【文献】
Transfus. Clin. Biol.,2006年11月,Vol.13, No.5,p.320-328
【文献】
J. Chromatogr. A,2003年10月17日,Vol.1016, No.1,p.21-33
【文献】
J. Chromatogr. A,2003年10月17日,Vol.1016, No.1,p.35-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、血漿に由来する薬剤の精製法においてPrP
scの不活性化や除去に焦点を当てることは、より多くの注目を集めてきている。その理由が狂牛病などの発生であることは明らかである。生物医薬品生産用の組換え細胞株の使用でさえ、プリオンタンパク質の発生に関して、完全に安全とはみなされていない(Vorberg et al., The Journal of infectious diseases 2004; 189:431-9. Susceptibility of common fibroblast cell lines to transmissible spongiform encephalopathy agents)。生物医薬品として意図されたタンパク質の精製過程を決定する作業においては、プリオンタンパク質除去工程の候補として様々な精製工程が評価され得る(Foster PR, et al; Distribution of a bovine spongiform encephalopathy-derived agent over ion-exchange chromatography used in the preparation of concentrates of fibrinogen and factor VIII; Vox Sang. 2004 Feb; 86(2):92-9; Trejo SR, et al., Evaluation of virus and prion reduction in a new intravenous immunoglobulin manufacturing process. Vox Sang. 2003 Apr; 84(3): 176-87; Zeiler B, et al, Concentration and removal of prion proteins from biological solutions; Biotechnol Appl Biochem. 2003 Apr, 37(Pt 2):173-82; Foster et al. Studies on the removal of abnormal prion protein by processes used in the manufacture of human blood plasma products, Vox Sang. 2000, 78:86-95; Burnouf et al., Transfus Clin Biol. 2006 Nov; 13(5):320-8. Epub 2007 Jan 23, Current strategies to prevent transmission of prions by human plasma derivatives.)。
【0003】
クロマトグラフィー樹脂が、精製過程におけるPrP
scの除去に寄与し得ることが知られている(参照文献2〜4、6〜7)。しかし、様々な化学構造および置換を有するクロマトグラフィー樹脂を用いる過程や様々なバッファーの系において一貫してPrP
sc浄化因子(clearance factors)が見つかっていることは、感染性因子のクロマトグラフィー担体表面上への非特異的結合が発生していることを裏付けるものである、と言われている。PrP
scの除去は、再現可能であるようであるが、その除去機構が完全にはわかっていないため、例えば、いかにして(a)TSE因子に結合するクロマトグラフィー担体の最大容量を決定するか、(b)再生利用ゲルの効率的な殺菌消毒手順を確保するか、(c)生産サイクルを通じて、一貫したPrP
sc除去可能量を保証するか、などの課題がある(Thyer J, Prion-removal capacity of chromatographic and ethanol precipitation steps used in the production of albumin and immunoglobulins; Vox Sang. 2006 Nov; 91(4):292-300)。
【0004】
国際公開第98/0041号は、イオン交換クロマトグラフィーによる、例えばヘモグロビンといった他のタンパク質からプリオンを除去することを開示している。このイオン交換クロマトグラフィー媒体の調製は、第四級アンモニウム基の(均一な)表面を得るための、(g‐グリシドキシプロピル)トリメトキシシランおよびジメタノールアミンで誘導体化されたシリカゲルを顕示する。
【0005】
国際公開第03/105911号は、溶出に塩勾配を利用したイオン交換クロマトグラフィーを用いた従来の手段によるヒト血漿の清浄方法を開示している。
【0006】
国際公開第94/08686号は、単一分離媒体を用いる液体クロマトグラフィーカラムにおいて、連続方式で、相異なるクロマトグラフィー分離方法(different notes of chromatography)を実行するための方法を開示している。
【0007】
D. B. Brimacombe et al. in Biochem. J. (1999) 342,605-613は、連続した2つのクロマトグラフィー工程によるrecPrPの精製を開示している。第1の工程は、S−セファロース上で行われる陽イオン交換クロマトグラフィー(150〜650 NaCl勾配)である。溜められた所期の溶出物は、第2のクロマトグラフィー工程(亜鉛荷電キレートセファロース;0〜100mMのイミダゾール勾配)に供される。
【0008】
P. R. Foster et al. Vox Sanguinis 2000; 78:86-95は、血漿製品の製造における、多くの工程によるプリオンタンパク質の除去を開示している。この方法は、異なるクロマトグラフィーゲルを用いて、異なるカラムで行われる、4回のイオン交換クロマトグラフィー(工程2、11、13および15)ならびに1回のアフィニティークロマトグラフィー(セファロース−FFにヘパリンを固定;工程12)からなる。
【0009】
T. Burnouf et al.は、様々な血漿由来凝固因子のクロマトグラフィー工程におけるTSE因子除去の度合を、Tranfusion Clinique et Biologique 13 (2006) 320-328に発表している。その論文は、FVIII(DEAE−トヨパール 650M)、vWF(DEAE−トヨパール 650M)、フィブリノゲン(DEAE−トヨパール 650M)、プロトロンビン複合体/FIX(DEAE−セルロース)、PCC(DEAE−セファロース)、FIX(DEAE−セファロースまたはヘパリン−セファロース)およびトロンビン(S−セファロース)の生産に用いられる様々な種類の(大抵は)イオン交換クロマトグラフィー工程に、焦点を当てている。これらの系すべてを、個別に調べている。
【0010】
J. Thyer et al.は、Vox Sanguinis (2006)91, 292-300の中で、DEAE−セファロース、CM−セファロースおよびMacro−Prep High Q クロマトグラフィーカラムを通したPrPの低減を報告している(「材料と方法」;
図1、294頁;表l)。別の実験では、DEAE−セファロース−カラム1種、およびCM−セファロース−カラムまたはMacro−Prep−カラム1種を連続して使用したことを開示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
混合モードリガンド
本発明の固体基質は、固体担体と、該固体担体に取り付けられているリガンドとを含む。リガンドは、単環式基または多環式基であり得る環式基と、硫黄原子を含んでもよい連結基とを含む。分析物を混合モードの作用で引きつけるリガンドが、固体担体に取り付けられている。
【0023】
リガンドは環式基を含む。該環式基は固体担体につながっており、また、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基またはホスホン酸基で置換される単環式基または多環式基であり得る。単環式基または多環式基は、ここに定義されるように、不飽和の炭素−炭素結合のみを含んで芳香族系を与える環状炭化水素である芳香族基であり得る。原則として、いかなる芳香族基を本発明に用いてもよいが、好適な芳香族基は、典型的に、1つ、2つ、または3つの芳香族環を含む。従って、芳香族基の例としては、フェニル基ならびに、トリル基およびキシリル基といったその置換誘導体が挙げられる。二環式芳香族基の範囲には、縮合した個々の環が含まれ、例としてナフチル基が挙げられるがこれに限定されない。多環式芳香族基は、アントラセニル基およびフェナントレニル基, ならびにアセナフチル基のような縮合した異なるサイズの環を含む基を含む。芳香族基が選択される場合、必須ではないが、下に述べるように、ヘテロ環式またはヘテロ芳香族基に縮合している基であることが好ましい。
【0024】
「ヘテロ環」は、少なくとも1つのヘテロ原子を含む飽和ないし部分飽和の環である。同様に、「ヘテロ芳香族基」は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子で置換された芳香族基である。本発明において、ヘテロ原子は、好ましくは、N、S、またはOである。また、ヘテロ環式またはヘテロ芳香族基は五員環または六員環であることが、これらの基を含む試薬が容易かつ低廉に商業的供給源から入手できる点から好ましい。
【0025】
連結基が、下に定義されるように、両価性硫黄原子を含まない場合、ヘテロ環式基またはヘテロ芳香族基は、固体基質に「硫黄親和性(thiophilic)」性質を確立するもしくは寄与するものであること、すなわち、少なくとも1つのS原子を含むものであることが好ましい。
【0026】
2価の硫黄原子を含む他の連結基を使用する場合、好ましいヘテロ環式基またはヘテロ芳香族基は、少なくとも1つのN原子を含んでもよく、または、SおよびN原子の組み合わせを含んでもよい。
【0027】
従って、ヘテロ環式基またはヘテロ芳香族基の例としては、チアゾリン、チアゾリドン、イミダゾール、イミダゾリン、チアゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアジアゾール、イミダゾール、ピリジンおよびモルホリンが挙げられる。特に好ましい一実施形態において、好適なヘテロ環式またはヘテロ芳香族基は、前述のように、芳香族基と縮合している。この点において、ベンゾイミダゾールとベンゾチアゾールは、容易に入手可能な候補であり、優れた固体基質を生み出す。
【0028】
前記のように、単環式基または多環式基は、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、またはホスホン酸基で置換されている。これらの基は、十分に酸性であり、例えば、pH約2からpH約12といった広いpHの範囲内で、帯電した部分として存在する。そのため、固体担体は、生理学的イオン強度およびpHにおいて、免疫グロブリンのような生体物質を吸収するのに理想的に適している。
【0029】
本明細書で使われる「置換」という語は、単環式基または多環式基に、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基またはホスホン酸基が直接的もしくは間接的に付加することを指す。間接的な付加は、C1〜C6の直鎖または分岐アルキレン基であるスぺーサー基を介して起こり得る。アルキレン基は、1つ以上の二価の部分、例えば、特に限定されないが、−C(O)NH−、NHC(O)−、−O−、−5−、−5(O)−、−5(O)
2−、−NH−、−C(O)O−、および−OC(O)−が間に入ってもよい。つまり、スぺーサー基の例として、−CH
2−、−CH
2CH
2−、−CH
2−O−CH
2−、および−CH
2C(O)NHCH
2CH
2−が挙げられる。
【0030】
単環式基または多環式基は、メルカプト含有部分、エーテル含有部分、またはアミノ含有部分を含む連結基によって、固体担体に繋がれている。後述の構造的な考慮事項に従って、連結基は静電気的および疎水性の相互作用の両方を通して生体物質の結合が起こるpHにおいて、固体担体に疎水的な性質を与えるよう、疎水性であることが好ましい。疎水性部としては、直鎖または分岐のC1〜C6のアルキレン基、C2〜C6のアルケニレン基およびC2の〜C6アルキニレン基が挙げられるが、これらに限定されない。特に有用な部分はエチレンとプロピレンである。疎水性部分としては他に、前述のように芳香族基が挙げられ、例えばフェニルエチレン(phenethylene)を形成する。従って、先述の部分は、その間にメルカプト部分、エーテル部分、もしくはアミノ部分の少なくとも1つが入っている(interrupt)か、または、メルカプト部分、エーテル部分、もしくはアミノ部分の少なくとも1つによりキャップ(cap)されている。単環式基または多環式基が、硫黄原子を含まない実施形態では、連結基は、好ましくは、メルカプト部分を含む。これに関連して、連結基は、疎水性および硫黄親和性の性質を固体基質に与える。好ましいメルカプト含有連結基のひとつを、構造式に表す。
【0031】
連結基の疎水性は、ヒドロキシル、ハロゲン化物もしくはニトロといった極性置換体を導入すること、公知の方法によりメルカプト部分を酸化すること、エーテル部分もしくはアミノ部分を連結基に導入すること、またはこれらの組み合わせにより、容易に調整することができる。このような、容易に利用可能なメルカプト含有連結基の1つを、構造式に示す。
【0032】
アミノ含有連結基の例を、構造式に示す。
アミノ含有連結基からなる固体基質、または、酸化されたメルカプト部分からなる固体基質は、少なくともひとつのS原子を含む単環式基または多環式基も含むことが好ましい。この場合、固体基質は、幾分かの硫黄親和性な性質を保持することができる。
【0033】
他の好ましい一実施形態において、連結基、それ自体が、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、アミロースまたはアガロースのような多糖類を含む。ここで好ましい多糖類は、デキストランである。よって、固体担体は、後述のように、連結基で誘導体化され得る多糖類で修飾される。
【0034】
いかなる特定の理論に縛られるものではないが、本発明者らは、本発明の固体基質が、固体基質と生体物質の間の相互作用の「混合モード」を通して機能すると考える。前記の単環式および多環式基は、4未満のpK値を有し、従って、前述のような使用のpH範囲内では、負に帯電している。免疫グロブリンのような生体物質は、生体物質が全体として正または中性の電荷をもつ、約4から6のpHの間で、固体基質と接触する。このpH範囲において、生体物質は、単または多環式基との一種以上の相互作用を介して、固体基質と結合する。相互作用は、クーロン引力および弱い疎水性会合を含む。pHが、約8を超えて上がる場合、生体物質は、全体として、負に帯電し、これによって、負に帯電した固体基質と負に帯電した生体物質との間で、静電反発力が生まれる。従って、生体物質は、静電反発力によって、固体基質から引き離され、その後に単離され得る。これらの反発イオン力は、上記の弱い引力よりも強いと考えられている。
【0035】
固体基質
本発明は、混合モードリガンドが取り付けられた固体担体を意図する。特に、二つの異なるフォーマットを意図する。1つのフォーマットでは、固体担体が、クロマトグラフィー媒体に用いられる典型的な形、すなわち、ビーズまたは粒子の形である。これらのビーズまたは粒子は、混合モードリガンドで誘導体化される。ビーズまたは粒子は、カラムに充填可能なクロマトグラフィー担体を形成する。もうひとつのフォーマットでは、固体担体は、チップの形をとる。すなわち、混合モードリガンドが共有結合またはその他の結合で取り付けられる、一般的に平面の表面を有する固体担体の形をとる。検出装置のプローブのインターフェイスに適応するチップも「プローブ(probes)」と呼ばれる。
【0036】
ビーズおよび粒子
本発明の教示によれば、固体基質は、まず、有機材料を含んでもよい固体担体を含む。有機材料の例として、セルロース、デンプン、寒天、アガロースおよびデキストランのような多糖類が挙げられる。置換もしくは非置換のポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリビニル親水性ポリマー、ポリスチレン、ポリスルホン、ならびにスチレンとジビニルベンゼンとの共重合体を含む親水性合成ポリマーが意図される。あるいは、無機材料を固体担体材料として用いてもよい。そのような無機材料として、シリカのような多孔性の無機材料;ハイドロゲル含有シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ;およびその他のセラミック材料が挙げられるが、これらに限定されない。これら材料の混合物、または二種の材料の共重合もしくは相互侵入網によって形成された複合材料を用いることも可能である。それらは例えば、米国特許第5,268,097号、米国特許第5,234,991号、および米国特許第5,075,371号に開示されている。
【0037】
固体担体は、直径約0.1mmから約1000mmのビーズまたは不規則形状粒子の形であってよい。あるいは、固体担体は、繊維、膜、または、ミクロンから数ミリメートル大の細孔が通っているスポンジ状材料に成形され得る。
【0038】
前述の単環式基または多環式基は、固体担体と連結基との間、および、連結基と単環式基または多環式基との間に、共有結合を形成することによって、固体担体上に化学的に固定される。典型的な状況では、固体担体をまず、連結基の一部または全体を形成する反応基を固体担体に導入する役割をする二官能基試薬(bifunctional reagent)で処理する。セルロース、ハイドロゲルを含む複合体、またはヒドロキシル基を提示するその他の材料など、いくつかの固体担体に対しては、例えば二官能基試薬との反応の前に、水酸化物供給源でヒドロキシル基を脱プロトン化することが有利である場合が多い。二官能基試薬は、固体担体及び単環式基または多環式基を含む試薬の両方と反応することができる。官能基群が同じまたは異なっているものを包含する二官能基試薬の例としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、ジブロモプロパノール、ジクロロプロパノール、ジブロモブタン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジビニルスルホン、アリルグリシジルエーテルおよび臭化アリルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
いったん官能化すると、次に、固体担体を1つ以上溶媒で何度も洗浄し、未反応の二官能基試薬、反応副産物またはその両方を除去する。これに関して用いられる典型的な溶媒は、水である。
【0040】
次いで、単環式基または多環式基を、メルカプト、ヒドロキシルまたはアミノ基で置換した基を含む試薬によって導入する。そのような試薬は、前述のように官能化された固体担体によって提示される官能基と反応する。
【0041】
二官能基試薬と単環式基または複環式基試薬との特定の組み合わせは、周知の化学的性質によって導かれる。例えば、エポキシドで官能化された固体担体は、メルカプト、ヒドロキシまたはアミノ含有試薬と反応し、エチレン含有連結基を基質に与える。アリル臭化物で修飾された他の固体担体は、例えば、メルカプト含有試薬と直接反応し得るアルケン基を提示する。あるいは、アルケン基はさらに臭素化され、好適な反応性を有する臭化誘導体を与える。
【0042】
固定される単環式基または多環式基の濃度は、固体担体の作製に用いる二官能基試薬の濃度に応じて、固体担体ミリリットルあたり、数分の1マイクロモルと数百マイクロモルの間で変えることができる。
【0043】
典型的には、固定された基の濃度が低ければ、固体基質の分離能は低くなり、反対に濃度が高ければ、一般的に分離能は高くなる。
【0044】
上述のように、PrP
scに大部分結合しないPrP
sc除去樹脂を有することには、いくつかの利点がある。そのひとつは、産物を溶出させる前に、異なるバッファー組成物を用いて樹脂を何度も洗浄することが可能であり、それにより、様々な生化学的組成のPrP
scの数を、少なくともかなり低いレベルまで減じること、または、組成物からPrP
scを除去することが可能になる。例えば、高濃度塩バッファー、場合により、低濃度塩バッファーなどの異なる種類の洗浄バッファーで、産物を溶出させる前に、樹脂を洗浄し、少量のプリオンが樹脂または産物にも結合し得るイオン相互作用、場合により、疎水性相互作用を妨げることが可能である。界面活性剤、アルコールおよびアミノ酸もまた、最適な純度を得るために、産物を溶出させる前に洗浄バッファーに添加し得るものの例である。例えば、PrP
scが結合する様々な種類のイオン交換樹脂などの、他の種類の「標準的な」クロマトグラフィー媒体に、同様な洗浄工程を行うことは、非常に難しい。結合親和性が、産物と比べて非常に高い場合でさえ、PrP
scがある程度、樹脂から産物と共に溶出される危険性が常にある。従って、PrP
scが比較的低い親和性を有する一方で、産物が「マルチモーダル」に結合する樹脂を用いることは、大変有利であり、これにより、産物を溶出させる前に、適切な洗浄工程を適用することが可能となる。
【0045】
本発明によると、PrP
scを溶出させた後に、例えば、下記によって、目的タンパク質を溶出させる。
‐ イオン強度を増加または減少させることにより溶出バッファーのイオン強度を変える工程、
‐溶出バッファー(特に、水性溶液であるもの)に、モノヒドロキシアルカノールもしくはジヒドロキシアルカノール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールのような低級脂肪族アルコール)のようなアルコールを加える工程、および/または、
‐ pHを増加または減少させることにより溶出バッファーのpH値を変える工程。
【0046】
また、上述の溶出技術を複数組み合わせて用いることもできる。例えば、本発明においては、イオン強度を上げ、かつエチレングリコール量を増加させる。
【0047】
また、他の溶出条件も用いることができる。例えば、アミノ酸の濃度を増加させたり、「ホフマイスターシリーズ」に従って特定の塩の濃度を増加させる。
【0048】
目的タンパク質の溶出は、該目的タンパク質の生化学的性質に依存する。例えば、目的タンパク質の補酵素、または、目的タンパク質の三次構造を高度に認識する他の物質を使用することが可能である。目的タンパク質の例として、ヘパリンの濃度を上げることで溶出されるアンチトロンビンが挙げられる。
【0049】
はじめに樹脂に加えた量から計算した、目的タンパク質を含むタンパク質画分のプリオンタンパク質除去値(reduction value)は、1
lg(10)より大きく4lg(10)以下である。所期のタンパク質画分のプリオンタンパク質分析値(analytical value)は、プリオンのウェスタンブロットアッセイの検出限界を下回っている。
【0050】
本発明の一実施形態において、クロマトグラフィー条件は、次の工程の少なくとも2つを含む:
i)溶媒および/または非イオン性界面活性剤を含有する添加平衡バッファーを使用する工程、
ii)溶媒および/または非イオン性界面活性剤を含有しない洗浄バッファーを使用する工程、
iii)アルコールおよび/またはアミノ酸を含有する洗浄バッファーを使用する工程、
iv)高塩濃度の洗浄バッファーを使用する工程、
v)低塩濃度の洗浄バッファーを使用する工程、
vi)アルコールと高塩濃度との組み合わせを含むバッファーを使用する工程。
【0051】
本発明のさらなる一実施形態において、クロマトグラフィー条件は、次の工程のうち少なくとも二つを含む:
i)溶媒および/または非イオン性界面活性剤を含有する添加平衡バッファーを使用する工程、
ii)溶媒および非イオン性界面活性剤を含有しないバッファーである第一の洗浄バッファーを使用する工程、
iii)アルコールおよびアミノ酸を含有する第二の洗浄バッファーを使用する工程、
iv)高塩濃度の第三の洗浄バッファーを使用する工程、
v)低塩濃度の第四の洗浄バッファーを使用する工程、
vi)アルコールと高塩濃度との組み合わせを含む溶出バッファーを使用する工程。
【0052】
さらに、他の本発明の他の一実施形態において、用いられるバッファーは、次の通りである:
i)添加平衡バッファーは、リン酸トリ−n−ブチルおよび/またはトリトンX−100を約0.1〜10%(w/w)の濃度範囲で含む;
ii)第二の洗浄バッファーは、エチレングリコールおよび/またはリシン/アルギニンを含み、ここでエチレングリコールは、約5〜約30%(w/w)の範囲であり、リシン/アルギニンは、0.2〜約1.5Mの範囲である;
iii)第三の洗浄バッファーは、塩化ナトリウムを、約0.5〜約4M、特に約0.5〜約1.5Mの濃度範囲で含む;
iv)第四の洗浄バッファーは、塩化ナトリウムを約0.01〜約0.2M、特に0.01〜約0.1Mの濃度範囲で含む;
v)溶出バッファーは、エチレングリコールおよび/または塩化ナトリウムを含み、エチレングリコールを、約25〜約75%(w/w)、特に、約25から約50%の濃度の範囲で、NaClは、約0.5〜約4Mの濃度で含む。
【0053】
本発明のさらなる一実施形態において、クロマトグラフィー条件は、次の工程のうち少なくとも二つを含む。
i)添加平衡バッファーは、リン酸トリブチルおよび/またはトリトンX−100を0.3〜5%(w/w)の濃度範囲で含む;
ii)エチレングリコールを10〜25%(w/w)の範囲で、および/またはリシン/アルギニンを0.3〜1.0Mの範囲で含む、カラム容量の10倍より多い第二の洗浄バッファーで洗浄する工程;
iii)塩化ナトリウムを0.8〜1.5Mの濃度範囲で含む、カラム容量の10倍より多い第三の洗浄バッファーで洗浄する工程;
iv)塩化ナトリウムを0.03〜0.15Mの濃度の範囲で含む、カラム容量の10倍より多い第四の洗浄バッファーで洗浄する工程;
v)溶出バッファーは、エチレングリコールおよび/または塩化ナトリウムを含み、ここでEGは35〜65%(w/w)の濃度の範囲で、またNaClは0.8〜3.0の濃度の範囲で含まれる。
【0054】
本発明の他の一実施形態において、用いられるバッファーは、次の通りである:
i)添加平衡バッファーは、リン酸トリブチルおよび/またはトリトンX−100を0.8〜1.2%(w/w)の濃度の範囲で含む;
ii)エチレングリコールを18〜22%(w/w)で、および/またはリシン/アルギニンを0.4〜0.6Mを含む、カラム容量の20倍より多い洗浄バッファーで洗浄する工程;
iii)塩化ナトリウムを0.8〜1.2Mの濃度範囲で含む、カラム容量の20倍より多い第三の洗浄バッファーで洗浄する工程;
iv)塩化ナトリウムを0.08〜0.12Mの濃度の範囲で含む、カラム容量の20倍より多い第四の洗浄バッファーで洗浄する工程;
v)溶出バッファーは、エチレングリコールおよび/または塩化ナトリウムを含み、ここでEGは45〜55%(w/w)の濃度の範囲で、またNaClは1.3〜1.7の濃度の範囲で含まれる。
【0055】
異なった種類の洗浄バッファーを適用することの利点は、それによって、異なった種類のプリオンや、樹脂または目的タンパク質に異なる相互作用で結合しているプリオンを除去できる可能性が上がることである。また、各バッファーの量(すなわち、1カラム容量は、樹脂の容量に等しい)を増やすことによって、加えたバッファーに対して「ゆっくりと作用する(slowacting)」いくらかの残存プリオンに対する安全性が増加し得る。
【0056】
マルチモーダルクロマトグラフィー材料は、
i)正に帯電したN−ベンジル−N−メチル エタノールアミンリガンド、
ii)負に帯電した2−(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンド、
iii)フェニルプロピルリガンド、
iv)N−ヘキシルリガンド、
v)4−メルカプト−エチル−ピリジンリガンド、
vi)3−[{3−メチル−5−((テトラヒドロフラン−2−イルメチル)アミノ)−フェニル}アミノ]安息香酸リガンド、
を含み得る。
【0057】
本発明の主題はまた、感染性である可能性を有するタンパク質を含有する供給源から単離されたタンパク質の、プリオンタンパク質が削減された画分でもある。該画分は、本発明の方法によって得ることができる、薬剤的に適用可能なタンパク質を含有する。
【0058】
特に、タンパク質画分は、血漿タンパク質、ペプチドホルモン、増殖因子、サイトカインおよびポリクローナル免疫グロブリンタンパク質、フィブリノゲン、プロトロンビン、トロンビン、プロトロンビン複合体、FX、FXa、FIX、FIXa、FVII、FVIIa、FXI、FXIa、FXII、FXIIa、FXIII、FXIIIa、フォン・ヴィレブランド因子などのヒトおよび動物血液凝固因子から選択される血漿タンパク質、アルブミン、トランスフェリン、セルロプラスミン、ハプトグロビン、ヘモグロブリンおよびヘモペキシンなどの輸送タンパク質、β−アンチトロンビン、α−アンチトロンビン、α2−マクログロブリン、Cl阻害因子、組織因子経路阻害因子(TFPI)、ヘパリン補因子II、プロテインC阻害因子(PAI−3)、プロテインCおよびプロテインS、α−1エステラーゼ阻害因子タンパク質、α−1抗トリプシンなどのプロテアーゼ阻害剤、潜在性抗トロンビンなどの抗血管新生タンパク質、α−l−酸性糖タンパク質、アンチキモトリプシン、インターαトリプシンインヒビター、α−2−HS糖タンパク質、C−反応性タンパク質などの高グリコシル化タンパク質、ならびに、ヒスチジン高含有糖タンパク質、マンナン結合レクチン、C4−結合タンパク質、フィブロネクチン、GCグロブリン、プラスミノゲン、エリスロポエチンのような血液因子、インターフェロン、腫瘍因子、tPA、γCSFなどその他のタンパク質を含むことを求められる。
【0059】
さらに、本発明を次の実施例により説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0060】
実施例1
カラムおよび樹脂
Tricornカラム(GEヘルスケア社、スウェーデン、断面積:0.2cm
2、直径:0.5cm)に、CaptoMMC樹脂(GEヘルスケア社、カタログ番号17−5317−10、ロット番号308581)を、9cmのベッド高、カラム容量:1.8mlで、充填する。
【0061】
出発材料
HEK293細胞由来組換えタンパク質の、キャプチャーカラム工程を経て濃縮された混合物を、出発材料として用いた。(バッチ番号:BPP 047 SP eluate、117μgのタンパク質/ml)。
【0062】
バッファー組成*
バッファー1(S/Dが添加された平衡バッファー)
0.3M NaCl、0.01M CaCl
2(2×H
2O)、0.01M L−ヒスチジン、1%w/w トリトンX−100、0.3%w/w TNBP、pH:7.0±0.1、導電率:29±3mS/cm
2(+25℃)
バッファー2(S/D無し平衡バッファー)
0.3M NaCl、0.01M CaCl
2(2×H
2O)、0.01M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、pH:6.5±0.1、導電率:31±3mS/cm
2(+25℃)
バッファー3(洗浄1:リシンおよびエチレングリコール(=EG))
0.3M NaCl、0.01M CaCl
2(2×H
2O)、0.01M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、0.5M 一塩化(L−)リシン(L−Lysin monochlorid)、20%(w/w)エチレングリコール(=EG)、pH:6.5±0.1、導電率:37±3mS/cm
2(+25℃)
バッファー4(洗浄2:高濃度塩洗浄)
1.0M NaCl、 0.05M CaCl
2(2×H
2O)、0.05M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、pH:6.5±0.1、導電率:89±5mS/cm
2(+25℃)
バッファー5(洗浄3:低濃度塩洗浄)
0.1M NaCl、0.01M CaCl
2(2×H
2O)、0.01M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、pH:6.5±0.1、導電率:13±3mS/cm
2(+25℃)
バッファー6(溶出バッファー)
1.5M NaCl、0.02M CaCl
2(2×H
2O)、0.02M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、50%(w/w)エチレングリコール(EG)、pH:6.5±0.1(EG添加前にpHを調整)、導電率(+25℃、EG添加後に測定):39±3mS/cm
2
バッファー7(再生バッファー)
1M水酸化ナトリウム
【0063】
pH調整用:
1M HCl
*バッファーは、最終体積1Lとしてではなく、加えた水1kgに対して、調製された。添加物によって最終体積が少し増加することがあるので、この調製は最終モル濃度に小さい影響を及ぼすであろう。
【0064】
クロマトグラフィー条件:
表1は適用されたバッファーの慨ねの量、ml/分およびcm/時で表わされた流速の概要である。各バッファーの工程に要する時間、およびタンパク質溶液についてのゲルとの接触時間も示す。
【0065】
【表1】
【0066】
MMC樹脂を、Tricornカラムに約9cmのベッド高で充てんした。クロマトグラフィー工程は、導電率について280nmでモニターした。タンパク質添加は、樹脂1mlに対して約3mgであった。
【0067】
はじめに、カラムを、安定したベースラインが得られるまで、S/D化学物質を含む平衡バッファーで、適切に平衡化した。出発材料に、1Kg当たり14gの割合でストックのS/Dを加え、平衡バッファーと同じ濃度にした。タンパク質溶液をカラムにのせる前に、これを少なくとも10分間攪拌した。下記のバッファーの画分を回収し、全タンパク質(およびPrP
sc打ち込み実験におけるプリオン)の分析をした。吸光度280nmで測定したクロマトグラフィー分析結果は、付録2で見ることができる。
− フロースルー(バッファー1+タンパク質)
− バッファー1(高濃度非イオン洗浄バッファー;0.3M NaCl、0.01M CaCl
2、0.01M L−ヒスチジン、1%w/w トリトンX−100、0.3%w/w TNBP、pH:7.0)
− バッファー2(低濃度非イオン性洗浄バッファー;0.3M NaCl、0.01M CaCI
2、0.01M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、pH:6.5)
− バッファー3(アミノ酸/アルコールバッファー;0.3M NaCl、0.01M CaCl
2、0.01M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、0.5M 一塩化(L−)リシン、20%(w/w)エチレングリコール、pH:6.5)
− バッファー4(高濃度塩バッファー;1.0M NaCl、0.05M CaCl
2、0.05M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、pH:6.5)
− バッファー5(低濃度塩バッファー;0.1M NaCl、0.01M CaCl
2、0.01M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、pH:6.5)
− バッファー6 (高濃度塩/高濃度アルコールバッファー)1.5M NaCl、0.02M CaCl
2、0.02M L−ヒスチジン、0.02%(w/w)ツイーン80、50%(w/w)エチレングリコール(EG)、pH:6.5
− バッファー7(再生バッファー;2M NaCl)
【0068】
カラムを、20カラム容量の1M NaOHで再生し、さらなる使用のために、20%(v/v)エタノール中で保存した。
【0069】
結果
表2はプリオン無しの実験における全タンパク質の検出を示す。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例2(プリオン打ち込み実験)
実施例1で述べたクロマトグラフィー手順のプリオンタンパク質除去の測定を可能にするために、プリオン打ち込み実験を行った。実施例1と同じカラム、樹脂、バッファーおよび出発材料を用いた。
【0072】
プリオンタンパク質感染性出発材料
スクレイピーに感染させたハムスターの263K株のミクロソーム/細胞質画分を、この実験に用いた。
【0073】
117μg/mlのタンパク質を含む、約54gのタンパク質出発材料(実施例1と同様、バッチ番号:BPP 047 SP eluat)を、水槽中、25℃で解凍し、温度24.0℃(目安:20〜25℃)まで温めた。次に、51.12g(目安:50±2g)の出発材料を計量し、2.6ml(目安:2.5±0.2ml)のミクロソーム/細胞質画分を打ち込み、最終濃度5.1%とした。打ち込み済出発材料のpHをチェックしたところ、6.994(目安:7.0±0.1)であった。次いで、6mlの分量(aliquot)を取り、分注して、−60℃以下で保存した(打ち込み済出発材料試料−SSM)。
【0074】
1.955gのトリトンX−100を、0.582gのTnBP(目安となる割合:10部+3部、重量による測定)と混合し、36分間攪拌した。直ちに、0.665gのS/D試薬を、残り47.72gの打ち込み済出発材料(目安となる割合:打ち込み済出発材料1Kgあたり14gのS/D試薬)に添加し、31分間攪拌した。出発材料の温度をチェックしたところ、攪拌段階の開始時24.5℃、および攪拌段階の終了時23.7℃(目安となる範囲:18〜25℃)であった。
【0075】
クロマトグラフィー工程
CaptoMMC樹脂を充てんしたGEヘルスケア社の1.8mlTricornカラム(CV=1.0ml、ベッド高=9cm)を、8.3CVのバッファー1(S/Dを含む平衡バッファー)を用い流速1.0ml/分(目安:1.0ml/分で5CV)で平衡化した。次に、47.29gのS/Dで処理した打ち込み済出発材料を、1.0ml/分(目安:1.0ml/分で、45±2g)の流速をかけながら、カラムに充てんした。それに続いて、カラムを流速0.8ml/分で10.0CVのバッファー2(S/D無し平衡バッファー)(目安:1.0ml/分で10CV)で洗い流した。フロースルーの回収は、UVシグナルが上がり始めた時に開始し、吸光度が落ち始めるまで継続した。フロースルー画分の重量を測定し(実重量:48.23g)、16mlの分量を取り、分注して、−60℃以下で保存した(フロースルー試料−FT)。洗浄画分1を、バッファー2で流した際に、回収した。この画分の実重量を測定したところ、12.75gであった。また、12mlの分量を取り、分注して、−60℃以下で保存した(洗浄1試料−W1)。
【0076】
次いで、カラムを、22.2CVのバッファー3(リシンおよびエチレングリコール洗浄)を用い、流速0.6ml/分(目安:0.6ml/分で20CV)で洗浄した。バッファー3での洗浄の際、洗浄画分2を回収した。この画分の実重量を測定したところ、40.35gであった。16mlの分量を取り、分注して、−60℃以下で保存した(洗浄2試料−W2)。
【0077】
カラムを、10.0CVのバッファー4(高濃度塩洗浄)を用い、流速0.9ml/分(目安:1.0ml/分で10CV)で洗浄した際、洗浄画分3を回収した。実重量18.48gを測定し、16mlの分量を取り、分注して、−60℃以下で保存した(洗浄3試料−W3)。
【0078】
カラムを、5.0CVのバッファー5(低濃度塩洗浄)を用い、流速1.0ml/分(目安:1ml/分で5CV)で洗浄した際、洗浄画分4を回収した。この画分の実重量を測定したところ、12.22gであった。11.5mlの分量を取り、−60℃以下で保存した(洗浄4試料−W4)。
【0079】
次いで、産物を、8.3CVのバッファー6(溶出バッファー)を用い、0.2ml/分(目安:0.2ml/分で7CV)の流速をかけて溶出させた。溶出物の回収は、バッファー6でカラムを洗う間全体を通して行われた。溶出画分の実重量を測定したところ、13.54gであった。12.5mlの分量を取り、−60℃以下で保存した(溶出試料−E)。
【0080】
9.4CVのバッファー7(再生バッファー)を用い、流速0.6ml/分(目安:0.6ml/分で20CV)でカラムを再生する際に、再生画分を回収した。17.97mlの実重量を測定した。16mlの分量を取り、−60℃以下で保存した(再生試料−Reg)。
【0081】
【表3】
【0082】
考察
表3および付録1(
図1〜5)からわかるように、バッファー4〜7画分では優れたプリオンタンパク質除去値が見られる。よって、これらの画分に溶出するタンパク質産物は、PrP
sc除去に関して、非常に良好な安全マージンを有すると思われる。また、非常に重要なことに、PrP
scが、フロースルーや初期の洗浄バッファー以外の画分中に全く見られないことが、加えたプリオンタンパク質の物質収支から示されている。我々の知る限りでは、このことはこれまで従来技術では示されていなかった。文献にみられるプリオンタンパク質除去工程としてのクロマトグラフィー樹脂の例において、たとえ、比較的許容可能なプリオンタンパク質除去値が達成されても、プリオンタンパク質は、普通、産物画分を処理する前後の数画分の中に見出すことができ、このことは、クロスオーバー混入の危険性を示唆している。
【0083】
分析についての説明
ブラッドフォード法による全タンパク質の測定
ブラッドフォード法によるタンパク質測定は、クマシーブリリアントブルー G−250の酸性溶液に対する吸光度極大が、タンパク質への結合が起こった際に、465nmから595nmに変わるという観察に基づいている。疎水性相互作用およびイオン性相互作用の両方が、この染料の陰イオンの形を安定化し、目でわかる色の変化を引き起こす。このアッセイは、染料−アルブミン複合体溶液の吸光係数が、10倍の濃度範囲にわたって一定であるため、有用である。さらに詳しい情報は、Bradford, MM. A rapid and sensitive for the quantitation of microgram quantitites of protein utilizing the principle of protein-dye binding. Analytical Biochemistry 72: 248-254. 1976.も参照のこと。
【0084】
PrPscを検出するためのウェスタンブロットアッセイ
ウェスタンブロットアッセイは、プロテイナーゼK耐性スクレイピー関連プリオンタンパク質(PrP
sc)を半定量的に測定するものである。ウェスタンブロットアッセイは、DC Lee et al., Journal of Virological Methods 2000;84:77-89に記述されている通りに行った。