(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797139
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ、及びゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20151001BHJP
A63B 53/02 20150101ALI20151001BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20151001BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B53/02
A63B102:32
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-61414(P2012-61414)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-192667(P2013-192667A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】山口 利道
【審査官】
右田 純生
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−088800(JP,A)
【文献】
特開2010−046338(JP,A)
【文献】
特開2007−296216(JP,A)
【文献】
特開2009−011366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/02−04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻部材を接合することでクラウン部、ソール部、サイド部、及びフェース部を具備した中空構造のヘッド本体と、前記ヘッド本体に設けられ、前記クラウン部から突出するホーゼルと、前記ホーゼルに嵌入固定されるシャフトと、を有するゴルフクラブであって、
前記クラウン部は、厚肉部と薄肉部を有しており、
前記ホーゼルの外周から前記薄肉部までの距離をD、前記ホーゼルの軸方向長さLの内、前記クラウン部からホーゼルにかけての曲率変化部Pに対する外部突出側の長さをL1とした場合、
前記クラウン部とホーゼルは、ロフト角、ライ角、フェース角を調整するためのホーゼル調整作業を行うに際して実際に作業者がマンドレル治具を動かすホーゼル調整範囲内では、D>L1に設定され、
前記クラウン部は開口を有し、前記開口に、前記厚肉部と薄肉部を具備したクラウンプレートを溶接することで前記クラウン部を構成しており、
前記クラウン部の開口領域における肉厚は、前記開口に溶接されるクラウンプレートの厚肉部よりも厚く形成されていることを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
前記ホーゼルの外周から薄肉部までの距離Dの内、前記ホーゼルの外周から、前記クラウンプレートと前記開口との間に設けられる溶接ビードの端部までの距離D1を、(1/2)D±3mmとしたことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
前記ヘッド本体を平面視した際の前記ホーゼルの軸芯Xとトウ側における端縁とを結ぶラインを基準線Sとし、前記軸芯Xからヘッド本体のヒール側の最も外側で接する外接線S1に至るまでの角度をθとした場合、前記調整範囲を(2/3)θ以上としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブ。
【請求項4】
前記ホーゼルの軸方向長さLの内、前記クラウン部からホーゼルにかけての曲率変化部Pに対する内部突出側の長さをL2とした場合、L1≧L2としたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のゴルフクラブ。
【請求項5】
外殻部材を接合することでクラウン部、ソール部、サイド部、及びフェース部を具備した中空構造のヘッド本体を有するゴルフクラブヘッドであって、
前記クラウン部は、厚肉部と薄肉部を有しており、
前記ホーゼルの外周から前記薄肉部までの距離をD、前記ホーゼルの軸方向長さLの内、前記クラウン部からホーゼルにかけての曲率変化部Pに対する外部突出側の長さをL1とした場合、
前記クラウン部とホーゼルは、ロフト角、ライ角、フェース角を調整するためのホーゼル調整作業を行うに際して実際に作業者がマンドレル治具を動かすホーゼル調整範囲内では、D>L1に設定され、
前記クラウン部は開口を有し、前記開口に、前記厚肉部と薄肉部を具備したクラウンプレートを溶接することで前記クラウン部を構成しており、
前記クラウン部の開口領域における肉厚は、前記開口に溶接されるクラウンプレートの厚肉部よりも厚く形成されていることを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記ホーゼルの外周から薄肉部までの距離Dの内、前記ホーゼルの外周から、前記クラウンプレートと前記開口との間に設けられる溶接ビードの端部までの距離D1を、(1/2)D±3mmとしたことを特徴とする請求項5に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記ヘッド本体を平面視した際の前記ホーゼルの軸芯Xとトウ側における端縁とを結ぶラインを基準線Sとし、前記軸芯Xからヘッド本体のヒール側の最も外側で接する外接線S1に至るまでの角度をθとした場合、前記調整範囲を(2/3)θ以上としたことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記ホーゼルの軸方向長さLの内、前記クラウン部からホーゼルにかけての曲率変化部Pに対する内部突出側の長さをL2とした場合、L1≧L2としたことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブに関し、詳細には、中空構造のヘッド、及びそのようなヘッドを装着したゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中空構造のヘッドを備えたゴルフクラブ(ウッド型ゴルフクラブ)は、スイングスピードを向上して打球の飛距離が伸びるようにヘッドを軽量化したり、打球がぶれないように、ヘッドを大型化してヘッドの慣性モーメントを高くする等、様々な工夫が施されている。例えば、特許文献1に開示されているように、ヘッドを構成する部材を薄肉厚化できるように、ヘッドをTi合金で形成すると共に、所望部位に化学研磨(ケミカルミーリング)を施すことが知られている。
【0003】
上記したような化学研磨は、ヘッドを構成する外殻部材の内、クラウン部分に施すことで、ソール部分に、大きな重量体を配設することなく、ヘッドを低重心化することが可能となる。すなわち、中空構造のヘッドは、クラウン部、ソール部、フェース部、及びサイド部(トウ部、バック部、ヒール部を有するサイド部)の4つの外殻部材を溶着等によって接合することで構成されていることが多く、上記した4つの外殻部材の内、クラウン部全体を、化学研磨を用いて薄肉厚化することで、ヘッド全体を軽量化しつつ、低重心化を図ることが可能となる。
【0004】
ところで、ゴルファーのスイング軌道は、ゴルファー毎の癖によって異なっており、同一番手のゴルフクラブであっても、飛距離や方向性に差が出ることが知られている。すなわち、一般的に知られているように、ウッド型のゴルフラブは、ライ角、ロフト角及びフェース角の数値によって、同一番手であっても異なる仕様となっており、これらの数値がスイングの状態に合致すると、そのゴルファーにとって、より良いゴルフクラブとなる。通常、ゴルフクラブを購入するに際して、一般ユーザは、それらの数値を頼りにして、自分に適していると考えるゴルフクラブを選択したり、ゴルフショップ等において、自分のスイングを実際に測定して、最適な仕様のゴルフクラブを購入することも行われるようになってきている。
【0005】
また、最近では、購入したゴルフクラブについて、実際にゴルフショップ等に持ち込んでスイング測定をした後、そのゴルフクラブのヘッドを、自らのスイングに適合するように、ライ角、ロフト角、及びフェース角を調整(調角)することも行われている。通常、このような調整作業は、シャフトの先端が差し込まれているホーゼル周りを変位させて微調整することで行うことが可能であり、シャフトからヘッドを取り外すと共に、ヘッドを専用の型に設置して固定状態とし、ヘッドのクラウン領域から突出するホーゼル部分にマンドレル治具を嵌入して、力作業でホーゼル周りの調整作業(調角作業)を行っている。すなわち、作業者は、ホーゼル周辺を目視しつつ、ある程度の感によってマンドレル治具を動かしながら、そのユーザにとって最適なライ角、ロフト角、及びフェース角となるような調整作業を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3056395号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、最近の中空構造のヘッドは、その外殻部材を化学研磨などによって薄肉厚化することが行われており、特に、クラウン部全体を薄肉厚化することが行われている。そして、このようなクラウン部が薄肉厚化されたヘッドでは、ホーゼル部周辺の強度が弱く、上記したようなマンドレル治具を用いて調整作業を行うと、力の掛け具合によって、クラウン部のホーゼル部の近辺に、皺やクラック等が発生することがある。
【0008】
このような皺やクラック等が発生すると、最早、そのゴルフクラブをユーザに戻すことができなくなり、不良品として処理したり、或いは、ユーザに、新たなゴルフクラブを提供する必要性も生じてしまい、調整作業に慎重さが要求されると共に無駄も生じている。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、クラウン部が薄肉厚化されているヘッドを装着したゴルフクラブにおいて、ライ角、ロフト角、フェース角の調整作業を行い易いゴルフクラブ、及びゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明は、外殻部材を接合することでクラウン部、ソール部、サイド部、及びフェース部を具備した中空構造のヘッド本体と、前記ヘッド本体に設けられ、前記クラウン部から突出するホーゼルと、前記ホーゼルに嵌入固定されるシャフトと、を有するゴルフクラブであって、前記クラウン部は、厚肉部と薄肉部を有しており、前記ホーゼルの外周から前記薄肉部までの距離をD、前記ホーゼルの軸方向長さLの内、クラウン部からホーゼルにかけての曲率変化部Pに対する外部突出側の長さをL1とした場合、前記クラウン部とホーゼルは、ロフト角、ライ角、フェース角を調整する
ためのホーゼル調整作業を行うに際して実際に作業者がマンドレル治具を動かすホーゼル調整範囲内では、D>L1に設定され
、前記クラウン部は開口を有し、前記開口に、前記厚肉部と薄肉部を具備したクラウンプレートを溶接することで前記クラウン部を構成しており、前記クラウン部の開口領域における肉厚は、前記開口に溶接されるクラウンプレートの厚肉部よりも厚く形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記した構成のゴルフクラブは、シャフトからヘッド本体を取り外すと共に、ヘッド本体を専用の型に設置して固定状態とし、ヘッド本体のクラウン領域から突出するホーゼル部分にマンドレル治具を嵌入した状態でホーゼル周りの調整作業を行なう。すなわち、作業者は、マンドレル治具を動かしながら、シャフトが嵌入固定されるホーゼルの傾きを微調整することで、ゴルフクラブのロフト角、ライ角、フェース角を、そのプレーヤに合った状態に調整する。
【0012】
上記したヘッド本体は、低重心化が図れるように、クラウン部に薄肉部が形成されていても、ホーゼル周りのクラウン部の所定の範囲(作業時に大きな負荷が加わる領域)については、そのような薄肉部よりも厚さが厚い厚肉部にしているため、ホーゼルに嵌入したマンドレル治具を動かしても、皺やクラックが発生することを効果的に防止することが可能となる。すなわち、低重心化を図る目的があったとしても、クラウン部のホーゼル調整範囲内部分では、薄肉部を形成しないようにしているため、大きな負荷が薄肉部まで伝わることがなくなり、調整作業時に、クラウン部分に皺やクラックが発生することを効果的に抑制することが可能となる。
【0013】
なお、本発明は、ゴルフクラブ以外にも、各種シャフトに対して個別に装着される中空構造のゴルフクラブヘッドであっても良い。このようなゴルフクラブヘッドは、外殻部材を接合することでクラウン部、ソール部、サイド部、及びフェース部を具備した中空構造のヘッド本体を有する構造において、前記クラウン部は、厚肉部と薄肉部を有しており、前記ホーゼルの外周から前記薄肉部までの距離をD、前記ホーゼルの軸方向長さLの内、クラウン部からホーゼルにかけての曲率変化部Pに対する外部突出側の長さをL1とした場合、前記クラウン部とホーゼルは、ロフト角、ライ角、フェース角を調整する
ためのホーゼル調整作業を行うに際して実際に作業者がマンドレル治具を動かすホーゼル調整範囲内では、D>L1に設定され
、前記クラウン部は開口を有し、前記開口に、前記厚肉部と薄肉部を具備したクラウンプレートを溶接することで前記クラウン部を構成しており、前記クラウン部の開口領域における肉厚は、前記開口に溶接されるクラウンプレートの厚肉部よりも厚く形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低重心化が図れるように、クラウン部が薄肉厚化されていても、ライ角、ロフト角、フェース角の調整作業を行い易いゴルフクラブ、及びゴルフクラブヘッドが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るゴルフクラブの一実施形態を示した正面図。
【
図3】
図1のA−A線に沿った断面図(縦断面図)。
【
図6】
図5と同様な断面図であり、ヘッドの変形例を示す図。
【
図7】ロフト角、ライ角、フェース角の調整方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るゴルフクラブ、及びゴルフクラブヘッドの実施形態について説明する。
図1から
図5は、本発明に係るゴルフクラブの一実施形態を示す図であり、
図1は正面図、
図2は
図1に示すゴルフクラブの側面図、
図3は
図1のA−A線に沿った断面図(縦断面図、
図4はヘッド部分の平面図、そして、
図5は
図4のB−B線に沿った断面図である。
【0017】
本実施形態に係るゴルフクラブ1は、中空構造のヘッド3(ヘッド本体3A)のホーゼル20に金属やFRPで構成されたシャフト30の先端を嵌入、止着することで構成されている。この場合、
図1に示すように、ゴルフクラブ1のシャフト30の軸線Xを、規定のライ角αに設置した際、ソール部分が接する面が基準水平面Pとなる。また、ロフト角βは、シャフト30の軸線Xを基準水平面Pに対して直角に設置した際、フェースの中央位置における接線X1と前記軸線Xとの角度で定義される。さらに、図示しないが、前記ゴルフクラブ1をプレーヤが普通の状態に握って構えたときのフェース面の向きがフェース角となる。
【0018】
上記したゴルフクラブ1は、シャフト30が止着された後であっても、ロフト角、ライ角、フェース角を調整することが可能である。すなわち、ゴルフクラブは、所定のロフト角、ライ角、フェース角に設定された状態で販売されるが、ユーザが購入した後でも、そのような各角度を調整(調角)することが可能である。ここで、
図7を参照して、ロフト角、ライ角、フェース角の調整作業を具体的に説明する。
【0019】
まず、シャフトからヘッドを取り外すと共に、ヘッド3を専用の型50A,50Bに設置して固定状態とする。この型50A,50Bは、ヘッド3の表面形状に合致する内面形状を具備しており、ヘッド3を確実に、位置決め固定する。なお、型50A,50Bは、ヘッド3を固定する際、後述するクラウン部の薄肉部を押えても良いが、厚肉部の領域を押える構成であることが好ましい。
【0020】
この状態で、ヘッド3のクラウン領域から突出するホーゼル20の開口穴(シャフトが嵌入、止着されていた穴)21にマンドレル治具55を嵌入した状態で、マンドレル治具55を矢印で示すように動かしながら、ホーゼル20の傾きを微調整する。この調整は、そのゴルフクラブを使用するプレーヤのスイング軌道や癖等に合わせて、予め最適なロフト角、ライ角、フェース角(設定値)を算出しておき、その設定値になるように、マンドレル軸55を操作することで行われる。
【0021】
前記ヘッド3を構成するヘッド本体3Aは、打球が成されるフェース部4と、フェース部4の上縁から後方に延出するクラウン部5と、フェース部4の下縁から後方に延出するソール部6と、前記クラウン部5及びソール部6の縁部を繋ぐサイド部7とを備えた4ピース構造となっている(これらのピースはヘッド本体を構成する外殻部材となる)。なお、サイド部7は、フェース部4と対向する(後方側に位置する)バック部7aと、フェース部4のトウ・ヒール方向両サイドから、バック部7aに向かって延びるトウ部7b及びヒール部7cを備えている。
【0022】
前記ヘッド本体3Aを構成するそれぞれの外殻部材は、例えば、チタン合金、アルミ系合金、マグネシウム合金等を鋳造、プレス成形することで一体形成することができ、それぞれの端縁領域を溶接することにより(溶接時に設けられる溶接ビードを符号14で示す)、ヘッド本体3Aが作成される。なお、ヘッド本体3Aを構成する外殻部材は、必ずしも4ピース構造でなくても良く、様々な位置で分割した複数の外殻部材同士を接合したものであっても良い。
【0023】
また、前記フェース部4は、例えば、チタン、チタン合金等を、プレス加工、CNC加工、或いは鍛造等することで一体形成されており、上記した溶接以外にも、例えば、レーザ溶接、ろう付け、接着等によって、他の外殻部材に対して接合することが可能である。この場合、フェース部4を構成するフェース面4a(打球面)については、板状に構成したものを、フェース部4に形成された開口に止着する構成であっても良いし、カップ状に構成したものを、他の外殻部材に対して接合する構成であっても良い(
図3参照)。
【0024】
前記ヘッド本体3Aには、前記シャフト30の先端を止着するホーゼル20が設けられている。このホーゼル20は、前記外殻部材と一体形成しても良いし、外殻部材とは別体で形成しておき、外殻部材に対して接合しても良い。また、ホーゼル20には、シャフト30の先端が嵌入されるように、円形で軸方向(嵌入されるシャフトの軸線Xに沿う方向)に沿って所定の長さLを有する有底の開口穴21が形成されている。なお、ホーゼル20の軸方向長さLとは、
図5に示すように、シャフトが嵌入される深さ(ホーゼル20の開口縁から底面までの長さ)によって定義され、ホーゼル20は、クラウン部5から外方に突出する部分(
図5の符号L1で示す長さ突出する)と、ヘッド本体内に突出する部分(
図5の符号L2で示す長さ突出する)を有している。
【0025】
前記ヘッド本体3を構成するクラウン部5は、薄肉部5aと厚肉部5bを有している。このクラウン部5を構成する外殻部材については、一部が前記サイド部7を構成しても良く、或いは、フェース部4やサイド部7の上端を屈曲して、それぞれの一部がクラウン部を構成していても良い。本実施形態では、湾曲表面を有する板状部材(クラウンプレート5A)となって、サイド部7の上端縁7e及びフェース部4の屈曲縁4eで規定される開口を閉塞する(各端縁部で溶接ビード14によって溶接される)ように構成されている。この場合、前記ホーゼル20は、その表面がクラウンプレート5Aに移行するように屈曲形成された突片22と、ヒール側のサイド部に移行するように屈曲形成された突片23とを有している。そして、前記突片22は、所定の肉厚T3を具備し、その端縁は前記開口となって、前記クラウンプレート5Aが溶接されてクラウン部5の一部を構成している。また、突片23は、サイド部7のヒール側上端縁7eに対して溶接されてサイド部の一部を構成している。なお、
図5において、突片22とクラウンプレート5Aを接合する際に用いられた溶接ビードを符号15で示してあり、突片23とサイド部を接合する際に用いられた溶接ビードを符号16で示してある。
【0026】
前記クラウンプレート5Aは、クラウン部5の大半を占めており、上記したように薄肉部5aと厚肉部5bを有している。この場合、薄肉部5aは、所定の位置にマスキングを施して化学研磨処理液に浸すことで形成することが可能であり、このように薄肉化することで、クラウン部分を軽量化することが可能となる。すなわち、ヘッド本体で見た場合、クラウン部分が軽量化されることによって、ヘッドとして低重心化が図れるようになる。
【0027】
前記厚肉部5bは、
図4に示すように、クラウン部5の周囲に亘って形成することが好ましく、これによりサイド部やフェース部との間の接合部分(溶接部分)における剛性を高めることが可能となり、かつ、ヘッド本体の慣性モーメントを向上することが可能となる。この場合、厚肉部5bは、フェース部側の幅をWf、サイド部側の幅をWs、ホーゼル側の幅をWhとした場合、Wf,Wsは、ともにWh以下に設定しておくことが好ましい。このようにホーゼル部側における厚肉部の幅を広くしておくことで、ホーゼル部周りの剛性が向上し、ホーゼルの調角作業をした際の皺やクラック等の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0028】
なお、上記した薄肉部5aは、その肉厚T1が0.2〜1.0mm程度あれば良く、それよりも厚い厚肉部5bは、その肉厚T2が0.5〜1.5mm程度あれば良い。また、厚肉部5bにおける前記フェース部側の幅Wfは、5〜30mm程度、サイド部側の幅Wsは、5〜30mm程度、ホーゼル側の幅Whは、5〜20mm程度であれば良い。また、薄肉部5aの範囲には、部分的に厚肉部が存在していても良い。
【0029】
前記ホーゼル20の突片22と、クラウンプレート5Aの厚肉部5bは、同一の厚肉で接合されていても良いが、突片22の肉厚T3を、厚肉部5bの肉厚T2よりも厚くしておくこと(例えば、0.5〜2.0mm程度)で、よりホーゼル部周りの剛性を向上することができ、ホーゼルの調角作業をした際の皺やクラック等の発生を、より効果的に抑制することが可能となる。
【0030】
また、
図5に示すように、前記ホーゼル20の外周20aから前記薄肉部5bまでの距離をDとした場合(この距離Dは、ホーゼル20の軸線Xに対して直交する方向の長さによって定義される)、クラウン部5aとホーゼル20は、ロフト角、ライ角、フェース角を調整する際のホーゼル調整範囲内において、その距離Dは、ホーゼル20の内、クラウン部から突出している長さよりも長く形成されている。ここで、「クラウン部から突出する長さ」とは、厳密には、
図5に示すように、ホーゼル20の軸方向長さLの内、クラウン部5からホーゼル20にかけての曲率変化部P(本実施形態では、突片22の範囲に存在しており、クラウン部から立ち上がる部分となる)に対する外部突出側の長さL1で特定することが可能である。すなわち、ホーゼル20の外周20aから前記薄肉部5bまでの距離Dは、前記ホーゼル20の軸方向の外部突出長さL1よりも大きくなるように設定されている(D>L1)。
【0031】
この場合、上記したD>L1の関係が満足されるのは、ホーゼル20の周囲領域の全て(クラウン部5aの全て)であっても良いが、ホーゼル20の調整作業を行うに際して、実際に、作業者がマンドレル治具を動かす範囲内であれば良い。すなわち、このような範囲内に限定することにより、クラウン部5における厚肉部5bの範囲を制限して、クラウン部の軽量化が図れるようになる。
【0032】
具体的には、
図4に示すように、ヘッド本体3Aを平面視した際のホーゼル20の軸芯Xと、トウ側における端縁Ptとを結ぶラインを基準線Sとし、前記軸芯Xからヘッド本体3Aのヒール側の最も外側で接する外接線S1に至るまでの角度をθとした場合、そのθの範囲内において、(2/3)θ以上確保できれば、実際の調整範囲をカバーすることが可能となる(
図5は、そのような調整範囲内における断面図を示す)。
【0033】
上記のように構成されるゴルフクラブ(ゴルフクラブヘッド)によれば、
図7を参照して説明したように、ヘッド本体3Aを専用の型50A,50Bに設置して固定状態とし、ヘッド本体のクラウン領域から突出するホーゼル20にマンドレル治具55を嵌入した状態でホーゼル周りの調整作業(ロフト角、ライ角、フェース角の調角作業)を行なう。この場合、ヘッド本体の低重心化が図れるように、クラウン部5に薄肉部5aが形成されていても、ホーゼル周りのクラウン部の所定の範囲(作業時に大きな負荷が加わる領域)については、上記のように、薄肉部5aよりも厚さが厚い厚肉部5b(本実施形態では、突片22も含まれる)を、実際にマンドレル治具を支持して曲げる可動範囲(ホーゼル20のクラウン部からの突出長さL1)よりも長く形成しているため、その影響が薄肉部5aまで達し難くなり、結果として、厚肉部5b(突片22)による強度の向上によって、クラウン部5に、皺やクラックが発生することを効果的に防止することが可能となる。すなわち、クラウン部5のホーゼル調整範囲内部分では、低重心化を図る目的があったとしても、薄肉部を形成しないようにしているため、大きな負荷が薄肉部5aまで伝わることがなくなり、調整作業時に、クラウン部分に皺やクラックが発生することが効果的に抑制され、調整作業が行い易くなる。
【0034】
なお、上記した構成において、距離Dを、ホーゼル20の外周20aからにしたのは、マンドレル治具をホーゼル20の開口穴21に嵌入して曲げ操作を行った場合、その外周面から応力が伝わるためである。この距離Dについては、少なくとも20mm以上確保されているのが好ましい。また、前記ホーゼル20の全体の軸方向長さLについては、30〜50mm程度確保できていれば、調角作業が行い易くなる。
【0035】
この場合、ホーゼル20については、クラウン部の表面から突出する量(L1)が、その内部に突出する量(L2)以上に設定されていることが好ましい。具体的には、上記したように、ホーゼル20の軸方向長さLの内、クラウン部5からホーゼル20にかけて曲率が変化する部分(曲率変化部P)を基準として外部への突出長さをL1、内部への突出長さをL2とした場合、L1≧L2に設定しておくことが好ましい。
【0036】
ホーゼル20をこのような長さ関係にしておくことで、マンドレル治具を嵌入した際の調角作業が行ない易くなる。なお、実際には、L1については、20mm以上確保することで、調角作業が行ない易くなる。
【0037】
また、上記した実施形態の構成では、クラウン部5では、クラウンプレート5Aがホーゼル20の突片22に対して溶接により接合されている。この場合、
図5に示すように、接合部分の内面には、溶接ビード15が設けられる(通常の溶接作業では、接合箇所を中心にして両サイドに盛られ、その幅は6〜7mm程度になる)が、前記ホーゼル20の外周から薄肉部5aまでの距離Dの内、ホーゼル20の外周から、その溶接ビード15の一端部15aまでの距離D1を、(1/2)D±3mmとなるように設定しておくことが望ましい。
【0038】
このような関係に設定しておくことで、前記厚肉部5bにおける調整領域(D2で示す領域)をある程度確保することが可能となり、薄肉部5aへの影響を効果的に防止することが可能となる。なお、上記したように距離Dについては、少なくとも20mm以上確保されているのが好ましいことから、D1については、8mm以上、好ましくは10mm以上確保されていることが好ましい。
【0039】
なお、
図6に示すように、クラウン部5に関し、ホーゼル20の突片22を、
図5に示す構成と比較して長く形成する構成では、主にその突片22の厚肉部分で調整がなされることから、溶接ビード15の他端部15bまでの距離D1を、(1/2)D±3mmとなるように設定しておくことで、十分な調整領域を確保することが可能となる。
【0040】
また、薄肉部5aと厚肉部5bの関係については、ホーゼル20の調角作業を行なった際、その応力が薄肉部5a側に伝わらないように構成しておくことが好ましい。例えば、薄肉部5aと厚肉部5bは、表面に同一の曲率となる部分をある程度(ただし、全体の半分以下にすることが好ましい)形成して厚肉部5bから薄肉部5aに亘って外面形状が変化しない部分をある程度形成しておくことにより、厚肉部5bにおける曲率変化部分で弾性変形させ易くなり(塑性変形しない)、調角作業が容易に行えるようになる。或いは、薄肉部5aを外部側に膨らむ凸形状とし、厚肉部5bの内、半分以上を内側に膨らむ凸形状にすることにより、厚肉部5bの領域で弾性変形させ易くなり、調角作業が容易に行えるようになる。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
上記したヘッド本体のクラウン部5は、上記したように、ホーゼル20の周りの所定の範囲内(ホーゼル20のクラウン部からの突出長L1よりも長い範囲;D>L1)に、調角作業時に応力によって塑性変形することのない厚肉部が形成されていれば良く、この厚肉部については、上記したクラウンプレート5Aのみによって構成されていても良いし、ホーゼル20の突片22のみによって構成されていても良い。また、
図4に示す構成では、クラウン部5の外縁領域に、薄肉部を囲むように厚肉部を形成していたが、ホーゼル20の周りを除いて、全て薄肉部で構成しても良い。
【符号の説明】
【0042】
1 ゴルフクラブ
3 ヘッド
3A ヘッド本体
4 フェース部
5 クラウン部
5a 薄肉部
5b 厚肉部
6 ソール部
7 サイド部
20 ホーゼル
30 シャフト