特許第5797265号(P5797265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797265標準試料容器を用いて中性子フラックスを計測する中性子活性化分析
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797265
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】標準試料容器を用いて中性子フラックスを計測する中性子活性化分析
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/222 20060101AFI20151001BHJP
【FI】
   G01N23/222
【請求項の数】18
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-519961(P2013-519961)
(86)(22)【出願日】2011年7月19日
(65)【公表番号】特表2013-532817(P2013-532817A)
(43)【公表日】2013年8月19日
(86)【国際出願番号】DE2011001476
(87)【国際公開番号】WO2012010162
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年5月8日
(31)【優先権主張番号】102010031844.2
(32)【優先日】2010年7月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100157440
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 良太
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】マウアーホーファー・エリク
(72)【発明者】
【氏名】ケットラー・ジョン
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第01/07888(WO,A2)
【文献】 特開2006−118904(JP,A)
【文献】 特開2005−249706(JP,A)
【文献】 特開平10−123070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大容量の試料の非破壊式元素分析方法であって、
試料に速い中性子をパルス形態で照射し、
試料から放出されるガンマ線を測定し、
試料内に含まれる一つの元素の量を、背景放射信号を除去した後の、その元素が計数率対エネルギーのグラフに生じさせる光電ピークの面積から求める、
方法において、
試料の場所に関する中性子フラックスを計測するために、組成が既知である、試料の部分領域から放出されるガンマ線を求め、その部分領域として、試料の金属製容器を選定し、試料を軸の周りに回転させて、その回転角に応じたガンマ線を測定することと、
その元素の有効光電ピークを計測するために、その元素から構成される点放射線源として試料を近似し、次の式に基づく数値積分により有効光電ピークε(Eγ)を計算することと、
【数1】
ここで、
N:試料の体積を分割した点iの数、
:試料の中心と検出器の距離、
:点iと検出器の距離、
m,i:試料の基質内の点iから放出されたガンマ線が検出器にまで進まなければならない行程、
s,i:容器内の点iから放出されたガンマ線が検出器にまで進まなければならない行程、
ρ:試料の基質の密度、
ρ:容器の密度、
(μ/ρ):試料の基質の質量減衰係数、
(μ/ρ):容器の質量減衰係数、
ε(Eγ):試料の中心における点放射線源の有効光電ピーク、
ω:活性度分布に関する点iの重み係数、
を特徴とする方法。
【請求項2】
当該の回転角に対するガンマ線の依存度から、試料内の元素の回転軸に対して相対的な半径方向の分布を求めることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該の試料の近似のために、試料内の元素の回転軸に対して相対的な半径方向の予め決定された分布を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
試料内に含まれる、当該の元素から放出されるガンマ線を遮蔽する構造を仮定して、当該の光電ピーク面積を計算し、その仮定の有効性の尺度として、前記の面積と測定結果から得られた面積との比較結果を求めることを特徴とする請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
当該の計算した光電ピーク面積と測定結果から得られた光電ピーク面積との間の偏差のχ二乗テストによって、当該の仮定の有効性を求めることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項6】
試料内に含まれる、当該の元素から放出されるガンマ線を遮蔽する構造の作用に関するパラメータ設定式に基づき、当該の光電ピーク面積を計算し、そのパラメータを変化させることによって前記の面積と測定結果から得られた面積との偏差を最小化することを特徴とする請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
当該の元素から放出されるガンマ線を遮蔽する構造のパラメータの限定又は決定のために、事前に実施した定性的な元素分析からの知見を用いることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項8】
当該の仮定又はパラメータ設定式において、試料内の調査すべき元素の異なるガンマ線によって生じる、光電ピーク面積の期待される比率を考慮することを特徴とする請求項からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
試料を回転させて、試料内に局所的に集まっている元素の位置に関する仮定に基づき、試料から放出されるガンマ線の角度依存度を計算することと、
前記の仮定の有効性の尺度として、前記の角度依存度と測定結果から得られた角度依存度との比較結果を求めることと、
を特徴とする請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
計算した角度依存度と測定結果から得られた角度依存度との間の偏差のχ二乗テストによって、当該の仮定の有効性を求めることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項11】
試料内の局所的に集まっている元素の位置に関するパラメータ設定式に基づき、当該の試料から放出されるガンマ線の角度依存度を計算して、そのパラメータを変化させることによって前記の角度依存度と測定結果から得られた角度依存度との偏差を最小化することを特徴とする請求項1から1までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
元素から成る球体が試料内の元素が局所的に集まっている位置に収容されており、その放出されるガンマ線の測定した角度依存度を表すと仮定した場合の球体の直径を計算して、
その球体の直径と、質量が既知である、元素から成る基準球体の直径との比較結果から、試料内の局所的に集まっている元素の総質量mを求める、
ことを特徴とする請求項から1までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
当該の基準球体として、その球体が試料内の元素が局所的に集まっている位置に収容されており、その測定したガンマ線の角度依存度がそこに存在する所定の幾何学的形状の元素から成る円柱と同じ角度依存度を示すと仮定した球体を選定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
中性子パルスから、そのパルスの中性子の少なくとも50%が100eV〜1KeVのエネルギーに減衰する時間間隔後に、当該のガンマ線を測定することと、
中性子パルスから、そのパルスの中性子の少なくとも50%が1eVのエネルギーに減衰する時間間隔後に、当該のガンマ線を測定することと、
の中の一つ以上を特徴とする請求項1から1までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
10MeV以上のエネルギーの中性子を試料に照射することと、
試料を通過する中性子の少なくとも一部を試料内で反射させることと、
の中の一つ以上を特徴とする請求項1から1までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
当該の偏差をχ二乗法に基づき最小化することを特徴とする請求項6又は11に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16までのいずれか一つに記載の方法を実施するための装置であって、
調査すべき試料を収容する試料空間と、試料に照射するためのパルス式中性子源と、試料から放出されるガンマ線の検出器とを備えた装置において、
この試料空間が、中性子を反射する材料によって取り囲まれており、その材料が、試料によって吸収されなかった中性子を試料空間内に反射でき、パルス形態の中性子源が、中性子を反射する材料内に配置されていることと、
本装置が試料のための回転テーブルを備えていることと、
検出器から見て高々0.6ステラジアンの立体角内に試料が入るように、当該の検出器が試料空間に対して相対的に配置されていることと、
を特徴とする装置。
【請求項18】
当該の中性子を反射する材料がグラファイトであることと、
当該の検出器が、Liから成る中性子遮蔽体を備えていることと、
当該の検出器が、試料から放出されるガンマ線のための主検出器と、主検出器を少なくとも部分的に取り囲む副検出器と、主検出器と副検出器の競合防止回路手段とを備えていることと、
の中の一つ以上を特徴とする請求項17に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子線を用いて大容量試料の非破壊式元素分析方法及びその方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
危険な物質を取り扱う場合、特に、保管する場合、如何なる物質を扱っているのかを正確に知ることが重要である。それと関連して、様々な有害物質に汚染された物が混ざった物を収容した混合廃棄物、例えば、廃棄物容器では特別な困難が生じる。如何なる有害物質が存在するのかを知らないで、その廃棄物と接触することは危険である。しかし、そのような知識を得るためには、正に廃棄物と接触しなければならない。防護措置が必要なことから、分析のために、コンクリート内に放射性廃棄物を流し込んだ容器に、例えば、ドリル穴を開けることは非常に負担がかかり、高価となる。
【0003】
中性子活性化分析がその打開策を提供する。その場合、試料に中性子を照射する。それによって、試料内の原子核が励起されて、各元素に特有の指標を示すガンマ線を放出する。そのため、試料から放出されるガンマ線を評価することによって、如何なる元素が試料内に存在するのかを非破壊式に調査できる。
【0004】
特に、大容量の物体の調査に関して、特許文献1から、非放射性の大容量試料内における米国の「資源保全回収法(RCRA)」により特に有害であると格付けされた金属の計測方法が周知である。その場合、パルス状の中性子線を試料に照射している。試料から放出されるガンマ線のスペクトルから、試料内の中性子衝撃により生じる原子核の即発ガンマ線と遅発ガンマ線を求めている。それは、試料内に存在する元素を計測するために用いられている。試料内の元素の定量化には、時間を要し、計算量の多いモンテカルロシミュレーションを必要とすることが不利であり、そのため、この方法は、多数の試料を高い処理能力で順次測定するのに適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際特許公開第01/07888号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のことから、本発明の課題は、より速く実施でき、そのため、高い処理能力で定型的な測定を順次実施するのに適した大容量試料の非破壊式元素分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本課題は、本発明による主請求項に記載の方法及び副請求項に記載の装置によって解決される。更に別の有利な実施形態は、それぞれそれらを引用する従属請求項から明らかとなる。
【0008】
本発明の範囲内において、大容量試料の非破壊式元素分析方法を開発した。この場合、試料に速い中性子をパルス形態で照射して、試料から放出されるガンマ線を測定する。試料内に含まれる一つの元素の量は、背景放射信号を除去した後の、その元素が計数率対エネルギーのグラフに発生させる光電ピークの面積から求める。
【0009】
本発明では、試料の場所に関する中性子フラックスを計測するために、組成が既知である試料の部分領域から放出されるガンマ線を求める。そのような部分領域としては、例えば、試料の金属製の被覆部を選択することができる。多くの場合、当該の化学的な放射性廃棄物は、有利には、中性子フラックスの測定のために使用できる標準化された鋼鉄製容器内に収容されている。中性子フラックスとの用語は、遅い中性子と速い中性子の両方を包含する。
【0010】
本発明による方法及び装置は、例えば、リサイクル産業分野の試料又は材料の元素分析及び品質管理にも適している。即ち、例えば、ガラス、プラスチック又は金属産業、電子/エレクトロニクス廃材産業、代替燃料産業、建築混合廃棄物発生部門、サービス産業、自動車産業、廃材産業の廃棄物、金属/金属化合物、遷移金属/遷移金属化合物(例えば、アンチモン、ベリリウム、コバルト、ホタル石、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、マグネシウム、ニオブ、プラチナグループ金属、タンタル、タングステン)を含む廃棄物、鉱物製産業廃棄物又は希土類金属を含む廃棄物を評価できる。
【0011】
試料内に含まれる一つの元素の量は、背景放射信号を除去した後の、その元素が計数率対エネルギーグラフに発生させる光電ピークの面積から求める。ガンマ線のエネルギーEγを中心として取り囲む一つのピークの正味の光電ピーク面積P(Eγ)は、次の式によって与えられる。
【0012】
【数1】
ここで、Mは、元素の既知のモル質量であり、Aは、アボガドロ定数であり、σ(Eγ)は、同じく光子を生成するための元素の既知の実効断面積であり、fは、ガンマ線が遅い中性子又は速い中性子によって励起されるのか、並びに即発ガンマ線又は遅発ガンマ線であるのかに依存する時間係数である。従って、fは、照射形態、実施する測定形態だけに依存し、遅発ガンマ線を照射する場合には、更に、発生した核種の半減期にも依存する。そのため、如何なる場合でもfは既知である。従って、試料内全体に存在する調査すべき元素の質量mを計測できるためには、僅かに未知数としての試料の場所に関する有効光電ピークε(Eγ)と中性子フラックスΦだけを計測すればよい。
【0013】
組成が既知である試料の領域(校正領域)からのガンマ線を求めることによって、試料の場所に関する中性子フラックスが実験的に簡単に、理解し易いと同時に正確に求められることが分かった。校正領域の組成が分かると、その領域から如何なる材料に特有のガンマ線のエネルギーが放出されているのかが分かる。そのため、校正領域からのガンマ線を試料のそれ以外の領域からのガンマ線と区別できる。従って、校正領域からのガンマ線に関するP(Eγ)が分かって、上記の式に導入できる。変数M,A,σ(Eγ)及びfに追加して、校正領域の質量mが分かり、その結果、この式を試料の場所における中性子フラックスΦに関して解くためには、僅かに有効光電ピークε(Eγ)だけを決定すればよい。校正領域(鋼鉄製容器)の有効光電ピークε(Eγ)は、同じく校正領域の既知として仮定した組成と幾何学的形状にのみ依存し、従って、同じく入手可能である。特に、それぞれ標準化された鋼鉄製容器で包まれた一連の試料を調査する場合、それは固定変数である。
【0014】
それによって、Φの決定に必要な全ての変数が分かる。試料全体に遅い中性子を照射した場合、そのフラックスは均一である。速い中性子では、試料内部のフラックスは遮蔽効果によって減少する。しかし、そのような遮蔽効果は既知であり、平均的な速い中性子フラックスを計測する際に補正して除去できる。そのような平均的な速い中性子フラックスを用いて、試料内の調査すべき元素の存在を定量化できる。
【0015】
従来技術では、試料の場所に関する中性子フラックスは、モンテカルロシミュレーションによってのみ推定できた。それは、反復式の非常に計算量の多い方法である。例えば、廃棄物容器などの大容量の試料は、中性子フラックスの推定だけでも、実際の測定後に標準的なPCハードウェアで一日に及ぶ計算時間が必要であった。本発明では、中性子フラックスを推定せずに、実際に測定している。それは、大きな計算負担を防止すると同時に、最終的な結果の精度を向上させる。
【0016】
そのようにして測定した中性子フラックスΦは、厳密には、その場所から放出されたガンマ線のほんの一部だけが検出器に到達できる場所に関して低減されているという意味において、実際の中性子フラックスではなく、有効な中性子フラックスと解釈される。例えば、コンクリートで充たされた鋼鉄製容器を調べるとして、その容器の側面を検出器の方に向けた場合、容器の検出器と逆の側面から放出されるガンマ線は、コンクリートの充填部によって弱められる。しかし、正味の光電ピーク面積P(Eγ)から元素を定量化するためには、P(Eγ)を計測する場合にも同じ遮蔽効果が作用するので、正にそのような有効な中性子フラックスが重要である。
【0017】
そして、僅かに試料内の調査すべき元素の有効光電ピークε(Eγ)だけが未知である。それは、試料内の元素の幾何学的な分布と、元素から放出されるガンマ線が大容量の試料によって受ける遮蔽とに依存する。
【0018】
本発明の特に有利な実施形態では、そのような分布を決定するために、軸の周りに試料を回転させて、回転角に応じたガンマ線を測定する。回転角に応じて変化しないガンマ線は、試料内で多少とも均一に分布している元素から放出されたものである。明らかな角度依存性を示すガンマ線は、試料内の場所的に限定された収容部から放出されたものである。互いに独立した直線的な二つの軸の周りに順番に試料を回転させて、専ら第一の軸に沿って集まった、従って、その軸の周りに回転させた場合に回転角への依存性を示さない収容部も検出できる。
【0019】
典型的には、試料は、それぞれ互いに45°異なる8つの角度位置の間に回転される。各角度位置における測定時間は、典型的には、約20分である。
【0020】
有利には、ガンマ線の回転角への依存度から、試料内の元素の回転軸に対して相対的な半径方向の分布を求める。例えば、そのような分布のために、自由なパラメータを含む式を設定して、そのパラメータを変化させることによって、そのような分布から生じる回転角依存度を実験的に得られた回転角依存度に適合させることができる。
【0021】
本発明の特に有利な実施形態では、元素の有効光電ピークを計測するために、その元素から構成される遮蔽された点光源として試料を近似する。そして、有効光電ピークε(Eγ)は、次の式に基づき数値積分により計算できる。
【0022】
【数2】
この式は、有効光電ピークε(Eγ)を計算するために、校正領域(鋼鉄製容器)によって包囲された試料を遅い中性子及び/又は速い中性子で活性化する全ての場合に有効である。ここで、Nは、試料の体積を分割した点iの数である。Nが大きくなる程、結果が正確となるが、計算時間も長くなる。dm,iとds,iは、試料の基質又は校正領域(試料を包囲する鋼鉄製容器)内の場所iから放出されたガンマ線が検出器にまで進まなければならない行程である。ρとρは、試料の基質(鋼鉄製容器の内容物)と校正領域(鋼鉄製容器)の密度である。(μ/ρ)と(μ/ρ)は、試料の基質と校正領域(鋼鉄製容器)の質量減衰係数である。ρは、被覆部が無い場合の試料の見かけの平均密度である。それは、試料の総質量から鋼鉄製容器の既知の質量を差し引いて、鋼鉄製容器の内部体積で割った商として得ることができる。本明細書で説明する例では、それぞれ、最適な空間利用のために、鋼鉄製容器がそれぞれ基質(例えば、コンクリートの充填物)で完全に充たされていることを前提としている。それと同時に、具体的な用途で疑念が生じた場合、容器のレベルを予めデジタル放射線写真法で非破壊式に調べることができる。
【0023】
ε(Eγ)は、検出器に対して距離dに置かれた試料の中心における点光源の有効光電ピークである。dは、観測点と検出器の距離である。HPGe検出器との距離dにおける点光源に関する有効光電ピークε(Eγ)を有効光電ピーク曲線の正規化により10MeVまで計測した。そのために、異なるエネルギーの中性子を空の鋼鉄製容器に照射して、ガンマ線のエネルギーEγに応じた光電ピーク面積P(Eγ)を測定した。この曲線は、定性的には、点状のテスト放射体に関するガンマ線のエネルギーEγへの光電ピーク面積P(Eγ)の依存度と同様の推移を有する。後者の依存度は、テスト放射体を用いて、1.4MeVまでのガンマ線エネルギーに関して測定した。曲線の推移との比較から、所要の正規化が得られる。
【0024】
ωは、活性度分布に関する観測点の重み係数である。それは、基本的に中性子エネルギーに依存し、遅い中性子を多重反射するように試料に照射して、均一に照射できる。その場合、活性度分布は同じく均一となり、そのため、全ての重み係数は1に等しい。それに対して、速い中性子に関する重み係数は、次の通り、巨視的な実効断面積と中性子が材料内を通過する平均行路長とに依存する。
【0025】
【数3】
ここで、ΣとΣは、校正領域(鋼鉄製容器)と試料の基質における速い中性子を吸収する巨視的な実効断面積である。変数lS,iとlM,iは、(例えば、14MeVのエネルギーの)速い中性子が、最終的に場所iで吸収されて、試料がガンマ線を放出するように励起されるまでに校正領域(鋼鉄製容器)と試料の基質内を進む平均行路長である。この値Σは、主に鉄から成る鋼鉄製容器における校正領域の既知の材料組成から決定される。この値Σは、事前に実施した遅い中性子を用いた活性化試験の評価と測定物体の平均密度から算出される。そのため、先ずは遅い中性子による活性化に関するデータを求めた後、速い中性子による活性化に関するデータを求めることが有効である。
【0026】
本発明の別の有利な実施形態では、試料内の元素の事前に求めた回転軸に対して相対的な半径方向の分布を試料の近似のために用いる。例えば、そのような測定によって、元素が試料内に均一に分布していることが分かった場合、上記の有効光電ピークε(Eγ)に関する近似を更に簡略化できる。そして、試料内の総質量mは、次の簡略化した式により定量化できる。
【0027】
【数4】
ここで、Vは体積であり、Rは試料(内容物を含む容器)の半径である。Fは、試料の中心における検出器の方を向いた断面積である。dは、校正領域の密度(鋼鉄製容器の壁厚)である。試料内の調査すべき元素の均一な分布は、例えば、試料を回転させて、光電ピーク面積P(Eγ)が回転角θに依存しない場合に得られる。
【0028】
本発明の別の特に有利な実施形態では、試料内に含まれるガンマ線を遮蔽する構造を仮定することによって、光電ピーク面積を計算する。その面積と測定結果から得られた面積との比較結果は、その仮定の有効性に関する尺度として求められる。特に、その仮定の有効性は、光電ピークの計算した面積と測定結果から得られた面積との間の差分のχ二乗テストによって求めることができる。
【0029】
例えば、先ずは空間内において、試料が遮蔽構造を含まないとの仮定を設けることができる。そのような仮定に基づき計算した光電ピーク面積は、特に、χ二乗テストを用いて、測定結果から得られた面積と比較される。大きな偏差が生じなかった場合、遮蔽構造が存在しないことを前提とすることができる。それに対して、大きな偏差を示した場合、その仮定が誤りと分かり、遮蔽構造が存在することを前提としなければならない。
【0030】
調査すべき元素が試料内に均一に分布している場合、χ二乗テストに関して、例えば、次のテスト変数を設定できる。
【0031】
【数5】
ここで、iとjは、試料内で定量化すべき一つの同じ元素の異なるγ線に関する変数である。この係数qi,jは、元素から放出される各γ線による元素の定量化がそれぞれ試料内に存在する元素の総質量mを同じとしなければならないとの境界条件から決定できる。この条件が充たされない場合、χ二乗テストにおいて、それは誤りとして現れる。
【0032】
従って、有利には、試料内の調査すべき元素の異なるガンマ線が発生させる光電ピーク面積の期待される比率を仮定において考慮する。
【0033】
ガンマ線遮蔽構造が試料内に存在しない場合、試料内の元素の存在場所から放出されるガンマ線は、試料の基質と校正領域として作用する被覆部(鋼鉄製容器)とによってのみ遮蔽される。ガンマ線のために励起される試料内の調査すべき元素の分布が均一であり、試料内の中性子フラックスが均一である場合、それら二つの遮蔽機構だけがP(Eγ,i)とP(Eγ,j)の間の比率に影響を及ぼす。ここで、P(Eγ,i)とP(Eγ,j)の間の実際の比率が、そのようにして推定した理論的な比率と異なるようになるまで、テスト変数χを測定する。ガンマ線遮蔽構造が試料内に存在しない場合、χの値は最小となる。即ち、χの値が、選定した有意水準に依存する臨界的な閾値以下となった場合、その選定した有意水準に対応する確率で、試料がガンマ線遮蔽構造を含まないとの仮定が正しい。
【0034】
遮蔽構造は、例えば、廃棄物容器としての鋼鉄製容器内に収容する前に調査すべき元素を包んでいた、鉛とそれ以外の遮蔽材料から成る一次包装体とすることができる。しかし、試料内の調査すべき元素の存在場所と検出器の間のガンマ線の光路内に偶然に入った、それ以外の鉛から成る対象物及びそれ以外のガンマ線を通さない材料とすることもできる。それは、しばしば、全体が混ぜ物で汚染された対象物を収集するための廃棄物容器として標準化された鋼鉄製容器を使用して、次に、例えば、コンクリートを流し込んだ場合に起こる。
【0035】
試料を回転させた場合、遮蔽構造が存在するか否かのテストは、回転角θ毎に個別に、或いは全ての回転角θの下で実施した測定に渡る合計又は積分に関して行なわれる。
【0036】
本発明の別の有利な実施形態では、ガンマ線遮蔽構造が試料内に存在することが分かった場合、光電ピーク面積は、ガンマ線遮蔽構造の作用に関するパラメータ設定式に基づき計算されて、その面積と測定結果から得られた面積との差分は、そのパラメータを変化させることによって最小化できる。そして、偏差が最小値となるパラメータは、ガンマ線遮蔽構造の特性値として看做すことができる。例えば、遮蔽物の平均的な厚さと平均的な密度をパラメータとして選定して、離散的な空間内で変化させることができる。そのような偏差は、特に、χ二乗法に基づき最小化することができる。
【0037】
平均的な厚さがdで平均的な密度がρの遮蔽構造が存在して、材料のその残りの基質の密度がρであるとの仮定のχ二乗テストに関するテスト変数としては、例えば、次の式が適している。
【0038】
【数6】
(μ/ρ)と(μ/ρ)は、遮蔽構造と試料内に含まれる残る材料の質量減弱係数である。つまり、試料は、全体として、二つの主要区画、即ち、密度ρと厚さdに対応する校正領域(鋼鉄製容器)と、その中に含まれる密度ρの基質(例えば、調査すべき元素を封じ込めたコンクリート充填物)とから構成される。ここで、この基質の構成要素は、詳しくは、平均的な密度ρと平均的な厚さdによって規定される遮蔽構造と、その残りの平均的な密度ρの物質とに分類される。
【0039】
そのため、有利には、試料内の調査すべき元素の異なるガンマ線により生成される光電ピーク面積の期待される比率は、パラメータ設定式内において考慮される。
【0040】
試料の事前に実施した定性的な元素分析による知見は、そのようなパラメータの決定又は限定のために用いることができる。例えば、試料が(例えば、コンクリートやカドミウムなどの)大きな密度の元素を含むことが分かった場合、その元素の密度は、遮蔽物の平均密度ρに関して考えられる開始値である。
【0041】
遮蔽構造が試料の高さ全体(例えば、廃棄物で充たされた鋼鉄製容器)に沿って拡がっているとの簡略化した仮定の下では、遮蔽構造に属さない残りの材料の密度ρは、次の通り、試料の基質全体(例えば、遮蔽構造と調査すべき元素の封入物に加えて充填材料であるコンクリート)の既知の平均的な密度ρと、パラメータの最適化から得られる遮蔽構造の平均的な密度ρとによって表される。
【0042】
【数7】
これは、試料の既知の総質量が試料の総体積と試料の平均的な全体密度の乗算から得られなければならないとの境界条件の結果である。
【0043】
パラメータの最適化によって、試料内の遮蔽構造の平均的な厚さdと平均的な密度ρが分かって、その材料の残りの基質の密度がρである場合、その残りの基質内に均一に分布する元素の質量mに関して、次の閉じた式が得られる。
【0044】
【数8】
ここで、Vは、次式の通り、校正領域としての役割を果たす被覆部(鋼鉄製容器)によっても、遮蔽構造によっても影響されない試料の体積である。
【0045】
【数9】
本発明の別の特に有利な実施形態では、試料を回転させる。試料から放出されるガンマ線、特に、その強度が回転角に依存する度合いは、試料内で局所的に集まった元素の位置に関する仮定に基づき計算される。その角度依存度と測定結果から得られた角度依存度との比較結果は、その仮定の有効性に関する尺度として求められる。
【0046】
この場合、仮定の有効性は、特に、計算した角度依存度と測定結果から得られた角度依存度との間の偏差のχ二乗テストによって求めることができる。
【0047】
この場合、角度依存度は、例えば、回転角に渡って計数率をプロットした曲線として得られ、特に、この曲線の最大値で正規化することができる。
【0048】
試料は、例えば、円柱(廃棄物を充填した鋼鉄製容器)とすることができる。そのような試料に関して、角度に依存した計数率分布R(Eγ,θ)は、
・試料の高さの半分、即ち、中性子源と検出器が置かれた平面内における異なる位置(p,β)に、それぞれ1グラムの調査すべき元素が局所的に集まっており、ここで、pは、位置iの半径方向の成分であり、βは方位角方向の成分であり、
・調査すべき元素に隣接する試料は平均的な厚さdと平均的な密度ρの遮蔽構造を有し、
・試料の残りの基質の平均的な密度はρである、
との仮定の下でシミュレーションすることができる。
【0049】
そして、このパラメータに応じて、R(Eγ,θ)は、次の通り表される。
【0050】
【数10】
ここで、d(θ)は、位置iにおける検出器(例えば、HPGe検出器)と調査すべき元素の局所的に集まった存在場所との間の距離である。このシミュレーションした計数率分布R(Eγ,θ)は、次の正味の光電ピーク面積に関する測定結果から得られた計数率分布と比較できる。
【0051】
【数11】
有利には、試料から放出されるガンマ線、特に、その強度が回転角に依存する度合いは、試料内の局所的に集まった元素の位置に関するパラメータ設定式に基づき計算されて、それと測定結果から得られた角度依存度との偏差は、そのパラメータを変化させることによって最小化される。この偏差は、特に、χ二乗法に基づき最小化できる。
【0052】
例えば、前述したシミュレーションした角度に依存した計数率R(Eγ,θ)と測定結果から得られた角度に依存した計数率Z(Eγ,θ)に関する式は、次のχ二乗テスト変数
【0053】
【数12】
と組み合わせることができ、ここで、n=360/Δθは、角度区画の細かさを表す。R(Eγ,θ)maxとZ(Eγ,θ)maxは、それぞれシミュレーションした計数率と測定結果から得られた計数率の最大値であり、比較のために、それにより計数率を正規化している。χは、未知数としてのパラメータp,β,ρ,ρ及びdにのみ依存する。χが最小値となるパラメータの値は、選定した有意水準に対応する、実際に試料内に存在する確率値である。
【0054】
本発明の別の特に有利な実施形態では、球体が試料内の元素が局所的に集まっている場所に収容されているとして、放出されたガンマ線の測定した回転角依存度を示す、元素から成る球体の直径を計算する。それに続いて、その直径と質量が既知である元素から成る基準球体の直径との比較から、試料内の局所的に集まった元素の総質量mを求める。
【0055】
そのようにして、質量mの定量化の際に、元素の局所的な集積が有限な空間的拡がりを有することを考慮することができる。中性子の照射の結果、この局所的な集積部の内部からガンマ線が放出される場合、そのガンマ線の一部が元素自体によって再び吸収されて、検出器に到達しない。そのような自己吸収を考慮しない場合、質量mの定量化はシステム誤差を有することとなる。試料内の元素の局所的な集積部が広大である程、並びに元素がガンマ線を良く吸収する程、このシステム誤差が大きくなる。それは、特に、調査すべき元素がコンクリート又はカドミウムなどの重金属である場合に顕著である。
【0056】
ここで、本発明では、ガンマ線が試料内における調査すべき元素の実際に局所的に集まった存在場所と同じ角度依存度を示す、調査すべき元素から成る球形の幾何学的形状を計算する。そのような球形の幾何学的形状に関する自己吸収は、特に簡単に計算でき、そのため、質量mの定量化の際に誤差を補正して除去することができる。
【0057】
この等価球体の直径Dは、次の式から得られる。
【0058】
【数13】
ここで、R(Eγ,θ)には、測定結果から得られた計数率分布との比較時にテスト変数χが最小値となる、角度に依存する計数率分布が適用される。ρは、調査すべき元素の密度であり、既知である。F(Eγ,D)は、ガンマ線エネルギーEγにおける調査すべき元素から成る直径Dの球体の自己吸収係数である。この係数は、次の式によって与えられる。
【0059】
【数14】
μ(Eγ)は、試料内の調査すべき元素に関する表から既知である。そのため、F(Eγ,D)は、次の通り、パラメータ設定式によりDの関数として表される。
【0060】
【数15】
F(Eγ,D)の二つの式をDの関数として計算する場合、適合度の比較が、特に、μ(Eγ)を含む、ガンマ線エネルギーだけに依存する定数a(Eγ),b(Eγ),c(Eγ)を与える。このパラメータ設定式は、調査すべき球体の直径Dの数値計算に関して明らかに良好に取り扱うことができるが、そのためには、適合度が、非常に僅かな誤差しか含まない。
【0061】
有利には、球体が試料内における元素が局所的に集まっている場所に収容されているとして、その場所に有る所定の幾何学的形状の元素から成る円柱と同じ測定したガンマ線の回転角依存度を示す球体が基準球体として選定される。
【0062】
そのためには、基本的に、測定データから決定した等価球体の直径Dと一致する直径の基準球体が得られるまで、異なる円柱に関して基準球体を計算する必要がある。それには、順次測定の妨げとなる長い計算時間が必要である。しかし、この問題は、試料のサイズと、円柱状の試料(廃棄物を充填した容器)内の極座標(p,β)への円柱の所定の位置決めとにより、調査すべき元素から成る仮想的な円柱の長さと直径に関する最大値を得ることによって簡略化できる。
【0063】
ここで、全ての考え得る円柱のサイズに関して、全ての円柱が同じ体積を有し、そのため、同じ所定の質量(単位質量)mrefを有するとの追加の境界条件の下で、それに対応する基準球体の直径をそれぞれ計算することは有効である。そこで、この円柱の範囲内には、最も小さい直径Dminの基準球体と最も大きい直径Dmaxの基準球体とが有る。測定データから得られた等価球体の直径DがDminとDmaxの間に有る場合、それは、ちょうど単位質量m=mrefの調査すべき元素が試料内で局所的に集まっていることを意味する。Dがその範囲外である場合、試料内に局所的に集まっている元素の求める質量mは、次の式から得られる。
【0064】
【数16】
ここで、円柱と等価な球体の計数率
【0065】
【数17】
と直径
【0066】
【数18】
は、それぞれ全てのテストした円柱に渡って平均した値である。
【0067】
元素の質量mを計測する場合の不確定性σは、次の式から算出される。
【0068】
【数19】
ここで、
【0069】
【数20】
は、
【0070】
【数21】
の標準偏差であり、σ(χmin)は、テスト変数χの最小値に関するχ二乗の適合度の標準偏差である。
【0071】
【数22】
は、元素の未知の軸方向の位置に関する不確定性、即ち、容器内の如何なる高さに調査すべき元素が収容されているのかとの不確定性である。
【0072】
本発明の特に有利な実施形態では、中性子パルスから、そのパルスの中性子の少なくとも50%、有利には、少なくとも75%、特に有利には、少なくとも90%が100eV〜1KeVのエネルギーに減速される時間間隔後にガンマ線を測定する。
【0073】
中性子パルスによって励起されて、試料内から放出されるガンマ線が、異なる物理的な相互作用メカニズムに由来する成分から構成されることが分かった。これらの成分は、全て同時に放出されるのではなく、時間的な順序で順番に放出される。
【0074】
先ずは、試料に当たる全ての中性子が速いものとする。そのような速い中性子の一部は、試料内の原子核を励起して、直ちにガンマ線を放出させる。中性子の別の一部は、試料内の原子核を半減期が異なる放射性核種に変換して、それらが、先ずは放射性崩壊に応じて遥かに遅れてガンマ線を放出する。中性子の別の一部は、試料内の軽い元素又は試料空間の壁面との相互作用によって、所要のエネルギー範囲に減速される。
【0075】
ここで、減速された中性子自体は、試料内の別の原子核を励起して、その原子核に捕捉されるか、或いは別の原子核を放射性核種に変換することによって、直ちにガンマ線を放出させる。これらの反応は、速い中性子によって直接起こる反応と比べて、所要の範囲への減速にかかった時間間隔だけ遅れる。そのため、速い中性子が生み出す寄与が再び減衰した場合に、初めて遅い中性子によって生じる即発ガンマ線が、検出器が記録するガンマ線全体に大きく寄与することとなる。
【0076】
従って、第一に、中性子の照射によって試料内に生じる放射性核種自体は、遥かに遅れてガンマ線を放出し始める。更に、それは、減速した中性子によって生じる即発ガンマ線の後に完全に隠れる程弱い。
【0077】
そのため、中性子パルス後に、検出器が記録するガンマ線全体が実質的に所要の範囲に減速された中性子によって生じる即発ガンマ線である時間スロットが生じる。従って、そのような時間スロットにおいて測定した場合、正味の光電ピーク面積P(Eγ)に関する式内の時間係数fが当初から決定されて、試料内の調査すべき元素の定量化の際に最早特筆すべき不確定性を生じさせない。
【0078】
この時間スロットは、典型的には、数ミリ秒の幅である。典型的には、中性子パルスの終端から200μs後に始まる。そして、速い中性子による作用を受ける、例えば、試料空間のグラファイトから成る壁面の活性度も通常弱まる。先ずは所要のエネルギー範囲に減速した中性子が更に低いエネルギー範囲に減速して、そのパルスの中性子の中の50%(有利には、75%、特に有利には、90%)以内が所要のエネルギー範囲に留まることによって終わる。
【0079】
本発明の特に有利な実施形態では、更に、中性子パルスから、そのパルスの中性子の少なくとも50%、有利には、少なくとも75%、特に有利には、少なくとも90%が1eV以内のエネルギーに減速する時間間隔後にガンマ線を測定する。その時点では、励起して、即発ガンマ線を放出させるのに充分なエネルギーの中性子は殆ど得られない。そして、検出器が記録するガンマ線は、実質的に、中性子の照射によって生じる僅かに寿命の長い放射性核種から由来するものとなる。
【0080】
そのため、この遅発ガンマ線は、即発ガンマ線が減衰するまで待つことによって、物理的に即発ガンマ線から分離して検出できる。従って、それは、即発ガンマ線の時間係数fと異なる、その特有の時間係数fを用いて、正味の光電ピーク面積から調査すべき元素を定量化する際に考慮できる。それに対して、即発及び遅発ガンマ線を共通に検出した後、展開手法によって再び互いに分離する場合、そのためには、追加の計算時間が必要となり、それは、多数の試料を順次調査することの妨げとなる。更に、展開手法は、副作用として、ローデータに含まれる雑音を増幅して、即発及び遅発ガンマ線に関する最終結果に大きな誤差を生じさせる。二つの放射線を当初から時間的に分離して検出して別個に検出することによって、この欠点が防止される。
【0081】
如何なる時間間隔の間、遅発ガンマ線を測定するのかは、中性子の衝突によって生じる如何なる放射性核種を検出するのかに依存する。異なる放射性核種は、その半減期によって互いに弁別できる。例えば、寿命の短い放射性核種の遅発ガンマ線は、二つの中性子パルスの間の数ミリ秒の時間間隔に渡って測定できる。寿命の長い放射性核種の遅発ガンマ線は、照射終了後の数分から数秒の時間間隔に渡って測定できる。
【0082】
中性子の100eV〜1KeVの所要のエネルギー範囲は、試料が熱中性子を非常に強く吸収するカドミウム、ホウ素又は水銀などの材料を含む場合に特に有利である。この範囲内では、即発ガンマ線を放出させる中性子の捕捉に必要な実効断面積が得られる。しかし、それと同時に、中性子が金属製の封入物も通過し、そのため、それは、陰影効果を生じさせない。
【0083】
即発と遅発ガンマ線の間の違いは、試料が多数の元素の混合物を含む場合に特に重要である。試料が、例えば、砒素とカドミウムの両方を含む場合、カドミウムの即発ガンマ線の最も強い強度の主線は、砒素の遅発ガンマ線の最も強い強度の主線と同じエネルギーを有する。即発と遅発ガンマ線を別個に検出することによって、二つの元素の確実な弁別が可能となる。
【0084】
同様に、速い中性子から生じる即発ガンマ線を別個に検出することも可能である。そのために、パルスの中性子の中の少なくとも50%が100eV〜1KeVのエネルギーに減速する時点までのガンマ線を測定する。しかし、速い中性子によって励起された即発ガンマ線が減速した中性子によって励起されたガンマ線よりも数桁強く、各検出器が検出閾値と飽和値の間の限られた動作範囲しか持たないので、そのような測定の技術的な要件は厳しい。
【0085】
ガンマ線は、特に、そのスペクトルにより、即ち、個々の結果をエネルギー毎に分類した形で測定できる。そして、有利には、異なるエネルギーにおける検出器の計数率は、統計的に有意となるようにするために、一定数の中性子パルスに渡って累積される。
【0086】
有利には、試料は、10MeV以上のエネルギーの中性子を照射される。例えば、電子式D−T中性子発生器は、14MeVの中性子エネルギーを提供する。このエネルギー範囲の中性子は、大容量の試料内に特に深く侵入して、そこで減速する。
【0087】
本発明の特に有利な実施形態では、試料を通過する中性子の少なくとも一部を試料内で反射させる。そして、中性子源が一秒毎に提供する所定の割合の中性子によって、ガンマ線を強くするために試料を励起できる。それは、特に、試料内の計測すべき元素が中性子に関して小さい実効断面積しか持たない場合に有利である。
【0088】
それと同時に、反射は、試料の内部全体に均一に遅い中性子を照射することに寄与する。それは、特に、試料が中性子を多数回反射できる試料空間内に収容されている場合に有効である。
【0089】
本発明の範囲内において、本発明による方法を実施するための装置も開発した。この装置は、調査すべき試料を収容する試料空間と、試料を照射するためのパルス式中性子源と、試料から放出されるガンマ線の検出器とを備えている。
【0090】
本発明では、試料空間は、試料によって吸収されなかった中性子を試料空間内で反射できる、中性子を反射する材料によって取り囲まれている。
【0091】
試料空間内において、一回目の通過時に試料によって吸収されなかった、中性子源からの中性子を試料内で一回以上反射させると同時に、それにより段階的に減速できることが分かった。
【0092】
それによって、中性子を減速させる時間シーケンスが得られる。本発明による方法を実施する場合に、そのような時間シーケンスに応じて、ガンマ線を測定する一つ以上の時間間隔を決定できる。
【0093】
材料が充分な厚さを有する場合、その材料による中性子の減速は、試料自体の中の減速と比べて遥かに支配的な効果である。そのため、中性子の減速に関する時間シーケンスも試料の特性ではなく、ほぼ試料空間の特性によってのみ決まる。それは、多数の試料を順次調査するのに特に有利である。順次調査では、新たな試料毎に本来の測定前にパラメータを調整しなければならないことは時間がかかり、従って、不利である。そこで、試料空間の性質が中性子の減速に関して支配的である場合、如何なる場合でも良好な結果が達成される時間間隔に関する標準設定が有る。その結果を一層改善するために、詳細な最適化によって、時間軸上の時間スロットの位置を減速に対する試料の影響度に適合させることができる。そのような詳細な最適化のために、標準設定が有効な出発点を提供する。
【0094】
特に有利な実施形態では、中性子を反射する材料はグラファイトである。基本的に、ベリリウムも同じく適しているが、高価であり、毒性が強く、その核兵器用の中性子反射体としての基本的な適性のために、大量には自由に入手できない。
【0095】
本発明の別の有利な実施形態では、検出器から見た試料の立体角が0.6ステラジアンとなるように、試料空間に対して相対的に検出器を配置する。その場合、試料内の各場所からのガンマ線の中の充分な部分が検出器の受光角内に入って、検出器によって記録できることが保証される。そして、検出器は、試料の全ての領域からのガンマ線を同時に検出でき、そのため、スキャンのために試料を検出器の前で動かす必要がない。一方では、そのようなスキャン動作は、常に試料の部分的に重なり合った異なる空間領域と関連しており、後から試料の総合的な観測結果として構成しなければならないので、測定結果の解釈を困難にする。他方では、スキャン動作用の(例えば、巻上げ装置などの)アクチュエータは、通常中性子の照射によって活性化される金属を含んでおり、検出器に追加の背景放射信号を生じさせる。最大0.6ステラジアンの所定の立体角と、試料の幾何学的なサイズ(例えば、200リットルの廃棄物容器)との後に、検出器に対して如何なる距離に試料を配置すべきかが続く。更に、検出器は、スキャン範囲と直接関連する領域と同一線上に配置しなければならない。それは、通常試料の直接関連しない領域からの高いエネルギーのガンマ線に対して遮蔽することによって実現される。そのために、中性子線により活性化されて、その後測定信号を背景放射信号で汚染させることとなる大量の遮蔽材料が必要である。そのような遮蔽部が、例えば、コンクリートから構成される場合、僅かに調査すべき試料内にコンクリートを見つけ出すことだけが難しくなる可能性がある。
【0096】
本発明の別の有利な実施形態では、検出器は、試料から放出されるガンマ線の主検出器と、主検出器を少なくとも部分的に取り囲む副検出器と、主検出器と副検出器の競合防止回路手段とを備えている。試料から放出されるガンマ量子のエネルギーは、必ずしも全体が主検出器に捕捉されず、ガンマ量子は、そこで吸収されずに、コンプトン散乱するだけである。主検出器が薄くなる程、コンプトン散乱して、主検出器を再び離れて行くガンマ量子が多くなり、そのため、そのエネルギーの一部は、エネルギー測定の際に考慮されないままとなる。そこで、正にそのような流れ去るガンマ量子を記録するために、副検出器を使用する。そして、主検出器と副検出器がゲート時間内で動作する場合、競合を防止した測定では、二つの結果が主検出器でのガンマ量子のコンプトン散乱に起因することを出発点とする。そして、これらの結果は廃棄される。副検出器は、高いエネルギー分解能を持つ必要はなく、総じてガンマ量子が衝突したか否かだけを確実に記録しなければならない。即ち、それは、高いエネルギーのガンマ線に関する良好な吸収性能を持たなければならない。誤った競合結果が記録されないように、試料から放出されるガンマ線に対して、並びに中性子源からの中性子に対しても、副検出器を良好に遮蔽しなければならない。
【0097】
試料に対する小さい立体角は、同時に試料内の元素を定量化する際の誤差を間接的に低減させる。試料内に存在する元素の総量を光電ピーク以下の面積によって計算する場合、試料に渡っての元素の分布を有効光電ピークに導入する。軸の周りに試料を回転させることによって、試料内の半径方向の分布を計測できるが、回転軸に沿って軸方向の分布は、未知であり、不確定性を残すこととなる。検出器との間隔と比べて、回転軸に沿った試料の高さが小さくなる程、そのような残る不確定性が小さくなる。
【0098】
有利には、検出器は、Liから成る中性子遮蔽体を備えている。それは、関連するエネルギー範囲における試料から放出されるガンマ線に対して充分な透過性が有ると同時に、遅い中性子を吸収し、それによって、励起されてガンマ線を放出することはない。
【0099】
有利には、検出器は、複数回反射された中性子だけが到達できるように、中性子源に対して相対的に配置される。また、特に、中性子減速材としても適しているグラファイト又はそれ以外の中性子を反射する材料を用いた場合、それらの中性子は、複数回の反射によって、同時に小さいエネルギーに減速される。そして、それらを遮蔽体で捕捉できる。速い中性子は、遮蔽体を貫通して、検出器内に放射線損傷を生じさせる。
【0100】
有利には、本装置は、試料用の回転テーブルを備えている。それは、特に、例えば、炭素繊維強化プラスチックなどの中性子の照射により活性化できないか、或いは活性化が難しい材料を介して、試料と隣接して配置される。それによって、有利には、追加の背景放射信号が防止される。
【0101】
以下において、図面に基づき本発明の対象を詳しく説明するが、それによって、本発明の対象は制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1a】本発明による装置の実施例の平面図
図1b】本発明による装置の実施例の図1aのA−A線に沿った断面図
図2】500cm(r=3.26cm/h=15cm)の一つの鉛円柱に関する、容器の中心から半径方向に14cmの位置における正規化した計数率分布のχ二乗適合度グラフ
図3】容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る、5,000cm(r=7.98cm/h=25cm)の一つの鉛円柱に関する正規化した計数率分布のχ二乗適合度グラフ
図4】容器の中心から半径方向に14cmの位置に有り、円柱間の角度間隔が45°である、500cm(r=3.26cm/h=15cm)の二つの鉛円柱に関する正規化した計数率分布のχ二乗適合度グラフ
図5】容器の中心から半径方向に14cmの位置に有り、円柱間の角度間隔が180°である、500cm(r=3.26cm/h=15cm)の二つの鉛円柱に関する正規化した計数率分布のχ二乗適合度グラフ
図6】容器の中心から半径方向に14cmの位置に有り、円柱間の角度間隔が180°である、5,000cm(r=7.98cm/h=25cm)の二つの鉛円柱に関する正規化した計数率分布のχ二乗適合度グラフ
図7】容器の中心から半径方向に14cmの位置に有り、円柱間の角度間隔が90°である、1,000cm(r1=2cm/h1=80cm;r2=14cm/h2=1.62cm)の二つの鉛円柱に関する正規化した計数率分布のχ二乗適合度グラフ
図8】容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る1,000cm(r=2cm/h=80cm)の一つの鉛円柱と容器の中心に有る5,000cm(r=7.98cm/h=25cm)の一つの鉛円柱に関する正規化した計数率分布のχ二乗適合度グラフ
【発明を実施するための形態】
【0103】
図1は、本発明による装置の実施例を図示している。部分図1aは、その平面図である。部分図1bは、その断面図であり、部分図1aに表示されたA−A線に沿った断面を図示している。試料5を収容するための回転テーブル1は、中性子反射材としての役割を果たす、壁の厚さが40cmのグラファイト製チェンバー2内に配置されている。グラファイト製チェンバー2の内部空間は、幅が80cm、長さと高さが140cmである。このグラファイト製チェンバーは、炭素繊維強化プラスチックから成るプレート2aとその上に配置されたグラファイト2bとから構成される蓋を備えている。
【0104】
グラファイト製チェンバー2内において、D−T中性子発生器3からの中性子を試料に照射できる。試料5の中心とD−T中性子発生器3の三重水素ターゲットとの間の距離は、三重水素ターゲットから等方性に放射された中性子が試料5内の至る所に充分なフラックスとして作用するように、55cmに選定されている。そのために、中性子発生器3は、グラファイト製チェンバー2の壁面内において、試料5の高さの半分の位置に配置されている(開いた幾何学的形状)。中性子発生器3とHPGe検出器4の間を直接見通せる形態ではない。
【0105】
従って、グラファイト製チェンバー2内で複数回反射されて、それにより減速された中性子だけが検出器4に到達できる。そのため、Liの遮蔽体4aを貫通して、放射線損傷を引き起こす速い中性子は、検出器に当たらない。HPGe検出器4は、同じくグラファイト製チェンバー2内において、中性子発生器3に対して90°ずれた形で試料5の高さの半分の位置に配置されている(開いた幾何学的形状)。試料5の中心と(相対的な効率が100%の)HPGe検出器4の間の距離は、試料5内の各点から等方性に放出されるガンマ線が充分な割合で検出器4の受光角内に入って検出器の信号に寄与するように、100cmに選定されている。
【0106】
中性子発生器は、パルス形態で動作する。
【0107】
以下において、試料に関する幾つかの例に基づき、本発明による方法を実施した場合に如何なる実験データが期待できるのか、並びに本発明による方法が試料内の調査すべき元素の如何なる質量mをそれぞれ最終結果として提供するのかをシミュレーションする。この質量mは、それぞれシミュレーションの仮定に基づき試料内に実際に含まれる元素の質量と比較される。
【0108】
表1には、測定により得られた分布(カウント/秒単位のZ(Eγ,θ))と、前述した簡略化した仮定の下で理論的に推定される分布(カウント/秒/コンクリート1グラム単位のR(Eγ,θ))の異なる形状のコンクリート円柱に関する角度に依存する計数率分布が示されている。これらの計数率は、それぞれ(rとhがそれぞれcm単位で与えられる)半径と長さが互いに異なる1,000cm(ρ=11.34g/cm;mref=11.34kg)の体積の円柱に対し、1,064keVのガンマ線(核種Pb−207m)のエネルギーに関して計算した。これらの円柱は、それぞれコンクリートの基質で充たされた200リットルの標準容器内において、容器の中心から半径方向に14cmの位置に埋め込まれている。それらは、容器の高さの半分の平面内、そのため、中性子源と検出器が置かれた平面内に有る。円柱の最大の長さは、高さ86cmの容器に対して80cmと決定される。円柱の最大直径は、28cmであり、容器の半径と等しい。コンクリートの密度は1.5g/cmである。
【0109】
これらの計数率分布は、調査すべき元素が試料内に存在すると仮定した半径方向の位置と関連する分布である。この仮定が変われば、新たな校正規則を計算すべきである。試料内の仮定した半径方向の位置と真の半径方向の位置の間の差が大きくなると、評価終了時に得られる、試料内の調査すべき元素の総質量mは、元素の真の総質量と大きく異なることとなる。試料内の元素の半径方向の位置は、角度に依存した計数率分布の解析によって決定できる。
【0110】
【表1】
Dは、放射挙動がそれぞれ観測している円柱と等価である球体の直径である。鉛の1,064keVでの自己吸収に関するパラメータは、a(Eγ)=0.1397;b(Eγ)=0.4098及びc(Eγ)=0.0737である。
【0111】
平均的な計数率は、
【0112】
【数23】
である。それから、
【0113】
【数24】
の等価球体の平均的な直径が得られる。
【0114】
球体の直径は、Dmin=14.25cmとDmax=20.63cmの間に有る。
【0115】
<例1>
半径3.26cmと長さ15cmの500mの一つの鉛円柱の質量を求める。この円柱は、容器の高さの半分の位置に有る平面内において、容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る。計数率は、回転角θの関数として表2に纏められている。R(Eγ,θ)は、試料内の位置(p,β)、遮蔽構造の密度ρ及び厚さd、並びに残る試料材料の密度ρの値に関して、14%の標準偏差でのχ二乗テストによって、テスト変数χの最小値を提供する。それぞれ最大値R(Eγ,θ)maxとZ(Eγ,θ)maxで正規化したR(Eγ,θ)とZ(Eγ,θ)の角度依存度の比較結果が図2に図示されている。
【0116】
この例及び別の例では、本方法を具体的に説明するために、試料が追加の遮蔽構造の無い形で充填材料としてコンクリートだけを含むことをシミュレーションの仮定の一部としている。
【0117】
【表2】
ガンマ放射がR(Eγ,θ)と同じ角度依存度を有する基準球体の直径は、D=13.00cmであり、間隔[Dmin,Dmax]の外に有る。従って、mは、それぞれ表1に示した全ての基準球体の平均値に関して、前述した計数率と自己吸収を用いた換算によって、基準質量mrefから得られる。そのため、円柱の質量は、5.39±1.79kgと決定され、それは、シミュレーションの仮定に基づく5.67kgの「真の」値と良く一致する。
【0118】
<例2>
半径7.98cmと長さ25cmの5,000mの一つの鉛円柱の質量を求める。この円柱は、容器の高さの半分の位置に有る平面内において、容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る。計数率は、回転角θの関数として、表3に纏められている。正規化した計数率分布のχ二乗適合度が図3に図示されている。それ以外の設定は、例1と同じである。
【0119】
【表3】
基準球体の直径は、D=32.19cmであり、間隔[Dmin,Dmax]の外に有る。計数率と自己吸収を用いた基準質量の換算によって、円柱の質量mが52±18kgと決定される。それは、シミュレーションの仮定に基づく56.7kgの「真の」値と良く一致する。
【0120】
<例3>
半径3.26cmと長さ15cmの500mの二つの鉛円柱の質量を求める。これらの円柱は、容器の高さの半分の位置に有る平面内において、容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る。この平面内における二つの円柱の互いの角度位置は、45°である。それ以外の設定は、例1と同じである。計数率は、回転角θの関数として、表4に纏められている。正規化した計数率分布のχ二乗適合度が図4に図示されている。
【0121】
【表4】
基準球体の直径は、D=12.63cmであり、間隔[Dmin,Dmax]の外に有る。計数率と自己吸収を用いた基準質量の換算によって計算した円柱の総質量が10.0±3.2kgとなり、シミュレーションの仮定に基づく11.34kgの「真の」値と良く一致する。
【0122】
<例4>
半径3.26cmと長さ15cmの500mの二つの鉛円柱の質量を求める。これらの円柱は、容器の高さの半分の位置に有る平面内において、容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る。この平面内における二つの円柱は、正確に向き合っている(角度間隔180°)。それ以外の設定は、例1と同じである。計数率は、回転角θの関数として、表5に纏められている。正規化した計数率分布のχ二乗適合度が図5に図示されている。
【0123】
【表5】
基準球体の直径は、D=13.01cmであり、間隔[Dmin,Dmax]の外に有る。計数率と自己吸収を用いた基準質量の換算によって計算した円柱の総質量が10.7±3.4kgとなり、シミュレーションの仮定に基づく11.34kgの「真の」値と良く一致する。
【0124】
<例5>
半径7.97cmと長さ25cmの5,000mの二つの鉛円柱の質量を求める。これらの円柱は、容器の高さの半分の位置に有る平面内において、容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る。この平面内における二つの円柱は、正確に向き合っている(角度間隔180°)。それ以外の設定は、例1と同じである。計数率は、回転角θの関数として、表6に纏められている。正規化した計数率分布のχ二乗適合度が図6に図示されている。
【0125】
【表6】
基準球体の直径は、D=32.20cmであり、間隔[Dmin,Dmax]の外に有る。計数率と自己吸収を用いた基準質量の換算によって計算した円柱の総質量が103±34kgとなり、シミュレーションの仮定に基づく113.4kgの「真の」値と良く一致する。
【0126】
<例6>
半径2cmと長さ80cmの1,000mの一つの鉛円柱と半径14cmと長さ1.62cmの1,000mの一つの鉛円柱の総質量を求める。これらの円柱は、容器の高さの半分の位置に有る平面内において、容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る。これらの二つの円柱間の角度間隔は、90°である。それ以外の設定は、例1と同じである。計数率は、回転角θの関数として、表7に纏められている。1点活性度(1P)と2点活性度(2P)を考慮した、正規化した計数率分布のχ二乗適合度が図7に図示されている。
【0127】
1点活性度とは、放出されるガンマ線のシミュレーションにおいて、試料内に有る二つの放射源の中の一つだけが考慮されることを意味する。2点活性度とは、二つの放射源を考慮することを意味する。
【0128】
【表7】
1点活性度による正規化した計数率分布の解析から得られた基準球体の直径は、D=25.31cmであり、間隔[Dmin,Dmax]の外に有る。計数率と自己吸収を用いた基準質量の換算によって計算した円柱の総質量が28.5±13.1kgとなり、目標値22.7kgよりも25%大きい。ここで、ガンマ線を放出する一つの封入物だけによる試料の近似がここで提示した二分割された試料に関して不正確すぎて役に立たないことが分かった。
【0129】
2点活性度による正規化した計数率分布の解析から得られた基準球体の直径は、D=17.89cmであり、間隔[Dmin,Dmax]内に有る。円柱の総質量は、基準質量の二倍で、22.7±6.7kgである。そのため、この試料に関するモデルの精度は、調査すべき元素をより正確に定量化する形で算出できる。
【0130】
例7では、試料内の調査すべき元素の半径方向の位置がこれまでの例と比べて変化しているので、新たな校正規則を設定した。表8では、表1と同様に、容器の中心から半径方向に8cmの位置に有る、コンクリートの基質内の半径と長さ(r,h)が異なる1,000cmの鉛円柱(ρ=11.34g/cm;m=11.34kg)に関して、1.064keV(核種Pb−207m)における角度に依存した計数率が、回転角θの関数としてプロットされている。これらの円柱は、容器の高さの半分の位置に有る平面内に有る。円柱の最大の長さは、高さ86cmの容器に対して、80cmと決定される。円柱の最大直径は、28cmであり、容器の半径と同じである。コンクリートの密度は、1.5g/cmである。
【0131】
【表8】
Dは、放射挙動がそれぞれ観測している円柱と等価である球体の直径である。鉛の1,064keVでの自己吸収に関するパラメータは、a(Eγ)=0.1397;b(Eγ)=0.4098及びc(Eγ)=0.0737である。
【0132】
平均的な計数率は、
【0133】
【数25】
である。それから、16.87cmの等価球体の平均的な直径
【0134】
【数26】
が得られる。その直径は、Dmin=13.80cmとDmax=19.95cmの間に有る。
【0135】
<例7>
容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る半径2cmと長さ80cmの1,000mの一つの鉛円柱と容器の中心に有る半径7.98cmと長さ25cmの5,000mの一つの鉛円柱の総質量を求める。これらの円柱は、容器の高さの半分の位置に有る平面内において、容器の中心から半径方向に14cmの位置に有る。それ以外の設定は、例1と同じである。計数率は、回転角θの関数として表9に纏められている。1点活性度を考慮して正規化した計数率分布のχ二乗適合度が図8に図示されている。最良のχ二乗値は、8cmの平均的な半径方向の位置に関して得られた。
【0136】
【表9】
1点活性度による正規化した計数率分布の解析から得られた基準球体の直径は、D=36.37cmであり、間隔[Dmin,Dmax]の外に有る。式17により計算した円柱の総質量が、77±28kgとなり、目標値68kgよりも13%大きい。そのため、例7で仮定した試料は、遮蔽された個々のガンマ線源よりも比較的良く近似できている。それは、中性子の照射によって励起されてガンマ線を放出する調査すべき元素の大部分が容器の中心に有ることから生じている。ここで、容器を回転させた場合、それは計数率の角度依存度に何ら寄与しない。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8