特許第5797208号(P5797208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797208
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】呼吸信号を決定するための方法と装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20151001BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   A61B5/08
   A61B5/10 310A
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-552502(P2012-552502)
(86)(22)【出願日】2011年2月7日
(65)【公表番号】特表2013-519421(P2013-519421A)
(43)【公表日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】IB2011050512
(87)【国際公開番号】WO2011098944
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】10153269.5
(32)【優先日】2010年2月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
(74)【代理人】
【識別番号】100087789
【弁理士】
【氏名又は名称】津軽 進
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(72)【発明者】
【氏名】モーレン ヒェールト ガイ ゲオルゲス
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−247374(JP,A)
【文献】 特開2006−068091(JP,A)
【文献】 特開2005−066323(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の呼吸を決定するための呼吸決定装置の作動方法であって、
前記呼吸決定装置の単一多軸加速度計が、前記被験者の身体上に置かれる単一多軸加速度計で、異なる空間軸に沿った前記被験者の加速度を示す加速度計信号を生成するステップと、
前記呼吸決定装置の信号処理ユニットが、前記加速度計信号から前記異なる空間軸に沿った前記被験者の加速度のベクトル大きさ信号を計算するステップと、
前記信号処理ユニットが、前記異なる空間軸に沿った加速度への非呼吸運動寄与を前記ベクトル大きさ信号から識別するステップであって、該非呼吸運動寄与は呼吸によるものではない、ステップと、
前記呼吸決定装置の呼吸信号決定ユニットが、前記加速度計信号の少なくとも1つから前記非呼吸運動寄与をフィルタリングすることによって前記被験者の呼吸を示す呼吸信号を決定するステップと
を有する、方法。
【請求項2】
前記呼吸信号を決定するステップが、
個別に前記加速度計信号の各々から前記非呼吸運動寄与をフィルタリングするステップと、
前記フィルタリングされた加速度計信号の合成から前記呼吸信号を決定するステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記非呼吸運動寄与を識別するステップが、前記ベクトル大きさ信号から前記非呼吸運動寄与の特性周波数を抽出するステップを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非呼吸運動寄与を識別するステップが、前記ベクトル大きさ信号から不要なノイズ寄与をあらわすノイズ基準信号を抽出するステップを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ノイズ基準信号がデジタルフィルタリング技術で前記ベクトル大きさ信号から抽出される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ノイズ基準信号が心臓干渉信号を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記呼吸信号を決定するステップが、前記ノイズ基準信号で適応ノイズフィルタにより前記加速度計信号をフィルタリングするステップを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記非呼吸運動寄与を識別するステップが、前記ノイズ基準信号から前記非呼吸運動寄与の特性周波数を抽出するステップをさらに有し、前記呼吸信号を決定するステップが適応ノッチフィルタで前記加速度計信号から前記特性周波数をフィルタリングするステップを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記非呼吸運動寄与を識別するステップが、
前記ベクトル大きさ信号のパワースペクトルを計算するステップと、
前記パワースペクトルから前記非呼吸運動の特性周波数を抽出するステップとを有し、
前記呼吸信号を決定するステップが適応ノッチフィルタで前記加速度計信号から前記特性周波数をフィルタリングするステップを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記非呼吸運動寄与を識別するステップが、
前記ベクトル大きさ信号と前記加速度計信号の1つとのコヒーレンススペクトルを計算するステップと、
前記コヒーレンススペクトルから前記非呼吸運動寄与の特性周波数を抽出するステップとを有し、
前記呼吸信号を決定するステップが適応ノッチフィルタで前記加速度計信号から前記特性周波数をフィルタリングするステップを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記非呼吸運動寄与の特性周波数が前記被験者の心拍周波数を有する、請求項3又は8乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記非呼吸運動寄与の特性周波数が動いている被験者のステップ周波数を有する、請求項3又は8乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記呼吸信号決定ユニットが、前記呼吸信号から前記被験者の呼吸速度を抽出するステップをさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記信号処理ユニットが、前記ベクトル大きさ信号から周波数範囲をフィルタリングするステップをさらに有し、該フィルタリングされたベクトル大きさ信号は前記非呼吸運動寄与を識別するステップで使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
被験者の呼吸を決定するための呼吸決定装置であって、
前記被験者の身体上に置かれる単一多軸加速度計であって、前記多軸加速度計は異なる空間軸に沿った前記被験者の加速度を示す加速度計信号を生成する、単一多軸加速度計と、
前記加速度計信号から前記異なる空間軸に沿った前記被験者の加速度のベクトル大きさ信号を計算する、及び前記ベクトル大きさ信号から異なる空間軸に沿った加速度への非呼吸運動寄与を識別する、信号処理ユニットと、
前記加速度計信号の少なくとも1つから前記非呼吸運動寄与をフィルタリングすることによって前記被験者の呼吸を示す呼吸信号を決定する、呼吸信号決定ユニットと
を有する、呼吸決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は呼吸信号を決定するための方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸速度は患者の状態の悪化の良い指標であることが証明されており、他のバイタルボディサインと組み合わせて早期警戒病院システムにおいて重要な役割を担う。従って、連続的かつ信頼できる呼吸信号のモニタリングの必要性が、特に病院の集中治療室において見られる。同様の必要性は、モニタリングされるパラメータの即時提示に対してあまり厳しくない要件で、病院の一般病棟設定、及び遠隔治療や慢性病管理などの在宅医療用途において存在する。呼吸速度が抽出される呼吸信号の連続モニタリングは、集中治療患者用のベッドサイドモニタ上で利用可能であるが、最小限の不快感で一般病棟における移動可能な患者の呼吸信号の目立たない長期の測定とモニタリングを可能にする、様々な携帯型センサシステムが開発されている。
【0003】
呼吸モニタリングは異なる原理に基づくことができる:例えば胸部インピーダンスプレチスモグラフィ、加速度計、フォトプレチスモグラフィなどの呼吸努力の測定、又は例えば録音、温度検出、二酸化炭素検出などの呼吸努力の測定である。一部のセンサは既に一般病棟以外の用途で呼吸をモニタリングするために確立されている。集中治療室において例えば胸部インピーダンスプレチスモグラフィが選択法であるが、一方睡眠検査においては、よく呼吸バンドと呼ばれる、誘導プレチスモグラフィもまた一般に使用される。一般病棟若しくは在宅医療などにある外来患者において、これらのセンサには限界がある。例えば呼吸バンドは医療職員と患者の両方によってあまりにも目障りであると見なされる。
【0004】
多軸加速度計に基づく呼吸モニタリングシステムはこの欠点を克服する。多軸加速度計は複数の検出軸における加速度計を測定する装置であり、呼吸によって生じる腹部若しくは胸部の動きを反映するために傾斜計として使用される。この技術は患者の異なる状態及び姿勢の下で信頼できるモニタリングを可能にする信頼できる信号処理法を必要とする。
【0005】
モーションアーチファクトは全体として患者モニタリングにおける周知の問題であり、姿勢変化、運動及び会話などの患者の身体活動によって生じる生理学的信号の汚染と測定品質の悪化をあらわす。モーションアーチファクト問題は、一般病棟設定における患者が一般により移動性の高い活動パターンを持ち、ほとんどの時間を病院スタッフの監視なしでモニタリングされ、故に身体活動の存在についての知識を欠くので、集中治療室設定よりも一般病棟設定においてより顕著である。この問題は在宅医療設定における患者のモニタリングにおいてさらに深刻になる。
【0006】
多軸加速度計が在宅治療若しくは一般病棟の患者などの外来条件で呼吸速度を測定するために使用される場合、加速度計信号は人の呼吸によって変化するだけでなく、加速度計信号は例えば歩く若しくは走るなどの全身運動、及び例えば心拍などによる他の生理学的運動など、呼吸運動によるものではない、不要な動きによっても影響される。これらの不要な動きの一部は、呼吸と同じ範囲の、すなわち0.1Hz乃至2Hz、若しくは毎分6呼吸乃至毎分120呼吸の周波数成分を持ち得るが、固定周波数応答を持つフィルタで抑制されることができない。
【0007】
US6,997,882B1は被験者の呼吸運動についての情報を導出するために加速度計データを処理するための方法と装置を開示する。方法は被験者の骨盤に装着される4つの1軸加速度計モジュールのアレイを適用し、骨盤の後面から骨盤の前面の加速度を分離する。この方法の基本的前提は、呼吸が骨盤運動の前面に不均衡な影響を持ち、これが異なる技術を用いて利用されることができるということである。特に、高い信号対ノイズ比の呼吸信号の分離が、最小二乗平均フィルタリング技術を利用する適応ノイズキャンセルアルゴリズムを用いて達成される。この方法は合計(水平面)前部加速度計チャネルにおける正味加速度を、関心のある信号、すなわち呼吸による加速度、+ノイズをあらわすものとして扱い、一方合計(水平面)後部加速度計信号は主にノイズをあらわすが、これは複合前部加速度計信号におけるノイズと高度に相関する。ノイズは主に揺れる、歩く、走るなどの横断面における骨盤の動きによって生じる加速度に起因する。この方法の欠点は被験者によって装着されなければならない加速度計モジュールのアレイを必要とすることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
効率的で、患者にとって快適な方法で、加速度計で呼吸信号を決定する方法と装置を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様において、被験者の呼吸を測定するための方法は以下のステップを有する:
‐被験者の身体上に置かれる単一多軸加速度計で、異なる空間軸に沿った被験者の加速度を示す加速度計信号を生成するステップ、
‐加速度計信号から異なる空間軸に沿った被験者の加速度のベクトル大きさ信号を計算するステップ、
‐異なる空間軸に沿った加速度への非呼吸運動寄与をベクトル大きさ信号から識別するステップ、該非呼吸運動寄与は呼吸によるものではない、
‐加速度計信号の少なくとも1つから非呼吸運動寄与をフィルタリングすることによって被験者の呼吸を示す呼吸信号を決定するステップ。
【0010】
本発明にかかる方法により、被験者、例えば人の呼吸が、被験者の身体上に置かれるただ1つの多軸加速度計のみで決定される。このように単一多軸加速度計のみによって収集される信号とデータは被験者の呼吸を決定するために十分である。基準心拍センサ若しくは第2の多軸加速度計など、外部信号若しくは他の基準センサは呼吸を決定するために必要ない。これは被験者の加速度を示す加速度信号を収集する患者の身体上に置かれるただ1つの多軸加速度計のみを含むので、被験者若しくは患者にとって快適な方法で呼吸が決定される。静的な、すなわち動いていない多軸加速度計の場合、ベクトル大きさはセンサの配向に関係なく常に同じである。これはセンサの配向自体はベクトル大きさに影響しないことを示す。しかしながら、例えば歩行などの全身運動のために加速度計の配向が変化する場合、これはほとんど常に加速度における慣性成分若しくは加速度への寄与を伴う。呼吸などのゆっくりとした滑らかな運動の場合、慣性成分は配向変化に対して小さい。他方で心拍動などのインパルス状振動の場合、加速度への慣性寄与は加速度の配向寄与よりも大きい。呼吸に伴う加速度計信号変化は、例えば胸部の呼吸運動がゆっくりで滑らかな運動であるため、主に重力方向に関連する配向変化に起因し、慣性加速度に起因する程度はもっと小さい。被験者の歩行若しくは心拍など、多くの種類の運動は呼吸による慣性寄与よりも大きな慣性寄与を加速度計信号に対して持つ。例えば、心拍は胸部の急速変動の短いバーストによって識別されることができる。加速度計信号のベクトル大きさは慣性加速度成分をあらわすため、加速度計信号のベクトル大きさは加速度信号への不要な若しくは非呼吸運動の寄与を識別する効率的な方法を提供する。識別された非呼吸運動寄与は、この動きは呼吸によって生じる被験者の身体の動きによるものではないが、加速度計信号の少なくとも1つからこの不要な動きの寄与を抑制しフィルタリングするために使用される。少なくとも1つのフィルタリングされた加速度計信号から、被験者の呼吸を確実かつ正確にあらわす呼吸信号が決定され、加速度計信号への非呼吸の不要な動きの寄与、すなわち呼吸運動によるものではない動きの寄与は、加速度計信号からフィルタリングされる。
【0011】
本発明にかかる方法の一実施形態において、呼吸信号を決定するステップは個別に加速度計信号の各々から非呼吸運動寄与をフィルタリングするステップ、及びフィルタリングされた加速度計信号の合成から呼吸信号を決定するステップを含む。この実施形態によれば、全加速度計信号がフィルタリングされ、そして単一のフィルタリングされた加速度計信号に合成され、それから呼吸信号が決定される。これは全ての異なる空間軸からの加速度計信号が呼吸信号を決定する全方法ステップにおいて使用されるため、被験者の身体の配向に関係なく呼吸のより正確な表現をもたらす。
【0012】
本発明にかかる方法の一実施形態において、非呼吸運動寄与を識別するステップはベクトル大きさ信号から非呼吸運動寄与の特性周波数を抽出するステップを有する。特性周波数は加速度計信号から非呼吸運動寄与をフィルタリングするために使用されることができる直接的パラメータを提供する。特性周波数は非呼吸運動に特有の周波数であり、例えば非呼吸運動の基本周波数である。非呼吸運動の基本周波数の高次高調波もベクトル大きさ信号から抽出されることができ、その後加速度計信号から非呼吸運動をフィルタリングするために使用されることができる。
【0013】
本発明にかかる方法の一実施形態において、運動寄与を識別するステップはベクトル大きさ信号から不要なノイズ寄与をあらわすノイズ基準信号を抽出するステップを有する。ノイズ基準信号は加速度計信号における非呼吸運動信号成分若しくはその寄与をあらわす信号であり、加速度計信号のさらなる処理において、例えば加速度計信号から非呼吸運動寄与をフィルタリングするために有利に使用されることができる。
【0014】
さらなる実施形態においてノイズ基準信号はデジタルフィルタリング技術でベクトル大きさ信号から抽出される。これはノイズ基準信号を抽出する単純かつ効率的な方法である。例えば、ノイズ基準信号を抽出するためにベクトル大きさ信号からエンベロープが計算される。別のさらなる実施形態においてノイズ基準信号は心臓干渉信号を有する。このように不要な心臓干渉が加速度計信号から除去されることができる。別のさらなる実施形態において呼吸信号を決定するステップはノイズ基準信号で適応ノイズフィルタにより加速度計信号をフィルタリングするステップを有する。適応ノイズフィルタは加速度計信号から非呼吸運動寄与をフィルタリングする効率的で信頼できる方法を提供する。別のさらなる実施形態において非呼吸運動寄与を識別するステップはノイズ基準信号から非呼吸運動寄与の特性周波数を抽出するステップをさらに有し、呼吸信号を決定するステップは適応ノッチフィルタで加速度計信号から特性周波数をフィルタリングするステップを有する。これは加速度計信号からの特性周波数を用いる非呼吸運動の直接的フィルタリングを提供する。代替的に、特性周波数をフィルタリングするステップにおいてコムフィルタが適用されることができ、この場合高次高調波もフィルタリングされる。
【0015】
本発明にかかる方法の一実施形態において、非呼吸運動寄与を識別するステップは、
‐ベクトル大きさ信号のパワースペクトルを計算するステップと、
‐パワースペクトルから非呼吸運動の特性周波数を抽出するステップを有し、
呼吸信号を決定するステップは適応ノッチフィルタで加速度計信号から特性周波数をフィルタリングするステップを有する。
【0016】
パワースペクトルはフーリエ変換されたベクトル大きさ信号の大きさをあらわす。従ってこの実施形態は被験者の身体の非呼吸運動に起因する加速度計信号における比較的大きな慣性成分を識別する単純で信頼できる方法を提供する。
【0017】
本発明にかかる方法の一実施形態において、運動寄与を識別するステップは、
‐ベクトル大きさ信号と加速度計信号の1つとのコヒーレンススペクトルを計算するステップと、
‐コヒーレンススペクトルから非呼吸運動寄与の特性周波数を抽出するステップを有し、
呼吸信号を決定するステップは適応ノッチフィルタで加速度計信号から特性周波数をフィルタリングするステップを有する。
【0018】
コヒーレンススペクトルはベクトル大きさ信号がどれほど各周波数において加速度計信号の1つに対応するか若しくは一致するかを示す。非呼吸運動に起因する加速度計信号における慣性寄与は呼吸運動に起因する加速度計信号における慣性寄与と比較して大きいので、最高コヒーレンスを持つ周波数成分は非呼吸運動信号であると見なされる。
【0019】
さらなる実施形態において非呼吸運動寄与の特性周波数は被験者の心拍周波数を有する。有利なことに、このようにして被験者の心拍の周波数、すなわち脈拍数が、被験者の身体上に置かれる1つの加速度計の加速度計信号から被験者の呼吸と同時に決定される。
【0020】
さらなる実施形態において、非呼吸運動寄与の特性周波数は動いている被験者のステップ周波数を有する。このように動いている、すなわち歩いている若しくは走っている被験者のステップ周波数が、被験者の身体上に置かれる1つの加速度計の加速度計信号から被験者の呼吸と同時に決定されることができる。一実施形態において、被験者の心拍が呼吸とステップ周波数に加えて、及び同時に決定されることができる。
【0021】
本発明にかかる方法の一実施形態において、方法は呼吸信号から被験者の呼吸速度を抽出するステップをさらに有する。呼吸信号は非呼吸運動寄与の減少を伴って利用可能なので、抽出される呼吸速度は実際の呼吸速度の信頼できる表現を与える。
【0022】
本発明にかかる方法の一実施形態において、方法はベクトル大きさ信号から周波数範囲をフィルタリングするステップをさらに有し、このフィルタリングされたベクトル大きさ信号は非呼吸運動寄与を識別するステップにおいて使用される。ベクトル大きさ信号をプレフィルタリングすることによって、呼吸信号を決定するより信頼できる正確な方法が得られる。好適には周波数範囲は被験者の呼吸の周波数範囲をカバーする。
【0023】
本発明の第2の態様において被験者の呼吸を決定するための呼吸決定装置は以下を有する。
‐被験者の身体上に置かれるための単一多軸加速度計、多軸加速度計は異なる空間軸に沿った被験者の加速度を示す加速度計信号を生成するように構成される。
‐加速度計信号から異なる空間軸に沿った被験者の加速度のベクトル大きさ信号を計算するのに、及びベクトル大きさ信号から異なる空間軸に沿った加速度への非呼吸運動寄与を識別するのに適した信号処理ユニット。
‐加速度計信号の少なくとも1つから非呼吸運動寄与をフィルタリングすることによって被験者の呼吸を示す呼吸信号を決定するための呼吸信号決定ユニット。
【0024】
好適には、呼吸信号決定ユニットは適応ノイズフィルタ若しくは適応ノッチフィルタを有する。
【0025】
本発明にかかる装置の利点は本発明にかかる方法の利点と同様であり、本発明にかかる装置のさらなる実施形態の追加の特徴は本発明にかかる方法のさらなる実施形態の特徴と同様であることが理解されるものとする。
【0026】
本発明の好適な実施形態は各独立請求項と従属請求項の任意の組み合わせでもあり得ることが理解されるものとする。
【0027】
本発明のこれらの及び他の態様は以下に記載の実施形態から明らかとなり、それを参照して解明される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】単軸加速度計信号、抽出されたベクトル大きさ信号、心拍基準信号、及び呼吸基準信号のグラフの一実施例を概略的に示す。
図2】本発明にかかる方法の一実施形態を概略的に示す。
図3】本発明の一実施形態にかかる、ベクトル大きさ信号、フィルタリングされたベクトル大きさ信号、フィルタリングされたベクトル大きさ信号の絶対値、及び抽出されたノイズ基準信号のグラフの一実施例を概略的に示す。
図4】本発明の一実施形態にかかる、単軸加速度計信号、フィルタリングされた単軸加速度計信号、及び呼吸基準信号のグラフの一実施例を概略的に示す。
図5】本発明にかかる方法の一実施形態を概略的に示す。
図6】本発明の一実施形態にかかる、単軸加速度計信号、フィルタリングされた単軸加速度計信号、及び呼吸基準信号のグラフの一実施例を概略的に示す。
図7】本発明の一実施形態にかかるパワースペクトルの一実施例を概略的かつ例示的に示す。
図8】本発明の一実施形態にかかるコヒーレンススペクトルの一実施例を概略的かつ例示的に示す。
図9】本発明にかかる装置の一実施形態を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
人の呼吸をモニタリング若しくは決定するために、特に外来条件において、多軸加速度計、特に3軸加速度計が人の胸部若しくは腹部に置かれる。呼吸モニタリングのための多軸加速度計の好適な位置は下位肋骨、中央と横の位置の大体真ん中である。この位置は加速度計データにおける最も一貫した呼吸誘導変化を与える。例えば術後創傷のために、身体の体格による制限がある場合は、他の位置、例えば腹部の上も可能である。
【0030】
多軸加速度計は対象の運動を反映する、特に呼吸によって生じる腹部若しくは胸部の運動を反映する傾斜計として使用される。運動は、その上に多軸加速度計が置かれる対象の表面の傾斜変化に反映される。優先的には3つの直交軸である、多軸加速度計の複数の異なる空間軸が、これらの軸の各々への重力ベクトルの投影に等しい加速度計信号を記録する。
【0031】
呼吸及び心拍運動による加速度計信号の異なる特性を説明するために、図1aは人の胸部の左側に置かれる多軸加速度計の1軸の時間の関数としての生の単軸加速度計信号1の一実施例を示す。加速度計信号1は呼吸運動及び心臓の鼓動の両方によって影響される。ゆっくりと変動する信号が加速度計信号1において認識でき、図1aに曲線2で示される。このゆっくりと変動する信号は呼吸による胸部の運動によって生じ、重力に対する多軸加速度計の配向変化に関連する。胸部の呼吸運動はゆっくりとした滑らかな運動であるため、呼吸運動によって生じる多軸加速度計の慣性変化は呼吸運動による多軸加速度計の配向変化よりもかなり小さい。呼吸によるゆっくりと変動する信号に加えて、急速な変動の短いバーストが生の加速度計信号1において観察されることができる。これらの急速変動は心臓の鼓動による胸部の運動によって生じ、呼吸運動による変動よりもかなり大きな慣性成分を持つ。加速度計信号におけるこのより大きな慣性成分若しくは寄与は図1bに見られ、これはこの実施例において、図1aの単軸加速度計信号1を含む、時間の関数としての加速度計の全3軸からの加速度計信号から計算されるベクトル大きさ信号を示す。ベクトル大きさ信号は心拍運動による特有の急速変動のみを明確に示す。主に配向変化に起因し、心拍運動のものよりも小さな慣性成分を持つ、呼吸に起因するゆっくりと変動する運動は、ベクトル大きさ信号においては識別若しくは認識されることができない。参照として、図1cは時間の関数としてのECGで測定された対応する心拍信号を示し、図1dは時間の関数としての呼吸ベルトで測定された対応する呼吸信号を示す。心拍信号と呼吸信号は多軸加速度計の測定結果として同じ人で同時に測定される。図1aに曲線2で示されるゆっくりと変動する信号と、図1dに示され、呼吸ベルトで同時に測定される基準呼吸信号は、明らかによい相関を持つ。さらに、図1bのベクトル大きさ信号は図1cの心拍信号とよい相関を示す。
【0032】
加速度計信号における心拍運動によるパワーのほとんどは正常呼吸周波数外の周波数、すなわち約10Hzであるが、場合によっては約1Hzである基本心拍周波数における無視できない成分も存在する。この基本心拍周波数成分は、0.1Hz乃至2Hz若しくは毎分6呼吸乃至毎分120呼吸である、正常呼吸の周波数範囲内であるため、呼吸による信号として誤って分類され得るが、実際にはこれは基本心拍周波数における心拍運動によって生じる信号である。心拍及び呼吸速度は両方とも人によって異なり、時間の関数としても変化するので、正常呼吸の周波数範囲内である、この基本心拍周波数における不要な心臓干渉は、固定周波数応答を持つフィルタを用いることによって加速度計信号から除去されることができない。
【0033】
図2は本発明にかかる人の呼吸を決定するための方法の第1の実施形態を概略的に示す。ステップ101において3つの加速度計信号が人の身体上の適切な位置、この実施例では胸部に置かれる1つの3軸加速度計で測定される。3つの測定される加速度計信号は、3つの異なる軸、例えば3つの直交軸に沿った、呼吸に起因する、及び心拍などの非呼吸運動若しくは胸部の運動に起因する、胸部の運動についての情報を有する。ステップ101で測定される生の加速度計信号はステップ102で使用され、ここで3つの生の加速度計信号のベクトル大きさ信号が計算される。ベクトル大きさは例えば3つの異なる軸をあらわす3つの加速度計信号のベクトル和をとることによって計算されることができる。
m(t)=√[x(t)+y(t)+z(t))]
m(t)は時刻tにおける加速度計のベクトル大きさをあらわし、x(t),y(t)及びz(t)はそれぞれ時刻tにおいて加速度計のX‐,Y‐及びZ‐軸において測定される加速度をあらわす。ステップ103において、デジタルフィルタリング技術によってステップ102で決定されたベクトル大きさ信号からノイズ基準信号が抽出される。例えばノイズ基準信号は、ベクトル大きさ信号のエンベロープを計算することによって、基線変動及び高周波数ノイズを除去するために例えば5Hz乃至15Hzのバンドパスフィルタでベクトル大きさ信号を最初にフィルタリングすることによって、その後絶対値を計算すること若しくは二乗することによってベクトル大きさ信号を修正することによって、及び最後に生理学的に現実的な呼吸速度の範囲外の高周波数ノイズを除去するために例えば2Hzの限度を持つローパスフィルタで絶対値若しくは二乗値をフィルタリングすることによって、決定される。比較的小さな慣性成分を持つ、ゆっくりと変動する呼吸信号は、ベクトル大きさ信号において無視できる寄与を持つが、心拍による胸部の動きは比較的大きな慣性成分を持ち、従ってベクトル大きさ信号に比較的大きな寄与を持つので、ノイズ基準信号は呼吸によるものではない胸部の動き若しくは運動をあらわす。最後にステップ104においてノイズ基準信号と生の加速度計信号の少なくとも1つとが適応ノイズキャンセラにおいて使用され、生の加速度計信号の少なくとも1つから主に心拍運動に対応する不要なノイズをフィルタリングして、信頼できるより正確な方法で人の呼吸をあらわす信号をもたらす。適応フィルタリングは個別に3つの加速度計信号の各々に対して適用されることもでき、その後3つのフィルタリングされた加速度計信号の適切な合成が呼吸信号をもたらす。このように、心臓干渉を決定するための外部基準なしに加速度計信号から心臓干渉が除去される。例えばヒルベルト変換若しくは短時間フーリエ変換を利用するエンベロープを計算するための他の方法もまた使用され得る。
【0034】
次の実施形態の基本アイデアは、ベクトル大きさ信号を、基本心臓周波数における心臓干渉信号に対応する信号、すなわちノイズ基準信号へ変換すること、及びこの信号を適応ノイズキャンセリングスキームにおけるノイズ基準として使用することである。図3a‐dは、この実施例においてはベクトル大きさ信号のエンベロープをとることによって、デジタルフィルタリング技術を適用することによってノイズ基準信号を抽出するために加速度計信号とベクトル大きさ信号がどのように使用されるかの一実施例を示す。図3aは3軸加速度計の全3軸からの加速度計信号から計算される時間の関数としてのベクトル大きさ信号のグラフを示す。図3bは基線変動及び高周波数ノイズを除去するために5Hz乃至15Hzの通過帯域を持つバンドパスフィルタでフィルタリングされる図3aの加速度計ベクトル大きさ信号のグラフを示す。図3cは図3bのフィルタリングされた加速度計ベクトル大きさ信号の絶対値のグラフを表示する。例えばデータの二乗のような代替案もまたこの結果を得るために適用されることができる。図3dは図3cのグラフの絶対値のローパスフィルタリングされたバージョンを示すグラフを表示し、ローパスフィルタは例えば2Hzのカットオフ周波数を持つ。図3dのグラフは図2の方法にかかるベクトル大きさ信号から抽出されるノイズ基準信号をあらわす。図3dから、このようにしてベクトル大きさエンベロープから心拍数若しくは周波数を導出すること、及びこれを用いて適切なフィルタで基本心臓周波数における心臓干渉を選択的に除去することもまた可能であることが明らかである。随意に一次及び他の高調波もフィルタリングされることができる。例えば、適応ノッチフィルタ若しくはコムフィルタが適用されることができる。この適応フィルタリング法は加速度計信号における心臓干渉を著しく削減する。
【0035】
図4は適応フィルタリング法の別の実施例の結果を図示する。図4aは例えば0.1Hz乃至2Hzの正常呼吸周波数範囲をカバーするバンドパスフィルタでフィルタリングされている時間の関数としての単軸加速度計信号を表示する。図4bは適応ノイズフィルタで処理された後の単軸加速度計信号を図示する。図4cは多軸加速度計の測定結果として同じ人で同時に測定される、時間の関数としての呼吸ベルトで測定される対応する基準呼吸信号を示す。信号の最初の30秒は無呼吸の期間をカバーし、その後に回復と正常呼吸の期間が続く。最初の30秒において図4aを図4bと比較することによって、無呼吸期間中の心臓干渉の振幅が適応ノイズフィルタリング法を用いて2分の1に削減されることが観察される。さらに、正常呼吸中、加速度計信号波形は心臓干渉に起因するより少ない量のピークを含む。
【0036】
呼吸と心拍に加えて、加速度計信号は例えば歩く若しくは走るなどの他の種類の身体運動によっても影響される。呼吸に関連する加速度計信号変化は主に重力方向に関連する配向変化に起因する。歩く若しくは走るなどの他の種類の身体運動は、配向変化に起因するだけでなく、呼吸運動に起因する慣性成分と比較して比較的大きな慣性成分も持つ、加速度計信号における変化を誘導する。これらの慣性成分は加速度計信号のベクトル大きさに基づいて識別されることができ、そして再度、きれいな信頼できる呼吸信号を得るために各軸の加速度計信号における他の動きを抑制するために使用される。
【0037】
図5は本発明にかかる人の呼吸を決定する方法の第2の実施形態を概略的に図示する。ステップ101において3つの加速度計信号が人の身体上の適切な位置、この実施例では胸部に置かれる1つの3軸加速度計で測定される。3つの測定される加速度計信号は、呼吸に起因する、及びこの実施例では、3つの異なる軸、例えば3つの直交軸に沿った人の運動に起因する、胸部の運動の情報を有する。ステップ101で測定される生の加速度計信号はステップ102で使用され、ここでベクトル大きさ信号が3つの生の加速度計信号から計算される。ベクトル大きさは例えば3つの異なる軸をあらわす3つの加速度計信号のベクトル和をとることによって計算されることができる。ステップ203においてステップ102で決定されたベクトル大きさ信号から特性周波数が抽出される。随意に、ステップ203において最初にベクトル大きさ信号が例えば0.1Hz乃至1Hzのバンドパスフィルタでフィルタリングされ、特定の人にとって生理学的に現実的な呼吸範囲外の全ノイズを除去する。ステップ203において、特性周波数が例えばベクトル大きさ信号のパワースペクトルによって、若しくはベクトル大きさ信号と加速度計信号の1つとのコヒーレンススペクトルによって、抽出される。特性周波数は、この実施例では人の運動に特有の周波数、例えば歩行若しくは走行中のステップ周波数である。人の運動、すなわち歩行若しくは走行は、歩行による慣性加速度が呼吸運動による慣性加速度よりも大きいため、ベクトル大きさ信号に比較的大きな寄与を持つ。従って、例えばパワースペクトル若しくはコヒーレンススペクトルによるベクトル大きさ信号の周波数解析は、この場合人の歩行若しくは走行に起因する、最大慣性加速度を持つ寄与をあらわす優位周波数を明らかにする。最後にステップ204において特性周波数及び生の加速度計信号が適切なフィルタにおいて使用され、この場合主に歩行に対応する不要なノイズを生の加速度計信号からフィルタリングし、人の呼吸を確実に正確にあらわす信号をもたらす。例えば、ステップ204において適応ノッチフィルタ若しくはコムフィルタが適用され、ここで特性周波数、及び随意にその高次高調波がフィルタリングされる。フィルタリングは個別に3つの加速度計信号の各々に対して適用されることができ、その後3つのフィルタリングされた加速度計信号の適切な合成が呼吸信号をもたらす。このように、人の身体運動による干渉若しくはノイズが、例えば追加加速度計などの身体運動を測定するための外部基準を必要とすることなく加速度計信号から除去される。
【0038】
図6図5に図示された周波数フィルタリング方法の一実施例を図示する。図6aは歩いている人の時間の関数としての単軸加速度計信号を表示し、信号は特定の人にとって正常呼吸周波数範囲、例えば0.1Hz乃至1Hzをカバーするバンドパスフィルタでフィルタリングされている。図6bは適応ノッチフィルタで処理された後の単軸加速度計信号を図示する。図6cは多軸加速度計の測定結果として同じ人で同時に測定される、時間の関数としての呼吸ベルトで測定される対応する基準呼吸信号を示す。図6bに示すフィルタリングされた信号において、呼吸による変動が明らかに観察されることができ、呼吸速度が例えばピーク検出アルゴリズムによって容易に決定されることができる。図6aからわかる通り、加速度計信号における優位周波数はおおよそ0.72Hzに対応する約1.4秒の期間を持つ。これらの変動は、しかしながら、人の呼吸によるものではなく、0.72Hzのストライド周波数での人の歩行によるものであり、1ストライドは各足に1つずつ、2ステップから成り、真の呼吸速度は約0.18Hzであり、図6cにおいて呼吸バンド信号から観察されることができる通り、毎分約11呼吸に対応する。各足が地面に着くのに関連する加速度は大きな慣性成分を持つ。人のストライドの結果としての加速度信号における成分若しくはその寄与は、2ステップに対応する各ストライドに関連する上体の配向変化に起因する。ストライド加速度変化は比較的滑らかに起こるので、ストライドに関連する慣性成分は比較的小さい。毎ステップは呼吸よりも大きな慣性加速度を伴うので、ステップ及びストライド周波数はベクトル大きさ信号の解析から導出されることができる。基本ステップ及びストライド周波数が加速度計ベクトル大きさから識別されると、この周波数及び最終的にはその一次高調波を生の加速度計信号の1つ以上から除去するために適応ノッチ若しくはコムフィルタが使用される。このように、動いている、例えば歩いている若しくは走っている人のステップ周波数が同時に決定されながら、呼吸速度が確実に抽出されることができる。
【0039】
図7図6に示す通り歩いている人の加速度計信号データから計算されるパワーススペクトルグラフの一実施例を図示する。パワースペクトルはフーリエ変換信号の例えば二乗した大きさをあらわす。図7において垂直軸は周波数で割ったパワーを[dB/Hz]であらわし、水平軸は周波数を[Hz]であらわす。第1のパワースペクトル51はベクトル大きさ信号から計算され、第2のパワースペクトル52は、この場合Z軸加速度計信号の生データから計算される。毎ステップは比較的大きな慣性加速度を伴うので、図7から加速度計ベクトル大きさにおける優位周波数がストライド周波数の2倍に対応するステップ周波数であることが明らかである。ベクトル大きさ信号のパワースペクトル51の最高ピークはステップ周波数として識別され、これはこの場合ピーク62である。ピーク62の高さが第1のパワースペクトル51と第2のパワースペクトル52について同程度であるという事実は、ピーク62が主要部分慣性加速度をあらわすことを示す。第1のピーク61は単軸加速度計信号の第2のパワースペクトル52にしか見られず、このピーク61は2番目に大きいが、ステップ周波数の半分であるストライド周波数をあらわす。ストライドによって生じる加速度における成分若しくはその寄与は各ストライドに関連する上体の配向変化に起因する。これらのストライドによる加速度変化は比較的滑らかに起こるので、ストライドに関連する慣性成分若しくは寄与は比較的、特に被験者の各ステップによって生じる慣性成分若しくは寄与と比較して、小さい。従って、ストライド周波数に関連するピーク61は個別軸加速度計信号のパワースペクトル52にしか見られず、ベクトル大きさ信号のパワースペクトル51には見られない。ストライド周波数はステップ周波数のちょうど半分であるため、この周波数成分は呼吸に起因するのではなくこの場合歩行に起因する比較的大きな慣性成分に関連することが明らかである。同様に例えば2.1Hz及び2.8Hzにおける高次高調波ピークは、この実施例では歩行に起因する比較的大きな加速度に関連する。2.1Hzにおけるピークは主に配向変化をあらわし、一方2.8Hzにおけるピークは主に慣性加速度に起因する。ステップ周波数におけるピーク62の大きさ若しくはパワーと、第1のパワースペクトル51の呼吸ピークの大きさとの差は約35dBであり、これは呼吸に起因する慣性寄与よりも歩行に起因する運動のおおよそ50倍大きな慣性寄与に対応する。代替的に若しくは同時に、パワースペクトルは被験者が歩いている若しくは走っている間に被験者の心拍周波数を抽出するために使用される。このように、動いている人のステップ周波数及び/又は心拍周波数も同時に決定されながら、動いている人の呼吸が確実に抽出されることができる。
【0040】
図8図6に示す通り歩いている人のデータ及び信号から計算されるコヒーレンススペクトルの一実施例を図示する。図8において垂直軸は2つの信号間のコヒーレンスをあらわし、水平軸は周波数を[Hz]であらわす。コヒーレンスは2つの信号の正規化相互スペクトル密度であり、これは特定周波数において、2つの信号がいかに対応するかを示す、又は言い換えれば2つの信号の類似性の尺度である、0と1の間の値をもたらし、最高コヒーレンス値は2つの信号間の最大類似性若しくはマッチングに対応する。コヒーレンスは例えばウェルチの平均修正ピリオドグラム法を用いることによって計算される。図8は加速度計ベクトル大きさと個別軸の加速度計信号の間のコヒーレンススペクトルをあらわすグラフを表示する。ピーク71,72,73,74から、コヒーレンスはステップ周波数及びストライド周波数の両方において0.9を超える値を持ち、一方呼吸周波数においてコヒーレンスは0.8未満の値を持つことが観察されることができる。ベクトル大きさ信号と単軸加速度計信号の間の類似性が特定周波数において高い、従って高いコヒーレンス値を示す場合、この場合はその特定周波数において単軸加速度計信号への慣性寄与が比較的大きい。ベクトル大きさ信号が比較的最大値を持つ慣性寄与をあらわすので、高いコヒーレンス値はこの実施例では歩行による慣性寄与である最大慣性寄与に対応し、それをあらわす。同様の方法は、例えばパワースペクトル及び/又はコヒーレンススペクトル法を用いてベクトル大きさ信号から心拍周波数を抽出することによって心拍運動による慣性寄与を代替的に若しくは同時にフィルタリングするために使用されることができる。
【0041】
本発明にかかる被験者305の呼吸を決定するための呼吸決定装置の一実施形態が図9に図示される。呼吸決定装置300は被験者305の身体に、例えば人の胸部上に置かれる単一多軸加速度計310を有する。多軸加速度計310はこの実施例では人の胸部の異なる空間軸に沿った加速度を示す加速度計信号を生成する。信号処理ユニット320は加速度計信号から異なる空間軸に沿った加速度のベクトル大きさ信号を計算する。さらに、信号処理ユニット320はベクトル大きさ信号から異なる空間軸に沿った加速度への非呼吸運動寄与を識別する。非呼吸運動寄与は、例えば心拍に起因する、又は歩行若しくは走行の形で人の運動に起因する、胸部の運動である。呼吸信号決定ユニット330は加速度計信号から非呼吸運動寄与をフィルタリングすることによって被験者の呼吸を示す呼吸信号を決定する。例えば、フィルタリングは適応ノイズ若しくはノッチフィルタ若しくはコムフィルタでなされる。最後に呼吸信号はディスプレイ340上に表示されることができる。
【0042】
上記実施形態において多軸加速度計は好適には3つの直交軸を持つが、多軸加速度計は2つの直交軸若しくは3つより多くの軸を持つこともできる。さらに、空間軸は別の角度も含むことができ、すなわち別の実施形態において軸は非直交であることができる。
【0043】
上記実施形態において1つの多軸加速度計が使用されるが、本発明にかかる2つ以上の多軸加速度計もまた、さらに高い精度で呼吸信号を決定することができるように使用されることができ、各々本発明にかかる方法を適用する。
【0044】
本発明にかかる実施形態において使用される周波数範囲と値は、呼吸が決定される、例えば被験者のタイプ、例えば年齢に応じて、ユーザによって設定されるパラメータであり得る。
【0045】
開示された実施形態への他の変更は、図面、開示、及び添付の請求項の考察から、請求された発明を実施する上で当業者によって理解されもたらされることができる。
【0046】
請求項において、"有する"という語は他の要素若しくはステップを除外せず、不定冠詞"a"若しくは"an"は複数を除外しない。
【0047】
単一ユニット若しくは装置は請求項に列挙された複数の項目の機能を満たし得る。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されるという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示さない。
【0048】
請求項における任意の参照符号は範囲を限定するものと解釈されてはならない。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9