特許第5797271号(P5797271)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797271ハイブリッド電気自動車の電源制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797271
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ハイブリッド電気自動車の電源制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/26 20060101AFI20151001BHJP
   B60W 20/00 20060101ALI20151001BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20151001BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20151001BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20151001BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20151001BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20151001BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B60K6/20 330
   B60K6/20 310
   B60K6/20 370
   B60K6/48ZHV
   B60L11/14
   B60L11/18 A
   F02D29/02 321A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-534740(P2013-534740)
(86)(22)【出願日】2012年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2012074037
(87)【国際公開番号】WO2013042717
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2014年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-205824(P2011-205824)
(32)【優先日】2011年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】木内 達雄
【審査官】 小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−246050(JP,A)
【文献】 特開2003−070103(JP,A)
【文献】 特開2004−210110(JP,A)
【文献】 特開2000−115909(JP,A)
【文献】 特開2003−260960(JP,A)
【文献】 特開2005−020854(JP,A)
【文献】 特開2000−134702(JP,A)
【文献】 特開2008−007003(JP,A)
【文献】 特開2008−168754(JP,A)
【文献】 特開2010−179804(JP,A)
【文献】 特開2010−226776(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/099116(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 −50/08
B60L 11/02 −11/18
B60T 7/12 − 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源としてエンジン及び電動機を備えるハイブリッド電気自動車の電源制御装置であって、
前記電動機に電力を供給する高電圧バッテリと、
前記高電圧バッテリよりも電圧が低く、前記エンジンの始動に要する電力を供給する低電圧バッテリと、
前記高電圧バッテリの電圧を降圧して低電圧バッテリに供給可能な電圧変換手段と、
前記車両が前記エンジンを停止させた停車状態にあるときに、前記低電圧バッテリから供給される電力を用いて、前記車両のブレーキ力を保持するブレーキ力保持手段と、
前記低電圧バッテリの電圧状態を検出する低電圧バッテリ状態検出手段と、
前記エンジンの始動時であり且つ前記ブレーキ力保持手段により前記ブレーキ力を保持している際に、前記低電圧バッテリ状態検出手段により検出される前記低電圧バッテリの電圧が所定電圧より小である場合に、前記電圧変換手段を介して前記高電圧バッテリの電力を前記低電圧バッテリに供給する電圧調整制御手段と、
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の電源制御装置。
【請求項2】
前記所定電圧は、前記ブレーキ力保持手段を作動させるのに必要な所定電圧であることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド電気自動車の電源制御装置。
【請求項3】
所定の停止条件成立時に前記エンジンを自動停止させ停車状態とし、その後所定の始動条件成立時に前記エンジンを始動させるエンジン自動停止再始動制御手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のハイブリッド電気自動車の電源制御装置。
【請求項4】
車両の駆動源としてエンジン及び電動機を備えるハイブリッド電気自動車の電源制御方法であって、前記ハイブリッド電気自動車は、
前記電動機に電力を供給する高電圧バッテリと、
前記高電圧バッテリよりも電圧が低く、前記エンジンの始動に要する電力を供給する低電圧バッテリと、
前記高電圧バッテリの電圧を降圧して低電圧バッテリに供給可能な電圧変換を行うDC−DCコンバータと、
前記車両が前記エンジンを停止させた停車状態にあるときに、前記低電圧バッテリから供給される電力を用いて、前記車両のブレーキ力を保持するブレーキ力保持電磁弁とを備え、
該方法は、
前記低電圧バッテリの電圧を検出するステップと、
前記エンジンの始動時であり且つ前記ブレーキ力保持電磁弁により前記ブレーキ力を保持している際に、検出される前記低電圧バッテリの電圧が前記ブレーキ力保持電磁弁を作動させるのに必要な所定電圧より小となる場合に、前記DC−DCコンバータを介して前記高電圧バッテリの電力を前記低電圧バッテリに供給するステップと、
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の電源制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としてエンジンと電動機を備えるハイブリッド電気自動車のハイブリッド電気自動車の電源制御装置および制御方法に係り、詳しくはブレーキ力保持手段への電源供給技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、坂道での停車及び発進時に車両が後退しないよう坂道発進を補助する坂道発進補助装置を備えた車両が開発されている。一般的に、坂道発進補助装置とは、ブレーキ配管に電磁弁等のブレーキ力保持手段が設けられている。車両停止時には当該電磁弁を作動させることでブレーキ力(ブレーキ液圧やブレーキエア圧など)を保持し、発進時の適切なタイミングで電磁弁を開放してブレーキ力の保持を解除するものである。
【0003】
また、駐停車や信号待ちの間にエンジンを自動的に停止させ、発進時に自動的に再始動させることで、燃費や排ガス性能を向上させるいわゆるアイドルストップ・オートスタート(自動停止再始動)技術も開発されている。特に近年は、シフト位置がDレンジにある状態のままエンジンを自動的に停止及び再始動する自動停止再始動制御もある。
【0004】
このような自動停止再始動制御を行う車両において、エンジン再始動時に坂道発進補助装置によるブレーキ力が各車輪一斉に解除されないように、少なくとも2組の車輪のブレーキ力解除時期を異ならせる技術が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−260960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、エンジンの始動はスタータによりエンジンをクランキングすることで行われ、上記特許文献1のような自動停止再始動制御におけるエンジン再始動においても同様である。
しかし、上記特許文献1の車両を含め、一般の車両では12Vバッテリの電力を用いてスタータ及び坂道発進補助装置の電磁弁を作動させるが、エンジン始動時にはスタータにその大部分の電力が用いられ、坂道発進補助装置においてブレーキ力を保持している電磁弁への供給電力が一時的に低下して、当該電磁弁が誤解除されるという問題がある。
【0007】
例えば、上記特許文献1のように2組の車輪のブレーキ力解除時期を異ならせるとしても、誤解除により適切なタイミングより早くブレーキ力が開放されれば、坂道での車両の後退を招くおそれがある。
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ブレーキ力保持手段の誤解除を防止し、車両の後退を防ぐことのできるハイブリッド電気自動車の電源制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明のハイブリッド電気自動車の電源制御装置では、車両の駆動源としてエンジン及び電動機を備えるハイブリッド電気自動車の電源制御装置であって、前記電動機に電力を供給する高電圧バッテリと、前記高電圧バッテリよりも電圧が低く、前記エンジンの始動に要する電力を供給する低電圧バッテリと、前記高電圧バッテリの電圧を降圧して低電圧バッテリに供給可能な電圧変換手段と、前記車両が前記エンジンを停止させた停車状態にあるときに、前記低電圧バッテリから供給される電力を用いて、前記車両のブレーキ力を保持するブレーキ力保持手段と、前記低電圧バッテリの電圧状態を検出する低電圧バッテリ状態検出手段と、前記エンジンの始動時であり且つ前記ブレーキ力保持手段により前記ブレーキ力を保持している際に、前記低電圧バッテリ状態検出手段により検出される前記低電圧バッテリの電圧が所定電圧より小である場合に、前記電圧変換手段を介して前記高電圧バッテリの電力を前記低電圧バッテリに供給する電圧調整制御手段と、を備えたことを特徴としている。
また、本発明のハイブリッド電気自動車の電源制御方法では、車両の駆動源としてエンジン及び電動機を備えるハイブリッド電気自動車の電源制御方法であって、前記ハイブリッド電気自動車は、前記電動機に電力を供給する高電圧バッテリと、前記高電圧バッテリよりも電圧が低く、前記エンジンの始動に要する電力を供給する低電圧バッテリと、前記高電圧バッテリの電圧を降圧して低電圧バッテリに供給可能な電圧変換を行うDC−DCコンバータと、前記車両が前記エンジンを停止させた停車状態にあるときに、前記低電圧バッテリから供給される電力を用いて、前記車両のブレーキ力を保持するブレーキ力保持電磁弁とを備え、該方法は、前記低電圧バッテリの電圧を検出するステップと、前記エンジンの始動時であり且つ前記ブレーキ力保持電磁弁により前記ブレーキ力を保持している際に、検出される前記低電圧バッテリの電圧が当該ブレーキ力保持手電磁弁を作動させるのに必要な所定電圧より小となる場合に、前記DC−DCコンバータを介して前記高電圧バッテリの電力を前記低電圧バッテリに供給するステップと、を備えたことを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明のハイブリッド電気自動車の電源制御装置では、所定の停止条件成立時に前記エンジンを自動停止させ停車状態とし、その後所定の始動条件成立時に前記エンジンを始動させるエンジン自動停止再始動制御手段を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記手段を用いる本発明のハイブリッド電気自動車の電源制御装置によれば、エンジンの始動時であって、坂道発進補助等のためにブレーキ力保持手段により、ブレーキ力を保持している際に、当該ブレーキ力保持手段の作動電源である低電圧バッテリの電圧が所定電圧、特に当該ブレーキ力保持手段を作動させるのに必要な所定電圧より小となる場合には、電圧調整制御手段が前記電圧変換手段を介して高電圧バッテリの電力を前記低電圧バッテリに供給する。
また、本発明のハイブリッド電気自動車の電源制御方法によれば、エンジンの始動時であって、坂道発進補助等のためにブレーキ力保持電磁弁により、ブレーキ力を保持している際に、当該ブレーキ力保持電磁弁の作動電源である低電圧バッテリの電圧が当該ブレーキ力保持電磁弁を作動させるのに必要な所定電圧より小となる場合には、前記DC−DCコンバータを介して高電圧バッテリの電力を前記低電圧バッテリに供給する。
【0011】
これにより、低電圧バッテリの電圧を安定し、低電圧バッテリの電圧降下によるブレーキ力保持手段の誤解除を防止することができ、適切なタイミングでブレーキ力保持を解除できるため確実な坂道発進補助を行うことができる。
こうして、ブレーキ力保持手段の誤解除を防止し、確実に車両の後退を防ぐことができる。
【0012】
さらなる本発明のハイブリッド電気自動車の電源制御装置によれば、エンジン自動停止再始動制御におけるエンジンの始動時において、低電圧バッテリの電力を用いてエンジンの始動が行われるために比較的大きな電圧降下が生じるのに対して、電圧調整制御手段が前記電圧変換手段を介して高電圧バッテリの電力を前記低電圧バッテリに供給する。
【0013】
これにより、エンジン自動停止再始動制御によるエンジン始動時においても、ブレーキ力保持手段の誤解除を防止し、確実に車両の後退を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態におけるハイブリッド電気自動車の電源制御装置の概略構成を示したブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係るハイブリッド電気自動車の電源制御装置のISS ECUが実行する電源制御ルーチンを表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態におけるハイブリッド電気自動車の電源制御装置の概略構成を示したブロック図であり、同図に基づき説明する。
図1に示す車両1はハイブリッド電気自動車であり、駆動源であるエンジン2及び電動機4がクラッチユニット6を介して変速機8に接続された構成の駆動装置を備えている。車両1は、これらのエンジン2や電動機4からの駆動力をクラッチユニット6及び変速機8を経て左右の駆動輪10、10(例えば後輪)に伝達することにより走行を行うものである。
【0016】
詳しくは、エンジン2が出力する回転駆動力(以下、単に駆動力という)は入力軸12を介してクラッチユニット6に入力され、クラッチユニット6内で2系統に分岐される。クラッチユニット6は第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bの2つのクラッチを有しており、クラッチユニット6内で2系統に分岐されたエンジン2の駆動力の一方は第1クラッチ6aの入力側に伝達され、他方は第2クラッチ6bの入力側に伝達されるようになっている。なお、図1では簡略化してブロック図として示しているが、具体的な構成としては、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bは、エンジン2の回転により駆動するポンプ6cより供給される油圧に応じて断接可能な湿式多板クラッチである。また、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bは同軸上にて、第1クラッチ6aは内側、第2クラッチ6bは外側に配設されて構成されている。
【0017】
変速機ユニット8は、第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bに対応して、第1変速機構8a(図1のG1)及び第2変速機構8b(図1のG2)の2系統の変速機構を備えている。第1クラッチ6aに対応している第1変速機構8aは、前進用の変速段として第1速、第3速、及び第5速の各変速段を有している。第2クラッチ6bに対応している第2変速機構8bは、前進用の変速段として第2速、第4速、及び第6速の各変速段を有している。即ち、第1クラッチ6aの出力側は第1変速機構8aの入力軸に連結され、第2クラッチ6bの出力側は第2変速機構8bの入力軸に連結されている。
【0018】
そして、第1変速機構8aから出力される駆動力、及び第2変速機構8bから出力される駆動力は、いずれもこの共通の出力軸14を介してデファレンシャル装置16に伝達され、左右の駆動輪10、10に割り振られるようになっている。このようにクラッチユニット6及び変速機ユニット8により、いわゆるデュアルクラッチ式変速機が構成されている。
【0019】
電動機4は、第2クラッチ6bと第2変速機構8bとの間に介装されている。具体的には、図示しないが、電動機4は第2クラッチ6bの出力軸の外周に配設されている。より詳しくは、電動機4のロータが第2クラッチ6bの出力軸の外周に固定され、電動機4のステータがクラッチ6のケーシングに固定されている。つまり、第2クラッチ6bが電動機4の回転軸を兼用しており、第2クラッチ6bと共にロータがステータの内側で回転し、ロータとステータとの間に発生した磁界による駆動トルクや回生トルクが第2クラッチ6bを介して第2変速機構8bに入力されるようになっている。
【0020】
電動機4には、車両1に搭載されたHEV(ハイブリッド電気自動車)用の高電圧バッテリ20が接続されている。当該高電圧バッテリ20は、比較的高電圧(例えば270V)なリチウムイオンバッテリである。当該高電圧バッテリ20は、図示しないインバータを介して、モータ4に電力を供給することで当該モータ4に駆動トルクを発生させたり、モータ4の回生により発生した電力を蓄電するものである。
【0021】
また、高電圧バッテリ20は、DC−DCコンバータ22(電圧変換手段)を介して車両1に搭載された低電圧バッテリ24と接続されている。
低電圧バッテリ24は、高電圧バッテリ20より低い例えば12Vの電圧の鉛蓄電池である。DC−DCコンバータ22は高電圧バッテリ20からの高電圧(270V)な電力を、低電圧バッテリ24に対応した低電圧(12V)に降圧して当該低電圧バッテリ24に供給するものである。
【0022】
低電圧バッテリ24は、エンジン2に設けられているオルタネータ26及びスタータ28と電気的に接続されている。オルタネータ26はエンジン2の駆動力により発電を行うものであり、発電された電力は低電圧バッテリ24に蓄電可能である。スタータ28は低電圧バッテリ24からの電力供給を受けて停止状態のエンジン2を始動させるものである。
【0023】
低電圧バッテリ24は、その他図示しないヘッドランプ等の各種補機や、各種ECU(電子コントロールユニット)等の制御ユニットの電源として電気的に接続されている。
例えば、当該低電圧バッテリ24は、エンジン自動停止再始動制御を行うISS(アイドルストップ・スタート)ECU30(電圧調整制御手段、エンジン自動停止再始動制御手段)に電力供給可能に接続されている。
【0024】
当該ISS ECU30は、エンジン2、DC−DCコンバータ22、高電圧バッテリ20のSOC(State Of Charge)や電圧等を検出する高電圧バッテリ状態検出部20a、及び低電圧バッテリ24のSOCや電圧等を検出する低電圧バッテリ状態検出部24a(低電圧バッテリ状態検出手段)、図示しないシフト位置センサ、ブレーキペダル開度センサ等と接続されており、これらの各種デバイスからの情報を取得したり、制御することが可能である。当該ISS ECU30が行うエンジン自動停止再始動制御は、車両1の運転状態を監視し、所定の停止条件が成立した際にはエンジン2を停止させ(いわゆるアイドルストップ)、その後所定の始動条件が成立した際には、エンジン2を再始動させる。
【0025】
具体的な停止条件としては、例えばシフト位置がDレンジであり、車速が0であり、ブレーキペダルの踏込があり、高電圧バッテリ20のSOCが所定値以上であること等であり、当該停止条件が成立した際には、ISS ECU30はエンジン2における燃料供給を停止させる。
一方、始動条件としては、例えば停止条件が満たされなくなったこと、つまり、ブレーキペダルの踏込がなくなったことや、高電圧バッテリ20のSOCが所定値より小となった場合等であり、当該始動条件が成立した際には、ISS ECU30はスタータ28を作動させてエンジン2を再始動する。
【0026】
また、ISS ECU30は、エンジン2の自動停止から再始動する際に、ブレーキ力が抜けて車両1が後退するのを防止するための坂道発進補助制御も行う。各車輪10のブレーキ配管には、ブレーキ力を保持可能なブレーキ力保持電磁弁32、32(ブレーキ力保持手段)が設けられており、ISS ECU30は各ブレーキ力保持電磁弁32、32に低電圧バッテリ24の電力を供給可能に接続されている。当該ブレーキ力保持電磁弁32は、電力供給を受けることで閉弁してブレーキ力(ブレーキ液圧やブレーキエア圧など)を保持し、電力供給が停止すると開弁してブレーキ力の保持を解除するものである。
【0027】
ISS ECU30は坂道発進補助制御として、エンジン2を自動停止させた時点から、低電圧バッテリ24より各ブレーキ力保持電磁弁32への電力供給を開始させ、エンジン2を再始動させた所定時期に各ブレーキ力保持電磁弁32への電力供給を停止してブレーキ力の保持を解除する。
このエンジン2の自動停止時から再始動時における電源の状態について、以下詳しく説明する。
【0028】
図2を参照すると、ISS ECU30が実行する電源制御ルーチンを表したフローチャートが示されており、以下同フローチャートに沿って説明する。同フローチャートは、ISS ECU30が、エンジン2を自動停止させた時点、即ちブレーキ力保持電磁弁32への電力を供給してブレーキ力を保持した時からスタートする。
【0029】
ISS ECU30は、ステップS1として、低電圧バッテリ状態検出部24aより低電圧バッテリ24の電圧を検出し、当該電圧がブレーキ力保持電磁弁を作動させるのに最低限必要な所定電圧より小であるか否かを判別する。当該判別結果が偽(No)である場合はステップS2に進む。
ステップS2では、ISS ECU30はエンジン2の再始動を行うか否か、即ち、エンジン2の始動条件が成立しているか否かを判別する。当該判別結果が偽(No)である場合はステップS3に進む。
【0030】
ステップS3は、即ち低電圧バッテリ24の電圧が所定電圧以上であり、且つエンジン2の停止を維持する場合であり、ISS ECU30は、DC−DCコンバータ22を使用せず、低電圧バッテリ24のみの電力を用いてブレーキ力保持電磁弁32への電力供給を行い、当該ルーチンをリターンする。
一方、上記ステップS1の判定結果が真(Yes)である場合、またはステップS2の判定結果が真(Yes)である場合は、即ち低電圧バッテリ24の電圧が所定電圧より小であるか、またはエンジン再始動時である場合は、ステップS4に進む。
【0031】
ステップS4では、ISS ECU30は、DC−DCコンバータ22を使用して、高電圧バッテリ20の電圧を降圧して低電圧バッテリ24へと供給し、当該ルーチンを抜ける。つまり、低電圧バッテリ24の電圧を確保しつつ、エンジン2の再始動及びブレーキ力保持電磁弁32への電力供給を行う。
以上のように、ISS ECU30は、坂道発進補助のためにブレーキ力保持電磁弁32によりブレーキ力を保持している際に、当該ブレーキ力保持電磁弁32の作動電源である低電圧バッテリ24の電圧が所定電圧より小となる場合には、DC−DCコンバータ22を介して高電圧バッテリ20の電力を低電圧バッテリ24に供給する。
【0032】
また、ISS ECU30は、自動停止再始動制御におけるエンジン2の始動時において、低電圧バッテリ24の電力を用いてスタータ28を作動しエンジン2の始動を行なうために比較的大きな電圧降下が生じるのに対して、DC−DCコンバータ22を介して高電圧バッテリ20の電力を低電圧バッテリ24に供給する。
【0033】
このように、何らかの原因で低電圧バッテリ24の電圧が低下したときや、低電圧バッテリ24の電圧が低下しやすい自動停止再始動制御におけるエンジン2の始動時に、DC−DCコンバータ22を用いて低電圧バッテリ24の電圧を安定させることで、ブレーキ力保持電磁弁32の誤解除を防止することができる。これにより、適切なタイミングでブレーキ力保持を解除でき、確実に車両1の後退を防ぐことができる。
【0034】
なお、上記ステップS4を経て、エンジン2が再始動し、予定していた適切なタイミングでブレーキ力保持電磁弁32を開弁した後、電動機4の駆動力によって車両1を発進させる場合には、クラッチユニット6の第1クラッチ6a及び第2クラッチ6bはそれぞれ切断状態とし、DC−DCコンバータ22による高電圧バッテリ20から低電圧バッテリ24への電力供給は停止する。これにより、ブレーキ力保持解除後、車両1を発進させるための駆動力として直ちに高電圧バッテリ20の全電力を利用することができ、坂道等においても円滑な発進を行うことができる。
【0035】
以上で本発明に係るハイブリッド電気自動車の電源制御装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
上記実施形態では、ISSE CU30が電圧調整制御手段として、DC−DCコンバータ22の使用及び不使用を決定しているが、電圧調整制御手段はISS ECUに限られるものではない。例えばDC−DCコンバータ自体が電圧調整制御手段を兼ねており、低電圧バッテリ24の電圧が所定電圧より小、またはエンジン2の再始動時であることを判別して、高電圧バッテリ20から低電圧バッテリ24への電力供給を行う構成としても構わない。
【0036】
また、上記実施形態の車両1の駆動装置は、クラッチユニット6及び変速機ユニット8がデュアルクラッチ式変速機を構成しているが、駆動装置はこれに限られるものではない。
また、上記実施形態では、低電圧バッテリ24として12Vの鉛蓄電池を用いているが、低電圧バッテリは高電圧バッテリよりも低い電圧なものであればよく、電圧やバッテリの型式はこれに限られるものではない。例えば、低電圧バッテリとして24Vの鉛蓄電池を搭載している車両においても本発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 車両
2 エンジン
4 電動機
6 クラッチユニット
8 変速機ユニット
8a 第1変速機構
8b 第2変速機構
20 高電圧バッテリ
20a 高電圧バッテリ状態検出部
22 DC−DCコンバータ(電圧変換手段)
24 低電圧バッテリ
24a 低電圧バッテリ状態検出部(低電圧バッテリ状態検出手段)
26 オルタネータ
28 スタータ
30 ISS ECU(電圧調整制御手段、エンジン自動停止再始動制御手段)
32 ブレーキ力保持電磁弁(ブレーキ力保持手段)
S1 低電圧バッテリ<所定電圧?
S2 エンジン再始動?
S3 DC−DCコンバータ不使用(低電圧バッテリのみ使用)
S4 DC−DCコンバータ使用(高電圧バッテリ->低電圧バッテリ)
図1
図2