特許第5797192号(P5797192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797192細胞クローンのための阻害に基づくハイスループットスクリーニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797192
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】細胞クローンのための阻害に基づくハイスループットスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20151001BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20151001BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20151001BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/02
   G01N33/543 597
   G01N37/00 103
【請求項の数】20
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-514547(P2012-514547)
(86)(22)【出願日】2010年6月10日
(65)【公表番号】特表2013-526829(P2013-526829A)
(43)【公表日】2013年6月27日
(86)【国際出願番号】IB2010001405
(87)【国際公開番号】WO2010143055
(87)【国際公開日】20101216
【審査請求日】2013年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】311017452
【氏名又は名称】サイノファーム タイワン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100100181
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 正博
(72)【発明者】
【氏名】リウ ウェイ・クアン
(72)【発明者】
【氏名】ディン ミン・ペイ
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−352984(JP,A)
【文献】 特開平02−023873(JP,A)
【文献】 特表2003−527110(JP,A)
【文献】 特開2003−135078(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/020770(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/072993(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/038527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00− 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質を高レベルで発現する細胞をスクリーニングするための方法であって、
標的タンパク質と宿主細胞内の内因性選択マーカーに対する阻害物質の両方をコードするDNA構築物を複数の宿主細胞中に導入するステップと、
内因性選択マーカーの発現について、DNA構築物を含む宿主細胞をスクリーニングするステップと、
該内因性選択マーカーの発現が低下した細胞を単離するステップ、
を含み、
該内因性選択マーカーは該宿主細胞中への該DNA構築物の導入前に該宿主細胞中に存在するポリヌクレオチドによってコードされる選択マーカーであり該DNA構築物は該宿主細胞内で該標的タンパク質と阻害物質の両方を発現するように構成されている、前記方法。
【請求項2】
前記阻害物質が、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、miRNAとshRNAのハイブリッド、およびアンチセンスRNAからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記阻害物質が、shRNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記内因性選択マーカーが蛍光マーカーであり、かつ、前記単離ステップが蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて細胞を選別するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記DNA構築物がジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をさらにコードし、かつ、前記宿主細胞がDHFR欠損細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
導入遺伝子を発現する細胞を選択するためのハイスループットスクリーニング方法であって、
少なくとも1つの導入遺伝子と蛍光タンパク質の発現を阻害する干渉RNAとを担持するベクターを用いて、該蛍光タンパク質を発現する細胞をトランスフェクトするステップと、
トランスフェクト細胞において蛍光強度を測定するステップと、
非トランスフェクト細胞の蛍光強度よりも低い蛍光強度を有する該トランスフェクト細胞を単離するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項7】
前記蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質(GFP)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記干渉RNAがmir−30に基づくshRNAである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記単離ステップがFACSを用いて細胞を選別するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光タンパク質を発現する細胞がジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)欠損CHO細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの導入遺伝子が、内部リボソーム進入部位(IRES)によって、DHFRをコードする遺伝子と連結している、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
発現ベクターを含む細胞をハイスループットスクリーニングするための発現ベクターであって、
標的タンパク質をコードする第1のヌクレオチド配列と、
宿主細胞のための外因性選択マーカーをコードする第2のヌクレオチド配列と、
宿主細胞内の内因性選択マーカーに対する阻害物質をコードする第3のヌクレオチド配列と、
前記宿主細胞において前記第1、第2および第3のヌクレオチド配列の発現を制御する1つ以上の調節エレメントを含み、
この場合、前記第1のヌクレオチド配列は、内部リボソーム進入部位(IRES)によって第2のヌクレオチド配列と連結している、
発現ベクター。
【請求項13】
1つ以上の抗リプレッサーエレメントをさらに含む、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項14】
前記1つ以上の抗リプレッサーエレメントが、部分的マウス抗リプレッサーエレメント40を含む、請求項13に記載の発現ベクター。
【請求項15】
前記阻害物質が、干渉RNAである、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項16】
前記干渉RNAが、miR−30に基づくshRNAである、請求項15に記載の発現ベクター。
【請求項17】
前記内因性選択マーカーが蛍光タンパク質である、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項18】
前記蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質である、請求項17に記載の発現ベクター。
【請求項19】
前記外因性選択マーカーがジヒドロ葉酸レダクターゼである、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項20】
前記1つ以上の調節エレメントが、CMV IEエンハンサーを含む、請求項12に記載の発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年6月11日に出願された米国仮出願第61/213,459号の優先権を主張するものであり、参照によりその全体を本明細書に組み入れるものとする。
【0002】
開示される技術は、一般的に、バイオテクノロジー及び分子生物学に関し、特に、細胞クローンのハイスループットスクリーニングに関する。
【背景技術】
【0003】
組み換えタンパク質を産生する細胞系統の作製における重要なステップは、生きているクローンの選択と、それに続く、対象となる遺伝子の宿主細胞への取り込みである。工業規模でのバイオ生産のためには、生成物の遺伝子が安定して取り込まれており、高レベルでタンパク質生成物が得られることが非常に望ましい。
【0004】
不均一な集団において、宿主ゲノム中への組み換え遺伝子の組み込みは、大部分はランダムなイベントである。安定して組み込まれた遺伝子を複数のコピー含む細胞の割合は、低いコピー数を含む細胞と比較して、小さいであろう。高産生サブクローンは珍しく、より速く増殖する無産生または低産生細胞によって希釈される傾向がある。したがって、産生率の増大したサブクローンを単離するためには、多くのウェルをスクリーニングし、調べる必要があり得る。一般的に、限界希釈法は単調であり、多大な時間を必要とする。
【0005】
フローサイトメトリーおよび細胞選別を利用する選択方法の出現は、スクリーニングし得る細胞の数を大きく増加させた。数百万の細胞を短時間にスクリーニングすることができ、サブ集団および単一の細胞を、それらが集団内で10−6の低い頻度で存在する場合であっても、混合細胞集団内から単離することができる。
【0006】
フローサイトメトリーは、高レベルで標的タンパク質を産生するクローンの迅速かつ初期段階での同定のために、非蛍光レポータータンパク質と組み合わせた。このことは、抗体を利用し得ることにより容易になり、リガンドを結合させた蛍光色素によって、細胞表面タンパク質の発現に基づく細胞の単離が可能となる。例えば、(通常、宿主細胞において発現されない)細胞表面タンパク質を、レポーターとして標的タンパク質と共に発現させてもよい。
【0007】
表面での発現と生産性との間に相関性が存在しない場合、細胞は、緑色蛍光タンパク質(GFP)等のレポーター分子を用いて、細胞内タンパク質のレベルに基づいて単離することができる。GFPは、遺伝子発現のための、ならびに、誘導性遺伝子産物に基づく細胞の選択のための重要なレポーターとなっている。哺乳動物細胞系統において、GFPは、組み換えタンパク質との共発現による高産生クローンの選択のため、ならびに、蛍光強度の基づく選択のために使用されている。GFP蛍光強度と組み換えタンパク質産生との間の相関性は、様々な組み換えタンパク質を発現するいくつかの細胞系統について見られている。しかしながら、これらの選択マーカーの発現は、細胞中のタンパク質発現機構における負担を増大させ、標的タンパク質の産生を低下させる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の一態様は、標的タンパク質を高レベルで発現する細胞をスクリーニングするための方法に関する。本方法は、標的タンパク質と宿主細胞内の内因性選択マーカーに対する阻害物質の両方をコードするDNA構築物を複数の宿主細胞中に導入するステップと、内因性選択マーカーの発現についてDNA構築物を含む宿主細胞をスクリーニングするステップと、選択マーカーの発現が低下した細胞を単離するステップを含む。DNA構築物は、宿主細胞内で標的タンパク質と阻害物質の両方を発現するように構成されている。
【0009】
一実施形態において、阻害物質は、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、miRNAとshRNAのハイブリッド、およびアンチセンスRNAからなる群より選択される。
【0010】
別の実施形態において、阻害物質は、shRNAである。
【0011】
別の実施形態において、内因性選択マーカーは、蛍光マーカーであり、かつ、単離ステップは、蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて細胞を選別するステップを含む。
【0012】
別の実施形態において、DNA構築物は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をさらにコードし、かつ、宿主細胞は、DHFR欠損細胞である。
【0013】
本発明の別の態様は、導入遺伝子を発現する細胞を選択するためのハイスループットスクリーニング方法に関する。本方法は、少なくとも1つの導入遺伝子と蛍光タンパク質の発現を阻害する干渉RNAとを担持するベクターを用いて蛍光タンパク質を発現する宿主細胞をトランスフェクトするステップと、トランスフェクト細胞において蛍光強度を測定するステップと、非トランスフェクト細胞の蛍光強度よりも低い蛍光強度を有する細胞を単離するステップ、を含む。
【0014】
一実施形態において、蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)である。
【0015】
別の実施形態において、干渉RNAは、mir−30に基づくshRNAである。
【0016】
別の実施形態において、単離ステップは、FACSを用いて細胞を選別するステップを含む。
【0017】
別の実施形態において、蛍光タンパク質を発現する細胞は、DHFR欠損CHO細胞である。
【0018】
別の実施形態において、少なくとも1つの導入遺伝子は、内部リボソーム進入部位(IRES)によって、DHFRをコードする遺伝子と連結している。
【0019】
本発明の別の態様は、発現ベクターを含む細胞をハイスループットスクリーニングするための発現ベクターに関する。発現ベクターは、標的タンパク質をコードする第1のヌクレオチド配列と、宿主細胞のための外因性選択マーカーをコードする第2のヌクレオチド配列と、宿主細胞内の内因性選択マーカーに対する阻害物質をコードする第3のヌクレオチド配列と、宿主細胞においてこれらの第1、第2および第3のヌクレオチド配列の発現を制御する1つ以上の調節エレメントを含む。第1のヌクレオチド配列は、内部リボソーム進入部位(IRES)によって、第2のヌクレオチド配列と連結している。
【0020】
一実施形態において、発現ベクターは、1つ以上の抗リプレッサーエレメントをさらに含む。
【0021】
関連する実施形態において、1つ以上の抗リプレッサーエレメントは、部分的マウス抗リプレッサーエレメント40を含む。
【0022】
別の実施形態において、阻害物質は、干渉RNAである。
【0023】
関連する実施形態において、干渉RNAは、miR−30に基づくshRNAである。
【0024】
別の実施形態において、内因性選択マーカーは、蛍光タンパク質である。
【0025】
関連する実施形態において、蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質である。
【0026】
別の実施形態において、外因性選択マーカーは、ジヒドロ葉酸レダクターゼである。
【0027】
別の実施形態において、1つ以上の調節エレメントは、CMV IEエンハンサーを含む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、導入遺伝子高発現細胞クローンのためのGFPに基づくスクリーニング方法を示す図表である。
図2図2は、発現ベクターpScinoDP−DHFRのマップである。
図3図3は、発現ベクターpScinoDP3−DHFRのマップである。
図4図4は、発現ベクターpScinoDP3mir−DHFRのマップである。
図5図5は、発現ベクターpScinoDP8mir−DHFRのマップである。
図6図6は、発現ベクターpScinoDP9mir−DHFRのマップである。
図7A図7Aおよび図7Bは、発現ベクターpScinoDP9mir−ハーセプチン−DHFRの構築を示す図表である。
図7B図7Aおよび図7Bは、発現ベクターpScinoDP9mir−ハーセプチン−DHFRの構築を示す図表である。
図8-1】図8は、ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞におけるGFP発現および抗体発現を示す複合図である。パネルA:ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルB−C:異なる蛍光強度レベルで選別されたハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルE:異なる蛍光群から選別された細胞の抗体産生のELISA分析。
図8-2】図8は、ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞におけるGFP発現および抗体発現を示す複合図である。パネルA:ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルB−C:異なる蛍光強度レベルで選別されたハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルE:異なる蛍光群から選別された細胞の抗体産生のELISA分析。
図9-1】図9は、複数回の選択後のハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞におけるGFP発現を示す複合図である。パネルA:GFP発現後のCHO/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルB:G418選択後のハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルC:1回目のMTX(100nM)増幅後のハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルD:2回目のMTX(200nM)増幅後のハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。
図9-2】図9は、複数回の選択後のハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞におけるGFP発現を示す複合図である。パネルA:GFP発現後のCHO/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルB:G418選択後のハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルC:1回目のMTX(100nM)増幅後のハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。パネルD:2回目のMTX(200nM)増幅後のハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。
図10図10は、PEを結合させた抗ヒトIgG(Fc)抗体を用いて染色したハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACS分析を示す図表である。抗体分泌細胞は、実験計画にしたがいPE陽性、GFP陰性であり、左上パネルに示した。蛍光シグナルは、FACSによって測定し、標準的補正プロトコールを用いて較正した。
図11図11は、ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACS選別手順の重要な特徴およびELISAの結果を示す。パネルA:ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のFACSヒストグラムプロファイル。横棒および灰色の領域は、1回の細胞分析のために使用された低蛍光および高蛍光細胞群を示す。パネルB:低蛍光群または高蛍光群から選択されたそれぞれ個々のクローンについてのELISAによって検出された抗体発現レベル。
図12図12は、shRNAGFPおよびハーセプチンをコードするDNA構築物を用いてトランスフェクトした細胞におけるGFP発現のFACS分析を示す複合図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
外因性タンパク質を高レベルで発現する細胞をスクリーニングするための方法が開示される。一実施形態において、本方法は、標的タンパク質と宿主細胞内の内因性選択マーカーに対する阻害物質の両方をコードするDNA構築物を複数の宿主細胞中に導入するステップであって、この場合、DNA構築物は、宿主細胞内で標的タンパク質と阻害物質の両方を発現するように構成されている、ステップと、内因性選択マーカーの発現についてDNA構築物を含む宿主細胞をスクリーニングするステップと、内因性選択マーカーの発現が低下した細胞を単離するステップ、
を含む。
【0030】
以下本明細書において使用される場合、用語「細胞」/「宿主細胞」ならびに「細胞系統」/「宿主細胞系統」はそれぞれ、典型的には、当技術分野において公知の方法によって細胞培養中で維持され、異種タンパク質を発現する能力を有する、真核生物細胞およびその均一群として定義される。一実施形態において、細胞はCHO細胞である。別の実施形態において、細胞は、内因性選択マーカーとしてGFPを発現するCHO細胞である。別の実施形態において、細胞は、DHFR遺伝子を欠損し、内因性選択マーカーとしてGFPを発現する、CHO細胞である。
【0031】
以下本明細書において使用される場合、用語「発現」は、典型的には、細胞における、特定のRNA産物もしくは複数の産物、または、特定のタンパク質もしくは複数のタンパク質の産生のことをいうために使用される。RNA産物の場合、発現とは、転写のプロセスのことをいう。タンパク質産物の場合、発現とは、転写、翻訳、および、場合によっては、翻訳後修飾のプロセスのことをいう。分泌タンパク質の場合、発現とは、転写、翻訳、および、場合によっては、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、ジスルフィド結合形成等)と、それに続く、分泌のプロセスのことをいう。多量体タンパク質の場合、発現は、ポリペプチドモノマーからの多量体構造の組み立てを含む。名詞「発現」の対応する動詞は、名詞と類似の意味を有する。
【0032】
以下本明細書において使用される場合、用語「選択マーカー」は、典型的には、その存在を細胞中で直接的または間接的に検出し得る遺伝子および/またはタンパク質、例えば、選択物質を不活性化し、その物質の致死性または増殖阻害性効果から宿主細胞を保護する遺伝子および/またはタンパク質(例えば、抗生物質耐性遺伝子および/またはタンパク質)のことをいうために使用される。別の可能性は、蛍光および呈色を引き起こす選択マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質および誘導体、ルシフェラーゼ、またはアルカリホスファターゼ)である。用語「内因性選択マーカー」とは、宿主細胞中へのDNA構築物の導入前に、宿主細胞中に存在するポリヌクレオチドによってコードされる選択マーカーのことをいう。「内因性選択マーカー」のコード配列は、組み込まれた形態(すなわち、細胞ゲノム中に組み込まれている)またはエピソーム形態のいずれかで存在し得る。
【0033】
以下本明細書において使用される場合、用語「DNA構築物」とは、発現または形質転換構築物のことをいう。DNA構築物は、少なくとも1つの発現ユニットまたは発現カセットを含む。用語「発現ユニットまたは発現カセット」は、本明細書において、コード配列またはオープンリーディングフレームを発現し得る単位として定義される。「発現ユニットまたは発現カセット」は、典型的には、対象となる分子(すなわち、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)をコードする導入遺伝子と機能し得るように連結された1つ以上の調節エレメントを含む。
【0034】
「調節エレメント」は、コード配列と機能し得るように連結させることにより、導入遺伝子の発現を調節する核酸配列である。調節配列の例としては、限定するものではないが、適切な転写開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー配列;有効なRNAプロセシングシグナル、例えば、スプライシングおよびポリアデニル化シグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を増大させる配列(すなわち、コザック共通配列);タンパク質の安定性を増大させる配列;および、所望の場合、タンパク質分泌を増大させる配列が挙げられる。調節配列は、対象の遺伝子を制御するために、シス型もしくはトランス型立体配置で作用させてもよいし、または、少し離れて作用させてもよい。
【0035】
「導入遺伝子」は、哺乳動物細胞に送達または移送される核酸配列である。導入遺伝子は、マーカー、レポーターまたは治療用分子として有用であるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドをコードしてもよい。導入遺伝子はまた、タンパク質産生、診断アッセイのため、または、インビトロもしくはインビボでの任意の一過的もしくは安定的遺伝子の移送のために有用であるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードしてもよい。あるいは、導入遺伝子は、miRNA、RNAi、shRNA、アンチセンスRNA、リボザイムまたはその他の調節核酸等の機能性ポリヌクレオチドをコードしてもよい。導入遺伝子はまた、DNA組み換えおよび遺伝子修復を引き起こすために使用されるDNA配列を含む。
【0036】
核酸配列が別の核酸配列と機能的関係に配置されている時、核酸配列は、別の核酸配列と「機能し得るように連結」されている。例えば、プレ配列または分泌リーダーペプチドのためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのためのDNAと機能し得るように連結されており;プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を与える場合、コード配列と機能し得るように連結されており;または、リボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように位置している場合、コード配列と機能し得るように連結されている。一般的に、「機能し得るように連結」とは、連結されるDNA配列が連続的であり、分泌リーダーの場合、連続的かつリーディングフェーズにあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続的である必要はない。連結は、便利な制限部位におけるライゲーションによって達成される。かかる部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の習慣にしたがって使用される。
【0037】
「選択マーカーに対する阻害物質」は、選択マーカーの発現または活性を直接的または間接的に阻害するポリペプチドまたはポリヌクレオチドであり得る。一実施形態において、阻害物質は、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、miRNAとshRNAのハイブリッド、または、宿主細胞中で内因性選択マーカーの発現を阻害するアンチセンスRNA分子である。別の実施形態において、阻害物質は、宿主細胞中で選択マーカーの発現を阻害するポリペプチド(例えば、転写調節因子)である。さらに別の実施形態において、阻害物質は、選択マーカーの生物学的活性を阻害するポリペプチド(例えば、抗体)である。
【0038】
本明細書において使用される場合、用語「siRNA」とは、約10〜50ヌクレオチド長(用語「ヌクレオチド」はヌクレオチドアナログを含む)、好ましくは、約15〜25ヌクレオチド長、より好ましくは、約17、18、19、20、21、22、23、24、または25ヌクレオチド長のRNA物質、好ましくは、二本鎖RNA物質のことをいい、このRNA鎖は、場合によっては、RNA干渉を指令または媒介し得る、例えば、1、2または3個のオーバーハングヌクレオチド(または、ヌクレオチドアナログ)を含むオーバーハング末端を有する。天然のsiRNAは、細胞のRNA干渉(RNAi)機構によって、より長いdsRNA分子(例えば、25ヌクレオチド長より長い分子)から生成される。
【0039】
用語「RNA干渉」または「RNAi」とは、本明細書において使用される場合、標的分子(例えば、標的遺伝子、タンパク質またはRNA)がダウンレギュレートされることによる、配列特異的または配列選択的プロセスのことをいう。特定の実施形態において、「RNA干渉」または「RNAi」のプロセスは、RNA分子(例えば、細胞内のRNA分子)の分解を特徴とし、この分解は、RNA物質によって引き起こされる。分解は、酵素的RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)によって触媒される。RNAiは、外来RNA(例えば、ウイルスRNA)を除去するために、天然で細胞中において起こる。天然のRNAiは、その他の類似のRNA配列に対する分解的機構を指令する遊離のdsRNAから切断された断片を介して進行する。あるいは、RNAiは、標的遺伝子の発現をサイレンシングするために、細胞中へ低分子干渉RNA分子を導入することにより開始させることができる。
【0040】
以下本明細書において使用される場合、用語「shRNA」とは、第1の相補的配列領域と第2の相補的配列領域を含むステムループ構造を有するRNA物質のことをいい、相補性の程度および領域の方向性は、領域間で塩基対合が起こるのに十分であり、第1および第2の領域は、ループ領域によって結合されており、ループ領域は、ループ領域内のヌクレオチド(または、ヌクレオチドアナログ)間の塩基対合の欠如により生じる。shRNAヘアピン構造は、細胞機構により切断されsiRNAとなり、これは次に、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体は、mRNAと結合してmRNAを切断し、これは、mRNAと結合するsiRNAと匹敵する。
【0041】
DNA構築物は、DNA構築物の構築時に、細菌の複製および選択のためのプラスミドエレメントをさらに含んでもよい。DNA構築物はまた、宿主細胞中でDNA構築物の増幅を促進するその他の選択マーカーを含んでもよい。DNA構築物によってコードされる選択マーカーは、外因性選択マーカーと考えられる。外因性選択マーカーの例としては、限定するものではないが、抗生物質に対する耐性(例えば、G418に対する耐性をコードするネオマイシン遺伝子)または酵素アナログに対する耐性(例えば、メトトレキサート耐性をコードするジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)が挙げられる。
【0042】
一実施形態において、DNA構築物は、2シストロン性発現カセットを含み、発現カセット中、対象となるタンパク質のオープンリーディングフレームは、内部リボソーム進入部位(IRES)によって、外因性選択マーカーのコード配列または内因性マーカーの阻害物質のコード配列と連結しており、その結果、それらは、同じmRNAに転写されるが、独立して翻訳される。それらはそれぞれ共通のmRNAから生じるので、外因性選択マーカーの発現レベルまたは阻害物質の発現レベルは、各クローンについて対象となるタンパク質の相対的発現レベルを正確に予測する。好ましくは、2シストロン性発現カセット中の対象となるタンパク質のオープンリーディングフレームは、外因性選択マーカーのコード配列または内因性選択マーカーの阻害物質のコード配列の上流に位置する。
【0043】
例えば、複数回のメトトレキサート(MTX)増幅の正確性およびスループットを向上させるために、治療用タンパク質(例えば、抗体の軽鎖)をコードする遺伝子は、IRESによって、3’末端において外因性選択マーカー(例えば、DHFR)と連結し、その結果、それらは、同じmRNAに転写されるが、独立して翻訳される。5’キャップが介在する翻訳と比較して低い効率のIRESが介在する翻訳は、細胞資源が、DHFRタンパク質よりはむしろ治療用タンパク質の産生のために主として利用されることを確実にする。しかしながら、それらは、同じmRNAから生じるので、DHFRの増幅レベルは、各クローンについて治療用タンパク質の相対的発現レベルを正確に予測する。
【0044】
別の実施形態において、DNA構築物は、クロマチンが関連する抑制を妨げる1つ以上の抗リプレッサーエレメント(ARE)をさらに含む。以下本明細書において使用される場合、ARE(または、抗リプレッサー配列、この語は、本明細書において互換的に使用される)は、導入遺伝子の抑制をブロックするその能力に基づいて真核生物ゲノムから単離される天然のDNAエレメントである。AREは、シス型立体配置にある遺伝子の転写に影響を及ぼす能力を有し、かつ/または、安定化および/または促進効果をもたらす。AREが導入遺伝子と隣接する場合、ランダムに選択された組み換え細胞系統の導入遺伝子発現レベルは、導入遺伝子のプロモーターの最大限の潜在能力的発現に近づくレベルに増大され得ることが示されている。さらに、導入遺伝子の発現レベルは、長期に亘る細胞世代を通じて安定であり、確率論的サイレンシングを示さない。したがって、AREは、従来のトランスジェニック系では不可能である、導入遺伝子に対する一定の割合の位置独立的発現を可能にする。位置独立性とは、導入遺伝子のサイレンシングを生じ得るゲノムの位置に組み込まれる導入遺伝子が、AREの保護によって、転写的に活性な状態に維持されることを意味する。一実施形態において、AREは、部分的マウスARE40断片である。別の実施形態において、DNA構築物は、複数の部分的マウスARE40断片を含む。
【0045】
DNA構築物を細胞中へ導入するための方法は、当技術分野において周知である。かかる方法の例としては、限定するものではないが、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、およびDEAE−デキストランによるトランスフェクションが挙げられる。DNA構築物はまた、ウイルスベクターによって細胞中に導入してもよい。一般的に使用されるウイルスベクターとしては、限定するものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターが挙げられる。
【0046】
DNA構築物を用いてトランスフェクトされた細胞は、外因性及び内因性選択マーカーの両方の発現についてスクリーニングされる。DNA構築物からの選択マーカー阻害物質の発現が高レベルであれば、発現および/または活性が低下した内因性選択マーカーを生じるであろう。次に、導入遺伝子の発現のレベルおよび安定性を調べるために、選択マーカーの発現が低下した細胞が単離およびサブクローニングされる。
【0047】
特定の実施形態において、内因性選択マーカーは、蛍光を照射するように誘導され得るタンパク質である。これらの実施形態において、スクリーニングステップおよび単離ステップは、蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いることにより同時に行うことができる。
【0048】
その他の実施形態において、DNA構築物を用いてトランスフェクトした細胞は、最初に、外因性マーカーを用いた1回以上の選択に供する(例えば、G418耐性および/またはメトトレキサート耐性クローンの選択)。選択された細胞を、次に、発現および/または活性が低下した内因性選択マーカーについてスクリーニングする。
【0049】
DNA構築物を含む細胞のハイスループットスクリーニングを可能にするように構成されたDNA構築物も開示される。一実施形態において、DNA構築物は、標的タンパク質のコード配列と、宿主細胞中の内因性選択マーカーに対する阻害物質のコード配列を含み、DNA構築物は、宿主細胞内で標的タンパク質と阻害物質の両方を発現するように構成されている。
【0050】
一実施形態において、阻害物質は、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、miRNAとshRNAのハイブリッド、または、宿主細胞中で内因性選択マーカーの発現を阻害するアンチセンスRNA分子である。
【0051】
別の実施形態において、阻害物質は、宿主細胞中で内因性選択マーカーの発現を阻害するポリペプチド(例えば、転写調節因子)である。
【0052】
別の実施形態において、阻害物質は、内因性選択マーカーの生物学的活性を阻害するポリペプチド(例えば、抗体)である。
【0053】
別の実施形態において、内因性選択マーカーは、蛍光を生じさせるタンパク質である。
【0054】
別の実施形態において、DNA構築物は、1つ以上の抗リプレッサーエレメントをさらに含む。
【0055】
本発明において開示される技術は、不均一なトランスフェクト細胞群からの高産生クローンの迅速な同定および単離を可能にし、標準的な限界希釈クローニング方法に関連する労力と時間を減少させる。さらに、本技術は、細胞群中において稀有なイベント状態にある所望の細胞を同定し得ることから、高産生クローンの単離前にプール増幅の回数を減らすことにより、または、薬物による増幅およびサブクローニングについて高産生クローンを初めに単離することにより、進行スケジュールを短縮し得る。
【実施例】
【0056】
緑色蛍光タンパク質(GFP)/蛍光活性化セルソーター(FACS)をベースとしたスクリーニング方法の簡便性と効率性が、先の研究で立証されている。これらの先の報告中、融合タンパク質の一部として、または、ひとつの内部リボソーム進入部位(IRES)または2つのプロモーター系のいずれかを用いた2シストロン性の構築物の一部として、GFPが組み込まれた。これは、高コピー数の組み換え遺伝子が安定的に取り込まれること、または、遺伝子が非常に高い転写活性を有する部位に取り込まれたことに起因し得る。これらの方法が効果的であることが示されているにもかかわらず、ヒト治療薬の製造にGFPを含有する細胞系統を用いることに関しては、何らかの懸念があり得る。さらに、サブ集団の単離後に細胞がGFPの生産を伴う代謝機構を担うことは必要でないようにみえる。この細胞資源は、潜在的には、細胞増殖または組み換えタンパク質の生産へと転用され得るものである。以下の実施例は、FACSを通じての選別と組み合わせた、GFPを選択マーカーとして可逆的に用いる高生産クローンを選択するための新規な手法を記載する。図1は、GFPをベースとした選択プロセスのスキームを示す。手短にいえば、GFPをコードするcDNAを含有するプラスミドベクターをDHFR欠損CHO細胞へとトランスフェクトする。所望のベクターをうまく獲得した細胞は蛍光性である。GFP発現細胞を、組み換えタンパク質発現のための親宿主細胞とした。
【0057】
所望の組み換えタンパク質を生産するために、親宿主細胞を、shRNAmireGFP含有ベクターにてトランスフェクトし、次いで蛍光強度の低い細胞を、FACSを用いて選別した。MTXを増加させながら数ラウンドのチャレンジを行った後の細胞培養物を、繰り返し数ラウンドの選別および増殖を行わせた。最も低いGFP蛍光強度を示す細胞クローンは、最も高い導入遺伝子発現を有するクローンに相当することとなる。最終的に、選択されたクローンを増殖させ、生産および安定性を試験する。FACSは多数の細胞を容易にスクリーニングすることができ、高生産性のクローンを取得する機会は、限定希釈法と比較して非常に増大する。さらに、この手法は作業量がより少なく、バイオ生産のためのクローンを創出するための時間を顕著に短縮し得る。
【0058】
実施例1:CHO+GFP/−dhfr細胞系統の確立
ジヒドロ葉酸還元酵素欠損チャイニーズハムスター卵巣細胞系統(CHO/dhfr−)をHT(0.1mM ヒポキサンチンナトリウムおよび0.016mM チミジン、Gibco、Cat No.11067)、10%のFBS(Biological Industries、Cat.04−001−1A)および2μMのメトトレキサート水和物(MTX、Sigma、SI−M8407)を添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM, Gibco、Cat.No.12200)中で維持した。
【0059】
CHO/dhfr−細胞を、Lipofectamine(商標) Invitrogen Puls(商標) Reagent(Cat. No.11514−015)の説明書に従って、リポフェタミンと共に、GFP(pFLAg−eGFP−IRES−Puro)をコードするcDNAを含有する5μgのプラスミドベクターを用いてトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を、5μg/mlのピューロマイシン二塩酸塩(Sigma、SI−P8833)を用いて選択した。HT、10%のFBS、2μMのMTXおよび選択的抗生物質を添加したIMDM培地中での10日間の選択の後、細胞を上記培地中で維持した。GFPを発現するCHO−dhfr細胞(CHO+GFP/−dhfr細胞)をクローン化し、組み換えタンパク質発現のための親宿主とする。
【0060】
実施例2:発現ベクターの構築
(1)pScinoDP−DHFRベクター
pEGFP−N1(Clontech)プラスミド骨格中のEGFP遺伝子をIRES−DHFR融合遺伝子へと置換し、SV40ポリA尾部およびCMV−IEプロモーターの付加をpEGFP−N1(Clontech)プラスミド骨格へと挿入することにより、pScinoDP−DHFRプラスミドを構築した。手短にいえば、ポリA尾部およびCMV−IEプロモーター配列を、pCEP4プラスミド(Invitrogen)をテンプレートとして用いたPCR増幅により取得した。PCRによるオーバーラップ伸張(OL−PCR)を介して、融合されたポリA尾部−プロモーター融合配列SV40polA−CMV−IE(約1.2kb)を作製した。融合された配列をXhoI/BglIIで消化し、XhoI/BglIIした消化pEGFP−N1ベクターへと挿入した。得られた構築物をpScinoDPと名付けた。
【0061】
pIRES2−EGFPおよびpSV2−DHFRプラスミドをテンプレートとして用いたPCR増幅により、IRES配列およびDHFR遺伝子を入手した。PCRによるオーバーラップ伸張(OL−PCR)を介して、IRES配列断片およびDHFR遺伝子断片のハイブリッド(IRES2−DHFR)を作製した。そのハイブリッド断片(〜1.1kb)をAgeI/NotIを用いて消化し、AgeI/NotI消化したpEGFP−N1へと挿入してpEGFP−N1ベクター中のEGFP遺伝子を置換した。得られた構築物をpIRES2−DHFRと名付けた。部位特異的突然変異誘発法を行って、IRES配列中のApaLI部位を除去した。
【0062】
IRES配列中に変異させた制限酵素ApaLI部位を有するプラスミドpIRES2−DHFRをAgeI/NotIにより消化して、IRES配列および全長DHFRのコード領域遺伝子を含む1.2kbの断片を、AgeI/NotI消化したpScinoDPに連結して、pScinoDP−DHFRを作製した(図2)。全ての構築物を、制限分析および/またはヌクレオチド配列解析によって確認した。
【0063】
(2)pScinoDP3−DHFRベクター
pScinoDP3−DHFRベクターは、CMV−IEエンハンサーを伴ったhEF1αプロモーターを有する、pScinoDP−DHFRをベースとしたベクターである。手短に言えば、hEF1αプロモーターをpBudCE4.1ベクター(Invitrogen)から増幅した。pEGFP−N1上のCMV−IEエンハンサーの後ろにhEF1αプロモーターをサブクローニングしてpCMVe−hEF1α−EGFPベクターを形成させることを通じて、hEF1αプロモーターを伴うハイブリッドCMV−IEエンハンサー配列を得た。CMV−hEF1α断片をpCMV−hEF1α−EGFPベクターからPCR増幅し、pScionDP−DHFRベクター中の両方のCMVプロモーターを置換するために用いた。得られたベクターをpScinoDP3−DHFRと名付けた(図3)。
【0064】
(3)pScinoDP3mir−DHFRベクター
以下の合成骨格DNAおよびプライマーを用いて、記載されるように、PCRを用いて一本鎖97ntの「mir30様」shRNAiGFPオリゴを作製した:
【0065】
一本鎖97ntの「shRNAiGFPDNAオリゴ
5’-TGCTGTTGACAGTGAGCGAGCACAAGCTGGAGTACAACTATAGTGAAGCCACAGATGTATAGTTGTACTCCAGCTTGTGCCTGCCTACTGCCTCGGA-3’ (配列番号1)
【0066】
下線を引き斜体で示す配列は、隣接するmir30配列を示し、下線を引かず斜体で示す配列はmir30ループ構造を表す。サンプルのセンスおよびアンチセンスで選択される標的配列は、太字および下線を引いた太字でそれぞれ示される。mir30様のshRNAiGFPは、内因性のmir30 miRNA隣接配列の部分に相当する共通の末端を有する一本鎖DNAオリゴヌクレオチドとして合成される。
【0067】
mirFWD−AgeIプライマー配列(40mer):
5’-CAGAAGGACCGGTAAGGTATATTGCTGTTGACAGTGAGCG-3’ (配列番号2)
【0068】
mirREV−HindIIIプライマー配列(37mer):
5’-CTAAAGTAGCCCCTTAAGCTTTCCGAGGCAGTAGGCA-3’ (配列番号3)
【0069】
下線を引き、斜体で示される配列の隣接領域は、反応を準備するための普遍的な隣接部として用いられ、これにより全長mir30様shRNAiGFPが増幅され、受容側ベクターへとクローンされ得るPCR産物を生じる。
【0070】
Platinum(登録商標) Pfx DNAポリメラーゼを用い、以下のプロファイル:95℃で3分間、次いで、95℃で30秒間、54℃で秒間、および、75℃で30秒間、合計35サイクルによりPCRを行った。得られたPCR産物(AgeI−shRNAiGFP)を修飾pEGFP−N1ベクター(AgeI部位が破壊され、ネオマイシン遺伝子の後ろにAgeIおよびEcoRV部位が追加)へとクローンした。得られた構築物をpEGFP−N1−shRNAiGFPと名付けた。これらのAgeI−shRNAiGFP配列も、DNA配列解析により確認した。
【0071】
pEGFP−N1−shRNAiGFPベクターをApaLI−NotIにより消化した。CMV−IE−GFP断片をpScinoDP3−DHFR由来のScinoDP3−DHFR断片で置換した。得られた構築物をpScinoDP3mir−DHFRと名付けた(図4)。
【0072】
(4)pScinoDP8mir−DHFRベクター
pScinoDP8mir−DHFRベクターは、調節DNAエレメントmARE40を含む。ハウスキーピング遺伝子由来の抗リプレッシングエレメント(repressing element)等の調節エレメントは、細胞系統により産生される組み換えタンパク質の特異的な生産性に正の影響を与えることが示された。プラスミドpEGFP−N1は、この構築物の骨格として用いられた。手短に言えば、以下の合成骨格DNAおよびプライマーを用いて、記載されるオーバーラッピングPCRを用いて、部分的マウス抗リプレッサーエレメント40断片を作製した:
【0073】
mARE40-L1(+)骨格DNA:
5’-TTGCTCTGAGCCAGCCCACCAGTTTGGAATGACTCCTTTTTATGACTTGAATTTTCAAGTATAAAGTCTAGTGCTAAATTTAATTTGAACAACTGTATAGTTTTTG-3’ (配列番号4)
【0074】
mARE40-L1(-)骨格DNA:
5’-TTAGAAATCCTCACACACAACAAGTTTTCATTTCACTTCTAATTCTGAAAAAAACACTGCCACCATTTTTTTTCCTTCCCCCAACCAGCAAAAACTATACAGTTGT-3’ (配列番号5)
【0075】
mARE40-R1(+)骨格DNA
5’-GTGTGTGAGGATTTCTAATGACATGTGGTGGTTGCATACTGAGTGAAGCCGGTGAGCATTCTGCCATGTCACCCCCTCGTGCTCAGTAATGTACTTTACAGAAATC-3’ (配列番号6)
【0076】
mARE40-R1(-)骨格DNA
5’-TGGCAGAAATGCAGGCTGAGTGAGACTACCCAGAGAAGAGACCGGATATACACAAGAAGCATGGTTTATATCAATCTTTTGAGTTTAGGATTTCTGTAAAGTACAT-3’ (配列番号7)
【0077】
mARE40-5’プライマー: 5’-TTGCTCTGAGCCAGCCCACCAGTTT-3’ (配列番号8)
【0078】
mARE40-3’AseI プライマー: 5’-GTTATTAATTGGCAGAAATGCAGGCTGAGT-3’ (配列番号9)
【0079】
mARE40-3’AflII プライマー: 5’-CCCACATGTTGGCAGAAATGCAGGCTGAGT-3’ (配列番号10)
【0080】
mARE40-3’SpeI プライマー: 5’-GGACTAGTTGGCAGAAATGCAGGCTGAGTG-3’ (配列番号11)
【0081】
Platinum(登録商標) Pfx DNAポリメラーゼを用い、以下のプロファイル:95℃で3分間、次いで、95℃で30秒間、58℃で秒間、および、75℃で30秒間、合計35サイクルによりPCRを行った。得られたPCR産物(mARE40−AseIおよびmARE40−flII)を修飾pEGFP−N1ベクター(AgeI部位が破壊され、AseIの前にEcoRV、およびAflII部位の前にScaI部位が追加)へと別々にクローンし、pmARE40−EGFP−N1を形成し、(mARE40−SpeI)をpScinoDP3−DHFRベクター(SpeI部位の前にEcoRV部位が追加)へとクローンしてpScinoDP3−DHFR−F2を形成した。pmARE40−EGFP−N1ベクターをAseI−BamHIを用いて消化し、pScinoDP3−DHFRベクター由来の〜1.6kbのAseI−CMVe−hEF1α−BamHI断片でCMV−IEプロモーターを置換した。得られた構築物をpFmARE40ScinoDP3−EGFP−N1と名付けた。pFmARE40ScinoDP3−EGFP−N1ベクターをBamHI−NotIで消化し、EGFP遺伝子をpScinoDP3−DHFR−F2由来の〜1.6kbのBamHI−SV40polA−mARE40−DP3−IRES−DHFR−NotI断片で置換した。得られた構築物をpScinoDP8−DHFRと名付けた。pEGFP−N1−shRNAiGFPベクターを次いでApaLI−NotIで消化し、CMV−IE−GFP断片をpScinoDP8−DHFR由来のScinoDP8−DHFR断片で置換した。得られた構築物をpScinoDP8mir−DHFRと名付けた(図5)。クローンされた部分的マウス抗リプレッサーエレメント40断片の完全配列を以下に示す:
【0082】
5’-TTgCTCTgAgCCAgCCCACCAgTTTggAATgACTCCTTTTTATgACTTgAATTTTCAAgTATAAAgTCTAgTgCTAAATTTAATTTgAACAACTgTATAgTTTTTgCTggTTgggggAAggAAAAAAAATggTggCAgTgTTTTTTTCAgAATTAgAAgTgAAATgAAAACTTGTTgTgTgTgAggATTTCTAATgACATgTggTggTTgCATACTgAgTgAAgCCggTgAgCATTCTgCCATgTCACCCCCTCgTgCTCAgTAATgTACTTTACAgAAATCCTAAACTCAAAAgATTgATATAAACCATgCTTCTTgTgTATATCCggTCTCTTCTCTGGGTAgTCTCACTCAgCCTgCATTTCTgCCA-3’ (配列番号12)
【0083】
(5)pScinoDP9mir−DHFRベクター
pScinoDP8mir−DHFRベクターの構築、および、pScinoDP8mir−DHFR中の2つのCMVエンハンサーをCAGプロモーターで置換する(ニワトリβ−アクチンプロモーターと融合させたCMV−IEエンハンサー)手法と同様の手法を用いて、pScinoDP9mir−DHFRベクター(図6)を構築した。pScinoDP9mir−DHFRの完全配列を配列番号13に示す。
【0084】
pScinoDP9mir−DHFRは、MCSIIおよびジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)のコード領域の間に、脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditis virus、ECMV)の内部リボソーム進入部位(IRES)を含む。このことが、対象遺伝子(実施例:MCSIIへとクローンした軽鎖)およびDHFR遺伝子の両方が単一の2シストロン性mRNAから翻訳されることを可能にする。DHFRに隣接する配列は変換されてKozakコンセンサス翻訳開始部位となり、真核細胞における翻訳効率をさらに増大させる。pScinoDP9mir−DHFR中のMCSIは、CMV(PCMV IE)の前初期プロモーターとSV40ポリアデニル化シグナル配列の間に存在する。MCSIの下流のSV40ポリアデニル化シグナルが、最初の転写の3’末端における適切な処理へと導く。pScinoDP−dhfr中のMCSIIは、サイトメガロウイルス(PCMV IE)の二番目の前初期プロモーターとIRES配列との間に存在する。DHFR遺伝子の下流のSV40ポリアデニル化シグナルが、2シストロン性mRNAの3’末端における適切な処理へと導く。
【0085】
pScinoDP9mir−DHFRがpEGFP−N1ベクターに由来するものであるため、それは、SV40T抗原を発現する哺乳動物細胞を複製するためのSV40起源を含有する。SV40初期プロモーター、Tn5のネオマイシン/カナマイシン耐性遺伝子、および、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV TK)遺伝子由来のポリアデニル化シグナルからなるネオマイシン−耐性カセット(Neo)は、安定的にトランスフェクトされた真核細胞がG418を用いて選択されることを可能にする。このカセットの上流に存在するバクテリアのプロモーターは、E.coli中でカナマイシン耐性を発現する。pScinoDP−DHFR骨格もまた、E.coli、および、一本鎖DNA生産のためのf1起源において伝播するための複製のpUCオリジンを含む。
【0086】
(6)pGFP/ピューロマイシンベクター
pIRES2−EGFPおよびpLKO−AS3w−puroプラスミドをテンプレートとして用いて、IRES配列およびDHFR遺伝子を取得した。PCRによるオーバーラップ伸張(OL−PCR)を通じて、IRES配列断片およびピューロマイシン遺伝子断片のハイブリッド(IRES2−ピューロマイシン)を取得した。IRES2−ピューロマイシン断片を、SalI−BamHI消化したpFLAG−CMV2ベクター(Kodak)へと挿入した。得られた構築物をpIRES2−Puroと名付けた。pEGFP−N1ベクターからEGFP遺伝子を取得し、pIRES−Puroベクターへと挿入してpGFP/ピューロマイシンベクターを構築した。
【0087】
(7)pScinoDP9mir−ハーセプチン−DHFRベクター
pScinoDP9mir−ハーセプチン−DHFRベクターの構築を図7Aおよび7Bに示す。手短に言えば、4−1リーダー配列および4−2リーダー配列をオリゴ合成骨格断片からPCR増幅し、一方、ヒトIgG(hIgG)の重鎖定常領域配列およびヒトIgG(hIgG)の軽鎖定常領域配列を、ヒトIgG1配列を含む組み換えプラスミドから取得した。リーダー配列およびhIgG定常領域配列ベクターのハイブリッドは、配向性の連結手法によって、hIgG定常領域を、リーダー配列を含むベクターへとサブクローンすることによって得た。
【0088】
次いで、繰り返しのオーバーラッピングPCRを通じて、オリゴ合成骨格断片から重鎖(V)および軽鎖(V)の変異領域(variant region)を作製し、p4−1リーダー−hIgGまたはp4−2リーダー−hIgGベクターへとサブクローンした。PCRのエラー修正、および、クローニング工程の間に導入された付加配列の除去後、リーダー−ペプチド−ハーセプチンVC配列の正確性を配列解析によって評価した(図7A)。
【0089】
最終的に、ハイブリッド4−1リーダー−ハーセプチン重鎖(4−1−ハーセプチンVC)、および4−2リーダー−ハーセプチン軽鎖(4−2−ハーセプチンVC)をpScinoDP9mir−DHFRベクターのMCSIおよびMCSII部位へと個々にサブクローンして、pScinoDP9mir−ハーセプチン−DHFRベクターを構築した(図7B)。
【0090】
抗HER2重鎖1の変異領域(variant region)のアミノ酸およびヌクレオチド配列を配列番号14および15にそれぞれ示す。重鎖の変異領域(VH)に用いられる骨格断片およびPCRプライマーは以下の配列である:
【0091】
骨格断片:
ハーセプチンVH-L1(+) (108 mer)
5’-gAggTgCAgCTCgTggAgAgTggTggCgggTTggTCCAgCCAggCgggTCTCTgCgATTgAgCTgTgCTgCCTCTggATTTAACATCAAAgACACgTACATCCATTgg-3’ (配列番号16)
【0092】
ハーセプチンVH-L2(-) (105 mer)
5’-TTTAACgCTATCAgCgTATCTggTgTAgCCgTTAgTgggATAgATTCTAgCTACCCATTCAAggCCCTTgCCgggggCCTgTCTCACCCAATggATgTACgTgTC-3’ (配列番号17)
【0093】
ハーセプチンVH-R1(+) (105 mer)
5’-TACgCTgATAgCgTTAAAggAAggTTTACTATTTCTgCCgACACCTCCAAgAATACCgCATATCTACAgATgAACTCCCTgCgCgCTgAggACACCgCTgTgTAT-3’ (配列番号18)
【0094】
ハーセプチンVH-R2(-) (108 mer)
5’-CTTAgTAgAgCACTgCTAACTgTCACTAAggTACCCTggCCCCAgTAgTCCATTgCgTAgAATCCgTCTCCCCCCCAACgTgAgCAgTAATACACAgCggTgTCCTC-3’ (配列番号19)
【0095】
増幅用プライマー:
ハーセプチン-VH-5HindIII (30 mer) (センス)
5’-gCCAAgCTTgAggTgCAgCTCgTggAgAgT-3’ (配列番号20)
【0096】
ハーセプチン-VH-3ApaI (30 mer) (アンチセンス)
5’-AgggggCCCTTAgTAgAggCACTgCTAACT-3’ (配列番号21)
【0097】
抗HER2軽鎖1の変異領域のアミノ酸およびヌクレオチド配列を配列番号22および23にそれぞれ示す。軽鎖の変異領域(V)に用いられる骨格断片およびPCRプライマーは以下の配列である:
【0098】
骨格断片:
ハーセプチンVL-L1(+) (93 mer)
5’-gATATACAgATgACACAgTCTCCgTCAAgTCTgAgCgCAAgCgTgggCgACCggGTAACAATTACCTgTAgAgCCAgCCAggACgTAAATACA-3’ (配列番号24)
【0099】
ハーセプチンVL-L2(-) (95 mer)
5’-CCgCTATAAAggAACgAggCAgAgTAgATCAgAAgCTTAggAGCTTTACCAggTTTTTgCTgATACCAggCCACggCTgTATTTACgTCCTggCT-3’ (配列番号25)
【0100】
ハーセプチンVL-R1(+) (94 mer)
5’-CTCgTTCCTTTATAgCggggTgCCAAgCCgCTTCTCCggATCTAggTCTggAACAgACTTTACTCTgACCATTTCCAgTCTCCAgCCCgAAgAC-3’ (配列番号26)
【0101】
ハーセプチンVL-R2(-) (93 mer)
5’-CTTgATCTCgACCTTggTgCCCTgCCCAAATgTgggTggAgTCgTgTAATgTTgCTggCAATAgTAggTAgCAAAgTCTTCgggCTggAgACT-3’ (配列番号27)
【0102】
増幅用プライマー
ハーセプチン-VL-5HindIII (30 mer) (センス)
5’-gCCAAgCTTgATATACAgATgACACAgTCT-3’ (配列番号28)
【0103】
ハーセプチン-VL-3BamHI (30mer) (アンチセンス)
5’-CgCggATTCCTTgATCTCgACCTTggTgCC-3’ (配列番号29)
【0104】
実施例3:ハーセプチン/CHO+GFP/−dhfr細胞系統の確立
CHO/+GFP/−dhfr細胞をPBS緩衝液中に懸濁させた。40μgの直鎖状プラスミド(pScinoDP9mir−Herceptin−DHFR)のDNAを前記細胞に加えて、氷上で10分間インキュベートした。細胞を次いで、電圧設定750Vおよび電気容量25μF(電気容量拡張機能を伴うGene Pulser II、および、Bio−Radのパルスコントローラー)にて電気泳動した。電気泳動した細胞をT−175フラスコ中に撒き、25mLの培地(HT、10%のFBS、2μMのMTXおよび5μg/mlのピューロマイシン二塩酸塩を添加したIMDM)と共に24時間置いた。次いで細胞を、800μg/mlのG418硫酸塩(Calbiochem、Cat#345810)を用いて、10%のD−FBS(Gibco、Cat.No.30067−334)および5μg/mlのピューロマイシン二塩酸塩を添加した最小必要培地α培地(Alpha−MEM、Gibco、Cat.No.12000)中で選択した。10%のD−FBSおよび選択的抗生物質を添加したα−MEM培地中での選択の14日後、遺伝子増幅のため、濃度を増加させながらのMTX処理に細胞を供した。
【0105】
細胞をFACSで選別し、低GFP蛍光強度を示す細胞をスクリーニングした。標的遺伝子およびshRNAGFPの発現がCHO+GFP/−dhfr細胞中でのGFP生産の低減を引き起こすため、緑色蛍光が最も少ない細胞(GFPネガティブ)が、最も高い標的遺伝子の発現を有する。FACSは、Summitソフトウェア、488nmにおけるレーザーエミッティング、および、選別のための細胞配置単位を装備したMoFloTM XDP(Beckman Coulter)を用いて行った。
【0106】
FACSを用いて、10%のD−FBS、G418、ピューロマイシン二塩酸塩およびMTXを添加した220μlのα−MEMを含む96穴ウェルの細胞培養プレート中へと単細胞を配置することにより、低蛍光および高蛍光の細胞群を選別した。クローンを、加湿されたインキュベーター中で12日間、37℃および5%の二酸化炭素にて、インキュベートした。
【0107】
実施例4:ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞系統の特性決定
(1)免疫染色による表面抗体の検出
トリプシン処理したハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞を、5分間、200 rpmで遠心分離した。細胞をPBSで2回洗浄し、PBS中に再懸濁して最終濃度約1×10細胞/mlとした。細胞を次いで、製造者の推奨に従う濃度のフィコエリトリン(PE)コンジュゲート抗マウス抗ヒトIgG(Fc)(Beckman Coulter、Cat. No.736007)と共に、4℃、30分間暗所でインキュベートし、PBSで2度洗浄して、FACS分析のため氷上に保管した。
【0108】
(2)ELISAによる分泌抗体の検出
手短に言えば、96穴ウェルプレートを抗ヒトIgG抗体(Sigma:I 1886)を0.05Mの炭酸塩−重炭酸塩緩衝液(pH9.7)で希釈し、4℃にて16時間インキュベートした。プレートをブロッキング緩衝液(10mM Tris、0.15M NaCl、1%スキムミルク、pH8.0)にて、37℃、分間被覆した。培養物の上清をウェルに載せて37℃、2時間インキュベートした。製造者の推奨に従って、希釈緩衝液(10mM Tris、0.15M NaCl、0.05% Tween 20、pH8.0)中に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ヒトIgG−F(c)抗体(Abcam:ab7499)を37℃、1時間インキュベートした。基質を用いて反応物を検出し(1−stepTM ultra TMB−ELISA、Pierce、Cat.34028)、プレートをマイクロプレートリーダー(Bio−Rad)に載せて読んだ。
【0109】
(3)結果
図8は、FACSを用いた、異なる蛍光強度で選別されたハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のヒストグラムプロファイルを示す。パネルAは、ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のプールにおけるGFP蛍光を示す。細胞は、蛍光強度に基づいていくつかのサブ集団(R2、R3およびR4)に分割された。パネルB−Dは、各サブ集団中でのGFP発現レベルを示す。パネルEは、プールおよび各サブ集団中での抗体ハーセプチン抗体の力価を示す。データは、最も低いGFP蛍光レベルを有する細胞(ハーセプチン/R4/CHO+GFP/−dhfr)が最も高レベルのハーセプチン力価を有することを示す。
【0110】
図9は、標的タンパク質(ハーセプチン)およびshRNAiGFPを含むDNA構築物でトランスフェクトしたときに、CHO+GFP/−dhfr細胞中でのGFP発現レベルが低減したことを示す。FACSプロファイルは、2ラウンドのMTXチャレンジ後にはGFPの発現レベルがさらに低減することを示す(パネルCおよびD)。これらの結果は、標的遺伝子の増幅レベルがGFP発現レベルおよび遺伝子増幅の強度と相関することを立証する。
【0111】
図10は、PEコンジュゲートマウス抗ヒトIgG(Fc)で染色したハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞の代表的なFACS分析を示す。結果は、抗体産生細胞(すなわち、より高度にPE染色される細胞)が低レベルのGFP発現を示すことを立証する。
【0112】
図11Aは、ハーセプチン−CHO+GFP/−dhfr細胞のヒストグラムプロファイルを示す。横軸および影をつけた領域は、単細胞分析に用いた蛍光が低い細胞群と蛍光が高い細胞群を示す。図11Bは、蛍光が低い18の細胞クローンのうち8つで0.3より大きいELISA値が得られ、一方、蛍光が高い18の細胞のうち2つのみで0.3より大きい値が得られたことを示す。これらの結果は、蛍光の低い細胞群が高収量の抗体産生細胞を高頻度で含むことを立証し、かつ、GFPをベースとするスクリーニング戦略を裏づける。
【0113】
図12は、ハーセプチンおよびshRNAGFPをコードするDNA構築物をトランスフェクトすることにより、CHO+GFP/−dhfr細胞中でのGFPの発現が低減することを示す。
【0114】
(4)結論
フローサイトメトリーと組み合わせたshRNAmireGFPの使用は、2つの重大な点において、細胞系統の開発の正確性および効率性を実質的に向上させる。第一に、クローンのスクリーニングにおける初期段階では、FACS法は、治療用タンパク質の力価に関して調製培地における分析を行うよりも、クローンの生産性をよりよく予測する判断材料である。第二に、不安定な導入遺伝子発現を伴うクローンは、増幅ステージの間、蛍光の増加が観察されることにより容易に識別される。すなわち、本発明の方法は、さらなる開発、および、従来の方法よりも初期のステージで不安定なクローンを除去することに関し良い候補を同定するための、正確な96ウェルのクローンスクリーニングにおける新たな利点を提供する。
【0115】
これらの結果は、本発明のDNA構築物およびスクリーニング方法が、高発現のクローンの均質なタンパク質調製物を確実に取得できることを立証する。組み換え抗体の高収率な発現が可能な哺乳類細胞系統の単離は複数の個々のクローンを限界希釈法によりスクリーニングすることによって行われていないため、本手法は、必要な労働力がより少なくてすみ、バイオ生産のためのクローンを生産するのに要する時間を顕著に低減させることができる。本手法は、クローン選択のための付加的な試薬を必要とせず、ゲノムの安定性をモニターするための付加的な利益を提案する。また、標的遺伝子の発現レベルは、増幅遺伝子の強度との相関関係がより高い。2シストロン性の設計は、2つの外来遺伝子が同一の染色体内で同調発現することを可能にする。前記の阻害的アプローチは、レポーター遺伝子の増幅強度を低減することにより、標的遺伝子の増幅強度を促進する。AREの使用は、異なる染色体領域への外来遺伝子の挿入を阻害することにより引き起こされる差異をなくすことによって、外来組み換えタンパク質の発現を増大させる。
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]