(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797453
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】索条牽引式傾斜輸送設備の安全装置
(51)【国際特許分類】
B61B 12/06 20060101AFI20151001BHJP
B61B 9/00 20060101ALI20151001BHJP
B61H 9/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
B61B12/06 B
B61B9/00 A
B61H9/00 D
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-111263(P2011-111263)
(22)【出願日】2011年5月18日
(65)【公開番号】特開2012-240513(P2012-240513A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228523
【氏名又は名称】日本ケーブル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 元幸
【審査官】
黒田 暁子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−087263(JP,A)
【文献】
特開平07−253814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 12/06
B61B 9/00
B61H 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高低差を有する停留場間にレールを敷設し、該レール上を走行する車両に索条を連結し、該索条を前記停留場に設けた原動装置のシーブに巻き掛けて、該シーブを回転駆動することにより前記索条が前記車両を牽引して輸送を行う索条牽引式傾斜輸送設備において、
前記車両には、該車両を制動する車両制動機と、該車両制動機の動作を制御する制動制御装置と、を備え、
前記原動装置には、前記シーブの回転を検出する回転検出器を備え、
該回転検出器からの信号に基づいて前記車両を停止させる信号を前記制動制御装置に発信する運転制御装置を備えたことを特徴とする索条牽引式傾斜輸送設備の安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜地において索条により車両を牽引して乗客や物資を輸送する索条牽引式傾斜輸送設備の安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
傾斜地において索条により客車や台車(以下、これらをまとめて車両という)を牽引して輸送を行う索条牽引式傾斜輸送設備は、旅客設備として人員の輸送を行うケーブルカーや、産業用設備として物資の輸送を行うインクライン等として知られている。索条牽引式傾斜輸送設備の一般的な構成としては、敷設されたレール上に車両を移動可能に設置し、この車両に接続された索条をウインチや滑車によって巻き掛け駆動することにより、車両がレールに沿って移動するように構成している。
【0003】
索条牽引式傾斜輸送設備の一般的な構成としては、山頂側の停留場に索条駆動用の滑車を配設してこの滑車に索条を巻き掛けて索条の両端に車両を連結するか、または索条の一端に車両を連結し他端にはカウンターウエイトを連結して、いわゆるつるべ式に運行を行う方式が多く採用されている(例えば、特許文献1参照)。また、このようなつるべ方式によらず、索条の端部に車両を連結し、山頂側の停留場に備えたウインチにより索条を巻き取りまたは繰り出して運行を行う方式もある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
上記の索条駆動用の滑車やウインチドラムは、減速機を介して電動機に連結されており、電動機の回転数を制御することにより滑車を回転させ、索条により車両を牽引して運行が行われる。減速機の入力軸あるいは電動軸の出力軸には、ドラム式やディスク式の制動装置を備えており、車両が停留場に到着すると制動装置が動作するとともに、この制動装置の動作を検知して電動機への電力供給が遮断され、制動機の制動力によって索条ないし車両の停止状態が保持される(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−219131号公報
【特許文献2】特開2007−190962号公報
【特許文献3】特開2008−201390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように車両の停止状態は、原動装置に備えた制動機の制動力によって保持されるため、万一、制動機の故障や不具合等により制動力不足が発生すると、車両を定位置に保持することが困難となってしまい、車両の逆走や過走を誘発してしまう。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、制動機の故障や不具合等があった場合においても、車両を安全に停止させることのできる索条牽引式傾斜輸送設備の安全装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、高低差を有する停留場間にレールを敷設し、該レール上を走行する車両に索条を連結し、該索条を前記停留場に設けた原動装置のシーブに巻き掛けて、該シーブを回転駆動することにより前記索条が前記車両を牽引して輸送を行う索条牽引式傾斜輸送設備において、前記車両には、該車両を制動する車両制動機と、該車両制動機の動作を制御する制動制御装置と、を備え、前記原動装置には、前記シーブの回転を検出する回転検出器を備え、該回転検出器からの信号に基づいて前記車両を停止させる信号を前記制動制御装置に発信する運転制御装置を備えた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両の停止時に原動装置の制動機が規定の制動力を発揮しない場合には、車両の車両制動機を動作させて安全に車両を停止させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、索条牽引式傾斜輸送設備の線路の一例を示した線路縦断面である。図に示すように線路は、標高の低い位置にある山麓停留場10と標高の高い位置にある山頂停留場11とを結んで形成されており、両停留場10、11を結んでレール12が敷設され、このレール12に沿って索条13が延線されている。索条13の一端は、車両14に連結されており、中間部を山頂停留場11に備えた原動装置15に巻き掛けて折返し、他端部をレール12上のカウンターウエイト16に連結されている。このように、つるべ式に索条13に連結された車両14とカウンターウエイト16とは、原動装置15を駆動することにより両停留場10、11間をレール12に沿って互いに反対方向へ移動する。
【0013】
図2及び
図3は、山頂停留場11の側面図及び正面図である。各図において、車両14に連結された上側の索条13aは、山頂停留場11に備えた上部誘導ローラー17巻き掛けられて下方へ偏向し、下部に設置された原動装置15のシーブ19に巻き掛けられている。シーブ19に巻き掛けられた索条13は、再び上方へと偏向して下部誘導ローラー18に巻き掛けられ、線路方向へ偏向している。このようにして線路へと延出した下側の索条13bの端部には、カウンターウエイト16が連結されている。
【0014】
原動装置15には、上記シーブ19と、減速機20と、電動機21とを備え、電動機21を駆動することにより減速機20を介してシーブ19が回転し、これによって索条13が移動するとともに車両14が線路中を移動する。減速機20と電動機21との間には制動機22を備え、この制動機22が動作することにより減速機20を介してシーブ19の回転を制動する。また、電動機21の端部には、回転検出器23を備えている。この回転検出器23は、電動機21の回転変位量に応じて信号を発信するロータリエンコーダ等が用いられ、回転検出器23から発信された信号は、電動機21の回転制御を行う運転制御装置24に入力される。なお、ここでは電動機21の回転変位量を回転検出器23が検出する態様で説明しているが、シーブ19の回転変位量を回転検出器23が直接検出するように構成してもよい。
【0015】
運転制御装置24には、運転に必要な状況を検出する各種検出器からの信号が入力されており、これらの信号に基づいて電動機21の回転速度を制御して、車両14の加速や減速等を自動で行い、また状況に応じて制動機22の動作を制御する。上記検出器の一つとして、山頂停留場11の車両14停止位置には、車両14を検出する停止スイッチ25を備えている。この停止スイッチ25は、停留場内に進入した車両14が停止位置に達したことを検出し、この信号を運転制御装置24に出力する。この信号を受けて運転制御装置24は、制動機22を動作させてシーブ19ないし索条13の移動を停止させるとともに、電動機21への通電を遮断する。これにより車両14は、定められた停止位置で停止するとともに、制動機22の制動力によって停止位置に留置される。
【0016】
次に、車両14の構成を説明する。
図4は車両14の側面図であり、
図5は車両14下部の正面断面図である。車両14の側方部下部には、レール12に作用して車両14の制動を行う車両制動機40を備えている。
図5の左半面に示すように車両制動機40は、ブレーキレバー28、29のそれぞれ中央部付近をピン30、31によって垂直方向へ回動可能に枢支し、このブレーキレバー28、29の端部にばね32のばね力を作用させることにより、他端部でレール12を挟持して制動力を得るようにしている。また、ブレーキレバー28、29に対してばね32と反対の側には油圧シリンダー33を備え、この油圧シリンダー33の動作によりブレーキレバー28、29がばね力に抗して回動し、ブレーキレバー28、29の他端部が互いに離れて制動力が開放される。油圧シリンダー33は、車両14に搭載した油圧ユニット34との間で配管され、油圧ユニット34を操作することにより油圧シリンダー33が動作する。
【0017】
油圧ユニット34は、状況に応じて緩制動と急制動が行われるように油圧回路が構成されており、この緩制動と急制動の選択や制動開始及び開放といった制御は、車両14に備えた制動制御装置26によって行われる。この制動制御装置26には通信回路を備えており、同様に通信回路を備えた山頂停留場11の運転制御装置24との間で、無線や誘導無線等によって双方向間で信号の送受信を行うことができる。
【0018】
以上の構成において、原動装置15の制動機22が故障や不具合等により、規定の制動力を発揮できない場合の動作を以下説明する。
【0019】
まず、
本発明の実施の形態を説明する。減速して低速で山頂停留場11に進入した車両14が停止位置に達すると、これを検出して停止スイッチ25が動作し、この信号が運転制御装置24へ入力される。この信号を受けた運転制御装置24は、制動機22を動作させるとともに電動機21への通電を遮断する。このとき制動機22は、規定の制動力を有していないため、索条13の両端に連結された車両14とカウンターウエイト16のいずれか重量の重い方が下降するように動き出す。
【0020】
これにともなって索条13が動き出すことにより、シーブ19が索条13によって回転させられて、これを検出した回転検出器23から信号が発信される。この信号を受けた運転制御装置24は、停止の条件にもかかわらずシーブ19の回転を検出していることからこれを異常と判定し、車両14の制動制御装置26へ停止信号を発信する。この信号により制動制御装置26は、車両制動機40が急制動を行うように油圧ユニット34を制御し、車両制動機40が動作して車両14は速やかに停止する。
【0021】
このように、車両14の到着時に原動装置15の制動機22が規定の制動力を発揮しない場合であっても、車両14は速やかに停止するので安全が確保される。またこのときに、例えば、運転操作盤等に異常発生の表示をさせたり警報音を発するように構成すれば、運転係員等が異常を速やかに感知することができるので、その後の対応が容易になり、さらに好ましい。
【0022】
次いで、
本発明の参考例1を説明する。
本発明の参考例1においては、制動機22が動作した後に車両14とカウンターウエイト16が動き出す状態までの動作は、上記と同一である。この後、車両14が動き出すと、車両14を検出していた停止スイッチ25の検出信号が途絶える。これにより運転制御装置24は、車両14が正常に停止していないことを検知し、上記と同様に車両14の制動制御装置26へ停止信号を発信して車両14が停止される。ここで、停止スイッチ25に加えて、この停止スイッチ25の近傍に車両14を検出する車両検出スイッチを備え、両スイッチの動作の組合せにより異常を判定し、これによって車両14を停止するようにしてもよい。このように構成した場合には、複数のスイッチからの信号により異常を判定することができるので、より確実に判定することができる。
【0023】
次に、
本発明の参考例2を説明する。
図4及び
図5の右半面に示すように、車両14の走行輪35の近傍には、走行輪回転検出器41を備えている。走行輪回転検出器41は、中空状のブラケット38とともに車両14下部の側面に固設されており、ブラケット38の内部には、走行輪回転検出器41の入力軸と連結した中間軸39が軸支されている。中間軸39の端部には、従動ギヤ37が固着されており、一方、走行輪35には駆動ギヤ36が固着され、両ギヤ36、37が噛合して回転が伝達される。走行輪回転検出器41としては、例えばロータリーエンコーダやタコジェネレータ等を用い、これが走行輪35の回転に比例して信号を出力し、この信号が制動制御装置26へ入力される。
【0024】
以上の構成により、次のように動作を行う。車両14が停止位置に達すると、これを検出して停止スイッチ25が動作し、この信号が運転制御装置24へ入力される。この信号を受けた運転制御装置24は、制動機22を動作させるとともに電動機21への通電を遮断する。ここまでの動作は、上記と同一である。次いで、運転制御装置24は、車両14の制動制御装置26へ運転停止中の信号を発信し、これが制動制御装置26に記憶される。次に、制動機22の制動力不足によりカウンターウエイト16及び車両14が動き始めると、走行輪35の回転を走行輪回転検出器41が検出し、この信号が制動制御装置26に入力される。この信号を受けた運転制御装置24は、停止中の条件にもかかわらず走行輪35の回転を検出していることからこれを異常と判定し、車両制動機40が急制動を行うように油圧ユニット34を制御し、車両制動機40が動作して車両14は速やかに停止する。
【0025】
そしてこのときに、例えば、車両14内部に車両制動機40が動作したことを表示したり、または、制動制御装置26と運転制御装置24との通信により、山頂停留場11の運転操作盤等に異常発生の表示をさせたり警報音を発するように構成すれば、運転係員等が異常を速やかに感知することができる。このように
本発明の参考例2によれば、車両14自体の移動を検出して車両14が停止するので、さらに確実な安全性が確保される。
【符号の説明】
【0026】
10 山麓停留場
11 山頂停留場
12 レール
13、13a、13b 索条
14 車両
15 原動装置
16 カウンターウエイト
17 上部誘導ローラー
18 下部誘導ローラー
19 シーブ
20 減速機
21 電動機
22 制動機
23 回転検出器
24 運転制御装置
25 停止スイッチ
26 制動制御装置
28 ブレーキレバー
29 ブレーキレバー
30 ピン
31 ピン
32 ばね
33 油圧シリンダー
34 油圧ユニット
35 走行輪
36 駆動ギヤ
37 従動ギヤ
38 ブラケット
39 中間軸
40 車両制動機
41 走行輪回転検出器