【文献】
2・6・10 変色防止剤,周知・慣用技術集(香料)第I部香料一般,1999年 1月29日,p.203,204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
退色防止剤とサフラン色素含有物とを接触させることによりサフラン色素の退色を防止する方法であって、該退色防止剤が下記の(1)〜(5)のいずれかに記載の混合物を有効成分とする、サフラン色素の退色防止方法;
(1)サフラナール、イソホロン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン、4-ケトイソホロン、及び2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オンをそれぞれ40:3:3:2:2の割合で含む混合物、
(2)サフラナール、イソホロン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン、4-ケトイソホロン、2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オン、及びリナロールをそれぞれ40:3:3:2:2:0.1の割合で含む混合物、
(3)オイゲノール、サフラナール、イソホロン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン、4-ケトイソホロン、及び2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オンをそれぞれ1:40:3:3:2:2の割合で含む混合物、
(4)オイゲノール、及びサフラナールをそれぞれ1:1の割合で含む混合物、又は
(5)オイゲノール、グアイアコール、及びサフラナールをそれぞれ1:1:1の割合で含む混合物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の退色防止剤及び退色防止方法は、いずれもサフラン色素を直接の対象としたものではなく、取り扱い易さ及び退色防止効果等の点においてサフラン色素に対して必ずしも満足する効果が得られているとはいえない。従って、本発明は、サフラン色素の退色を簡便に防止することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の揮発性化合物を有効成分とする退色防止剤とサフラン色素とを接触させることにより、サフラン色素の退色を防止することができることを見出した。かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下のサフラン色素の退色防止方法に関する。
【0009】
項1. 退色防止剤とサフラン色素含有物とを接触させることによりサフラン色素の退色を防止する方法であって、該退色防止剤が、オイゲノール、グアイアコール、1-ヘキサナール、1-tert-ブチルシクロペンタジエン、β-フェランドレン、ベンズアルデヒド、1,1,3-トリメチルシクロペンタジエン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、オイカルボン、サフラナール、β-シクロシトラール、サフラン酸、イソホロン、2-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン、4-ケトイソホロン、2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オン、β-イオノン、ジヒドロイオノン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン、リナロール、3,4,5-トリメトキシベンズアルデヒド、イソプレゴール、trans-p-メンタン-3,8-ジオール、イソオイゲノール、(+)-イソピノカンフェオール、2,3-ピナンジオール、フェンチルアルコール、cis-ベルベノール、β-カリオフィレン、(-)-エピセドロール、(+)-α-フネブレン、(-)-デヒドロアロマデンドレン、ネロール、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、テトラヒドロラバンズロール、ジヒドロミルセノール、ライムオキシド、及びローズオキシドからなる群より選ばれた少なくとも1種の揮発性化合物を有効成分とする、サフラン色素の退色防止方法。
【0010】
項2. 前記退色防止剤を揮発させて前記サフラン色素含有物と接触させる、上記項1に記載のサフラン色素の退色防止方法。
【0011】
項3. 前記サフラン色素含有物がサフラン乾燥柱頭又はサフラン色素製剤である、上記項2に記載のサフラン色素の退色防止方法。
【0012】
項4. 前記退色防止剤を添加して前記サフラン色素含有物と接触させる、上記項1に記載のサフラン色素の退色防止方法。
【0013】
項5. 前記退色防止剤が、オイゲノール、グアイアコール、ベンズアルデヒド、サフラナール、2-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン、リナロール、イソオイゲノール、(-)-デヒドロアロマデンドレン、ネロール、及びゲラニオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の揮発性化合物を有効成分とする、上記項1〜4のいずれかに記載のサフラン色素の退色防止方法。
【0014】
項6. 前記退色防止剤が、オイゲノール、サフラナール及びネロールからなる群より選ばれた少なくとも1種の揮発性化合物を有効成分とする、上記項1〜5のいずれかに記載のサフラン色素の退色防止方法。
【0015】
項7. 前記退色防止剤が、サフラナール及びオイゲノールを有効成分とする、上記項1〜6のいずれかに記載のサフラン色素の退色防止方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の揮発性化合物を有効成分とする退色防止剤とサフラン色素とを接触させるという簡便な方法によりサフラン色素の退色を防止することができる。さらに、本発明の方法は、退色防止効果が高いことから、サフラン色素の退色を長期間防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0019】
<サフラン色素>
サフラン色素は、サフラン(学名:Crocus sativus L.)のめしべを抽出して得られた色素をいい、カロチノイドであるクロシンを主成分とする黄色色素である。
【0020】
よって、本発明においてはサフラン色素を含有するもの(サフラン色素含有物)であれば特に限定されることなく用いることができる。サフラン色素含有物としては、例えば、サフランのめしべから抽出した色素自体でもよいし、着色料等として用いられるサフラン色素製剤、生薬として用いられるサフラン乾燥柱頭、サフラン乾燥柱頭の抽出物、さらには、サフラン色素を含有する製品、例えば食品、化粧品、及び医薬品などでもよい。
【0021】
サフラン乾燥柱頭はサフランのめしべを乾燥させたものであり、例えば生薬として市販されているもの(例えば、高砂サフランM(大杉製薬(株)製))であってもよいし、サフランからめしべを採取し乾燥させることにより製造したものであってもよい。
【0022】
サフランからサフラン乾燥柱頭を製造する場合、サフランのめしべの乾燥方法は特に限定されず、公知の方法により乾燥することができる。例えば、サフランからめしべを採取した後に風通しのよい室内で陰干しする方法などが挙げられる。
【0023】
サフラン色素は、クロシンを含有する色素であれば特に限定されず、その形態は、粉末状、液体状等の各種の形態のものを利用することができる。例えば、市販のサフラン色素製剤(例えば、crocin(Fluka社製))であってもよいし、サフラン乾燥柱頭からサフラン色素を抽出したものであってもよい。
【0024】
サフラン色素をサフラン乾燥柱頭から抽出して製造する場合、サフラン乾燥柱頭からサフラン色素を抽出する方法は特に限定されず、公知の方法により抽出することができる。例えば、第十六改正日本薬局方生薬等1507頁に記載の方法などが挙げられる。
【0025】
サフラン乾燥柱頭から抽出したサフラン色素は抽出物の状態で使用してもよいし、必要に応じて精製を行ってもよい。サフラン色素の精製方法は特に限定されず、公知の方法により精製を行うことができる。例えば、得られた抽出物を適当な溶媒で再度抽出処理する方法、及び得られた抽出物を適当な膜又は樹脂を用いて精製する方法などが挙げられる。
【0026】
<退色防止剤>
本発明では、揮発性化合物を退色防止剤として使用する。揮発性化合物としては、サフランのめしべ又はサフラン乾燥柱頭の抽出物に含まれる化合物(サフラン由来化合物)と、サフラン由来化合物でない化合物(非サフラン由来化合物)とに分類することができる。
【0027】
サフラン由来化合物としては、オイゲノール、グアイアコール、1-ヘキサナール、3-メチルブタナール、1-tert-ブチルシクロペンタジエン、ヘプタナール、2(5H)-フラノン、β-フェランドレン、プレニルアセトン、1,3,5-トリメチルベンゼン、ベンズアルデヒド、1,1,3-トリメチルシクロペンタジエン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、オイカルボン、サフラナール、β-シクロシトラール、サフラン酸、イソホロン、2-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン、4-ケトイソホロン、2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オン、β-イオノン、ジヒドロイオノン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン及びリナロールなどが挙げられる。
【0028】
非サフラン由来化合物としては、ピペロナール、イソサフロール、3,4,5-トリメトキシベンズアルデヒド、2-ヒドロキシ-6-メトキシアセトフェノン、サリチルアルデヒド、イソチモール、カルバクロール、trans-イソリモネン、イソプレゴール、α-テルピネオール、(+)-メントール、trans-p-メンタン-3,8-ジオール、イソオイゲノール、ベラトロール、ホルミルピナン、α-ピネンオキシド、(-)-2-ヒドロキシ-3-ピナノン、(+)-イソピノカンフェオール、2,3-ピナンジオール、(-)-trans-ピナン-1,10-ジオール、(-)-ボルネオール、フェンチルアルコール、(-)-イソピノカンフェオール、(-)-ミルテノール、cis-ベルベノール、ノポール、β-カリオフィレン、(-)-α-ネオクロベン、(-)-エピセドロール、(+)-α-フネブレン、(-)-デヒドロアロマデンドレン、ネロール、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、テトラヒドロラバンズロール、ジヒドロミルセノール、ライムオキシド、ヌートカトン、ローズオキシド、バレンセン及び3-オクタノンなどが挙げられる。
【0029】
これらの揮発性化合物は、サフラン色素の退色防止効果を有するため、サフラン色素の退色防止剤として有効である。
【0030】
これらの揮発性化合物の中で、退色防止効果の観点からサフラン由来化合物にあっては、オイゲノール、グアイアコール、1-ヘキサナール、1-tert-ブチルシクロペンタジエン、β-フェランドレン、ベンズアルデヒド、1,1,3-トリメチルシクロペンタジエン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、オイカルボン、サフラナール、β-シクロシトラール、サフラン酸、イソホロン、2-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン、4-ケトイソホロン、2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オン、β-イオノン、ジヒドロイオノン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン及びリナロールが好ましく、非サフラン由来化合物にあっては、3,4,5-トリメトキシベンズアルデヒド、イソプレゴール、trans-p-メンタン-3,8-ジオール、イソオイゲノール、(+)-イソピノカンフェオール、2,3-ピナンジオール、フェンチルアルコール、cis-ベルベノール、β-カリオフィレン、(-)-エピセドロール、(+)-α-フネブレン、(-)-デヒドロアロマデンドレン、ネロール、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、テトラヒドロラバンズロール、ジヒドロミルセノール、ライムオキシド及びローズオキシドが好ましい。
【0031】
さらに、オイゲノール、グアイアコール、ベンズアルデヒド、サフラナール、2-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン、リナロール、イソオイゲノール、(-)-デヒドロアロマデンドレン、ネロール、及びゲラニオールがより好ましく、ネロール、オイゲノール、及びサフラナールが特に好ましい。
【0032】
これらの揮発性化合物は単独で用いてもよく、必要に応じて2種以上を混合して用いてもよい。2種以上混合する場合には、上記の揮発性化合物から任意に選択してもよいが、少なくともサフラナールが含まれていることが好ましく、さらにはサフラナール及びオイゲノールが含まれていることが特に好ましい。
【0033】
本発明で用いる退色防止剤は、上記の揮発性化合物を含有するものであれば、揮発性化合物のみからなるものであってもよいし、また必要に応じて他成分を含有する組成物であってもよい。なお、上記他成分は、本発明の効果を妨げないものであれば特に制限されず、例えば希釈剤、担体又はその他の添加剤などを挙げることができる。
【0034】
本発明で用いる退色防止剤の形態は特に制限されず、例えば粉末状、顆粒状、錠剤状、液状、オイル状、ガス状、乳液状、ペースト状等の任意の形態として調製することができる。取り扱い易さの観点からは、液状、オイル状又はガス状あることが好ましい。
【0035】
<退色防止方法>
本発明は、退色防止剤とサフラン色素含有物とを接触させることによりサフラン色素の退色を防止するものである。退色防止剤とサフラン色素含有物との接触方法は特に限定されず、退色防止剤とサフラン色素含有物とを充分に接触させることできればどのような方法であってもよい。例えば、退色防止剤をサフラン色素含有物に噴霧することによる方法、退色防止剤を揮発させることによる方法、退色防止剤をサフラン色素含有物に塗付することによる方法、退色防止剤をサフラン色素含有物に添加することによる方法、及びサフラン色素含有物を退色防止剤に浸漬することによる方法などが挙げられるが、取り扱い易さの観点から、退色防止剤を揮発させることによる方法、及び退色防止剤をサフラン色素に添加することによる方法などが好ましい。
【0036】
退色防止剤を揮発させることによる方法は、例えば、退色防止剤とサフラン色素含有物とを密閉空間内で共存させることにより行うことができる。具体的には、容器内にサフラン色素含有物と退色防止剤とを同封することにより行うことができる。退色防止剤は上記の揮発性化合物を有効成分として含有するため、容器内で揮発性化合物が自然に揮発することによりサフラン色素含有物と接触する。
【0037】
上記の方法において用いる容器としては特に限定されず、密封可能な容器であればよく、例えば、広口ビン等を用いることができる。退色防止効果を高める観点から、遮光性を有している容器が好ましい。具体的には、褐色広口ビン等を用いることができる。なお、遮光性を高めるために容器をアルミ袋等に封入してもよい。
【0038】
退色防止剤は、揮発できるような状態であれば特に制限されず容器内に封入することができる。液状又はオイル状の退色防止剤を用いる場合には、例えば、ろ紙、脱脂綿、スポンジ素材、多孔質素材等に吸収させて容器内に封入することが挙げられる。ろ紙等の吸収物は、例えば、実施例3に記載のように容器の底に設置してもよいし、実施例4に記載のように内蓋に取り付けてもよい。その他、ペトリ皿、時計皿等の皿状の容器に入れて容器内に封入することなども挙げられる。また、退色防止剤をガス状として容器内に封入することもできる。
【0039】
容器に封入した後の保存条件は特に限定されないが、温度は5〜10℃程度、湿度は40〜60%程度で保存することが好ましい。また、退色防止効果を高める観点から、直射日光の当たる場所を避けることが好ましく、暗所等に静置することがより好ましい。
【0040】
さらに、容器内への退色防止剤の封入量としては、サフラン乾燥柱頭の量、及びサフラン色素の含有量等に応じて適宜変更することができる。一例としては、サフラン乾燥柱頭100重量部に対して退色防止剤を0.001〜0.1重量部程度の範囲内となるように容器内に同封することができる。
【0041】
上記の方法は、特に、サフラン乾燥柱頭及びサフラン色素製剤の保存に適しており、上述した退色防止剤を揮発させるという簡便な方法によりサフラン乾燥柱頭等の退色を防止することができる。そのため、従来のように防湿及び低温といった保存環境に留意する必要がなくなり、サフラン乾燥柱頭等を取り扱う者の負担を軽減することができる。さらに、本発明の方法を用いれば、空調設備等を整備する必要がなくなり、特に空調設備等の整備が困難な輸送に好適に使用できる。よって、輸送コストを低減することができ、高価なサフラン乾燥柱頭を安価に市場に提供することができる。
【0042】
退色防止剤を添加することによる方法は、退色防止剤をサフラン色素含有物に添加することにより行うことができる。退色防止剤はサフラン乾燥柱頭から抽出したサフラン色素に直接添加してもよいし、サフラン色素製剤に添加してもよいし、サフラン色素を含有する製品に添加してもよい。サフラン色素を含有する製品に添加する場合には、最終製品に添加しても良いし、製造途中に適宜添加してもよい。なお、サフラン色素を含有する製品としては、例えば、食品、化粧品、薬品、調味料、香料、染料などが挙げられる。
【0043】
退色防止剤を添加した後の保存条件は特に限定されないが、温度は5〜10℃程度、湿度は40〜60%程度で保存することが好ましい。また、退色防止効果を高める観点から、直射日光の当たる場所を避けることが好ましく、暗所等に静置することがより好ましい。
【0044】
退色防止剤の添加量としては特に限定されず、サフラン色素の含有量や濃度に応じて適宜変更することができる。一例としては、サフラン色素含有物100重量部に対して退色防止剤を0.001〜0.1重量部程度の範囲内となるように添加することができる。
【0045】
上記の方法では、特に、サフラン色素を含有する製品の保存に適しており、退色防止剤を添加するという簡便な方法により食品、化粧品及び医薬品等の製品に含まれるサフラン色素の退色を防止することができる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
実施例1(サフラン色素の退色防止試験)
<サフラン色素の抽出>
サフラン色素は市販のサフラン乾燥柱頭(高砂サフランM(大杉製薬(株)社製))から抽出することにより得た。サフラン乾燥柱頭からのサフラン色素の抽出方法は、第十六改正日本薬局方生薬等1507頁に記載の方法に従った。即ち、サフラン乾燥柱頭をデシケータで24時間乾燥させた後、粉末とした。次に、その粉末0.100gを正確に量り、温湯150mlを加えた後にしばしば振り混ぜながら60〜70℃で30分間加温した。その後冷後ろ過することによりサフラン色素を得た。
【0048】
<サフラン色素の退色防止試験>
上記の方法により得たサフラン色素のろ液1mlを正確に量り、水を加えて正確に10mlとしサフラン色素溶液とした。この溶液をマイクロプレート1wellあたり190μl入れた。次に、エタノールで100μg/mlに希釈した表1に記載の揮発性化合物又は混合試料を有効成分とする退色防止剤を10μl加え、660rpmで60秒間攪拌した。その後、温度30℃、湿度60%の暗所条件下の恒温槽で48時間静置した。
【0049】
退色の程度は、マイクロプレートリーダー(MTP-800AFC、コロナ電気(株)製)で実験開始直後及び48時間経過後の440nmの吸光度をそれぞれ測定し、以下の式(1)に基づいて、サフラン色素の主成分であるクロシンの残存率を算出した。
(数1)
クロシン残存率(%)=A / A
0 (1)
A
0:退色防止試験開始直後の440nmの吸光度
A:所定時間経過後の440nmの吸光度
【0050】
さらに、以下の評価基準に従ってクロシン残存率を評価した。
・◎:クロシン残存率81〜100%
・○:クロシン残存率71〜80%
・△:クロシン残存率51〜70%
・×:クロシン残存率0〜50%
【0051】
48時間経過後のクロシン残存率及び上記の評価結果を表1に示す。なお、表1においてコントロールは退色防止剤を添加していない試料をいう。また、表1中の混合試料1〜5は、次の通りである。
【0052】
混合試料1は、サフラナール、イソホロン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン、4-ケトイソホロン、2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オンをそれぞれ40:3:3:2:2の割合で混合したものである。
【0053】
混合試料2は、サフラナール、イソホロン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン、4-ケトイソホロン、2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オン、リナロールをそれぞれ40:3:3:2:2:0.1の割合で混合したものである。
【0054】
混合試料3は、オイゲノール、サフラナール、イソホロン、4-ヒドロキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサ-2-エンオン、4-ケトイソホロン、2,4,4-トリメチル-3-カルボキシアルデヒド-5-ヒドロキシ-2,5-シクロヘキサジエン-1-オンをそれぞれ1:40:3:3:2:2の割合で混合したものである。
【0055】
混合試料4は、オイゲノール、サフラナールをそれぞれ1:1の割合で混合したものである。
【0056】
混合試料5は、オイゲノール、グアイアコール、サフラナールをそれぞれ1:1:1の割合で混合したものである。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から、1種類の揮発性化合物を有効成分とする退色防止剤を添加することによりサフラン色素に接触させた場合(試料1〜39)は、退色防止剤を用いない場合(コントロール)に比べ、クロシン残存率が高いことが確認された。
【0059】
特に、オイゲノール(試料1)、サフラナール(試料10)及びネロール(試料33)を有効成分とした場合にはクロシン残存率が非常に高いことが確認され、サフラン色素の退色防止に有効であることがわかった。
【0060】
さらに、2種以上の揮発性化合物を有効成分とする退色防止剤を添加した場合(混合試料1〜5)には、いずれもクロシン残存率が90%を超えることが確認され、より高い退色防止効果が得られることがわかった。
【0061】
実施例2(サフラン乾燥柱頭の退色防止試験)
市販のサフラン乾燥柱頭(高砂サフランM(大杉製薬(株)社製))10mgを1.8mlのサンプル管に量りとり、サンプル管を20mlの広口ビンの底に設置した。次に、エタノールで10mg/mlに希釈した表1に記載の揮発性化合物又は混合試料を有効成分とする退色防止剤1μlをマイクロシリンジで直径8mmのろ紙(Paper Disc(ADVANTEC社製))に染み込ませた。このろ紙を
図1に示すように広口ビンの底に設置した。その後、広口ビンを密封し、温度30℃、湿度60%の暗所条件下の恒温槽で、1週間静置した。また、コントロールとしてろ紙を封入しないものを用意した。
【0062】
退色の程度は、実施例1と同様の方法により1週間経過後のサフラン乾燥柱頭からサフラン色素を抽出し、440nmの吸光度を測定し、式(1)に基づいてクロシン残存率を算出した。さらに、クロシン残存率の評価を行った。
【0063】
1週間経過後のクロシン残存率及び上記の評価結果を表2に示す。なお、表2において、コントロールは退色防止剤を用いていない試料をいい、混合試料6〜10は、表1における混合試料1〜5と同一のものである。
【0064】
【表2】
【0065】
表2から、1種類の揮発性化合物を有効成分とする退色防止剤を揮発させることによりサフラン乾燥柱頭に接触させた場合(試料40〜78)は、退色防止剤を用いない場合(コントロール)に比べ、クロシン残存率が高いことが確認された。
【0066】
特に、オイゲノール(試料40)、サフラナール(試料49)及びネロール(試料72)を有効成分とした場合にはクロシン残存率が非常に高いことが確認され、サフラン乾燥柱頭の退色防止に有効であることがわかった。
【0067】
さらに、2種以上の揮発性化合物を有効成分とする退色防止剤を揮発させた場合(混合試料6〜10)には、いずれもクロシン残存率が90%を超えることが確認され、より高い退色防止効果が得られることがわかった。
【0068】
実施例3(サフラン乾燥柱頭の退色経時変化試験)
市販のサフラン乾燥柱頭(高砂サフランM(大杉製薬(株)社製))100gを250mlの褐色広口ビンに入れ、褐色広口ビンをさらにアルミ袋に入れた。次に、混合試料11〜15を有効成分とする退色防止剤を1μl、マイクロシリンジで直径8mmのろ紙(Paper Disc、ADVANTEC社製)に染み込ませ、アルミ袋に別途封入した。その後、アルミ袋を密封し、温度40℃、湿度75%の暗所条件下の恒温槽で、1〜3ヶ月静置した。また、コントロールとしてろ紙を封入しないものを用意した。
【0069】
その後、実施例1と同様の方法によりサフラン乾燥柱頭からサフラン色素を抽出し、実験開始直後及び1〜3ヶ月経過後の440nmの吸光度を測定し、式(1)に基づいてクロシン残存率をそれぞれ算出した。混合試料を用いたクロシン残存率の経時変化を
図2に示す。なお、
図2において、コントロールは退色防止剤を用いていない試料をいい、混合試料11〜15は混合試料6〜10と同一のものである。
【0070】
図2から、混合試料を有効成分とする退色防止剤を揮発させることによりサフラン乾燥柱頭に接触させた場合(混合試料11〜15)は、退色防止剤を用いない場合(コントロール)に比べ、3ヶ月経過後であってもクロシン残存率が高いことが確認された。
【0071】
本実施例の温度40℃及び湿度70%で3ヶ月保存という試験条件は、常温常湿といった通常の条件における2年間に相当するものである。したがって、揮発性化合物を揮発させることによりサフラン乾燥柱頭に接触させる方法を用いれば、長期間サフラン乾燥柱頭を保存することができる。
【0072】
実施例4(サフラン色素製剤の退色経時変化試験)
市販のサフラン色素製剤(crocin(Fluka社製))100gを、通気性の内蓋を有する250mlの褐色広口ビンに入れ、内蓋を取り付けた。次に、混合試料16〜20を有効成分とする退色防止剤を1μl、マイクロシリンジで直径8mmのろ紙(Paper Disc、ADVANTEC社製)に染み込ませ、ろ紙を内蓋の上部に取り付けた。その後、外蓋を取り付け、密封し、温度40℃、湿度75%の暗所条件下の高温槽で、1〜3ヶ月静置した。また、コントロールとしてろ紙を封入しないものを用意した。
【0073】
その後、実験開始直後及び1〜3ヶ月経過後のサフラン色素製剤2mgを量り取り、15mlの水に溶かし、よく攪拌した。次に、この溶液1mlを正確に量り、水を加えて正確に10mlとし、マイクロプレート1wellあたり190μl入れた。
【0074】
その後、実施例1〜3と同様に実験開始直後及び1〜3ヶ月経過後の440nmの吸光度を測定し、式(1)に基づいてクロシン残存率をそれぞれ算出した。混合試料を用いたクロシン残存率の経時変化を
図3に示す。なお、
図3において、コントロールは退色防止剤を用いていない試料をいい、混合試料16〜20は混合試料11〜15と同一のものである。
【0075】
図3から、混合試料を有効成分とする退色防止剤を揮発させることによりサフラン色素製剤に接触させた場合(混合試料16〜20)は、退色防止剤を用いない場合(コントロール)に比べ、3ヶ月経過後であってもクロシン残存率が高いことが確認された。
【0076】
実施例3と同様に、本実施例の温度40℃及び湿度70%で3ヶ月保存という試験条件は、常温常湿といった通常の条件における2年間に相当するものである。したがって、揮発性化合物を揮発させることによりサフラン色素に接触させる方法を用いれば、長期間サフラン色素製剤を保存することができる。