特許第5797461号(P5797461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797461
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】ステンレス鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20151001BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20151001BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20151001BHJP
   C21C 7/06 20060101ALI20151001BHJP
   C21C 7/064 20060101ALI20151001BHJP
   C21C 7/068 20060101ALI20151001BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20151001BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20151001BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20151001BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20151001BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   C21C7/00 B
   C21C7/06
   C21C7/064 Z
   C21C7/068
   C21D6/00 102A
   C21D9/46 Q
   B22D11/00 B
   B22D11/124 L
   B21B3/02
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-123949(P2011-123949)
(22)【出願日】2011年6月2日
(65)【公開番号】特開2012-251194(P2012-251194A)
(43)【公開日】2012年12月20日
【審査請求日】2014年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】御幸 正則
(72)【発明者】
【氏名】王 昆
(72)【発明者】
【氏名】轟 秀和
【審査官】 蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−316751(JP,A)
【文献】 特開2005−015899(JP,A)
【文献】 特開2007−217775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 〜 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.2〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Ni:13〜15%、Cr:25.1〜30%、N:0.07〜0.20%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記数1および数2を満足することを特徴とするステンレス鋼。
【数1】
【数2】
【請求項2】
前記δフェライトは5体積%以上であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。
【請求項3】
質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.2〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Ni:13〜15%、Cr:22〜30%、N:0.07〜0.20%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記数3および数4を満足するステンレス鋼の製造方法であって、電気炉で原料を溶解し、AOD法および/またはVOD法で精錬して、その溶鋼を連続鋳造にて鋳造してスラブを得て、そのスラブを熱間圧延して熱延板を得て、その後焼鈍酸洗し、冷間圧延して冷延板を得る工程を備え、前記連続鋳造にて得たスラブを冷却する際の冷却速度を、700℃に至るまで1℃/分以上の冷却速度とすることを特徴とするステンレス鋼の製造方法。

【数3】
【数4】
【請求項4】
前記δフェライトは5体積%以上であることを特徴とする請求項3に記載のステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記熱間圧延後に鋼が900℃から700℃まで冷却される温度域を10℃/分以上の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項3または4に記載のステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記精錬におけるスラグの塩基度(CaO質量%/SiO質量%)を2〜6とすることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のステンレス鋼の製造方法。
【請求項7】
前記精錬におけるスラグ中のMgOの含有量を3〜8質量%とすることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載のステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Crの含有量を高めることで、Mo、Nb、Tiなどの成分を含まなくても耐食性、熱間加工性および強度を高めたステンレス鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ステンレス鋼の耐食性を高めるためには、Moを添加したり、Ti、NbなどのCと親和力の強い元素を添加したりすることが行われる。その代表的な鋼種として、SUS316L、N321、N347、N317が知られている。あるいは、特許文献1に開示されているように、Niの含有量を高めることでオーステナイトを安定化して対応している。その代表的な鋼種としてSUS836Lといったスーパーステンレス鋼が知られている。しかしながら、MoやNiは原料が高価であるとともに、価格の変動が大きい。Tiを添加すると、連続鋳造での浸漬ノズルが詰まるといった問題を起こすことがある。また、Nbは熱間加工性を低下させるため、熱間圧延工程で割れが発生するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−149830
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような問題に対して、比較的価格の変動が小さく、なおかつ安価であるCrの含有量を高めることで、耐食性を向上させることが可能である。しかしながら、Crの含有量を高くすると、δフェライト量が高くなり、熱間圧延中に、オーステナイトの粒界に存在するフェライトに沿って耳割れが発生することがある。さらに、熱間圧延工程の最終段階では、フェライト相がさらに脆化を引き起こし易いσ相に変化し、さらに熱間加工性が悪く熱延帯の破断といったトラブルを起こすこともある。このように、高Cr含有鋼は難加工性材料であり製造において薄板に加工することが容易ではない。
【0005】
したがって、本発明は、優れた耐食性を維持しながら熱間圧延時に割れや破断を起こさないように熱間加工性を保つとともに強度を高め、しかも安価な原料費で製造できるステンレス鋼とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは、高Cr含有ステンレス鋼について、耐食性、熱間加工性(σ析出挙動)ならびに強度について調査および研究を重ねた。まず、高周波溶解炉によって、種々の化学成分を持つ鋼塊を溶製し、これに熱間鍛造、冷間圧延および容体化処理を施して冷延板を作製し、特に熱間加工性の観点から製造性を評価した。また、超高温引張試験による熱間加工性の評価及び熱間鍛造・冷間圧延工程までの歩留まり率から製造性を評価した。
【0007】
特に、22質量%以上のCrを添加したステンレス鋼について、Ni当量とCr当量のバランスを検討し、δフェライトが19体積%以下になるようにC、Si、Mn、Nで成分を調整した。一般にδフェライト量が高くなるにつれ熱間加工時に割れが発生し易く、δフェライトが15体積%以上になると熱間加工割れは顕著になり製造が困難となる。また、Crの含有量が26%以上になるとスラブや熱延板等の冷却過程でσ相などの金属間化合物が析出しやすくなって脆化し、割れが起こり易くなるため製造が困難となる。そこで、Ni当量が15%から22%、Cr当量が23%から32%の範囲において、δフェライトを19体積%以下にするように、C、Si、Mn、Nの成分で調整したインゴットまたはスラブを製作し、熱間加工性(σ析出挙動)、耐食性、強度について調査した。なお、鋼のδフェライト量は、フェライトメーターで測定することにより求めた。この測定結果によれば、上記のようなδフェライト量の範囲では、下記式が成り立つことが判った。なお、式中の化学記号は、当該化学成分の含有量(質量%)を示す。
【0008】
δフェライト(体積%)=2.8(1.5Si+Cr)−2.5(30C+30N+0.5Mn+Ni)−14.1
【0009】
さらに、鋳込んだ鋼塊の冷却速度を変化させるとともに熱間圧延時の冷却履歴を変化させることにより製造性について検討したところ、冷却速度が遅いとδフェライトが15体積%以上の化学成分では、σ相の析出が見られることも判った。
【0010】
以上の検討結果から、次の成分を持つ鋼であれば、本発明が目的とする優れた耐食性を有するステンレス鋼が、熱間加工時に割れることなく安定して得られ、強度も高くなることが明らかとなった。
【0011】
本発明のステンレス鋼は上記知見に基づいてなされたもので、質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.2〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Ni:13〜15%、Cr:25.1〜30%、N:0.07〜0.20%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記数1および数2を満足することを特徴とする。
【0012】
【数1】
【0013】
【数2】
【0014】
また、本発明のステンレス鋼の製造方法は、質量%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.2〜1.0%、Mn:1.2〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Ni:13〜15%、Cr:22〜30%、N:0.07〜0.20%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなり、かつ下記数3および数4を満足するステンレス鋼の製造方法であって、電気炉で原料を溶解し、AOD法および/またはVOD法で精錬して、その溶鋼を連続鋳造にて鋳造してスラブを得て、そのスラブを熱間圧延して熱延板を得て、その後焼鈍酸洗し、冷間圧延して冷延板を得る工程を備え、前記連続鋳造にて得たスラブを冷却する際の冷却速度を、700℃に至るまで1℃/分以上の冷却速度とすることを特徴とする。この場合において、熱間圧延後に鋼が900℃から700℃まで冷却される温度域を10℃/分以上の冷却速度で冷却することを好ましい態様とする。
【数3】

【数4】
【0015】
以下、本発明のステンレス鋼の数値限定の根拠を本発明の作用とともに説明する。なお、以下の説明において「%」は「質量%」を意味する。
【0016】
C:0.02〜0.08%
C含有量が低下すると、炭化物の生成が少なくなりステンレス鋼の加工性が向上するため、C含有量は0.08%以下とする。一方、Cはδフェライトの過剰な生成を抑制する元素であるため、0.02%以上必要である。したがって、Cの含有量は0.02〜0.08%とする。
【0017】
Si:0.2〜1.0%
Siは脱酸に必要であるため、0.2%以上添加することが必要である。一方、Siは、σ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で1.0%以下に低減させる必要がある。Siの含有量は0.2〜1.0%とする。
【0018】
Mn:1.2〜2.0%
MnもSi同様に脱酸に必要であるとともにδフェライトの過剰な生成を抑制する効果があるため1.2%以上添加することが必要である。一方、Mnは、σ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で2.0%以下に低減させる必要がある。よって、Mnの含有量は1.2〜2.0%とする。
【0019】
P:0.03%以下
Pは不純物として不可避的に混入する元素であり、結晶粒界に偏析しやすく、熱間加工性の観点から、少ないほうが望ましい。しかし、Pの含有量を極端に低減させることは原料コストや精錬等の製造コストの増加を招く。そこで、Pの含有量は0.03%以下とする。
【0020】
S:0.005%以下
SはPと同様に不純物として不可避的に混入する元素であり、結晶粒界に偏析しやすく、熱間加工性の観点からは少ないほうが望ましい。よって、Sの含有量は0.005%以下とする。Sの含有量は、0.003%以下が好ましい。
【0021】
Ni:13〜15%
Niはσ相などの金属間化合物を抑制する上で有効な元素であり、その含有量が13%未満であると、σ相が析出し易くなり、δフェライトが過剰に生成されて、熱間加工性が低下する。一方、Ni含有量が15%を超えると、応力腐食割れの発生を助長する。よって、Niの含有量は、13〜15%とする。
【0022】
Cr:22〜30%
Crは耐食性の向上に有効な元素であり本発明では最も重要かつ有効な元素である。しかしながら、30%を超えて含有すると、スラブ等の冷却過程でσ相などの金属間化合物が析出しやすく脆化し、割れが起こりやすくなる。そこで、Crの含有量は22〜30%とする。Crの含有量は、好ましくは23〜28%がよく、さらに好ましくは、24〜27%がよい。
【0023】
N:0.07〜0.20%
NはCrと同様に耐食性を向上させるとともに、δフェライト生成を抑制する有効な元素であり、重要な元素である。さらに、鋼の強度を高めるためにも有効な元素である。しかしながら、Nを過剰に含有すると、熱間変形抵抗が上昇して熱間加工性を阻害する。また、Nの含有量が大きいと、後で説明するNi当量が増え、Cr当量とのバランスが崩れてしまう。よって、Nの含有量は0.07〜0.20%とする。Nの含有量は、好ましくは0.08〜0.17%がよい。
【0024】
Ni当量:15〜22
Ni当量は、Ni当量=Ni+30×C+0.5×Mn+30×Nにより求められるが、15未満であると、σ相が析出し易くなり脆化し割れ易くなる。一方、Ni当量が22を超えると、所望のδフェライトが得難くなる。
【0025】
Cr当量:23〜32
Cr当量は、Cr当量=Cr+1.5×Siにより求められる。Cr当量が23未満であると、所望のδフェライト量を得難くなる。一方、Cr当量が32を超えると、σ相が析出し、脆化する。
【0026】
δフェライト量:19体積%以下
従来の合金を考えると、19体積%を超えるような高δフェライトを含有するステンレス鋼は、熱間加工性が劣化していると判断できる。この課題を克服するために、上記に説明した本発明の範囲にNi及びN添加量を制御することによって、δフェライトが19体積%以下に抑えられ、充分に加工が可能な熱間加工性を確保することができる。δフェライトは、好ましくは、5体積%以上含まれることが良い。その理由は、δフェライトが5体積%未満で低くなると、P、Sの偏析が強くなり、逆に熱間加工性を低下させるからである。
【0027】
次に、本発明のステンレス鋼の製造方法を説明する。最も工業的に望ましいのは、60トンなど実機規模にて製造するのが効率的かつ経済的である。まず、鉄屑、ステンレス屑、フェロクロム、フェロニッケル、純ニッケル、メタリッククロムなどの原料を電気炉で溶解する。その後、AOD法および/またはVOD法において酸素を吹精し、脱炭精錬する。AOD法で用いる炉の煉瓦はマグクロあるいはドロマイトなどMgO含有耐火物が好ましい。VOD法で用いる取鍋は、マグクロあるいはドロマイトなどMgO含有耐火物が好ましい。AOD法の場合は希釈ガスにArおよび/または窒素を用いるのがよい。
【0028】
また、AOD法においては、上から減圧用に炉内を排気可能な蓋を被せて、脱炭末期に減圧下において、Arガスを吹精しながら強撹拌し、スラグ中に形成したCr酸化物と溶鋼中のCを積極的に反応させて脱炭することもできる。脱炭後、FeSi合金および/またはAlを投入して、スラグ中のCr酸化物を還元する。その後、石灰石、蛍石を添加して、CaO−SiO−Al−MgO系スラグを形成して、脱酸、脱硫を行い、必要に応じて、窒素ガスを吹き込み、溶鋼中窒素濃度を、本願発明の範囲に制御する。
【0029】
Sの含有量を0.005%以下に制御するために、スラグにおける塩基度(CaO%/SiO%)は2〜6であることが望ましい。塩基度が2未満であると、スラグのS許容能力が足りないため、Sが0.005%を超えてしまい、熱間加工性が悪化する。塩基度が6を超えると滓化性に劣り、スラグの流動性を悪化させ、脱硫に不利になることで、Sが0.005%を超えてしまう。
【0030】
スラグ中のMgOの含有量は3〜8%が望ましい。MgOの含有量が3%未満では、煉瓦の溶損が進行し、炉の寿命が短くなる。一方、MgOの含有量が8%を超えると、MgOが還元されて溶鋼中にMgが供給され、非金属介在物としてMgO・Alスピネルが生成され易くなる。このスピネル介在物はタンディッシュから連続鋳造の鋳型に注湯する浸漬ノズルの内壁に付着して堆積し、脱落すると、数百μm〜数mmのサイズの大型介在物としてスラブ中に捕捉される。この場合、鋼板の表面、あるいは鋼板内部に欠陥を発生させてしまう。よって、スラグ中のMgOの含有量は3〜8%が望ましい。
【0031】
上記のように精錬して化学成分を本発明の範囲に制御した溶鋼を、連続鋳造機で鋳造し、スラブを得る。連続鋳造スラブを冷却する際の冷却速度は、700℃に至るまで1℃/分以上とすることが望ましい。700℃に至るまで1℃/分未満の冷却速度で冷却すると、スラブ中でσ相が形成され脆化してしまうためである。さらに、得られたスラブを熱間圧延し、熱延板を製造する。熱間圧延においては、その熱延過程にて鋼が900から700℃まで冷却される温度域において10℃/分以上で冷却することが望ましい。900から700℃まで冷却される温度域において10℃/分未満の冷却速度で冷却すると、σ相が形成され脆化する。なお、高周波誘導炉を用いて、電解鉄、純クロム、純ニッケル、窒化フェロクロム、フェロシリコン、純マンガンなどの原料を溶解して、鋼塊を作製することもできる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、Mo、Ti、Nbなどの希少資源を使用せずにSi、Mn、Cr、Ni、Nの成分バランスを制御することで、耐食性、熱間加工性に優れ、かつ高強度のステンレス鋼が安価な原料費で提供される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によってさらに本発明を詳細に説明する。まず、鉄屑、ステンレス屑、フェロクロム、フェロニッケル、純ニッケル、メタリッククロムなどの原料を、60トンの電気炉で溶解した。その後、VODにおいて、酸素を吹精し、脱炭精錬した。VODの取鍋には、マグクロ耐火物を張った。脱炭後、FeSi合金およびAlを投入して、スラグ中のCr酸化物を還元した。さらに、石灰石、蛍石を添加して、CaO−SiO−Al−MgO系スラグを形成して、脱酸、脱硫を行い、窒素ガスを吹き込み、溶鋼中窒素濃度を制御した。このようにして精錬した溶鋼を、縦型連続鋳造機にて鋳造し、表1に示す組成のスラブ(試料1〜23)を得た。
【0034】
なお、表1に、下記数5および数6より算出した値を併記する。
【0035】
【数5】
【0036】
【数6】
【0037】
【表1】
【0038】
各スラブに対して、熱間圧延と冷間圧延を行い、溶体化処理を施して、厚さ2.0mmの冷延板を製造した。そして、熱間鍛造・冷間圧延工程までの歩留まり率から製造性を評価した。歩留まり率は、85%以上を○とし、84〜70%を△、69%以下を×として評価した。また、各試料の強度をビッカース硬さを測定して評価した。硬さがHv200以上の場合を○、Hv180以上Hv200未満の場合を△、Hv180未満の場合を×として評価した。
【0039】
耐食性は、ASTM G48 Method Cにより評価し、CPTが15℃以上の場合を○、15℃未満の場合を×とした。さらに、耐食性の指標としてPREを求めた。PREは、PRE=%Cr+16×%Nより求め、高耐食性であるSUS316Lが25であるため、25以上の試料は耐食性が良好であることが推察される。以上の評価結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表1に示すとおり本発明の条件を満足するテンレス鋼では、高温割れが防止されて製造歩留まりが良好であるとともに、耐食性に優れることが確認された。一方、比較例では、耐食性、熱間加工性、強度のいずれかが発明鋼よりも劣った。
【0042】
試料No.3の製造工程中のVODでの精錬時に、スラグの塩基度(CaO質量%/SiO質量%)を1.5として精錬したところ、Sが0.009質量%と高くなった。また、試料No.5の製造工程中のVODでの精錬時に、スラグの塩基度を8として、精錬したところ、Sが0.011質量%と高くなった。これらのステンレス鋼では、スラブは製造できたが、圧延時に耳割れが大きく、製品にならなかった。以上の結果から、精錬におけるスラグの塩基度を2〜6とすることの優位性が確認された。
【0043】
試料No.1のδフェライト量が17.3体積%と高い条件で製造したスラブ5本に対して冷却速度の与える影響について調査した。5本のスラブのうち1本では、スラブの温度が700℃に至るまで0.8℃/分で冷却し、それ以外は1.5〜3℃/分で冷却した。このような冷却速度の制御は、二次冷却帯の水量を変化させて行った。
【0044】
さらに、熱間圧延の冷却条件も変化させて影響を調べた。以上の結果を表3に示す。試料No.1の熱間圧延過程において鋼が900℃から700℃まで冷却される温度域を、10℃/分以上で冷却したものと、7℃/分で冷却した板を評価した。スラブNo.1では、冷却速度が0.8℃/分という徐冷であったため、ミクロ組織観察の結果、鋼塊中にσ相が形成し、熱間圧延工程に進めるのは不可能と判断した。また、スラブNo.5では、鋼が900℃から700℃まで冷却される温度域を、7℃/分と徐冷させたため、σ相が形成されて脆化したことにより、熱延板に耳割れが発生し、製品歩留りが66%と低くなった。以上のことから、連続鋳造にて得たスラブを冷却する際の冷却速度を700℃に至るまで1℃/分以上の冷却速度とすること、および、熱間圧延後に鋼が900℃から700℃まで冷却される温度域を10℃/分以上の冷却速度で冷却することによる効果が確認された。
【0045】
【表3】