(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下塗り塗装を施した基材上に、エチレン性不飽和基を有するモノマー及び/又はオリゴマーを含有した活性エネルギー線硬化型インクを塗装した後、活性エネルギー線を照射して硬化塗膜を形成し、次いで、当該形成した硬化塗膜上に上塗り塗料を塗装して建築板を製造する建築板の製造方法であって、
前記硬化塗膜を形成する際の硬化反応の反応率が90%よりも大きく、且つ上塗り塗料を塗装する際の前記硬化塗膜の表面温度が、フォックスの式から計算される当該硬化塗膜のガラス転移温度の理論値よりも高いことを特徴とする建築板の製造方法。
前記エチレン性不飽和基を有するモノマーが、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、及び1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレートから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の建築板の製造方法。
前記エチレン性不飽和基を有するオリゴマーが、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、及びエポキシ(メタ)アクリレートから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の建築板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を具体的に説明する。
<基材>
本発明において、基材とは、建築物の内外装材として使用される一般的な基材を特に限定なく使用することができる。基材の材質としては、例えば、フレキシブルボード、ケイ酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、炭酸カルシウム板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、軽量発泡コンクリート(ALC)板、石膏ボード及びガラス等の無機質材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど)樹脂及びポリウレタン樹脂等の各種プラスチック材、並びにアルミニウム、鉄及びステンレス等の合金を含む金属等が挙げられ、これらの2種以上の材料を組み合わせることもできる。また、予め基材表面に、各種表面処理やシーラー及び/又はプライマー塗装等が施されていてもよい。基材の形状としては、平滑であっても、凹凸を有するものであってもよい
【0017】
<下塗り塗装>
本発明において、下塗り塗膜層を形成するための塗料としては、主溶媒として有機溶剤を用いる溶剤系塗料、主溶媒として水を用いる水系塗料、無溶剤系塗料、粉体塗料の各種エナメル塗料、又はクリア塗料を使用することができる。好ましくは、環境への配慮からより揮発性有機化合物(VOC)の排出を低減できる水系塗料、無溶剤系塗料及び粉体塗料がよい。より好ましくは、それ自体の取り扱いが困難である無溶剤系塗料や、場合によって200℃以上の高温において乾燥及び焼付けを必要とする粉体塗料よりも、1液型で取り扱いの簡便な水系塗料がよい。また、下塗り塗料は、各種着色及び/又は体質顔料を含むことができる。
【0018】
本発明における下塗り塗膜層を形成する方法としては、エアスプレー、エアレススプレー、ロールコーター及びフローコーター等の従来から使用されている各種塗装手段を用いた方法が挙げられる。また、下塗り塗装前後において、必要に応じて基材を加温し、乾燥及び/又は硬化を促進させることができる。
【0019】
下塗り塗料は、必要に応じて、同種の塗料、又は異なる複数種の塗料を2回以上に分けて塗装する、すなわち塗り重ねることができる。下塗り塗料の塗布量としては、一回の塗装当たりの塗布量が20〜200g/m
2であることが好ましい。特に下塗りとしてエナメル塗料を用いた際、20g/m
2未満の場合には、隠蔽性に劣り、200g/m
2を超える場合には、乾燥及び/又は硬化の不良となり易く、塗膜性能が低下する。下塗り塗装後の膜厚については、一層当たり5〜40μmであることが好ましい。
【0020】
また、下塗り塗膜を形成するための塗料に使用される樹脂としては、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂等の各種合成樹脂を使用することができ、これらの樹脂の内、2種類以上の樹脂を組み合わせて用いることもできる。更に、下塗り塗膜を形成するための塗料に各種機能を付与するため、着色及び/又は体質顔料、増粘剤、分散剤、消泡剤、沈降防止剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、又は光安定剤等が適宜添加されてもよい。
【0021】
<活性エネルギー線硬化型インク>
本発明における活性エネルギー線硬化型インクとしては、紫外線(UV)又は電子線(EB)等の各種活性エネルギー線の照射により硬化して、硬化塗膜が形成されるものが使用できる。好ましくは、コスト及び設備投資の観点から、UV硬化型のインクがよい。なお、本発明において、「硬化塗膜」とは、特に言及する場合を除いて、活性エネルギー線硬化型インクを硬化させることにより得られる硬化塗膜のことをいうこととする。
【0022】
活性エネルギー線硬化型インクを硬化させて硬化塗膜を形成する際の硬化反応としては、アニオン重合、カチオン重合又はラジカル重合等の各種反応機構を用いることができ、硬化性を向上させるために、これらの2種以上を組み合わせることもできる。
【0023】
本発明において、硬化塗膜を形成する際の硬化反応の反応率は、80%以上にすることが必要である。反応率が80%未満であると、エチレン性不飽和基などの活性基の多くが未反応のままインク中に残ってしまい、紫外線を受ける環境下(例えば、屋外)で被塗物を使用した場合には、残存する前記活性基の反応が開始・進行して硬化塗膜がさらに硬化され、その結果、経時で内部応力が増大し、基材、下塗り塗膜、硬化塗膜及び上塗り塗膜の各塗膜の付着性の低下や亀裂の発生が起こり易いため好ましくない。また、活性基の多くが未反応のまま残存した塗膜は、脆弱であり、水や酸素といった塗膜劣化因子を呼び込みやすく、耐水性や耐侯性の低下に繋がる。当該反応率については、より好ましくは90%より大きくすることがよい。
【0024】
ここで、前記硬化反応の反応率については、以下のように測定して求めることができる。すなわち、活性エネルギー線硬化型インクの主成分であるエチレン性不飽和基を有するモノマー及び/又はオリゴマーは、後述するように、好ましくは、アクリロイル基やメタアクリロイル基(以下、これらをまとめて「(メタ)アクリロイル基」と呼ぶことがある。)を有するものであり、この(メタ)アクリロイル基由来の810cm
-1〔CH
2=C(R)−C(=O)O−のCH面外変角振動(Rは水素又はメチル基)〕の吸収強度の変化(硬化反応の反応前後の変化)を、フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR法)により測定して、反応後に残存する残存不飽和基の割合(%)を算出し、以下の式(1)から求めることができる。
反応率(%)=100(%)−残存不飽和基(%) ・・・式(1)
ここで、残存不飽和基(%)は、硬化反応により変化しないC=O伸縮振動(1725cm
-1)の吸収を基準として、下記の式(2)により算出される。
残存不飽和基(%)=〔(硬化反応後の吸収強度比)/(硬化反応前の吸収強度比)〕 ×100 ・・・式(2)
なお、式(2)における硬化反応前後の「吸収強度比」は、(メタ)アクリロイル基の場合には、(810cm
-1の吸収強度)/(1725cm
-1の吸収強度)より計算される。
【0025】
また、エチレン性不飽和基として(メタ)アクリロイル基の他にも、例えば、ビニル基(1625cm
-1;CH
2=CH−のC=C伸縮振動)、アリル基(1646cm
-1;CH
2=CH−CH
2−のC=C伸縮振動)なども同様にして反応率を算出することができる。なお、インク中に含有されるモノマー及び/又はオリゴマーのエチレン性不飽和基が2種以上ある場合には、エチレン性不飽和基毎に上記式(2)を用いて残存不飽和基(%)を算出し、それらを合計したものをインク(硬化塗膜)の残存不飽和基(%)として、上記式(1)より反応率を求めることができる。
【0026】
本発明における活性エネルギー線硬化型インクには、エチレン性不飽和基を有するモノマー及び/又はオリゴマーが含有される。ここで、本発明におけるエチレン性不飽和基を有するモノマー及び/又はオリゴマーとしては、後述するように、エチレン性不飽和基(以下、単に、「官能基」という場合が有る。)を複数有するものが1種又は2種以上組み合わせて使用される場合があるが、その場合に含まれるモノマー及び/又はオリゴマーのエチレン性不飽和基の数に基づいて定められる平均官能基数が2以下であることが好ましい。当該平均官能基数が大きくなると、活性エネルギー線硬化型インクを硬化させた場合における硬化塗膜の架橋密度が高くなる傾向があることから、インク層自体の結合力や引っ張り強度は高くなるものの、このインク層の上に上塗り塗装を行う場合には、上塗り塗装の付着性が弱くなり、特に初期の付着性が低下する傾向がある。
【0027】
このようなエチレン性不飽和基の平均官能基数は、下式(3)より計算される。
平均官能基数=
〔モノマー及び/又はオリゴマーに含まれる全エチレン性不飽和基数〕/〔モノマー及び/又はオリゴマーの全分子数〕 ・・・式(3)
ここで、式(3)における「モノマー及び/又はオリゴマーに含まれる全エチレン性不飽和基数」については、モノマー又はオリゴマーの1分子当たりのエチレン性不飽和基の数に、当該モノマー又はオリゴマーの全分子数を乗じて計算される。インク中にモノマー又はオリゴマーが複数種類配合される場合においては、その種類毎にエチレン性不飽和基数を計算し、それらを合計した全てのエチレン性不飽和基の数のことを言う。このように、活性エネルギー線硬化型インクにおける平均官能基数を2以下とするためには、使用されるモノマー及び/又はオリゴマーの官能基数、分子量、配合量などを種々変更して適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0028】
活性エネルギー線硬化型インクを硬化させるための手段としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ及びLEDランプ等の各種光源が使用でき、その主波長は300〜450nmであることが好ましい。また、活性エネルギー線硬化型インクを硬化させるための活性エネルギー線のピーク照度としては、300〜3000mW/cm
2の範囲であることが好ましい。ピーク照度が300mW/cm
2よりも小さい場合には、活性エネルギー線の照射強度が弱く、反応率を80%以上とすることが困難となるため、付着性及び耐候性等の塗膜性能が低下する。ピーク照度が3000mW/cm
2よりも大きい場合には、活性エネルギー線発生源から発せられる熱により、下塗り塗膜及び/又は活性エネルギー線硬化型インクにより形成されたインク層の劣化に繋がり、光沢の低下、クラックの発生及び塗膜の変色等が起こる。上記、ピーク照度は、活性エネルギー線の出力を調整することのほか、活性エネルギー線の発生源と被照射物との距離を調整すること等によっても適宜調整することができる。
【0029】
更に、活性エネルギー線の照射量としては、積算光量100〜2000mJ/cm
2であることが好ましい。活性エネルギー線の積算光量が100mJ/cm
2よりも少ない場合には、反応率を80%以上とすることが困難となるため、付着性及び耐候性等の塗膜性能が低下する。活性エネルギー線の積算光量が2000mJ/cm
2よりも多い場合には、活性エネルギー線により、下塗り塗膜及び/又は活性エネルギー線硬化型インクにより形成された硬化塗膜の劣化に繋がり、光沢の低下、クラックの発生及び塗膜の変色等の塗膜外観や耐候性等の塗膜性能が低下する。上記、積算光量については、活性エネルギー線の照射時間を調整することのほか、照射源及び/又は被照射物が移動しながら照射される場合には、その移動速度を調整すること等によっても適宜調整することができる。本発明において、前述の通り、活性エネルギー線硬化型インクより硬化塗膜を形成する際の硬化反応の反応率を80%以上とするために、上記、ピーク照度、積算光量をそれぞれ適宜調整し、組み合わせることができる。
【0030】
上記のようなエチレン性不飽和基を有するモノマーのうち、エチレン性不飽和基を1つ有するものとしては、例えば、ステアリル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシキプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルイミダゾール、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル(メタ)アクリレート、エトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリンモノアリルエーテル等の各種(メタ)アクリレート系モノマー、ビニル系モノマー、及びアリルエーテル系モノマー等が挙げられ、これらを1種単独でもよく、或いは2種以上を組み合わせることもできる。好ましくは、硬化後の塗膜の変色の点から、イソボルニル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式モノマーがよく、一方で、塗膜の柔軟性の点から、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びエトキシ−ジエチレングリコールアクリレートがよく、これらを組み合わせてインクを設計することが好ましい。
【0031】
また、エチレン性不飽和基を2つ有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(200、400又は600)ジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2−(2’−ビニルオキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ジアリルエーテル等の各種(メタ)アクリレート系モノマー、ビニル系モノマー、アリル系モノマー、並びにこれらモノマーのアルキレングリコール変性物が挙げられ、これらを1種単独でもよく、或いは2種以上を組み合わせることもできる。好ましくは、硬化後の塗膜の強靱性、硬化性、硬化後の塗膜の変色の点から、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート及び1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレートがよい。
【0032】
さらに、エチレン性不飽和基を3つ以上有する多官能モノマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレート系モノマー、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等のアリルエーテル系モノマー、並びにこれらモノマーのアルキレングリコール変性物が挙げられ、これらを1種単独でもよく、或いは2種以上を組み合わせることもできる。
【0033】
上記エチレン性不飽和基を有するモノマーの含有量については、インクの硬化性や塗膜性能の観点から、インク総量に対して50〜90質量%含有されることが好ましい。また、インク中にモノマー及びオリゴマーが含有される場合には、当該エチレン性不飽和基を1つ有するモノマーが、全モノマー及びオリゴマーの総量に対して40〜90質量%であることが好ましい。
【0034】
一方、エチレン性不飽和基を有するオリゴマーとしては、(メタ)アクリロイル基を1つ以上有する(メタ)アクリレートオリゴマー、ビニル基を1つ以上有するビニルオリゴマー、アリル基を1つ以上有するアリルオリゴマー等の各種オリゴマーを使用することができる。特に、アクリレートオリゴマーとしては、官能基数は2〜6であることが好ましい。アクリレートオリゴマーの具体例としては、アミノアクリレートオリゴマー[アミノ基(−NH
2)を複数持つアクリレートオリゴマー]、ウレタンアクリレートオリゴマー[ウレタン結合(−NHCOO−)を複数持つアクリレートオリゴマー]、エポキシアクリレートオリゴマー[エポキシ基を複数持つアクリレートオリゴマー]、シリコーンアクリレートオリゴマー[シロキサン結合(−SiO−)を複数持つアクリレートオリゴマー]、エステルアクリレートオリゴマー[エステル結合(−COO−)を複数持つアクリレートオリゴマー]及びブタジエンアクリレートオリゴマー[ブタジエン単位を複数持つアクリレートオリゴマー]等が挙げられる。これらの中でも、耐候性や付着性の観点から、ウレタンアクリレートオリゴマーが好ましく、構造中に芳香環を持たない脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーが更に好ましい。なお、アクリレートオリゴマーの含有量は、硬化性、粘度の点から活性エネルギー線硬化型インクの全質量中1〜20質量%であることが好ましい。
【0035】
アクリレートオリゴマーの具体例としては、例えば、以下のものが挙げられ、これらを1種単独でもよく、或いは2種以上を組み合わせることもできる。すなわち、
ビームセット502H、ビームセット505A−6、ビームセット550B、ビームセット575、ビームセットAQ−17(以上、荒川化学工業社製)、
UA−306H、UA−306I、UA−510H、UF−8001G(以上、共栄社化学社製)、
CN929、CN940、CN944B85、CN959、CN961E75、CN961H81、CN962、CN963A80、CN963B80、CN963E75、CN963E80、CN963J75、CN964、CN964A85、CN964E75、CN965、CN965A80、CN966A80、CN966B85、CN966H90、CN966J75、CN966R60、CN968、CN980、CN981、CN981A75、CN981B88、CN982A75、CN982B88、CN982E75、CN982P90、CN983、CN985B88、CN989、CN991、CN996、CN9001、CN9002、CN9004、CN9005、CN9006、CN9007、CN9008、CN9009、CN9010、CN9011、CN9014、CN9178、CN9788、CN9893(以上、サートマー社製)、
U−4HA、U−6HA、U−6LPA、UA−1100H、UA−53H、UA−33H、U−200PA、UA−4200、UA−122P(以上、新中村化学工業社製)、
ニューフロンティアR−1214、ニューフロンティアR−1301、ニューフロンティアR−1304、ニューフロンティアR−1306X、ニューフロンティアR−1150D(以上、第一工業製薬社製)、
EBECRYL230、EBECRYL244、EBECRYL245、EBECRYL264、EBECRYL265、EBECRYL270、EBECRYL284、EBECRYL285、EBECRYL294、EBECRYL1290、EBECRYL4820、EBECRYL5129、EBECRYL8201、EBECRYL8402、EB7100(以上、ダイセル・オルネクス社製)、
UV−1700B、UV−7600B、UV−7605B、UV−6630B、UV−7000B、UV−7461TE、UV−3000B、UV−3310B、UV−3520TL、UV−3700B(以上、日本合成化学社製)、
アートレジンUN−333、UN−1255、UN−2600、UN−2700、UN−5500、UN−5507、UN−6060P、UN−6200、UN−6300、UN−6301、UN−7600、UN−7700、UN−9000PEP、UN−9200A、UN−3320HA、UN−3320HC、UN−904(以上、根上工業社製)、
アロニクスM−6100、アロニクスM−6200、アロニクスM−6250、アロニクスM−6500、アロニクスM−7100、アロニクスM−7300K、アロニクスM−8030、アロニクスM−8060、アロニクスM−8530、アロニクスM−8560、及びアロニクスM−9050(以上、東亞合成社製)等の各種市販品を使用することができる。また、公知技術により得られる各種手法により適宜合成して使用することができる。
【0036】
本発明における活性エネルギー線硬化型インクには、硬化後の塗膜の強靱性や可撓性を向上させるため及び/又は硬化収縮を低減させるために、更に、エチレン性不飽和基を含有しない分子量5000以上の高分子量物質を添加することができる。これらの高分子物質は、それ自体に高い強靱性や可撓性を有しているが、上記したエチレン性不飽和基を有するモノマー及び/又はオリゴマーとはエチレン性不飽和基由来の重合反応を生じないため、塗膜に強靱性や可撓性を付与し、且つ、硬化収縮を低減することが可能となる。また、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基等の官能基を含有した高分子物質を選択することで、下塗り塗料と上塗り塗料の付着性を向上させることができる。
【0037】
エチレン性不飽和基を含有しない高分子物質として、例えば、ダイヤナールBR−50、ダイヤナールBR−52、ダイヤナールBR−60、ダイヤナールBR−64、ダイヤナールBR−73、ダイヤナールBR−75、ダイヤナールBR−77、ダイヤナールBR−80、ダイヤナールBR−82、ダイヤナールBR−83、ダイヤナールBR−84、ダイヤナールBR−85、ダイヤナールBR−87、ダイヤナールBR−88、ダイヤナールBR−90、ダイヤナールBR−95、ダイヤナールBR−96、ダイヤナールBR−100、ダイヤナールBR−101、ダイヤナールBR−102、ダイヤナールBR−105、ダイヤナールBR−106、ダイヤナールBR−107、ダイヤナールBR−108、ダイヤナールBR−110、ダイヤナールBR−1122、ダイヤナールBR−113、ダイヤナールBR−115、ダイヤナールBR−116、ダイヤナールBR−117、ダイヤナールBR−118、ダイヤナールBR−122、ダイヤナールBR−605、ダイヤナールMB−2539、ダイヤナールMB−2389、ダイヤナールBR−2660、ダイヤナールBR−2952、ダイヤナールMB−3012、ダイヤナールBR−3015、ダイヤナールMB−7033、ダイヤナールMB−2478(以上、三菱レイヨン社製)、
CAB−551−0.01、CAB−551−0.2、CAB−553−0.4、CAB−531−1、CAB−500−5、CAB−381−0.1、CAB−381−0.5、CAB−381−2、CAB−321−0.1、CAB−504−0.2、CAB−482−0.5、Solus2100、Solus2300、Solus3050(以上、Eastman Chemical Company社製)、
パラロイドA−11、パラロイドA−14、パラロイドA−21、パラロイドB−60、パラロイドB−64、パラロイドB−66、パラロイドB−72、パラロイドB−82、パラロイドB−44、パラロイドB−48N、パラロイドB−67、及びパラロイドRG−310(以上、Roam And Haas Company社製)等の各種市販品を使用することができる。また、公知技術により得られる各種高分子物質を合成して使用することができる。更に、これらの2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
また、本発明における活性エネルギー線硬化型インクには、光重合開始剤を含有することができる。光重合開始剤としては、ラジカル重合系の開始剤、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルーフォスフィンオキサイド、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン及び2−クロロチオキサントン等が挙げられ、これらを1種単独で、或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。より好ましくは、活性エネルギー線照射により分解後、分子の外観が退色して、硬化後の塗膜への着色が低減できる2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイドがよい。光重合開始剤の含有量としては、インク総量に対して1〜20質量%が好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。
【0039】
また、本発明における活性エネルギー線硬化型インクには、必要に応じて、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、ベンゾフェノン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N−ジメチルベンジルアミン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、等の各種増感剤、並びに重合促進剤が使用できる。
【0040】
また、本発明における活性エネルギー硬化型インクには、染料や顔料等の着色剤を含有しても良いが、耐候性の観点から、顔料を含有することが好ましい。このような着色剤は、1種単独でもよく、或いは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、着色剤の含有量については、インク総量に対して、2〜20質量%であることが好ましい。着色剤の含有量が2質量%よりも少ない場合には、充分な隠蔽性が得られず、多量のインクを塗布しなければならないため、生産性に劣るだけでなく、硬化不良や滲みの原因となる。着色剤の含有量が20質量%よりも多い場合には、高粘度となり吐出安定性が低下したり、顔料により活性エネルギー線が遮蔽され、硬化不良の原因となる。着色剤の粒子径としては、動的光散乱法により測定した平均粒子径が40〜500nmであり、且つ累積最大粒子径が1μm以下であることが好ましい。累積最大粒径が1μmよりも大きい場合は、インクジェット方式で用いる場合にノズル部での詰まりを生じ易くなるので好ましくない。
【0041】
また、活性エネルギー線硬化型インクには、下塗り塗料との付着性を向上させるため及び/又は下塗り塗料への濡れ性を向上させるために、各種表面調整剤を使用することができる。また、活性エネルギー線硬化型インクには、塗膜の耐候性を向上させるために、紫外線級剤やラジカル補足剤等の光安定剤を使用することができる。また、貯蔵安定性を向上させるために、ヒドロキノン系化合物等の各種重合禁止剤を使用することができる。
【0042】
活性エネルギー線硬化型インクの各種塗装方法としては、インクジェット印刷、オフセット印刷(平板印刷)、フレキソ印刷(凸版印刷)、グラビア印刷(凹版印刷)、スクリーン印刷(孔版印刷)等の各種印刷方法が挙げられるが、基材上、特に表面に凹凸を有する建築物内外装材に意匠性が高い模様を形成するためには、基材に非接触で塗装可能なインクジェット方式により行われることが好ましい。インクジェット方式を用いると、インクを所望する部分のみに塗布することができるため、インクの無駄を低減することができ、版を必要としないため、多種多様な模様を短時間で切り替えることが可能となる。
【0043】
活性エネルギー線硬化型インクをインクジェット方式により塗装する場合には、一般にインク粘度を最適範囲とするため、インクジェットヘッド部にてインクを30〜60℃に加温して吐出する。従って、良好な塗装を行うために、本発明で用いられる活性エネルギー線硬化型インクの表面張力としては、吐出温度において、20〜35mN/mであることが好ましい。表面張力が20mN/mよりも小さい場合には、上記下塗り塗膜層上に該インクが過剰に濡れ広がってしまい、画像の鮮鋭性が低下する傾向がある。また、ヘッド部においても、ノズル先端部において過剰に濡れ広がってしまい、吐出安定性が低下する。インクの表面張力が35mN/mよりも大きい場合には、上記下塗り塗膜層上に充分に該インクが濡れ広がらず、濃い色相を得るためには、多量のインクを塗布しなければならず、生産性が低下する傾向がある。活性エネルギー線硬化型インクの粘度としては、安定に吐出するために、吐出温度において5〜25mPa・sであることが好ましい。また、本発明の活性エネルギー線硬化型インクの表面張力を上述の特定した範囲内に調整する方法としては、例えば、各種表面調整剤等を使用する手法が挙げられる。
【0044】
活性エネルギー線硬化型インクの塗布量としては、0.2〜50mg/m
2であることが好ましい。また、塗布後の膜厚は、1〜50μmであることが好ましい。
【0045】
<上塗り塗装>
本発明において、前記活性エネルギー線硬化型インクを塗装して硬化させて硬化塗膜を形成した後には、表面仕上がり外観の調整や耐久性の確保を目的として、当該硬化塗膜上に上塗り塗装を行う。本発明における上塗り塗装に使用される塗料としては、溶剤系塗料、水系塗料、無溶剤系塗料又は粉体塗料の各種クリア塗料を使用することができ、好ましくは、環境への配慮からよりVOCの排出を低減できる水系塗料、無溶剤系塗料又は粉体塗料が使用できる。内装材等の高い耐候性を要求されない分野においては、速乾性であり生産性に優れた活性エネルギー線硬化型のクリア塗料も使用できる。好ましくは、それ自体の取り扱いが困難である無溶剤系型塗料や、場合により200℃以上の高温において乾燥及び焼付けを必要とする粉体塗料よりも、1液型で取り扱いの簡便な水系塗料がよく、中でも水性クリア塗料がより好ましい。なお、本発明におけるクリア塗料とは、透明性の塗料を指し、下層の塗膜層を着色により隠蔽しない塗料を意味するが、下述のように、光沢及び/又は意匠等の仕上がり外観を調整するために、各種体質顔料又は樹脂ビーズ等を適宜添加することができる。
【0046】
また、本発明において、上塗り塗装を行なう場合には、活性エネルギー線硬化型インクにより形成された硬化塗膜の表面温度(以下、単に、「表面温度」という場合がある。)を、硬化塗膜のガラス転移温度の理論値よりも高くすることが必要である。ここで、硬化塗膜のガラス転移温度の理論値〔Tg(K)〕とは、硬化塗膜を形成する各重合体成分(エチレン性不飽和基を有するモノマー及びオリゴマー)のホモポリマーのガラス転移温度を用いて計算されるものであり、次のフォックス(Fox)の式〔式(4)〕を用いて求めることができる。
1/Tg=(W
1/Tg
1)+(W
2/Tg
2)+・・・+(W
n/Tg
n) ・・・式(4)
〔但し、Tg
nは、n種の重合体成分(エチレン性不飽和基を有するモノマー又はオリゴマー)の各ホモポリマーのガラス転移温度(K)であり、W
nは、前記各重合体成分の質量分率である。W
1+W
2+・・・+W
n=1である。〕
【0047】
本発明において、前記硬化塗膜の表面温度が、前記ガラス転移温度の理論値(Tg)以下の場合には、上塗り塗料の付着性が不十分になり、初期及び経時的な付着性が低下する虞がある。このような表面温度については、前記ガラス転移温度の理論値(Tg)よりも10℃以上高くすることが上塗り塗料の付着性の点からより好ましい。このように、上塗り塗装を行なう場合の表面温度を、前記ガラス転移温度の理論値(Tg)よりも高くすることにより上塗り塗料の付着性が良くなる理由としては、当該表面温度が前記ガラス転移温度の理論値(Tg)よりも高い場合には、前記硬化塗膜の結晶性が低くなるため、上塗り塗料が硬化塗膜上に塗装された際、上塗り塗料と硬化塗膜とが十分に接近・融着し易く、強い分子間相互作用が得られるためであると推測される。
【0048】
また、上塗り塗装を行なう際の前記硬化塗膜の表面温度については、塗膜に悪影響を及ぼす可能性のあるような200℃以上で長時間の加熱などでなければ、前述の通りTgよりも高くすることができるが、特に上塗りとして水系のクリア塗料を使用する場合には、前記表面温度を100℃以下とすることが好ましい。前記表面温度が100℃よりも高い温度で上塗り塗装をした場合、上塗りの成膜不良となり易く、発泡や亀裂の発生など塗膜欠陥の原因となり、硬化塗膜のTgより高い温度で上塗り塗装した場合であっても、良好な塗膜性能を得られない可能性があるからである。
【0049】
硬化塗膜の表面温度を調整する方法としては、例えば、熱風、ヒーター、送風、ホットプレートなどで加熱する方法が挙げられるが、特に限定されない。また、硬化塗膜の表面温度の測定方法としては、接触式温度計、非接触式温度計(赤外放射温度計)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0050】
このような上塗り塗料に使用される樹脂としては、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂等の各種合成樹脂を使用することができるが、特に限定されない。これらの樹脂の内、2種類以上の樹脂を組み合わせて用いることもできる。
【0051】
また、上塗り塗料としては、耐候性向上を目的として、紫外線吸収剤等の光安定剤を使用することができ、それら光安定剤の内2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、上塗り塗料は、光沢及び意匠等の仕上がり外観を調整するために、各種体質顔料又は樹脂ビーズ等を添加することができ、これら2種以上を組み合わせることができる。更に、上塗り塗料は、その下層の硬化塗膜との付着性を向上させるために、シランカップリング剤等を添加することができる。また更に、上塗り塗料に各種機能を付与するため、増粘剤、分散剤、消泡剤、沈降防止剤、防カビ剤又は防腐剤等が適宜添加されてもよい。
【0052】
本発明における上塗り塗料の表面張力としては、25℃において、20〜50mN/mであることが好ましい。表面張力が20mN/mよりも小さい場合には、泡が発生し易くなるため、塗膜中に気泡が残存し、塗膜欠陥の原因となり易い。泡を抑制するために多量の消泡剤を添加した場合、上塗り塗料を塗装した際に、ハジキ等の塗膜欠陥を生じる原因となる。上塗り塗料の表面張力が50mN/mよりも大きい場合には、硬化塗膜上へ充分に濡れ広がり難くなり、レベリング性が低下し、塗膜外観が低下する原因となる。本発明の上塗り塗料の表面張力を上述の特定した範囲内に調整する方法としては、例えば、各種表面調整剤等を使用する手法が挙げられる。
【0053】
上塗り塗膜層を形成する方法としては、エアスプレー、エアレススプレー、ロールコーター、フローコーター及びインクジェット等の従来から使用されている各種塗装手段を用いた方法が挙げられる。また、上塗り塗装の乾燥方法としては、常温乾燥、熱風や赤外線照射による強制乾燥、活性エネルギー線照射等が挙げられ、上塗り塗料の種類・特性に応じて適宜選択することができる。
【0054】
上塗り塗料の塗布量としては、20〜200g/m
2であることが好ましい。20g/m
2より少ない場合には、隠蔽性に劣り、200g/m
2よりも多い場合には、乾燥及び/又は硬化の不良となり易く、クラック発生等の塗膜性能が低下する。なお、上塗り塗装後の膜厚については、5〜40μmであることが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下では、特に断りが無い限り、「質量部」を単に「部」と、「質量%」を単に「%」と記載することがあるものとする。
【0056】
使用した原料などの詳細を以下に示す。
<基材>
スレート板〔150mm×70mm×5mm、TP技研(株)製〕
<シーラー>
水性マイティーシーラーマルチ〔カチオン型水性塗料、大日本塗料(株)製商品名〕
<下塗り塗料>
DNTビューアクリル〔水性アクリルエマルション塗料、大日本塗料(株)製商品名〕
<活性エネルギー線硬化型インク>
以下の表1の通りの配合により、インク1〜5を調製した(表中の組成の単位は質量部である。表2についても同様とする。)。
具体的には、表1中の各原料を全て混合し、ビーズミルにて5時間練合・溶解を行なった後、孔径1μmのグラスフィバーフィルターにより濾過して不純物を除去した。配合した各原料については以下の通りである。なお、これらのインクのエチレン性不飽和基の平均官能基数、及び硬化塗膜のガラス転移温度の理論値(Tg)については、それぞれ前述の式(3)及び式(4)を用いて算出した。
・MA100〔カーボンブラック顔料、三菱化学(株)製商品名〕
・Solsperse32000〔顔料分散剤、日本ルーブリゾール(株)製商品名〕
・イソボルニルアクリレート(単官能モノマー)
・N−ビニルカプロラクタム(単官能モノマー)
・2−フェノキシエチルアクリレート(単官能モノマー)
・1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(2官能モノマー)
・トリメチロールプロパントリアクリレート(3官能モノマー)
・EBECRYL8210〔脂肪族ウレタンアクリレート、4官能オリゴマー、ダイセルオルネクスジャパン(株)製商品名〕
・2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド(光重合開始剤)
・1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン〔光重合開始剤、商品名:IRGACURE184、BASFジャパン(株)社製〕
【0057】
【表1】
【0058】
<上塗り塗料>
以下の表2の通りの配合により、上塗り塗料を調製した。
具体的には、表2中の各原料を全て混合し、高速分散機〔ホモディスパー2.5、プライミクス(株)社製〕にて撹拌を行なった後、100メッシュの金属網で濾過して不純物を除去した。なお、配合した各原料については以下の通りである。
・ポリデュレックスG613〔アクリルシリコーン樹脂エマルション(固形分42%)、旭化成ケミカルズ(株)製商品名〕
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(成膜助剤)
・プライマルRM−8W〔増粘剤、ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製商品名〕
・ACEMATT TS100(艶消し剤、エボニック社製商品名)
・TINUVIN 1130〔紫外線吸収剤、BASFジャパン(株)製商品名〕
・TINUVIN 292〔光安定剤、BASFジャパン(株)製商品名〕
・SNデフォーマー777〔消泡剤、サンノプコ(株)製商品名〕
・PROXEL XL2〔防腐剤、アーチケミカルズ・ジャパン(株)製商品名〕
【0059】
【表2】
【0060】
<建築板の製造>
[
参考例1]
まず、基材上にシーラーを塗布量100g/m
2となるようにエアスプレーして塗装し、室温で2時間乾燥後、その上に下塗り塗料を塗布量100g/m
2(乾燥膜厚:25μm)となるようにエアスプレーして塗装し、室温で1週間乾燥させた。
【0061】
下塗り塗装した基材上に、上記で準備した活性エネルギー線硬化型インク(インク1)をインクジェットプリンター〔EB100(制御装置)、XY100(搬送ステージ)、共にコニカミノルタIJ(株)社製〕にて塗布量7.5mg/m
2となるように印刷した。その後、メタルハライドランプによりピーク照度800mW/cm
2で一回当たりの積算光量50mJ/cm
2のUV光を照射して、インクを硬化させた。反応率の調整は、照射回数により調整し、インク1の硬化反応の反応率が80%となるように硬化塗膜を形成した。なお、硬化反応の反応率については、前述の通り、FT−IR法にて硬化反応前後における810cm
-1、1725cm
-1の各吸収強度を測定し、前述の式(1)及び式(2)から算出した。なお、後述するインク4については、アクリロイル基(810cm
-1)及びビニル基(1625cm
-1)のそれぞれの各吸収強度と1725cm
-1の吸収強度とを測定し、同じように式(2)を用いて残存不飽和基(%)を算出し、これらの合計をインク4における残存不飽和基(%)として、式(1)から反応率を算出した。
【0062】
活性エネルギー線硬化型インク(インク1)の印刷・硬化後、小型乾燥炉〔MO−931、富山産業(株)社製〕を用いて加温し、硬化塗膜の表面温度(表面温度)が51℃の状態で、上記で準備した上塗り塗料(クリア塗料)を塗布量が80g/m
2(塗布厚み:25μm)になるように塗装した。なお、上塗り塗装を行なう際の硬化塗膜の表面温度の測定は、赤外線放射型非接触温度計(ISK−8700II、アズワン(株)社製)を用いて行なった。その後、上塗り塗装を行なった基材を80℃に設定した乾燥炉の中で20分間乾燥させ、取り出し後、基材温度が室温になるまで静置して、
参考例1に係る建築板を作製した。その後、以下の各評価を実施した。
【0063】
[評価方法]
(1)初期付着性(JIS K 5600−5−6:1999に準拠)
作製した建築板にカッターナイフを用いて縦横2mm間隔で切れ目を入れ、計100マス目を作製して、セロテープ(登録商標)剥離試験を行った。測定結果は表3〜5に示す通りであった。なお、評価基準は以下の通りである。
○:分類0〜1
△:分類2
×:分類3〜5
なおJIS K 5600−5−6:1999の8.3に記載される分類0〜5は以下の通りである。
・分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
・分類1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受け るのは、明確に5%を上回ることはない。
・分類2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロス カット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることは ない。
・分類3:塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び /又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカ ット部分で影響を受けるのは,明確に15%を超えるが35%を上回ること はない。
・分類4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び /又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で 影響を受けるのは、明確に35%を上回ることはない。
・分類5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0064】
(2)耐水性(JIS K 5600−6−2:1999に準拠)
作製した建築板を、40℃に保った恒温水槽中に浸漬し、240時間後に取り出して乾燥させた。その後、発生した膨れ、白化等の外観の観察をし、また、付着性を上記(1)の方法と同様の方法で評価した。結果を表3〜5に示す。なお、評価基準は以下の通りである。
○:膨れ、白化等の外観異常が無く、付着性が分類0〜2である。
△:膨れ、白化等の外観異常が無く、付着性が分類3〜5である。
×:膨れ、白化等の外観異常が見られる。
【0065】
(3)促進耐候性(JIS K 5600−7−7:2008に準拠)
作製した建築板を、JIS K 5600−7−7に記載のキセノンランプ法に従い、ウェザオメーターCi4000(アトラス社製)により促進耐侯性試験を実施した。試験時間1000時間まで実施し、塗膜外観評価及び付着性を上記(1)の方法と同様の方法で評価した。結果を表3〜5に示す。なお、評価基準は以下の通りである。
○:膨れ、白亜化、クラック等の外観異常が無く、付着性が分類0〜2である。
△:膨れ、白亜化、クラック等の外観異常が無く、付着性が分類3〜5である。
×:膨れ、白亜化、クラック等の外観異常が見られる。
【0066】
[実施例2〜
7、10〜12、14、15及び17〜20、参考例8、9、13及び16、
並びに比較例1〜12]
使用する活性エネルギー線硬化型インク(インク1〜インク5)、硬化反応の反応率及び硬化塗膜の表面温度を表3〜5に記載の条件として、実施例2〜
7、10〜12、14、15及び17〜20、参考例8、9、13及び16、
並びに比較例1〜12に係る建築板を作製し、上記実施例1に係る建築板と同様の評価を行なった。その結果を表3〜5に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【課題】活性エネルギー線硬化型インクの硬化塗膜と上塗り塗膜との初期付着性に優れるだけでなく、経時的な付着性の低下や亀裂の発生等が無く、しかも耐水性と耐候性とに優れた塗膜を備えた高品質な建築板の製造方法を提供する。
【解決手段】下塗り塗装を施した基材上に、エチレン性不飽和基を有するモノマー及び/又はオリゴマーを含有した活性エネルギー線硬化型インクを塗装した後、活性エネルギー線を照射して硬化塗膜を形成し、次いで、当該形成した硬化塗膜上に上塗り塗料を塗装して建築板を製造する建築板の製造方法であって、前記硬化塗膜を形成する際の硬化反応の反応率が80%以上であり、且つ上塗り塗料を塗装する際の前記硬化塗膜の表面温度が、フォックスの式から計算される当該硬化塗膜のガラス転移温度の理論値よりも高いことを特徴とする建築板の製造方法である。