【実施例】
【0042】
以下、本実施形態の詳細を具体的に実施例において示す。
【0043】
[実施例1]
粒径約1μmのタンタル炭窒化物(TaC
0.5N
0.5)を、回転式電気炉(ロータリーキルン)内に導入し、一酸化炭素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)と酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)との混合気体中、1000℃で10時間保持し、タンタル酸化物と炭素の混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0044】
粉末X線回折の測定により、b−Ta
2O
5構造を持つ酸化物相が形成されていることが確認された。不活性ガス融解赤外線吸収法による元素分析によって酸素欠陥量を見積ったところ、酸素欠陥量は約4atm%(以下、%と示す)であった。
【0045】
TEMで触媒の断面を観察したところ、表面にグラファイト構造がわずかに成長した微細カーボンが析出していた。平均1次粒子径は6nmであった。TEM像から炭素による表面の被覆率を推定すると約10%であった。
【0046】
[実施例2]
実施例1で合成した酸素還元触媒の一部を、アンモニア気流中、670℃で3時間保持し、タンタル酸化物の酸素原子及び炭素の炭素原子の一部が窒素原子で置換された酸素還元触媒を合成した。粉末X線回折の測定により、b−Ta
2O
5構造を持つ酸化物相が維持されていることが確認された。ただし、回折角は低角にシフトしていた。Al Kα単色光を用いたX線光電子分光(XPS)によりTa 4fのコアレベルスペクトルを観測したところ、低エネルギー側へのシフトが見られ、酸素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。また、C 1sのコアレベルスペクトルにも炭素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認されるピークシフトが観測された。
【0047】
[比較例1]
粒径約1μmのタンタル炭窒化物(TaC
0.5N
0.5)を、回転式電気炉(ロータリーキルン)内に導入し、酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)中、1000℃で6時間保持し、タンタル酸化物である酸素還元触媒を合成した。
【0048】
粉末X線回折の測定により、b−Ta
2O
5構造を持つ酸化物相が形成されていることが確認された。実施例1と同様に酸素欠陥量を見積もったところ、酸素欠陥量は約3.8%であった。TEMで触媒の断面を観察したところ、炭素の析出は確認されなかった。
【0049】
(酸素還元能評価)
実施例1、実施例2及び比較例1で合成した酸素還元触媒をカソード触媒に用いて単セルを構成した。カソード触媒と、ケッチェンブラック(登録商標)と、ナフィオン(登録商標)溶液とを混合しペースト状のインクを作製し、カソード集電電極上に塗布することにより触媒電極及びガス拡散層を形成した。アノード触媒には白金ルテニウム合金を使用した。アノードには純水素、カソードには純酸素を供給し、電流−電圧曲線を測定した。結果を
図1に示す。
【0050】
図1から明らかなように、比較例1に対し、実施例1及び実施例2で合成した酸素還元触媒では、酸素還元の開始電位に相当する開回路端電圧の上昇と限界電流密度の増大が確認された。開回路端電圧の上昇は、主に表面の電子伝導性が向上したことによるものであると考えられる。また、限界電流密度の増大は、電子伝導性の向上と、燃料供給、すなわち酸素の拡散性が向上したことによるものと考えられる。
【0051】
[実施例3]
比較例1で合成した酸素還元触媒の表面にTi金属をスパッタした後、水素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)と酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)との混合気体中、1000℃で10時間保持し、表面の一部をTiO
xで被覆したタンタル酸化物である酸素還元触媒を合成した。
【0052】
[実施例4]
Ti金属の代わりにNb金属をスパッタした以外は実施例3と同様に実施し、表面の一部をNbO
xで被覆したタンタル酸化物である酸素還元触媒を合成した。
【0053】
[実施例5]
Ti金属の代わりにNbFe合金をスパッタした以外は実施例3と同様に実施し、表面の一部をNbFeO
xで被覆したタンタル酸化物である酸素還元触媒を合成した。
【0054】
[実施例6]
実施例3で合成した酸素還元触媒を、アンモニア気流中、670℃で3時間保持し、酸素原子の一部が窒素原子で置換された酸素還元触媒を合成した。実施例2と同様の方法により、酸素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0055】
[実施例7]
実施例4で合成した酸素還元触媒を、アンモニア気流中、670℃で3時間保持し、酸素原子の一部が窒素原子で置換された酸素還元触媒を合成した。実施例2と同様の方法により、酸素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0056】
[実施例8]
実施例4で合成した酸素還元触媒を、アンモニア気流中、670℃で3時間保持し、酸素原子の一部が窒素原子で置換された酸素還元触媒を合成した。実施例2と同様の方法により、酸素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0057】
[実施例9]
ペンタエトキシタンタル、エタノール及びケッチェンブラック(登録商標)を混練した。その後、混合物を回転式電気炉(ロータリーキルン)内に導入し、一酸化炭素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)と酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)との混合気体中、1000℃で10時間保持し、タンタル酸化物と炭素の混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0058】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、タンタル酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。また、TEMで触媒の断面を観察したところ、タンタル酸化物の表面に炭素が存在することが確認された。
【0059】
[実施例10]
ペンタエトキシタンタルの代わりにペンタエトキシニオブを用いた以外は実施例9と同様に実施し、ニオブ酸化物と炭素の混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0060】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、ニオブ酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。また、TEMで触媒の断面を観察したところ、ニオブ酸化物の表面に炭素が存在することが確認された。
【0061】
[実施例11]
実施例9で合成した酸素還元触媒を、アンモニア気流中、670℃で3時間保持し、タンタル酸化物の酸素原子、炭素の炭素原子の一部が窒素原子で置換された酸素還元触媒を合成した。実施例2と同様の方法により、酸素原子、炭素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0062】
[実施例12]
実施例10で合成した酸素還元触媒を、アンモニア気流中、670℃で3時間保持し、ニオブ酸化物の酸素原子、炭素の炭素原子の一部が窒素原子で置換された酸素還元触媒を合成した。実施例2と同様の方法により、酸素原子、炭素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0063】
[実施例13]
ペンタエトキシタンタル、エタノール及びケッチェンブラック(登録商標)を混練したペーストに、さらにフタロシアニン鉄を混合した。その後、混合物を回転式電気炉(ロータリーキルン)内に導入し、酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)中、1000℃で10時間保持し、タンタル酸化物と炭素の混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0064】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、タンタル酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。また、TEMで触媒の断面を観察したところ、タンタル酸化物の表面に炭素が存在することが確認された。さらに実施例2と同様の方法により、炭素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0065】
[実施例14]
ペンタエトキシタンタルの代わりにペンタエトキシニオブを用いた以外は実施例13と同様に実施し、ニオブ酸化物と炭素の混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0066】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、ニオブ酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。また、TEMで触媒の断面を観察したところ、ニオブ酸化物の表面に炭素が存在することが確認された。さらに実施例2と同様の方法により、炭素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0067】
[実施例15]
TiO
2に10質量%のフラーレンを混合し、乳鉢で粉砕した後ペレットに成型した。該ペレットを回転式電気炉(ロータリーキルン)内に導入し、酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)中、1000℃で6時間保持し、チタン酸化物と炭素との混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0068】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、チタン酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。また、TEMで触媒の断面を観察したところ、チタン酸化物の表面に炭素が存在することが確認された。
【0069】
[実施例16]
TiO
2の代わりにZrO
2を用いた以外は実施例15と同様に実施し、ジルコニウム酸化物と炭素との混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0070】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、ジルコニウム酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。また、TEMで触媒の断面を観察したところ、ジルコニウム酸化物の表面に炭素が存在することが確認された。
【0071】
[実施例17]
TiO
2に10質量%のフタロシアニン鉄を混合し、乳鉢で粉砕した後ペレットに成型した。該ペレットを回転式電気炉(ロータリーキルン)内に導入し、酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)中、1000℃で6時間保持し、チタン酸化物と炭素との混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0072】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、チタン酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。また、TEMで触媒の断面を観察したところ、チタン酸化物の表面に炭素が存在することが確認された。さらに実施例2と同様の方法により、炭素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0073】
[実施例18]
TiO
2の代わりにZrO
2を用いた以外は実施例17と同様に実施し、ジルコニウム酸化物と炭素との混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0074】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、ジルコニウム酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。また、TEMで触媒の断面を観察したところ、ジルコニウム酸化物の表面に炭素が存在することが確認された。さらに実施例2と同様の方法により、炭素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0075】
[実施例19]
ZrCl
4とフタロニトリルとを混合後、180℃で加熱しZrフタロシアニンを合成した。合成したZrフタロシアニンに、サリチル酸、クエン酸及びケッチェンブラック(登録商標)を混合し、回転式電気炉(ロータリーキルン)内に導入し、水素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)と酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)混合気体中、800℃で3時間保持し、ジルコニウム酸化物と炭素との混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0076】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、ジルコニウム酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。TEMで観察したところ平均粒子径は10nmであった。また、ジルコニウム酸化物の表面には炭素及び窒素の化合物が高分散しており、被覆率は約10%であった。さらに実施例2と同様の方法により、炭素原子の一部が窒素原子で置換されていることが確認された。
【0077】
[実施例20]
ZrCl
4とフタロニトリルとを混合後、180℃で加熱しZrフタロシアニンを合成した。合成したZrフタロシアニンに、サリチル酸、クエン酸及びケッチェンブラック(登録商標)を混合し、回転式電気炉(ロータリーキルン)内に導入し、酸素ガス(窒素をキャリアガスとして2体積%に希釈)中、900℃で1時間保持し、ジルコニウム酸化物と炭素との混合物である酸素還元触媒を合成した。
【0078】
実施例1と同様の方法で元素分析を行ったところ、ジルコニウム酸化物に酸素欠陥が存在することが確認された。TEMで観察したところ平均粒子径は10nmであった。また、ジルコニウム酸化物の表面には窒素を含まない炭素が高分散しており、被覆率は約10%であった。
【0079】
(酸素還元能評価)
実施例3から実施例20で合成した酸素還元触媒を、前記酸素還元能評価で行った単セル試験を実施することで評価した。セルの出力が0.4V及び0.2Vとなる電圧での電流値を測定した。結果を表1に示す。なお、参考として表1には比較例1の結果を示している。
【0080】
【表1】
【0081】
上記の結果より、酸素欠陥が導入された遷移金属酸化物の少なくとも一部を電子伝導性物質で被覆することにより、触媒反応に係る電子移動及び酸素拡散性を高めることが可能になると考えられる。その結果、酸素還元触媒の触媒性能を高めることができる。
【0082】
上記の結果から明らかなように、本実施形態によれば、白金と同等、又はそれ以上の酸素還元性能を有し、酸性溶液中、高電位で安定であり、安価である触媒を提供することができる。