(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797256
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】薄肉鋼管杭の接合構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20151001BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
E02D5/24 101
E02D5/28
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-271213(P2013-271213)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-124569(P2015-124569A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2014年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】502231096
【氏名又は名称】株式会社サムシング
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 司
(72)【発明者】
【氏名】神村 真
(72)【発明者】
【氏名】前 俊守
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
実開平03−013329(JP,U)
【文献】
特開平11−050449(JP,A)
【文献】
特開平11−222853(JP,A)
【文献】
特開2001−011850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22−13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉鋼管杭内周面に縦長帯板状の接続ガイド部材を接着剤により接着して端部から突設し、接続ガイド部材を内側で掛け渡して薄肉鋼管杭を上下に接合し、この接合の薄肉鋼管杭外周面にU字管をかしめにより円筒形に曲成した鞘管による補強管を嵌め、接着剤により接着固定し、薄肉鋼管杭外周面に嵌めた後外周を結束バンドで締結して一体化したことを特徴とする薄肉鋼管杭の接合構造。
【請求項2】
薄肉鋼管杭内周面に縦長帯板状の接続ガイド部材を接着剤により接着して端部から突設し、接続ガイド部材を内側で掛け渡して薄肉鋼管杭を上下に接合し、この接合の薄肉鋼管杭外周面に鞘管による補強管を嵌め、接着剤により接着固定して一体化し、また、鞘管による補強管と薄肉鋼管杭との間にキー溝を形成し、このキー溝に鋼線によるキーを介在させたことを特徴とする薄肉鋼管杭の接合構造。
【請求項3】
接着剤は、二液室温硬化型接着剤を使用する請求項1または請求項2記載の薄肉鋼管杭の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に鋼管が薄肉の場合に上杭を下杭上に設置する、薄肉鋼管杭の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建設部材として利用される鋼管杭、鋼管矢板等は、その製造技術の高さからスパイラル鋼管として製造されることが多く、外径が400mmから2500mm程度までの製造が可能とされている。
【0003】
また、製造面からは製造時の溶接歪みによる変形、現場溶接時の目違いおよび取扱い性や運搬性を考慮する必要性から、埋込み杭工法による鋼管矢板にはt/D(板厚と鋼管矢板外径の比)≧1.1%および9mm以上の板厚が提案されている。これらの建材を現場で接続する技術として溶接が用いられることが一般的である。
【0004】
溶接することで鋼部材を一体化する技術は、日本国内では造船技術などの分野で発展してきたもので、世界的にも優れた技術である。
【0005】
一方、建築の分野では、木造3階建てまでの小規模住宅向けの支持杭工法、鋼管地業として、小口径鋼管杭工法が採用されている。小口径鋼管杭工法とは、削孔径(φ300mm以下)の場所打ち杭や埋込み杭の総称で、地山を削孔して鉄筋、鋼管などの鋼製補強材を挿入し、グラウト材としてセメントミルクまたはセメントモルタルを加圧注入して築造する。
【0006】
この工法は、土質などに影響を受けない補強工法とされており、安息角(30度ライン)まで基礎の根入れが必要となる場合や擁壁などへの側圧の影響を考慮しなければならない地盤などにも有効とされている。
【0007】
適用できる地盤条件にはN値が15〜20程度を連続する固い支持地盤とされており、杭長は杭先端を支持地盤に杭径の4倍程度を貫入させた状態で杭径の100倍を超えない長さとされている。
【0008】
杭径は101.6mmから165.2mm、肉厚4.2mmから5.7mmのものが採用される事例が多く、支持地盤に起伏や傾斜が有る場合には、用意した杭材の長さに対して過不足が生じるが、溶接による継ぎ足しや溶断による切取りが自由に出来るので、杭長の変化に容易に対応でき、確実に支持層まで先端が到達できるとされている。
【0009】
また、土中で杭を作る場所打ち杭では無く、既に製品化された既製杭を圧入または打込み、主に杭先端の支持力で家を支えるため、地盤の空洞化や液状化の恐れが有る場合にも有効な工法とされている。
【0010】
さらに、小口径鋼管杭工法は杭頭を基礎コンクリートに抱き込み、鉄筋を介して上部構造体と結合することも可能で、杭と基礎が1体化することにより地震や台風などの横揺れにも強く、振動の軽減にも効果的な工法とされている。
【0011】
しかしながら、このような薄肉鋼管杭を現場で溶接するためには高度で高価な溶接技術と技術者を必要とし、また経済的な半自動溶接では、既製杭工に対して求められる放射線透過試験および浸透探傷試験による非破壊検査基準を満足する精度を求めることは難しい。
【0012】
下記特許文献は、鋼管を接続する筒体を備えた鋼継手を、例えば設備の整った工場などで寸法や精度を規格化した一定品質とすることができ、このような鋼継手を用いて鋼管を接続するものであるため、現場で溶接接合する従来の溶接作業者の技術や作業環境に起因して接合部分の品質が劣るといった問題が改善されるものとして提案されたものである。
【特許文献1】特開2008−308856号公報
【0013】
これは
図8に示すように、両端面112から一定距離の位置にそれぞれ3つの貫通孔111を有する長さ2m以下の鋼管110と、この鋼管110それぞれの内径に嵌入し鋼管110を接続する筒体121を備えた鋼継手120とから成り、鋼継手120は、3つの貫通孔111に対向する雌ねじ孔122を有するとともに雌ねじ孔122相互間に筒体121の両端から切り込んだ軸方向スリット123を設けた。
【0014】
使用法について説明すると、構築物の基礎下に竪穴を掘削する。次に、この竪穴内に鋼管110を立て込み、構築物の重量を反力として図示しないジャッキにより鋼管110を圧入する。1つの鋼管110を圧入する毎に、圧入した鋼管110の内径に鋼継手120を挿入し、ねじボルト130で両者を仮組する。
【0015】
そして、新たな鋼管110の内径にその鋼継手120を挿入させ、ねじボルト130で両者を仮組する。その後、構築物の重量を反力として図示しないジャッキにより新たな鋼管110に若干の荷重を加え、圧入した鋼管110と鋼継手120と新たな鋼管110とを密着させ、軸芯を一致させ、ねじボルト130を本締めする。
【0016】
次に、構築物の重量を反力として、図示しないジャッキにより、鋼継手120を介して接続した鋼管110を圧入する。このように、鋼管110を順次継ぎ足しながら支持層まで圧入して支持力を得る。次に、支持層に反力をとって構築物の基礎の高さ位置を調整して構築物を水平に修正する。最後に、構築物の水平が確認されたら竪穴を埋め戻す。
【0017】
また、下記特許文献は、
図9に示すように、小口径鋼管杭を構成する一般鋼管20は、小口径の鋼管本体21の一方端部22に雄継手24を備え、同他方端部23には雌継手26を備えるものとした。
【0018】
雄継手24と雌継手26は予め工場に置いて鋼管本体21に溶接されている。そして、雄継手24にはネジ山25を設け、雌継手25にはこのネジ山25に対応するネジ溝(図示省略)を設け、雄継手24と雌継手26は螺合により接合可能となっている。
【特許文献2】特開2011−52396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前記特許文献1のような、鋼管の接合技術は複雑であり、現場での施工性に難がある。例えば、鋼管の接合に「ボルトやナット」を使用するが、作業負担が大きい。
【0020】
また、杭の支持力は「周面摩擦抵抗」と「先端支持力」よりなるが、鋼管の接合部分に「ボルトやナット」が突出すると「周面摩擦抵抗」により振動等を受けこれら「ボルトやナット」が緩むおそれがある。
【0021】
前記特許文献2では、雄継手24と雌継手26は予め工場に置いて鋼管本体21に溶接されている必要があり、溶接なしに現場で簡易的に接続できるものとは言い難い。
【0022】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、小口径鋼管杭工法における薄肉小径鋼管を溶接を行わずに現場で簡易的に接続できるものであり、しかも、接続部分が本管部分と同等の曲げ強度、圧縮強度引張強度を有するものとすることができる薄肉鋼管杭の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するため本発明は、薄肉鋼管杭内周面に縦長帯板状の接続ガイド部材を接着剤により接着して端部から突設し、接続ガイド部材を内側で掛け渡して薄肉鋼管杭を上下に接合し、この接合の薄肉鋼管杭外周面に
U字管をかしめにより円筒形に曲成した鞘管による補強管を嵌め、接着剤により接着固定し、
薄肉鋼管杭外周面に嵌めた後外周を結束バンドで締結して一体化したこと、もしくは、薄肉鋼管杭内周面に縦長帯板状の接続ガイド部材を接着剤により接着して端部から突設し、接続ガイド部材を内側で掛け渡して薄肉鋼管杭を上下に接合し、この接合の薄肉鋼管杭外周面に鞘管による補強管を嵌め、接着剤により接着固定して一体化し、
また、鞘管による補強管と薄肉鋼管杭との間にキー溝を形成し、このキー溝に鋼線によるキーを介在させたこと、および、接着剤は、二液室温硬化型接着剤を使用することを要旨とするものである。
【0024】
請求項1記載の本発明によれば、接続ガイド部材により薄肉鋼管杭同士を嵌め合わせることができ、しかも、この接続ガイド部材は溶接ではなく接着剤により接着して設けることができる。
【0025】
また、接続ガイド部材が薄肉鋼管杭同士の内面を2または3方向より接続するとともに、鞘管による補強管が外側から拘束して一体化することができる。
【0026】
また、鞘管による補強管はU字管をかしめにより円筒形に曲成したので、スリットを有するので嵌めやすいものとなり、また、後で外周を結束バンドで締結することによりより一層一体化を強固にすることができる。
【0027】
請求項2記載の本発明によれば、鞘管による補強管と薄肉鋼管杭と間に鋼線によるキーを介在させることで、打撃による振動や、回転による応力に対して接着面による結合を損なわないような補強を行うことが出来る。
【0028】
請求項3記載の本発明によれば、二液室温硬化型接着剤は、金属接着専用に開発された構造用接着剤として、本発明での使用で最適なものである。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように本発明の薄肉鋼管杭の接合構造は、小口径鋼管杭工法における薄肉小径鋼管を溶接を行わずに現場で簡易的に接続できるものであり、しかも、接続部分が薄肉鋼管杭の本管部分と同等の曲げ強度、圧縮強度引張強度を有するものとすることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の薄肉鋼管杭の接合構造の1実施形態を示す説明図で、図中1、1は小口径鋼管杭工法などで杭として使用する薄肉鋼管杭で、上杭、下杭として相互に接合するものである。鋼管径は101.6mmから165.2mm、肉厚4.2mmから5.7mmのものである。
【0031】
薄肉鋼管杭1、1の端部内周面に縦長帯板状の接続ガイド部材2を接着剤3により接着して端部から突設させた。
【0032】
接続ガイド部材2は接着代と反対側の先端部分2aはテーパー状に内側に少し折り曲げ、先端部が中側に入るようにする。
【0033】
また、接続ガイド部材2の取り付け個数は特に限定はないが、図示の例は上下杭の薄肉鋼管杭1、1にそれぞれ対抗する位置に2個づつ、これを上杭と下杭で約90°ずらして設けた。
【0034】
図中4は薄肉鋼管杭1、1の外周面に嵌める鞘管による補強管で、U字管を現場でかしめにより円筒形に曲成したもので、スリット4aを残している。
【0035】
この鞘管による補強管4は、薄肉鋼管杭1、1の接合部の外周面に嵌めた後、内側に塗布する接着剤3により接着固定し、かつ、外周を結束バンド5で締結する。
【0036】
前記使用する接着剤3は金属接着専用に開発された構造用接着剤であり、一例として(住友スリーエム社の登録商標)3MTMScotch−Weld EPX)の二液室温硬化型接着剤が好適である。
【0037】
このようにして、工場または現場で、接続ガイド部材2を接着剤3により接着して設けた薄肉鋼管杭1、1を接続するが、鞘管による補強管4は薄肉鋼管杭のいずれか一方に嵌めておいてもよい。
【0038】
接続ガイド部材2をその先端部分2aから接続の相手側の薄肉鋼管杭1に差し入れ、そこで接着剤3で接着固定する。古来より木杭の接続は「かすがい」を用いて外面を2または3方向より接続するが、前記接続ガイド部材2がこのような「かすがい」の役割をなす。
【0039】
図3に示すように、薄肉鋼管杭1、1の接続部の外周に鞘管による補強管4を嵌め(移動させればよい)、その内側に接着剤3を塗布し、かつ、外周を番線等の結束バンド5で締結する。結束バンド5は番線ではなく、金属製もしくは樹脂製バンドとその端部に設けたカシメ治具による、機械式のものでもよい。
【0040】
このようにして薄肉鋼管杭1、1は一体化するが、薄肉鋼管杭の接続部分の曲げ、圧縮、引張に対する変形性能、強度を検証し、薄肉鋼管杭の本管部分と同等の性能を保有するかを試験により確認した。
【0041】
試験は、これらの変形性能、強度に影響する要因に、外周面補強材および内周面接続ガイド部材の接着領域(接着剤塗布領域)、外周面補強材および内周面接続ガイド部材の長さおよび幅、本管、外周面補強材および内周面接続ガイド部材の表面粗さなどが考えられ、これらをパラメータとした実寸供試体に対する各種載荷実験を行い、無垢な本管供試体の性能と比較する。
下記表1に実験結果を示す。また、実験共試体サイズと必要個数を下記表2に示す。
【表1】
【表2】
【0042】
次に、薄肉鋼管杭1、1の建込の際の補強について説明する。薄肉鋼管杭1、1の建込には、バイブロハンマ等の打撃力を加える場合や、ボーリングマシン等による回転力を加える場合が想定される。
【0043】
この場合は鞘管による補強管4と薄肉鋼管杭1、1との間にキー溝6を形成し、このキー溝に鋼線によるキー7を介在させる。
【0044】
前者の打撃力に対する補強としては、
図4、
図5に示すように薄肉鋼管杭1、1の接続部に跨るようにキー7となるピアノ線(φ3〜9mm)を介在させた。キー溝6の形成は薄肉鋼管杭1、1と鞘管による補強管4とに凹みを付けて行う。キー7は直線状である。
【0045】
キー7の存在によりバイブロハンマ等の打撃力を受けた時に、上下の薄肉鋼管杭1、1が左右にずれてしまうことを防止できる。
【0046】
ボーリングマシン等による回転力に対する補強としては
図6、
図7に示すようにキー溝6は薄肉鋼管杭1、1と鞘管による補強管4とに凹みを付けて周方向に形成し、キー7となるピアノ線(φ3〜9mm)も湾曲したものである。
【0047】
薄肉鋼管杭1、1にはそれぞれキー溝6となる凹みが形成され、キー7も上下にそれぞれ配設される。
【0048】
前記何れの場合も、鞘管による補強管4を薄肉鋼管杭1、1の接合部の外周面に嵌める前に、キー7を薄肉鋼管杭1、1に接着させて突設し、その後補強管4をかしめにより円筒形に曲成して嵌めればよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明の薄肉鋼管杭の接合構造の1実施形態を示す説明図である。
【
図2】本発明の薄肉鋼管杭の接合構造の1実施形態を示す接合途中の側面図である。
【
図3】本発明の薄肉鋼管杭の接合構造の1実施形態を示す接合後の状態を示す側面図である。
【
図4】本発明の薄肉鋼管杭の接合構造の補強の第1例を示す側面図である。
【
図6】本発明の薄肉鋼管杭の接合構造の補強の第2例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0050】
1…薄肉鋼管杭 2…接続ガイド部材
2a…先端部分
3…接着剤 4…鞘管による補強管
4a…スリット 5…結束バンド
6…キー溝 7…キー