特許第5797222号(P5797222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797222
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 1/00 20060101AFI20151001BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20151001BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20151001BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20151001BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C03B1/00
   G02F1/1333 500
   H05B33/14 A
   H05B33/02
   H05B33/10
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-87988(P2013-87988)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-88306(P2014-88306A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2013年5月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-220297(P2012-220297)
(32)【優先日】2012年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】君嶋 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 次伸
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−089259(JP,A)
【文献】 特開2011−126728(JP,A)
【文献】 特開2005−132713(JP,A)
【文献】 特開2013−071879(JP,A)
【文献】 特開2011−068549(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/132737(WO,A1)
【文献】 特開2010−143790(JP,A)
【文献】 特表2008−519755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00
C03C 1/00 − 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料とカレットとを熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
前記熔融ガラスを板状ガラスに成形する成形工程と、を有する、歪点が680度以上であるガラス基板を製造するディスプレイ用ガラス基板の製造方法であって、
ガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきを±0.015/mm以下にすることでガラス基板ごとの歪点及び熱収縮率のバラつきを小さくするために、前記ガラス原料と前記ガラス原料よりもβ−OH値が高い前記カレットとの混合物に対する前記カレットの配合比を制御することでガラス基板のβ−OH値を調整する制御工程を有し、
前記制御工程では、
製造された前記ガラス基板のβ−OH値を測定することで製造条件の変化によるβ−OH値の変化量を求め、
前記ガラス基板のβ−OH値が、前記ガラス基板の前記熱収縮率が70ppm以下となるように予め設定された目標β−OH値となるよう、前記β−OH値の変化量に基づいて前記カレットの配合比を制御し、
前記熱収縮率は、常温から10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温し、再び10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、10℃/分で常温まで降温する熱処理を行った後のガラス基板の収縮量を用いて、以下の式:
熱収縮率(ppm)={熱処理によるガラス基板の収縮量/熱処理前のガラス基板の長さ}×10
により求めたものである、ことを特徴とするディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス基板は、低温ポリシリコン薄膜トランジスタ搭載ディスプレイ用ガラス基板である、請求項1に記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス基板は、液晶ディスプレイ用ガラス基板又は有機ELディスプレイ用ガラス基板である、請求項1又は2に記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記カレットの配合比は、前記カレットの配合比が前記混合物に対して20〜30質量%の範囲で調整される、請求項1からのいずれか1項に記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記熔解工程は、燃焼手段を用いて行う燃焼加熱と、前記熔融ガラスに電流を流すことにより行う通電加熱と、を用いて行われ、
前記通電加熱による発熱量に対する前記燃焼加熱による発熱量の比が1.5以上2.8以下となるよう、前記燃焼加熱および前記通電加熱を行う、請求項1からのいずれか1項に記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記燃焼手段は、酸素ガスバーナである、請求項に記載のディスプレイ用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
ガラス原料とカレットとを熔解して熔融ガラスをつくる熔解槽と、
前記熔融ガラスを板状ガラスに成形する成形炉と、を有する、歪点が680度以上であるディスプレイ用ガラス基板を製造するガラス基板の製造装置であって、
ガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきを±0.015/mm以下にすることでガラス基板ごとの歪点及び熱収縮率のバラつきを小さくするために、前記ガラス原料と前記ガラス原料よりもβ−OH値が高い前記カレットとの混合物に対する前記カレットの配合比を制御することでガラス基板のβ−OH値を調整する制御部を有し、
前記制御部では、
製造された前記ガラス基板のβ−OH値を測定することで製造条件の変化によるβ−OH値の変化量を求め、
前記ガラス基板のβ−OH値が、前記ガラス基板の前記熱収縮率が70ppm以下となるように予め設定された目標β−OH値となるよう、前記β−OH値の変化量に基づいて前記カレットの配合比を制御し、
前記熱収縮率は、常温から10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温し、再び10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、10℃/分で常温まで降温する熱処理を行った後のガラス基板の収縮量を用いて、以下の式:
熱収縮率(ppm)={熱処理によるガラス基板の収縮量/熱処理前のガラス基板の長さ}×10
により求めたものである、ことを特徴とするガラス基板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイは、近年、高精細な画像を表示することが求められ、ディスプレイに用いられるガラス基板として、α−Si・TFT(Amorphous Silicon Thin Film Transistor)ではなく、低温ポリシリコン(Low-temperature Poly Silicon、以下、LTPSという)・TFTに適用できることが求められている。LTPS・TFTのパネル製造時には、α−Si・TFTと比較して、より高温での熱処理が必要である。しかし、TFTが形成されるガラス基板に、このような高温の熱処理が施されると、ガラス基板は熱収縮によって縮み、ガラス基板上に形成されたTFT回路のズレが生じる。このようなズレは、液晶パネル等のディスプレイにおいて表示不良を引き起こす。このため、LTPS・TFTが形成されるガラス基板は、熱収縮率が小さく、かつ、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきが小さいことが求められている。
【0003】
一般に、ガラス基板の熱収縮率は、ガラスの低温度域における粘性が高いほど、すなわち、ガラスの歪点が高いほど、小さくなる。そこで、従来、ガラス原料の組成を調整することで歪点を高くし、これにより、ガラス基板の熱収縮率を小さくする技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−126728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラス基板を製造した場合に、徐冷時の冷却条件が一定であっても、生産した時期によって得られたガラス基板ごとに熱収縮率のバラつきが生じることがある。熱収縮率のバラつきが生じる理由として、生産した時期により熔融ガラスに含まれる水分量が変化することによって、ガラス基板ごとに水分量が異なった結果、歪点が異なり、熱収縮率が異なることが挙げられる。このような熱収縮率のバラつきは、LTPS・TFTに適用されるガラス基板として好ましくない。
これは、熱収縮率の絶対値が大きいことによるTFT回路のズレの問題は、LTPS・TFTのパネル製造時に装置設定を変更することで低減することができる。これに対し、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきの影響は、装置設定を変更したとしても低減することが困難であるため、とりわけ重要である。
しかし、特許文献1に開示される技術では、熱収縮の絶対値は小さくすることができても、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきを十分に抑えることができない。
【0006】
本発明は、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきを抑制できるガラス基板の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ガラス原料とカレットとを熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
前記熔融ガラスを板状ガラスに成形する成形工程と、を有する、歪点が680度以上であるガラス基板を製造するディスプレイ用ガラス基板の製造方法であって、
ガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきを±0.015/mm以下にすることでガラス基板ごとの歪点及び熱収縮率のバラつきを小さくするために、前記ガラス原料と前記ガラス原料よりもβ−OH値が高い前記カレットとの混合物に対する前記カレットの配合比を制御することでガラス基板のβ−OH値を調整する制御工程を有し、
前記制御工程では、
製造された前記ガラス基板のβ−OH値を測定することで製造条件の変化によるβ−OH値の変化量を求め、
前記ガラス基板のβ−OH値が、前記ガラス基板の前記熱収縮率が70ppm以下となるように予め設定された目標β−OH値となるよう、前記β−OH値の変化量に基づいて前記カレットの配合比を制御し、
前記熱収縮率は、常温から10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温し、再び10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、10℃/分で常温まで降温する熱処理を行った後のガラス基板の収縮量を用いて、以下の式:
熱収縮率(ppm)={熱処理によるガラス基板の収縮量/熱処理前のガラス基板の長さ}×10
により求めたものである、ことを特徴とする。
この製造方法によれば、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるよう、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比が制御されることによって、ガラスのβ−OH値に影響を与える製造条件が変化したとしても、製造されたガラス基板のβ−OH値が変化することを抑制でき、ガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきを小さくすることができる。したがって、ガラス基板ごとの歪点のバラつきを小さくでき、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきを小さくすることができる。
【0008】
前記ガラス基板の製造方法の好ましい第1の形態では、前記熔解工程では、製造されたガラス基板のβ−OH値に基づいて決定された配合比に従って、前記ガラス原料およびカレットを熔解槽に投入する。
なお、前記配合比は、ガラス中β−OH値量に影響する製造条件の変更実績もしくは予定に基づいて決定されることがより好ましい。
このように、ガラス基板のβ−OH値が次にガラス基板が製造される場合に反映され、フィードバック制御が行われることで、ガラス基板のβ−OH値を精度よく制御することができる。
【0009】
前記ガラス基板の製造方法の好ましい第2の形態では、前記ガラス基板は、歪点が680度以上である。
【0010】
前記ガラス基板の製造方法の好ましい第3の形態では、前記ガラス基板は、LiO、NaO、KOの合計含有量が0〜2質量%である。
【0011】
前記ガラス基板の製造方法の好ましい第4の形態では、前記ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板である。
前記ガラス基板の製造方法の好ましい第5の形態では、前記ガラス基板は、LTPS・TFT搭載ディスプレイ用ガラス基板である。
また、前記ガラス基板の製造方法の好ましい第6の形態では、前記ガラス基板は、液晶ディスプレイ用ガラス基板又は有機ELディスプレイ用ガラス基板である。
【0012】
前記ガラス基板の製造方法の好ましい第7の形態では、ガラス原料とカレットとを熔解槽において熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程では、燃焼手段を用いた気相中の燃焼加熱と、熔融ガラスに電流を流すことにより行う通電加熱とを用いて、SnOを含み、粘度が102.5ポアズであるときの温度が1580℃以上であるガラスとなるようにガラス原料を熔解し、前記通電加熱による発熱量に対する、前記燃焼加熱による発熱量の比が、1.5以上2.8以下となるように、前記燃焼加熱と前記通電加熱を行う。
これにより、ガラス基板のβ―OH値が高くなり、歪点が小さくなることを抑制でき、熱集収縮のばらつきを小さくすることができる。さらに、熔融ガラスの清澄を効率よく行うことができ、熔解槽の損傷あるいは熔損を抑えることができる。
【0013】
本発明の他の一態様は、ガラス原料とカレットとを熔解して熔融ガラスをつくる熔解槽と、
前記熔融ガラスを板状ガラスに成形する成形炉と、を有する、歪点が680度以上であるディスプレイ用ガラス基板を製造するガラス基板の製造装置であって、
ガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきを±0.015/mm以下にすることでガラス基板ごとの歪点及び熱収縮率のバラつきを小さくするために、前記ガラス原料と前記ガラス原料よりもβ−OH値が高い前記カレットとの混合物に対する前記カレットの配合比を制御することでガラス基板のβ−OH値を調整する制御部を有し、
前記制御部では、
製造された前記ガラス基板のβ−OH値を測定することで製造条件の変化によるβ−OH値の変化量を求め、
前記ガラス基板のβ−OH値が、前記ガラス基板の前記熱収縮率が70ppm以下となるように予め設定された目標β−OH値となるよう、前記β−OH値の変化量に基づいて前記カレットの配合比を制御し、
前記熱収縮率は、常温から10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温し、再び10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、10℃/分で常温まで降温する熱処理を行った後のガラス基板の収縮量を用いて、以下の式:
熱収縮率(ppm)={熱処理によるガラス基板の収縮量/熱処理前のガラス基板の長さ}×10
により求めたものである、ことを特徴とする。
この製造装置によれば、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるよう、前記ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比が制御されることによって、ガラスのβ−OH値に影響を与える製造条件が変化したとしても、製造されたガラス基板のβ−OH値が変化することを抑制でき、得られるガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきを小さくできる。したがって、ガラス基板ごとの歪点のバラつきを小さくでき、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきを小さくできる。
【0014】
本発明の他の一態様は、ガラス基板の製造方法であって、
熔融ガラスをつくる熔解工程と、前記熔融ガラスを板状ガラスに成形する成形工程と、
を含み、前記ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるように制御されることを特徴とする。
この製造方法によれば、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるよう制御されることによって、ガラスのβ−OH値に影響を与える製造条件が変化したとしても、製造されたガラス基板のβ−OH値が変化することを抑制でき、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるよう、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比が制御されることによって、得られるガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきが小さくなる。したがって、ガラス基板ごとの歪点のバラつきが小さくなり、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきが小さくなる。また、この製造方法によれば、カレットの配合比を制御することで、ガラス基板のβ−OH値の調整を容易に行える。
さらに、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるよう制御されることによって、得られるガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきが小さくなる。したがって、ガラス基板ごとの歪点のバラつきが小さくなり、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
図2図1に示す決定工程〜測定工程を行う装置の一例を模式的に示す図である。
図3】本発明のガラス基板の製造装置の熔解槽を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のガラス基板の製造方法およびガラス基板の製造装置について説明する。
【0018】
(ガラス基板の製造方法)
まず、ガラス基板の製造方法について説明する。
図1に、ガラス基板の製造方法のフローの一例を説明する図を示す。
ガラス基板の製造方法は、決定工程(ST1)と、熔解工程(ST2)と、清澄工程(ST3)と、均質化工程(ST4)と、供給工程(ST5)と、成形工程(ST6)と、徐冷工程(ST7)と、切断工程(ST8)と、測定工程(ST9)と、を主に有する。本発明のガラス基板の製造方法の制御工程は、決定工程(ST1)と、測定工程(ST9)と、を含む。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を経て、最終製品のガラス基板となる。
【0019】
制御工程では、ガラス基板の水分量として、赤外線分光法によるガラス基板中のOH基に起因する吸光度(β−OH値)を用いて、ガラス基板中のβ−OH値が目標β−OH値になるよう、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比(以下、カレット比ともいう)を制御する。ガラス原料とともにカレットを用いるのは、ガラス原料を熔解するためのエネルギーを小さくするためである。カレットは、一度熔融してガラス化されているため、ガラス原料を熔解する場合に比べ、少ないエネルギーで熔解できる。また、ガラス原料とともにカレットを用いることで、ガラス基板の製造工程において生じる製品にならないガラスを再利用することで、産業廃棄物の発生を抑えると共に、原料コス
トを抑えることができる。なお、ガラス原料は、後述するガラス基板の組成となるよう用意されたSiO、Al、B等の各成分である。カレットは、ガラス基板の製造工程において生じる耳部と呼ばれるガラスや、ガラスくずである。耳部は、切断工程(ST8)においてガラス板から切り離された、シートガラスの幅方向両側の部分である。
【0020】
ガラス基板中の水分は、ガラス原料やカレットに含まれる水分が熔融ガラスから放出されずにガラス中に残ったり、熔解槽内の熔融ガラスの液面近傍の雰囲気から熔融ガラス中に溶け込んだりすることによって、ガラス基板中に含まれる。ガラス基板中の水分量を一定に保つためには、ガラス原料中の水分量や、熔解槽でのガラス熔解温度、熔融ガラス量、を一定に保つことが挙げられる。しかし、製造するガラス基板の厚さや求められる品質を実現するために、熔解槽でのガラス熔解温度を変更することや、熔解槽中の熔解ガラス量を変更することが必要となる。これにより、ガラス基板中の水分量が変化してしまうのでガラス基板中の水分量を一定に保つことは困難である。また、外因によって意図せずにガラス基板中の水分量が変化することもある。そこで、本実施形態のガラス基板の製造方法では、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比を制御することで、ガラス基板中の水分量の変動による影響を抑えるようにしている。熔解工程(ST2)に先立ってこのようなカレット比の制御が行われることで、熔解工程(ST2)では、制御されたカレット比に従ってガラス原料およびカレットが投入される。なお、制御工程は、後で詳細に説明する。
【0021】
熔解工程(ST2)は熔解槽で行われる。熔解槽では、制御工程で決定されたカレット比に従って、ガラス原料およびカレットを、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面に投入することにより熔融ガラスを作る。ガラス原料およびカレットの投入方法は、例えば、ガラス原料等を収めたバケットを反転して熔解槽内の熔融ガラスに投入する方式でも、ベルトコンベアを用いてガラス原料等を搬送して投入する方式、スクリューフィーダによりガラス原料等を投入する方式、でもよい。本実施形態では、バケットを用いてガラス原料等が投入される。
熔解槽の熔融ガラスは、例えば、バーナの火炎からの輻射熱により加熱されてもよく、モリブデン、白金または酸化錫等で構成された少なくとも1対の電極(図示されない)間に電流を流して熔融ガラスを通電加熱してもよく、また、通電加熱に加えて、バーナによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解してもよい。本実施形態では、バーナの火炎からの輻射熱及び通電加熱により加熱される。
投入されるガラス原料及びカレットには、清澄剤が添加される。清澄剤として、SnO2,As23,Sb23等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤としてSnO2(酸化錫)を用いることが好ましい。
【0022】
なお、本実施形態では、熔解槽において、バーナ等の燃焼手段を用いた気相中の燃焼加熱と、1対の電極等を用いて、熔融ガラスに電流を流すことにより行う通電加熱とを用いて、SnOを含み、粘度が102.5ポアズであるときの温度が1580℃以上であるガラスとなるようにガラス原料を熔解することができる。このとき、通電加熱による発熱量に対する、燃焼加熱による発熱量の比が、1.5以上2.8以下となるように、燃焼加熱と通電加熱が行われる、ことが好ましい。
【0023】
バーナに代表される燃焼加熱の比率が高すぎると、製造されるガラス基板のβ―OH値が高くなり、歪点が小さくなるので、熱集収縮のばらつきも大きくなる。
また、燃焼加熱による発熱量の寄与が大きくなり、気相空間の温度が高くなるので、熔融ガラスの液面上のガラス原料の状態でガラス原料に含まれるSnOなどの清澄剤中の酸素を気相空間中に放出して酸素は拡散する。このため、後工程である清澄工程で熔融ガラスを脱泡するとき、熔融ガラスに含まれる清澄剤から十分な酸素が供給されず、熔融ガラスに含まれる泡に酸素を吸収させて成長させ、熔融ガラスの液面に泡を浮上させて泡を放出させることを十分にできない。すなわち、脱泡処理が十分に行えない。この問題は、清澄効果が高いAsを使用せずに、SnOを清澄剤として用いる場合に顕著となる。
【0024】
他方、通電加熱の比率が高すぎると、通電加熱による発熱量の寄与が相対的に大きくなり、通電加熱のために流す電流は多くなる。ここで、歪点が高くなるようにガラス組成を調整すると、粘度が102.5ポアズであるときの温度が高くなる傾向にあり、熔融ガラスの比抵抗がも大きくなる傾向にある。例えば、SnOを含有し、粘度が102.5ポアズであるときの温度が1580℃以上であるガラスは、熔解槽に貯留される熔融ガラスの温度では熔解槽の底壁の耐火レンガの比抵抗との差が小さくなる。この傾向は、実質的にアルカリ金属酸化物を含まない、あるいはアルカリ金属酸化物の含有率が0質量%以上0.8質量%以下であるアクティブマトリクス型フラットパネルディスプレイ用のガラス基板で特に顕著となる。このため、1対の電極に供給される電流の一部分は熔融ガラスではなく、熔解槽本体の底壁に流れて底壁が通電加熱される。したがって、比抵抗が高く、高温粘性の高い熔融ガラスを熔解槽でつくる場合、電極対に電流を多量に供給することで底壁にも多量に流れ、この結果、底壁の通電加熱による発熱量は大きくなる。この底壁の発熱量の増大によって、熔解槽の底部の断熱特性により熱がこもるという現象が生じる。この熱ごもりは、底部の耐火レンガの機械的強度を弱めて熱クリープを生じさせて、底部を変形させる虞がある。さらに、熱ごもりにより耐火レンガの温度が耐熱温度を超えて熔損する虞もある。このため、通電加熱による発熱量の寄与が過大になることは好ましくない。
以上の点を鑑み、通電加熱による発熱量に対する、燃焼加熱による発熱量の比を1.5〜2.8とすることが好ましい。
【0025】
通電加熱による発熱量は、例えば電力計から消費電力を計測し、消費電力量を求めることができる。消費電力量(kW)から、通電加熱による発熱量(kcal/時)に変換する(1kW=860kcal/時)。なお、消費電力は、電極114の印加電圧と電極114に流れる電流から求めてもよい。
燃焼ガスを用いた燃焼加熱の発熱量は、燃焼ガスの燃焼による単位体積当たりの発熱量に単位時間の燃焼ガスの供給量(燃焼ガスの流量)を乗算することで算出される。
本実施形態で用いる発熱量の比は、一定時間当たりの発熱量の平均値の比である。ここで、一定時間は、1時間であっても1日でもよい。
【0026】
清澄工程(ST3)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程(ST3)では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれるO、COあるいはSOを含んだ泡が、清澄剤の還元反応により生じたOを吸収して成長し、熔融ガラスの液面に泡は浮上して放出される。さらに、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄工程は、減圧雰囲気を清澄槽につくり、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。この場合、
清澄剤を用いない点で有効である。なお後述する清澄工程では、酸化錫を清澄剤として用いた清澄方法を用いる。
【0027】
均質化工程(ST4)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。なお、攪拌槽は1つ設けても、2つ以上設けてもよい。供給工程(ST5)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0028】
成形装置では、成形工程(ST6)及び徐冷工程(ST7)が行われる。成形工程(ST6)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法等の他の方法を用いることができる。
本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。徐冷工程(ST7)では、成形されて流れるシートガラスが、熱収縮率、内部歪及び反りが小さくなるよう、冷却される(熱収縮低減処理)。このように、本発明のガラス基板の製造方法では、シートガラス成形後の徐冷工程(ST7)において徐冷を行うオンラインアニールのみによって熱収縮低減処理を行うことが好ましい。オンラインアニールのみによって熱収縮低減処理を行うことが好ましい理由は、切断工程(ST8)でシートガラス切断後に再度熱処理を施すオフラインアニールによって熱収縮処理を行う場合は、別途アニール炉が必要となるためである。アニール炉は、例えば、後述する成形装置の徐冷炉202の他の炉である。オフラインアニールによって熱収縮低減処理を行うと、ガラス組成の調整によって歪点を例えば680℃以上としなくても熱収縮率を小さくすることが可能である。しかし、このような方法は生産効率が著しく低くなる。
【0029】
切断工程(ST8)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。このとき、シートガラスから耳部が切り出され、カレットが生成する。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。この後、ガラス基板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス基板の洗浄が行われ、さらに、気泡や脈理等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス板が最終製品として梱包される。
【0030】
(制御工程)
次に、制御工程について、より詳細に説明する。制御工程では、測定工程(ST9)において、ガラス基板のβ−OH値の測定を行い、決定工程(ST1)において、測定されたβ−OH値に基づいて、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比(カレット比)を決定する。
【0031】
(測定工程)
測定工程では、切断工程において所定の長さに切断されたガラス基板のβ−OH値を、分光光度計を用いて得られたガラス基板の赤外線吸収スペクトルから次式によって求める。なお、ガラス基板のβ−OH値を測定する頻度は特に限定されない。
β−OH値=(1/X)log10(T1/T2)
X:ガラス厚さ(mm)
T1:参照波長2600nmにおける透過率(%)
T2:水酸基吸収波長2800nmにおける最小透過率(%)
β−OH値は、mm-1で表される。なお、β−OH値は、ガラス基板中に泡が生じないよう、ガラス基板中の水分量が一定量以内になるようにする目的で測定されたものを用いることができる。測定工程(ST9)は、他の実施形態では、切断工程(ST8)の直後でなく、熔解工程(ST2)の前に行われる決定工程の直前に行われてもよい。
【0032】
(決定工程)
決定工程(ST1)では、測定されたガラス基板のβ−OH値に基づいて、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比(カレット比)を決定する。このとき、カレットのβ−OH値は、上記ガラス基板のβ−OH値の測定方法と同様の方法であらかじめ測定されている。このようにガラス基板のβ−OH値が測定され、カレット比が決定され、さらに、熔解工程(ST2)において、決定されたカレット比に従ってガラス原料およびカレットが熔解槽に投入されることによって、フィードバック制御が行われ、ガラス基板のβ−OH値が精度よく制御される。
【0033】
次に、カレット比の制御により、ガラス基板のβ−OH値を制御できる理由を説明する。
ガラス基板中のβ−OH値は、主に(1)ガラス原料およびカレット中に含まれる水分のうち、熔解工程において、ガス泡として熔融ガラス外に放出されずに熔融ガラス中に溶け込んだ水分量と、(2)熔解工程において熔融ガラス液面に接する雰囲気から、熔融ガラス液面を介して熔融ガラス中に溶け込む水分量とによって決定される。
製造対象となるガラスがソーダライムガラスなどと比較してアルカリ金属酸化物量が少なく、熔融温度の高いLTPS・TFT搭載ディスプレイ用ガラス基板又は有機ELディスプレイ用ガラス基板である場合、上記(2)において熔融ガラス中に溶け込む水分量が増加する。これは、熔解温度の高いガラスの製造においては、熔解工程で使用されるガスバーナとして、空気燃焼ガスバーナではなく、燃焼効率が良く高い酸素ガスバーナが用いられているためである。酸素ガスバーナでは、燃焼に関与しない窒素を含まないので、高温の燃焼温度を得られる代わりに、燃焼排ガスには多量の水蒸気が含まれることになる。すなわち、熔融ガラス中に溶け込む水分量が増加する。
ここで、カレットは、一度熔解してガラス化されたものであるため、ガラス原料とカレットを比べると、一般的にカレットの方がβ−OH値が高くなる。そのため、カレットの比率を高めることにより、生産されるガラス基板のβ−OH値を高めることができ、カレットの比率を下げることで、生産されるガラス基板のβ−OH値を下げるなどの制御が可能となる。
【0034】
カレット比の決定は、測定されたβ−OH値に基づいて、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値となるように行われる。例えば、カレット比の決定は、測定されたβ−OH値に基づいて、ガラス基板のβ−OH値に影響を与える製造条件の変化実績及び変更予定に基づいて行われることが好ましい。目標β−OH値は、種々の値を採ることができ、例えば、過去に作製したガラス基板のβ−OH値を基準に、ガラス原料中の水和物の量や液面雰囲気中の水分量を参考にして決定されてもよい。なお、目標β−OH値は、熱収縮率の絶対値を小さくする観点からは低いほど好ましい。目標β−OH値は、例えば、0.35/mm以下とすることができる。本実施形態において、カレット比は、ガラス原料およびカレットの混合物100質量%に対して、例えば、20〜30質量%である。なお、カレット比は、ガラス原料およびカレットの混合物に対する配合比として決定されてもよく、ガラス原料に対する配合比として決定されてもよい。決定工程(ST1)は、他の実施形態では、熔解工程(ST2)の直前に行われずに、当該カレットが生じた切断工程(ST8)の後の測定工程(ST9)に続けて行われてもよい。また、決定工程(ST1)は、測定工程(ST9)の後、時間を置いて(例えば、数日)行われてもよく、測定工程(ST9)の直後に測定工程(ST9)に続けて行われてもよい。
【0035】
なお、上述したガラス基板のβ−OH値に影響を与える製造条件の変化又は変更としては、例えば、ガラス原料の変更、ガラス原料の保管方法、熔解槽に熔融ガラスが滞在する時間、熔解工程における熔融ガラス温度、熔解工程で用いるガスバーナのガスの変更、ガスバーナと電気溶融の比率の変更などが挙げられる。なお、ガスバーナに使用されるガスとして、例えば、炭素鎖数の長いガス(例えば、メタンガスに代えてプロパンガス)に変更することで、ガラス基板のβ−OH値を小さくできる。
以上のガラス基板の製造方法は、例えば、後述するガラス基板の製造装置を用いて行うことができる。その場合に、ガラス基板の製造方法の一部の工程のみ、当該ガラス基板の製造装置を用いて行なわれてもよい。
【0036】
本実施形態のガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるよう、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比が制御される。これによって、例えばβ−OH値に影響を与える製造条件の変更があったとしても、ガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきが小さくなる。したがって、ガラス基板ごとの歪点のバラつきが小さくなり、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきが小さくなる。また、カレットの配合比を制御することで、ガラス基板のβ−OH値を容易に調整できる。
他の実施形態のガラス基板の製造方法では、オーバーフローダウンドロー法に代えて、スロットダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法等の他の方法が用いられてもよい。また、ガラス原料に必ずしもカレットが配合される必要はなく、ガラス原料のみを用いて熔融ガラスがつくられてもよい。
【0037】
(ガラス基板の製造装置)
次に、ガラス基板の製造装置について説明する。
図2は、本実施形態における決定工程(ST1)〜測定工程(ST9)を行う装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、決定部116と、を有する。切断装置300は、測定部117を有する。また、本発明のガラス基板の製造装置の制御部は、決定部116および測定部117を含む。制御部は、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるよう、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比を制御する。具体的には、決定部116および測定部117によって、カレット比の決定、それに先立つβ−OH値の測定を行う。
【0038】
図2に示す例の熔解槽101では、ガラス原料およびカレットの投入がバケット101dを用いて行われる。熔解槽101には、決定部116が接続されている。決定部116は、測定部117が測定したガラス基板のβ−OH値に基づいて、カレット比を決定する。清澄槽102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。
成形装置200は、成形炉201および徐冷炉202を有し、成形炉201内に配された成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
切断装置300は、成形装置200から供給されるシートガラスSGを所定のサイズに切断し、目標サイズのガラス基板を作成する。このとき、カレットが生成する。切断装置300には、測定部117が接続されている。測定部117は、ガラス基板のβ−OH値を測定する。
【0039】
本実施形態のガラス基板の製造装置によれば、ガラス基板のβ−OH値が目標β−OH値になるよう、ガラス原料およびカレットの混合物に対するカレットの配合比が制御されることによって、例えばβ−OH値に影響を与える製造条件の変更があったとしても、得られるガラス基板ごとのβ−OH値のバラつきが小さくなる。したがって、ガラス基板ごとの歪点のバラつきが小さくなり、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきが小さくなる。
また、カレットの配合比を制御することで、ガラス基板のβ−OH値を容易に調整できる。
【0040】
(ガラス基板)
ここで、本発明のガラス基板の製造方法及び製造装置によって製造されるガラス基板の概略を説明する。
ガラス基板の厚さは、例えば、0.1〜1.5mmである。
ガラス基板のサイズは、例えば、300〜2500mm×400〜3500mm(短手方向長さ×長手方向長さ)である。
【0041】
液晶ディスプレイ用ガラス板や有機EL(Electro-Luminescence)用ガラス板としては、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない無アルカリガラス基板、あるいはアルカリ金属酸化物を2%以下しか含有しないアルカリ微量ガラス基板を適用することが好ましい。
【0042】
また、ガラス基板を構成するガラスの特性に関して、粘度が102.5ポアズにおける熔融ガラスの温度は、1580℃以上であってもよく、例えば1590〜1700℃である。また、ガラス基板を構成するガラスの1550℃の熔融ガラスにおける比抵抗が100Ω・cm以上であってもよく、100〜350Ω・cmとすることができ、さらに、150〜350Ω・cmとすることができる。上記比抵抗が高いほど、上述した熔解槽の熔損の問題が顕著になる。なお、ガラス基板の歪点を高くしようとすると、上記比抵抗と粘度が102.5ポアズにおける熔融ガラスの温度が高くなる傾向にある。
【0043】
ガラス基板は、例えば、下記に示す組成からなる。下記組成比率の%表示はいずれも質量%を意味する。
SiO:50〜70%、
Al:5〜25%、
:0〜15%。
なお、下記に示す組成を任意に含んでもよい。
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
ZrO:0〜10%。
また、上記の組成のうち、特に、SiO:50〜70%、B:5〜18%、Al:10〜25%、MgO:0〜10%、CaO:0〜20%、SrO:0〜20%、BaO:0〜10%、RO:5〜20%(ただし、RはMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる、ガラス基板に含有される全成分である)を含有することが好ましい。
【0044】
さらに、R’O:0%を超え2.0%以下(ただし、R’はLi、NaおよびKから選ばれる、ガラス基板に含有される全成分である)を含むことができる。これにより、β―OH値を小さくしても熔解温度が過剰に高くなることを防止できる。ガラス基板のβ―OH値が小さくなると、歪点が高くなるため、ガラス基板の熱収縮率の絶対値を小さくすることができる。これにより、ガラス基板の熱収縮率のバラつきも低減できる。
【0045】
さらにまた、清澄剤を合計で0.05〜1.5%含み、As、Sb及びPbOを実質的に含まないことが好ましい。As、Sb及びPbOは、ガラスを清澄する効果を有する物質ではあるが、環境負荷が大きい物質であるためである。ここで、実質的に含まないとは、質量%が0.01%未満であって、不純物を除き意図的に含有させないことを意味する。清澄剤としては、SnOを含むことが好ましい
また、ガラス中の酸化鉄の含有量が0.01〜0.2%であることが好ましい。
【0046】
LTPS・TFTが形成されるガラス基板のガラス組成として、下記ガラス組成が挙げられる。下記組成比率の%表示はいずれも質量%を意味する。
SiO:52〜78%、Al:3〜25%、B:0〜15%、RO(但し、RはMg、Ca、Sr及びBaのうち、ガラス基板に含まれる全成分):3〜20%、R’O(但し、RはLi、Na及びKのうち、ガラス基板に含まれる全成分):0.01〜0.8%、Sb:0〜0.3質量%、を含有し、Asは実質的に含有せず、質量比CaO/ROは0.65以上であり、質量比(SiO+Al)/Bは7〜30の範囲であり、かつ質量比(SiO+Al)/ROは5以上である。このとき、歪点は688℃以上であることが好ましい。
【0047】
ガラス基板のβ−OH値は、0.45/mm以下であることが好ましく、0.35/mm以下であることがより好ましく、0.30/mm以下であることがさらに好ましく、0.25/mm以下であることが一層好ましい。これは、β−OH値が小さいほど歪点を高くでき(粘性が上昇し)、熱収縮率を小さくすることができるためである。他方、β−OH値を無理に下げようとすると原料価格や製造コストが高騰する。そのため、ガラス基板のβ−OH値は、0〜0.35/mmであることが好ましく、0.05〜0.35/mmであってもよく、0.05〜0.30/mmであってもよい。
また、本発明によれば、ガラス基板のβ−OH値のバラつきは、例えば、±0.015/mm以下に維持することができ、±0.01/mm以下にも維持することができる。このように、β−OH値のバラつきを小さくすることで、ガラス基板ごとの熱収縮率のバラつきを小さくすることができる。
【0048】
ガラス基板の歪点は、熱収縮率を小さくできる点で、680℃以上であることが好ましく、690℃以上であることがより好ましい。歪点を680℃以上とすることで、ガラス基板の熱収縮率の絶対値を小さくすることができる。これにより、ガラス基板の熱収縮率のバラつきも低減できる。歪点は、例えば、ビーム曲げ法により粘度を測定する粘度計を用いて測定される。
【0049】
ガラス基板の熱収縮率は、例えば、70ppm以下である。このような低い熱収縮率を有するガラス基板は、熱安定性が高く、特に、LTPS・TFTが形成されるガラス基板として好ましい。また、オンラインアニールのみによって熱収縮低減処理を行う場合には、製造設備の巨大化及びコストを抑制するために、10〜70ppmであることが好ましい。
【0050】
ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板である。フラットパネルディスプレイとしては、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等が挙げられる。中でも、熱収縮のバラつきを小さくできる点で、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイに好ましく用いられる。
【0051】
(実験例)
以下、実験例を示して、本発明の効果を確認した。
【0052】
上述の本発明のガラス基板の製造方法に従ってカレット比を制御して、オーバーフローダウンドロー法により、ガラス基板を製造した。具体的には、ガラス基板がSiO;61.3質量%、Al;19.5質量%、B;9質量%、CaO;9.8質量%、KO;0.15質量%、Fe;0.05質量%、SnO;0.2質量%を含むように調合されたガラス原料に対し、β−OH値が0.24/mmであるカレットを、カレット比30質量%の割合で熔解槽に投入した。カレットの組成は上記ガラス基板と同様であった。また、ガラス基板のβ−OH値は0.24/mmであり、目標β−OH値も0.24/mmであった。また、このときのガラスの歪点は700℃であり、粘度が102.5ポアズであるときの温度は1595℃であった。
次に、熔解工程における熔融ガラス温度を20℃上昇させたところ、一週間後、ガラス基板のβ−OH値は0.26/mmとなり、かつ熱収縮率も2%大きくなっていた。そこで、ガラス基板のβ−OH値を0.02/mm低下させるためのカレット比を算出し、熔解工程に投入するカレット比を変更した。ここでは、ガラス原料及びカレットの混合物100質量%に対して、カレット比を30質量%から21質量%に低下させた。その結果、ガラス基板のβ−OH値を0.24/mmとすることができた。また、ガラス基板ごとの熱収縮率も、熔融ガラス温度を約20℃上昇させる前に製造したガラス基板と同等であった。
また、熔解工程におけるガラス溶融温度を20℃上昇させた場合のβ−OH値上昇率を予め推定して、溶融温度を20℃上昇させるのに合わせてカレット比を30質量%から21質量%に低下させた場合も、ガラス基板のβ−OH値を0.24/mmに維持することができ、熱収縮率も維持することができた。
なお、上記ガラス基板およびカレットのβ−OH値、熱収縮率はそれぞれ下記要領で求めた。
β−OH値を所定値低下させるためのカレット比を算出するためには、ガラス原料のガラス基板β−OH値に対する寄与度(ガラス原料およびカレット中に含まれる水分のうち、熔解工程において、ガス泡として熔融ガラス外に放出されずに熔融ガラス中に溶け込んだ水分量)を予め測定しておくことが好ましい。例えば、本実験例で使用したガラス原料の寄与度が0.023である場合、上記熔融ガラスの温度操作により、熔解工程で高水蒸気濃度の雰囲気からのガラスへの溶け込む水分によるβ−OH値への寄与度Xを下記式(1)により算出することができる。「原料比」は、ガラス原料およびカレットの混合物に対するガラス原料の配合比である。
β−OH値=(ガラス原料の寄与度×原料比)+(カレットβ−OH値×カレット比)+寄与度X (1)
つまり、上記実施例では、熔融ガラス温度操作前の寄与度X1は0.152であり、熔融ガラス温度操作後の寄与度X2は0.172であり、0.20増加している。そのため、β−OH値を熔融ガラスの温度操作前の0.24/mmに戻す為には、上記式(1)に数値を入れて得られる下記式(2)に示すように、カレット比C≒0.21にすれば良い。
0.24=(0.023×(1−C))+(0.24×C)+0.172
(2)
【0053】
(ガラス基板およびカレットのβ−OH値)
得られたガラス基板およびカレットについて、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、ガラス基板の赤外線吸収スペクトルから前述の式に従って、それぞれβ−OH値を求めた。カレットには、過去にガラス基板を製造した際にシートガラスから切断されてできたものを用いた。
【0054】
(熱収縮率)
熱収縮率は、常温から10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、その後、10℃/分で常温まで降温し、再び10℃/分で昇温し、550℃で1時間保持し、10℃/分で常温まで降温した後のガラス基板の収縮量を用いて、以下の式にて求めた。
熱収縮率(ppm)={熱処理前後のガラスの収縮量/熱処理前のガラスの長さ}×106
【0055】
以上、本発明のガラス基板の製造方法及び製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0056】
101 熔解槽
116 制御部
201 成形炉
ST1 制御工程
ST2 熔解工程
ST6 成形工程
図1
図2
図3