの選択方法は、ステップ104で説明した方法と同様であるので、説明を省略する。
【0059】
次のステップ114では、選択したサブプランが複数であるか否を判定し、肯定判定の場合は、ステップ116へ移行し、否定判定の場合は、ステップ116の処理を実行することなく、ステップ118へ移行する。
【0060】
ステップ116では、サブプラン毎に評価値を導出し、該評価値に基づいてサブプランを選択する。なお、サブプランの選択方法は、ステップ108で説明した方法と同様であるので、説明を省略する。
【0061】
ステップ118では、サブプランに応じたアクションを決定する。なお、アクションは、サブプランに関連付けられている。
【0062】
図6,7は、行動データベース42の具体例を示した模式図であり、図6は、ゴールを「対空攻撃」とした場合の具体例であり、図7は、ゴールを「回避機動」とした場合の具体例である。図6,7に示されるように、ゴールが異なると、プランを選択するリソースも変化し、選択されるプラン、プランに関連付けられているサブゴールやサブプランも異なり、最終的に決定されるアクションも異なる。
なお、ステップ118で最終的に得られる操縦行動は、新たな操縦行動を起こさずに、現像を維持する場合もある。
【0063】
また、ステップ118では、アクションにおける詳細な操縦行動を決定する際に、ヒューマンファクター重畳処理を行う。
図8は、ヒューマンファクタ・データベース40の具体例を示す模式図である。ヒューマンファクタ・データベース40には、パラメータ毎の数値が予め設定されている。例えば、ロックオン遅れ時間(sec)が小さいほど、パイロットの技量が高いことを示している。また、回避機動時の進行方向は、適切な進行方向からのずれの度合い(N/A:無次元数)を示しており、この度合いが小さいほどパイロットの技量が高いことを示している。そして、ヒューマンファクタ・データベース40は、僚機及び脅威機に関わらず、対象航空機に対して予め設定されている。
【0064】
次のステップ120では、所定時間が経過したか否かを判定し、肯定判定の場合は、ステップ100へ戻り、否定判定の場合は、ステップ122へ移行し、ステップ118で決定された操縦行動に基づいて、パイロットモデル32による操縦模擬を実行する。この所定時間とは、フライトシミュレーション上における予め定められた時間間隔(例えば10秒)である。フライトシミュレーションにおいて対象航空機の状況は、時間と共に変化する。そのため、パイロットコマンド算出モデル30による目的の決定及び操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎に実行されることによって、本実施形態に係るフライトシミュレーション装置10は、シミュレーションが実行されている最中、すなわちリアルタイムで対象航空機の機動を変化させることができる。
【0065】
なお、ステップ118で決定された操縦行動とステップ122で実行される操縦模擬との間において、ステップ120の判定処理を実行することによって、決定した操縦行動が実行に移される前に、新たな操縦行動を決定する処理へ移行する可能性がある。このことは、例えば、技量の低いパイロットの場合のような、次の行動へ移る速度が遅く、時々刻々と変化する戦況に対応できない状況を再現することとなる。
【0066】
次のステップ124では、機体ダイナミクス計算モデル34による機体模擬を実行する。
【0067】
次のステップ126では、上記所定時間が経過したか否かを判定し、肯定判定の場合は、ステップ100へ戻り、否定判定の場合は、ステップ128へ移行する。
【0068】
ステップ128では、フライトシミュレーションの終了指示を受け付けたか否かを判定し、肯定判定の場合は、本プログラムを終了し、否定判定の場合は、ステップ124へ移行し、機動模擬を実行し続ける。なお、終了指示は、例えば、予め定められたシミュレーションの実行時間が終了した場合にCPU12から出力されたり、ユーザによって操作入力部20を介して入力される。
【0069】
以上説明したように、本実施形態に係るフライトシミュレーション装置10は、パイロットコマンド算出モデル30によってシミュレーションの対象とする航空機である対象航空機の状況に応じて、該対象航空機の機動の目的を決定し、決定した該目的を達成するためのパイロットによる対象航空機に対する操縦行動を、対象航空機の状況に基づいて決定し、機体ダイナミクス計算モデル34によって、決定した操縦行動及び予め対象航空機毎に設定されている機体諸元に基づいて、対象航空機の機動を模擬する。そして、フライトシミュレーション装置10は、パイロットコマンド算出モデル30による目的の決定及び操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎に実行する。
従って、本実施形態に係るフライトシミュレーション装置10は、目的を達成するためのパイロットによる戦術判断を模擬すると共に、リアルタイムで対象航空機の目的及びパイロットの操縦行動を変化させ、それにより対象航空機の機動を変化させるので、航空機の機動をより現実に即して模擬することができる。
【0070】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
例えば、上記実施形態では、フライトシミュレーションプログラムをHDD18に記憶する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、フライトシミュレーションプログラムをROM14やその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な可搬型記憶媒体(CD−ROM等)に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等を適用することができる。
【0072】
また、上記実施形態では、パイロットコマンド算出モデル30による目的の決定及び操縦行動の決定を、予め定められた時間間隔毎に実行(所謂、時間駆動)する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、パイロットコマンド算出モデル30による目的の決定及び操縦行動の決定を、予め定められた状況の変化が発生する毎に実行(所謂、イベント駆動)する形態としてもよい。
予め定められた状況の変化とは、何かしらのイベントが発生した場合、換言すれば予め定められたタイミングであり、例えば、自機や僚機のレーダーが新たな脅威機を検知した場合や、脅威機がミサイルを発射した場合、脅威機が自機のミサイル射程内に入った場合等である。
【0073】
また、上記実施形態では、対象航空機を戦闘機とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、対象航空機を民間機とする形態としてもよい。
【0074】
また、上記実施形態で説明したフライトシミュレーションプログラムの処理の流れも一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 フライトシミュレーション装置
12 CPU
18 HDD
30 パイロットコマンド算出モデル
32 パイロットモデル
34 機体ダイナミクス計算モデル
40 ヒューマンファクタ・データベース
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9