(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンが搭載され且つ前後四輪にて支持された走行機体と、前記走行機体に設けられた操縦ハンドルと、電動モータを有する電動操舵機構と、前記操縦ハンドルの操舵トルクを検出する操舵トルクセンサとを備えており、前記操舵トルクセンサの検出結果に基づき前記電動モータの出力を増減させ、前記電動操舵機構を介して前記左右両前車輪を操舵する農業用トラクタであって、
前記走行機体の前後方向の傾斜角を検出するピッチングセンサを更に備えており、前記ピッチングセンサの検出結果に基づき前記電動モータの出力を調節可能に構成され、
前記操舵トルクセンサの検出結果に基づく前記電動モータの出力増減は、前記ピッチングセンサの検出結果に基づく前記電動モータの出力調節に優先して実行される、
農業用トラクタ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
まず、
図1及び
図2を参照しながら、農業用のトラクタ1の概略構造について説明する。
図1及び
図2に示すように、トラクタ1の走行機体2は、左右一対の前車輪3と左右一対の後車輪4とで支持されている。走行機体2の前部に搭載されたエンジン5にて後車輪4及び前車輪3を駆動することにより、トラクタ1は前後進走行するように構成される。走行機体2は、前バンパ6及び前車軸ケース7を有するエンジンフレーム8と、エンジン5からの動力を継断する主クラッチ9(
図3参照)を内蔵したクラッチハウジング10と、エンジン5からの動力を適宜変速して両後車輪4及び両前車輪3に伝達するためのミッションケース11と、クラッチハウジング10の外側面に外向き突設された左右一対のステップフレーム13とにより構成されている。エンジンフレーム8の後端側はエンジン5の左右外側面に連結されている。エンジン5の後面側にはクラッチハウジング10の前面側が連結されている。クラッチハウジング10の後面側には、ミッションケース11の前面側が連結されている。
【0020】
エンジン5はボンネット14にて覆われている。また、クラッチハウジング10の上面には操縦コラム15が立設されている。操縦コラム15の上面側には、左右両前車輪3の舵取り角を変更操作するための操縦ハンドル16が配置されている。ミッションケース11の上面には操縦座席17が配置されている。左右ステップフレーム13の上面には、これらに跨る平坦なステップ床板18が配置されている。前車輪3は前車軸ケース7を介してエンジンフレーム8に取り付けられている。後車輪4は、ミッションケース11の外側面に外向き突設された後車軸ケース19を介して取り付けられている。なお、左右両後車輪4の上面側は左右一対のリヤカウル20にて覆われている。操縦座席17の後方には、エンジン5に供給される燃料を貯留する燃料タンク21と、走行機体2の転倒時にオペレータを保護するためのロプスフレーム22とが設けられている。
【0021】
ミッションケース11の上面後部には、走行機体2の後部に連結されるロータリ耕耘機等の対地作業機(図示省略)を昇降動させる油圧式の対地作業機昇降機構23が着脱可能に取り付けられている。この場合、対地作業機は、一対の左右ロワーリンク25及びトップリンク26からなる3点リンク機構24を介して、ミッションケース11の後部に連結される。対地作業機昇降機構23における左右のリフトアーム27がリフトリンク28を介して左右のロワーリンク25に連結される。対地作業機昇降機構23による左右のリフトアーム27の上下回動によって、対地作業機が昇降動するように構成されている。ミッションケース11の後側面には、対地作業機にPTO駆動力を伝達するためのPTO軸29が後ろ向きに突設されている。
【0022】
次に、
図1及び
図2を参照しながら、操縦座席17周辺における各種操作部材の配置構造について説明する。
図1及び
図2に示すように、操縦座席17の前方に操縦コラム15が配置されており、操縦コラム15の上面側に操向操作用の操縦ハンドル16が配置されている。操縦コラム15の上面側には操作表示盤31が設けられている。操縦コラム15の一側方には、走行機体2の進行方向を前進と後進とに切換操作するための前後進切換レバー32と、主クラッチ9を切り作動させるためのクラッチペダル33とが配置されている。操縦コラム15の他側方には、エンジン5の回転速度を調節するアクセルレバー34と、走行機体2を制動操作する左右一対のブレーキペダル35とが設けられている。操縦コラム15側から見てブレーキペダル35より更に外側には、アクセルペダル36が配置されている。アクセルペダル36は、アクセルレバー34にて設定されたエンジン5の回転速度を下限として、これ以上の範囲にて回転速度を増減速させるものである。なお、図示は省略するが、操縦コラム15の背面側には、ブレーキペダル33を踏み込み位置に保持する駐車ブレーキレバーが設けられている。
【0023】
操縦座席17の左右前部にはサイドコラム37が設けられている。一方のサイドコラム37上には、ミッションケース11内にある副変速機構53(
図3参照)の変速出力を所定範囲に設定保持する副変速レバー38と、走行機体2の駆動方式を二駆と四駆とに切換操作するための駆動切換レバー39と、対地作業機へのPTO駆動力を変速操作するためのPTO変速レバー40とが配置されている。
図2から明らかなように、駆動切換レバー39及びPTO変速レバー40は、操縦座席17の下方で且つ操縦座席17より左右外側に、前向きに突出する姿勢で配置されている。
【0024】
他方のサイドコラム37上には、走行機体2の車速を変更操作するための主変速レバー41と、対地作業機の高さ位置を手動で変更調節するポジションレバー42と、対地作業機昇降制御のオンオフ切換や制御感度設定を行うドラフトレバー43とが配置されている。他方のサイドコラム37寄りにあるリヤカウル20には、ミッションケース17の上部後部に設けられた油圧外部取出バルブ(図示省略)を切換操作するための複数の油圧操作レバー44が配置されている。油圧外部取出バルブは、トラクタ1に後付けされるフロントローダといった別の作業機に作動油を供給制御するものである。他方のサイドコラム37の前方には、左右両後車輪4の差動駆動をオンオフするためのデフロックペダル45が配置されている。なお、実施形態の左右サイドコラム37は、それぞれ対応するリヤカウル20と一体形成されている。
【0025】
次に、
図3を参照しながら、トラクタ1の動力伝達系統について説明する。前述の通り、クラッチハウジング10には動力継断用のメインクラッチ9が内蔵されている。ミッションケース11内は、エンジン5の動力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構51と、前後進切換機構51を経由した回転動力を変速する機械式の主変速機構52及び副変速機構53と、エンジン5の動力を適宜変速してPTO軸29に伝達するPTO変速機構54と、副変速機構53を経由した回転動力を左右の後車輪4に伝達する差動ギヤ機構55とが配置されている。ミッションケース11の下面側に設けられたカバーケース56内には、走行機体2の駆動方式を二駆と四駆とに切り換える二駆四駆切換機構57が配置されている。
【0026】
エンジン5から後ろ向きに突出したエンジン出力軸58には、フライホイル59が直結するように取り付けられている。フライホイル59とこれから後ろ向きに延びる主動軸60は、クラッチハウジング10内の主クラッチ9を介して連結される。また、フライホイル59と主動軸60に回転可能に被嵌された入力筒軸61とに関しても、同様に主クラッチ9を介して連結される。
【0027】
エンジン5の動力は、エンジン出力軸58から主動軸60を経由したPTO駆動系統と、エンジン出力軸58から入力筒軸61を経由した走行系統との2系統に分岐して伝達される。主動軸60に伝達された回転動力はPTO変速機構54に伝達され、PTO変速機構54にて適宜変速されたPTO駆動力がPTO軸29に伝達される。また、入力筒軸61に伝達された回転動力は、前後進切換機構51を経由したのち、主変速機構52及び副変速機構53にて適宜変速される。該変速動力が差動ギヤ機構55を介して左右の後車輪4に伝達される。主変速機構52及び副変速機構53による変速動力は、二駆四駆切換機構57及び前車軸ケース7内の差動ギヤ機構62を介して左右の前車輪3にも伝達される。
【0028】
前後進切換レバー32の操作にて前後進切換クラッチ63を入力筒軸61に沿ってスライド移動させることにより、エンジン5から主変速機構52に向かう回転動力を正転方向に伝達するか逆転方向に伝達するかが選択される。主変速機構52は主変速レバー41の操作によって複数段(実施形態では4段)に切換変速するように構成されている。副変速機構53は副変速レバー38の操作によって高低2段に切換変速するように構成されている。駆動切換レバー39の操作によって、二駆四駆切換機構57を構成する前車輪推進軸64に沿って駆動切換クラッチ65をスライド移動させることにより、副変速機構53を経由した回転動力を前車輪3に伝達するか否かが選択される。更に、PTO変速レバー40の操作によって、PTO軸29に沿ってPTO変速クラッチ66をスライド移動させることにより、PTO駆動力が高低2段に切換変速される。
【0029】
次に、
図4〜
図6を参照しながら、左右両前車輪3の操舵構造について説明する。
図4及び
図5に示すように、エンジンフレーム8の前側には支持板体71が溶接にて固着されている。支持板体71には、センターピン72を介して前車軸ケース7の左右中間部が上下回動可能に取り付けられている。従って、前車軸ケース7は、左右中間部のセンターピン72回りに上下回動可能な状態で、走行機体2の下面前部に位置している。左右両前車輪3の接地圧に差が生じた場合は、前車軸ケース7がセンターピン72回りに上下回動して、左右前車輪3が互いに反対方向に昇降する。その結果、左右両前車輪3の接地圧が略等しく維持されることになる。
【0030】
前車軸ケース7は左右横長で中空状の形態になっている。前車軸ケース7の内部には前車輪用の差動ギヤ機構62(
図3参照)が設けられている。前車軸ケース7の左右両端側にはそれぞれギヤケース73が固定されている。ギヤケース73には、内部のキングピン74(
図3参照)回りに回動可能に支持されたギヤボックス75が連結されている。ギヤボックス75の上部にはナックルアーム76が固定されている。ギヤボックス75には車軸ケース77が固定されている。車軸ケース77には前車輪3を回転させる前車軸78(
図3参照)が左右外向きに突設されている。前車輪3は、車軸ケース77から突出した前車軸78に取り外し可能に取り付けられる。
【0031】
前車軸ケース7内にある差動ギヤ機構62は、キングピン74の上端側に動力伝達可能に連結されている。キングピン74の下端側は車軸ケース77内の前車軸78に動力伝達可能に連結されている。キングピン74の上部は軸受を介してギヤケース73に軸支され、下部は軸受を介してギヤボックス75に軸支されている。左ナックルアーム76の前端側と右ナックルアーム76の前端側とは、左右横長の伝達ロッド79を介して連動連結されている。左ナックルアーム76の回動によって左ギヤボックス75、左車軸ケース77及び左前車輪78が回動する。伝達ロッド79の存在によって左ナックルアーム76の回動に連動して、右ナックルアーム76も回動して右ギヤボックス75、右車軸ケース77及び右前車輪78を回動させる。その結果、左右両前車輪3が左右に操舵される。
【0032】
前車軸ケース7のナックルアーム76(実施形態では左側)は、電動モータ84を有する電動操舵機構80を介して、操縦コラム15上面側の操縦ハンドル16に連動連結されている。この場合、操縦ハンドル16の下部に、縦長のハンドル支軸81の上端側が固定されている。ハンドル支軸81の下端側は、自在継手を介して連結軸82の上端側に連結されている。そして、連結軸82の下端側が電動操舵機構80に連結されている。
【0033】
電動操舵機構80は、操縦ハンドル16の回動操作を左右両前車輪3の左右操舵運動(後述するラック88の前後往復動)に変換するものであり、前後長手の操舵ギヤケース83と、左右両前車輪3の操舵力を補助する電動モータ84と、操縦ハンドル16の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ85とを有している。操舵ギヤケース83から上向きに突出したステアリング軸86の上端側が自在継手を介して連結軸82の下端側に連結されている。
図6(a)(b)に示すように、ステアリング軸86のうち操舵ギヤケース83内の部分にはピニオンギヤ87が固着されている。ピニオンギヤ87は、操舵ギヤケース83内に前後往復動可能に配置されたラック88と噛み合っている。
【0034】
操舵ギヤケース83の長手中途部に、電動モータ84と操舵トルクセンサ85とが設けられている。
図6(a)(b)に示すように、電動モータ84の出力軸に固着されたモータ出力ギヤ90は、操舵ギヤケース83内において、ステアリング軸86のうちピニオンギヤ87よりも下方に固着された補助ギヤ89と噛み合っている。電動モータ84及び操舵トルクセンサ85は、後述する制御装置100に電気的に接続されている。制御装置100は、操舵トルクセンサ85にて検出された操舵トルク、すなわち、操縦ハンドル16の回動操作にてステアリング軸86に加わる操舵トルクに基づき、電動モータ84の出力を増減させる。電動モータ84の出力増減によって、左右両前車輪3の操舵力が補助される。
【0035】
図6(a)に示すように、操舵ギヤケース83内において、ステアリング軸86の下端には制動ディスク96が固定されている。制動ディスク96には、制動アクチュエータ98(
図7参照)の作動によって制動パッド97を押圧するように構成されている。制動ディスク96への制動パッド97の押圧によって、ステアリング軸86の回転にブレーキがかかることになる。
【0036】
図4〜
図6に示すように、ラック88の前端側は、ラックリンク91を介して、前車軸ケース7と操舵ギヤケース83との間に配置されたベルクランク92の一方の先端部に連結されている。ベルクランク92は平面視で略L字状に形成されている。ベルクランク92のL字コーナ部が、エンジンフレーム8の前側のうち支持板体71の後方に固定されたクランク支持板93に、縦向きの回動軸94を介して回動可能に軸支されている。前述の通り、ベルクランク92の一方の先端部が、ラックリンク91を介してラック88の前端側に連結されている。ベルクランク92の他方の先端部は、連動杆95を介して左ナックルアーム76の後端部に連結されている。
【0037】
操縦座席17に着座したオペレータが操縦ハンドル16を回動操作すると、操縦ハンドル9の操舵角(回動操作量)に応じて、ハンドル支軸81、連結軸82、ステアリング軸86ひいてはピニオンギヤ87が回転する。このとき、操舵トルクセンサ85がステアリング軸86に加わる操舵トルクを検出して制御装置100に伝達する。制御装置100は操舵トルクに基づき、補助ギヤ89経由でピニオンギヤ87の回転を補助するように、電動モータ84を回転駆動させる。このため、オペレータは軽い力で操縦ハンドル16を操作できる。また、電動モータ84はエンジン5の動力を直接利用しないため、対地作業機への動力供給にロスが生じないという利点もある。
【0038】
ピニオンギヤ87が回転すると、ピニオンギヤ42と噛み合ったラック88が前後方向に移動する。当該ラック88の前後移動によって、ラックリンク91、ベルクランク92及び連動杆95を介して左ナックルアーム76が回動して、左ギヤボックス75、左車軸ケース77及び左前車輪78を回動させる。そして、伝達ロッド79の存在によって左ナックルアーム76の回動に連動して、右ナックルアーム76も回動して右ギヤボックス75、右車軸ケース77及び右前車輪78を回動させる。その結果、左右両前車輪3が左右に操舵され、トラクタ1が操向操作される。
【0039】
図4に示すように実施形態では、走行機体2の下面前部に設けられた前車軸ケース7の下面より高い高さ位置に、電動操舵機構80が配置されている。換言すると、電動操舵機構80の構成要素、例えば操舵ギヤケース83、電動モータ84、操舵トルクセンサ85、ラックリンク91、ベルクランク92及び連動杆95等の取付高さ位置は、前車軸ケース7の下面より高い高さ位置に設定されている。このため、電動操舵機構80の構成要素は、正面からの障害物に対して前車軸ケース7にて保護される。また、電動操舵機構80の構成要素は、地上からの高さを確保して配置される。従って、電動操舵機構80が障害物や地上と接触して故障及び破損するおそれを少なくできる。
【0040】
次に、
図7及び
図8を参照しながら、電動操舵機構80の操舵力補助制御を実行する構成について説明する。トラクタ1の走行機体2には、操舵力補助制御を実行する制御装置100が搭載されている。操舵力補助制御は、操縦ハンドル16に付与される操舵トルクに基づき電動モータ84の出力を増減させて、左右両前車輪3の操舵力を補助するというものである。
【0041】
実施形態の制御装置100は、各種演算処理を実行するCPU101のほか、制御プログラムやデータを記憶させるROM102、制御プログラムやデータを一時的に記憶するRAM103、タイマー機能としてのクロック、センサやアクチュエータ等との間でデータのやり取りをする入出力インターフェイス等を有している。制御装置100の入出力インターフェイスには、前述した操舵トルクセンサ85、走行機体2の前後方向の傾斜角(以下、前後傾斜角θという)を検出するピッチングセンサ104、副変速機構53の変速段を検出する副変速センサ105、電動モータ84に対するモータ制御部106、並びに、制動パッド97に対する制動アクチュエータ98等が電気的に接続されている。
【0042】
詳細な説明は省略するが、ピッチングセンサ104は、対地作業機の一例であるロータリ耕耘機の耕耘深さを調節する従来公知の耕耘深さ自動制御に用いられる振り子式のものである。実施形態のピッチングセンサ104は、例えば作業機用昇降機構23の上面で且つ操縦座席17の後方の箇所に配置される。実施形態の副変速センサ105は、副変速レバー38の操作位置から副変速機構53の変速段を検出するように構成されている。
【0043】
制御装置100のROM102には、操縦ハンドル16(より詳しくはステアリング軸86)に加わる操舵トルクTと電動モータ84の出力電流iとの関係を示すトルク−電流マップM(
図8参照)が予め記憶されている。当該マップMは実験等にて求められる。
図8(a)(b)では、操舵トルクTを横軸に、出力電流iを縦軸に採っている。
図8(a)に示すトルク−電流マップMでは、操舵トルクTの増大に応じて出力電流iを二次曲線的に増加させる。
図8(b)に示すトルク−電流マップMでは、操舵トルクTの増大に応じて出力電流iを直線的に増加させる。
図8(a)(b)のいずれのマップMを採用してもよい。
【0044】
例えば操縦ハンドル16の回動操作量が大きい旋回時は、左右両前車輪3ひいては操縦ハンドル16を軽い力で操作できるように、電動モータ84から大きい補助トルクを出力する。回動操作量が小さい直進時は、重めの回動操作フィーリングをオペレータに与えて直進安定性を得られるように、電動モータ84から小さい補助トルクを出力するか、電動モータ84からの出力をなくす。すなわち、トラクタ1の走行状態に適した補助トルクを電動モータ84から発生させる。
【0045】
なお、操縦ハンドル16を回動操作していないのに、ノイズや外乱等を操舵トルクセンサ85が操舵トルクTとして検出して電動モータ84の出力を増減させるのを防止するため、0(零)前後の操舵トルクTに対して不感帯を設けてもよい。
【0046】
次に、
図9のフローチャートを参照しながら、操舵力補助制御の第1例について説明する。なお、以下の説明においてフローチャートで示されるアルゴリズムは、制御装置100のROM102にプログラムとして記憶されており、RAM103に読み出されてからCPU101にて実行される。実施形態の制御装置100は、操舵力補助制御の一環として、操舵トルクTに基づく電動モータ84の出力増減だけでなく、操舵トルクセンサ85の故障時であっても、ピッチングセンサ104の検出結果に基づき、左右両前車輪3の操舵力を補助するように構成されている。
【0047】
この場合、制御装置100は、操舵力補助制御のスタートに続き、所定時間内に操舵トルクセンサ85から信号入力があるか否かを判別し(S01)、信号入力があれば(S01:YES)、当該操舵トルクセンサ85の検出値である操舵トルクTを読み込み(S02)、操舵トルクT及びトルク−電流マップMを用いて、電動モータ84に出力すべき出力電流iを演算する(S03)。そして、ステップS03で求めた出力電流iに基づき電動モータ84を回転駆動させ(S04)、左右両前車輪3の操舵力補助のための補助トルクをピニオンギヤ87の回転に付与する。
【0048】
ステップS01において信号入力がない場合は(S01:NO)、操舵トルクセンサ85に故障等の障害が発生したことを意味するので、次いで、ピッチングセンサ104の検出値である前後傾斜角θを読み込み(S05)、前後傾斜角θに基づき電動モータ84の出力を調節する(S06)。
【0049】
ここで、前後傾斜角θから走行機体2が降坂状態と判断された場合は、出力電流iを増大させて電動モータ84を回転駆動させ、補助トルクをピニオンギヤ87の回転に付与する。その結果、操縦ハンドル16の重い回動操作フィーリングが改善され、軽い力で操縦ハンドル16を操舵できることになる。
【0050】
逆に、前後傾斜角θから走行機体2が登坂状態と判断されれば、電動モータ84の出力を減少させるか0(零)にして(出力電流iを減少させるか0(零)にして)、更には制動ディスク96に制動パッド97を押圧することによって、ピニオンギヤ87の回転に抵抗を付与する。その結果、操縦ハンドル16の軽い回動操作フィーリングが改善され、操縦ハンドル16が重めの感触で操舵されることになる。操縦ハンドル16の切り過ぎによる急激な方向転換を防止できる。
【0051】
なお、前後傾斜角θに基づき設定される電動モータ84への出力電流iは、固定値でもよいし、前後傾斜角θに比例して変動する値でもよい。
【0052】
上記の説明並びに
図7〜
図9から明らかなように、エンジン5が搭載され且つ前後四輪3,4にて支持された走行機体2と、前記走行機体2に設けられた操縦ハンドル16と、電動モータ84を有する電動操舵機構80と、前記操縦ハンドル16の操舵トルクTを検出する操舵トルクセンサ85とを備えており、前記操舵トルクセンサ85の検出結果に基づき前記電動モータ84の出力を増減させ、前記電動操舵機構80を介して前記左右両前車輪3を操舵する農業用トラクタ1であって、前記走行機体2の前後方向の傾斜角θを検出するピッチングセンサ104を更に備えており、前記ピッチングセンサ104の検出結果に基づき前記電動モータ84の出力を調節可能に構成されているから、前記農業用トラクタ1に元々設けられている前記ピッチングセンサ104を有効利用して、前記操舵トルクセンサ85の代替機能を担わせることになる。従って、前記操舵トルクセンサ85について冗長性を持つ二重系に構成しなくても、コストの抑制を図りつつ前記二重系を構成した場合と同等に近い機能を発揮できる。
【0053】
特に
図9のフローチャートから明らかなように、前記操舵トルクセンサ85の検出結果に基づく前記電動モータ84の出力増減は、前記ピッチングセンサ104の検出結果に基づく前記電動モータ84の出力調節に優先して実行されるから、通常は前記操舵トルクセンサ85を用いた操舵力補助制御が行われ、例えば前記操舵トルクセンサ85に故障等の障害が生じた場合に、前記ピッチングセンサ104を用いた操舵力補助制御が行われることになる。従って、前記二重系を採用せずに構成簡素化およびコスト抑制を図ったものでありながら、操舵力補助制御の信頼性を向上できるのである。
【0054】
次に、
図10のフローチャートを参照しながら、操舵力補助制御の第2例について説明する。この場合の制御装置100は、操舵力補助制御の一環として、操舵トルクTに基づく電動モータ84の出力増減だけでなく、操舵トルクセンサ85の故障時であっても、副変速センサ105の検出結果に基づき、左右両前車輪3の操舵力を補助するように構成されている。
【0055】
この場合、制御装置100は、操舵力補助制御のスタートに続き、所定時間内に操舵トルクセンサ85から信号入力があるか否かを判別し(S11)、信号入力があれば(S11:YES)、当該操舵トルクセンサ85の検出値である操舵トルクTを読み込み(S12)、操舵トルクT及びトルク−電流マップMを用いて、電動モータ84に出力すべき出力電流iを演算する(S13)。そして、ステップS13で求めた出力電流iに基づき電動モータ84を回転駆動させ(S14)、左右両前車輪3の操舵力補助のための補助トルクをピニオンギヤ87の回転に付与する。
【0056】
ステップS11において信号入力がない場合は(S11:NO)、操舵トルクセンサ85に故障等の障害が発生したことを意味するので、次いで、副変速センサ105の検出値、すなわち副変速機構53が高速段側か低速段側かを読み込み(S15)、副変速センサ105の検出値に基づき電動モータ84の出力を調節する(S16)。
【0057】
ここで、副変速機構53が低速段側であると判断された場合は、圃場での農作業時のように比較的低速で走行していると解されるので、出力電流iを増大させて電動モータ84を回転駆動させ、補助トルクをピニオンギヤ87の回転に付与する。その結果、操縦ハンドル16の重い回動操作フィーリングが改善され、軽い力で操縦ハンドル16を操舵できることになる。
【0058】
逆に、副変速機構53が高速段側であると判断された場合は、電動モータ84の出力を減少させるか0(零)にして(出力電流iを減少させるか0(零)にして)、更には制動ディスク96に制動パッド97を押圧することによって、ピニオンギヤ87の回転に抵抗を付与する。その結果、操縦ハンドル16の軽い回動操作フィーリングが改善され、操縦ハンドル16が重めの感触で操舵されることになる。操縦ハンドル16の切り過ぎによる急激な方向転換を防止できる。
【0059】
なお、この場合も副変速センサ105の検出値に基づき設定される電動モータ84への出力電流iは、固定値でもよいし、例えば走行機体2の車速に比例して変動する値でもよい。
【0060】
上記の説明並びに
図7、
図8及び
図10から明らかなように、エンジン5が搭載され且つ前後四輪3,4にて支持された走行機体2と、前記走行機体2に設けられた操縦ハンドル16と、電動モータ84を有する電動操舵機構80と、前記操縦ハンドル16の操舵トルクTを検出する操舵トルクセンサ85とを備えており、前記操舵トルクセンサ85の検出結果に基づき前記電動モータ84の出力を増減させ、前記電動操舵機構80を介して前記左右両前車輪3を操舵する農業用トラクタ1であって、前記エンジン5からの回転動力を多段変速する副変速機構53と、前記副変速機構53の変速段を検出する副変速センサ105とを更に備えており、前記副変速センサ105の検出結果に基づき前記電動モータ84の出力を調節可能に構成されているから、前記農業用トラクタ1に元々設けられている前記副変速センサ105を有効利用して、前記操舵トルクセンサ85の代替機能を担わせることになる。従って、前記第1例の場合と同様に、前記操舵トルクセンサ85について冗長性を持つ二重系に構成しなくても、コストの抑制を図りつつ前記二重系を構成した場合と同等に近い機能を発揮できる。
【0061】
特に
図10のフローチャートから明らかなように、前記操舵トルクセンサ85の検出結果に基づく前記電動モータ84の出力増減は、前記副変速センサ105の検出結果に基づく前記電動モータ84の出力調節に優先して実行されるから、通常は前記操舵トルクセンサ85を用いた操舵力補助制御が行われ、例えば前記操舵トルクセンサ85に故障等の障害が生じた場合に、前記副変速センサ105を用いた操舵力補助制御が行われることになる。従って、この場合も前記第1例と同様に、前記二重系を採用せずに構成簡素化およびコスト抑制を図ったものでありながら、操舵力補助制御の信頼性を向上できるのである。
【0062】
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。ピッチングセンサ104や副変速センサ105を用いての操舵力補助制御は、操舵トルクセンサ85の障害発生時に実行するに限らず、例えば操舵トルクセンサ85とピッチングセンサ104、操舵トルクセンサ85と副変速センサ105、又は、操舵トルクセンサ85とピッチングセンサ104と副変速センサ105というように、各センサ85,104,105を組み合わせて操舵力補助制御を行うようにしてもよい。その他各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。