(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797323
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】急速なスイッチングを行う二重セル液晶装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1347 20060101AFI20151001BHJP
G02F 1/133 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
G02F1/1347
G02F1/133 570
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-501450(P2014-501450)
(86)(22)【出願日】2011年3月30日
(65)【公表番号】特表2014-509756(P2014-509756A)
(43)【公表日】2014年4月21日
(86)【国際出願番号】EP2011054944
(87)【国際公開番号】WO2012130302
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】513245015
【氏名又は名称】コミトブ,ラヒェザー
【氏名又は名称原語表記】KOMITOV,Lachezar
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100135035
【弁理士】
【氏名又は名称】田上 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131266
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼ 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】コミトブ,ラヒェザー
【審査官】
佐藤 洋允
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−186334(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/146948(WO,A1)
【文献】
特開2011−186331(JP,A)
【文献】
特表2009−534704(JP,A)
【文献】
特開平01−191123(JP,A)
【文献】
特開昭62−153833(JP,A)
【文献】
特開昭62−089925(JP,A)
【文献】
特開平05−297402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F1/1347
G02F1/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過する光を変調するための液晶装置であって、
第1液晶セル及び第2液晶セルは、前記第1液晶セルを通過する光が前記第2液晶セルに達するような層状の構造として配置され、
一対の交差した偏光板が、層状の前記第1液晶セルと前記第2液晶セルの両側に配置され、
前記液晶装置が示すトータル複屈折率が、前記第1液晶セルの複屈折率と前記第2液晶セルの複屈折率の和であり、
前記第1液晶セルは、複屈折率がゼロではないことを示す緩和OFF状態と、複屈折率が実質的にゼロであることを示す切替ON状態との間で個別に制御可能であり、
前記第2液晶セルは、複屈折率が実質的にゼロであることを示す緩和OFF状態と、複屈折率がゼロではないことを示す切替ON状態との間で個別に制御可能であり、
前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルは、
前記第2液晶セルが緩和OFF状態のままで、(時間t1において)前記第1液晶セルが緩和OFF状態から切替ON状態へ遷移することにより、前記液晶装置の前記トータル複屈折率が、ゼロではない第1トータル複屈折率から、実質的にゼロである第2トータル複屈折率へ変化して、前記液晶装置は、明状態の光変調状態から暗状態の光変調状態へ遷移し、
その後、前記第1液晶セルが切替ON状態のままで、(時間t2において)前記第2液晶セルが緩和OFF状態から切替ON状態へ遷移することにより、前記液晶装置の前記トータル複屈折率が、前記第2トータル複屈折率から前記第1トータル複屈折率へ戻り、前記液晶装置は、前記暗状態の光変調状態から前記明状態の光変調状態へ戻るように遷移し、
その後、(時間t3において)前記第1液晶セルが切替ON状態から緩和OFF状態へ、かつ、前記第2液晶セルも切替ON状態から緩和OFF状態への同時緩和により、前記液晶装置の前記トータル複屈折率が、実質的に一定のままであり、また、前記第1トータル複屈折率に等しいので、前記液晶装置は、この同時緩和中において、前記明状態の光変調状態のままである、
ように、配置され、かつ、構成される、ことを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記第1液晶セルは第1制御電極及び第2制御電極を含み、前記第1液晶セルの第1制御電極及び第2制御電極は、前記第1液晶セルの第1制御電極と第2制御電極との間に電圧を加えることによって、前記第1液晶セルを緩和OFF状態から切替ON状態へ制御することを可能にするように配置され、かつ、
前記第2液晶セルは第1制御電極及び第2制御電極を含み、前記第2液晶セルの第1制御電極及び第2制御電極は、前記第2液晶セルの第1制御電極と第2制御電極との間に電圧を加えることによって、前記第2液晶セルを緩和OFF状態から切替ON状態へ制御することを可能にするように配置されることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記第1液晶セルは、前記第1液晶セルに含まれる液晶分子が前記第1液晶セルの一対の基板にほぼ平行に配置されるように、緩和OFF状態において平面配向の構成であり、かつ、
前記第2液晶セルは、前記第2液晶セルに含まれる液晶分子が前記第2液晶セルの一対の基板にほぼ垂直に配置されるように、緩和OFF状態において垂直配向の構成であることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置。
【請求項4】
前記第2液晶セルに含まれる液晶分子は、負の誘電率異方性を示し、
前記第2液晶セルの第1基板上に配置された第1制御電極、及び、前記第2液晶セルの第2基板上に配置された第2制御電極を含むことを特徴とする請求項3に記載の液晶装置。
【請求項5】
前記第2液晶セルに含まれる液晶分子は、正の誘電率異方性を示し、前記液晶装置は、面内電場を作り出すために、前記第2液晶セルの第1基板上に配置された第1及び第2制御電極を含むことを特徴とする請求項3に記載の液晶装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の液晶装置の作動を制御する方法であり、該方法は、
第2液晶セルが緩和OFF状態に留まるようにしながら、第1液晶セルを緩和OFF状態から切替ON状態へ制御し、
前記第1液晶セルが切替ON状態に留まるようにしながら、前記第2液晶セルを緩和OFF状態から切替ON状態へ制御し、かつ、
前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルを、其々の切替ON状態から其々の緩和OFF状態へ緩和するように同時に制御する、各ステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記第1液晶セルと前記第2液晶セルの其々は、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの緩和中において、前記液晶装置のトータル複屈折率が、ほぼ一定のままであるように、其々の切替ON状態から其々の緩和OFF状態へ緩和するように制御されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通過する光を変調するための液晶装置に関するものである。本発明は、さらに、このような液晶装置を制御するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの適用において、透明(“明”)状態と不透明(“暗”)状態の間の急速なスイッチングは望ましい。
液晶装置は、例えば、明状態と暗状態の間のスイッチングを実現する光シャッターとして用いられるが、特に、様々な液晶ディスプレイにおいて現在広く用いられている従来のネマチック液晶材料や利用可能な電子駆動技術を用いて、十分に急速なスイッチングスピードを実現することが困難であることが判明している。特に、ネマチック液晶材料の緩和は緩速な過程である。
液晶装置のスイッチングスピードを上げるための多くの解決法が提案されかつ試されているが、暗から明へ及び明から暗への短い時間でのスイッチングを同時に実現することが困難であることが判明している。
【発明の概要】
【0003】
先行技術の上記の問題に対処することが本発明の目的であり、本発明では、明状態と暗状態の間を行き来するスイッチングスピードをより速くすることを可能にするように構成されている改善された液晶装置を提供する。
【0004】
本発明における第1実施形態によれば、そのため、通過する光を変調するための液晶装置であって、該液晶装置は、一対の第1基板の間に挟みこまれた複数の液晶分子を含む液晶材料を有する第1液晶セル、及び、一対の第2基板の間に挟みこまれた複数の液晶分子を含む液晶材料を有する第2液晶セル、を含み、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルは、前記第1液晶セルを通過する光が前記第2液晶セルに達するような層状の構造として配置され、かつ、前記第1液晶セルと前記第2液晶セルの其々は、液晶セルが第1複屈折率を示す緩和状態と液晶セルが第2複屈折率を示す切替状態の間で個別に制御可能であり、液晶セルは、前記第2液晶セルが緩和状態のままで、前記第1液晶セルが緩和状態から切替状態へ遷移することにより、前記液晶装置のトータル複屈折率が第1トータル複屈折率から第2トータル複屈折率へ変化して、前記液晶装置は第1光変調状態から第2光変調状態へ遷移し、かつ、その後、前記第1液晶セルが切替状態のままで、前記第2液晶セルが緩和状態から切替状態へ遷移することにより、前記液晶装置のトータル複屈折率が第2トータル複屈折率から第1トータル複屈折率へ変化して、前記液晶装置は第2光変調状態から第1光変調状態へ戻るように遷移するように、配置され、かつ、構成される、ことを特徴とする液晶装置が提供される。
【0005】
均一の配向性を備えたネマチック液晶セルは、セル内の液晶分子の好適な配向方向に一致する光軸を備えた一軸性の(複屈折)光板として、光学的に機能する。このような液晶セルが交差する2つの偏光板の間に挿入されると、セルと偏光板を通過して伝達される光度lは、セルが偏光板の透過方向に対して45°の光軸で配向される場合、以下の式によって簡単に与えられる。
l=l
0sin
2δ/2,
ここで、δ=2πdΔn/λは、複屈折率Δn=n
e−n
0(n
eとn
0は、其々、液晶材料の異常光線と常光線の屈折率である)によるセルの位相遅延を表しており、λは光源の波長である。
【0006】
複屈折率Δn
1=n
e1−n
01及びΔn
2=n
e2−n
02と厚みd
1及びd
2を其々備えた2つの液晶セルが、相互に平行に配向され、其々の光軸の上端が層状の構造として重ね合わせられる場合、この2つのセルのトータルの位相遅延は、以下の式によって与えられる。
δ
total=δ
1+δ
2=2π(d
1Δn
1+d
2Δn
2)/λ
しかしながら、セルの光軸が90°をなす場合、2つの液晶セルのトータルの位相遅延は、
δ
total=δ
1−δ
2=2π(d
1Δn
1−d
2Δn
2)/λ,
か、またはさらに、以下のように合計として表すことができる。
δ
total=δ
1+(−δ
2)=2π[d
1Δn
1+d
2(−Δn
2)]/λ,
ただし、ここでΔn
2は負号を有する。これは、本発明の適用を背景として用いられる表記である。
【0007】
この二重セル装置におけるセルのギャップの厚みは、セルの不変のパラメータであり、つまり、かけられる電場に左右されない。一方で、セルの複屈折率は、電場をかけることによって制御可能である。従って、“複屈折率”及び“位相遅延”は、本発明の様々な態様に従って、液晶装置と同義であることが考慮される。
【0008】
さらに、“緩和”状態は、スイッチングしてかけられる電場が液晶装置内に存在しない“電場オフ”状態としての意味を持ち、かつ、“切替”状態は、スイッチングしてかけられる電場が液晶装置内に存在する“電場オン”状態としての意味を持つ。
【0009】
本発明は、液晶セル内の液晶材料の緩和(この緩和の持続期間は、セルのギャップの厚みとアンカリングの強度、及び、液晶材料の粘度と弾性定数によって決定される)が、明状態と暗状態の間を行き来するスイッチングスピードを制限する要素であり、かつ、この緩和過程が、連続して2つの適切な液晶セルを適切に配置することによって光学的に“相殺”されることを認識していることに基づいている。本発明の発明者は、さらに、連続して配置される2つの液晶セルのトータル複屈折率が、個々の液晶セルを能動的に切り替えることによって、液晶装置を(暗と明のような)2つの光変調状態の間で切り替えるために用いられることを理解している。また、液晶装置がどちらか1つの光変調状態に留まるようにしながら、液晶セルは同時に緩和することができ、これは、液晶装置が、2つの光変調状態の間を再び能動的に切り替えられる状態にある。
【0010】
これにより、液晶装置の第1変調状態から液晶装置の第2変調状態へのスイッチングと、第1変調状態へ戻すスイッチングの両方は、電場をかけることによって其々の液晶セル内の液晶分子を能動的に再配向するための急速な処理を用いて実現される。
【0011】
一旦、液晶装置が、液晶装置の第1光変調状態において、切替状態から緩和状態に戻るように緩和されると、液晶装置は、第1液晶セルを緩和状態から切替状態へ制御することによって、第2変調状態に再び切り替えられる状態にある。
【0012】
本発明における様々な実施形態に従った液晶装置において、第1及び第2液晶セルの液晶分子は、第1及び第2液晶セルの緩和状態においてほぼ相互に平行である。第1液晶セルが、液晶セル内部に電場をかけることによって制御され、切替状態に遷移した場合、第1液晶セルの液晶分子の配向は変化し、再び、液晶分子がほぼ相互に平行になるが、他の一般的な配向方向では、第1液晶セルの複屈折率が緩和状態の場合以上に変化しているであろう。これは、第1液晶セルの複屈折率の変化をもたらし、また、第2液晶装置は緩和状態のままでいるため、液晶装置のトータル複屈折率の変化をもたらすであろう。
【0013】
液晶装置のトータル複屈折率のこの変化により、交差した偏光板の間に設置された第1及び第2液晶セルを通過する光度レベルはさらに変化し、例えば、第1光変調状態から第2光変調状態への遷移をもたらす。
【0014】
注目すべきは、遷移される光度レベルのための、この複屈折率ベース制御が、例えば、ねじれたネマチックセルにおいて、液晶セルを通して徐々に変化する導波器によって行われる偏光制御とは全く異なることである。本発明における様々な実施形態に従った、この、液晶装置の複屈折率ベース制御の使用は、上述した第1及び第2光変調状態が明/暗状態であるように選択される設計を可能にする。これは、例えば、第1と第2液晶セルの同時緩和が暗状態または明状態において起こるかどうかが、液晶セルの設計によって、決定されることを意味する。その結果、液晶セルの複屈折率ベース制御を利用することは、様々な要求、例えば光学性能、生産収率、構造安定性など、に対して液晶セルの特性が適応することを可能にする。さらに、偏光板と分析器と液晶セルの間のずれの感度が低下される。
【0015】
第1液晶セルと第2液晶セルの其々は、上述したように電場がかけられる場合に、液晶分子が液晶セルの基板に垂直である1つの面内において再配向することを意味する、いわゆる“面外の”スイッチングに対して有利に構成される。
第1及び第2液晶セルの液晶材料は、(液晶装置の予期された動作状態に対する)ネマチック相において有利である。
【0016】
切替状態から緩和状態への第1液晶セルと第2液晶セルの同時緩和を、液晶装置のユーザーに対して光学的に目立たないような方法で起こすことが望ましい。そのためには、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルは、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの切替状態から緩和状態への同時緩和中に、前記第1液晶セルの複屈折率と前記第2液晶セルの複屈折率の和が、第1トータル複屈折率として、ほぼ一定のままであるように配置され、かつ、構成される。
【0017】
この装置のトータル複屈折率は、セル内の緩和過程中に起こる複屈折率の補正効果により、一定のままでいる。このセル内の緩和過程における特有の特性は、第1液晶セルの複屈折率が上昇/低下する一方で、第2液晶セルの複屈折率が低下/上昇し、トータル複屈折率に対して一定の値をもたらす故に、緩和過程を光学的に見えないようにすることである。
【0018】
液晶装置は、液晶装置の外部に配置される制御手段により、原則として制御可能であろう。しかしながら、前記第1液晶セルは第1制御電極及び第2制御電極を含み、前記第1液晶セルの第1制御電極及び第2制御電極は、前記第1液晶セルの第1制御電極と第2制御電極との間に電圧を加えることによって、前記第1液晶セルを緩和状態から切替状態へ制御することを可能にするように配置され、かつ、前記第2液晶セルは第1制御電極及び第2制御電極を含み、前記第2液晶セルの第1制御電極及び第2制御電極は、前記第2液晶セルの第1制御電極と第2制御電極との間に電圧を加えることによって、前記第2液晶セルを緩和状態から切替状態へ制御することを可能にするように配置されるように、液晶装置は有利に構成される。
このような制御電極は、上述した液晶セルの面外のスイッチングを提供するために有利に配置される。
【0019】
本発明における様々な実施形態によると、前記第1液晶セルの第1複屈折率はゼロではなく、かつ、前記第2液晶セルの第1複屈折率はほぼゼロであり、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルは、第1トータル複屈折率がゼロにならないように配置される。
【0020】
これらの実施形態に従った液晶装置が交差した偏光板の間に設置される場合、好適にはほぼ45°に等しいが、0°<φ<90°の範囲内で変化する1つの偏光板の透過方向角度φをなす第1液晶セルまたは第2液晶セルの少なくとも1つの光軸を備えて、第1変調状態は、(第1液晶セルと第2液晶セルの両方が緩和状態にある場合)明状態であろう。
さらに、これらの実施形態において、前記第1液晶セルの第2複屈折率はほぼゼロであり、第2トータル複屈折率がほぼゼロになる。これは、第2変調状態が、液晶装置が交差した偏光板の間に適切に設置されている場合、暗状態になることをもたらす。
【0021】
本発明における1つの実施形態によれば、前記第1液晶セルは、前記第1液晶セルに含まれる液晶分子が一対の第1基板にほぼ平行に配置されるように、緩和状態において平面配向の構成であり、かつ、前記第2液晶セルは、前記第2液晶セルに含まれる液晶分子が一対の第2基板にほぼ垂直に配置されるように、緩和状態において垂直配向の構成である。
【0022】
以下において、緩和状態において平面配向構成にある液晶セルは、“PAセル”とし、かつ、緩和状態において垂直配向構成にある液晶セルは、“VAセル”とする。第1液晶セルがPAセルであり、かつ、第2液晶セルがVAセルである液晶装置は、VA/PA二重セル装置と呼ばれる。
【0023】
VAセル内に含まれる液晶分子は、負の誘電異方性を有利に示すことができ、その結果、第1制御電極を第1液晶セルの第1基板に配置し、かつ、第2制御電極を第1液晶セルの第2基板に配置することにおいて有利である。これにより、VAセル内の液晶分子は、垂直に並べられた状態(複屈折率がほぼゼロに等しい状態)から、基板に対して平行に並べられた液晶分子が平面上に並べられた状態のような、複屈折率がゼロではない状態へ制御される。
【0024】
また、VAセルの液晶分子は、正の誘電異方性を示すことができ、この場合、第1及び第2制御電極が同一の基板上に配置され、いわゆる面内磁場またはフリンジ電界を作り出す。
VAセルは、VAセルが切替状態にある場合、VAセルの液晶分子が、VA/PA二重セル装置においてPAセルが緩和状態にある場合のPAセルの液晶分子とほぼ同じ方向に向くように有利に構成される。
【0025】
本発明に従った液晶装置の様々な実施形態によれば、前記第1液晶セルの第1複屈折率の大きさは、前記第2液晶セルの第1複屈折率の大きさにほぼ等しい。
特に、第1液晶セルと第2液晶セルは、セルギャップ,アンカリングの特性,電極構造などの液晶材料に関してほぼ同一の構成を有することができる。これは、液晶装置のトータル複屈折率が液晶セルの同時緩和中(第1液晶セルと第2液晶セルの切替状態から緩和状態への同時遷移中)に一定のままであるように、液晶装置を設計することを容易にするだろう。
【0036】
本発明における第2実施形態によれば、本発明における第1実施形態による液晶装置の作動を制御する方法であり、該方法は、第2液晶セルが切替状態に留まるようにしながら、第1液晶セルを緩和状態から切替状態へ制御し、前記第1液晶セルが切替状態に留まるようにしながら、前記第2液晶セルを緩和状態から切替状態へ制御し、かつ、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルを、其々の切替状態から其々の緩和状態へ緩和するように同時に制御する、各ステップを含む方法が提供される。
【0037】
前記第1液晶セルと前記第2液晶セルの其々は、前記第1液晶セル及び前記第2液晶セルの緩和中において、前記液晶装置のトータル複屈折率が、ほぼ一定のままであるように、其々の切替状態から其々の緩和状態へ緩和するように、有利に制御される。
【0038】
本発明における様々な実施形態、及び、第2実施形態により得られる効果は、本発明における第1実施形態に対して上述されたものとほぼ同一である。
【0039】
上述したように、本発明における第1実施形態は、第1液晶セルを通過している光が第2液晶セルに達するような層状の構造として配置される第1液晶セル及び第2液晶セルを含む液晶装置に関するものである。第1液晶セルと第2液晶セルの其々は、液晶セルが第1複屈折率を示す緩和状態と液晶セルが第2複屈折率を示す切替状態の間で個別に制御可能であり、緩和状態から切替状態への第1液晶セルの遷移は、第1トータル複屈折率から第2トータル複屈折率への液晶装置のトータル複屈折率の変化をもたらし、液晶装置は第1光変調状態から第2光変調状態へ遷移し、かつ、緩和状態から切替状態への第2液晶セルの続いて起こる遷移は、第2トータル複屈折率から第1トータル複屈折率への液晶装置のトータル複屈折率の変化をもたらし、それによって、液晶装置は第2光変調状態から第1光変調状態へ戻るように遷移する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明におけるこのような態様及び他の態様が、本発明の例示的な実施形態を示す添付の図面を参照して、より詳細に説明されるだろう。
【
図1】
図1は、本発明の様々な実施形態に従った液晶装置の概略斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に従った液晶装置の例示的な駆動方式を概略的に示している図である。
【
図3】
図3a〜dは、本発明の第1実施形態に従った、
図2の駆動方式のいろいろな段階における液晶装置の状態を概略的に示している図である
。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、本発明における様々な実施形態に従った液晶装置1の概略斜視図である。この液晶装置1は、交差した偏光板4と5(“偏光板”4が光源7に最も近接しており、“検光子”5が観察者8に最も近接している。)の間に層状の構造として配置される第1液晶セル2と第2液晶セル3を含む。偏光板4と検光子5のそれぞれの偏光方向が
図1に破線で示されている。第1液晶セルと第2液晶セルの其々は、液晶セルが第1複屈折率を示す緩和状態と液晶セルが第1複屈折率と異なる第2複屈折率を示す切替状態の間で個別に制御可能である。
【0042】
偏光板4を通過して
図1に示される方向に直線偏光される光源7からの光は、第1液晶セル2と第2液晶セル3を通過する場合、第1液晶セル2の複屈折率と第2液晶セル3の複屈折率の和で表される、全体的な位相遅延に直面する。トータル複屈折率がゼロである場合、光は検光子5を決して通過しないが、トータル複屈折率がゼロでない場合、少なくとも一部の光が検光子5を通過して観察者8に届くように、光の偏光状態が修正され、光軸の複屈折状態が偏光板4の透過方向に対して適切な配向になる。
【0043】
上述したように、トータル複屈折率が、第1液晶セル2の複屈折率と第2液晶セル3の複屈折率の和に相当するため、当然、トータル複屈折率は、第1液晶セル2か第2液晶セル3のどちらかを制御することによって制御されることになる。第1液晶セル2と第2液晶セル3を適切に構成することにより、液晶装置1は、暗状態と明状態の間を能動的に切り替えられ、故に、暗状態に戻ることができ、このスイッチングは、ネマチック液晶における1つの状態遷移が、液晶材料の弾性緩和によって起こる、通常は非常に遅い、単一セルの液晶装置を用いた場合より、かなり速く行われることを意味する。さらに詳しく以下に述べるように、本発明に従った液晶装置の様々な実施形態において、第1液晶セル2と第2液晶セル3は、双方の液晶セルが緩和されるように切り替えられる場合、二重セル液晶装置1が(明または暗のような)同一の光変調状態となるように構成される。このように、液晶装置1は、スイッチング事象の間に緩和することができ、光変調状態間のスイッチングは、常に能動的であることができるが、これは、選択された方向に沿って液晶分子を並行させる電界の適用によってもたらされる。
【0044】
図1における液晶装置の2つの例示的な実施形態と駆動方式が以下に記載される。
第一に、VA/PA二重セル装置10とVA/PA二重セル装置10の例示的な駆動方式が
図2及び
図3a〜dを参照して説明される。
図3a〜dは、
図1のA−A’線に沿った断面における
図1の液晶装置1の分解図で表された横断面図である。
【0045】
まず
図3aを参照すると、VA/PA二重セル装置10が、制御電圧を加えていない状態で概略的に示されている。このVA/PA二重セル装置10は、交差した偏光板4と5の間に層状の構造として配置された第1液晶セル11と第2液晶セル12を含む。この第1液晶セル11は、第1基板14と第2基板15の間に挟みこまれたネマチック液晶材料を含む。
図3aに概略的に示されているように、平面配向において液晶材料の液晶分子18を並行させるために、このネマチック液晶材料に面している基板14,15の側面において、第1制御電極16と第2制御電極17、及び、配向層(図示せず)が提供されている。注目すべきは、液晶分子18が、偏光板4によって定められる入射光の偏光方向に対しておよそ45°に曲げられて並ぶことである。この構成において、第1液晶セル11における液晶材料は、一定のゼロではない複屈折率Δn
PAを示すだろう。
【0046】
また、第2液晶セル12は
、第1基板19と第2基板20の間に挟みこまれた(第1液晶セル11に含まれる材料と同一の)ネマチック液晶材料を含む。
図3aに概略的に示されているように、液晶材料の液晶分子23を垂直(ホメオトロピック)配向に並べるために、第1制御電極21と第2制御電極22、及び、配向層(図示せず)が、このネマチック液晶材料に面している基板19,20の側面に提供されている。この構成において、第2液晶セル12における液晶材料は、ゼロの複屈折率Δn
VA=0を示すだろう。
【0047】
図3a〜dにおいてVA/PA二重セル装置10を紹介した後に、VA/PA二重セル装置10を、異なる光変調状態(暗と明)の間で制御するための例示的な駆動方式が、
図2及び
図3a〜dを参照してここから説明される。
図2において、第1液晶セル11(PAセル)の電極16,17にわたって供給される電圧V
PA、及び、第2液晶セル12(VAセル)の電極21,22にわたって供給される電圧V
VAが、図のような上部の2つの図において示されている。
下部の図において、
図2に示されているPAセル11とVAセル12にそれぞれかかる電圧V
PA及びV
VAを供給することによって生じる、PAセル11の複屈折率(破線)、VAセル12の複屈折率(点線)、及び、VA/PA二重セル装置10の光応答(実線)が示されている。
【0048】
時間t
0と時間t
1の間、PAセル11にかかる電圧V
PAは0Vであり、かつ、VAセル12にかかる電圧V
VAも0Vであり、VA/PA二重セル装置10は、平面配向にあるPAセル11の液晶分子18、及び、垂直配向にあるPAセル11の液晶分子23を備えた、
図3aに示されている状態である。この状態において、トータル複屈折率はゼロでなく(Δn
tot=Δn
PA+Δn
VA≠0)、これは、PAセル11の光軸が偏光板4の偏光方向に対して適切な配向にあり、入射光が、VA/PA二重セル装置10が差し込まれた交差した偏光板4,5を通過することを意味する。従って、装置10は、光源7からの入射光を透過させるため、
図2に示されているような明状態(BRIGHT)である。
【0049】
時間t
1において、PAセル11に電圧が加えられ、液晶分子18を、
図3bに概略的に示されるように、垂直配向に再配向させる。VAセル12にかかる電圧V
VAはまだ0V(または、VAセル12内の液晶分子23を再配向させないほど少なくとも十分低い電圧)である。PAセル11に電圧をかけることにより、PAセル11内の液晶分子18が切り替えられた場合、PAセル11の複屈折率は、Δn
PA≠0からΔn
PA*=0へ切り替えられる。
図2に概略的に示されているように、このスイッチングは比較的速く、Δn
tot=Δn
PA*+Δn
VA=0となるような、トータル複屈折率の遷移をもたらす。結果として、
図3bにおける偏光板4を通過している光は、偏光状態の変化なしにPAセル11及びVAセル12を通過するだろうが、これは、VA/PA二重セル装置10が
図2にさらに示されているように暗状態(DARK)に切り替えられることを意味する。
【0050】
時間t
2において、VAセル12に電圧が加えられ、液晶分子23を、
図3cに概略的に示されるように、平面配向に再配向させる。PAセル11にかかる電圧V
PAは、PAセル11内の液晶分子18が垂直配向のままでいるように、いまだに加えられている。VAセル12に電圧を加えることにより、VAセル12内の液晶分子23が切り替えられた場合、VAセル12の複屈折率は、Δn
VA=0からΔn
VA*=Δn
PA≠0へ切り替えられる。
図2に概略的に示されているように、このスイッチングは比較的速く、Δn
tot=Δn
PA*+Δn
VA*=Δn
PA≠0となるような、セルのトータル複屈折率の遷移をもたらし、この遷移は、光が、VA/PA二重セル装置10が差し込まれた交差した偏光板4,5を再び通過することを意味し、従って、この装置10は、
図2,3cに示されているように明状態(BRIGHT)である。
【0051】
時間t
3において、電圧は、PAセル11とVAセル12の両方にわたって取り除かれる。結果として、液晶セル11,12は、それぞれの緩和状態へ同時に緩められる。
図3dに概略的に示されているように、PAセル11における液晶分子18は平面配向に緩和され、かつ、VAセル12における液晶分子23は垂直配向に緩和される。この緩和過程中に、PAセル11の複屈折率はΔn
PA*=0からΔn
PA≠0へ増加し、VAセル12の複屈折率はΔn
VA*=Δn
PA≠0からΔn
VA=0へ減少し、一定の緩和時間を経た後、
図3aに示されている緩和状態に戻る。
【0052】
この緩和中に、トータル複屈折率Δn
totは、PAセル11とVAセル12の構成、及び/または、印加された制御電圧により、ほぼ一定(かつゼロではない)のままである。しかしながら、PAセル11とVAセル12の緩和においてほんのわずかな不整合があり、
図2において小さな“ねじれ(キンク)”25として示されている透過光度の変化を引き起こす。この変化は、msのオーダーで、かつ、
図3a〜dにおけるVA/PA二重セル装置10の明状態においてのみ起こりうるため、この変化は、観察者8の目にはほとんど見えないであろう。この変化は、セルのパラメータの特性を最適化することや駆動方式によって、避けられるか、または、少なくとも影響を無視できるほどになることが予想されるが、液晶装置1が明状態である間において、(時間t
3に起こる)同時緩和を有する適用に対して有利である。これは
図3a〜dのVA/PA二重セル装置10を用いて実現される。
【0053】
最終的に、時間t
4において、電圧がPAセル11に再び加えられ、VA/PA二重セル装置10を
図3bに示されている暗状態(DARK)に戻す。
【0065】
また、当業者は
、過度の負担なしに、適切な液晶材料,セル寸法,配向層,より複雑な駆動方式などを選択することができる。
【0066】
当業者は、本発明が上述された好適な実施形態に決して限定されないことを認識するだろう。それどころか、多くの修正や変更、例えば、面内電場またはフリンジ領域による正の誘電率異方性を備えた液晶材料を含むVA/PAまたはVA/VA類の二重セル装置における(複数の)VAセルのスイッチング、が添付の特許請求の範囲内で実施可能である。
【0067】
特許請求の範囲において、“含む”という単語は、他の構成要素またはステップを除外せず、かつ、“単数”の不定冠詞は複数の場合を除外しない。発明特定事項が互いに異なる従属クレームにおいて列挙されている単なる事実は、これらの特定された発明事項の組み合わせを用いないことをあえて示しているわけではない。