特許第5797369号(P5797369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5797369超音波衝撃処理により溶接レール継手特性の品質および信頼性を改善する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797369
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】超音波衝撃処理により溶接レール継手特性の品質および信頼性を改善する方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20151001BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20151001BHJP
   B23K 101/26 20060101ALN20151001BHJP
【FI】
   B23K31/00 A
   C21D7/06 Z
   B23K101:26
【請求項の数】16
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2008-519267(P2008-519267)
(86)(22)【出願日】2006年3月30日
(65)【公表番号】特表2008-544861(P2008-544861A)
(43)【公表日】2008年12月11日
(86)【国際出願番号】US2006011572
(87)【国際公開番号】WO2007005080
(87)【国際公開日】20070111
【審査請求日】2009年3月26日
【審判番号】不服2012-17376(P2012-17376/J1)
【審判請求日】2012年9月6日
(31)【優先権主張番号】11/171,352
(32)【優先日】2005年7月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506363540
【氏名又は名称】ユー.アイ.ティー., エル.エル.シー.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(72)【発明者】
【氏名】スタトニコフ エフィム エス.
(72)【発明者】
【氏名】コロステル ウラディスラブ ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】ヴィトヤゼフ ウラディミール
(72)【発明者】
【氏名】コロリコーフ オレグ
【合議体】
【審判長】 栗田 雅弘
【審判官】 刈間 宏信
【審判官】 長屋 陽二郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−169339(JP,A)
【文献】 村井亮介ほか3名,鋼橋応力測定への磁気ひずみ法の応用について,溶接学会誌,2003発行,第72巻第2号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00 C21D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールにおいて少なくとも1つの所定の特性を改変するかまたは生じさせ、少なくとも1つの技術的効果を得る方法であって、
(a) 超音波衝撃処理によりその必要があるレールの少なくとも一部を処理する工程;および
(b) 該超音波衝撃処理により該レールにおいて少なくとも1つの技術的効果を得る工程を含み、該レールが、溶接継手により相互に連結された第1のセクションおよび第2のセクションを含み、該溶接継手がテルミット溶接継手であり、かつ該超音波衝撃処理が、超音波衝撃トランスデューサーヘッドを備えた超音波衝撃トランスデューサーを含む工具によりもたらされ、かつ該処理する工程が、該超音波衝撃トランスデューサーヘッドが該溶接継手から該超音波衝撃処理の超音波波長の4分の1に等しいかまたはその倍数の距離でレール表面上に設置されるように、レールの長さに対して垂直に該工具を配置する工程を含む、方法であり、
該方法は、処理されるレールの品質を制御する工程をさらに含み、該制御する工程が、該処理する工程中に処理されたレールからの逆磁歪信号(back magnetostriction signal)を測定する工程、および処理されたレールからの逆磁歪信号を参照試料のものまたは標準的なレール継手のものと比較する工程を含み、処理されたレールからの該逆磁歪信号が、該トランスデューサーの逆磁気歪み電圧を測定することによって測定される、方法。
【請求項2】
前記処理する工程が、前記溶接継手上のレールの表面に沿って前記超音波衝撃トランスデューサーヘッドを移動させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記処理する工程の前に、前記レールが少なくもと1つの溶接欠陥を含み、かつ前記処理する工程が、該少なくとも1つの溶接欠陥を減ずるかまたは除去する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの溶接欠陥が、割れ、気孔、孔、スラグ混入、不良融合、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記処理する工程が、前記溶接継手のガス抜きをもたらす、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記処理が、180 MPaの応力振幅で2×106サイクル以上の疲労寿命を有する、処理されたレールをもたらす、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記処理する工程が、前記溶接継手をもたらす溶接中に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記処理する工程が、前記溶接継手を形成する溶接後に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記処理する工程の前に、レールが、前記溶接継手に関連する少なくとも1つの割れを含み、かつ少なくとも1つの割れに沿った鋭い端部構造を面取りする工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記制御する工程がリアルタイムで行われる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
処理された継手の逆磁歪信号のパラメータ値が参照の逆磁歪信号のパラメータ値に近づくように、前記超音波衝撃処理のパラメータを調整する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記処理する工程が手動で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記処理する工程が自動的方法で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記処理する工程が、前記レールに沿って移動可能なトロリーの上に置かれた工具により行われる、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記処理する工程が、振動速度方向を変換する導波管および少なくとも1つの圧子を含む超音波衝撃工具により行われ、該導波管が、第1の方向の超音波振動を得て、第1の方向とは異なる第2の方向にある少なくとも1つの圧子の超音波振動に該振動を変換するよう構成される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
第2の方向が第1の方向に対して垂直である、請求項15記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、熱溶接即ちテルミット溶接、例えばアルミノテルミット溶接もしくは銅テルミット溶接などの溶接、ならびにアーク溶接、ガス圧接溶接、およびフラッシュバット溶接などの溶接プロセスによって相互連結されたレールのセクションの性能を、溶接前、溶接中、溶接後、または使用されたレールの修理中のいずれかにおいて超音波衝撃処理(UIT)プロセスを利用して溶接継手を再加工することによって改善することに関する。これは、継続的なまたは数回に分けた、手動または自動的方法での超音波衝撃工具によるUITの適用による、継手、継手のまわり、および/またはレール全長の処理を含み、溶接されたレールセクションの疲労寿命および/または他の特性を増加させることを目的する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
レールは、鉄道および地下鉄の車両、路面電車、機関車、モノレール、トロリー、および他の移動可能な回転および回動構造物を運搬する手段を提供するために用いられる。レールは、それが設置されている国によって決定される様々な基準および規格を満たさなければならない。レールは適当な材料で製造することができ、またテルミット溶接などの適当な方法で連結することができる。レールのテルミット溶接中に、化学反応によってテルミット鋼が生成され、それが鋳造構造を有する溶接部を形成する。不十分な予熱または溶接面間の大きすぎる間隙の結果として起こる不完全な融合により、溶接中にレールに割れが生じる可能性がある。割れはまた、レール端の位置のずれによって生じる可能性もある。溶接レールの他の欠陥には、溶込み不良および高温結晶化割れが含まれる。
【0003】
頭上移動クレーン用および鉄道車両交通用などのレール継手は、往々にして、高い使用率、大きな輪重、および接触応力に曝される。摩損し、損傷を受け壊れた、または分離されたレール継手は、輸送産業において、重大かつ高コストの問題になり得る。したがって、列車および生産クレーンを、効率的な割合ならびに少ない保守修理時間および低いコストで、安全かつ確実に作動するよう保つことが、不可欠である。したがって、健全なレールの状態がクレーンまたは列車の良好な作動のために必要である。
【0004】
より具体的には、多くのレールの問題は、摩損、破壊、および/または分離のいずれかが生じたことによる継手破損に起因する。劣化したレール継手は、クレーン/列車、および例えば梁、橋梁、建造物支柱などの支持構造物に大きな衝撃荷重をもたらす。衝撃荷重は、台車、鉄道車両、および構造部材中の疲労割れを加速するだけでなく、車輪軸受の破損および車軸破壊を導くことが分かっている。さらに、クレーン/列車内の他の構成要素欠陥のあるレール継手上を走行するクレーン/列車の衝撃振動により、破損または損傷を被りやすい。
【0005】
レール継手によって引き起こされる多くの問題は、修理に費用が掛かり、および/または迅速で容易な解決法がない。長年にわたって、様々なレール連結方法が、レールの割れおよびレール継手破損を修理および/または予防するために用いられてきた。これらのレール連結方法には、継目板ボルト締め、電気的アーク溶接、テルミット溶接、フラッシュバット溶接、およびガス圧接が含まれる。これらの方法のうち、テルミット溶接プロセスが、とりわけ費用の点で有利なので、線路網で最も頻繁に用いられる。しかし、新しいレールを敷くためにはフラッシュバット溶接プロセスがより頻繁に採用されつつある。
【0006】
フラッシュバット溶接は、他の連結方法と比較して最も破壊耐性が大きい高品質の継手を提供する方法である。さらに、フラッシュバット溶接部は、他の連結方法で経験される一般的な問題である摩損が無い。フラッシュバット溶接プロセスによって連結されたレールは、真に連続したレールに近い状態を示す。フラッシュバット溶接プロセスは、レールセクションを連結するための自動化されたプロセスである。複数のレールが、電荷を負荷された溶接機によって整列され、レールの端同士が引き合わせられる。端部が接触すると、アークが形成され、溶接棒を使用しないで端部同士を溶融し溶接する。全溶接プロセスにおよそ2〜3分を要し、その結果生じる継手は強くかつ均一であり、破損の危険性が低い。
【0007】
電気的アーク溶接によって優れた溶接継手を得ることは、多くの場合完成に10〜12時間を要し、非常に有能な技能者が必要な、困難かつ時間の掛かる手法である。電気的アーク溶接技術では、レール頭部の端に35°フルベベル、腹部に35°ダブルベベル、および基部の上部側に35°フルベベル必要である。確実に真直ぐにするために、溶接継手を介したレールを溶接前に整列させることが必要である。1/8インチのルート間隔が、継手の間隙の下に中心がある8×2×1/4インチの銅シムによって通常規定される。シムは、最初の溶接ビード用の裏打ちプレートとして役立ち、溶接部が冷えるとともに生じる収縮歪みを補正するのを助ける縦方向の上反りを提供する。レール端を500°Fまで予熱し、溶接の間、この温度を維持する。レールの基部、腹部、および頭部の溶接は、両側で交互に、順次進行する。完全な溶込みを確実にするために、異物、スラグ等が取り込まれるのを回避するための特別措置を採ることが必要である。次に、過剰な溶接材が、研削およびそれに続く700°Fまでの後熱により除去される。溶接部は、断熱ブランケットによって雨または雪、および低い周囲温度から保護される。継手は、可能な限りゆっくりと周囲温度まで冷却しなければならない。
【0008】
現在、電気的アーク溶接が、特定の用途において一般的に使用され続けており、許容できる継手を提供している。しかし、長さおよそ3インチの摩損作用が、固有の損耗特性である。この状態の発生を認識して早期に是正措置を取らないと、摩損領域が深くなり、ひいては車輪が継手を通過するときより高い衝撃が生じ、それにより破壊がもたらされる。
【0009】
継手の継目板ボルト締めは、最初は修理方法として、次に機関車を線路に戻す事業に用いられた。必要な継手の数を減少させるために、60フィートのレール長が標準の長さとなった。当初は、クレーン/列車は、新しくボルト締めされた継手の上を静かに滑らかに走る。しかし数か月の内に端部が摩耗し、欠けることになる。乗り心地を滑らかにするために、溶接修理を行う。これらの溶接修理は、一時的な解決策に過ぎないことが判明しており、頻繁に繰り返す必要がある。ボルト継手のその他の特性により修理業務はさらに複雑になり、その望ましさの度合いが低くなる。
【0010】
欠陥を取り除いた後にレールをジャッキで下ろして間隙を閉じるだけでは、継目板、レールクリップ、およびボルトからの干渉のため、不十分である。さらに、継目板のところでレールクリップを除去しなければならず、ボルトが緩み、レール端の間に間隙が生じる。くなったボルト孔部位でレールが壊れるという事例も起こっている。今日では、継目板ボルト継手は、特定のレール用途においては許容されるものではないと一般に認められている。
【0011】
レールのテルミット溶接プロセスでは、アルミニウムと酸化鉄の間の高い発熱性反応の結果、溶鋼が生産され、それが溶接されるべき間隙を囲む鋳型へ注ぎ込まれる。過熱された溶融金属が、溶接されるべき間隙の端でレールを溶融しかつ溶加材としても働くため、レール由来の材料は、加えられた溶鋼が凝固して溶接部を形成する際にこれと合体しかつ接合する。
【0012】
テルミット溶接の手順は一般に、レールを直角に切断し、そして溶接されるべき間隙を予め規定された範囲内に加工することにより行われる。溶接される端は、錆、ギザギザ、酸化物、または油汚れを除去するために、ブラシワイヤまたは研磨具で機械的に清浄する。長い鋼の直線縁端を用いてレール頭部の連続端を一直線にそろえる。ルミット鋼の凝固および冷却中の収縮を吸収するために、レール端を「盛り上げる(peak)」。レールの「押湯(rising)」が行われない場合は、レール頭部(より多くの材料が使われており、そのため冷却がより遅い)とレール脚部が異なる冷却をされるために、冷却後に継手がたわむことになる。たわんだ継手は乗り心地を悪くし、レール保守上の問題となる。そのような継手は、動力が増加すると、より大きな応力を受ける。
【0013】
次にるつぼ用およびトーチ用のスタンドを、レール頭部に、溶接間隙の両側の適切な位置で固定し、トーチスタンドの高さを、その上に予熱バーナーまたは溶接トーチを置くことによってチェックして調節し、次にそれを除去して、後の使用のために傍に置いておく。次に、適切なレールセクションのため、あらかじめ作製された鋳型一式を選択する。鋳型は鋳型止め即ちクランプ中に、目塗り用の砂を用いて適切に据え付ける。鋳型の配置は間隙上の中央でなければならない。何故なら、そうでなければ溶融金属を注いでいる間一方のレール端が他方より多くの熱を得て、他方のレールの金属の融合が完全でなくなる可能性があるからである。流し込む間溢れ出るスラグおよび溶融金属を集めるため鋳型止めにスラグ鉢を取り付ける。マグネサイトで内側を覆ったるつぼを、回転しているるつぼスタンド上の正確な高さおよび位置に収容する。次に、閉鎖ピンを底部に開口を覆って置く。ピンの頭は約5グラムのアスベスト粉末で覆われており、それにより溶融金属と接触するときに溶けず、「オートタップ」が起こる。るつぼを動かしてレールから遠ざけ、一部(溶融金属を生成する自然発火する混合物)をるつぼに注いで、円錐形の中にふんだんに入れる
【0014】
市販のシリンダーおよび酸素を用いて、予熱バーナーまたは溶接トーチを点火し、炎を調整する。このトーチを間隙の上に固定されたそのスタンドに設置し、炎を中央開口部を通して鋳型の上に向ける。炎が、各レールセクションに対して規定時間だけレール端部を熱し、そして予熱ガス使用される。予熱が完了するとともに、火花装置に点火しるつぼの中にそれを入れることによってテルミット反応が開始される。反応が規定時間起こり、スラグが溶融金属から分離される。
【0015】
その後、閉鎖ピンが外側からあき、それにより鋳型の先端の中央の穴へ金属を放出する。その後、るつぼおよびトーチのスタンドを撤去する。凝固後であるが金属がまだ赤熱しているときに、レール頭部の上過剰テルミット鋼(頭部押湯(riser))はすべて、手動で刻み取るかまたは水圧式溶接トリマーを用いるかのいずれかで除去される。残りの頑固な金属を除去し、溶接の脚部の鍔に付着した鋼の通気押湯を切り取る。次に、くさびを除去し、外されていたすべての締め金具再固定し、レール頭部を研磨する。
【0016】
テルミット反応では、アルミニウムが高発熱反応によって酸化鉄、特に酸化第二鉄と反応し、酸化鉄を遊離鉄に還元して、酸化アルミニウムのスラグを形成する。この反応は以下の通りであり得る。
【0017】
溶鋼の適正な生成量および温度を得るために、様々な酸化鉄を適切な割合で用いる。数秒の発熱反応の後に、ほぼ等しい量の溶鋼および液体酸化アルミニウムが、約2400℃で分離される。そのような反応から得られる鉄は柔らかく、レールを連結するための溶接金属として使用することはできない。適正な組成の合金を生成するために、フェロマンガンのような合金と軟鋼片とを、溶鉄中に迅速に溶解するようどちらも小さな粒子として混合物に加え、温度を制御して「金属回収率」を増加させる。炭酸カルシウムおよび蛍石のような化合物を加えることにより、短時間での完全なスラグ分離、および溶融金属のより優れた流動性が達成される。
【0018】
注いだ溶融金属がレール端の表面酸化を洗い流すのを助けるためには、レール端の予熱(約1000℃まで)が必要である。何故なら、そうしなければ溶融金属は冷たいレール端に接すると、表面酸化を洗い落とさずに、冷えて直ちに凝固してしまうからである。
【0019】
テルミット溶接は、レールの連結に有利であるが、テルミット溶接部には問題があり得る。テルミット溶接部に関連した問題には、低い引張延性、低い衝撃強靱度、粗粒状の樹枝状結晶微細構造、混入および有孔性、内部の割れの進行、割れの伝播のし易さ、重大な欠陥となる孔、溶接部に入り込む砂、ならびに疲労破損が含まれるがこれらに限定されない。本発明は、テルミット溶接部に関連したこれらの問題および欠点に取り組む。
【発明の開示】
【0020】
発明の概要
本発明は、熱溶接即ちテルミット溶接、例えばアルミノテルミット溶接もしくは銅テルミット溶接などの溶接、ならびにアーク溶接、ガス圧接溶接、およびフラッシュ溶接などの溶接プロセスによって相互連結されたレールのセクションの性能を、溶接前、溶接中、溶接後、または使用されたレールの修理中のいずれかに溶接継手を超音波衝撃処理(UIT)プロセスを利用して再加工することによって改善することに関する。これは、継続的なまたは数回に分けた、手動または自動的方法での超音波衝撃工具によるUITの適用による、継手、継手のまわり、および/またはレール全長の処理を含み、溶接されたレールセクションの疲労寿命および/または他の特性を増加させることを目的する。
【0021】
本発明による超音波衝撃処理によって、レールの溶接シーム中の内部応力の減少、補正、および再分布、ならびに好ましい圧縮応力の生成が達成される。そのような結果は、溶接レールにおいて表面を周期的パルスエネルギー衝撃処理することにより内部圧縮波を引き起こし、レールの溶接シームの近傍にまたはレール自体に金属可塑性状態を誘起することによって達成される。
【0022】
このように、本発明により、超音波衝撃技術の非破壊表面処理工程が、圧縮波パターンにより、溶接レール中の溶接部近傍可塑性状態を作りだす。その圧縮波パターンは応力を緩和して勾配を有する応力パターンを導入し、溶接部位を著しく強化する。その結果生じる溶接レール中の内部の勾配を有する微細構造パターンが、溶接部近傍の金属粒子構造のまわりに通常集中する微細応力集中境界を回避する。これが、より長い寿命およびより高い耐荷重能力を有する溶接レールをもたらす。そのようなUIT処理工程は、最初の製品製造、保守作業、および寿命回復のための応力疲労または激甚な破損の処理において有用である。
【0023】
本発明のある態様では、溶接レールの表面上に、UITトランスデューサーヘッドが、残留応力を緩和しかつ溶接金属および熱影響部の微細構造に影響を与えるのに十分な超音波応力およびインパルス応力を溶接部内部にもたらす超音波の波長の4分の1の倍数の距離を置いて、間隔を空けて配置され。溶接部領域の温度は、周囲温度から溶融金属温度までの範囲で変動する。超音波トランスデューサーヘッドは超音波の波節点および波腹点が確実に溶接継手セクションに沿って変位するよう移動可能であってもよいし、または、例えば低い多周波数から高い多周波数へおよびその逆への多周波数の変化に対応する共振領域の範囲中での加振搬送周波数「掃引」を用いて超音波の波節および波腹の位置を制御する場合には静止していてもよい。超音波トランスデューサーヘッドは溶接部またはその近接領域の表面に取り付けられ;表面の温度は周囲温度から材料の可塑性温度まで変動し得る。超音波トランスデューサーヘッドは、溶接部または熱影響部の表面に沿って移動し、好ましい圧縮応力により、表面層塑性変形領域を作りだし、前記領域を通して材料中に超音波を惹起し、その超音波は、残留応力を緩和かつ溶接金属および熱影響部の微細構造に影響を与えるのに十分な超音波応力分布および変形を伴う。
【0024】
超音波衝撃処理により溶接継手を処理することにより、下記の中の少なくとも一つ提供される:
− 強靱性、接触強度、熱および収縮によるサイズ変化に対する耐性、低サイクルおよび高サイクル耐久性、腐食および腐食疲労損傷に対する耐性、変動する荷重下の耐久限度、ならびに耐衝撃性が増大すること;
− 材料の強度に対して保証される最大許容荷重が、現在の一般水準と比べて増大すること;
− 溶接部横断面、熱影響部(HAZ)および溶接部止端において、微細粒構造に対し保証された均一性が提供されること;
− 液相状態の溶接材料の収率が増大すること;
− ガス抜きされた、溶接された材料が提供されること;
− 超音波衝撃処理パルスの影響下で溶融池の中央から液体金属を移動させることにより、溶接部の境界における衝風冷却領域中の熱交換および質量交換が最適化されること;
− 超音波衝撃処理パルスを作用させることに起因する現象による、孔、液化(liquidation)割れ、不安定相、粒間の析出および損傷、ならびに不完全融合の形で存在するミクロおよびマクロの欠陥が抑制されること;
− 第一、第二、および第三の種類の応力および構造変形が制御されること;
− 材料のたわみモード、ならびに粒子構造、亜粒子構造、およびモザイク構造に影響を与えることにより決定される材料特性が制御されること;
− 引張応力領域中の溶接部およびHAZ金属のたわみモード最適化されること;
− 超音波衝撃処理影響下における改善されたプロセス信頼度および継手品質に基づいて、溶接用の溶接継手を準備する際および溶接中に技術的パラメータの範囲が拡大して制限が最小限になること;ならびに
− 溶接継手の溶接後熱処理プロセスの統計的信頼度が改善されること、および溶接継手の熱処理が廃止されること。
【0025】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、熱溶接即ちテルミット溶接、例えばアルミノテルミット溶接もしくは銅テルミット溶接などの溶接、ならびにアーク溶接、ガス圧接溶接、およびフラッシュ溶接などの溶接プロセスによって相互連結されたレールのセクションの性能を、溶接前、溶接中、溶接後、または使用されたレールの修理中のいずれかにおいて、超音波衝撃処理(UIT)プロセスを利用して溶接継手を再加工することによって改善することに関する。これは、継続的なまたは数回に分けた、手動または自動的方法での超音波衝撃工具による超音波衝撃処理の適用による、継手、継手のまわり、および/またはレール全長の処理を含み、溶接されたレールセクションの疲労寿命および/または他の特性を増加させることを目的する。
【0026】
本発明による超音波衝撃処理によって、レールの溶接シーム中の内部応力の減少、補正、および再分布、ならびに好ましい圧縮応力の生成が達成される。そのような結果は、溶接レールにおいて表面を周期的パルスエネルギー衝撃処理することにより内部圧縮波を引き起こし、レールの溶接シームの近傍にまたはレール自体に金属可塑性状態を誘起することによって達成される。
【0027】
適用されたパルスエネルギーは、溶接部接合部とレールの母材部位の間に漸減する勾配を有する応力パターンを作りすような様式で、レール内に圧縮波を作りす。これが、生成物全体の耐荷重能力を低下させて破損および疲労に弱い部域を導く応力欠陥および予測不能または制御不能な応力パターンを除去する。最大の効果をあげるために衝撃処理超音波により引き起こすことが好ましい
【0028】
全体として本発明は、製造、保守、および修理の種々の段階において、溶接レールの内部微細構造を再加工して溶接部近傍またはレール自体の構造応力パターンを緩和し再分布させることにより、先行技術の欠陥を修正する。この処置が、レールの寿命および耐荷重能力を低下させる重大な応力パターンまたは応力集中を、除去または最小化する。したがって、本発明によって提供される超音波衝撃技術の適用は、いくつかの先行技術の技術的操作に取って代わり、溶接レールの耐荷重能力の改善、ならびに疲労、応力腐食、および激甚な破損をもたらす応力集中中心の減少に役立つ。
【0029】
このようにして、本発明にしたがって、超音波衝撃技術の非破壊的表面処理工程は、応力を緩和しかつ溶接部位を著しく強化する勾配を有する応力パターンを導入する圧縮波パターンにより、溶接レール中の溶接部の近傍可塑性状態を作りだす。その結果生じる溶接レール中の内部の勾配を有する微細構造パターンは、溶接部の近傍の金属粒子構造の周囲に通常は集中する微細応力集中境界を回避する。これが、より長い寿命、より高い耐荷重能力、および増大した耐摩耗性を有する溶接レールをもたらす。そのようなUIT処理工程は、最初の製品製造、保守作業、および寿命を回復するための応力疲労または激甚な破損の処理において有用である。
【0030】
割れなどの欠陥の修理という技術的操作において、本発明は、内部残留応力欠陥を緩和しかつ割れの形成と進行の変遷パターンに影響を及ぼすためのさらなる手段として、鋭いエッジを面取りする機械的変形工程および溶接レール上に強化構造を溶接する追加の工程で補足された、UIT処理の基本的方法の工程を特徴とする。本発明のある態様では、溶接レールの表面上に、UITトランスデューサーヘッドが、残留応力を緩和しかつ溶接金属および熱影響部の微細構造に影響を与えるのに十分な超音波応力およびインパルス応力を溶接部内部にもたらす超音波の波長の4分の1の倍数の距離を置いて、間隔を空けて配置され。溶接部領域の温度は、周囲温度から溶融金属温度までの範囲で変動する。超音波トランスデューサーヘッドは超音波の波節点および波腹点が確実に溶接継手セクションに沿って変位するよう移動可能であってもよいし、または、例えば低い多周波数から高い多周波数へおよびその逆への多周波数の変化に対応する共振領域の範囲中での加振搬送周波数「掃引」を用いて超音波の波節および波腹の位置を制御する場合には静止していてもよい。超音波トランスデューサーヘッドは溶接部またはその近接領域の表面に取り付けられ;表面の温度は周囲温度から材料の可塑性温度まで変動し得る。超音波トランスデューサーヘッドは、溶接部または熱影響部の表面に沿って移動し、好ましい圧縮応力により、表面層塑性変形領域を作りだし、前記領域を通して材料中に超音波を惹起し、その超音波は、残留応力を緩和かつ溶接金属および熱影響部の微細構造に影響を与えるのに十分な超音波応力分布および変形を伴う。
【0031】
したがって本発明は、必要とする工程または技術的操作が最小限である、最初の溶接時における耐荷重寿命および強度を増大させるためのレール処理の非破壊的変形方法であって以下を含む方法を提供する:好ましくはある周波数および大きさ周期的な超音波衝撃エネルギーを用いて、レールの溶接部または継手の外表面に、レー外表面上の部位に溶接されているームの近傍で、パルス衝撃エネルギーを非破壊的に引き起こす工程;溶接シーム接合部の近くおよびそれを含む箇所の内部圧縮波パターンによって誘起される一時的可塑性部域をレールの内部に誘起し、それによりレールの内部結晶組織を再配列させて、レール表面の溶接シーム接合部に、実質的に無粒白色層を構成すパターン化された粒子構造を作りだし、レール中の内部基底点に向けられた勾配を有する応力パターンへと導く工程。その結果生じる粒子構造勾配は、粒界に集中する傾向がある内部微細応力中心を実質的に欠き、したがって、超音波エネルギーが取り去られそれに伴う一時的可塑性状態が終了した後にレールに残る勾配区域について、粒界応力中心の顕著な微細欠陥が除去される。
【0032】
このように、前述の態様によって説明したように、本発明は、レールの耐荷重寿命および強度を増大させるために、最初の製造過程、溶接、溶接、または使用されたレールの修理中に、レールを処理する新規な方法を提供する。それは、本発明の態様に関連して以下に詳述する他の長所、特徴、および態様を有する。
【0033】
本発明はまた、レールの破断または割れのような激甚な破損を修理する方法を包含する。さらに、この修理方法は、最低限の専門的な機械設備を用いて、割れ領域の内部残留応力を緩和することと、塑性変形よって高められた強度特性の領域を生み出すことと、内部微細構造応力の欠陥および集中部を減少させることと、割れおよびそれに隣接した溶接シーム接合部の近くの境界層中に好ましい圧縮応力領域を形成することと、溶接シームからレール中へと広がる勾配を有する応力パターンを作りだし、それによってレールの溶接継手の外部応力および内部応力を減少させることと、処理後のレールの有用性存続期間においてさらなる割れの進行および応力疲労破損を減少させるかまたは予防することとに役立つ。さらに割れおよび割れ端部応力中心に沿った鋭い端部構造が破壊的に除去されることより、更新された推定耐用寿命のさらに顕著な延長、および応力疲労の減少も達成される。
【0034】
本発明の方法はまた、特定の信頼性基準により決定される溶接継手の状態および特性を制御する手段とし超音波衝撃処理使用することに基づ、現在の限定的な一般水準高める方法を提供する。信頼性基準には、溶接継手の下記の機械的特徴が含まれる:降伏強度、極限強度、衝撃強度、および疲労耐性(顧客によって指定されたサイクル数での疲労限界に基づいて評価される)。この基準は、以下に関して使用することができる:(a) 溶接部および熱影響部の局所的超音波衝撃処理;(b)接継手の低周波振動と共振する溶接部かレールに沿った、およびその横断面における超音波パルスによって応力波腹領域および移動波腹領域に惹起される、遠隔超音波衝撃処理;または(c) 溶接中の冷たい金属に対する、または作業環境によっては溶接後の焼きならし加熱を伴う、遠隔超音波衝撃処理。UIT手順、この後で詳述するように、手動の、携帯用の、および/または機械化された超音波衝撃処理工具を用いて実行することができる。
【0035】
本発明の方法は、上記の超音波衝撃処理手順に基づいて、鉄道の荷重が絶えず増大している条件下において、溶接継手の所定の品質および信頼性を保証する手段として、結果の一貫性を増大させ、結果のばらつきを最小限にする方法を提供する。標準試験においては、結果のばらつきは60%までであることは常識である。UIT後のばらつきは15%を超えることはない。
【0036】
この後に詳述するように、本発明に従う超音波衝撃処理を用いてテルミット溶接継手およびレールを処理すること、溶接部、継手、およびレールの特徴および/もしくは特性を改善し、かつ/または溶接部、継手、およびレールの新しい特徴および/もしくは特性を提供する。改善されたおよび/または新しい特徴および/または特性は、レールの溶接前に、溶接中に、溶接後に、および/または修理中に得られ得る。さらに、これらの溶接継手またはレールの改善されたおよび/または新しい特性は、超音波衝撃処理を、溶接継手を修理するためだけでなく、レールを製造および補修するために使うことにより、テルミット溶接および他の種類の溶接の用途を拡張する。超音波衝撃処理により処理された溶接継手の改善されたおよび/または新しい特性には、溶接部、熱影響部(HAZ)、溶接部止端、ソルバイト構造およびベイナイト構造中に、微細な粒子および優れた均一性の粒子を有すること、ならびに高温割れ、気孔、孔、スラグ混入、および不良融合などの欠陥の除去が含まれるが、これらに限定されない。さらに、レールのテルミット溶接または他の種類の溶接と組み合わせて超音波衝撃処理で処理されたレールの母材の他の特性には、増大した衝撃強度、接触強度、熱および収縮によるサイズ変化に対する耐性、低サイクルおよび高サイクル強度、腐食および腐食疲労損傷に対する耐性、変動する荷重下の疲労限界および耐衝撃性、ならびに現在の一般水準と同程度の材料強度レベルにおいて保証される最大許容荷重の増大が含まれる。
【0037】
テルミット溶接部、および溶接部を囲む領域に超音波衝撃処理を適用することにより達成される溶接継手の改善されたおよび新しい構造特性には以下も含まれるが、これらに限定されない:液相状態の溶接材料の改善された収率;超音波衝撃処理パルスの影響下で溶融池の中心から液体金属を移動させることによる、溶接部の境界における衝風冷却領域中での最適化された熱交換および質量交換;ならびに超音波衝撃処理パルスを作用させることにより引き起こされる、孔、液化割れ、不安定相、粒間の析出および損傷、ならびに不完全融合の形のミクロおよびマクロの欠陥の抑制。溶接欠陥の例を図9(a)〜9(e)に示し、そして図10(a)〜10(e)には、超音波衝撃処理を伴う溶接によるこれらの欠陥の最小化を示す。
【0038】
本発明の方法はまた、第一、第二、および第三の種類の応力および構造変形の制御、ならびにその応力変形状態への影響ならびに粒子、亜粒子、およびモザイクブロックのレベルの構造への影響により決定される材料特性の制御を提供する。上に列挙した効果は、そのモードが作業に依存して設定される、多様な超音波衝撃の直接的作用の結果である。制御されるパラメータには、荷重下の超音波トランスデューサー振動の振幅および周波数、モードおよび、処理される材料の特性に依存する反発のパラメータが含まれる。
【0039】
本発明の方法はまた、引張応力が作用する以下の領域において、溶接金属およびHAZの最適化されたたわみモードを提供する:(1) 溶接継手の横断面中およびその表面;(2) 溶接継手金属中および表面、レールの頭部、壁および下部、ならびに要素間の隅肉領域中のそれらの端の、応力集中領域;(3) 溶接部とHAZ金属の間の、およびHAZとレール母材との間の移行領域;ならびに(4) 修理された場所。
【0040】
加えて、本発明の方法は、超音波衝撃処理効果の下での改善されたプロセス信頼度および継手品質に基づいて、溶接用の溶接継手を準備する際および溶接中に技術的パラメータの範囲を拡大し、制限を最小限にすることを提供する。技術的パラメータ(より正確には要件)には、以下が含まれる:(a) 溶接の継手の準備に対する要件:間隙、端部の垂直性、面取り;(b) 溶接条件:入熱(アーク溶接のための電流および電圧)、速度、電極直径、予熱および併行して行われる加熱の温度;ならびに(c) 溶接材料:溶接部の、種類、化学組成、単位長または単位体積当たりの溶接材料の量。改善されたプロセス信頼度とは、溶接継手の物理的・機械的特性のばらつきが最小である、製造対象物の安定的で再現可能性能をもたらす可能性を意味する。改善されたプロセス信頼度は、対象物の所定の性能の獲得に関与するプロセスパラメータを精密に制御できる可能性によって達成される。
【0041】
本方法はまた、本発明の超音波衝撃処理手法に基づいて、溶接継手の溶接後熱処理プロセスの統計的信頼度を改善し、およびさらに、特定の材料特性を有しかつ面領域間の継手要素の特定の比率を有する溶接継手の熱処理を廃止する。
【0042】
本方法は、溶接処理中および超音波衝撃処理中における溶接継手の品質管理の手段を提供する。本方法は、材料の状態を変化させる超音波衝撃処理中に、能動的制御を提供するために逆磁歪信号を用いる工程、および高品質用の基準値と比較した振幅および周波数の特徴の分析に基づいて、その規格に適合させる工程を提供する。この方法は、材料状態変化のインプロセス(UIT中の)制御のための、および高品質参照試料の製造工程の特徴と比較した振幅・周波数の特徴の分析に基づいて、材料を標準的な要件に適合させるための、逆磁歪信号(back magnetostriction signal)の使用を意味する。様々なプロセスが引き起こす、溶接中に生じる溶接継手中の不規則性が、逆磁歪信号の振幅・周波数の特徴を変化させる。これらの特徴と高品質参照試料の特徴との比較の結果を、プロセスの間リアルタイムで記録してインプロセス制御に用いる。能動的制御は、超音波衝撃処理パラメータが高品質用の基準値へ最大限近づくように管理する信号を生成し、それによって、超音波衝撃処理中のプロセスの能動的制御および管理がもたらされ、その結果、処理後の受動的制御に取って代わる。
【0043】
本発明の方法にしたがって、使用中のレールの溶接継手の状態を評価し予測するために、移動可能な音響監視システムを用いる。このシステムは、溶接部領域における標準化された衝撃に対するレールの応答信号を利用する。前述の信号のパラメータの数学的処理、および溶接継手についての最初のUITパスの後に得られた結果および/または高品質参照試料の作製中に記録された結果との比較により、レールの状態を予測すること、または現在の基準に対するそれの一致度を検査することが可能になる。
【0044】
本発明の方法によって、レールが使用されている間の溶接レール継手の状態の評価および予測が可能である。これは、標準化された衝撃に対するレール溶接部からの応答信号を用いること、ならびに溶接部特性を、溶接継手の最初の超音波衝撃処理の後に得られる結果とおよび/または高品質用の参照信号のパラメータと比較して数学的に処理することに基づき、本発明の方法の携帯型装備によって、遂行される。この応答信号は、トランスデューサーの逆磁気歪み電圧のオシロスコープ画像またはそのオシロスコープ画像のディジタル記述である。オシロスコープ画像またはそのディジタル記述の形は、標準化された超音波衝撃に対する処理された表面の応答によって生じる。その信号は、処理された対象物の状態に関する情報機能を有する。参照信号のパラメータは、それらの作製後に高品質参照試または標準的な継手かさらなるモニタリングのために得られた、応答信号に対応する値を反映する。
【0045】
溶接レールに関連するいくつかの欠陥には、導入された圧縮応力または引張応力の緩和、内部欠陥の存在、Q係数で表される内部摩擦基準に照らした粒度、および表面硬度が含まれる。これらの特徴は、逆磁歪信号パラメータによって容易に同定することができる。主な逆磁歪信号パラメータには、周波数、振幅、位相、および減衰率が含まれる。
【0046】
超音波衝撃処理を用いてテルミット溶接継手を処理することにより、下記の中の少なくとも一つが提供される:
− 強靭性、接触強度、熱および収縮によるサイズ変化に対する耐性、低サイクルおよび高サイクル耐久性、腐食および腐食疲労損傷に対する耐性、変動する荷重下の耐久限度、ならびに耐衝撃性が増大すること;
− 材料の強度に対して保証される最大許容荷重が現在の一般水準と比べて増大すること;
− 溶接部横断面HAZおよび溶接部止端において、微細粒構造に対し保証された均一性が提供されること;
− 液相状態の溶接材料の収率が増大すること;
− ガス抜きされた、溶接された材料が提供されること;
− 超音波衝撃処理パルスの影響下で溶融池の中央から液体金属を移動させることによる、溶接部の境界における衝風冷却領域中の熱交換および質量交換が最適化されること;
− 超音波衝撃処理パルスを作用させることに起因する現象による、孔、液化割れ、不安定相、粒間の析出および損傷、ならびに不完全融合の形で存在するミクロおよびマクロの欠陥が抑制されること;
− 第一、第二、および第三の種類の応力および構造変形が制御されること;
− 材料のたわみモード、ならびに粒子構造、亜粒子構造、およびモザイク構造に影響を与えることにより決定される材料特性が制御されること;
− 引張応力領域中の溶接部およびHAZ金属のたわみモードが最適化されること;
− 超音波衝撃処理影響下における改善されたプロセス信頼度および継手品質に基づいて、溶接用の溶接継手を準備する際および溶接中に技術的パラメータの範囲が拡大して制限が最小限になること;ならびに
− 溶接継手の溶接後熱処理プロセスの統計的信頼度が改善されること、および溶接継手の熱処理が廃止されること。
【0047】
図1〜3に示すように、溶接中にまたは溶接後に、本発明の超音波振動をレールへ導入する。超音波衝撃処理は好ましくは、溶接中冷たい金属に対して、また作業条件によっては溶接後の焼きならし加熱を伴って行われる。図1は、加振中の、レール上の波動応力波腹領域の超音波振動を示す。図1は、応力波と溶接部領域を重ね合せた条件下での、超音波トランスデューサーの搬送周波数でのレールの超音波振動加振の概略図を示す。レールの超音波振動を加振するために、超音波衝撃工具を、レールに垂直に、溶接継手の横断面から超音波の最初の1/4等しいかまたはその倍数の距離に置く
【0048】
図2は、溶接中にレールを加振している間の、移動波腹領域でのレールの超音波振動を示す。その際、超音波衝撃工具はレールに垂直に置かれる。
【0049】
図3は、溶接中に加振している間の、レールの輪郭横断面に沿った、レール上の超音波振動を示す。図3は、工具をレール頭部に取付けた場合の、レール頭部からレール基部までのレール軸に垂直な方向のレールの横断面中の、超音波応力および超音波変位振幅の分布を示す。最大変位振幅は、レール頭部およびレール基部表面に位置するセクション点に対応する。最大超音波応力は、最小変位(あるいは波節)の領域に対応し、それはこの場合レール基部に生じる。しかし、例えば加振周波数を多重共振領域中で低い多周波数から高い多周波数へおよびその逆へと「掃引する」ことによって、超音波の波節および波腹の位置を制御することが可能である。
【0050】
本発明による、テルミット溶接されたレール基部継手の超音波衝撃処理を、図4に示す。レールの超音波衝撃処理、好ましくは冷たい金属に対して、または作業条件によっては溶接後の焼きならし加熱を伴って、行なわれる図5は、本発明による超音波衝撃処理で使用するための好ましい超音波衝撃処理工具を示す。超音波衝撃工具30は、好ましくは振動速度方向変換器-導波管32、ピンホルダ取付具34、導波管32の第一端上の、ピンホルダ取付具34により導波管32へ接続するピンホルダ36を含む。ピンホルダ36の自由端は、好ましくはその上に少なくとも一個の圧子38を有する。工具は、レールに沿って移動可能なトロリーまたは他の適当な種類の車両上に置いて、手動で用いることができる。本発明の超音波衝撃処理を、適所にトロリーを固定して、またはレールに沿って動かしながら、行うことができる。
【0051】
図6は、超音波衝撃工具30を用いて、レールの溶接部輪郭に沿って行なわれる、溶接部の機械化された超音波衝撃処理の一態様を示す。
【0052】
図7は、手動の超音波衝撃工具を用いる、レールの溶接継手輪郭に沿った手動超音波衝撃処理の一態様を示す。処理は、冷たい金属に対して、または作業条件によっては溶接後の焼きならし加熱を伴って、行なわれる。超音波衝撃処理により、溶接継手輪郭に沿っ(レールの輪郭全周に沿っ)溶接部表面および溶接部止端処理される。
【0053】
図8は、レールの溶接領域の側面図を示す。示されているように、溶接部に隣接する領域と共に、溶接部領域超音波衝撃処理により処理される。
【0054】
図9(a)〜9(e)は、高温割れ、気孔、孔、スラグ混入、および不良融合を含む、超音波衝撃処理をしていないレールに生じる可能性のあるいくつかの欠陥を、それぞれ示す。図10(a)〜10(e)は、図9(a)〜9(e)の溶接欠陥が、溶接および超音波衝撃処理の後に最小化されたことを示し、それには、高温割れ、気孔、孔、スラグ混入、および不良融合のそれぞれの除去または最小化が含まれる。
【0055】
接部の破損の大部分は、溶接部の疲労または混入物により生じる。疲労破損は、ほとんどの場合、レールの腹部および下側領域の隅肉の溶接部止端で生じる。図11は、レール40上の疲労割れの開始部位を示す。レール40は、レール頭部44、レール腹部48、レール基部50、およびレール腹部48とレール基部50との間の腹部-基部間隅肉46を有する。レール40は、レール頭部44上に内部疲労割れ42、隅肉46中の溶接部止端に疲労割れ52、および基部50中の溶接部止端に疲労割れ52を有する。
【0056】
レールは、その製造後に、現場での組立て前にまたは組立て後に、保守および損傷防止の一環として、甚大な損耗の後に、または任意の他の適当な期間に、処理してもよい。
【0057】
超音波衝撃処理を用いたレールのテルミット溶接部の疲労寿命の改善を測定するために二段階で試験を行なった。段階1は、大まかな疲労寿命の増加の指標を得るための基部、腹部、および頭部をUITで処理した試料の最初の試験 − 最初のセールス試験であった。テルミット溶接部の疲労寿命に対する標準的な要件は、下記のように、荷重を掛けての試験プログラム下200万サイクル以上であることである。母材と溶接材料の接合部において、溶接部の両側の母材のHAZ中を距離15mmに亘って、試料を、超音波衝撃処理により処理した。超音波衝撃処理を、レール頭部、レール腹部、およびレール基部を含むレール全体に行った。UIT処理した被検物の最初の試験結果は500万サイクルまでに及び、試験を停止した。試料は破損しなかった。
【0058】
段階2で、3つの被検物を作製し、次本明細書に記述したようにUITで処理した。段階2では、レール基部および腹部領域のみを処理した。処理域は母材と溶接材料との接合部における溶接部の両側の、母材のHAZ15mmに亘る距離であった。図12(a)および12(b)に示すように、処理領域を、溶接フィラー材母材との間の接合部域「A」、および部域「A」のすぐ隣りのレール母材上に約10mm〜約15mmの幅を持つHAZ部域「B」として示す。
【0059】
本発明では、任意の適当な超音波衝撃システムを用いてよい。しかし、上の試験では、無荷重時の振幅が26ミクロンの1Kwシステムを備えた手動工具を有する携帯式超音波衝撃処理システムを用いた。工具の周波数は27kHzであり、かつ電力設定はフルパワーであった。圧子には、標準的な半径3mmおよび長さ25mmの針を用いた。
【0060】
試験溶接部を、超音波衝撃処理による処理後に目視により検査した。図13および14は、処理されたレール基部の下側を示す。図15は処理されたレール腹部を示し、および図16は、処理されたレール頭部の下側を示す。
【0061】
次に、処理されたレールの疲労試験を行なった。図17に示すように、750kN MTS試験機を用いて、処理されたレールに対して4点曲げ疲労試験を行なった。図18に示すように、試験機上の支持ローラー60の間の距離は、1,250mmであり、また加圧ローラー62の間の距離は150mmであった。しかし、支持ローラー間および加圧ローラー間の任意の適当な距離を有する任意の適当な試験機を用いてもよい。レールのレール基部は、試験引張応力に曝された。
【0062】
本試験を、レール基部下側での応力範囲+20〜+200MPa (応力振幅180MPa)、周波数8Hzで行なった。試料は破損することなく519万サイクルに達した。このとき、応力範囲を応力振幅200MPa (+20MPa〜+220MPa)に増加させた。応力を、313,000MPaの抵抗モーメントによって計算した。試験は、ヨーロッパアクセプタンスプログラム/European Acceptance Programの基準およびガイドラインに合致するように行なった。
【0063】
疲労試験の結果の概要を図30に示し、この後に詳述する。
【0064】
試料No.1は、応力振幅180MPaで5.19×106サイクル後に、割れも損傷も示さない。振幅を200MPaに増加させた後、試料は、この振幅での追加の3.39×106サイクル後に壊れた。この試料の破断は、テルミット溶接プロセスによってレール基部の下側に生じた過剰溶接金属の「過剰膨らみ(over blousing)」(レールの境界から膨れ出る)のところで始まった。試料No.1の破断方向を図19および20に示し、試料No.1の破断面を図21および22に示す。
【0065】
試料No.2は、応力振幅180MPaで2.25×106サイクル後に壊れた。破断は、レール基部の下側の混入物(砂粒子)のところで始まった。試料No.2の破断方向を図23および24に示し、試料No.2の破断面を図25および26に示す。
【0066】
試料No.3は、応力振幅180MPaで2.44×106サイクル後に壊れた。破断は、レール基部の上側のテルミット溶接プロセスの結果の混入物のところで始まった。試料No.3の破断方向を図27に示し、試料No.3の破断面を図28および29に示す。
【0067】
顕微鏡検査のために試料No.2のレール基部の横断面を取り出した。検査は、溶接金属と母材の熱影響部との間の移行領域に的を絞った。検査の結果を図31〜37に示す。図31は、レール基部の下側のテルミット溶接部の横断面を示す。図32は、図31のレール基部(左)溶接部の下側における、レール基部の溶接部から母材への移行領域を示し、これはUIT処理領域の塑性変形ならびに「過剰に膨らんだ」過剰溶接金属を示す。図33は、図31の破断後のレール基部(右)溶接部の下側における、レール基部の溶接部から母材への移行領域を示す。図34は、図32の四角で囲まれた領域の、高倍率での詳細を示す。図35は、図33の四角で囲まれた領域の、高倍率での詳細を示す。図36は、図34の四角で囲まれた領域変形の、高倍率での詳細を示し超音波衝撃処理の結果最大変形深度が100μmであることを示す。図37は、図35の四角で囲まれた領域変形の、高倍率での詳細を示し超音波衝撃処理の結果最大変形深度が80μmであることを示す。一般に、顕微鏡検査中の可視の変形の深度は、50μm〜100μmである。
【0068】
試験の結果、試料No.1は、定の応力振幅180MPaで5.19×106サイクル後では、壊れなかった。応力振幅を200MPaに増加させて初めて被検物は、追加の3.39×106サイクルを実行した後に破断された。試料No.2および3は、定の応力振幅180MPaで2.25×106および2.44×106サイクル後に、それぞれ破断された。両方の試料とも溶接部中の混入物により破損した。規格、応力負荷振幅180MPaで2×106サイクルが必要とされ、それはこれらの試料の両方によって達成された。通常の未処理の条件下即ち超音波衝撃処理なしでは、接部に混入物を有する試料は1.5×l06サイクルより極めて前に破損したであろうことが、歴史的データによる結論として示されている
【0069】
溶接部欠陥が有ってさえも、本発明による超音波衝撃処理により、2×106という望ましい基準を達成することができる。
【0070】
当業者に明白であるように、前述の明細書の範囲内で様々な改変を行うことができる。当業者の能力の範囲内であるそのような改変は、本発明の一部を形成し、添付の特許請求の範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】溶接の間の加振中の、波応力波腹領域での本発明の超音波振動の概略図である。
図2】溶接の間の加振中の、移動波腹領域での本発明の超音波振動の概略図である。
図3】溶接の間の加振中の、輪郭横断面に沿った本発明の超音波振動の概略図である。
図4】レール基部継手への本発明の超音波衝撃処理法の概略図である。
図5】本発明の超音波衝撃処理工具の、ある態様の概略図である。
図6図5の工具を用いる、溶接部の、溶接部輪郭に沿った機械化された超音波衝撃処理の概略図である。
図7】手動の超音波衝撃処理工具を用いる、溶接部の、溶接継手輪郭に沿った超音波衝撃処理の概略図である。
図8図7の溶接継手の側面図である。
図9a】高温割れを有する、超音波衝撃処理で処理されていないレールの概略図である。
図9b】気孔を有する、超音波衝撃処理で処理されていないレールの概略図である。
図9c】孔を有する、超音波衝撃処理で処理されていないレールの概略図である。
図9d】スラグ混入を有する、超音波衝撃処理で処理されていないレールの概略図である。
図9e】不良融合を有する、超音波衝撃処理で処理されていないレールの概略図である。
図10a図9aの高温割れの除去を示す、超音波衝撃処理を伴って溶接されたレールの概略図である。
図10b図9bの気孔の除去を示す、超音波衝撃処理を伴って溶接されたレールの概略図である。
図10c図9cの孔の除去を示す、超音波衝撃処理を伴って溶接されたレールの概略図である。
図10d図9dのスラグ混入の除去を示す、超音波衝撃処理を伴って溶接されたレールの概略図である。
図10e図9eの不良融合の除去を示す、超音波衝撃処理を伴って溶接されたレールの概略図である。
図11】疲労割れ開始部位を示すレールのである。
図12図12aおよび12bは、溶接フィラー母材との間の処理領域、および処理領域に隣接するレール材料上の熱影響部を示すレールの横断面を示す。
図13】超音波衝撃処理で処理したレール基部の下側を示す。
図14】超音波衝撃処理で処理した図13のレール基部の詳細を示す。
図15】超音波衝撃処理で処理したレール腹部の詳細を示す。
図16】超音波衝撃処理で処理したレール頭部の詳細を示す。
図17】レールの疲労試験を行なうために用いられるMTS試験機を示す。
図18図17のMTS試験機上で行われる疲労試験の概略図を示す。
図19】ある方向の破断を有する試料1のレールの側面図を示す。
図20】ある方向の破断を示す、試料1のレール(基部)の下側を示す。
図21】破断面を示す、試料1のレールの端面図を示す。
図22図21のレール基部の下側近くの破断面の詳細を示す。
図23】ある方向の破断を示す、試料2のレールの側面図を示す。
図24】ある方向の破断を示す、図23のレール(基部)の下面図を示す。
図25】破断面の概観を示す、試料2のレールの端面図を示す。
図26図25のレール基部の下側近くの破断開始の詳細を示す。
図27】ある方向の破断を示す、試料3のレール(基部)の側面図を示す。
図28】破断面を示す、試料3のレールの端面図を示す。
図29図28のレールの破断開始領域の詳細を示す。
図30図19〜29の試料1〜3の疲労試験の結果の一覧表である。
図31】レール基部の下側のテルミット溶接部の横断面である。
図32図31のレール基部(左)の溶接部の下側における、レール基部の溶接部か母材への移行領域を示す。
図33図31の破断後のレール基部(右)の溶接部の下側における、レール基部の溶接部か母材への移行領域を示す。
図34図32の四角で囲んだ領域の高倍率での詳細を示す。
図35図33の四角で囲んだ領域の高倍率での詳細を示す。
図36図34の四角で囲んだ領域の変形の高倍率での詳細を示すものであり、UIT処理の結果最大変形深度が100μmであることを示している。
図37図35の四角で囲んだ領域の変形の高倍率での詳細を示すものであり、UIT処理の結果最大変形深度が80μmであることを示している。
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