(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルミニウム合金層を構成する結晶粒の、前記アルミニウム合金層の法線方向から見たときの平均粒径は、100nm以下であり、前記アルミニウム合金層の最大表面粗さRmaxは60nm以下である、請求項1に記載の型基材。
前記金属元素の標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値は0.64V以下であり、前記アルミニウム合金層中の前記金属元素の含有率は、1.0質量%以上1.9質量%以下である、請求項1から3のいずれかに記載の型基材。
前記無機下地層と前記アルミニウム合金層との間に、緩衝層をさらに有し、前記緩衝層は、アルミニウムと、前記金属元素と、酸素または窒素とを含む、請求項6または7に記載の型基材。
前記工程(a)は、複数の円筒状の基材のそれぞれを、各円筒の軸を中心に自転が可能で、且つ、前記複数の基材のそれぞれの前記軸が同一の円周上を公転できるように配置する工程であって、
前記工程(b)において、前記複数の基材のそれぞれは、各円筒の軸を中心に自転しつつ、公転している、請求項10に記載の型基材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
テレビや携帯電話などに用いられる表示装置やカメラレンズなどの光学素子には、通常、表面反射を低減して光の透過量を高めるために反射防止技術が施されている。例えば、空気とガラスとの界面に光が入射する場合のように屈折率が異なる媒体の界面を光が通過する場合、フレネル反射などによって光の透過量が低減し、視認性が低下するからである。
【0003】
近年、反射防止技術として、凹凸の周期が可視光(λ=380nm〜780nm)の波長以下に制御された微細な凹凸パターンを基板表面に形成する方法が注目されている(特許文献1から4を参照)。反射防止機能を発現する凹凸パターンを構成する凸部の2次元的な大きさは10nm以上500nm未満である。
【0004】
この方法は、いわゆるモスアイ(Motheye、蛾の目)構造の原理を利用したものであり、基板に入射した光に対する屈折率を凹凸の深さ方向に沿って入射媒体の屈折率から基板の屈折率まで連続的に変化させることによって反射防止したい波長域の光の反射を抑えている。
【0005】
モスアイ構造は、広い波長域にわたって入射角依存性の小さい反射防止作用を発揮できるほか、多くの材料に適用でき、凹凸パターンを基板に直接形成できるなどの利点を有している。その結果、低コストで高性能の反射防止膜(または反射防止表面)を提供できる。
【0006】
モスアイ構造の製造方法として、アルミニウムを陽極酸化することによって得られる陽極酸化ポーラスアルミナ層を用いる方法が注目されている(特許文献2から4)。
【0007】
ここで、アルミニウムを陽極酸化することによって得られる陽極酸化ポーラスアルミナ層について簡単に説明する。従来から、陽極酸化を利用した多孔質構造体の製造方法は、規則正しく配列されたナノオーダーの円柱状の細孔(微細な凹部)を形成できる簡易な方法として注目されてきた。硫酸、蓚酸、または燐酸等の酸性電解液またはアルカリ性電解液中にアルミニウム基材を浸漬し、これを陽極として電圧を印加すると、アルミニウム基材の表面で酸化と溶解が同時に進行し、その表面に細孔を有する酸化膜を形成することができる。この円柱状の細孔は、酸化膜に対して垂直に配向し、一定の条件下(電圧、電解液の種類、温度等)では自己組織的な規則性を示すため、各種機能材料への応用が期待されている。
【0008】
特定の条件下で形成されたポーラスアルミナ層は、膜面に垂直な方向から見たときに、ほぼ正六角形のセルが二次元的に最も高密度で充填された配列をとっている。それぞれのセルはその中央に細孔を有しており、細孔の配列は周期性を有している。セルは局所的な皮膜の溶解および成長の結果形成されるものであり、バリア層と呼ばれる細孔底部で、皮膜の溶解と成長とが同時に進行する。このとき、隣接する細孔間の距離(中心間距離)は、バリア層の厚さのほぼ2倍に相当し、陽極酸化時の電圧にほぼ比例することが知られている。また、細孔の直径は、電解液の種類、濃度、温度等に依存するものの、通常、セルのサイズ(膜面に垂直な方向からみたときのセルの最長対角線の長さ)の1/3程度であることが知られている。このようなポーラスアルミナの細孔は、特定の条件下では高い規則性を有する(周期性を有する)配列、また、条件によってはある程度規則性の乱れた配列、あるいは不規則(周期性を有しない)な配列を形成する。
【0009】
特許文献2は、陽極酸化ポーラスアルミナ膜を表面に有するスタンパを用いて、反射防止膜(反射防止表面)を形成する方法を開示している。
【0010】
また、特許文献3に、アルミニウムの陽極酸化と孔径拡大処理を繰り返すことによって、連続的に細孔径が変化するテーパー形状の凹部を形成する技術が開示されている。
【0011】
本出願人は、特許文献4に、微細な凹部が階段状の側面を有するアルミナ層を用いて反射防止膜を形成する技術を開示している。
【0012】
また、特許文献1、2および4に記載されているように、モスアイ構造(ミクロ構造)に加えて、モスアイ構造よりも大きな凹凸構造(マクロ構造)を設けることによって、反射防止膜(反射防止表面)にアンチグレア(防眩)機能を付与することができる。アンチグレア機能を発揮する凹凸を構成する凸部の2次元的な大きさは1μm以上100μm未満である。
【0013】
このように陽極酸化ポーラスアルミナ膜を利用することによって、モスアイ構造を表面に形成するための型(以下、「モスアイ用型」という。)を容易に製造することができる。特に、特許文献2および4に記載されているように、アルミニウムの陽極酸化膜の表面をそのまま型として利用すると、製造コストを低減する効果が大きい。モスアイ構造を形成することができるモスアイ用型の表面の構造を「反転されたモスアイ構造」ということにする。
【0014】
モスアイ用型を用いた反射防止膜の製造方法としては、光硬化性樹脂を用いる方法が知られている。まず、基板上に光硬化性樹脂を付与する。続いて、離型処理を施したモスアイ用型の凹凸表面を真空中で光硬化性樹脂に押圧することにより、モスアイ用型の表面の凹凸構造中に光硬化性樹脂が充填される。続いて、凹凸構造中の光硬化性樹脂に紫外線を照射し、光硬化性樹脂を硬化する。その後、基板からモスアイ用型を分離することによって、モスアイ用型の凹凸構造が転写された光硬化性樹脂の硬化物層が基板の表面に形成される。光硬化性樹脂を用いた反射防止膜の製造方法は、例えば特許文献4に記載されている。
【0015】
上述のモスアイ用型は、アルミニウムで形成された基板またはアルミニウムで形成された円筒で代表されるアルミニウム基材や、ガラス基板に代表されるアルミニウム以外の材料で形成された支持体の上に形成されたアルミニウム膜を用いて製造され得る。しかしながら、ガラス基板やプラスチックフィルムの上に形成されたアルミニウム膜を用いて、モスアイ用型を製造すると、アルミニウム膜(一部は陽極酸化膜となっている)と、ガラス基板やプラスチックフィルムとの接着性が低下することがある。本出願人は、ガラスやプラスチックで形成された基材の表面に、無機下地層(例えばSiO
2層)と、アルミニウムを含む緩衝層(例えば、AlO
x層)とを形成することによって、上記の接着性の低下を抑制することを見出し、特許文献5に開示している。
【0016】
また、本出願人は、円筒状(ロール状)のモスアイ用型を用いて、ロール・ツー・ロール方式により反射防止膜を効率良く製造法する方法を開発している(例えば、国際公開第2011/105206号)。円筒状のモスアイ用型は、例えば、金属製の円筒の外周面に有機絶縁層を形成し、この有機絶縁層上に形成したアルミニウム膜に対して陽極酸化とエッチングとを交互に繰り返すことによって形成される。この場合にも、特許文献5に開示されている無機下地層および緩衝層を形成することによって接着性を向上させることができる。
【0017】
さらに本発明者が検討したところ、有機絶縁層上に形成されたアルミニウム膜は、異常粒子を含むことが多い。この異常粒子は、アルミニウムの結晶が異常成長することによって形成される。アルミニウム膜は、平均粒径(平均グレインサイズ)が約200nmの結晶粒の集合であるのに対し、異常粒子の粒径は、平均粒径よりも大きく、500nm以上になることがある。有機絶縁層は、他の材料(金属材料や無機絶縁膜)に比べて熱伝導率が低いので、アルミニウム膜の堆積過程(例えばスパッタ法や蒸着法)において、アルミニウム膜が比較的高温になり易く、その結果、結晶粒の異常成長が起こりやすい、すなわち異常粒子が形成されやすいと考えられる。なお、このような現象は、アルミニウム管(例えば厚さが1mm以上)の表面に直接アルミニウム膜を堆積する場合にも起こり得る。
【0018】
異常粒子が存在するアルミニウム膜を用いてモスアイ用型を作製すると、モスアイ用型のポーラスアルミナ層の表面に異常粒子に対応する構造が形成される。このようなモスアイ用型を用いて反射防止膜を形成すると、反射防止膜の表面に、異常粒子に対応する構造が転写されるので、反射防止膜の表面に転写された、異常粒子に起因する構造によって、光が散乱される。すなわち、反射防止膜がヘイズを有することになる。上述したように反射防止膜に防眩機能を付与する場合には、反射防止膜が異常粒子に起因するヘイズを有しても問題が無い場合もあるが、防眩機能を有しない反射防止膜を作製することができないという問題がある。また、異常粒子の形成密度(発生頻度)を制御することは難しいので、量産性の観点からは、異常粒子の生成を抑制することが好ましい。
【0019】
本発明者は、国際特許出願(PCT/JP2012/058394、国際公開2012/137664号)に、アルミニウムと、アルミニウムの標準電極電位との差の絶対値が0.64V以下の金属元素(例えば、Ti、Nd、Mn、Mg、Zr、VおよびPb、全体に対する含有率は10質量%未満)とを含むアルミニウム合金層は、異常粒子をほとんど含まず、その結果、不要なヘイズを有しない反射防止膜を形成することが可能な型が得られることを開示した。
【0020】
特許文献1、2、4、5および上記国際特許出願の全ての開示内容を参考のために本明細書に援用する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による型基材、型基材の製造方法、型の製造方法および型を説明する。以下で例示する実施形態の型は、反転されたモスアイ構造を表面に有するモスアイ用型であり、表面の法線方向から見たときの2次元的な大きさが10nm以上500nm未満の複数の凹部を有するポーラスアルミナ層を備える。本発明の実施形態による型を用いた反射防止膜の製造方法についても説明する。
【0046】
<アルミニウム合金層>
まず、本発明による実施形態の型基材が有するアルミニウム合金層およびその形成方法を説明する。
【0047】
図1(a)は、アルミニウム合金層を形成するためのDCマグネトロンスパッタリング装置(以下、単にスパッタリング装置1と称する)の概略図である。スパッタリング装置1は、まず、真空排気可能なチャンバー2を備えている。チャンバー2の底部には載置台4が設けられ、天井側には、例えば、Al−Ti、あるいはAl−Nd等からなるアルミニウム合金ターゲット(以下、単にターゲット3と称する)が設けられている。
【0048】
また、チャンバー2には、図示しないガス導入系に接続されたガス導入口6と、図示しない真空ポンプに接続された排気口7とが設けられている。
【0049】
このように構成されるスパッタリング装置1を用い、例えばガラスからなる基板5の上面にアルミニウム合金層を成膜する場合、真空ポンプ(図示せず)によってチャンバー2内を真空(減圧)にした後、その真空状態を維持したまま、表面が露出した基板5をチャンバー2内に搬送し、成膜しようとする面をターゲット3に向け、載置台4の上面に載置する。
【0050】
チャンバー2内に、スパッタガス(Arガス)、さらに窒素ガス(N
2ガス)をガス導入口6から導入する。具体的には、例えば、スパッタガス(Arガス)の流量は、400sccm以上440sccm以下で、スパッタガス全体に対する窒素ガスの体積分率(=(窒素ガス流量/(スパッタガス流量+窒素ガス流量)))が1%以上5%以下となるように、窒素ガスの流量は5sccm以上20sccm以下とする。
【0051】
チャンバー2の内部の圧力が例えば0.3Pa以上0.4Pa以下の範囲内で安定したところでターゲット3に直流電圧を印加してスパッタする。スパッタの際は、基板5の温度が例えば100℃になるようにし、その状態で基板5の表面にアルミニウム合金層を形成する。基板温度が150℃以上になると、温度の上昇に準じて窒素ガスによる効果が薄れて、結晶粒子が大きくなるため好ましくない。
【0052】
そして、アルミニウム合金層の膜厚が500nm以上1000nm以下の範囲の所定の値に達したところで、直流電圧の印加およびスパッタガスの導入を終了させ、基板5をチャンバー2の外部に搬出する。
【0053】
図1(b)は、チャンバー2から取り出された基板5の断面図を示している。基板5の上面には、膜厚が500nm以上1000nm以下の範囲で形成されたアルミニウム合金層8が形成されている。このアルミニウム合金層8は、Al−Ti、あるいはAl−Nd等から構成されている。TiあるいはNdを含有するアルミニウム合金層8は、異常粒子をほとんど含まない。
【0054】
以下で説明する実験例におけるアルミニウム合金層または純アルミニウム層の成膜条件は、特に説明しない限り、スパッタガス(Arガス)の流量は440sccmであり、スパッタ時の真空度が0.4Paである。窒素ガスの流量を0sccmから20sccm(スパッタガス全体に対する窒素ガスの体積分率で0%から4.3%)の間で変化させることによって、アルミニウム合金層または純アルミニウム層に含まれる窒素の含有率の影響等を検討した。
【0055】
ここで、上述したようなアルミニウム合金層8の形成において、窒素ガスを全く混合しない場合から窒素ガスを順次多くしながら混合した場合の合計5段階のそれぞれについて形成される各アルミニウム合金層8の表面の状態を
図2〜
図6に示す。
【0056】
図2〜
図6は、それぞれ、アルミニウム合金層8の表面をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)によって観察した結果(左側の図)とSEM(Scanning electron microscope:走査型電子顕微鏡)によって観察した結果(右側の図)を示す。AFMの走査領域は一辺が5000nmの正方領域であり、SEMの拡大倍率は50000倍である。なお、アルミニウム合金層8の膜厚は約1000nmである。
【0057】
図2は、窒素ガスを全く混合しない状態でアルミニウム合金層8を形成したもので、左側の図から比較的大きな凸部が散在していることがわかり、右側の図からアルミニウム粒子が比較的大きく形成されていることがわかる。このアルミニウム合金層の平均表面粗さRaは5.527nmであり、最大表面粗さRmaxは9.548×10nmである。ここで、
図2で示すアルミニウム粒子は、その平均粒径が100nmより大きくなっている(
図2の右側の図の右下の100nmのスケール参照)。
【0058】
図3は、窒素ガス(流量:5sccm)を混合して形成したアルミニウム合金層8であり、左側の図から、
図2の場合と比べて比較的大きな凸部が少し減少していることがわかり、右側の図から、
図2の場合と比べてアルミニウム粒子が少し小さくなって形成されていることがわかる。平均表面粗さRaは、5.102nmであり、最大表面粗さRmaxは5.713×10nmとなっている。ここで、
図3で示すアルミニウム粒子は、その平均粒径が、
図2で示した場合よりも小さくなっており、その平均粒径が100nm以下となっている。
【0059】
図4は、窒素ガス(流量:10sccm)を混合して形成したアルミニウム合金層8であり、左側の図から、
図3の場合と比べて比較的大きな凸部が少し減少していることがわかり、右側の図から、
図3の場合と比べてアルミニウム粒子が少し小さくなって形成されていることがわかる。平均表面粗さRaは、3.145nmであり、最大表面粗さRmaxは4.359×10nmとなっている。ここで、
図4で示すアルミニウム粒子は、その平均粒径が、
図3で示した場合よりも小さくなっており、その平均粒径が100nm以下となっている。
【0060】
図5は、窒素ガス(流量:15sccm)を混合して形成したアルミニウム合金層8であり、左側の図から、
図4の場合と比べて比較的大きな凸部が少し減少していることがわかり、右側の図から、
図4の場合と比べてアルミニウム粒子が少し小さくなって形成されていることがわかる。平均表面粗さRaは、2.582nmであり、最大表面粗さRmaxは3.252×10nmとなっている。ここで、
図5で示すアルミニウム粒子は、その平均粒径が、
図4で示した場合よりも小さくなっており、その平均粒径が100nm以下となっている。
【0061】
図6は、窒素ガス(流量:20sccm)を混合して形成したアルミニウム合金層8である。この場合、左側の図から、
図5の場合と比べて比較的大きな凸部が少し増加していることがわかり、平均表面粗さRaは、3.012nmであり、最大表面粗さRmaxは4.016×10nmとなっている。
図5と比較すると、粒子が細かくなるという効果は維持しているものの、粒子の大小のバラツキが大きくなって均一性が低下している。従って、20sccmの窒素ガスの流量は、最適値よりも若干大きいと考えられる。
【0062】
上述したように、
図2〜
図6から、アルミニウム合金層8の形成において、5sccm以上20sccm以下の流量で窒素ガスを混合することによって、アルミニウム粒子の径が小さくなることがわかる。この場合、アルミニウム合金層8の法線方向から見たときの結晶粒の平均粒径が100nm以下であり、最大表面粗さRmaxが60nm以下である。これにより、アルミニウム合金層8の表面の光反射率が向上するようになる。
【0063】
ここで、
図1において、基板5の上面には、例えばAl−Ti、あるいはAl−Nd等からなるアルミニウム合金層8を形成したものとし、本発明では純アルミニウム層の形成を対象外とするようにしている。この理由は、純アルミニウム層の場合であっても、窒素の添加によってアルミニウム粒子の径が小さくなることが確認できるが、その際に、異常に大きくなる粒子の発生を免れないことがわかっているからである。
【0064】
図7、
図8は、
図2〜
図6に示したのと同様に、基板5の上面に、いわゆる純アルミニウム層を形成し、アルミニウム層の表面をAFMおよびSEMによって観察した結果を示す図である。
図7、
図8において、それぞれ、(a)は、走査領域を一辺が5000nmの正方領域としたAFMの結果であり、(b)は(a)に示す純アルミニウム層の表面のSEM観察の結果である。
図7は、窒素ガスを全く混合しない状態で純アルミニウム層を形成した場合、
図8は、窒素ガス(流量:10sccm)を混合して形成した純アルミニウム層を示している。
【0065】
図7に示すように、窒素非含有純アルミニウム層の場合、平均表面粗さRaは、8.985nmであり、最大表面粗さRmaxは2.001×10
2nmとなっており、それらの表面粗さ(特に最大表面粗さ)が大きいことがわかる(
図7(b)参照)。また、
図8に示すように、窒素含有純アルミニウム層の場合でも、平均表面粗さRaは、6.501nmであり、最大表面粗さは1.958×10
2nmとなっており、それらの表面粗さ(特に最大表面粗さ)が大きいことがわかる(
図8(b)参照)。このことから、アルミニウム粒子を全域的に小さくでき、これにより高い反射率を得るためには、純アルミニウム層よりもアルミニウム合金層の方が好適であることがわかる。
【0066】
図9は、上述の窒素含有アルミニウム合金層8の光の波長(nm)に対する反射率(%)を、窒素非含有アルミニウム合金層、窒素非含有純アルミニウム層、および窒素含有純アルミニウム層の反射率とともに示したグラフである。同グラフは、横軸に光の波長(nm)を示し、縦軸に反射率(%)を示している。
【0067】
図9において、Aは窒素非含有アルミニウム合金層の反射特性を示し、Bは窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素ガス流量:5sccm)の反射特性を示し、Cは窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素ガス流量:10sccm)の反射特性を示し、Dは窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素ガス流量:15sccm)の反射特性を示し、Eは窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素ガス流量:20sccm)の反射特性を示している。また、Fは窒素非含有純アルミニウム層の反射特性を示し、Gは窒素含有純アルミニウム層(成膜時の窒素ガス流量:10sccm)の反射特性を示している。
図10A〜10Cは、
図9に示したグラフを作成するためのデータを示す表であり、
図10Aは波長400〜526nmの範囲における、
図10Bは波長528〜668nmの範囲における、
図10Cは波長670〜700nmの範囲における、それぞれ、上記A、B、C、D、E、F、Gの各部材の反射率を示している。
【0068】
図9および
図10A〜10Cから、少なくとも、窒素含有アルミニウム合金層において、可視域の波長400〜700nmにおける光反射率は、最も低いもの(グラフE)でも平均で86%以上であり、窒素非含有アルミニウム層(グラフF)よりも高い反射率が得られることがわかる(特に400nmに近い領域)。但し、窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素ガス流量:20sccm)Eが窒素非含有アルミニウム合金層Aよりも反射率が低くなっている原因はよくわからないが、
図2から
図6を参照して説明したように、窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素ガス流量:20sccm)の方が窒素非含有アルミニウム合金層よりも表面の平坦性および表面組織の均一性は高い。なお、純アルミニウム層の場合も窒素添加により反射率が向上するが(グラフG)、アルミニウム合金層よりも前述の異常粒子が発生しやすい。
【0069】
なお、
図11は、上述のアルミニウム合金層8の形成に際し、スパッタガス(Arガス、流量440sccm)に窒素ガスを混合しない場合、窒素ガスを5sccm、10sccm、15sccm、および20sccm混合した場合のそれぞれにおいて、アルミニウム合金層8のNHT硬度、NHT硬度から換算したヴィッカース硬度Hv、ヤング率、および圧子最大深さを示した表である。なお、NHT硬度とは、低荷重硬さ試験機(Nano Hardness Tester)を用いて、ISO14577に準拠した方法で測定された硬さをいう。
【0070】
ヴィッカース硬度において、窒素ガスを混合させない場合は96.6であるのに対し、窒素ガスを5sccm、10sccm、15sccm、および20sccmと混合させた場合は、順次、155.8、194.7、225.7、229.2となり、窒素ガスの混合量に応じて大きくなっている。このことから、アルミニウム合金層8は、窒素が含有されることによって、高い硬度を有するようになることがわかる。
【0071】
ヤング率は、窒素ガスを混合しない場合は73.9GPaであるのに対し、窒素ガスを5sccm、10sccm、15sccm、および20sccmと混合した場合は、順次、78.0GPa、77.7GPa、95.3GPa、82.5GPaとなり、窒素ガスの混合量に応じて略大きくなっていることがわかる。
【0072】
また、圧子最大深さは、窒素ガスを混合しない場合は193.7nmであるのに対し、窒素ガスを5sccm、10sccm、15sccm、および20sccmと混合した場合は、順次、154.1nm、140.7nm、130.4nm、131.2nmと浅くなり、窒素ガスの混合量に応じてアルミニウム合金層8の硬さが大きくなっていることがわかる。
【0073】
したがって、アルミニウム合金層8は、窒素が含有されることにより、極めて高い硬度と耐久性を有するようになっていることがわかる。
【0074】
なお、
図11に示す表においては、基板5に対するアルミニウム合金層8の密着試験をビッカース圧痕およびスクラッチによって行っていることを示しているが、いずれの場合にも、剥離なしとの結果を得ている。
【0075】
図12は、成膜時にスパッタガスに窒素ガスを流量5sccm、10sccm、15sccmおよび20sccmでそれぞれ混合して形成したアルミニウム合金層8の膜厚と抵抗値との関係を示した表である。
【0076】
窒素ガスを5sccm混合することにより得られるアルミニウム合金層8の膜厚を783nm、791nm、808nmとした場合、それぞれの抵抗値は、0.1005Ω、0.0970Ω、0.0944Ωとなった。これにより、アルミニウム合金層8の平均膜厚は796.05nm、平均抵抗値は0.0975Ωとなり、比抵抗は7.758μΩcmとなる。
【0077】
窒素ガスを10sccm混合することにより得られるアルミニウム合金層8の膜厚を742nm、741nm、766nmとした場合、それぞれの抵抗値は、0.1366Ω、0.1314Ω、0.1275Ωとなった。これにより、アルミニウム合金層8の平均膜厚は754.70nm、平均抵抗値は0.1321Ωとなり、比抵抗は9.966μΩcmとなる。
【0078】
窒素ガスを15sccm混合することにより得られるアルミニウム合金層8の膜厚を766nm、788nm、790nmとした場合、それぞれの抵抗値は、0.1775Ω、0.1675Ω、0.1645Ωとなった。これにより、アルミニウム合金層8の平均膜厚は778.75nm、平均抵抗値は0.1710Ωとなり、比抵抗は13.317μΩcmとなる。
【0079】
窒素ガスを20sccm混合することにより得られるアルミニウム合金層8の膜厚を736nm、748nm、763nmとした場合、それぞれの抵抗値は、0.2392Ω、0.2152Ω、0.2225Ωとなった。これにより、アルミニウム合金層8の平均膜厚は749.90nm、平均抵抗値は0.2309Ωとなり、比抵抗は17.311μΩcmとなる。
【0080】
なお、窒素ガスを混合しない場合、それによって得られるアルミニウム合金層8の膜厚を659nm、665nm、674nmとした場合、それぞれの抵抗値は、0.0839Ω、0.0839Ω、0.0826Ωとなった。これにより、アルミニウム合金層8の平均膜厚は6669.00、平均抵抗値は0.0833となり、比抵抗は5.552μΩcmとなる。
【0081】
この表から明らかなように、アルミニウム合金層8は、窒素が含有されても、比抵抗を少なくとも20μΩ以下に抑えることができる。このため、アルミニウム合金層8を電子部品の配線層等に充分適用でき、例えば有機EL(Electro Luminescence)素子の電極として用いることができる効果を奏するようになる。
【0082】
図13は、アルミニウム合金層8の形成において、窒素ガスを混合しない場合、窒素ガスを5sccm混合した場合、窒素ガスを10sccm混合した場合、窒素ガスを15sccm混合した場合、窒素ガスを20sccm混合した場合のESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)による組成分析を行った結果を示す表である。
図13において、組成分析の対象は、O、Ti、N、Al、Cとなっている。測定には、日本電子株式会社製の光電子分光装置JPS−9000MCを用いた。
【0083】
この表から、窒素ガスを5sccm混合した場合のアルミニウム合金層の窒素含有率は0.5質量%以上0.9質量%であり、窒素ガスを20sccm混合した場合のアルミニウム合金層の窒素含有率は2.2質量%以上5.7質量%以下であることがわかる。
【0084】
従って、窒素含有率が0.5質量%以上5.7質量%以下の窒素含有アルミニウム合金層は、窒素非含有アルミニウム合金層よりも平坦性が高く(最大表面粗さRmaxが60nm以下)、且つ、表面組織の均一性が高い(結晶粒の平均粒径が100nm以下)という特徴を備えている(
図2から
図6)。
【0085】
なお、窒素ガスを20sccm混合した場合、得られたアルミニウム合金層の反射率が他よりも小さいことから、膜厚500nm以上1000nm以下の範囲内の値で形成したアルミニウム合金層8は、より高い反射率を得るという観点からは、窒素含有率が0.5質量%以上4.1質量%以下の範囲内であることが好ましい(
図9、
図10A〜10C)。
【0086】
また、上記の表から、アルミニウム合金層において、アルミニウム以外の他の金属元素としてTiを含有させている場合、Tiの含有率は1.0質量%以上1.9質量%以下となっており、この値が適当であることがわかる。
【0087】
上記では、アルミニウム合金層に添加されるアルミニウム以外の金属元素としてTiあるいはNdを説明したが、これに限られない。金属元素の標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値が0.64V以下である他の金属元素(例えば、Mn、Mg、Zr、VおよびPb)であってもよい。上記国際特許出願(PCT/JP2012/058394)に記載されているように、金属元素Mを含むことによって、アルミニウムの結晶粒の異常成長が抑制され、その結果、アルミニウム合金層8は異常粒子をほとんど含まない。さらに、上記金属元素は、Mo、NbまたはHfであってもよい。これらの金属元素を2種類以上含んでもよい。
【0088】
<型基材、型基材の製造方法、モスアイ用型の製造方法およびモスアイ用型>
次に、本発明の実施形態による型基材、型基材の製造方法、モスアイ用型の製造方法およびモスアイ用型を説明する。例示する実施形態の型基材は、反射防止膜を形成するためのモスアイ用型の製造に用いられる。上述したように、円筒状(ロール状)のモスアイ用型は、反射防止膜をロール・ツー・ロール方式によって効率よく製造できるという利点を有している。円筒状の型基材の例は後述する。
【0089】
まず、本発明の実施形態による型の製造方法を説明する。
【0090】
本発明の実施形態による型の製造方法は、
図14(a)に示すように、金属基材72mと、金属基材72m上に形成された有機絶縁層13と、有機絶縁層13上に形成されたアルミニウム合金層18とを有する型基材10を用意する工程を包含する。金属基材72mと有機絶縁層13とを合わせて支持体12ということがある。なお、金属基材72mに代えて、他の基材(例えば、ガラス基材などの絶縁性基材)を用いてもよい。また、有機絶縁層13は省略してもよい。但し、アルミニウム合金層18と異なる金属からなる基材を用いる場合は、アルミニウム合金層18と金属基材72mとの間で電蝕が起こることを防止するために、これらを電気的に絶縁することが好ましい。したがって、金属基材72mとアルミニウム合金層18との間に、有機絶縁層および/または無機下地層を設けることが好ましい。なお、絶縁性基材を用いる場合にも、有機絶縁層および/または無機下地層を設けてもよい。有機絶縁層および/または無機下地層は、基材との接着性を改善する効果を奏する。無機下地層とアルミニウム合金層との間に緩衝層を設けることによって、さらに接着性を改善することができる。
【0091】
ここで、アルミニウム合金層18として、上述のアルミニウム合金層8と同様のものを用いる。すなわち、アルミニウム合金層18は、アルミニウムと、アルミニウム以外の金属元素Mと、窒素とを含む。
【0092】
アルミニウム合金層18を構成する結晶粒の、アルミニウム合金層18の法線方向から見たときの平均粒径は、100nm以下であり、アルミニウム合金層18の最大表面粗さRmaxは60nm以下であることが好ましい。アルミニウム合金層18に含まれる窒素の含有率は、0.5質量%以上5.7質量%以下であることが好ましい。
【0093】
金属元素Mの標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値は0.64V以下であり、アルミニウム合金層18中の金属元素Mの含有率は、1.0質量%以上1.9質量%以下あることが好ましい。金属元素Mは、TiまたはNdである。金属元素Mはこれに限られず、金属元素Mの標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値が0.64V以下である他の金属元素(例えば、Mn、Mg、Zr、VおよびPb)であってもよい。これらの金属元素を2種類以上含んでもよい。
【0094】
後に実験例を示して説明するように、上記の金属元素Mと窒素とを含むアルミニウム合金層18は、可視光域の例えば400nm〜700nmの波長範囲において、86%以上の反射率を有する。すなわち、金属元素Mを含むことによって、アルミニウムの結晶粒の異常成長が抑制され、窒素を含むことによって、結晶粒が微細化する。その結果、アルミニウム合金層18は表面粗さが小さくなり、また、結晶粒子間にボイドが生成されることが抑制される。
【0095】
したがって、アルミニウム合金層18を有する型基材10を用いて、
図14(b)に示すような、ポーラスアルミナ層20を有するモスアイ用型100を形成することによって、不要なヘイズを有しない(ヘイズの無い、あるいは、ヘイズが制御された)反射防止膜を形成することが可能な型100を得ることができる。
【0096】
ここで、
図31〜
図32を参照して、不要なヘイズを有する反射防止膜が形成される理由を簡単に説明する。
図31は、比較例のアルミニウム合金層のSEM像を示す図であり、
図31(a)は表面像(50000倍、図中のバーの全長が100μm)であり、
図31(b)は断面のSEM像である。このアルミニウム合金層は、Al−Ti層で、厚さが約1000nmである。ターゲットの組成は、Al:99.5質量%、Ti:0.5質量%のターゲットである。PCT/JP2012/058394号に記載の方法(比較例)で形成したものである。このSEM像に示したように、ボイドが散在していることがわかる。
【0097】
図32(a)〜(d)は、アルミニウム合金層にボイドが存在すると、不要なヘイズを有する反射防止膜が形成される理由を説明するための模式図である。
【0098】
図32(a)に示すように、ボイド78bを有するアルミニウム合金層78を陽極酸化すると、
図32(b)に示すように、微細な凹部82aを有するポーラスアルミナ層80が形成される際に、ボイド78b内に複数の微細な凹部が形成される。ボイド78bとその内部に形成された複数の微細な凹部をまとめて、異常凹部82bと呼ぶことにする。
【0099】
この後、エッチングを行うことによって、微細な凹部82を拡大する工程と、さらに陽極酸化することによって微細な凹部82aを成長させる工程とを行うと、
図32(c)に示すように、異常凹部82bが大きくなる。
【0100】
図32(c)に示したようなポーラスアルミナ層80を有する型を用いて反射防止膜を形成すると、
図32(d)に示すように、異常凹部82bに対応して粗大な凸部92bが形成される。ポーラスアルミナ層80の正常な微細な凹部82aに対応する微細な凸部92aは、例えば、円錐形を有し、反射防止機能を発現する。
【0101】
図33は、試作した反射防止膜のSEM像(50000倍、図中のスケールの全長は500nm)の例を示す図であり、
図33(a)は、本発明の実施形態によるモスアイ用型を用いて形成した反射防止膜のSEM像の例であり、
図33(b)は、PCT/JP2012/058394号に記載の方法で形成した反射防止膜のSEM像の例(比較例)である。
【0102】
図33(b)には、
図32(d)に示した粗大な凸部92bに対応すると考えられる大きな凸部(膜法線方向から見たときの2次元的な大きさが概ね300nm)が見られる。この大きな凸部の大きさは、
図32を参照して説明したモデルでほぼ説明できる。
【0103】
アルミニウム合金層の厚さは、500nm以上1000nm以下であることが好ましい。反射防止膜を形成するためのモスアイ用型の凹部の深さは、約10nm以上、典型的には100nm以上で約1000nm(約1μm)未満であるからである。
【0104】
ここで、厚さが約1μmのアルミニウム合金層18は、一度に堆積するよりも複数回に分けて堆積する方が好ましい。すなわち、所望の厚さ(例えば1μm)まで連続して堆積するよりも、ある厚さまで堆積した段階で中断し、ある時間が経過した後に、堆積を再開するという工程を繰り返し、所望の厚さのアルミニウム合金層18を得ることが好ましい。例えば、厚さが50nmのアルミニウム合金層を堆積するたびに中断し、それぞれの厚さが50nmの20層のアルミニウム合金層で、厚さが約1μmのアルミニウム合金層18を得ることが好ましい。このように、アルミニウム合金の堆積を複数回に分けることによって、最終的に得られるアルミニウム合金層18の品質(例えば、耐薬品性や接着性)を向上させることができる。アルミニウム合金を連続的に堆積すると、基材(アルミニウム合金層が堆積される表面を有するものを指す)の温度が上昇し、その結果、アルミニウム合金層18内に熱応力の分布が生じ、膜の品質を低下させるためと考えられる。
【0105】
ここで、
図14(a)に示す型基材10のように、有機絶縁層13とアルミニウム合金層18との間には、無機下地層14を有することが好ましい。無機下地層14は、有機絶縁層13の表面に直接形成され、有機絶縁層13とアルミニウム合金層18の間の密着性を向上させるように作用する。無機下地層14は、無機酸化物または無機窒化物で形成されることが好ましく、無機酸化物を用いる場合、例えば酸化シリコン層、酸化タンタル層または酸化チタン層が好ましく、無機窒化物を用いる場合、例えば窒化シリコン層が好ましい。また、無機酸化物層または無機窒化物層に不純物を添加することによって、熱膨張係数を調整してもよい。例えば、酸化シリコン層を用いる場合には、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)またはボロン(B)を添加することによって、熱膨張係数を増大させることができる。
【0106】
無機下地層14の厚さは、40nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。無機下地層14の厚さが40nm未満であると無機下地層14を設けた効果が十分に発揮されないことがある。無機下地層14の厚さは、500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。無機下地層14の厚さが500nm超であると、無機下地層14の形成時間が不必要に長くなる。また、曲面や可撓性を有する面に形成された無機下地層14は厚いほど割れが発生しやすい。
【0107】
型基材10は、無機下地層14とアルミニウム合金層18との間に、緩衝層16をさらに有することが好ましい。緩衝層16は、無機下地層14とアルミニウム合金層18との間の接着性を向上させるように作用する。ここでは、緩衝層16は、無機下地層14上に直接形成されている例を示しているがこれに限られない。例えば、アルミニウム合金層18を均一に陽極酸化するために下地に導電層(好ましくはバルブ金属層)を設ける場合、無機下地層14と緩衝層16との間、または、緩衝層16とアルミニウム合金層18との間に導電層を設けてもよい。
【0108】
緩衝層16は、アルミニウムと、金属元素Mと、酸素または窒素とを含むことが好ましい。酸素または窒素の含有率は一定であってもよいが、特に、アルミニウムおよび金属元素Mの含有率が無機下地層14側よりもアルミニウム合金層18側において高いプロファイルを有することが好ましい。熱膨張係数などの物性値の整合に優れるからである。緩衝層16の厚さは、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。また、緩衝層16の厚さは、500nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。緩衝層16の厚さが10nm未満であると無機下地層14とアルミニウム合金層18との間に十分な密着性が得られないことがある。また、緩衝層16の厚さが500nm超であると、緩衝層16の形成時間が不必要に長くなるので好ましくない。
【0109】
緩衝層16内のアルミニウムの含有率の厚さ方向におけるプロファイルは、段階的に変化してもよいし、連続的に変化しても良い。例えば、緩衝層16をアルミニウムと、金属元素Mと、酸素とで形成する場合、酸素含有率が漸次低下する複数の酸化アルミニウム合金層を形成し、最上層の上にアルミニウム合金層18を形成する。緩衝層16の酸素含有率は、最も高いところで60at%以下であることが好ましい。酸素に代えて窒素を含む緩衝層16を形成する場合も同様である。
【0110】
図14(a)に示した型基材10を用いて、従来の方法と同様に、アルミニウム合金層18を部分的に陽極酸化することによって、複数の微細な凹部22を有するポーラスアルミナ層20を形成する工程と、その後に、ポーラスアルミナ層20を、エッチング液に接触させることによって、ポーラスアルミナ層20の複数の微細な凹部22を拡大させる工程と、さらにその後に、さらに陽極酸化することによって複数の微細な凹部22を成長させる工程とを行うことによって、
図14(b)に示すモスアイ用型100を得ることができる。
【0111】
モスアイ用型100は、反射防止膜(反射防止表面)の製造に好適に用いられる。反射防止膜の製造に用いられるポーラスアルミナ層20の微細な凹部(細孔)22の断面形状は概ね円錐状である。
図14(b)に誇張して示すように、微細な凹部22は、階段状の側面を有してもよい。微細な凹部22の二次元的な大きさ(開口部径:D
p)は10nm以上500nm未満で、深さ(D
depth)は10nm以上1000nm(1μm)未満程度であることが好ましい。また、微細な凹部22の底部は尖っている(最底部は点になっている)ことが好ましい。さらに、微細な凹部22は密に充填されていることが好ましく、ポーラスアルミナ層20の法線方向から見たときの微細な凹部22の形状を円と仮定とすると、隣接する円は互いに重なり合い、隣接する微細な凹部22の間に鞍部が形成されることが好ましい。なお、略円錐状の微細な凹部22が鞍部を形成するように隣接しているときは、微細な凹部22の二次元的な大きさD
pは平均隣接間距離D
intと等しいとする。したがって、反射防止膜を製造するためのモスアイ用型100のポーラスアルミナ層20は、D
p=D
intが10nm以上500nm未満で、D
depthが10nm以上1000nm(1μm)未満程度の微細な凹部22が密に不規則に配列した構造を有していることが好ましい。なお、微細な凹部22の開口部の形状は厳密には円ではないので、D
pは表面のSEM像から求めることが好ましい。ポーラスアルミナ層20の厚さt
pは約1μm以下である。
【0112】
以下に、円筒状の型基材を用いたロール状型の製造方法の例を説明する。
【0113】
ロール状型は、本出願人による国際公開第2011/105206号に記載されている方法で作製した。ここでは、ステンレス鋼またはニッケルのメタルスリーブを用いた。なお、メタルスリーブとは、厚さが0.02mm以上1.0mm以下である金属製の円筒をいう。国際公開第2011/105206号の開示内容の全てを参考のために本明細書に援用する。
【0114】
実験に用いたメタルスリーブを用いたロール型の作製方法を、
図15を参照して簡単に説明する。
【0115】
まず、
図15(a)に示すように、メタルスリーブ72mを用意する。
【0116】
次に、
図15(b)に示すように、メタルスリーブ72mの外周面上に、例えば、電着法によって、有機絶縁層13を形成する。
【0117】
電着法としては、例えば、公知の電着塗装方法を用いることができる。例えば、まず、メタルスリーブ72mを洗浄する。次に、メタルスリーブ72mを、電着樹脂を含む電着液が貯留された電着槽に浸漬する。電着槽には、電極が設置されている。カチオン電着により絶縁性樹脂層を形成するときは、メタルスリーブ72mを陰極とし、電着槽内に設置された電極を陽極として、メタルスリーブ72mと陽極との間に電流を流し、メタルスリーブ72mの外周面上に電着樹脂を析出させることによって、絶縁性樹脂層を形成する。アニオン電着により絶縁性樹脂層を形成するときは、メタルスリーブ72mを陽極とし、電着槽内に設置された電極を陰極として電流を流すことにより絶縁性樹脂層を形成する。その後、洗浄工程、焼付工程等を行うことにより、有機絶縁層13が形成される。電着樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、またはこれらの混合物を用いることができる。電着法のほか、種々のコーティング法を用いて絶縁性樹脂層を形成し、必要に応じて、硬化させることによって、有機絶縁層13を形成することができる。有機絶縁層13は、表面を平坦化する効果が高く、メタルスリーブ72mなどの表面の傷等がアルミニウム合金層18の表面形状に反映されるのを抑制することができる。
【0118】
次に、
図15(c)に示すように、有機絶縁層13の上に、無機下地層14を形成する。例えば、厚さが約100nmのSiO
2層14を形成する。SiO
2層に限られず、例えばTa
2O
5層を形成してもよい。
【0119】
次に、
図15(d)に示すように、緩衝層16およびアルミニウム合金層18とを連続して形成する。緩衝層16およびアルミニウム合金層18の形成には、同じターゲットを用いる。従って、アルミニウムと金属元素Mとの比率は、緩衝層16およびアルミニウム合金層18において一定である。緩衝層16の厚さは、例えば、約100nmで、アルミニウム合金層18の厚さは約1μmである。なお、無機下地層14の形成からアルミニウム合金層18の形成までは、薄膜堆積法(例えばスパッタリング)で行われ、全て同一のチャンバー内で行うことが好ましい。
【0120】
続いて、
図15(e)に示すように、アルミニウム合金層18の表面に対して、陽極酸化とエッチングとを交互に繰り返すことによって、複数の微細な凹部を有するポーラスアルミナ層20を形成することにより、型100aが得られる。
【0121】
次に、
図16を参照して、ポーラスアルミナ層20を形成する方法を説明する。
図16では、型基材10として、支持体12上にアルミニウム合金層18が直接形成されているものを示している。
【0122】
まず、
図16(a)に示すように、型基材10を用意する。型基材10は、金属基材と、金属基材上に形成された有機絶縁層13と、有機絶縁層13上に堆積されたアルミニウム合金層18とを有する。
【0123】
次に、
図16(b)に示すように、型基材10の表面(アルミニウム合金層18の表面18s)を陽極酸化することによって複数の微細な凹部22(細孔)を有するポーラスアルミナ層20を形成する。ポーラスアルミナ層20は、微細な凹部22を有するポーラス層と、バリア層とを有している。ポーラスアルミナ層20は、例えば、酸性の電解液中で表面18sを陽極酸化することによって形成される。ポーラスアルミナ層20を形成する工程で用いられる電解液は、例えば、蓚酸、酒石酸、燐酸、クロム酸、クエン酸、リンゴ酸からなる群から選択される酸を含む水溶液である。陽極酸化条件(例えば、電解液の種類、印加電圧)を調整することにより、細孔間隔、細孔の深さ、細孔の形状等を調節できる。なお、ポーラスアルミナ層の厚さは適宜変更され得る。アルミニウム合金層18を完全に陽極酸化してもよい。
【0124】
次に、
図16(c)に示すように、ポーラスアルミナ層20をアルミナのエッチャントに接触させることによって所定の量だけエッチングすることにより微細な凹部22の孔径を拡大する。ここで、ウェットエッチングを採用することによって、細孔壁およびバリア層をほぼ等方的にエッチングすることができる。エッチング液の種類・濃度、およびエッチング時間を調整することによって、エッチング量(すなわち、微細な凹部22の大きさおよび深さ)を制御することができる。エッチング液としては、例えば10質量%の燐酸や、蟻酸、酢酸、クエン酸などの有機酸の水溶液やクロム燐酸混合水溶液を用いることができる。
【0125】
次に、
図16(d)に示すように、再び、アルミニウム合金層18を部分的に陽極酸化することにより、微細な凹部22を深さ方向に成長させるとともにポーラスアルミナ層20を厚くする。ここで微細な凹部22の成長は、既に形成されている微細な凹部22の底部から始まるので、微細な凹部22の側面は階段状になる。
【0126】
さらにこの後、必要に応じて、ポーラスアルミナ層20をアルミナのエッチャントに接触させることによってさらにエッチングすることにより微細な凹部22の孔径をさらに拡大する。エッチング液としては、ここでも上述したエッチング液を用いることが好ましく、現実的には、同じエッチング浴を用いればよい。
【0127】
このように、上述した陽極酸化工程およびエッチング工程を繰り返すことによって、
図16(e)に示すように、所望の凹凸形状を有するポーラスアルミナ層20を有するモスアイ用型100Aが得られる。陽極酸化工程およびエッチング工程のそれぞれの条件、時間、回数を調整することによって、微細な凹部22の側面は、階段状にもできるし、滑らかな曲面あるいは斜面にもできる。
【0128】
次に、本発明による実施形態のロール状モスアイ用型を用いた反射防止膜の製造方法を説明する。ロール状型は、軸を中心にロール状型を回転させることによって、型の表面構造を被加工物(反射防止膜が形成される表面を有する物)に連続的に転写できるという利点がある。
【0129】
本発明によるある実施形態の反射防止膜の製造方法は、上記の型を用意する工程と、被加工物を用意する工程と、型と被加工物の表面との間に光硬化樹脂を付与した状態で、光硬化樹脂に光を照射することによって光硬化樹脂を硬化させる工程と、硬化させられた光硬化樹脂で形成された反射防止膜から型を剥離する工程とを包含する。
【0130】
被加工物として、ロール状のフィルムを用いると、ロール・ツー・ロール方式で、反射防止膜を製造することができる。フィルムとしては、ベースフィルムと、ベースフィルム上に形成されたハードコート層とを有し、反射防止膜は、ハードコート層の上に形成されていることが好ましい。ベースフィルムとしては、例えば、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムを好適に用いることができる。ハードコート層としては、例えば、アクリル系のハードコート材料を用いることができる。
【0131】
図15(e)に示した型100aが有するメタルスリーブ72mは、容易に変形するので、型100aをそのまま用いることは難しい。そこで、
図17に示すように、型100aのメタルスリーブ72mの内部にコア材50を挿入することによって、ロール・ツー・ロール方式による反射防止膜の製造方法に用いることができる型100Aを得る。なお、
図17に示す型100Aは支持体12の上に形成された緩衝層16を有している。
【0132】
次に、
図18を参照して、本発明による実施形態の型を用いた反射防止膜の製造方法を説明する。
図18は、ロール・ツー・ロール方式により反射防止膜を製造する方法を説明するための模式的な断面図である。
【0133】
まず、
図17に示したロール状のモスアイ用型100Aを用意する。
【0134】
次に、
図18に示すように、紫外線硬化樹脂32’が表面に付与された被加工物42を、モスアイ用型100Aに押し付けた状態で、紫外線硬化樹脂32’に紫外線(UV)を照射することによって紫外線硬化樹脂32’を硬化する。紫外線硬化樹脂32’としては、例えばアクリル系樹脂を用いることができる。被加工物42は、例えば、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムである。被加工物42は、図示しない巻き出しローラから巻き出され、その後、表面に、例えばスリットコータ等により紫外線硬化樹脂32’が付与される。被加工物42は、
図18に示すように、支持ローラ62および64によって支持されている。支持ローラ62および64は、回転機構を有し、被加工物42を搬送する。また、ロール状のモスアイ用型100Aは、被加工物42の搬送速度に対応する回転速度で、
図18に矢印で示す方向に回転される。
【0135】
その後、被加工物42からモスアイ用型100Aを分離することによって、モスアイ用型100Aの凹凸構造(反転されたモスアイ構造)が転写された硬化物層32が被加工物42の表面に形成される。表面に硬化物層32が形成された被加工物42は、図示しない巻取りローラにより巻き取られる。
【0136】
上記では金属基材としてメタルスリーブを用いる例を説明したが、メタルスリーブに代えて、バルクのアルミニウム基材を用いることもできる。
【0137】
次に、
図19および
図20を参照して、円筒状(ロール状)のモスアイ用型の形成に用いられるロール状型基材の製造方法を説明する。
【0138】
本発明の実施形態による円筒状の型基材の製造方法は、円筒状の基材を、少なくとも円筒の軸を中心に自転が可能なように、成膜室内に配置する工程と、成膜室内に窒素ガスを混合した雰囲気下で、基材を自転させながら、アルミニウムと、アルミニウム以外の金属元素とを含むターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタ法で、基材の外周面上に、アルミニウム合金層を堆積する工程とを包含する。
【0139】
円筒状の型基材は、当然1本ずつ製造することができるが、複数本の型基材を一度に製造することが量産性の観点から好ましい。
図19(a)および(b)は、複数の円筒状の型基材を製造する方法を説明するための模式図である。
【0140】
図19(a)および(b)は、スパッタリングを行う成膜室(チャンバーともいう。不図示)内における円筒状の基材(例えば上記のメタルスリーブ72m)の配置を模式的に示している。
【0141】
図19(b)に示すように、9本の円筒状基材が回転可能なステージST上に円周方向に沿って一定の間隔で配置されている。成膜室内は所定の真空度に制御され、スパッタリングガス(Arガス)および窒素ガスをそれぞれ所定の流量で導入され得る。
【0142】
各円筒状基材72mは、それぞれ独立または互いに同調して回転可能なサブステージSST上に配置されている。従って、円筒状基材72mは、ステージSTの円周方向に沿って公転しながら、サブステージSST上で円筒の軸を中心に自転することができるように配置されている。
【0143】
スパッタリング装置は、例えばカルーセル型のスパッタリング装置であり、
図19(b)に示しように、例えば4つのターゲットT1、T2、T3およびT4を備え、シャッターS1、S2、S3およびS4を開閉することによって、成膜室に材料を供給することができる。上述の無機層として、SiO
2層やTa
xO
y層の形成は、RFスパッタ法で行い、Al−Ti層はDCスパッタ法で形成される。なお、Al−Ti層を形成する際には、成膜室内を窒素ガスを所定の体積分率で含む雰囲気としておくことによって、窒素含有アルミニウム合金層を形成する。ターゲットの組成は、例えば、Al:99.5質量%、Ti:0.5質量%である。
【0144】
円筒状基材72mの自転および公転の方向は同一(ここでは時計回り)であることが好ましく、回転速度も遅いことが好ましい。
【0145】
図19(a)に示すように、全てのサブステージSSTに円筒状基材72mを配置する必要はない。但し、
図19(a)に例示したように、製品となる円筒状基材72mの両側には、遮蔽材を配置することが好ましく、各円筒状基材72mが、ターゲットから供給された材料に均等に曝されるように遮蔽材を配置する。遮蔽材は、使用しない円筒状基材(ダミー)72dであってもよい。全てのサブステージSSTに円筒状基材72mを配置した場合は、各円筒状基材72mに隣接する2つの円筒状基材72mが遮蔽材として機能することになる。
【0146】
図20(a)から(d)を参照して、具体的な成膜条件を検討した結果を説明する。
【0147】
実験に用いたカルーセル型のスパッタリング装置は、直径が300mm、長さが約1600mmの円筒状基材72mを12本配置できるものであったが、
図20では簡単のために9本の場合を図示している。直径が300mmの円筒状基材72mを配置したとき、各ターゲットT1〜T4と円筒状基材72mとの最短距離は7cmとなるように、サブステージSSTが配置されている。円筒状基材72mの自転周期は約20秒であり、公転周期は約100秒である。
【0148】
図20(a)〜(d)に実験に用いた、円筒状基材72mの配置を模式的に示す。
【0149】
図20(a)では、サブステージSSTの中心に直径が150mmの円筒状基材72mを配置し、その両側には遮蔽材を配置していない。これを配置aという。
【0150】
図20(b)では、サブステージSSTの中心からターゲットに4.5cm近い位置で自転するように、直径が150mmの円筒状基材72mを配置し、その両側に直径が300mmのダミーの円筒状基材(以下、単に「ダミー」ということがある)72dを遮蔽材として配置している。これを配置bという。
【0151】
図20(c)では、
図20(b)と同様に、サブステージSSTの中心からターゲットに4.5cm近い位置で自転するように、直径が150mmの円筒状基材72mを配置し、
図20(b)のダミー72dに代えて、隣接するダミー72dの表面よりも近い位置に、遮蔽板74を配置している。これを配置cという。
【0152】
図20(d)では、直径が300mmの円筒状基材72mをサブステージSSTの中心に配置し、その両側に直径が300mmのダミー72dを配置している。これを配置dという。
【0153】
以下の実験では、円筒状基材72mとして、アルミニウム管(材質は6000番台、管の厚さは5〜25mm)を用いた。
【0154】
まず、円筒状基材72mの表面に厚さが15nm〜70nmのSiO
2層を形成し、その上にアルミニウム合金層(Al−Ti層)を形成した。アルミニウム合金層の形成に際しては、成膜室に導入する窒素ガスの流量を変化させることによって、窒素非含有アルミニウム合金層(比較例)および窒素の含有率が異なる窒素含有アルミニウム合金層を形成した。ターゲットとしては、Al:99.5質量%、Ti:0.5質量%のターゲットを用いた。
【0155】
得られたアルミニウム合金層を有する型基材について、目視評価、燐酸によるエッチング性、モスアイ用型の構造、および電気抵抗を評価した。
【0156】
まず、
図20を参照して説明した配置a〜dのアルミニウム合金層の膜質に対する影響を検討した結果を
図21に示す。
図21に示す試料A〜Hのうち、試料Aは配置a、試料Bは配置b、試料CおよびDは配置c、試料E〜Hは配置dでそれぞれ形成した。窒素ガスの導入の有無(窒素ガスの流量は10sccm)および遮蔽材(ダミー72d、遮蔽板74)の配置の影響についても検討した。さらに、モスアイ用型を作製し、モスアイ用型の表面の散乱性を評価した。散乱性は、色彩色差計(コニカミノルタ製CR−331)を用いて評価した。具体的には、モスアイ用型の表面の法線に対して45°傾斜した方向から平行光を照射し、モスアイ用型の表面の法線方向に配置した検出器に入射した光のY値の大きさで、散乱性を評価した。Y値が大きいほど散乱性が高い。なお、
図21に、試料A(配置a)の結果がないのは、試料Aは、アルミニウム合金層の表面に鏡面性が乏しく、400nm〜700nmの光に対する反射率は、概ね20%以下と非常に低かった。また、試料Aは、目視で白濁して見えた。従って、試料Aは、モスアイ用型を作製するまでもなく、不可と判断した。
【0157】
なお、モスアイ用型の製造条件は、以下のとおりである。
陽極酸化工程:シュウ酸水溶液:0.025mol/L、温度:10℃、化成電圧:45V、陽極酸化時間(通電時間):3分30秒
エッチング工程:燐酸水溶液:1mol/L、温度:30℃、エッチング時間:20分
【0158】
上記の陽極酸化工程とエッチング工程とを交互に4回繰り返した後、最後に陽極酸化工程を1回行った。
【0159】
図21を参照すると、試料Aと試料Bとの比較から、円筒状基材(製品となる)の両側に遮蔽材(ダミー)を配置することによって、アルミニウム合金層の表面の散乱性を抑制できることがわかる。さらに、試料Bと、試料CおよびDとの比較から、基材と遮蔽材との距離は小さい方が、表面の散乱性を抑制する効果が高いことがわかる。
【0160】
さらに、試料EおよびFと、試料GおよびHとの比較から、窒素を導入することによって、表面の散乱性を抑制できることがわかる。また、窒素を導入した試料CおよびD、ならびに、試料GおよびHは、試料EおよびFに比べて、Y値が小さいだけでなく、その値のばらつきが小さい(試料Cと試料Dとの間、試料Gと試料Hとの間のばらつき)。すなわち、窒素を導入することによって、製造ばらつきを抑制できることがわかる。
【0161】
次に、窒素の導入量の好ましい範囲を検討した結果を説明する。
【0162】
窒素の導入量は、上述したスパッタリング装置を用いた成膜工程において、成膜室内に導入する窒素ガスの流量で制御した。アルミニウム合金層の成膜条件は、上記と同じで、真空度は0.4Paで、スパッタガス(流量:440sccm)に対して窒素ガスの流量を0sccm(窒素なし)、5sccm、10sccm、15sccm、および20sccmとすることによって、アルミニウム合金層中に含まれる窒素の含有率を制御した。
【0163】
まず、各アルミニウム合金層(as−grown:初期値)の表面の分光反射率および各アルミニウム合金層を1mol/Lの燐酸水溶液に100分間浸漬した後の分光反射率を測定した結果を
図22に示す。測定波長範囲は、400nm〜700nmである。
【0164】
図22から明らかなように、窒素ガスをスパッタガスに混合することなく形成した比較例の試料は、燐酸水溶液に浸漬することによって、反射率が大きく低下していることがわかる。すなわち、燐酸水溶液によって、アルミニウム合金層の表面がエッチングされ、鏡面性が大きく低下した。
【0165】
これに対して、窒素ガスをスパッタガスに混合して形成したアルミニウム合金層は、燐酸水溶液に浸漬後も、測定波長領域のほぼ全体にわたって高い反射率を維持していることがわかる。特に、窒素ガスの流量を20sccmとしたもの以外は、測定波長領域のほぼ全体にわたって85%以上の高い反射率を維持している。そのなかでも、窒素の流量が10sccmおよび15sccmのものは、初期値および燐酸水溶液浸漬後のいずれも86%以上の高い反射率を有している。
【0166】
次に、
図23(a)〜(c)および
図24を参照して、窒素を導入することによって、アルミニウム合金層を構成する結晶粒が小さく且つ均一性が向上したことを説明する。
【0167】
図23(a)〜(c)は、純アルミニウム層(ターゲット純度:99.99質量%以上、窒素ガスを混合せず)および窒素ガスを流量10sccmで混合しながら形成したアルミニウム合金層(ターゲット合金:アルミニウム99.5質量%、Ti0.5質量%)に、陽極酸化工程を1回行った後、燐酸水溶液に浸漬し、陽極酸化で形成された微細な凹部が、燐酸水溶液によって拡大されて行く様子を示すSEM像である。
図24は、燐酸水溶液への浸漬時間(Et時間)と、SEM像から求められた凹部の直径(孔直径、上記のD
pに対応)との関係を示すグラフである。陽極酸化工程および燐酸水溶液によるエッチング工程は、上述と同じ条件とした。
図24から、アルミニウム合金に窒素を含有させても、エッチング速度に大きな変化がないことがわかる。
【0168】
図23(a)〜(c)のSEM像からわかるように、窒素含有アルミニウム合金層を構成する結晶粒のサイズは、純アルミニウム層を構成する結晶粒のサイズよりも小さく、且つ、均一性が高いことがわかる。陽極酸化による凹部(細孔)の形成は、結晶粒界(谷)で進行しやすく、また、エッチングも谷で進行しやすい。窒素含有アルミニウム合金層は、結晶粒が小さく、且つ均一性が高いので、谷が小さく(浅く)エッチングが均一に進む。その結果、反転されたモスアイ構造を構成する複数の凹部が非常に緻密に形成されると考えられる。
【0169】
次に、上述のプロセスでモスアイ用型を形成し、得られたポーラスアルミナ層の表面をSEMを用いて観察した。アルミニウム合金層の初期の表面SEM像(a)、燐酸水溶液(1mol/L)に100分間浸漬後の表面SEM像(b)、およびモスアイ用型を形成後の表面SEM像10000倍(c)、50000倍(d)および45°方向からの断面SEM像(e)を
図25〜
図29に示す。
図25は、窒素を導入していない比較例のアルミニウム合金層、
図26は成膜時に5sccmで窒素ガスを導入したアルミニウム合金層、
図27は成膜時に10sccmで窒素ガスを導入したアルミニウム合金層、
図28は、成膜時に15sccmで窒素ガスを導入したアルミニウム合金層、
図29は成膜時に20sccmで窒素ガスを導入したアルミニウム合金層のSEM像をそれぞれ示している。
【0170】
図25〜
図29のそれぞれの(a)に示したアルミニウム合金層の初期表面の粗さをAFMを用いて測定したところ、窒素無し、窒素流量5sccm、10sccm、15sccm、20sccmの順に、平均表面粗さRaは、5.527nm、5.102nm、3.145nm、2.582nmおよび3.012nmであり、最大表面粗さRmaxは、95.48nm、57.13nm、43.59nm、32.52nmおよび40.16nmであった。このことからも、窒素の流量が10sccm〜15sccmのときに、表面粗さの小さい、鏡面性の高いアルミニウム合金層が形成できることがわかる。
【0171】
図25の(c)および(d)、
図26〜
図29の(c)〜(e)を比較すると明らかなように、
図26および
図27の(c)〜(e)に示したポーラスアルミナ層は、凹部が均一かつ緻密に形成されている。
【0172】
次に、
図30を参照して、窒素含有率の異なるアルミニウム合金層を用いて形成されたポーラスアルミナ層の組成を説明する。ポーラスアルミナ層は、上述したモスアイ用型の製造方法で説明したのと同じプロセスで形成した。ここでは、
図13に組成分析結果を示したアルミニウム合金層と同じ条件で成膜したアルミニウム合金層を用いて形成したポーラスアルミナ層の組成を、先と同様にESCAを用いて分析した。組成の厚さ方向における分布を考慮して、ESCAに付属のエッチング銃でエッチングしながら(図中のEt(sec))組成分析を行った。測定には、日本電子株式会社製の光電子分光装置JPS−9000MCを用いた。
【0173】
図30に、各ポーラスアルミナ層(窒素無し、窒素流量:10sccm、15sccm、20sccm)の組成分析結果を示す。
【0174】
エッチング時間が180秒の結果から、ポーラスアルミナ層の下地のアルミニウム合金層が露出していると思われるので、エッチング時間が10秒〜120秒の結果を参照する。
【0175】
図30に示したように、窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素流量:10sccm)を用いて形成したポーラスアルミナ層の窒素含有率は0.5質量%以上1.1質量%以下であり、窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素流量:15sccm)を用いて形成したポーラスアルミナ層の窒素含有率は0.7質量%以上1.4質量%以下であり、窒素含有アルミニウム合金層(成膜時の窒素流量:20sccm)を用いて形成したポーラスアルミナ層の窒素含有率は0.8質量%以上1.7質量%以下であった。このように、窒素含有アルミニウム合金層を用いて形成されたポーラスアルミナ層も窒素を含有しており、その窒素含有率は0.5質量%以上1.7質量%以下であることがわかる。特に、表面粗さの小さいアルミニウム合金層(成膜時の窒素の流量が10sccm〜15sccm)を用いて形成されたポーラスアルミナ層の窒素含有率は0.5質量%以上1.4質量%以下である。
【0176】
このようにして得られたポーラスアルミナ層を備えるモスアイ用型を用いて形成した反射防止膜には、
図33(a)に示したように、光散乱の原因となるような大きな凸部(膜法線方向から見たときの2次元的な大きさが概ね300nm)は見られず、モスアイ構造が均一に形成されており、優れた反射防止機能を発現する。なお、
図33(a)に示した反射防止膜は、上記
図28に示したポーラスアルミナ層を備えるモスアイ用型を用いて形成したものである。