特許第5797116号(P5797116)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797116スプールに巻回された線材の緩み防止装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797116
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】スプールに巻回された線材の緩み防止装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 57/14 20060101AFI20151001BHJP
   B65H 49/20 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B65H57/14
   B65H49/20
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-309(P2012-309)
(22)【出願日】2012年1月5日
(65)【公開番号】特開2013-139320(P2013-139320A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】日特エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 利明
(72)【発明者】
【氏名】高木 智博
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−137343(JP,A)
【文献】 実開昭60−006794(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 57/14
B65H 49/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材(11)が巻回されたスプール(12)を回転させて前記線材(11)を繰出す線材繰出し機(10)に併設される線材の緩み防止装置(20)であって、
前記スプール(12)は前記線材(11)が外周に巻回される胴部(12a)と前記胴部(12a)の軸方向の両端に同軸に形成された円盤状のフランジ部(12b)とを有し、
前記スプール(12)の回転軸に平行な回転軸を有し前記スプール(12)とともに回転する前記フランジ部(12b)に接触して前記スプール(12)の回転方向と逆方向に回転する逆転ローラ(26)と、
前記逆転ローラ(26)の回転軸に平行な回転軸を有し前記逆転ローラ(26)に接触して前記スプール(12)と同方向に回転する正転ローラ(27)と、
前記正転ローラ(27)の回転軸に平行な回転軸を有し前記正転ローラ(27)と共に前記スプール(12)から繰出される線材(11)を挟む挟持用ローラ(28)とを備え
前記フランジ部(12b)の外径を前記巻胴部(12a)に巻回された前記線材(11)の外径より大きくして、前記正転ローラ(27)と前記挟持用ローラ(28)とが引出す前記線材(11)の量を前記巻胴部(12a)から解かれて繰出される前記線材(11)の量よりも大とし、
引出す前記線材(11)の量と繰出される前記線材(11)の量との間に生じる誤差を、前記逆転ローラ(26)と前記フランジ部(12b)との間の滑り又は前記逆転ローラ(26)と前記正転ローラ(27)との間の滑り又は前記線材(11)を挟む前記挟持用ローラ(28)と前記正転ローラ(27)との間に生じる滑りにより吸収させる
ことを特徴とするスプールに巻回された線材の緩み防止装置。
【請求項2】
挟持用ローラ(28)は、正転ローラ(27)の上方にあって、前記正転ローラ(27)に対して上昇及び下降可能に付勢して設けられていることを特徴とする請求項1記載のスプールに巻回された線材の緩み防止装置。
【請求項3】
逆転ローラ(26)と正転ローラ(27)と挟持用ローラ(28)の外周は、ポリウレタン樹脂により形成されることを特徴とする請求項1記載のスプールに巻回された線材の緩み防止装置。
【請求項4】
線材繰出し機(10)は、繰出された線材(11)の緩みを非接触で検出する撓みセンサ(17)を備え、前記撓みセンサ(17)が繰出された前記線材(11)の緩みの減少を検出するとスプール(12)を回転させ、前記撓みセンサ(17)が繰出された線材(11)の所定量の緩みを検出すると前記スプール(12)の回転を停止させるように構成された請求項1記載のスプールに巻回された線材の緩み防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材が巻回されたスプールを回転させて線材を繰出す線材繰出し機に併設されて、そのスプールに巻回された線材の緩みを防止する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、巻線機等に線材を供給するためのものとして、線材が巻回されたスプールを回転させて線材を繰出す線材繰出し機が知られており、この線材繰出し機を図5に示す。この図5に示す線材繰出し機1は、回転軸2aを水平にしてスプール2を支持し、そのスプール2を回転させるモータ3を備える。モータ3によりスプール2を回転させることによりそのスプール2から線材4を繰出すことが可能になり、スプール2から繰出された線材4は、張力付加装置5である揺動棒5aの先端に枢支されたプーリ5bに掛け回されて転向し、ワイヤガイド6を通過してその線材4を巻回する巻芯7に案内される。揺動棒5aには巻芯7からプーリ5bを離間させる方向に付勢する張力付与機構であるスプリング5cが設けられ、このスプリング5cの付勢力により、そのプーリ5bにおいて転向した線材4に所定の張力を付与するように構成される。そして、モータ3は揺動棒5aが一点鎖線で示すように巻芯7側に傾動した時に、スプール2を回転させて線材4を繰出し、その線材4の繰出しにより揺動棒5aが二点鎖線で示すように巻芯7から離間する方向に傾動した時に、スプール2の回転を停止させて線材4の繰出しを停止するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−159541号公報(図1及び図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、巻芯7からプーリ5bを離間させる方向に付勢するスプリング5cは、巻芯7から遠ざける方向に付勢する力を線材4に付与するので、巻芯7を回転させる図示しないモータに対する抵抗になる。このため、巻芯7に線材4が緩むことなく巻回される限り、線材4に巻芯7から遠ざける方向に付勢する力は極力弱いことが好ましい。しかし、この巻芯7からプーリ5bを離間させる方向に付勢するスプリング5cは、スプール2から線材4を引出す方向にも引っ張るものであるので、そのスプリング5cの力が弱まると、スプール2を回転させても線材4が引出されずに、そのスプール2に巻回された線材4がそのスプール2において緩まるような事態を生じさせる不具合がある。そして、線材4がそのスプール2において緩まると、スプール2における線材4の残量を検知することが困難となるか、或いはその検知が不安定となる。
【0005】
ここで、線材4がスプール2において緩まるような事態を防止するためには、スプール2と巻芯7との間の間隔を大きく拡大させて、そのスプール2と巻芯7との間における線材4の自重によりその線材4をスプール2から引出すようにすることも考えられる。けれども、スプール2を巻芯7から大きく離して、線材4がそのスプール2において緩まるような事態を回避したとすると、そのスプール2を回転させる線材繰出し機1やその巻芯7を回転させる巻線機等の設備の設置面積が著しく広くなってしまう不具合がある。
【0006】
また、例えば、線材4が巻回される巻芯7の断面が長方形状のような扁平形状を成していると、その巻芯7に巻回される線材4の巻取り速度が一定でなく、巻芯7の断面が長方形状であってその長辺が短辺に比較して著しく長い場合には、線材4の速度は著しく変化し、その移動と停止が交互に繰り返されるようになる。すると、線材繰出し機1においても、その線材4の繰出しと停止が交互に繰り返されることになり、実質的に巻線機における巻線速度が、線材繰出し機1における線材4の繰出し速度に依存することになり、比較的大きなスプール2を回転させる場合には、その慣性により迅速な線材の繰出しが困難になって、巻線速度を高めることが困難になる不具合がある。
【0007】
この点を解消させるためには、比較的多くの線材4を予め繰出した状態にしておくことが考えられるけれども、線材4を繰出した状態で維持させると、その繰出された線材4がその弾性によりスプール2側に戻り、そのスプール2に巻回された線材4がそのスプール2において緩まる事態を生じさせる不具合がある。よって、線材4が巻回されたスプール2を回転させて線材4を繰出す線材繰出し機1にあって、その繰出された線材4をスプール2側に戻すことなく確実に繰出してそのスプール2における線材4の緩みを防止することができたら、便利である。
【0008】
本発明の目的は、スプールを回転させて繰出された線材のスプールへの戻りを防止してそのスプールにおける線材の緩みを防止し得るスプールに巻回された線材の緩み防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、線材が巻回されたスプールを回転させて線材を繰出す線材繰出し機に併設される線材の緩み防止装置である。
【0010】
その特徴ある構成は、スプールは線材が外周に巻回される胴部とその胴部の軸方向の両端に同軸に形成された円盤状のフランジ部とを有し、スプールの回転軸に平行な回転軸を有しそのスプールとともに回転するフランジ部に接触してスプールの回転方向と逆方向に回転する逆転ローラと、逆転ローラの回転軸に平行な回転軸を有し逆転ローラに接触してスプールと同方向に回転する正転ローラと、正転ローラの回転軸に平行な回転軸を有し正転ローラと共にスプールから繰出される線材を挟む挟持ローラとを備え、フランジ部の外径を巻胴部に巻回された線材の外径より大きくして、正転ローラと挟持用ローラとが引出す線材の量を巻胴部から解かれて繰出される線材の量よりも大とし、引出す線材の量と繰出される線材の量との間に生じる誤差を、逆転ローラとフランジ部との間の滑り又は逆転ローラと正転ローラとの間の滑り又は線材を挟む挟持用ローラと正転ローラとの間に生じる滑りにより吸収させるところにある。
【0011】
挟持用ローラは、正転ローラの上方にあって、正転ローラに対して上昇及び下降可能に付勢して設けられることが好ましく、逆転ローラと正転ローラと挟持用ローラの外周は、ポリウレタン樹脂により形成されることが好ましい。
【0012】
この線材繰出し機は、繰出された線材の緩みを非接触で検出する撓みセンサを備え、撓みセンサが繰出された線材の緩みの減少を検出するとスプールを回転させ、撓みセンサが繰出された線材の所定量の緩みを検出するとスプールの回転を停止させるように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の線材の緩み防止装置では、スプールの回転により繰出される線材をスプールの回転と共に回転する正転ローラが挟持ローラと共に挟んで引出すので、スプールを回転させて繰出された線材のスプールへの戻りは防止され、これにより繰出された線材がスプールにおいて緩むようなことはなく、そのスプールにおける線材の緩みを防止することができる。そして、その正転ローラはスプールの回転と共に回転するので、スプールを回転させる動力以外の動力を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態における線材の緩み防止装置を示す斜視図である。
図2】その線材の緩み防止装置の側面図である。
図3】その線材の緩み防止装置の正面図である。
図4】その正転ローラが挟持ローラと共に線材を引出す状態を示す側面図である。
図5】従来の線材繰出し機を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳しく説明する。
【0018】
図1図3に本発明における線材の緩み防止装置20を示す。この線材の緩み防止装置20は、線材11が巻回されたスプール12を回転させて線材11を繰出す線材繰出し機10に併設されるものである。この実施の形態における線材11は、その断面形状が長方形を成すいわゆる平角線が用いられる場合を示すけれども、この線材11は、その断面が正方形を成すいわゆる角線であっても良く、その断面が円形を成すいわゆる丸線であっても良い。また、この線材11は例えばフィルムのような長尺物であっても良い。このような線材11が巻回されるスプール12は、その線材11が外周に実際に巻回される円柱状の胴部12a(図2及び図4)と、その胴部12aの軸方向の両端に同軸に形成された円盤状のフランジ部12bとを有する。
【0019】
このスプール12を回転させる線材繰出し機10は、回転軸を水平にしたスプール12の両側のフランジ部12bを外側から間隔をあけて挟むように設置された一対の土台13と、その一対の土台13間に架設されてスプール12が載置される一対の支持ローラ14と、その一対の支持ローラ14のいずれか一方又は双方を回転させるモータ16とを備える。図では、一対の支持ローラ14の内の一方を回転させるモータ16を備える場合を示す。そして、モータ16はその一対の支持ローラ14のいずれか一方又は双方を回転させることにより、その一対の支持ローラ14上に載置されたスプール12を回転させることが可能に構成される。
【0020】
図1及び図2に示すように、この線材繰出し機10は、そのスプール12から繰出された線材11の撓みを非接触で検出する撓みセンサ17を備える。この撓みセンサ17は繰出された線材11の幅方向の両側にその線材11を挟むように所定の間隔をあけて立設された一対の支柱17aを備える。その一対の支柱17aには、その下部に撓んだ線材11が自重により下降した場合を非接触で検出する下部センサ17bが設けられ、その上部に撓んだ線材11が引き取られて上昇した場合を非接触で検出する上部センサ17cが設けられる。そして、撓みセンサ17における上部センサ17cが繰出された線材11の撓みの減少を検出するとモータ16を駆動してスプール12を回転させ、撓みセンサ17における下部センサ17bが繰出された線材11の所定量の撓みを検出するとモータ16の駆動を停止してスプール12の回転を停止させるように構成される。
【0021】
このような線材繰出し機10に併設される本発明の線材の緩み防止装置20は、一対の土台13の外側であって回転軸を水平にして一対の支持ローラ14に載置されたスプール12をその回転軸方向の両側から挟むように立設された一対の支持柱21を備える。この一対の支持柱21には、昇降して任意の位置で固定可能な可動部材22がそれぞれ設けられ、この可動部材22間に横支持棒23が架設される。即ち、この一対の支持柱21の間には可動部材22を介して横支持棒23がスプール12の回転軸に平行になるように水平に架け渡される。
【0022】
図3に示すように、この横支持棒23には、一対の枢支体24がスプール12の回転軸方向の幅より広い間隔を空けて設けられる。この一対の枢支体24は鉛直方向に長い板状を成し、その上部が横支持棒23に取付けられる。そして、この一対の枢支体24に逆転ローラ26と正転ローラ27と挟持用ローラ28の両端部が回転可能に支持される。
【0023】
図1図4に示すように、逆転ローラ26は、一対の枢支体24の最下端に設けられる。この逆転ローラ26はスプール12の回転軸に平行に設けられる。そして、この逆転ローラ26は、スプール12又はそのスプール12と同じ回転をする円形部材に接触するように設けられる。この実施の形態における逆転ローラ26は、図2又は図4に示すように、その外周がスプール12におけるフランジ部12bの外周に接触する場合を示す。このように外周がスプール12に接触することにより、この逆転ローラ26はスプール12が回転すると、その回転方向と逆方向に回転するように構成される。
【0024】
正転ローラ27は、逆転ローラ26の回転軸に平行な回転軸を有し、その逆転ローラ26の上方であってその逆転ローラ26の外周に外周が接触するように両端が一対の枢支体24に枢支される。これにより、この正転ローラ27は、スプール12の回転軸方向と逆方向に逆転ローラ26が回転すると、その逆転ローラ26の回転方向の逆方向、即ちスプール12の回転方向と同方向に回転するように構成される。
【0025】
挟持用ローラ28は、正転ローラ27の回転軸に平行な回転軸を有し、その正転ローラ27の上方であってその正転ローラ27と共にスプール12から繰出される線材11を挟むように両端が一対の枢支体24に枢支される。一対の枢支体24には正転ローラ27を枢支する枢支点の上方に、上下に延びるレール29が設けられ、このレール29に移動可能なスライダ31が更に設けられる。挟持用ローラ28の両端はこのスライダ31に枢支され、このスライダ31を介して、挟持用ローラ28は両端が一対の枢支体24に枢支される。
【0026】
そして、図3に示すように、枢支体24には、スライダ31を下方の正転ローラ27に向けて付勢するスプリング32が設けられ、このスプリング32の付勢力により、挟持用ローラ28は、正転ローラ27と共にスプール12から繰出される線材11を挟むように構成される。これにより、正転ローラ27がスプール12の回転方向と同方向に回転すると、正転ローラ27と共に線材11を挟む挟持用ローラ28はその正転ローラ27と逆方向に回転し、その正転ローラ27と挟持用ローラ28は、それらにより挟まれる線材11をスプール12から引出すように構成される。そして、逆転ローラ26と正転ローラ27と挟持用ローラ28の外周は、例え線材11が接触して擦れたとしても、その線材11にダメージを生じさせないポリウレタン等の樹脂により形成される。
【0027】
なお、図2に示すように、回転する正転ローラ27と挟持用ローラ28に挟まれてスプール12から引出された線材11は撓みセンサ17における一対の支柱17a間を通過した後に、この線材11を使用する機器にまで案内される。この実施の形態では、図2に示すように、スプール12から引出されて繰出された線材11が巻線機33に供給される場合を例示し、線材11は巻線機33におけるワイヤガイド33aを通過した後にその巻芯33bにまで案内される。そして、巻線機33における巻芯33bを回転させることにより、スプール12から繰出された線材11は、その巻芯33bに巻回される場合を示す。
【0028】
次に、本発明における線材の緩み防止方法について説明する。
【0029】
本発明における線材11の緩み防止方法は、図4に示すように、線材11が巻回されたスプール12を回転させて線材11を繰出す線材繰出し機10における線材11の緩み防止方法である。そして、その特徴ある点は、スプール12の回転軸に平行な回転軸を有する逆転ローラ26をスプール12に接触させてスプール12の回転方向と逆方向に回転させ、その逆転ローラ26の回転軸に平行な回転軸を有する正転ローラ27を逆転ローラ26に接触させてスプール12と同方向に回転させ、正転ローラ27の回転軸に平行な回転軸を有する挟持用ローラ28と正転ローラ27とよりスプール12から繰出される線材11を挟み、スプール12の回転により繰出される線材11をスプール12の回転と共に回転する正転ローラ27が挟持用ローラ28と共に挟んで引出すことを特徴とする。
【0030】
上述した線材の緩み防止装置20を用いた本発明の線材11の緩み防止方法を具体的に説明すると、線材11はスプール12を回転させることにより繰出されることになるので、先ず、上述した線材の緩み防止装置20を線材繰出し機10の巻線機33側の近傍に設置する。この設置は、緩み防止装置20における一対の支持柱21を、線材繰出し機10における一対の土台13の外側に立設させて、その一対の支持柱21によりスプール12を回転軸方向の両側から挟むようにする。そして、挟持用ローラ28と正転ローラ27と逆転ローラ26が枢支された一対の枢支体24を昇降させて、逆転ローラ26をスプール12における円形のフランジ部12bの外周に接触させる。この一対の枢支体24の昇降は、一対の支持柱21に昇降可能に設けられた可動部材22を昇降させることにより、そこの架設された横支持棒23とともにその一対の枢支体24を昇降させることにより行われる。
【0031】
このとき、図2に示すように、線材の緩み防止装置20における一対の支持柱21を線材繰出し機10から巻線機33側(図2の左方向)へずらすと、逆転ローラ26のフランジ部12bへの接触位置は下降することになり、その一対の支持柱21を巻線機33から遠ざけて線材繰出し機10側(図2の右方向)へずらしてスプール12の中央に近づけると、逆転ローラ26のフランジ部12bへの接触位置は上昇することになる。このため、図2に具体的に示すように、スプール12から巻線機33に向かう線材11が描く軌跡に挟持用ローラ28と正転ローラ27との間が位置するように、線材の緩み防止装置20の一対の支持柱21を線材繰出し機10の巻線機33側においてその位置調整をする。
【0032】
次に、スプール12より繰出される線材11を挟持用ローラ28と正転ローラ27との間に挿通させ、正転ローラ27の回転軸に平行な回転軸を有する挟持用ローラ28と正転ローラ27とよりスプール12から繰出される線材11を挟む。具体的には、スプリング32の付勢力に抗して挟持用ローラ28を上昇させて、挟持用ローラ28と正転ローラ27との間の隙間を拡大させ、その拡大した隙間にスプール12から繰出された線材11を挿通させる。そして、上昇させた挟持用ローラ28を再び下降させて、スプリング32の付勢力により、挟持用ローラ28と正転ローラ27との間の隙間を減少させ、それにより挟持用ローラ28と正転ローラ27によりスプール12から繰出される線材11を挟む。これにより、線材の緩み防止装置20の線材繰出し機10近傍への設置を完了させる。
【0033】
そして、図2に示すように、スプール12を回転させて線材11を実際に繰出し、撓みセンサ17を介して巻線機33におけるワイヤガイド33aを通過さて、その後その巻芯33bに線材11の端部を係止させる。スプール12からの線材11の繰出しは、その巻線機33と緩み防止装置20との間で線材11が撓むほど比較的多くの線材11を繰出し、その後スプール12の回転は停止させておく。この状態で、巻線機33による巻線が開始され、回転する巻芯33bに線材11を巻回させる。巻芯33bには、撓むほど予め繰出された線材11が巻回されることになるので、その巻線される線材11をスプール12側に引き戻すような力は加わらない。このため、巻線される線材をスプール側に引き戻す力が加わる従来に比較して、巻芯33bを回転させる図示しないモータに対する抵抗を低減することができる。また、その巻芯33bの回転速度を高めて、比較的高速で巻線を行うことも可能になる。
【0034】
巻線を開始すると、巻線機33と緩み防止装置20との間の線材11が巻芯33bに巻回されるので、その間の線材11における撓みの程度は徐々に減少する。そして、図2に一点鎖線で示すように、撓みセンサ17における上部センサ17cが繰出された線材11の撓みの減少を検出すると、線材繰出し機10はスプール12を再び回転させて、線材11を再び繰出す。即ち、撓みセンサ17における上部センサ17cが繰出された線材11の撓みの減少を検出すると線材繰出し機10におけるモータ16を駆動して一対のローラ14のいずれか一方又は双方を回転させ、その一対のローラ14上に載置されて線材11が巻回されたスプール12を回転させ、巻芯33bに巻回される量以上の量の線材11を新たに繰出す。
【0035】
図4に示すように、線材11を繰出すためにスプール12を実線矢印で示すように回転させると、逆転ローラ26の外周がスプール12における円形フランジ部12bの外周に接触しているので、その逆転ローラ26はスプール12の回転方向と逆方向に回転することになる。また、逆転ローラ26はスプール12の回転軸に平行な回転軸を有し、その逆転ローラ26の回転軸に平行な回転軸を有する正転ローラ27が逆転ローラ26に接触しているので、逆転ローラ26の回転と共に正転ローラ27はスプール12と同方向に回転することになる。
【0036】
ここで、スプール12から繰出される線材11は、正転ローラ27の回転軸に平行な回転軸を有する挟持用ローラ28と正転ローラ27とより挟まれており、正転ローラ27はスプール12の回転方向と同一であるので、スプール12の回転により繰出されて正転ローラ27と挟持用ローラ28により挟まれる線材11は、そのスプール12と同一方向に回転する正転ローラ27によりそのスプール12から引出されることになる。すると、スプール12を回転させて繰出された線材11のスプール12への戻りは防止され、これにより繰出された線材11がスプール12において緩むようなことはなく、そのスプール12における線材11の緩みを防止することができる。そして、線材11がスプール12から巻線機33に向かう方向に挟持用ローラ28と正転ローラ27を配置したので、その正転ローラ27と挟持用ローラ28により挟まれた線材11は、そのまま方向を変えずに巻線機33にまで向かうことになる。このため、その挟持用ローラ28又は正転ローラ27により線材11の方向が著しく変化するようなことはなく、その方向が変化することに起因して線材11に癖が生じるようなことはない。また、その正転ローラ27はスプール12の回転と共に回転するので、スプール12を回転させる動力以外の動力を不要にすることができる。
【0037】
また、スプール12が回転して繰出される線材11の量に比較して、正転ローラ27が回転することにより引出す線材11の量が小さくなると、スプール12から繰出された線材11がそのスプール12において緩むようなことになってしまう。けれども、逆転ローラ26はスプール12の外周に接触して回転し、正転ローラ27は逆転ローラ26の外周に接触して回転するので、正転ローラ27の線材11を挟む外表面の移動速度は逆転ローラ26が接触するスプール12の円形フランジ部12bの外周における移動速度と同じになる。
【0038】
一方、スプール12におけるフランジ部12bはスプール12の巻胴部12aに巻回された線材11をその巻胴部12aから外れないようにするためのものであるので、一般的にそのフランジ部12bの外径はスプール12の巻胴部12aに巻回された線材11の外径より大きなものとなる。してみると、スプール12が回転してその巻胴部12aに巻回された線材11が解かれて繰出される線材11の量に比較して、逆転ローラ26と共に線材11を挟持してスプール12と同方向に回転する正転ローラ27が引出す線材11の量は大きなものとなる。このため、スプール12が回転して繰出される線材11の量に比較して、正転ローラ27が回転することにより引出す線材11の量が小さくなるようなことはなく、逆転ローラ26が接触するフランジ部12bの外径がスプール12の巻胴部12aに巻回された線材11の外径より大きなものである限り、スプール12から繰出された線材11がそのスプール12において緩むようなことは有効に防止される。
【0039】
このように、逆転ローラ26が接触するフランジ部12bの外径がスプール12の巻胴部12aに巻回された線材11の外径より大きなものである場合、スプール12が回転して繰出される線材11の量に比較して、正転ローラ27が回転することにより引出す線材11の量は大きなものとなり、その繰出し量と引出し量の間に誤差が生じる。けれども、正転ローラ27を回転させる逆転ローラ26は、スプール12のフランジ部12bにおける外周に接触するものであるので、その逆転ローラ26とスプール12におけるフランジ部12bとの間の滑り、又はその逆転ローラ26と正転ローラ27との間の滑りによりその誤差は吸収されることになる。また、線材11とその線材11を挟持用ローラ28と共に挟む正転ローラ27との間に滑りが生じて、線材11の繰出し量と引出し量の間に生じる誤差を吸収する場合もある。けれども、少なくともこの正転ローラ27の線材11が接触する外周は、その線材11にダメージを生じさせないポリウレタン等の樹脂により形成されているので、正転ローラ27と挟持用ローラ28により挟まれて引出される線材11にダメージを与えることなく、スプール12における線材11の緩みを確実に防止することができる。
【0040】
また、スプール12からは繰出される線材11の量を巻芯33bが巻回する線材11の量より多くすることにより、巻線機33と緩み防止装置20との間の線材11の撓み量は増加し、図2の実線で示すように、撓みセンサ17における下部センサ17bが繰出された線材11の所定量の緩みを検出すると、スプール12の回転を停止させてそのスプール12からの新たな線材11の繰出しを禁止することになる。そして、スプール12における線材11の緩みを防止しつつ、図2に示すように、比較的多くの線材11を常に繰出した状態にしておくことが可能となる。このため、例えば、線材11が巻回される巻芯33bの断面が長方形状のような扁平形状を成していて、その巻芯33bに巻回される線材11の巻取り速度が著しく変化し、その移動と停止が交互に繰り返されるようであっても、その巻線機33における巻線速度が、線材繰出し機10における線材11の繰出し速度に依存するようなことはなく、比較的大きなスプール12を回転させる場合であっても、比較的多くの線材11を予め繰出した状態にしておくことにより、巻線機33の巻線速度を十分に高めることが可能になる。
【0041】
なお、上述した実施の形態では、逆転ローラ26がスプール12のフランジ部12bの外周に接触する場合を説明したけれども、図示しないが、スプール12とともに回転する円形部材をそのスプール12と同軸に設け、逆転ローラ26をそのスプール12とともに回転する図示しない円形部材に接触させて、その逆転ローラ26をスプール12の回転方向と逆方向に回転させても良い。
【符号の説明】
【0042】
10 線材繰出し機
11 線材
12 スプール
17 撓みセンサ
20 スプールに巻回された線材の緩み防止装置
21 支持柱
23 横支持棒
24 枢支体
26 逆転ローラ
27 正転ローラ
28 挟持用ローラ
図1
図2
図3
図4
図5