(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のPDF信号に存在する振幅値の下限値(PL_1)と上限値(PM_1)と、前記第2のPDF信号に存在する振幅値の下限値(PL_2)と上限値(PM_2)とを求める上下限値算出ステップ(S107)を更に備え、
前記推定値算出ステップは、前記第1のPDF信号に存在する振幅値の前記下限値(または前記第2のPDF信号に存在する振幅値の前記下限値のうち最下限である最下限値(PL_12)と、
前記第1のPDF信号に存在する振幅値の前記上限値または前記第2のPDF信号に存在する振幅値の前記上限値のうち最上限である最上限値(PM_12)と、
求めたい推定値の候補を含む平均値パラメータ(β)と、
振幅成分をあらわす確率変数(k)と、
第1のPDF信号Dの関数(f1)と、
第2のPDF信号Fの関数(f2)とを用いて、下記式
に基づいて前記相関値であるv(β)を最大とする前記平均値パラメータβを求めることにより前記推定値を推定する請求項3記載の濾波方法。
【発明の概要】
【0005】
処理時間を減少させるために雑音発生の学習情報を用いた研究例として、センサ信号をA/D変換し、ディジタル信号処理を用いたローパスフィルタを雑音除去に適用した報告もある(たとえば、特許文献1参照)。ローパスフィルタは、遮断周波数幅を低く設定することで低い周波数の雑音成分まで除去することが可能になる。
【0006】
たとえば、
図13に示す特許文献1の従来の計量装置においては、搬送手段が持つ定常的な低周期振動の周期を算出し、その周期に対応したトリガを発生する振動周期算出部81と、搬送手段に測定対象物が無い状態で計量手段が出力する無負荷の計量信号の波形と近似する振動補正波形を振動周期算出部で算出された周期でなる基本の波形関数から生成するため位相及び振幅を含む波形生成条件を算出して記憶する波形条件記憶部82と、振動周期算出部から発生されたトリガを基準として波形条件記憶部に記憶された振動波形を生成すための条件から計量信号を補正するための補正信号を生成する補正波形生成部83と、不図示の計量部から出力される計量信号(入力信号X)と補正波形生成部から出力される補正信号との差分により測定対象物の計量値を算出する補正部84とを備えている。そして、特許文献1では計量信号から高周波成分を除去するために不図示のローパスフィルタを用い、またローパスフィルタによってフィルタ処理された計量信号の交流成分のピーク値を検出して振動周期を算出している。
【0007】
このように、ローパスフィルタによりセンサ信号から雑音成分を除去して、信号成分を高速高精度に抽出する研究が従来から行われてきたが、その計算手法は線形演算によるものであった。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、線形演算を用いた信号処理では、解析や評価の手順が一意的に決まる半面、処理遅延時間や時間周波数の不確定性に基づくフィルタの応答時間等には原理的な制約が伴う。具体的には、ローパスフィルタの遮断周波数を低く設定した場合、センシング期間を長くする必要があり、その分だけ応答速度が遅くなるという問題があった。
【0009】
また、ローパスフィルタだけではなく、バンドパスフィルタ、ヒルベルト変換手法などが使用されている。バンドパスフィルタでは、たとえば5Hzから40Hzを通過帯域とする低域のバンドパスフィルタを設計したとき、直流信号を減衰させることが極めて困難である。ヒルベルト変換手法では、直流は減衰できるが低域の信号が減衰する。また、直流成分を抑圧する場合は、ディジタルフィルタのタップ数が著しく増加して処理遅延が著しく増加する。
【0010】
これらのフィルタリング手法は、センサ信号としての電気信号が有する振幅周波数特性や位相周波数特性の雑音の持つ局所性や偏りを利用して、目的となる信号成分である低域成分を抽出している。これらの処理を系(システム)としてとらえると、センサ信号(が有する周波数位相成分)に、処理システムの有するインパルス応答を時間領域で畳み込み演算して、信号の周波数位相成分を加工処理する演算モデルで定式化できる。この畳み込み演算は抽出する低周波成分の周波数が低ければ低いほど、インパルス応答の応答点数を大きくしなければ所望の低域周波数を抽出できない性質を有する。すなわち、処理時間が長くかかり、処理時間は(インパルス応答の応答点数)*(サンプリング時間T)/2で示される。この処理遅延はアナログ的手法をもちいても、アナログ処理の主モードである処理系の時定数τという尺度でみると、exp(−t/τ)に比例して、τ時間がその遅延処理時間を意味するため、低域処理はτが大きくなり、正常な信号を伝達するまでの遅延時間を増大させることになる。
【0011】
このようなセンサ信号に対する処理遅延を許せば、時々刻々と変化する信号の性質を取り逃がすとともに、時間変動していく信号の取得機会損失を引き起こす可能性も生じるため、この処理遅延の解決が望まれていた。
【0012】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、直流を減衰させても、低域の所望信号の成分を減衰させない濾波装置を提供する技術に関し、センサ信号などに含まれる低周波信号成分を切り出した測定区間において短時間に抽出処理する技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、請求項1記載の濾波装置(100)は、雑音信号成分およびアナログの所望信号(Y)で成る入力信号(X)から前記所望信号を抽出するための濾波装置であって、
前記入力信号の略全ての信号帯域を含んだ全帯域信号(A)から、前記雑音信号成分を含み、前記全帯域信号のうち所定の帯域である所定帯域信号(B)を抽出する帯域通過フィルタ(11)と、
前記全帯域信号と前記所定帯域信号との差分を演算して直流成分を含む低周波信号(C)を生成する差分演算部(13)と、
前記低周波信号に振幅の分布を示すPDF(Probability Density Function)処理を行って、第1のPDF信号(D)を生成する第1のPDF処理部(15)と、
前記低周波信号を所定位相だけ位相シフトして前記低周波信号から低周波位相シフト信号(E)を生成する位相シフタ(16)と、
前記低周波位相シフト信号に振幅の分布を示すPDF処理を行って、第2のPDF信号(F)を生成する第2のPDF処理部(17)と、
前記第1のPDF信号と前記第2のPDF信号との相互相関演算を行って相関値を求める相関値算出部(18)と、
前記相関値の最大値に基づいて、前記低周波信号の直流成分を推定して推定値として出力する推定値算出部(19)と、
前記低周波信号から前記推定値を減算する減算器(21)とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の信号処理装置は、請求項1の濾波装置(100)において、
前記推定値算出部は、前記第1のPDF信号に存在する振幅値の下限値(PL_1)と上限値(PM_1)と、前記第2のPDF信号に存在する振幅値の下限値(PL_2)と上限値(PM_2)とを求め、前記第1のPDF信号に存在する振幅値の前記下限値または前記第2のPDF信号に存在する振幅値の前記下限値のうち最下限である最下限値(PL_12)と、
前記第1のPDF信号に存在する振幅値の前記上限値または前記第2のPDF信号に存在する振幅値の前記上限値のうち最上限である最上限値(PM_12)と、
求めたい推定値の候補を含む平均値パラメータ(β)と、
振幅成分をあらわす確率変数(k)と、
第1のPDF信号Dの関数(f1)と、
第2のPDF信号Fの関数(f2)とを用いて、下記式
に基づいて前記相関値であるv(β)を最大とする前記平均値パラメータβを求めることにより前記推定値を推定することを特徴とする。
【0015】
上記した目的を達成するために、請求項3記載の濾波方法は、雑音信号成分およびアナログの所望信号(Y)で成る入力信号(X)から前記所望信号を抽出するための濾波方法であって、
前記入力信号の略全ての信号帯域を含んだ全帯域信号(A)から、前記雑音信号成分を含み、前記全帯域信号のうち所定の帯域である所定帯域信号(B)を抽出する帯域抽出ステップ(S101)と、
前記全帯域信号と前記所定帯域信号との差分を演算して直流成分を含む低周波信号(C)を生成する差分演算ステップ(S102)と、
前記低周波信号に振幅の分布を示すPDF(Probability Density Function)処理を行って、第1のPDF信号(D)を生成する第1のPDF処理ステップ(S103)と、
前記低周波信号を所定位相だけ位相シフトして前記低周波信号から低周波位相シフト信号(E)を生成する位相シフトステップ(S104)と、
前記低周波位相シフト信号に振幅の分布を示すPDF処理を行って、第2のPDF信号(F)を生成する第2のPDF処理ステップ(S105)と、
前記第1のPDF信号と前記第2のPDF信号との相互相関演算を行って相関値を求める相関値算出ステップ(S106)と、
前記相関値の最大値に基づいて、前記低周波信号の直流成分を推定して推定値として出力する推定値算出ステップ(S108)と、
前記低周波信号から前記推定値を減算する減算ステップ(S109)とを含むことを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の信号処理方法は、請求項3の濾波方法において、前記第1のPDF信号に存在する振幅値の下限値(PL_1)と上限値(PM_1)と、前記第2のPDF信号に存在する振幅値の下限値(PL_2)と上限値(PM_2)とを求める上下限値算出ステップ(S107)を更に備え、
前記推定値算出ステップは、前記第1のPDF信号に存在する振幅値の前記下限値または前記第2のPDF信号に存在する振幅値の前記下限値のうち最下限である最下限値(PL_12)と、
前記第1のPDF信号に存在する振幅値の前記上限値または前記第2のPDF信号に存在する振幅値の前記上限値のうち最上限である最上限値(PM_12)と、
求めたい推定値の候補を含む平均値パラメータ(β)と、
振幅成分をあらわす確率変数(k)と、
第1のPDF信号Dの関数(f1)と、
第2のPDF信号Fの関数(f2)とを用いて、下記式
に基づいて前記相関値であるv(β)を最大とする前記平均値パラメータβを求めることにより前記推定値を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の濾波装置および濾波方法によれば、全帯域信号Aから所定帯域信号Bを抽出し、全帯域信号Aと所定帯域信号Bの差分から低周波信号Cを生成し、第1のPDF信号Dと第2のPDF信号Fとを生成し、それぞれのPDF信号同士の相関処理により相関値を求め、相関値の最大値に基づいて低周波信号の直流成分を推定した推定値を求め、低周波信号Cから推定値を減算することで入力信号Xから所望信号Yを抽出する構成となっており、測定区間のどこから処理を開始してもその区間毎に測定結果を抽出するリアルタイム処理を行っているので、信号の初期過程から逐次的に処理して結果を算出する従来の濾波装置および濾波方法では長時間かからなければ得られなかった所望信号Yを、本発明の濾波装置および濾波方法では短時間に算出でき、かつ極めて高精度に算出できる。
【0018】
また、本発明の濾波装置および濾波方法は測定区間毎に処理しているので、測定区間のPDF信号を求めた後の推定値算出処理にかかる時間は、使用するCPU(中央処理装置)の演算速度が上がるほど短時間で処理できるため、従来の濾波装置および濾波方法で原理的に生じていた遅延を極めて効果的に解消できる。
【0019】
さらに、本発明の濾波装置および濾波方法は第1のPDF信号Dと、第2のPDF信号Fとにそれぞれ存在する振幅値の上限値と、下限値とを各々用いて、PDF信号同士の相関値が最大となる推定値を求めているので、所望信号Yを短時間かつ極めて高精度に抽出できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者等によりなされる実施可能な他の形態、実施例および運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれる。
【0022】
本発明は、センシングした物理量の一例として、たとえば測定対象物が負荷された力学量センサから出力される入力信号Xの振幅を確率変数とし、その確率密度関数PDF(Probability Density Function)や累積確率分布APD(Amplitude Probability Distribution)を求めて処理を行う濾波装置であるので、はじめに、確率密度関数PDF、累積確率分布APDについて簡単に説明する。
【0023】
確率密度関数(確率密度分布ともいう)PDFは、
図3のような時間信号を例にとると、測定時間T内において、適切なサンプリング時間で抽出された振幅値の発生頻度を必要測定精度で量子化した振幅レベルごとに計数して求められる。
【0024】
このPDF値を、確率変数で積分(累積)すればAPD値になるが、APD値の定義「信号振幅の包絡線信号がある閾値レベルを超える時間確率」を採用すると、信号振幅r(t)に対して信号振幅の離散値xiを確率変数とし、測定時間Tでは、信号振幅閾値Rでの占有時間Wi(xk)を累積加算し、Tで割るとxiにおけるAPD値が次式(1)のように求められる。
【0025】
APD(xi)=ΣWi(xk)/T ……(1)
ただし、記号Σは、i=1〜N(xk)までの総和を表す
【0026】
逆に、このAPD値を確率変数について差分演算を行えば、PDF値を求めることができる。
【0027】
[濾波装置の構成例および動作例]
以上の準備のもとに、本発明の濾波装置100の動作例を説明する。本例の濾波装置100は、センシングした物理量の一例として、たとえば測定対象物が負荷された力学量センサから出力されるアナログの直流成分である所望信号Yと、この所望信号Yに重畳する有害な雑音成分とを含む入力信号Xについて、所望信号Yを抽出するための装置である。本発明の濾波装置100により抽出された所望信号Yは、たとえば測定対象物の重量を測定する装置に適用可能である。
【0028】
まず、本発明に係る濾波装置100の装置構成について、
図1を参照しながら説明する。 本例の濾波装置100は、A/D変換部10、帯域通過フィルタ11、第1の遅延器12、差分演算部13、第2の遅延器14、第1のPDF処理部15、位相シフタ16、第2のPDF処理部17、相関値算出部18、推定値算出部19、第3の遅延器20、減算器21を備えている。
【0029】
本発明に係る濾波装置100は、たとえばDSP(Digital Signal Processor)や、FPGA(Field Programmable Gate Array)といったハードウエアや、その周辺装置にて実現されている。
【0030】
A/D変換部10は、アナログの入力信号Xを所定のサンプリング周期でサンプリングし、アナログ信号からディジタル信号に変換して、入力信号Xの略全ての信号帯域を含んだ全帯域信号Aを生成する。
【0031】
帯域通過フィルタ11は、全帯域信号Aのうち所定の帯域である所定帯域信号Bを抽出するバンドパスフィルタであり、ディジタル処理にてフィルタリング処理を行っている。ここでいう所定帯域は、入力信号Xに含まれている雑音信号成分を含むようにし、(かつ略直流の極めて低い周波数成分を含む帯域である。この帯域通過フィルタ11の通過帯域は、たとえば5Hzから40Hzを通過帯域としている。なお、帯域通過フィルタ11は直線位相のフィルタとなるように構成されている。
【0032】
第1の遅延器12は、帯域通過フィルタ11のフィルタリング処理にかかる時間と同等の時間、全帯域信号Aをその位相特性を保持したまま遅延させる遅延器である。
【0033】
差分演算部13は、全帯域信号Aと所定帯域信号Bとの差分を演算して低周波信号Cを生成する。低周波信号Cは、雑音信号成分およびアナログの所望信号で成る入力信号Xの略直流成分を含んでいる。
【0034】
第2の遅延器14は、後述する位相シフタ16の位相シフト処理にかかる時間と同等の時間、低周波信号Cを遅延させる遅延器である。第2の遅延器14の出力には、雑音信号成分およびアナログの所望信号で成る入力信号Xの略直流成分を含んでいる。
【0035】
第2の遅延器14で遅延された低周波信号Cは、第1のPDF処理部15に入力される。第1のPDF処理部15は、PDF(Probability Density Function)処理を行って、低周波信号Cの確率密度関数である第1のPDF信号Dを算出する。
【0036】
第1のPDF処理部15、第2のPDF処理部17の内部構成例を
図2に示す。
図2を用いてより具体的に説明すると、第2の遅延器14で遅延された低周波信号Cを第1のPDF処理部15の正規化処理部30に入力し、負のデータなどが生じた時は全体として正のデータにするシフト処理などを行い、その正規化した値を対数変換部31によって対数変換し、その対数値を計測目標とする精度の単位で量子化する。なお、対数変換部31は、多数のデータの処理を円滑にするためであり、この構成を省くこともできる。第2のPDF処理部17についても同様の動作である。
【0037】
そして、この対数値をPDF演算部32に入力する。PDF演算部32は、入力される対数値の各出現頻度(ヒストグラム)を求め、これを一定時間Tpに入力されたデータ総数で割ることで、正規化された確率密度関数である第1のPDF信号Dを算出する。
【0038】
一方、位相シフタ16は、低周波信号Cを所定位相だけ位相シフトして低周波信号Cから低周波位相シフト信号Eを生成する。なお、位相シフタ16の出力には、雑音信号成分およびアナログの所望信号で成る入力信号Xの略直流成分を含んでいない。
【0039】
低周波信号Cを位相シフタ16で遅延することで得られた低周波位相シフト信号Eは、第2のPDF処理部17に入力される。第2のPDF処理部17は、PDF処理を行って、低周波位相シフト信号Eの確率密度関数である第2のPDF信号Fを算出する。
【0040】
ところで、所望信号Yは雑音信号成分を含まない統計平均値と等価である。低周波信号Cの信号のPDF波形形状(ここでは第1のPDF信号D)のプロフィールと、低周波信号Cを所定位相だけ位相シフトした低周波位相シフト信号Eから統計平均値を除外した雑音信号成分のPDF波形形状(ここでは第2のPDF信号F)のプロフィールは同一であると考えられる。
【0041】
このことから、第1のPDF信号Dのプロフィールと、第2のPDF信号FのプロフィールとのPDF波形形状比較を行ったときに形状の同一性の尺度を定義し、その値が最大となる、すなわちPDFカーブの形状の同一性の尺度値が最大になる推定値を求めることにより、低周波信号Cの直流成分を推定することができる。PDF波形形状比較を行ったときの形状の同一性は、相互相関演算を行って相関値を算出することで判断できる。
【0042】
得られた第1のPDF信号Dおよび第2のPDF信号Fは、PDF波形形状比較を行うために相関値算出部18に入力される。相関値算出部18は、第1のPDF処理部15で得られた確率密度関数である第1のPDF信号Dと、第2のPDF処理部17で得られた確率密度関数である第2のPDF信号Fとに基づいて、相互相関演算を行って相関値を算出する。
【0043】
推定値算出部19の動作について説明する。求めたい推定値は第1のPDF信号Dの直流成分を含む所望信号Yに比例した振幅であるので、第2のPDF信号Fについて求めたい平均値パラメータをβとすると、相互相関演算に用いる信号は平均値パラメータβ+第2のPDF信号Fとなる。このことから、PDF波形形状比較を行ったときの形状の同一性を示している求めたい推定値は、第1のPDF信号Dと、第2のPDF信号Fとの相関値の最大値となる。
【0044】
相関値の最大値である推定値を求める処理について
図4を用いて説明する。PDF信号の存在するレベルの下限値と上限値とを利用する。第1のPDF信号Dの場合は、
図4(A)に示すようにPDF信号の存在するレベルの下限値をPL_1とし、上限値をPM_1とする。第2のPDF信号Fの場合、
図4(B)に示すようにPDF信号の存在するレベルの下限値をPL_2とし、上限値をPM_2とする。
【0045】
次に、第1のPDF信号に存在する振幅値の下限値PL_1または第2のPDF信号に存在する振幅値の下限値PL_2のうち最下限である最下限値PL_12と、第1のPDF信号に存在する振幅値の上限値PM_1または第2のPDF信号に存在する振幅値の上限値PM_2のうち最上限である最上限値PM_12との区間の中で、平均値パラメータβをnΔステップ(nは整数)で変更し、変更する毎に第1のPDF信号Dの関数f1と、第2のPDF信号Fの関数f2とを乗算して相関値を求め、その相関値が最大となる平均値パラメータβを求めたい推定値とする。
【0046】
次に、相関値の最大値である推定値を決定する処理について、さらに
図5を用いて説明する。式(2)において、平均値パラメータβのいずれかが求めたい推定値の候補値であり、ν(β)を最大にする平均値パラメータβが求めたい推定値である。平均値パラメータβを求める精度をΔとし、初期値はβ0とする。初期値β0は、たとえば第1のPDF信号Dまたは第2のPDF信号Fの中間値としてもよい。β0+−nΔの探索を行い、その相関値が最大になるように、+−Δの範囲に追い込む処理を行う。この時のβ0+−nΔが最も確からしい値として推定値を決定する方法である。
【0047】
相互相関演算νは次式(2)を用いる。なお、第1のPDF信号Dを関数f1、第2のPDF信号Fを関数f2とする。なお、kは確率変数であり、振幅成分をあらわしている。
……(2)
【0048】
推定値算出部19で推定した推定値は直流成分を有している。上述の処理により推定値算出部19は、相関値の最大値に基づいて、低周波信号Cの直流成分を推定して推定値として出力する。
【0049】
第3の遅延器20は、第2の遅延器14の遅延時間、第1のPDF処理部15の処理にかかる時間、相関値算出部18の処理にかかる時間および推定値算出部19の処理にかかる時間の和と同等の時間、低周波信号Cを遅延させる遅延器である。または、位相シフタ16の位相シフト処理にかかる時間、第2のPDF処理部17の処理にかかる時間、相関値算出部18の処理にかかる時間および推定値算出部19の処理にかかる時間の和と同等の時間、低周波信号Cを遅延させる遅延器である。
【0050】
減算器21は、第3の遅延器20で遅延した低周波信号Cから推定値算出部19で推定した直流成分を有している推定値を減算して所望信号Yを出力する。
【0051】
低周波信号Cから直流成分を有している推定値を減算すると、入力信号Xから減衰のない所望信号Yが抽出されることになり、すなわち濾波装置100が構成される。
【0052】
このように、本発明の濾波装置100によれば、測定区間のどこから処理を開始してもその区間毎に測定結果を抽出するリアルタイム処理を行っているので、所望信号Yを短時間に算出できる。
【0053】
さらに、本発明の濾波装置100によれば、第1のPDF信号Dと、第2のPDF信号Fとにそれぞれ存在する振幅値の上限値と、下限値とを各々用いて、PDF信号同士の相関値が最大となる推定値を求めているので、所望信号Yを短時間かつ極めて高精度に抽出できる。
【0054】
[濾波装置における処理動作例]
次に、本発明の濾波装置に関する処理動作の一例について、
図6を参照しながら説明する。
【0055】
まず、アナログの入力信号Xを所定のサンプリング周期でサンプリングし、アナログ信号からディジタル信号に変換する。
【0056】
次に、入力信号Xの略全ての信号帯域を含んだ全帯域信号Aから、雑音信号成分を含み、全帯域信号のうち所定の帯域である所定帯域信号Bを抽出する(S101)。具体的には、ディジタル処理にてフィルタリング処理を行ってバンドパスフィルタ動作をさせる。
【0057】
次に、全帯域信号Aと所定帯域信号Bとの差分を演算して直流成分を含む低周波信号Cを生成する(S102)。
【0058】
低周波信号Cを第1のPDF処理によってPDF(Probability Density Function)処理を行い、低周波信号Cの確率密度関数である第1のPDF信号Dを生成する(S103)。
【0059】
一方、低周波信号Cを所定位相だけ位相シフトして低周波信号Cから低周波位相シフト信号Eを生成する(S104)。
【0060】
低周波位相シフト信号Eを第2のPDF処理によってPDF処理を行い、低周波位相シフト信号Eの確率密度関数である第2のPDF信号Fを生成する(S105)。
【0061】
第1のPDF信号Dと、第2のPDF信号Fとに基づいて、相互相関演算を行って相関値を算出する(S106)。
【0062】
第1のPDF信号に存在する振幅値の下限値PL_1と上限値PM_1と、第2のPDF信号に存在する振幅値の下限値PL_2と上限値PM_2とを求める(S107)。推定値算出ステップは、第1のPDF信号に存在する振幅値の下限値PL_1または第2のPDF信号に存在する振幅値の下限値PL_2のうち最下限である最下限値PL_12と、第1のPDF信号に存在する振幅値の上限値PM_1または第2のPDF信号に存在する振幅値の上限値PM_2のうち最上限である最上限値PM_12と、求めたい推定値の候補を含む平均値パラメータβと、振幅成分をあらわす確率変数kと、第1のPDF信号Dの関数f1と、第2のPDF信号Fの関数f2とを用いて、次式(2)を用いて相互相関演算νを行う。
……(2)
【0063】
相関値の最大値に基づいて、低周波信号Cの直流成分を推定して推定値として出力する(S108)。
【0064】
低周波信号Cから直流成分を有している推定値を減算して所望信号Yを出力する(S109)。
【0065】
低周波信号Cから直流成分を有している推定値を減算すると、入力信号Xから減衰のない所望信号Yが抽出でき、濾波処理が完了する。なお、本発明の濾波処理では第1の遅延器12、第2の遅延器14、第3の遅延器20に相当する遅延処理を適宜用いてもよい。
【0066】
[濾波装置による処理結果例]
次に、実際の濾波装置の処理結果例を示す。実際に本発明を適用した雑音信号成分およびアナログの所望信号で成る入力信号Xは、センサ信号、たとえば力学量センサから出力される電気信号である。具体的には、力学量センサの一種である歪センサを片持ち梁構造の台の裏に貼り付けた、たとえばロードセルなどの歪センサである。歪センサは、測定対象物の重量により生じる荷重による力学的なたわみである力学量を、たとえば圧電現象により電気信号に変換する。
【0067】
上述のように、歪センサからは測定対象物の重量により生じる荷重による電気信号が出力され、求めたい所望信号Yはこの測定対象物の重量により生じる荷重による略直流の極めて低い周波数成分である。
【0068】
しかしながら、求める所望信号Yに加え、歪センサを取り付けた機構系の固有振動雑音や歪センサの土台に生じる振動系雑音が歪センサに感知され、さらに電源などの電気雑音が混入した結果、入力信号Xが生成される。
【0069】
測定対象を明確にして評価するために、模擬データを用いてシミュレーションを行った。
図7に、入力信号Xの波形例を示す。使用した模擬データは、所望信号Yの直流振幅の真値は65535/2(ここでは測定対象物の重量584g程度)の直流成分を有している例として説明する。この所望信号Yに、雑音信号成分に相当する振動成分として周波数10Hzで、振幅1000の交流信号が重畳されている。すなわち、入力信号Xは所望信号Yと雑音信号成分との合成波形である。
【0070】
図8に、所望信号Yの直流成分の振幅の真値を65535/2としたときの低周波信号Cの波形例を示す。
図9は
図8の低周波信号Cの850〜900msecの測定区間についてPDF処理した第1のPDF信号Dの波形例である。なお、ここでいう測定区間とは、たとえば測定対象物を歪センサへ負荷したときの負荷開始タイミングから850〜900msec経過した区間であり、負荷開始タイミングで生じた秤の固有振動が一定程度収束したとみなせる区間である。
【0071】
図10は
図8の低周波信号Cの850〜900msec の測定区間について、低周波信号Cを位相シフタ16によってたとえば180度位相シフト処理して低周波位相シフト信号Eを生成した結果に、直流シフト補正値として65535/2の直流成分を加算し、さらに第2のPDF処理部17によってPDF処理した第2のPDF信号Fの波形例である。なお、位相シフト量は相関値を算出するために適当であれば、180度に限らない。
【0072】
図11は第1のPDF信号Dと、第2のPDF信号Fとの相互相関演算の結果の波形例を示す図である。本発明の所望信号Yの変動時の追従性を評価するために、所望信号Yの直流振幅の真値を64535/2に変更した時の相関値が示されており、最大値は90.2478dBとなっている。
【0073】
図12は、本発明の所望信号Yの変動時の追従性を評価するために、直流成分の振幅の真値を66535/2に変更した所望信号Yに基づく低周波信号Cの第1のPDF信号Dと、振幅を変更した所望信号Yに基づく低周波信号Cを位相シフトした第2のPDF信号Fとの相互相関演算の結果の波形例を示す図である。所望信号Yの直流振幅の真値を66535/2に変更した時の相関値が示されており、最大値は90.5123dBとなっている。
【0074】
このように、所望信号Yの直流振幅の真値を64535/2から66535/2に変更したとき、本発明の濾波装置100は直流変動分の90.5123dB−90.2478dB=0.2645dBに十分に追従している。したがって、本発明の濾波装置および濾波方法によれば、所望信号Yを極めて高精度に算出できるとともに、所望信号Yを変動させた場合であっても極めて正確に追従できる。