特許第5797308号(P5797308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797308
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】垂直磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20151001BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   G11B5/738
   G11B5/65
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-142149(P2014-142149)
(22)【出願日】2014年7月10日
(65)【公開番号】特開2015-18595(P2015-18595A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2014年7月10日
(31)【優先権主張番号】13/940,132
(32)【優先日】2013年7月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503116280
【氏名又は名称】エイチジーエスティーネザーランドビーブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100101063
【弁理士】
【氏名又は名称】松丸 秀和
(72)【発明者】
【氏名】廣常 朱美
(72)【発明者】
【氏名】武隈 育子
(72)【発明者】
【氏名】佐山 淳一
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−060344(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/109822(WO,A1)
【文献】 特開2010−129263(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0113768(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0182714(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62−5/82
G11B 5/84−5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非結晶質またはbcc材料のバッファ層と、
障壁層と、テクスチャ制御層と、を含むハイブリッド層と、
ヒート・シンク層と
下層と、
垂直記録層と、
を有し、
前記障壁層がCr、Co、Fe、またはNiからなる群から選択される主成分を含み、
前記障壁層がW、MoまたはRuからなる群から選択される添加成分を含む、
磁気記録媒体。
【請求項2】
前記障壁層の厚さが0.5〜2nmの範囲にある請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記テクスチャ制御層の厚さが0.5〜4nmの範囲にある請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記テクスチャ制御層が酸化マグネシウム(MgO)である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記ヒート・シンク層がbcc材料である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記ヒート・シンク層がクロム(Cr)である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記垂直記録層がL10規則合金、FePt−Xであり、前記Xは、粒子境界として炭素、カーバイド、窒化物、および酸化物の少なくとも1つを含む請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記下層が酸化マグネシウム(MgO)である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
ハード・ディスク・ドライブであって、
非結晶質またはbcc材料のバッファ層と、
障壁層と、テクスチャ制御層と、を含むハイブリッド層と、
ヒート・シンク層と、
下層と、
垂直記録層と、
を有し、
前記障壁層がCr、Co、Fe、またはNiからなる群から選択される主成分を含み、
前記障壁層がW、MoまたはRuからなる群から選択される添加成分を含む磁気記録媒体を有する、ハード・ディスク・ドライブ。
【請求項10】
前記障壁層の厚さが0.5〜2nmの範囲にある請求項に記載のハード・ディスク・ドライブ。
【請求項11】
前記テクスチャ制御層の厚さが0.5〜4nmの範囲にある請求項に記載のハード・ディスク・ドライブ。
【請求項12】
前記テクスチャ制御層が酸化マグネシウム(MgO)である請求項に記載のハード・ディスク・ドライブ。
【請求項13】
前記ヒート・シンク層がbcc材料である請求項に記載のハード・ディスク・ドライブ。
【請求項14】
前記ヒート・シンク層がクロム(Cr)である請求項に記載のハード・ディスク・ドライブ。
【請求項15】
前記垂直記録層がL10規則合金、FePt−Xであり、前記Xは、粒子境界として炭素、カーバイド、窒化物、および酸化物の少なくとも1つを含む請求項に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
前記下層が酸化マグネシウム(MgO)である請求項に記載のハード・ディスク・ドライブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来のシステムにおいては、L10型FePt規則合金を磁気記録材料として利用するために、結晶格子間の交換相互作用は低減される。L10型FePt規則合金の粒状化は、SiOまたはCまたは同様なものなどの非磁性体を添加することにより行われる。一般に、粒状化は、FePt合金を主成分とし、FePtから作成される磁気結晶粒子を取り囲む非磁性体により結晶粒子境界が形成され、その結果として磁気結晶粒子が相互に分離される構造を作成することを指す。
【0002】
また、磁気記録層においてL10型結晶構造を有するFePt合金を利用する場合、FePt層は、(001)配向を有する。(001)配向は、FePt層の下に形成される下層中において適当な材料を使用することにより形成することができる。たとえば、MgO下層を利用すると、FePt層に(001)配向が与えられる。
【0003】
さらに、一部の従来のシステムでは、FePtに規則性を与え、かつ、(001)配向を形成するために、製膜中またはその前後に300℃以上に加熱する工程を実行する必要がある。
【背景技術】
【0004】
磁気記録層においてL10型結晶構造を有するFePt合金を利用するために、MgO下層を形成し、かつ、その上のFePt層に規則性および(001)配向を与えるためにFePt層を加熱する必要がある。熱アシスト記録および再生においては、高いSN比(SNR)および狭い記録幅を得るために、MgO下層の下にヒート・シンク層を設けること、および記録中および記録後に過度の熱を基板の方向に放散することが必要である。ヒート・シンク層は、MgO下層の平面に一致する結晶配向平面を有し、かつ、MgO下層より大きな熱伝導性を有するCrまたは同様なものなどのbcc構造を有する材料から形成することが好ましい。しかし、Cr膜が基板の上に直接または接着層上に形成された場合、(110)配向が支配的となり、MgO結晶配向に一致する(100)配向を得ることが困難になる。他方、基板または接着層の上にCrの(100)配向を得るために、MgOまたは同様なものなどの薄い酸化膜を接着層の上に形成した場合、(100)配向を得ることはできるが、Cr表面に突起が形成される。これらの表面突起が形成された場合、MgO上に形成されるFePt層が影響を被り、その結果FePt層の表面上に最終的に突起が形成され、それにより浮上特性がかなり劣化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、従来のシステムでは、L10型結晶構造を有するFePt合金媒体の場合、ヒート・シンク層は形成されるとしても、MgO下層およびFePt層が所望の結晶配向および十分な浮上特性を持つ媒体を得ることはできない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願に包含され、その一部をなす添付図面は、本発明の実施形態を示し、かつ、明細書とともに本発明の原理の説明に役立つ。特に述べない限り、この説明において参照される図面は、原寸に比例していないと解するべきである。この記述において参照される図面中の線の中断は、線およびそれと交差する垂直線が結合しないことを意味することに注目すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体の断面構造の例を示す図である。
図2】本発明の実施例1および比較例1による垂直磁気記録媒体の結晶配向の評価の結果を示す図である。
図3A】本発明の実施例および比較例2による垂直磁気記録媒体の表面粗さの評価の結果を示す図である。
図3B】本発明の実施例および比較例2による垂直磁気記録媒体の表面粗さの評価の結果を示す図である。
図3C】本発明の実施例および比較例2による垂直磁気記録媒体の表面粗さの評価の結果を示す図である。
図3D】本発明の実施例および比較例2による垂直磁気記録媒体の表面粗さの評価の結果を示す図である。
図4A】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体における障壁層を変えたときの表面突起の観察の結果を示す図である。
図4B】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体における障壁層を変えたときの表面突起の観察の結果を示す図である。
図4C】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体における障壁層を変えたときの表面突起の観察の結果を示す図である。
図4D】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体における障壁層を変えたときの表面突起の観察の結果を示す図である。
図4E】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体における障壁層を変えたときの表面突起の観察の結果を示す図である。
図4F】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体における障壁層を変えたときの表面突起の観察の結果を示す図である。
図5】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体における障壁層の膜厚さを変えたときの結晶配向および表面突起の評価の結果を示す図である。
図6】本発明の実施例1による垂直磁気記録媒体におけるテクスチャ制御層の膜厚さを変えたときの結晶配向の評価の結果を示す図である。
図7】比較例1による垂直磁気記録媒体の断面構造の例を示す図である。
図8】比較例2による垂直磁気記録媒体の断面構造の例を示す図である。
図9A】本発明による磁気記録装置の構成の例を示す図である。
図9B】本発明による磁気記録装置の構成の例を示す図である。
図9C】本発明による磁気記録装置の構成の例を示す図である。
図9D】本発明による磁気記録装置の構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
これから、添付図面に例示されている種々の実施形態を詳しく参照する。主題についてこれらの実施形態とともに記述するが、当然のことながらこれらの実施形態は主題をそれらに限定することを意図するものではない。さらに、以下の記述においては、主題の完全な理解を与えるために、多数の具体的な詳細について記述する。他の例においては、主題の態様を不必要に曖昧にしないように、従来の方法、手順、目的および回路については詳細に述べていない。
【0009】
以下においてさらに詳しく述べるように、本発明の実施形態は、垂直磁気記録媒体に関するものであり、より具体的には、平方インチあたり1テラビット以上の表面記録密度を有する磁気記録媒体およびそれを使用する磁気記録装置に関する。
【0010】
熱的安定性を保ちつつ表面記録密度を増大するために、高い垂直磁気異方性エネルギーKuを有する磁気記録層を利用することができる。L10型FePt規則合金は、現在のCoCrPt合金に比し、より高い垂直磁気異方性エネルギーKuを有する材料である。
【0011】
従来のシステムと対照的に、一実施形態では、上述したように、垂直磁気記録媒体は、少なくとも非結晶質またはbcc結晶構造を有するバッファ層、ハイブリッド層、ヒート・シンク層、下層、L10型結晶構造を有する垂直磁気記録層、および保護層を含んでいる。これらは、基板上に順次積層され、また、ハイブリッド層は障壁層およびテクスチャ制御層を含んでいる。
【0012】
ハイブリッド層を設けることにより、ヒート・シンクを設けた場合にも表面突起は抑止され、また、下層の結晶配向およびFePt層の配向は満足できる。したがって、浮上特性が改善され、かつ、記録中の基板への放熱が十分であるFePt媒体を入手することができる。
【0013】
また、適切な放熱のおかげで、記録中の記録幅を狭めることができ、高密度記録が可能となる。
【0014】
図1は、垂直磁気記録媒体の構造の実施形態を示す。垂直記録媒体は、基板101上に、バッファ層102、ハイブリッド層(103、104)、ヒート・シンク105、下層106、垂直磁気記録層107、保護層108、および潤滑剤層109を含む。ハイブリッド層は、障壁層103およびテクスチャ制御層104を含む。
【0015】
基板101として種々の平面基板を使用することができる。たとえば、強化ガラス基板、結晶性ガラス基板、Si基板、または熱酸化Si基板を使用することができる。
【0016】
主成分としてNiを含み、少なくとも元素NbおよびTaの一方を含む非結晶Ni合金は、バッファ層102として使用できる。種々の実施形態において、Niに添加されるNbは、20at%以上かつ70at%以下の範囲であり、Taは、30at%以上かつ60at%以下の範囲である。また、Zrを付加することもできる。
【0017】
後述する実施例1におけるようにバッファ層がNi−Taまたは同様なものなどの非結晶質層である場合、下層106またはヒート・シンク層105の適切な配向が生成される。また、バッファ層102がヒート・シンク層105の配向に一致する結晶配向を有するbcc構造を有している場合、ヒート・シンク層105の結晶配向は、適切である。これは、非結晶質バッファ層の場合であり、また、下層106と垂直磁気記録層107(それはFePt層である)の結晶配向の場合である。
【0018】
しかし、bcc構造を有するCrまたは同様なものなどの材料を使用した場合においても、Cr(110)などの配向平面がヒート・シンク105の配向平面に一致しない場合、テクスチャ制御層104の結晶配向は劣化し、また、ヒート・シンク層105の配向も劣化する。したがって、ヒート・シンク層105の上に形成されるMgO下層106およびFePt層である垂直磁気記録層107の結晶配向も劣化する。
【0019】
一実施形態では、ヒート・シンク層105は、下層MgOの配向に容易に一致可能な配向および下層より高い熱伝導率を有するCr、Moまたは同様なものなどのbcc材料である。ヒート・シンク層105は、Al、Au、Cu、Ag、Ru、またはそれらの合金などの高い熱伝導材料(基板側に形成される)および下層側の配向に一致する材料による多層構造を有することができる。
【0020】
主成分としてのMgOを有する薄膜をMgO下層106において使用する。種々の実施形態において、MgとOの比率は、Oについては40at%以上かつ55at%以下の範囲、Mgについては40at%以上かつ55at%以下の範囲である。また、比率10at%以下の不純物が含まれる場合にも同じ特性が得られる。
【0021】
垂直磁気記録層107はL10型結晶構造を有し、かつ、C、カーバイド、窒化物、酸化物、または同様なものなどの非磁性体から形成される粒子境界を有する主要成分としてのFePtを有する合金を含む。また、秩序化温度を低減するためにAg、Au、またはCuを含む元素を垂直磁気記録層に添加することができる。
【0022】
保護層108の主成分として、炭素を含む高硬度薄膜を使用する。その上に潤滑剤層109を形成する。
【0023】
基板101の上に積み重ねられる層のそれぞれを形成するために、半導体、磁気記録媒体、または光記録媒体を形成するために使用される種々の薄膜形成技術を使用することができる。DCマグネトロン・スパッタリング法、RFマグネトロン・スパッタリング法、およびMBE法等が薄膜形成技術としてよく知られている。もちろん、薄膜形成速度が比較的速く、かつ、薄膜の微細構造および膜厚分布を制御することができるスパッタリング法が量産応用に適する。
【0024】
本実施例の垂直磁気記録媒体は、インライン型高速スパッタ装置を使用して形成された。この装置は、複数の製膜工程チャンバ、加熱チャンバ、および基板挿入/放電チャンバから構成されており、また、各チャンバから個別に内容物を取り出すことができる。各チャンバから1×10−4Pa以下の真空に対して放出され、また、各工程は、搬送装置に装填された基板を各工程チャンバに送り込むことにより順次行われた。基板の加熱は、加熱チャンバにおいて行われ、また、加熱中の温度は、ヒーターに供給される電力および時間により制御された。温度は、熱電対を設けてPID制御により制御することもできる。
【0025】
原子間力顕微鏡(AFM)を使用して表面粗さを評価した。表面粗さを評価するために、中心線平均粗さ(Ra)および表面粗さの平均二乗値(Rq)を指標として使用した。
【実施例】
【0026】
実施例1、比較例1
図1に示した障壁層103およびテクスチャ制御層104を有する垂直磁気記録媒体を実施例1として使用した。バッファ層102としての約100nmのNi62Ta38、障壁層103としての約1nmのNi86Cr層、テクスチャ制御層104としての約1nmのMgO層、ヒート・シンク層105としての約30nmのCr層、下層106としての約12nmのMgO層、平均組成(Fe45Pt45Ag1085(SiO15の約10nmの磁気記録層107、および保護層108としての約3nmのC層を基板101の上に順次形成した。製膜は、DCスパッタリングまたはRFスパッタリングにより行った。その後に、約1nmの潤滑材料109をC層に塗布した。
【0027】
図7に示したテクスチャ制御層104を有しない垂直記録媒体を比較例1として使用した。バッファ層102としての約100nmのNi62Ta38、障壁層103としての約1nmのNi86Cr層、ヒート・シンク層105としての約30nmのCr層、下層106としての約12nmのMgO層、平均組成(Fe45Pt45Ag1085(SiO15の約10nmの磁気記録層107、および保護層108としての約3nmのC層を基板101の上に順次形成した。製膜は、DCスパッタリングまたはRFスパッタリングにより行った。その後に、約1nmの潤滑材料109をC層に塗布した。その他の点では、比較層1は、実施例1と同じであった。
【0028】
図8に示した障壁層103なしの垂直磁気記録媒体を比較例2として使用した。バッファ層102としての約100nmのNi62Ta38、テクスチャ制御層104としての約1nmのMgO層、ヒート・シンク層105としての約30nmのCr層、下層106としての約12nmのMgO層、平均組成(Fe45Pt45Ag1085(SiO15の約10nmの磁気記録層107、および保護層108としての約3nmのC層を基板101の上に順次形成した。製膜は、DCスパッタリングまたはRFスパッタリングにより行った。その後に、約1nmの潤滑材料109をC層に塗布した。その他の点では、比較層2は、実施例1と同じであった。
【0029】
図2は、実施例および比較例の媒体の結晶配向の測定結果を示す。X線回折装置を使用して結晶配向を評価した。垂直軸は、各結晶面の回折ピーク強度を示し、また、水平軸は角度(2θ)を示す。この場合、回折ピーク強度が高いほど、結晶化度は良い。
【0030】
比較例1と比較されたこれらの結果から、実施例1において、Cr(200)のピークがヒート・シンク層で得られ、また、MgO(200)配向がCrの上に形成された下層から得られたことが分かる。その結果、磁気記録層においてもFePt(001)、(002)ピークが得られ、その結果、L10規則FePt合金が形成されたことが分かる。また、実施例1において、Cr回折ピークは、FePtおよびMgOの回折ピークに比べて大であり、その主な理由は、膜が厚く、かつ、結晶粒径が大きいことである。他方、比較例1においては、Cr(110)ピークは得られたが、Cr(200)ピークは得られなかった。換言すると、ヒート・シンクおよび下層の配向を制御することは可能ではなく、したがってFePtはL10規則を形成しなかった。
【0031】
図3A〜3Dは、原子間力顕微鏡(AFM)により測定した実施例1および比較例2の表面粗さの結果を示す。
【0032】
大きな突起または同様なものは、図3Aに示すように実施例1の媒体の表面上に見られなかった。また、図3Bにおけるヒストグラムの幅は狭い。換言すると、平坦な表面が得られた。他方、図3Cに見られるように比較例2の媒体の表面上には多数の突起が観察された。図3Dにおけるヒストグラムの底辺も大粗度側に広がっている。したがって、表面上に突起が形成され、その結果として媒体の浮上特性が劣化している。
【0033】
図4A〜Fは、障壁層103の厚さを実施例1から変えた場合に走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して行った媒体の表面突起の観察の結果を示している。障壁層103なしの図4Aでは多数の突起が観察されたが、障壁層103が0.5nmである図4Bでは突起の個数は低減している。障壁層103が0.7nm以上である場合、突起の個数は、さらに低減され、1.0nm(図4D)および1.2nm(図4E)において、この個数は最低となった。障壁層103が1.5nm(図4F)を超えたとき、突起の個数は増加した。
【0034】
図5は、単位面積あたりの突起の個数(突起)、Cr(200)ピークの積分強度、およびNi(111)ピークの積分強度を示す。これらの結果から、障壁層が0.5nm以上かつ、2nm以下である場合、突起の個数は減少し、かつ、Cr(200)配向が得られることが分かる。障壁層が0.7以上かつ1.5nm以下である場合、突起の個数はさらに減少し、かつ、Cr(200)配向は適切であることが分かる。
【0035】
図6は、テクスチャ制御層104の厚さを実施例1の媒体から変更した場合にX線回折装置(XRD)により測定した各層の配向の結果を示す。テクスチャ制御層104が存在しない場合、Crヒート・シンクおよびその上に形成されるMgO下層の配向は得られず、したがってFePt(001)の回折ピークは見られなかったが、傾けて形成された結晶面のFePt(111)回折ピークは観察された。テクスチャ制御層が0.5nmである場合、MgO下層の配向は、わずかに改善される。テクスチャ制御層104が1.0nm以上である場合、Cr層およびMgO層の回折ピークは改善され、かつ、L10規則を示す(001)回折ピークが下層の上に形成されるFePt中に観察される。したがって、テクスチャ制御層104が0.5nm以上かつ4nm以下である場合、良好な特性が示され、また、それが1.0nm以上かつ2nm以下である場合、この特性は特に良い。
【0036】
実施例2〜13
障壁層103またはテクスチャ制御層104の材料を実施例1から変えた場合について調査した。表1は、実施例2〜13の結果を要約している。
【0037】
表中の表面突起の個数は、SEMにより観察された単位面積あたりの突起の個数である。ここで、突起個数の少ない媒体は、突起個数の多い媒体に比べて、より良い浮上特性を有している。L1規則指標は、(001)回折ピークと(002)回折ピークの積分強度比、I001/I002である。ここでより大きいL1規則指標を有する媒体は、望ましい高い秩序化率を有している。
【0038】
これらの結果から、実施例2〜8において、実施例1と同様にCr(200)回折ピークがCrヒート・シンク層から得られ、また、MgO(200)回折ピークがCrの上に形成されたMgO下層から観察されることが分かった。その結果としてFePt(001)、(002)回折ピークが磁気記録層中に得られ、したがってL10規則FePt合金が形成されたことが分かる。このように、実施例2〜13において、(001)回折ピークと(002)回折ピークの積分強度比、I001/I002は1.3以上であり、非常に良い結晶配向が得られ、また、表面突起の個数は9以下であり、良好な浮上特性を示した。
【0039】
これらのうち、実施例2〜8において、(001)回折ピークと(002)回折ピークの積分強度比、I001/I002は1.4以上であり、したがって特に良い結晶配向が得られ、かつ、表面突起数は5以下であり、特に良好な浮上特性を示した。
【0040】
上記において示したように、障壁層の材料の主成分として、Ni−Cr−Wの代わりに、Cr、Co、Fe、またはNiのいずれかを主成分として含み、かつ、これらの元素の残りおよび/またはW、Mo、Ruのいずれかを添加成分として含む障壁層として合金材料を使用した場合に、同じ良好な特性が得られた。
【0041】
また、テクスチャ制御層として、MgOの代わりに、酸化物Ta−O、SiO、Si−O、またはTi−Oを使用した場合にも、同じ良好な特性が得られた。その他の酸化物材料も使用することができる。
【0042】
比較例3〜9
実施例1の障壁層103および/またはテクスチャ制御層104の材料を他の材料に変更した場合について調査した。表2は、比較例3〜9の結果を要約している。
【0043】
比較例3および4におけるように、実施例において使用されなかった材料を障壁層において使用した場合、表面突起の個数は非常に多く、また、浮上特性は非常に悪い。したがって、(001)回折ピークと(002)回折ピークの積分強度比、I001/I002は大きいが、得られた特性は実用に不十分である。
【0044】
比較例5〜7におけるように、実施例において使用されなかった材料をテクスチャ制御層において使用した場合、(001)回折ピークと(002)回折ピークの積分強度比、I001/I002は0に近く、したがって配向はかなり劣化した。上記から、表面突起の個数は極めて多く、浮上特性は極めて悪く、かつ、L10規則は不十分であり、したがって得られた特性は実用目的には不十分であることが分かる。
【0045】
比較例8および9では、障壁層およびテクスチャ制御層の材料が不適切であり、したがって表面突起の個数は極端に多く、かつ、浮上特性は非常に悪い。(001)回折ピークと(002)回折ピークの積分強度比、I001/I002は0に近く、したがって得られた特性は実用目的には不十分であった。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例および比較例について記述しなかった層構成、製造方法、材料、評価方法等は、他の実施例の場合と同じである。
【0049】
図9A〜Dは、本発明実施形態による磁気記録装置を示す。図9Aは平面略図であり、図9BはA−A’における断面図であり、図9Cはヘッドの略図であり、図9Dは側方から見たヘッドの主要部品の略図である。この装置は、垂直磁気記録媒体1501、垂直磁気記録媒体1501を駆動する駆動装置1502、磁気ヘッド・フライング・スライダ1503、磁気ヘッド駆動手段1504、および磁気記録・再生信号処理手段1505を含む。磁気ヘッドは、磁気ヘッド・スライダ上に形成される個別記録・再生型磁気ヘッドである。記録ヘッドは、磁界形成手段1507および近接場光を利用するエネルギー照射手段1506を含む。また、磁気ヘッドは、記録されたビットを再生するために再生電流を検出する検出手段1508を含む。近接場光は、サスペンション1201上に形成される光伝導路1202経由で近接場光を利用するエネルギー照射手段1506に供給される。位置決めの精度を改善するために、フライング・スライダ1503は、たわみ部1203を経由してサスペンションに取り付けられる。
【0050】
次に、記録中の熱特性および磁気特性について調査した。光源の波長は780nmであり、図1に示した構造を有する垂直磁気記録媒体1501を使用した。
【0051】
また、実施例1において示した媒体を上述の磁気記録装置に組み込み、ヘッドが4nmの浮上高さで安定して浮上することを確認した後に、近接場光を利用するエネルギー照射手段を搭載しているヘッドを使用して記録を行った。記録された信号を再生した。線密度方向に約25nmおよびトラック幅方向に約50nmの磁区を形成することができた。そして記録および再生を繰り返したときにおいても、安定した浮上特性および記録および再生特性が得られた。
【0052】
この実施例において記述しなかった層構成、製造方法、材料、評価方法等は、その他の実施例の場合と同じである。
【0053】
上記において主題の例示実施形態について記述した。種々の実施形態について構造的特徴および/または方法論的行為に特有の用語で記述したが、当然のことながら添付請求項は必ずしも上述した特定の特徴または行為に限定されない。むしろ、上述した特定の特徴および行為は、請求項およびその等価物を実現する例示形態として開示される。さらに本出願において記述される例および実施形態は、単独または相互の種々の組み合わせにより実現することができる。
【符号の説明】
【0054】
101 基板
102 バッファ層
103 障壁層
104 テクスチャ制御層
105 ヒート・シンク層
106 下層
107 磁気記録層
108 保護層
109 潤滑剤層
1201 サスペンション
1202 光伝導路
1203 たわみ部
1501 垂直磁気記録媒体
1502 駆動装置
1503 磁気ヘッド・フライング・スライダ
1504 磁気ヘッド駆動手段
1505 磁気記録・再生信号処理手段
1506 エネルギー照射手段
1507 磁界形成手段
1508 検出手段
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D