(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797181
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】岸壁補修工法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
E02B3/06
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-244412(P2012-244412)
(22)【出願日】2012年11月6日
(65)【公開番号】特開2014-91993(P2014-91993A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2014年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241290
【氏名又は名称】豊国工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100109690
【弁理士】
【氏名又は名称】小野塚 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】河野 安隆
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−207424(JP,A)
【文献】
特開2002−061320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設岸壁を補修する岸壁補修工法において、
補修する既設岸壁を囲むように型枠を設置し、
前記型枠内の前記既設岸壁の地盤面の上面に第1コンクリートガレキ層を敷設し、
前記第1コンクリートガレキ層の上面に、第1コンクリート層を打設すると共に、該第1コンクリート層に差し筋を田植えして配筋し、
前記第1コンクリート層が適当な強度に硬化した後、前記差し筋の上端を露出させるように、前記第1コンクリート層の上面に第2コンクリートガレキ層を敷設し、更に、
前記第2コンクリートガレキ層の上面から突出する前記差し筋を埋設するように、前記第2コンクリートガレキ層の上面に第2コンクリートを打設することを特徴とする岸壁補修工法。
【請求項2】
前記型枠は、上下2段で構成される複数のアンカー筋と、前記アンカー筋の下方に上下2段で構成される複数の傾き調整用ボルト穴と、左右の前記アンカー筋の間に配置されるステー取付穴とを備え、前記ステー取付穴は、排水口として兼用することを特徴とする請求項1に記載の岸壁補修工法。
【請求項3】
前記型枠を前記既設岸壁に固定する型枠固定用ステーは、前記既設岸壁の前記地盤面にアンカーボルトによって固定されることを特徴とする請求項1に記載の岸壁補修工法。
【請求項4】
前記第1コンクリートガレキ層及び前記第2コンクリートガレキ層は、災害等により発生した構造物のガレキを利用することを特徴とする請求項1に記載の岸壁補修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等の災害によって地盤沈下した既設岸壁を補修する岸壁補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
湾岸、海岸等には、漁船、貨物船及びフェリー等を着岸させるために、岸壁が築造されている。しかし、東日本大震災によって、海岸線沿いの地面が地盤沈下したことで、岸壁も地面と共に沈下した。これにより、乗客及び乗員を安全に乗降させることができず、また、安全に荷役作業をすることができないという事態が発生した。このため、乗客及び乗員の乗降、又は、荷役作業を安全に行うために、既設岸壁を迅速に補修することが望まれている。
【0003】
例えば、従来、特許文献1には、災害により崩壊した岸壁施設を補修するための補修方法が開示されている。この補修方法は、地震により流動した内陸側の埋立て用土砂の沈下部分を埋立て、埋立てた土砂の土留めを傾倒したケーソンの上端部に施すようにし、海底に複数の鋼管杭を打込み、鋼製の案内台を打込んだ鋼管杭に溶接によって固着して岸壁施設を補修する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−277513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、災害によって岸壁が地盤沈下、又は、崩壊等した場合、築造場所を変更して岸壁を築造する工事、又は、水没した岸壁の水域を仮締切して補修する工事が行われているが、この工事では、長期間の作業が必要であり、多大な費用がかかる。また、特許文献1の補修方法では、海底に複数の鋼管杭を打込み、鋼製の案内台を鋼管杭に溶接によって固着する必要があるため、補修期間が長期となると共に、補修費用が増大することとなる。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、災害等によって地盤沈下した既設岸壁の補修を短期間で容易に行うことができ、補修費用を抑えることができる岸壁補修工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1の岸壁補修工法に係る発明は、既設岸壁を補修する岸壁補修工法において、
補修する既設岸壁を囲むように型枠を設置し、
前記型枠内の前記既設岸壁の地盤面の上面に第1コンクリートガレキ層を敷設し、
前記第1コンクリートガレキ層の上面に、第1コンクリート層を打設すると共に、該第1コンクリート層に差し筋を田植えして配筋し、
前記第1コンクリート層が適当な強度に硬化した後、前記差し筋の上端を露出させるように、前記第1コンクリート層の上面に第2コンクリートガレキ層を敷設し、更に、
前記第2コンクリートガレキ層の上面から突出する前記差し筋を埋設するように、前記第2コンクリートガレキ層の上面に、第2コンクリートを打設することを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、請求項2の岸壁補修工法に係る発明は、前記型枠は、上下2段で構成される複数のアンカー筋と、前記アンカー筋の下方に上下2段で構成される複数の傾き調整用ボルト穴と、左右の前記アンカー筋の間に配置されるステー取付穴とを備え、前記ステー取付穴は、排水口として兼用することを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、請求項3の岸壁補修工法に係る発明は、
前記型枠を前記既設岸壁に固定する型枠
固定用ステーは、前記既設岸壁の前記地盤面にアンカーボルトによって固定されることを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、請求項4の岸壁補修工法に係る発明は、前記第1コンクリートガレキ層及び前記第2コンクリートガレキ層は、災害等により発生した構造物のガレキを利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、災害等によって地盤沈下した既設岸壁の補修を短期間で容易に行うことができ、補修費用を抑えることができる岸壁補修工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る補修後の岸壁構造の断面図である。
【
図3】
図1に示す型枠固定用ステーの斜視図である。
【
図4】補修対象の既設岸壁に取付けられた型枠及び型枠固定用ステーの全景を示す斜視図である。
【
図5】隣接する型枠同士をつなぐ連結金具の正面図である。
【
図6】既設岸壁が斜めに地盤沈下したときの岸壁補修の概略図である。
【
図7】既設岸壁の地盤沈下程度による岸壁補修の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を
図1〜
図5に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る補修後の岸壁構造の断面図であり、
図2は、
図1に示す型枠3の斜視図であり、
図3は、
図1に示す型枠固定用ステー10の斜視図であり、
図4は、補修対象の既設岸壁2に取付けられた型枠3及び型枠固定用ステー10の全景を示す斜視図であり、
図5は、隣接する型枠3同士をつなぐ連結金具16の正面図である。
図1に示すように、本実施形態は、災害等によって地盤沈下等した既設岸壁2を補修し、新たに岸壁1を築造する岸壁補修工法に関するものである。
【0011】
本発明の実施形態に係る岸壁補修工法により補修した岸壁1は、既設岸壁2の周囲を囲むように設置した型枠3と、型枠3内に、下層から上層の順に、既設岸壁2の地盤面(GL面)12上に敷設する第1コンクリートガレキ層4と、この第1コンクリートガレキ層4の上面に打設する第1コンクリート層6と、この第1コンクリート層6の上面に敷設する第2コンクリートガレキ層5と、この第2コンクリートガレキ層5の上面に打設する第2コンクリート層(表層コンクリート)7とから修復されて築造されている。そして、本発明の実施形態に係る補修後の岸壁1は、補修時に使用する型枠3は取外すことなく、そのまま構造物として残される。以下、災害等によって地盤沈下した既設岸壁2を補修する岸壁補修工法について説明する。
【0012】
まず、補修対象の既設岸壁2は、その地盤面12に型枠固定用ステー10を固定するためのアンカーボルト17を埋設するための穴(図示せず)が設けられる。また、第1コンクリートガレキ層4及び第2コンクリートガレキ層5は、災害等によって発生した構造物等のガレキを利用する。具体的には、第1コンクリートガレキ層4は、鉄筋が含まれたコンクリートガレキを使用し、第2コンクリートガレキ層5は、砕石の替わりに、鉄筋が含まれていないコンクリートガレキを使用する。
【0013】
図2に示すように、型枠3は、略長方形の鋼板であり、ステンレス鋼(SUS304材)を使用している。例えば、型枠3は、長さ8m、幅2.438m及び板厚12mmの鋼板を使用している。型枠3は、型枠固定用ステー10及び傾き調整ボルト15(アジャストボルト)によって既設岸壁2に設置される。型枠3には、型枠3の膨らみを防止するためのアンカー筋8と、このアンカー筋8の下部に設けられた傾き調整ボルト穴9と、型枠型枠固定用ステー10を取付けるためのステー取付穴11と、傾き調整ボルト15を取付けるナット19とが設けられている。ナット19は、海20側に面する型枠3の上部傾き調整ボルト穴9a及び下部傾き調整ボルト穴9bの位置に溶接により固着されている。また、型枠3は、連結金具16を介して、隣接する一方の型枠3aと他方の型枠3bとが連結される(
図5参照)。この連結金具16は、ボルト等によって型枠3に取付けられる。なお、型枠3の設計寸法は、適宜変更することができる。
【0014】
図1及び2に示すように、アンカー筋8は、略L字型の異形鉄筋であり、第1コンクリート層用アンカー筋8a及び第2コンクリート層用アンカー筋8bの上下2段で構成されている。アンカー筋8は、型枠3の長手方向の中心から左右に所定間隔に9本設けられ、かつ、型枠3の短手方向に上下2段になるように溶接により固着されている。例えば、第1コンクリート層用アンカー筋8a及び第2コンクリート層用アンカー筋8bは、長手方向の中心から左右に700mm間隔で9本設けられ、第2コンクリート層用アンカー筋8bは、型枠2の上端から下方に100mmの位置に溶着し、第1コンクリート層用アンカー筋8aは、第2コンクリート層用アンカー筋8bの溶接位置からさらに下方に600mmの位置に溶着されている。なお、アンカー筋8は、略L字型の棒部材を用いているが、略J字型の異形鉄筋を使用することもできる。また、アンカー筋8の設置位置は、適宜変更することができる。
【0015】
図2に示すように、傾き調整ボルト穴9は、アンカー筋8の設置位置の下方に設けられ、上部傾き調整ボルト穴9a及び下部傾き調整ボルト穴9bで構成されている。例えば、下部傾き調整ボルト穴9bは、型枠3の下端から上方に150mmの位置に設けられ、上部傾き調整ボルト穴9aは、下部傾き調整ボルト穴9bの中心から上方に500mmの位置に設けられている。なお、傾き調整ボルト穴9の設置位置は、適宜変更することができる。
【0016】
ステー取付穴11は、型枠3の長手方向の略中心から左右に所定間隔に5箇所に設けられ、かつ、型枠3の短手方向の中心から上下に所定間隔で5箇所に設けられている。例えば、ステー取付穴11は、型枠3の長手方向の中心から左右に約1750mm間隔で5箇所、型枠3の短手方向の中心から上下に400mm間隔で5箇所に設けられている。このステー取付穴11は、左右のアンカー筋8,8の間に位置するように設けられている。また、ステー取付穴11は、型枠固定用ステー10を固定すること以外に、既設岸壁2の地盤面12に浸透された海水が出入りするための排水口としても機能することができる。
【0017】
図1及び3に示すように、型枠固定用ステー10は、製缶加工により直角を形成する2辺と、2辺の各端部を直結する筋交い辺とから略三角形に形成されている。直角を形成する2辺の断面は、略L字形に形成されている。型枠固定用ステー10の一辺(
図3の上下方向の辺)には、複数のボルト穴13が設けられ、型枠固定用ステー10の他辺(
図3の水平方向の辺)には、複数のアンカーボルト穴14が設けられている。この型枠固定用ステー10は、ボルト21をボルト穴13に挿入することによって型枠3に螺合され、アンカーボルト17をアンカーボルト穴14に挿入することによって既設岸壁3の地盤面12に固定されている。
【0018】
次に、災害等によって地盤沈下した既設岸壁2の補修工法について説明する。
図1、4及び5に示すように、まず、補修する既設岸壁2の地盤面12を略平坦に整地して、整地した地盤面12に合わせて連結金具16を用いて所定数の型枠3(3a,3b)を連結する。そして、連結した型枠3を既設岸壁2に配置して、傾き調整ボルト15によって既設岸壁2に設置する。このとき、型枠3には、型枠固定用ステー10が予め取付けられており、この型枠固定用ステー10は、アンカーボルト穴14に挿通したアンカーボルト17によって既設岸壁2の地盤面12に固定する。また、型枠固定用ステー10を型枠3に取付けるとき、型枠固定用ステー10の一部のボルト穴13は、ボルト21で締結しないで排水口として機能させる。これにより、既設岸壁2の地盤面12に浸透しれた海水を出入りさせることができる。
【0019】
次に、型枠3によって取囲まれた既設岸壁2の地盤面12の上面に鉄筋を含む第1コンクリートガレキ層4を敷設する。このとき、鉄筋を含む第1コンクリートガレキ層4は、倒壊した構造物等のガレキを利用する。これにより、災害によって発生したコンクリートガレキを有効に処理することができる。
【0020】
次に、第1コンクリートガレキ層4を敷設した後、第1コンクリート層6を第1コンクリートガレキ層4の上面に打設する。このとき、第1コンクリート層6は、型枠3に取付けた第1コンクリート用アンカー筋8aを埋め込むように打設する。また、第1コンクリート層6が硬化する前に、所定数の差し筋18を第1コンクリート層6に田植えして配筋する。この差し筋18は、第2コンクリート層7を打設する高さ位置まで設置する。
【0021】
次に、第1コンクリート層6が適当な強度に硬化した後、差し筋18の上端を露出させるように第2コンクリートガレキ層5を第1コンクリート層6の上面に敷設する。このとき、第2コンクリートガレキ層5は、コンクリート構造物に使用する砕石の替わりに、コンクリートガレキを敷設する。このコンクリートガレキは、鉄筋を含まないコンクリートガレキを利用する。そして、第2コンクリートガレキ層5を敷設した後、第2コンクリート層7を第2コンクリートガレキ層5の上面に打設する。このとき、第2コンクリート層7は、型枠3に取付けた第2コンクリート用アンカー筋8bを埋め込むように打設し、また、差し筋18が第2コンクリート7の表面に突出しないように打設する。
【0022】
このように、災害等によって地盤沈下した既設岸壁2の周囲を囲むように型枠3を設置し、この型枠3内に第1コンクリートガレキ層4を敷設し、この第1コンクリートガレキ層4の上面に第1コンクリート層6を打設し、更に、この第1コンクリート層6の上面に第2コンクリートガレキ層5を敷設して、最後に、第2コンクリートガレキ層5の上面に第2コンクリート7を打設するため、本発明に係る岸壁補修工法は、災害等により地盤沈下した既設岸壁2の補修作業が容易となり、また、工事期間を短縮することができる。更に、第1コンクリートガレキ層4及び第2コンクリートガレキ層5は、災害によって倒壊した構造物等のコンクリートガレキを利用することができ、また、補修後の型枠3は取外すことなくそのまま残されるので、コストを削減でき、更に、有効に処分することができる。
【0023】
次に、
図6(a)及び(b)には、既設岸壁2が斜めに地盤沈下した場合の岸壁補修工法の概略図を示している。
図6(a)及び(b)に示すように、既設岸壁2が傾いて地盤沈下した場合、既設岸壁2と型枠固定用ステー10との間にライナー22を設けることで、既設岸壁2と型枠3とを安定に固定することができる。また、型枠3を既設岸壁2に設置する場合、傾き調整用ボルト15の螺合長さを調整することで、型枠3を所定の角度で適切に設置することができる。このように、既設岸壁2が陸側又は海側に傾いて地盤沈下した場合でも、傾き調整用ボルト15の螺合長さを調整することで、型枠3を既設岸壁2に適切な位置に設置することができる。
【0024】
また、
図7(a)及び(b)には、既設岸壁2の地盤沈下の程度による岸壁補修工法を示す概略図を示している。
図7(a)には、既設岸壁2が1mを越えて地盤沈下したときの岸壁補修工法が図示され、
図7(b)には、既設岸壁2が1m未満で地盤沈下したときの岸壁補修工法が図示されている。
図7(a)に示すように、既設岸壁2が1mを超えて地盤沈下した場合には、型枠固定用ステー10の長辺を利用して、型枠3を既設岸壁2の上部側面に設置する。また、
図7(b)に示すように、地盤沈下した既設岸壁2が1m未満の場合には、型枠固定用ステー10の短辺を利用して、型枠3を既設岸壁2の下部側面に設置する。この場合、型枠固定用ステー10の一辺を長辺に形成すると共に、型枠固定用ステー10の他辺を短辺に形成することにより、型枠固定用ステー10の長さの異なる各辺を選択して型枠3に取付て、既設岸壁2の地盤沈下の程度に適宜対応することができる。
【符号の説明】
【0025】
1…岸壁、2…既設岸壁、3…型枠、4…第1コンクリートガレキ層、5…第2コンクリートガレキ層、6…第1コンクリート層、7…第2コンクリート層、12…地盤面、18…差し筋