特許第5797470号(P5797470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5797470-皮膚沈着色素排出促進剤 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797470
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】皮膚沈着色素排出促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20151001BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20151001BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20151001BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20151001BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   A61K31/192
   A61P17/16
   A61K8/44
   A61K8/36
   A61Q19/02
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-130927(P2011-130927)
(22)【出願日】2011年6月13日
(65)【公開番号】特開2013-1642(P2013-1642A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102496
【氏名又は名称】エスエス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 一朗
(72)【発明者】
【氏名】猪田 利夫
(72)【発明者】
【氏名】森 陽子
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−519784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/192
A61K 8/37
A61K 8/44
A61K 31/196
A61P 17/02
A61P 17/16
A61Q 19/02
A61K 8/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ェルビナク又その塩を有効成分とする皮膚沈着色素排出促進用皮膚外用剤。
【請求項2】
皮膚沈着色素が、日焼けにより皮膚に沈着した色素である請求項1記載の皮膚沈着色素排出促進用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日焼け等の原因により皮膚に沈着した色素の排出を促進する医薬又は化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のしみ、そばかすなどの色素沈着は、ホルモンの異常や紫外線の刺激、加齢が原因となって、表皮色素細胞内でメラニン産生が亢進し、メラニンが表皮に過剰に沈着するために生じる。しみ、そばかす等の色素沈着を防ぐ方法としては、メラニンの生成を抑制する物質であるアスコルビン酸及びその誘導体、プラセンタエキス、ハイドロキノンβ−D−グルコース(アルブチン)、コウジ酸、トラネキサム酸及びエラグ酸を配合したクリームやローション等の皮膚外用剤を塗布する方法が知られている(特許文献1〜3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭56−18569号公報
【特許文献2】特公昭48−30370号公報
【特許文献3】特公昭64−830102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの美白化粧料は、メラニンの生成を抑制する作用はあるが、既に沈着してしまった色素を減少させる作用はほとんどないか、極めて弱いものである。レチノイン酸及びその誘導体、あるいはその受容体作動薬が、色素沈着を減少させる作用を有するが、これらは紅斑の誘発、表皮の肥厚といった好ましからぬ副作用を有している。
従って、本発明の課題は、既に生じてしまった皮膚の沈着色素を減少させることのできる安全性の高い外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、種々の薬物についての皮膚沈着色素排出促進効果、すなわち、日焼けを生じさせることにより色素が沈着し、かつ炎症が治まった皮膚に対して種々の薬物を塗布して沈着色素量の減少効果を検討したところ、非ステロイド系抗炎症剤のうち、ジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン又はそれらの塩が沈着色素排出促進効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、ジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン又はそれらの塩を有効成分とする皮膚沈着色素排出促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
ジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン又はその塩は、色素が沈着し、かつ炎症が治まった状態の皮膚に塗布すると、既に生じている沈着色素の排出を促進する効果を有する。本発明の皮膚沈着色素排出促進剤の有効成分は、抗炎症薬として知られている成分であるが、炎症が治まった状態の皮膚に適用しても有効であること、さらにはすべての抗炎症薬に共通の作用様式ではなく、ジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェン、ケトプロフェン及びロキソプロフェンに特有の作用であると考えられる。また、既に生じている沈着色素を減少させる作用を有することから、しみ、そばかす、肝斑などの沈着色素を低減させる作用を有し、真の意味での美白剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】DF−Na、IM及びFLB各製剤をヒト日焼け皮膚に適用したときのΔメグザ値を示す。
図2】DF−Na、IM及びFLB各製剤をヒト日焼け皮膚に適用したときのΔ紅斑値を示す。
図3】DF−Na製剤及びゲル基剤をヒト日焼け皮膚に適用したときのΔメグザ値(平均値及び標準偏差、各群n=4)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の皮膚沈着色素排出促進剤の有効成分は、ジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン又はそれらの塩である。ジクロフェナクは、2−(2−(2,6−ジクロロフェニルアミノ)フェニル酢酸であり、フェルビナクは4−ビフェニル酢酸であり、イブプロフェンは2−(p−イソブチルフェニル)プロピオン酸であり、ケトプロフェンは2−(3−ベンゾイルフェニル)プロピオン酸であり、これらはいずれも非ステロイド系抗炎症剤として知られている。しかし、これらの抗炎症剤が、沈着色素の排出を促進する作用を有することは知られていない。皮膚に紫外線を含む太陽光が照射されると、皮膚は赤く炎症をおこすとともに、メラニンが生成され表皮細胞に沈着するから、抗炎症剤を投与すれば日焼けに伴う炎症を抑制することは周知である。しかし、本発明者らは、後記実施例に示すように、ジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェンは日焼けにより色素が沈着し、炎症が治まったことを確認した後にこれらを投与すると、沈着した色素が減少することを見出したのであり、当該沈着色素排出促進作用は、これらの成分の抗炎症作用によるものではないことは明らかである。
【0010】
ジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェン、ケトプロフェン及びロキソプロフェンの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0011】
ジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン又はそれらの塩は、自体公知の合成方法により製造することができる。
【0012】
本発明の皮膚沈着色素排出促進剤は、既に生じてしまった皮膚の沈着色素の排出を促進する医薬、医薬部外品又は化粧品である。当該沈着色素は、日焼けにより皮膚に沈着した色素、すなわちメラニンである。皮膚沈着色素の状態としては、日焼け、肝斑(しみ)、雀卵斑(そばかす)、老人性色素斑、リール黒皮症、アジソン病、光線性花弁状色素斑、ニキビ、アトピー性皮膚炎など炎症後の色素沈着等が挙げられる。従って、本発明の皮膚沈着色素排出促進剤を用いれば、日焼け、肝斑(しみ)、雀卵斑(そばかす)、老人性色素斑、リール黒皮症、アジソン病、光線性花弁状色素斑、ニキビ、アトピー性皮膚炎など炎症後の色素沈着等の着色が減少する。
【0013】
本発明の皮膚沈着色素排出促進剤の投与形態は、外用剤、内服剤など任意の公知の投与経路で投与されうるが、皮膚外用剤の形態が好ましい。当該皮膚外用剤としては、水溶液、W/O型又はO/W型エマルション、軟膏等が挙げられる。より具体的には、クリーム、乳液、化粧水、パック、ジェル、シート、パップ、軟膏、テープ、硬膏、リニメント、ローション、エアゾール、パウダー等が挙げられる。なお、内服剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、液剤、トローチ剤、ゼリー剤等が挙げられる。
【0014】
本発明の皮膚沈着色素排出促進剤中のジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェンケトプロフェン、ロキソプロフェン又はそれらの塩の含有量は、剤形によっても異なるが、0.001〜20質量%が好ましく、さらに0.1〜10質量%がより好ましい。これらの含有量とすることにより、良好な皮膚沈着色素排出促進作用が得られるとともに、皮膚刺激等の副作用も生じない。
【0015】
本発明の皮膚沈着色素排出促進剤には、上記成分の他、従来公知の美白成分、例えばアスコルビン酸及びその誘導体、プラセンタエキス、ハイドロキノンβ−D−グルコース、コウジ酸、トラネキサム酸、エラグ酸等を配合することができる。また、さらに、着色顔料、防腐剤、シリコーン油、炭化水素類、植物油、ロウ類、エステル油、低級アルコール、高級アルコール、界面活性剤、抗酸化剤、増粘剤、中和剤、紫外線吸収剤、紫外線防御剤等を配合することができる。
【0016】
本発明の皮膚沈着色素排出促進剤は、色素沈着部位に適用すればよく、その適用量はジクロフェナク、フェルビナク、イブプロフェンケトプロフェン、ロキソプロフェン又はそれらの塩の量として通常1日あたり1mg〜1000mg程度が好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
実施例1 ヒト太陽光誘発沈着色素排出促進試験1
ジクロフェナクナトリウム、フェルビナク及びインドメタシンを用いて太陽光誘発沈着色素排出促進作用を検討した。
A.試験方法
(1)被験者
健康成人男性(43歳)
(2)試験薬剤
(i)ジクロフェナクナトリウム1%含有ゲル製剤(略号:DF−Na)
(ii)フェルビナク3%含有ゲル製剤(略号:FLB)
(フェルビナク3%、l−メントール3%含有)
(iii)インドメタシン1%含有ゲル製剤(略号:IM)
(インドメタシン1%、l−メントール3%含有)
(3)測定装置
メグザメーターMX18(Courage−Khazaka Inc,Germany))
(4)日焼け用デバイス
日焼け用デバイスは、直径22mmの穴が8個開いたシートをシート状ゴムにアルミ箔を裏打ちして作成した。
(5)実験方法
1)太陽光曝露法
ヒトの左右上腕部内側(日常的に太陽光に曝露しない部位)に日焼け用デバイスを装着し、晴天の日を選択し上腕部内側を太陽光に曝した。これにより約直径22mmの日焼け部位8個を上腕部内側に生成させた。
2)太陽光曝露日及び時間
・曝露日
計9日間
・曝露時間
昼間の15分間
3)薬物投与条件
太陽光曝露最終日から1週間後、日焼けによる炎症が発症していないのを確認し、日焼け部位への薬剤の塗布を開始した。
4)薬物投与方法
試験薬剤を毎日、入浴後(就寝前)に1回、各薬剤の投与部位に塗布した。なお、薬物の配置は1列目と2列目で逆順に塗布し(各薬剤2部位)、薬物の位置が偏らないようにした。なお、このとき、薬剤非塗布部位(Nontreart)を2部位、日焼けを行わず、薬剤も非塗布の部位(Intact skin)を1部位設けた。
5)投与時間及び投与期間
計65日
入浴後(就寝前)、1日1回投与
6)メグザ値及び紅斑値の測定
各適用部位をメグザメーターを用い、メグザ値及び紅斑値を計測した。
水道水で湿らせたケイドライ(日本製紙クレシア株式会社)で薬剤を除去し、10分間放置したのち、測定を行った。測定はDay0(投与前)、Day10、Day22、Day31、Day48、Day65に行った。
【0019】
B.結果
ジクロフェナクナトリウム製剤、インドメタシン製剤及びフェルビナク製剤をヒト日焼け皮膚に適用したときのメグザ値を表1に、投与前メグザ値との差(Δメグザ値)を表2、図1に、紅斑値を表3に、投与前紅斑値との差(Δ紅斑値)を表4、図2に示した。
【0020】
太陽光曝露していないIntact skin部位において、メグザ値の変動は見られなかったが、太陽光に曝露し日焼けを形成した薬剤非塗布部位では経時的にメグザ値の低下が観察された。これは日焼けした皮膚の新生に伴う生理的な変動と考えられた。もし、薬剤に皮膚新生の促進作用があるならば、生理的な変動を上回る変化があると期待される。しかし、投与前における各部位のメグザ値が異なることから、単純比較は困難である。そこで、投与前メグザ値との差(Δメグザ値)を算出し、各適用部位の推移を薬剤非塗布部位と比較した。ジクロフェナクナトリウム製剤及びフェルビナク製剤適用部位では適用期間を通じて薬剤非塗布部位よりΔメグザ値が低く推移した。インドメタシン製剤適用部位では薬剤非塗布部位よりむしろ高値であった。
一方、紅斑値は適用期間を通じていずれの薬剤適用部位も薬剤非塗布部位と同様の推移を示し、いずれの製剤も炎症を伴う反応を誘引、あるいは抑制しないものと考えられた。
なお、インドメタシン製剤適用部位ではΔメグザ値が薬剤非塗布部位と比べて高値であった。また、このときインドメタシン製剤適用部位でシワの形成が見られている。
【0021】
メグザメーターは皮膚色を解析してメラニンと紅斑を測定する機器で、メグザ値は皮膚メラニン量と関連がある測定値である。試験した製剤において、紅斑値に対する作用は見られなかったが、メグザ値においてはジクロフェナクナトリウム製剤及びフェルビナク製剤適用群で低下作用が見られ、皮膚に沈着したメラニンの低下に寄与していることが示された。ジクロフェナクナトリウム及びフェルビナクは非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)に分類される薬物である。日焼けにおけるメラニンの生成は炎症反応によって促進されると考えられており、NSAIDsにより炎症を抑制することで、結果としてメラニン生成を抑制する可能性は容易に推察される。しかしながら、太陽光の曝露から1週間が経過して、日焼けが形成された後に試験を開始していること、紅斑値(炎症と関連)には影響を及ぼさなかったこと、インドメタシンでは作用が見られなかったことを考え合わせると、上述とは異なる作用機序であると考えられる。すなわち、すでに生成したメラニンを皮膚から排出していると考えられる。したがって、ジクロフェナクナトリウム及びフェルビナクにおいて、日焼けの予防ではなく、皮膚に沈着した色素の排出効果が確認された。また、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェンについても皮膚に沈着した色素の排出効果を有すると考えられる。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
試験例3 ヒト太陽光誘発沈着色素排出促進試験2
試験例1で用いたジクロフェナクナトリウム製剤と基剤との対比試験を行った。試験方法は試験例1と同じである。薬剤は、ジクロフェナクナトリウム1%含有ゲル及びそのゲル基剤(アジピン酸イソプロピル、イソプロパノール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、乳酸、ピロ亜硫酸ナトリウムを含有)で、塗布部位は各薬剤4部位とした。その結果を図3に示す。図3から、ジクロフェナクナトリウムゲルに用いられているゲル基剤だけでは色素排出促進作用はなく、ゲルに含まれているジクロフェナクナトリウムに色素排出促進作用があることが確認された。
図1
図2
図3