特許第5797280号(P5797280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797280高光学純度の乳酸生産用形質転換体およびそれを利用した乳酸生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797280
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】高光学純度の乳酸生産用形質転換体およびそれを利用した乳酸生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20151001BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20151001BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12N15/00 A
   C12P7/56
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-555345(P2013-555345)
(86)(22)【出願日】2011年2月23日
(65)【公表番号】特表2014-506477(P2014-506477A)
(43)【公表日】2014年3月17日
(86)【国際出願番号】KR2011001240
(87)【国際公開番号】WO2012115290
(87)【国際公開日】20120830
【審査請求日】2013年8月23日
【微生物の受託番号】KCTC  11803BP
(73)【特許権者】
【識別番号】503137827
【氏名又は名称】マクロジェン・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジェ−ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】サン−フム・シン
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン−ヨン・チョン
(72)【発明者】
【氏名】カプ−ソク・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン−スン・セオ
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−513632(JP,A)
【文献】 特開2010−158170(JP,A)
【文献】 特許第4395132(JP,B2)
【文献】 国際公開第2010/140602(WO,A1)
【文献】 Journal of Bioscience and Bioengineering, 2006, Vol.101, No.2, p.172-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−1/38
C12N 15/00−15/90
C12P 7/00−7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコノストック(Leuconostoc)属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子が導入されたザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)形質転換体。
【請求項2】
前記D−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子は、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:8のアミノ酸配列で表されるペプチドをコーディングする遺伝子である、請求項1に記載の形質転換体。
【請求項3】
前記D−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:5、またはSEQ ID NO:7の塩基配列で表される、請求項1または2に記載の形質転換体。
【請求項4】
前記形質転換体は、寄託番号KCTC 11803BPである、請求項1から3のいずれか一項に記載の形質転換体。
【請求項5】
ザイモモナス・モビリス菌株を準備する段階と、
前記ザイモモナス・モビリス菌株にロイコノストック属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子を導入する段階とを含む
ザイモモナス・モビリス形質転換体製造方法。
【請求項6】
前記ザイモモナス・モビリス形質転換体は、請求項1から4のいずれか一項によるザイモモナス・モビリス形質転換体である、請求項5に記載のザイモモナス・モビリス形質転換体の製造方法。
【請求項7】
前記導入は、接合、電気穿孔法、および遺伝子銃方法からなる群より選ばれた方法で行う、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
ロイコノストック属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子をザイモモナス・モビリス菌株に導入してザイモモナス・モビリス形質転換体を製造する段階と、
前記製造されたザイモモナス・モビリス形質転換体を培養する段階とを含む
乳酸生産方法。
【請求項9】
前記ザイモモナス・モビリス形質転換体は、請求項1から4のいずれか一項によるザイモモナス・モビリス形質転換体である、請求項8に記載の乳酸生産方法。
【請求項10】
前記培養は、pH3.0からpH7.0の条件下で行う、請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用した乳酸の生物学的な生産方法に関するものであって、簡便且つ経済的な方法で高光学純度の乳酸を高収率で生産することができる形質転換体、その製造方法およびそれを利用した乳酸生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)は、商業的に生産されるバイオプラスチック(bio−plastic)の原料であって、ラクチド(lactide)の縮合重合(condensation)によって生成される脂肪族ポリエステル(polyester)である。PLAは、電子製品包装材、ミネラルウォーター瓶、自動車内装材、事務用家具、エンジニアリングプラスチック、繊維分野などのような非常に重要な用途を有しており、未来の代表的な生分解性バイオプラスチックとして脚光を浴びている。特に、近来の全世界的に活発に展開されている「地球環境保護運動」と共に地球温暖化、気候変化に対する環境親和的な次世代の代替繊維素材の必要性が台頭することに伴って、天然的に再利用が可能であり、汚染物質を排出せず、合成繊維と類似する物理化学的性質および機械的性質を有しながら生分解が可能なPLA生分解性繊維は無限の潜在力を有していると見ることができる。このような潜在力があるにもかかわらず、生分解性繊維はまだ一般の合成繊維に比べて5〜10倍程度生産単価が高く、大量生産に困難が多いだけでなく、特性による用途開発が行われていないため、その実用化が微々たる実情である。
【0003】
乳酸(lactic acid/lactate)は、医薬品(medicine)、食品(food and food processing)、化粧品(cosmetics)、化学製品(chemical substances)等の多様な分野の実用可能な原料物質(commodity chemical)として広く知られてきた。最近は生分解性高分子(biodegradable polymer)であるポリ乳酸(polylactic acid、PLA)の原料としても注目を浴びつつあり、使用量の急激な増加傾向と共に関連技術開発が活発が行われている。
【0004】
乳酸は、生物体内で炭水化物が酸化されたピルビン酸(pyruvate)の還元でlactate dehydrogenase酵素により生産される。乳酸は、L−(+)−Lactic acidとD−(−)−lactic acidの光学異性体(enantiomer)を有する特性を有しており、化学合成方法によって生産されてきたが、最近は微生物を利用した生物学的な生産方法への転換技術を通じて直接生産している。
一般に乳酸発酵生産は、(1)発酵、(2)細胞菌体および蛋白質除去、(3)乳酸分離および精製、(4)乳酸濃縮、(5)脱色の5段階で構成される。乳酸発酵生産技術は、大部分新規な乳酸生産工程の開発と持続的な改善を通じてプラント(plants)の規模と生産効率向上など生産技術と経済的な蒸発濃縮器(evaporator)とメンブレイン(membrane)技術と共に脱水工程の革新的な進歩のような優れた分離、精製技術開発を通じた分離精製費用節減と効率向上に集中されてきた。
【0005】
最近は多様なシステム分析技術と代謝工学技術を活用した温度、pH、有機酸物の生産に卓越な性能を有する一層優れた発酵微生物の開発に研究開発が集中している。しかし、現在発酵生産される乳酸は、石油から生産される乳酸に比べて高い光学選択度(optical purity)と純度の乳酸を生産するために生産単価が増加し、様々な応用分野に適した多様な品質の乳酸を経済的に生産することに限界を有している。
【0006】
乳酸発酵生産は、石油化学工程とは異なり、乳酸生産微生物に絶対的に依存的であるため、乳酸を大量で生産することができるのはもちろん、生産費用を節減することができるように高い光学純度の乳酸を生産することができる微生物を確保することが何よりも重要である。高純度光学選択度の乳酸を大量生産するためには、大量の乳酸原料が投入されなければならず、多段階の分離精製工程が必須に要求されるため、生産単価は急激に増加する。したがって、乳酸を大量で生産すると共に必須に要求される技術が高純度の光学選択度を有する乳酸生産微生物菌株を開発することである。そのためには、優れた光学選択度を有する乳酸生産遺伝子の確保と共に高い光学選択度の代謝流れを最適化できるシステム分析技術と高度な代謝工学技術が必須に要求される。
【0007】
一般に微生物の生存条件は、中温(30−37℃)と中性pH(neutral pH7.0)の条件であり、微生物は特にpHに非常に敏感であり、狭いpH範囲でのみ活発な生存性と生産性を示す特性がある。しかし、弱酸性を有する乳酸を生産する乳酸生産工程では乳酸の生産自体で酸度を低下させて酸性化する特性があるため、最適pHを維持するために、NaOH、(NH)OH、Ca(OH)のような塩基(base)または炭酸塩(CaCO)を持続的に添加することによって中性発酵pHを維持することが要求される。酸度7.0の中性pHでの乳酸は本質的に全てイオン化される。中性pHで生産された乳酸塩(lactate salt)形態の乳酸を分離および精製するために、硫酸(sulfuric acid)のような強酸を添加して乳酸塩を陽イオン化(protonation)する工程が必要である。この時、添加された硫酸1モルは2モルの乳酸を生産するようになる反面、1モルの沈殿物(sulfate precipitant、eg. CaSO)を同時に生産するようになる。
【0008】
結果的に生産された乳酸の量と同量の硫酸が必要である。これは、より多い乳酸の回収、精製のために投入されるべき硫酸の費用が持続的に増加するだけでなく、それによって生産される沈殿物の処理費用と環境的な問題を引き起こす非経済的な工程と知られている。これを改善し経済性を確保するために、高い酸度(酸性pH)でも乳酸を生産することができる乳酸生産微生物と、このような酸性条件で生成された乳酸(lactic acid)または乳酸塩(lactate salt)の沈澱廃棄物の生成なしに回収、精製することができる技術が切実に要求されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Neumann et al.、 The EMBO Joumal Vol.1 No.7 pp. 841−845、1982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、前記従来の技術の問題点を解決するために案出されたものであって、pH条件の制限や微生物内の代謝経路の調節なしにも高収率で乳酸を生産することができるだけでなく、別途の乳酸分離精製工程なしにも高い光学純度の乳酸を生産することができる形質転換体、その製造方法およびそれを利用した乳酸生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記のような課題を解決するために、本発明者らが高光学純度の乳酸を大量生産可能な乳酸生産微生物を研究している中、ロイコノストック(Leuconostoc)属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(D−lactate dehydrogenase)をコーディングする遺伝子をザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)菌株に導入することによって、別途の複雑な工程や生産条件の制約なしに簡便且つ経済的な方法でD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素活性を極大化することができ、ひいては高光学純度の乳酸生産を最大化することができることを確認して本発明を完成するように至った。
【0012】
本発明は、ロイコノストック属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子が導入されたザイモモナス・モビリス形質転換体を提供する。
【0013】
また本発明は、ザイモモナス・モビリス菌株を準備する段階と、前記ザイモモナス・モビリス菌株にロイコノストック属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子を導入する段階とを含むザイモモナス・モビリス形質転換体製造方法を提供する。
また本発明は、ロイコノストック属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子をザイモモナス・モビリス菌株に導入してザイモモナス・モビリス形質転換体を製造する段階と、
前記製造されたザイモモナス・モビリス形質転換体を培養する段階とを含む乳酸生産方法を提供する。
【0014】
また本発明は、前記乳酸生産方法によって生産された高光学純度乳酸を提供する。
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0015】
乳酸(lactate/lactic acid)は、カルボキシ基・ヒドロキシ基・メチル基・水素の4つの原子団が結合した非対称炭素原子を有する有機化合物(化学式:C)であって、D−、L−、DL−型の光学異性質体を全て含み、好ましくはD−型であり得る。
【0016】
前記乳酸の生産収率を高めるために、本発明の一実施形態は、ロイコノストック(Leuconostoc)属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子が導入されたザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)形質転換体を提供する。
【0017】
本発明はまた、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)菌株を準備する段階と、前記ザイモモナス・モビリス菌株にロイコノストック(Leuconostoc)属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子を導入する段階とを含むザイモモナス・モビリス形質転換体製造方法を提供する。
【0018】
前記ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)菌株は、アルコール発酵菌であって、細胞生長に比べて産物転換率に優れた菌株であるため、D−乳酸デヒドロゲナーゼ(D−lactate dehydrogenase)をコーディングする遺伝子を導入することに好ましい。
【0019】
前記ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)形質転換体を利用することによって、ザイモモナス・モビリス菌株の代謝経路中のある特定の代謝経路を遮断して前記特定の代謝経路で生成される一次代謝産物以外の他の一次代謝産物の生産を増加させるなどの複雑な代謝経路の調節工程がなくても非常に簡単且つ容易な工程によって乳酸生産を顕著に向上させることができる。
【0020】
本明細書における「形質転換」とは、元来の細胞が有していたものとは異なる種類の遺伝子があるDNA鎖切れまたはプラスミドが細胞らの間に浸透して元来の細胞に存在していたDNAと結合、細胞の遺伝型質が変化する分子生物学的な現象を意味する。
【0021】
特に本発明における形質転換とは、前記D−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子をザイモモナス・モビリス菌株内に導入することを意味し、「形質転換体」とは、前記遺伝子が導入されたザイモモナス・モビリス菌株を意味し、好ましくは前記SEQ ID NO:1の塩基配列で表される遺伝子(Dldh−Lmes1801/DlmesC2)が導入された寄託番号KCTC 11803BPである形質転換体である。
【0022】
前記D−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子はこれに制限されないが、好ましくはロイコノストック属菌株由来のものであり得、より好ましくはSEQ ID NO:2のアミノ酸配列で表されるペプチドまたは前記SEQ ID NO:2のアミノ酸配列とアミノ酸一致度(identity、%)が40%以上であるペプチドをコーディングする遺伝子であり得る。
【0023】
好ましくは、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:8のアミノ酸配列で表されるペプチドをコーディングする遺伝子であり得る。
【0024】
前記SEQ ID NO:2のアミノ酸配列はSEQ ID NO:1の塩基配列によって暗号化し、前記SEQ ID NO:4のアミノ酸配列はSEQ ID NO:3の塩基配列によって暗号化し、前記SEQ ID NO:6のアミノ酸配列はSEQ ID NO:5の塩基配列によって暗号化し、前記SEQ ID NO:8のアミノ酸配列はSEQ ID NO:7の塩基配列によって暗号化するものであり得る。
【0025】
したがって、前記D−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子はこれに制限されないが、SEQ ID NO:1の塩基配列で表される遺伝子または前記SEQ ID NO:1の塩基配列で表される遺伝子と塩基配列類似度(similarity、%)が85%以上である遺伝子であり得る。
【0026】
好ましくは前記遺伝子は、SEQ ID NO:1の塩基配列で表される遺伝子(Dldh−Lmes1801)、SEQ ID NO:3の塩基配列で表される遺伝子(ldhD−ATCC19254)、SEQ ID NO:5の塩基配列で表される遺伝子(ldhD1−LMG18811)、またはSEQ ID NO:7の塩基配列で表される遺伝子(D−ldh−NBRC3426)であり得る。
【0027】
前記遺伝子の導入はこれに制限されないが、好ましくは接合(conjugation)、電気穿孔法(electroporation)、および遺伝子銃方法(gene gun)からなる群より選ばれた方法を用いることができる。
【0028】
前記接合(conjugation)は、細胞間(donor cell、recipient cell)の細胞表面の接合性繊毛(conjugative pili)をよるDNA伝達機作を通じて遺伝子を導入する方法である(Lederberg and Tatum, Nature. Oct 19;158(4016):pp.558.1946)。
【0029】
前記電気穿孔法(electroporation)は、細胞に電気衝撃を与えて細胞膜に一時的に小さい孔ができるようにして細胞のDNA吸収を増加させる方法であり(Neumann et al., The EMBO Joumal Vol.1 No.7 pp. 841−845、1982;Cellular and Molecular Biology Letters, pp849−858, 2002参照)、前記遺伝子銃方法は、遺伝子を金属(タングステンまたは金)粒子にコーティングした後、高圧ガスの力で発射して遺伝子を導入する方法である(Cellular and Molecular Biology Letters, pp849−858, 2002参照)。
【0030】
前記遺伝子のザイモモナス・モビリス菌株内の導入位置は特に制限されず、導入される位置と関係なく高光学純度の乳酸を高い収率と効率で生産することができる。したがって、非常に簡単で便利なだけでなく、費用節減の効果がある。
【0031】
つまり、ザイモモナス・モビリス菌株の代謝経路と関連がない遺伝子またはその周辺地域に導入できることはもちろんであり、本発明によれば、ザイモモナス・モビリス菌株の代謝経路の調節が不要であり、代謝経路に対する影響有無とも関係がないため、代謝経路と関連した遺伝子位置に導入することも可能である。
【0032】
例えば、ザイモモナス・モビリス菌株のゲノム内、ORF ZMO270−ZMO263、ORF ZMO0087〜ZMO0089、ORF ZMO0381〜ZMO0384、ORF ZMO0390〜ZMO0394またはORF ZMO1786〜ZMO1789部位に導入することができ、または代謝経路関連遺伝子であるL−乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO0256)遺伝子、D−乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO1237)、アルコールデヒドロゲナーゼI(ZMO1236)遺伝子、またはアルコールデヒドロゲナーゼII(ZMO1596)遺伝子位置に導入することもできる。
【0033】
前記D−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子は、ザイモモナス・モビリス菌株のプロモーターと共にベクターに挿入して前記ザイモモナス・モビリス菌株内に導入させることができる。
【0034】
使用可能なベクターとしては、公知の全ての種類のベクターを含み、例えばpGMC、pZY507、pZY500、およびpZymoのようなザイモモナス・モビリス遺伝子発現ベクターだけでなく、pUC series、pBluescript series、pGEM seriesなどのような一般クローニング用ベクターであり得る。好ましくは前記ベクターは、ザイモモナス・モビリスで調節可能なプロモーターを含み、選別マーカ、コンジュゲーター(conjugator)などをさらに含むことができる。
【0035】
ザイモモナスで強力に発現するプロモーターは、通常の組み換え蛋白質の発現に使用される全ての種類のプロモーターであり得、またはザイモモナス・モビリスZM4由来のプロモーターを使用することもできる。例えばZM4由来のadhI(adhA、ZMO1236)、pdc(pdc、ZMO1360)またはadhII遺伝子(adhB、ZMO1596)のプロモーターがあり、それ以外にもザイモモナス・モビリスZM4のそれぞれの遺伝子の上流配列500bpがプロモーターとして作用が可能である。一方、大腸菌で強力に発現するtacプロモーターもまたザイモモナスで使用することができる(Zhang et al., Science. 1995. Jan 13;267(5195):pp.240−243)。
【0036】
選別マーカは、抗生剤耐性遺伝子であり得、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子などが使用され得るが、これに限定されない。
【0037】
またベクターは、宿主細胞に形質転換されてエピソーマル(episomal)状態で存在する場合、複製に必要な複製オリジン(replication origin)が要求される。複製オリジンとしては大部分のグラム(−)バクテリアで作用するOriV originがあり、前記originに作用するrepA、repB遺伝子がさらに要求され得る。
【0038】
前記ベクターは、微生物に形質導入の際、微生物の染色体に挿入(integration)されたりプラスミド形態で細胞質内に存在することができ、これはベクターの種類によって適切に調節することができる。染色体内にベクターが挿入される場合は、ベクター内にザイモモナス菌株で複製に必要な複製オリジンがない場合として、染色体内にプラスミドと相同性を有する部分がある場合、相同性がある部分に挿入(homologous recombination)されて同一の遺伝子が連続的に2copy存在(single cross over、gene integration)したり相同性部位がプラスミドの相同性部位に代替されるようになる(double cross over、gene disruption)。もし染色体内にプラスミドと相同性がある部分が存在しないならば、無作為的な挿入(Random recombination)が起こるようになる。
【0039】
また本発明は、ロイコノストック属菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子をザイモモナス・モビリス菌株に導入してザイモモナス・モビリス形質転換体を製造する段階と、前記製造されたザイモモナス・モビリス形質転換体を培養する段階とを含む乳酸生産方法を提供する。
【0040】
前記培養は、正常発酵条件であるpH5.0ではもちろん、酸性発酵条件やその他pH非調節条件でも制限なしに行うことができる。例えば、pH3.0乃至pH7.0、より具体的にはpH2.0乃至pH6.0、またはpH3.0乃至pH5.0のような酸性条件下でも乳酸の生産が可能である。
【0041】
一般に微生物の生存条件は、中温(30−37℃)と中性pH(neutral pH7.0)条件であり、微生物は特にpHに非常に敏感であり、狭いpH範囲だけで活発な生存性と生産性を示す特性があるが、弱酸性を有する乳酸を生産する乳酸生産工程では、乳酸の生産自体で酸度を低下させて酸性化する特性があるため、最適のpHを維持するために、NaOH、(NH)OH、Ca(OH)のような塩基(base)または炭酸塩(CaCO)を持続的に添加することによって中性発酵pHを維持することが要求された。しかし、本発明の乳酸生産方法は、このようなpH条件の制限なしにいかなるpH条件でも高い光学純度の乳酸を高収率で生産すること
【0042】
前記乳酸方法によって、好ましくは70%以上、高い場合は100%以上の顕著に高い生産収率で光学純度が高い優れた乳酸を大量生産することができる。
したがって、本発明は前記乳酸生産方法によって生産された高光学純度の乳酸を提供する。
【0043】
前記乳酸生産方法によって生産される乳酸は、光学純度が95%以上であり、高い場合は99%、より高い場合は99.9%以上の顕著に優れた光学純度を有することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によって、pH条件など生産条件の厳しい制限や微生物内の代謝経路の複雑な調節なしにも簡便に高光学純度の乳酸を高収率で生産することができるザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)形質転換体、その製造方法、およびそれを利用した乳酸生産方法が提供される。
前記形質転換体を利用すれば、別途の付加的な乳酸分離精製工程が不要であるため、乳酸生産段階を顕著に減少させることができて生産費用を大幅に節減することができるだけでなく、沈澱廃棄物による環境的な問題を排除することができて環境保護効果も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】SEQ ID NO:1の塩基配列で表されるD−乳酸デヒドロゲナーゼをコーディングする遺伝子の発現単位を概略的に示したものである。
図2】実施例1で製造されたpBS−del−270::263ベクターの開裂地図である。
図3】実施例1で製造されたpBS−del−270::sp−DlmesC2::263ベクターの開裂地図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を通じてより詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を予告するものに過ぎず、本発明の範囲はこれに限定されない。
【0047】
実施例1.D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(DlmesC2)が導入されたZM形質転換体の製造
【0048】
実施例1−1.プラスミドpGEM−T−DlmesC2の製造
【0049】
キムチから分離されたロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)菌株からD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコーディングするDlmesC2遺伝子(1,068bp)(SEQ ID NO:1)をPCR方法(96℃で5分間にかけて前変性(pre−denaturation);96℃で30秒、60℃で30秒、72℃で1分間にかけて総25cycles;72℃で7分間にかけて後伸張(post extension))で0.1UnitのHigh−Fidelity Platinum Taq DNA Polymerase(Roche)と以下に記載されたプライマーを用いて選択的に増幅、分離した。
【0050】
前記PCR工程で使用されたプライマーは次のとおりである。
正方向プライマー(DLmesC2F)(SEQ ID NO:9)
5−TGGAGGATCCCATGGTAAAGATTTTTGC−3
逆方向プライマー(DLmesC2R)(SEQ ID NO:10)
5−TGTTTGATTATTCCTGCAGAAACCCCTC−3
以降、pGEM−T Easy vector(Promega)にクローニングしてDlmesC2遺伝子がクローニングされたプラスミドpGEM−T−DlmesC2を製造し、塩基配列を確認した。PCR増幅とクローニングは製造会社の実験方法に従って行った。
【0051】
実施例1−2.BS−del−270::sp−DlmesC2::263ベクターの製造
【0052】
前記実施例1−1で製造されたプラスミド(pGEM−T−DlmesC2)を制限酵素NcoI(NEB)とPstI(NEB)で切断した後、ザイモモナス・モビリスアルコールデヒドロゲナーゼ(adh)II遺伝子(adhB、ZMO1596)のプロモーター部位(SEQ ID NO:11)とスペクチノマイシン耐性(spectinomycin resistant)遺伝子(spec、1,142bp)(SEQ ID NO:12)を有するpBS−sp−P1596−specベクター(マクロゼン)に同一の制限酵素シートでクローニングしてD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(DlmesC2)を含むpBS−sp−DlmesC2ベクターを得た。
【0053】
D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(DlmesC2)をザイモモナス・モビリス遺伝体に導入するために、相同性組み換え(homologous recombination)(Alberts et al., 2002. “Chapter5:DNA Replication, Repair, and Recombination”. Molecular Biology of the Cell(4th ed.). New York:Garland Science. p.845)を利用した。
【0054】
相同性組み換えに使用された遺伝子は、ザイモモナス・モビリス(ATCC 31821)の遺伝体情報から選別し、具体的にORF ZMO0263からZMO0270までの8個の反復された遺伝子ら(SEQ ID NO:13〜SEQ ID NO:20)を選別した。ORF ZMO0263からZMO0270までの反復された遺伝子らは、特定の代謝酵素をコーディングしない遺伝子らであり、全体約10kbに達する部位である。これら遺伝子らの上流相同部位の4,468bp遺伝子(SEQ ID NO:21)と下流相同部位の4,935bp遺伝子(SEQ ID NO:22)のそれぞれを実施例1と同一な実験方法を用いてそれぞれ選択的に増幅、分離した後、HindIII(NEB)、PstI(NEB)、PvuI(NEB)、ScaI(NEB)で切断した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptII vector(Stratagene)にクローニングして最終的にpBS−de−270::263ベクター(図2)を製造した。使用されたプライマーは次のとおりである。
【0055】
上流遺伝子正方向プライマー(L−270F)(SEQ ID NO:23)
5−GGAAAGTCAAGCTTATCATCTAG−3
上流遺伝子逆方向プライマー(L−270R)(SEQ ID NO:24)
5−GTGAGTTGTTAACCAATTTTATACTCCATTCATC−3
下流遺伝子正方向プライマー(R263F)(SEQ ID NO:25)
5−GACAATACAAAGTACTGATAAAGGA−3
下流遺伝子逆方向プライマー(R263R)(SEQ ID NO:26)
5−ATAAGCCTGTTAACTTAccCATCTTGTCCGACG−3
上記で製造されたpBS−sp−DlmesC2ベクターを制限酵素NotI(NEB)とPstI(NEB)で切断して、spec−DlmesC2遺伝子切片だけを回収し、T4 DNA polymerase(NEB)とT4 polynucleotide kinase酵素(NEB)処理を通じて平滑末端(blunt end)のspec−DlmesC2遺伝子切片を作製した。作製された平滑末端のspec−DlmesC2を前記製造されたpBS−del−270::263ベクターの制限酵素HpaIシートにT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)およびクローニングしてpBS−del−270::sp−DlmesC2::263ベクター(図3)を製造した。
【0056】
実施例1−3.D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(DlmesC2)が導入されたZM形質転換体の製造
【0057】
前記実施例1−2で製造されたpBS−del−270::sp−DlmesC2::263ベクターをザイモモナス・モビリスZM4菌株(ATCC 31821)に電気穿孔法(electroporation)(Neumann et al., The EMBO Joumal Vol.1 No.7 pp.841−845,1982)で形質転換し、RM培地(グルコース、20g/l;酵母抽出物(DIFCO)、10g/l;MgSO、1g/l;(NHSO、1g/l;KHPO、2g/l;agar、15g/l;pH5.0)にスペクチノマイシンを添加してpBS−del−270::sp−DlmesC2::263ベクターが形質転換された菌株を選別し、最終的にORF ZMO0263からZMO0270反復遺伝子らが相同性組み換えられ、sp−DlmesC2遺伝子が導入された形質転換体をZymomonas mobilis MG6106と命名し、2010年11月5日付で韓国生命工学研究院微生物資源センターに寄託して寄託番号KCTC 11803BPを付与された。
【0058】
実施例2.多様なD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された乳酸生産ZM菌株の製造
【0059】
ロイコノストック・クレモリス(Leuconostoc cremoris)ATCC19254、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)LMG18811、およびロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)NBRC3426菌株由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子であるldhD−ATCC19254、ldhD1−LMG18811、およびD−ldh−NBRC3426を実施例1と同様な方法と材料を用いてPCR増幅、分離した。前記多様なD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の増幅に使用されたプライマーは次のとおりである。
【0060】
[ldhD−ATCC19254遺伝子増幅プライマー]
ATCC19254F(SEQ ID NO:27)
5−CATATGAAGATTTTTGCTTACGGCATTCGT−3
ATCC19254R(SEQ ID NO:28)
5−TTAATATTCAACAGCAATAGCT−3
【0061】
[ldhD1−LMG18811遺伝子増幅プライマー]
LMG18811F(SEQ ID NO:29)
5−CATATGAAAATTTTTGCTTACGGCATACG−3
LMG18811R(SEQ ID NO:30)
5−CTGCAGTCAGTATTTAACAGCGATTGCA−3
【0062】
[D−ldh−NBRC3426遺伝子増幅プライマー]
NBRC3426F(SEQ ID NO:31)
5−CATATGAAGATTTTTGCTTACGGCATTCG−3
NBRC3426R(SEQ ID NO:32)
5−CTGCAGTTAATATTCAACAGCAATAGCT−3
【0063】
個別に増幅されたPCR産物は、制限酵素NcoI(NEB)とPstI(NEB)で切断して同一の制限酵素で切断されたpBS−sp−P1596−specベクター(マクロゼン)に同一の制限酵素シートにT4 DNA ligase酵素(NEB)でライゲーション(ligation)およびクローニングし、NBRC3426菌株のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むベクターであるpBS−sp−D−NBRC3426lベクター、LMG18811菌株のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むベクターであるpBS−sp−D−LMG18811、そしてATCC15294菌株のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むベクターであるpBS−sp−D−ATCC15294ベクターをそれぞれ作製した。
【0064】
前記ベクターらを制限酵素NotI(NEB)とPstI(NEB)で切断して、spec−D−NBRC3426l、spec−D−LMG18811、そしてspec−D−ATCC15294遺伝子切片を回収し、T4 DNA polymerase(NEB)とT4 polynucleotide kinase酵素(NEB)処理を通じて平滑末端(blunt end)の遺伝子切片それぞれを作製した。作製された平滑末端の遺伝子切片を前記実施例1で製造されたpBS−del−270::263ベクターの制限酵素HpaIシートにクローニングしてpBS−del−270::sp−D−NBRC3426l::263ベクター、pBS−del−270::sp−D−LMG18811::263ベクター、そしてpBS−del−270::sp−D−ATCC15294::263ベクターをそれぞれ製造した。
【0065】
上記で製造されたベクターらをザイモモナス・モビリスZM4菌株(ATCC 31821)に電気穿孔法(electroporation)で形質転換し、RM培地(グルコース、20g/l;酵母抽出物(DIFCO)、10g/l;MgSO、1g/l;(NHSO、1g/l;KHPO、2g/l;agar、15g/l;pH5.0)にスペクチノマイシンを添加して形質転換された菌株を選別し、最終的にORF ZMO0263からZMO0270反復遺伝子らが相同性組み換えられ、ロイコノストック・クレモリスATCC 19254菌株からD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコーディングするldhD−ATCC19254遺伝子(996bp)(SEQ ID NO:3)が導入された菌株をMG6115、ロイコノストック・メセンテロイデスLMG18811菌株からD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコーディングするldhD1−LMG18811遺伝子(996bp)(SEQ ID NO:5)が導入された菌株をMG6116、そしてロイコノストック・メセンテロイデスNBRC 3426からD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコーディングするD−ldh−NBRC3426遺伝子(996bp)(SEQ ID NO:7)が導入された菌株をMG6117とそれぞれ命名した。
【0066】
実施例3.遺伝体内の代謝経路と無関係な遺伝子または部位を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したZM菌株の製造
【0067】
D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の菌株内導入位置およびこれによる乳酸生産程度に対する影響を調べてみるために、ザイモモナス・モビリス菌株(ATCC 31821)内の代謝経路と無関係な特定の遺伝体位置に該当する遺伝子または部位を除去すると同時に、SEQ ID NO:1の塩基配列を有するDlmesC2遺伝子を導入した菌株を製造した。具体的に、ザイモモナス・モビリス遺伝体で特定酵素をコーディングせず、いかなる遺伝子情報を有していない遺伝子部位4種類を選別してそれぞれ除去すると同時に、DlmesC2遺伝子が導入された菌株を製造した。菌株製造は実施例1と同様な方法を用い、代謝経路と無関係な遺伝子のそれぞれの上流相同部位および下流相同部位約3,000bp以上を相同性組み換え部位にクローニングして用いた。
【0068】
実施例3−1.ZMO0087〜ZMO0089の3種類のORF部位を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したベクターの製造
【0069】
ZMO0087〜ZMO0089の3種類のORF(open reading frame)らを5’末端側に5’末端から上流相同部位の3,168bp(SEQ ID NO:33)と3’末端側に3’末端から下流相同部位の3,159bp(SEQ ID NO:34)をそれぞれ正方向プライマー(87F)と逆方向プライマー(89R)対を用いて実施例1と同様な方法と条件でPCR増幅し、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0070】
正方向プライマー(87F)(SEQ ID NO:35)
5−TGAAATGGCCTCTGCGATATATCGAATA−3
逆方向プライマー(89R)(SEQ ID NO:36)
5−GTAAGGGTATCGCTCCGCTCTTTATGGCGGA−3
【0071】
増幅されたPCR産物は、制限酵素NotI(NEB)で処理した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptIIベクター(Stratagene)にクローニングしてpBS−ZMO008789ベクターを作製した。
【0072】
以降、逆方向(reverse)PCR方法を応用してORF遺伝子ZMO0087〜ZMO0089らを除いてpBluescriptIIベクターを含む上流相同部位と下流相同部位だけを選択的にPCR増幅した。逆方向PCR反応に使用されたプライマーら(del 89Fおよびdel 87R)は次のとおりであり、PCR増幅反応は、実施例1と同様な方法と条件を用い、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0073】
正方向プライマー(del 89F)(SEQ ID NO:37)
5−TAACCCGTTTACCTCTATCATATAATTATA−3
逆方向プライマー(del 87R)(SEQ ID NO:38)
5−CATAAAATTCCTACAAATATGATCTTTTTA−3
【0074】
増幅されたPCR産物を制限酵素PmeI(NEB)で処理して得た遺伝子切片と実施例1のsp−DlmesC2遺伝子断片をT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)してpBS−Del 87::sp−DlmesC2::89ベクターを作製した。
【0075】
実施例3−2.ZMO0381〜ZMO0384の4種類のORF部位を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したベクターの製造
【0076】
ZMO0381〜ZMO0384の4種類のORFらを5’末端側に5’末端から上流相同部位の3,140bp(SEQ ID NO:39)と3’末端側に3’末端から下流相同部位の3,212bp(SEQ ID NO:40)をそれぞれ正方向プライマー(381F)と逆方向プライマー(384R)対を用いて実施例1と同様な方法と条件でPCR増幅し、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0077】
正方向プライマー(381F)(SEQ ID NO:41)
5−GAAGAAGCGCAGACCCTATCTCAACGATCTTT−3
逆方向プライマー(384R)(SEQ ID NO:42)
5−CCAAACTGTCCCTTGGCCAGCTTTCAAAAAAAC−3
【0078】
増幅されたPCR産物は、制限酵素NotI(NEB)で処理した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptIIベクター(Stratagene)にクローニングし、pBS−ZMO0381384ベクターを作製した。
【0079】
以降、逆方向PCR方法を応用してORF遺伝子ZMO0381〜ZMO0384らを除いてpBluescriptIIベクターを含む上流相同部位と下流相同部位だけを選択的にPCR増幅した。逆方向PCR反応に使用されたプライマーら(del 384Fおよびdel 381R)は次のとおりであり、PCR増幅反応は、実施例1と同様な方法と条件を使用し、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0080】
正方向プライマー(del 384F)(SEQ ID NO:43)
5−TGTAGTTTATACGCTGCATTAAATGAAAAGG−3
逆方向プライマー(del 381R)(SEQ ID NO:44)
5−TATTTATCCAATGCGCCCCCTGCTTTG−3
【0081】
増幅されたPCR産物を制限酵素PmeI(NEB)で処理した後、実施例1のsp−DlmesC2遺伝子断片をT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)してpBS−Del 381::sp−DlmesC2::384ベクターを作製した。
【0082】
実施例3−3.ZMO0390〜ZMO0394の4種類のORF部位を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したベクターの製造
【0083】
ZMO0390〜ZMO0394の5種類のORFらを5’末端側に5’末端から上流相同部位の3,280bp(SEQ ID NO:45)と3’末端側に3’末端から下流相同部位の3,008bp(SEQ ID NO:46)をそれぞれ正方向プライマー(390F)と逆方向プライマー(394F)対を用いて実施例1と同様な方法と条件でPCR増幅し、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0084】
正方向プライマー(390F)(SEQ ID NO:47)
5−ATGATCCGATGGCTGGAAATAATGCGGATATG−3
逆方向プライマー(394R)(SEQ ID NO:48)
5−TAGCGGTCTGAGGCTGTGCCTCCGATGTA−3
増幅されたPCR産物は、制限酵素NotI(NEB)で処理した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptIIベクター(Stratagene)にクローニングし、pBS−ZMO0390394ベクターを作製した。
【0085】
以降、逆方向PCR方法を応用してORF遺伝子ZMO0390〜ZMO0394らを除いてpBluescriptIIベクターを含む上流相同部位と下流相同部位だけを選択的にPCR増幅した。逆方向PCR反応に使用されたプライマーら(del 394Fおよびdel 390R)は次のとおりであり、PCR増幅反応は、実施例1と同様な方法と条件を使用しており、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0086】
正方向プライマー(del 394F)(SEQ ID NO:49)
5−CATCCATTTTGGATATTATTTTTAAATTAATCC−3
逆方向プライマー(del 390R)(SEQ ID NO:50)
5−CGGTAAGTGCCTTTCACCGCTTCCACGACAG−3
増幅されたPCR産物を制限酵素PmeI(NEB)で処理した後、実施例1のsp−DlmesC2遺伝子断片をT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)してpBS−Del 390::sp−DlmesC2::394ベクターを作製した。
【0087】
実施例3−4.ZMO1786〜ZMO1789の4種類のORF部位を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したベクターの製造
【0088】
ZMO1786〜ZMO1789の4種類のORFらは5’末端側に5’末端から上流相同部位の3,450bp(SEQ ID NO:51)と3’末端側に3’末端から下流相同部位の3,100bp(SEQ ID NO:52)をそれぞれ正方向プライマー(1786F)と逆方向プライマー(1789R)対を用いて実施例1と同様な方法と条件でPCR増幅しており、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0089】
正方向プライマー(1786F)(SEQ ID NO:53)
5−ACCAAAGCCGAAAAAAGGTCATCAAAAATACC−3
逆方向プライマー(1789R)(SEQ ID NO:54)
5−GTTCAATTGCCACGCTTGAGGCTTTTGAAAATGC−3
【0090】
増幅されたPCR産物は、制限酵素NotI(NEB)で処理した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptIIベクター(Stratagene)にクローニングし、pBS−ZMO17861789ベクターを作製した。
【0091】
以降、逆方向PCR方法を応用してORF遺伝子ZMO1786〜ZMO1789らを除いてpBluescriptIIベクターを含む上流相同部位と下流相同部位だけを選択的にPCR増幅した。逆方向PCR反応に使用されたプライマーら(del 1789Fおよびdel 1786R)は次のとおりであり、PCR増幅反応は、実施例1と同様な方法と条件を使用しており、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0092】
正方向プライマー(del 1789F)(SEQ ID NO:55)
5−TATCTCGCTTGCAATAAAACATATTTTCAGG−3
逆方向プライマー(del 1786R)(SEQ ID NO:56)
5−AGATTTTATCCGACAAAATCAATTCTATAAG−3
増幅されたPCR産物を制限酵素PmeI(NEB)で処理した後、実施例1のsp−DlmesC2遺伝子断片をT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)してpBS−Del 1786::sp−DlmesC2::1789ベクターを作製した。
【0093】
実施例3−5.代謝経路と無関係な遺伝子または部位がD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子で置換されたZM菌株の製造
【0094】
前記実施例3−1乃至実施例3−4により製造されたベクターらをザイモモナス・モビリスZM4菌株(ATCC 31821)に電気穿孔法(electroporation)で形質転換して代謝と無関係な遺伝子らが除去され、sp−DlmesC2遺伝子が挿入された菌株らを次のとおり作製した。
【0095】
実施例3−1のpBS−Del 87::sp−DlmesC2::89ベクターをザイモモナス・モビリスZM4菌株に形質転換し、抗生剤スペクチノマイシンが含まれているRM培地(グルコース、20g/l;酵母抽出物(DIFCO)、10g/l;MgSO、1g/l;(NHSO、1g/l;KHPO、2g/l;agar、15g/l;pH5.0)に選択的生長を示す形質転換体らを選別する過程を通じてORF遺伝子ZMO0087〜ZMO0089がsp−DlmesC2遺伝子で置換されたZ.mobilis ΔZMO8789::sp−DlmesC2菌株を製造し、これをMG6118菌株と命名した。
【0096】
これと同様に、実施例3−2乃至実施例3−4により製造されたpBS−Del 381::sp−DlmesC2::384ベクター、pBS−Del 390::sp−DlmesC2::394ベクターおよびpBS−Del 1786::sp−DlmesC2::1789ベクターで形質転換されてそれぞれの遺伝子部位がsp−DlmesC2遺伝子で置換されたZ.mobilis ΔZMO381384::sp−DlmesC2菌株(MG6119菌注)、Z.mobilis ΔZMO390394::sp−DlmesC2菌株(MG6120菌注)、およびZ.mobilis ΔZMO390394::sp−DlmesC2菌株(MG6121菌株)を製造した。
【0097】
実施例4.代謝経路関連遺伝子を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入したZM菌株の製造
【0098】
菌株内D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の導入と菌株の代謝経路調節間の関係およびその乳酸生産に対する影響を調べてみるために、菌株内の他の代謝経路遺伝子(ら)を除去すると同時にSEQ ID NO:1の塩基配列を有するDlmesC2遺伝子を導入した菌株を製造した。具体的にザイモモナス・モビリス菌株の中心代謝回路に該当するエタノール(ethanol)と乳酸(lactic acid)生産遺伝子が除去された菌株と、ここにDlmesC2遺伝子が導入された菌株を製造した。菌株製造方法は、実施例1と同様な方法を用い、代謝経路遺伝子のそれぞれの上流相同部位および下流相同部位約3,000bp以上を相同性組み換え部位でクローニングして用いた。
【0099】
実施例4−1.乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO0256)遺伝子を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(DlmesC2)を導入したベクターの製造
【0100】
ザイモモナス・モビリスZM4(ATCC 31821)のゲノム遺伝子(AE008692)から乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO0256)遺伝子5’末端側に5’末端から上流相同部位の4,879bp(SEQ ID NO:57)と3’末端側に3’末端から下流相同部位の4,984bp(SEQ ID NO:58)をそれぞれ正方向プライマー(ldhAF)と逆方向プライマー(ldhAR)対を用いて実施例1と同様な方法と条件でPCR増幅し、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0101】
正方向プライマー(ldhAF)(SEQ ID NO:59)
5−TGGCAGTCCTCCATCTAGATCGAAGGTGC−3
逆方向プライマー(ldhAR)(SEQ ID NO:60)
5−GTGATCTGACGGTGAGCTCAGCATGCAGG−3
【0102】
増幅されたPCR産物は、制限酵素NotI(NEB)で処理した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptIIベクター(Stratagene)にクローニングし、pBS−ZMO0256ベクターを作製した。
【0103】
以降、逆方向PCR方法を応用して乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO0256)遺伝子を除いてpBluescriptIIベクターを含む上流相同部位と下流相同部位だけを選択的にPCR増幅した。逆方向PCR反応に使用されたプライマーら(ldhA−PmeI−2FおよびldhA−PmeI−2R)は次のとおりであり、PCR増幅反応は、実施例1と同様な方法と条件を使用しており、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0104】
正方向プライマー(ldhA−PmeI−2F)(SEQ ID NO:61)
5−AACTAGTTTAAACAAGAGCGAAGAATAGCAAAGAAT−3
逆方向プライマー(ldhA−PmeI−2R)(SEQ ID NO:62)
5−CTCTTGTTTAAACTAGTTATGGCATAGGCTATTACG−3
【0105】
増幅されたPCR産物を制限酵素PmeI(NEB)で処理した後、実施例1のsp−DlmesC2遺伝子断片をT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)してpBS−Del ZM0256::sp−DlmesC2ベクターを作製した。
【0106】
実施例4−2.D−乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO1237)遺伝子を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(DlmesC2)を導入したベクターの製造
【0107】
ザイモモナス・モビリスZM4(ATCC 31821)のゲノム遺伝子(AE008692)から乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO1237)遺伝子5’末端側に5’末端から上流相同部位の3,656bp(SEQ ID NO:63)と3’末端側に3’末端から下流相同部位の3,848bp(SEQ ID NO:64)をそれぞれ正方向プライマー(Dldh−F)と逆方向プライマー(Dldh−R)対を用いて実施例1と同様な方法と条件でPCR増幅しており、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0108】
正方向プライマー(Dldh−F)(SEQ ID NO:65)
5−TGTTTCAGGCGGCCGCTATTTTAAGTC−3
逆方向プライマー(Dldh−R)(SEQ ID NO:66)
5−TCTTTATCGCGGCCGCATCAATCACAA−3
【0109】
増幅されたPCR産物は、制限酵素NotI(NEB)で処理した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptIIベクター(Stratagene)にクローニングし、pBS−ZMO1237ベクターを作製した。
【0110】
以降、逆方向PCR方法を応用してD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO1237)遺伝子を除いてpBluescriptIIベクターを含む上流相同部位と下流相同部位だけを選択的にPCR増幅した。逆方向PCR反応に使用されたプライマーら(Del−DldFおよびDel−DldR)は次のとおりであり、PCR増幅反応は、実施例1と同様な方法と条件を使用しており、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0111】
正方向プライマー(Del−DldF)(SEQ ID NO:67)
5−TTTCTTTTGCAGTTAACTGTCAGCCTGAA−3
逆方向プライマー(Del−DldR)(SEQ ID NO:68)
5−TGATCCTGTATGGTTAACAATTGTTGCC−3
【0112】
増幅されたPCR産物を制限酵素PmeI(NEB)で処理した後、実施例1のsp−DlmesC2遺伝子断片をT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)してpBS−Del ZM01237::sp−DlmesC2ベクターを作製した。
【0113】
実施例4−3.アルコールデヒドロゲナーゼI(ZMO1236)遺伝子を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(DlmesC2)を導入したベクターの製造
【0114】
ザイモモナス・モビリスZM4(ATCC 31821)のゲノム遺伝子(AE008692)からアルコールデヒドロゲナーゼI(ZMO1236)遺伝子5’末端側に5’末端から上流相同部位の3,844bp(SEQ ID NO:69)と3’末端側に3’末端から下流相同部位の3,861bp(SEQ ID NO:70)をそれぞれ正方向プライマー(Adh1−F)と逆方向プライマー(Adh1−R)対を用いて実施例1と同様な方法と条件でPCR増幅しており、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0115】
正方向プライマー(Adh1−F)(SEQ ID NO:71)
5−ACTCAATGGAACTGCAGCATGATCTGA−3
逆方向プライマー(Adh1−R)(SEQ ID NO:72)
5−ACCAAAGTAACATCTGCAGTGTTGATAATGGー−3
【0116】
増幅されたPCR産物は、制限酵素NotI(NEB)で処理した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptIIベクター(Stratagene)にクローニングし、pBS−ZMO1236ベクターを作製した。
【0117】
以降、逆方向PCR方法を応用してアルコールデヒドロゲナーゼI(ZMO1236)遺伝子を除いてpBluescriptIIベクターを含む上流相同部位と下流相同部位だけを選択的にPCR増幅しており、逆方向PCR反応に使用されたプライマーら(Del−Adh1FおよびDel−Adh1R)は次のとおりであり、PCR増幅反応は、実施例1と同様な方法と条件を使用しており、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0118】
正方向プライマー(Del−Adh1F)(SEQ ID NO:73)
5−TTGCGAATATAGTTTAAACGATTGC−3
逆方向プライマー(Del−Adh1R)(SEQ ID NO:74)
5−ACCAGAAAGGTTTAAACTTTGTCGTC−3
【0119】
増幅されたPCR産物を制限酵素PmeI(NEB)で処理した後、実施例1のsp−DlmesC2遺伝子断片をT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)してpBS−Del ZM01236::sp−DlmesC2ベクターを作製した。
【0120】
実施例4−4.アルコールデヒドロゲナーゼII(ZMO1596)遺伝子を除去し、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(DlmesC2)を導入したベクターの製造
ザイモモナス・モビリスZM4(ATCC 31821)のゲノム遺伝子(AE008692)からアルコールデヒドロゲナーゼII(ZMO1596)遺伝子5’末端側に5’末端から上流相同部位の3、986bp(SEQ ID NO:75)と3’末端側に3’末端から下流相同部位の3,868bp(SEQ ID NO:76)をそれぞれ正方向プライマー(Adh2−F)と逆方向プライマー(Adh2−R)対を用いて実施例1と同様な方法と条件でPCR増幅し、ただし、伸張時間を10分に調節した。
【0121】
正方向プライマー(Adh2−F)(SEQ ID NO:77)
5−CATAACCGACCTGCAGAATAGCCA−3
逆方向プライマー(Adh2−R)(SEQ ID NO:78)
5−TGTACCCACTGCAGAAGAATGATG−3
【0122】
増幅されたPCR産物は、制限酵素NotI(NEB)で処理した後、同一の制限酵素で切断されたpBluescriptIIベクター(Stratagene)にクローニングし、pBS−ZMO1596ベクターを作製した。
【0123】
以降、逆方向PCR方法を応用してアルコールデヒドロゲナーゼII(ZMO1596)遺伝子を除いてpBluescriptIIベクターを含む上流相同部位と下流相同部位だけを選択的にPCR増幅した。逆方向PCR反応に使用されたプライマーら(Del−Adh2FおよびDel−Adh2R)は次のとおりであり、PCR増幅反応は、実施例1と同様な方法と条件を用い、伸長時間を10分に調節した。
【0124】
正方向プライマー(Del−Adh2F)(SEQ ID NO:79)
5−CCTACATACTAGTTTAAACCAACAAC−3
逆方向プライマー(Del−Adh2R)(SEQ ID NO:80)
5−CTGTCTTGATGTTTAAACAAACAATGC−3
【0125】
増幅されたPCR産物を制限酵素PmeI(NEB)で処理した後、実施例1のsp−DlmesC2遺伝子断片をT4 DNA ligase(NEB)酵素でライゲーション(ligation)してpBS−Del ZM01596::sp−DlmesC2ベクターを作製した。
【0126】
実施例4−5.代謝経路関連遺伝子がD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子で置換されたZM菌株の製造
【0127】
前記実施例4−1乃至実施例4−4により製造されたベクターらをザイモモナス・モビリスZM4菌株(ATCC 31821)に電気穿孔法(electroporation)で形質転換して代謝経路関連遺伝子らが除去され、sp−DlmesC2遺伝子が挿入された菌株らを次のとおり作製した。
【0128】
前記実施例4−1により製造されたpBS−Del ZM0256::sp−DlmesC2ベクターをザイモモナス・モビリスZM4菌株に形質転換し、抗生剤スペクチノマイシンが含まれているRM培地(グルコース、20g/l;酵母抽出物(DIFCO)、10g/l;MgSO、1g/l;(NHSO、1g/l;KHPO、2g/l;agar、15g/l;pH5.0)に選択的生長を示す形質転換体らを選別する過程を通じて乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO0256)遺伝子がsp−DlmesC2遺伝子で置換されたZ.mobilis ΔZMO0256::sp−DlmesC2菌株をMG6111菌株と命名した。
【0129】
前記実施例4−2により製造されたpBS−Del ZM01237::sp−DlmesC2ベクターを実施例4−1により乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO0256)遺伝子が除去されたザイモモナス・モビリス菌株(Z.mobilis ΔZMO0256::tet)に形質転換して、乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO0256)遺伝子およびD−乳酸デヒドロゲナーゼ(ZMO1237)が全て除去され、DlmesC2遺伝子が導入されたZ.mobilis ΔZMO0256::cm、ΔZMO1237::sp−DlmesC2菌株(MG6112菌株)を、前述のように抗生剤スペクチノマイシンが含まれているRM培地に選択的生長を示す形質転換体らを選別する過程を通じて製造した。
前記実施例4−3により製造されたpBS−Del ZM01236::sp−DlmesC2ベクターをザイモモナス・モビリスZM4菌株に形質転換し、前記抗生剤スペクチノマイシンが含まれているRM培地に選択的生長を示す形質転換体らを選別する過程を通じてアルコールデヒドロゲナーゼI(ZMO1236)遺伝子がsp−DlmesC2遺伝子で置換されたZ.mobilis ΔZMO1236::sp−DlmesC2菌株(MG6113菌株)を製造した。
【0130】
最後に、前記実施例4−4により製造されたpBS−Del ZM01596::sp−DlmesC2ベクターをザイモモナス・モビリスZM4菌株に形質転換し、前記抗生剤スペクチノマイシンが含まれているRM培地に選択的生長を示す形質転換体らを選別する過程を通じてアルコールデヒドロゲナーゼII(ZMO1596)遺伝子がsp−DlmesC2遺伝子で置換されたZ.mobilis ΔZMO1596::sp−DlmesC2菌株(MG6114菌株)を製造した。
【0131】
実験例1.D−乳酸デヒドロゲナーゼの活性(enzyme activity)試験
【0132】
前記実施例1乃至3で製造されたD−乳酸デヒドロゲナーゼ導入菌株が、pyruvateを基質で利用してD−lactic acidを生産する酵素反応を促進するD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素活性を示すのか確認するために酵素活性測定実験を行った。
対照群としては野生型ザイモモナス・モビリス菌株ZM4(ATCC 31821)を用い、前記野生型ZM4菌株とD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入されたZM菌株(MG6106、MG6115、MG6116、MG6117およびMG6118)のそれぞれをRM培地(グルコース、20g/l;酵母抽出物(DIFCO)、10g/l;MgSO4、1g/l;(NH4)2SO4、1g/l;KH2PO4、2g/l;pH5.0)で対数増殖期までインキュベータ(incubator)で定置培養して生長させた後、各細胞を回収した(12,000rpm、5min、4℃)。回収された各細胞らを高周波破砕(sonication)方法で破砕した後、遠心分離(15,000rpm、10min、4℃)して上澄液(supernatant)を回収して酵素活性測定に用いた。
D−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素活性は2種類のキット(Lactic acid assay kit)(Megazyme、Sigma)を利用して製造会社の方法に従って測定し、その結果を下記表1に示した。
【0133】
【表1】
【0134】
前記表1に示されているように、対照群である前記野生型ZM4菌株の酵素活性は、0.012U/mg of proteinに過ぎない反面、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入されたZM菌株(MG6106、MG6115、MG6116、MG6117およびMG6118)のそれぞれの酵素活性は、全て1U/mg of proteinを超え、高い場合は1.556U/mg of proteinまで現れてD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された形質転換体の酵素活性が野生型菌株に比べて顕著に優れていることを確認することができた。
【0135】
実験例2.乳酸(D−lactic acid/D−lactate)生産能力試験
【0136】

実験例2−1.乳酸(D−lactic acid/D−lactate)生産能力試験方法
【0137】
前記実施例1乃至4で製造されたD−乳酸デヒドロゲナーゼ導入菌株らのD−lactic acid/D−lactate生産能力を試験するために、前記菌株らをそれぞれpHを5.0に調節したRM液体培地(グルコース、20g/l;酵母抽出物(DIFCO)、10g/l;MgSO、1g/l;(NHSO、1g/l;KHPO、2g/l)で、それぞれ30℃で20時間培養した後、前記培養した培養液から細胞を除去して得た培養上澄液を以下のような条件でHPLC(high performance liquid chromatography)を用いて代謝産物を測定した。対照群としては前記実験例1で使用された野生型ザイモモナス・モビリス菌株ZM4(ATCC 31821)を用い、比較例としてはS.cerevisiae(Dequin and Barre, Biotechnology(New York). 1994. Feb;12(2):173−177)および/またはS.cerevisiaeOC2菌株(Ishida et al., J. Biosci. Bioeng. 2006. Feb;101(2):172−177)を用いた。
【0138】
<HPLC測定条件>
HPLCシステム:Hitachi HPLCシステム(model D−7000)
カラム:Aminex HPX−87H(300mmX7.8mm)
カラム温度:60℃
流速:0.6ml/min
移動床(溶媒):0.0025N sulfuric acid
検出器:
D−lactic acid/D−lactateおよびその他有機酸−UV検出器(Hitachi D−4200)(215nm)
糖およびエタノール−RI(refractive index)検出器(D−3300)
【0139】
実験例2−2.多様なD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された菌株らのD−lactic acid/D−lactate生産能力試験
【0140】
前記実施例1および実施例2で製造された菌株ら(MG6106、MG6115、MG6116、およびMG6117)のD−lactic acid/D−lactate生産能力を前記実験例2−1に記載された方法で比較してみた結果、下記表2に示されているように、DlmesC2遺伝子が導入された菌株であるMG6106だけでなく、これと遺伝子一致度が95%以上であるLeuconostoc cremoris ATCC 19254菌株から分離されたD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコーディングするldhD−ATCC19254遺伝子(996bp)(SEQ ID NO:3)、Leuconostoc mesenteroides LMG 18811菌株から分離されたD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコーディングするldhD1−LMG18811遺伝子(996bp)(SEQ ID NO:5)、およびLeuconostoc mesenteroides NBRC 3426から分離されたD−乳酸デヒドロゲナーゼ酵素をコーディングするD−ldh−NBRC 3426遺伝子(996bp)(SEQ ID NO:7)がそれぞれ導入された菌株MG6115、MG6116、およびMG6117も非常に高い収率および生産性で乳酸を生産できることが分かった。
【0141】
したがって、前記D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子としては、DlmesC2以外にもこれと遺伝子一致度が95%以上である多様なD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を使用可能であることを確認することができた。
【0142】
【表2】
【0143】
実験例2−3.D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の導入位置および代謝経路調節によるD−lactic acid/D−lactate生産能力に対する影響試験
【0144】
前記実施例3および実施例4で製造された菌株らのD−lactic acid/D−lactate生産能力を前記実験例2−1に記載された方法で比較してみた結果、下記表3に示されているように、DlmesC2遺伝子が導入される特定の遺伝体位置に該当する遺伝子または部位と関係なく、乳酸を、低い場合は約95.0%、高い場合は99.9%以上の顕著に高い収率と効率で生産することが分かった。また下記表4に示されているように、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子DlmesC2が導入された各菌株の乳酸生産は他の代謝経路流れに依存したりまたは促進されることもないことが分かった。
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
このようにD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された菌株の乳酸生産は、前記遺伝子が導入される遺伝体の位置(gene or region)または代謝経路流れに依存したりまたは促進されず、したがってD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の導入位置または代謝経路調節と関係なくD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の存在自体に独立依存的に行われることを確認することができた。反面、S.cerevisiaeの場合、代謝経路と関係がなかったり核心産物代謝(例:エタノール生産経路ら)経路が除去されない状態の独立的なD−lactate dehydrognaseはD−lactic acid/lactate生産に効率的ではないため、代謝経路調節に依存的であることを確認することができた。
【0148】
したがって、代謝経路調節と関係なく独立的にD−lactic acid/lactateを効率的に生産できるD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された菌株の乳酸生産能力が顕著に優れていることを確認することができた。
【0149】
実験例2−4.pH条件による乳酸(D−lactic acid/D−lactate)生産比較
【0150】
前記実施例1で製造されたMG6106菌株のpH条件による乳酸生産能力を試験するために、前記実験例2−1に記載された方法と同様な方法でD−lactic acid/D−lactate生産能力を測定し、ただし、pH非調節によるD−lactic acid/D−lactate生産能力は、塩基添加によるpH調節なしに最終発酵pHを3.0にしたRM液体培地で前記菌株を30℃で20時間培養した後、前記培養した培養液から細胞を除去して得た培養上澄液を用いて測定した。その結果を下記表5に示した。
【0151】
【表5】
【0152】
前記表5に示されているように、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された菌株の場合、pH5.0の条件はもちろん、pH非調節(酸性条件)発酵条件下でも乳酸(D−lactic acid/D−lactate)生産収率がそれぞれ99.9%以上および99.7%に非常に高く現れ、ひいてはpH5.0条件およびpH非調節の全ての発酵条件でD−lactic acid生産効率が優れていると報告されたS.cerevisiae OC2と比較してみた結果、S.cerevisiae OC2の場合、同一の条件でD−lactic acid/lactate生産収率がそれぞれ61%および53%に過ぎないと示され、前記D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された菌株は、pH条件の制限なしにいかなるpH条件でも顕著に優れたD−lactic acid/lactate生産収率を有することを確認することができた。
【0153】
実験例3.pH条件によるD−lactic acid/D−lactateの光学純度(optical purity)比較
【0154】
前記実施例1で製造されたMG6106菌株のpH条件によるD−lactic acid/D−lactateの光学純度を比較分析するために、前記菌株を塩基(base)添加を通じてpHを5.0に調節したRM液体培地(グルコース、20g/l;酵母抽出物(DIFCO)、10g/l;MgSO、1g/l;(NHSO、1g/l;KHPO、2g/l)と、塩基添加によるpH調節なしに最終発酵pHを3.0にしたRM液体培地で30℃で20時間培養した後、前記培養した培養液から細胞を除去して得た培養上澄液を以下のような条件でHPLC(high performance liquid chromatography)を行ってD−lactic acid/D−lactateの光学純度(optical purity、%)または光学超過数値(enantiomeric excess、ee value、%)を分析してその結果を下記表6に示した。前記実験例2と同様に、対照群としては野生型ザイモモナス・モビリス菌株ZM4(ATCC 31821)を用い、比較例としてはS.cerevisiae OC2菌株(Ishida et al., J. Biosci. Bioeng. 2006. Feb;101(2):172−177)を用いた。
【0155】
<HPLC測定条件>
HPLCシステム:Hitachi HPLCシステム(model D−7000)
カラム:Chirex 3126カラム(Phenomenex)(250mmX4.6mm)
カラム温度:25℃
流速:1.5ml/min
移動床(溶媒):1mM copper sulfate(CuSO4)溶液
検出器:UV検出器(Hitachi D−4200)(254nm)
具体的に標準試薬D(−)−lactic acid(L0625、Sigma)、L(+)−lactic acid(L1750、Sigma)、そしてDL−lactic acid(L1250、Sigma)を用いてD−lactic acidとL−lactic acidの光学異性体を区分、分離し、光学純度(%)と光学超過数値(%)はそれぞれ以下の数式1および2により計算した。
【0156】
[数式1]
D−lactic acidの光学純度(%)=D/D+L*100
[数式2]
ee value(%)=D+L/D−L*100
【0157】
【表6】
【0158】
前記表6に示されているように、対照群である前記野生型ZM4菌株により生産された乳酸の光学純度は約33.3%と低く示された反面、D−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が導入された菌株により生産された乳酸の光学純度はS.cerevisiae OC2と同等な程度である99.9%の非常に高い光学純度を示すことを確認することができた。ただし、前記S.cerevisiae OC2の場合、前記実験例2−3で考察したように代謝経路調節に依存した乳酸生産効率を示す反面、D−乳酸デヒドロゲナーゼが導入された形質転換菌株の場合、代謝経路調節がなくてもpH条件の制限なしに非常に高い収率と非常に高い光学純度で乳酸を生産することができるため、対照群である前記野生型ZM4菌株はもちろん、前記S.cerevisiae OC2に比べても顕著に優れていることを確認することができた。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]