特許第5797540号(P5797540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797540
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】有機分子と作用物質との反応方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20151001BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20151001BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   G01N33/543 531
   G01N33/53 M
   G01N37/00 102
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-269550(P2011-269550)
(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公開番号】特開2013-120171(P2013-120171A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】592213730
【氏名又は名称】株式会社カケンジェネックス
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】特許業務法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志水 加代
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄一
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−357615(JP,A)
【文献】 特表2004−523749(JP,A)
【文献】 特開2004−191129(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/006320(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
G01N 33/53
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機メンブレン基板に複数の有機分子を固定化し、
ブロッキング処理を行った後、前記有機メンブレン基板を緩衝液で毛管飽和させ、
この後、先端に作用物質を採取保持させたスポットピンを、前記有機メンブレン基板に固定化した有機分子の位置に重ねて接触させ、
前記スポットピンの先端が接触する部位に前記有機メンブレン基板から緩衝液を滲みださせて液溜を生成させ、
前記状態で前記有機メンブレン基板に固定化した有機分子と、前記スポットピンにより重ねて接触させた作用物質と、を緩衝液中で局所的に反応せしめる
ことを特徴とする有機分子と作用物質との反応方法。
【請求項2】
前記有機メンブレン基板に複数の有機分子を固定化する工程は、
有機メンブレン基板に対し、スポットピンによる接触転写、又はキャピラリー又はディスペンサーノズルによる滴下或いは吸引の何れかの方法を単独又は組み合わせることにより、有機分子を添加して固定化するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の有機分子と作用物質との反応方法。
【請求項3】
前記有機メンブレン基板を緩衝液で毛管飽和させる工程は、
有機分子を固定化した有機メンブレン基板を保水した吸水素材の上に重ねた状態で、又は前記有機メンブレン基板に直接、緩衝液を供給して毛管飽和させるものである
ことを特徴とする請求項1に記載の有機分子と作用物質との反応方法。
【請求項4】
前記有機メンブレン基板を緩衝液で毛管飽和させる工程は、
有機分子を固定化した有機メンブレン基板の一部又は前記有機メンブレンと重ね合わせた吸水素材の一部を緩衝液中に浸漬するか、又は前記有機メンブレン基板及び前記有機メンブレン基板と重ね合わせた吸水素材、或いは前記有機メンブレン基板又は前記有機メンブレン基板と重ね合わせた吸水素材に緩衝液を滴下して有機メンブレン基板を毛管飽和させるものである
ことを特徴とする請求項1に記載の有機分子と作用物質との反応方法。
【請求項5】
前記吸水素材は、毛細管現象により緩衝液を吸収し、浸透し、拡散する繊維素材、又は多孔質素材からなるシート状に形成されたものである
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の有機分子と作用物質との反応方法。
【請求項6】
前記有機メンブレン基板を構成する有機メンブレンは、セルロース系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ジエン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアリーレン系ポリマーからなる群から選択されたものである
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の有機分子と作用物質との反応方法。
【請求項7】
前記有機メンブレンは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はニトロセルロース或いはナイロンである
ことを特徴とする請求項6に記載の有機分子と作用物質との反応方法。
【請求項8】
前記有機分子又は作用物質が、生体成分や天然物、アレルギー成分、核酸、アプタマー、タンパク質、抗体、オリゴペプチド、ペプチド核酸、糖鎖、糖タンパク質からなる群の内、少なくとも一つである
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機分子と作用物質との反応方法。
【請求項9】
前記ブロッキング処理は、人工合成ポリマー、正常血清、牛血清アルブミン、ゼラチン、カゼインからなる群の内、少なくとも一つをブロッキング剤として使用する
ことを特徴とする請求項1に記載の有機分子と作用物質との反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップとして固相基板の一部に固定化した生体成分や天然物、アレルギー成分、核酸、アプタマー、タンパク質、抗体、オリゴペプチド、ペプチド核酸、糖鎖、糖タンパク質といった有機分子と相互作用する作用物質を検出する際に有利な有機分子と作用物質との反応方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトをはじめとした様々な生物種においてゲノム解析が進展し、膨大な量の塩基配列の蓄積が世界的規模でなされている。ゲノム情報の充実にともない、ゲノム情報の解析はいわゆるポストゲノミクスあるいはプロテオーム解析と称して注目を集めている。
【0003】
プロテオーム解析には、二次元電気泳動法とアミノ酸配列解析・質量分析法とを組み合わせた手法が多用されているが、かかる方法では、未知の微量成分を直接サンプルとすることはできない。また、目的とするタンパク質に対する抗体を入手することは、その同定と機能解析において重要な位置を占め、抗体ライブラリーを用いたスクリーニング方法についても既に数多く報告されている(特許文献1)。
【0004】
機能未知の有機分子に特異的に相互作用する作用物質を見出すスクリーニングデバイスとして、バイオチップの技術開発が進められている。バイオチップとは、核酸、タンパク質、抗体、糖鎖などの有機分子を固相基板の一部に固定化し、固定化した有機分子と作用物質とを接触させ、生じた特異的な相互作用を検出する生化学的な手法の中で、特に大量かつ同時平行的に行うことによりハイスループットな相互作用の検出、解析を可能としたものをいう。DNAマイクロアレイやプロテインチップなど既に多くの製品が市販されている。
【0005】
しかしながらプロテインチップにおいては、大多数のタンパク質は水溶液中でしか活性を有せず、DNAやRNAで一般に行なわれているようなガラス基板上へのスポット固定だとタンパク質をスポットした瞬間に乾燥し、反応性や高次構造(立体構造)を損なうことになる(特許文献2)。このため、生物学的活性を保ったままタンパク質を基板表面上に固定化することや非特異的な吸着を無くすと言った点が難しい。
【0006】
また一般的なバイオチップにおいては、ミクロの技術を使って基板上に高密度に整列固定化された有機分子に対して直接あるいは間接的に標識化合物等を付加した作用物質を接触させ、相互作用を解析する。通常は複数種類の固定化有機分子に対し一種類の作用物質を接触させるが、作用物質の組成等が異なる場合には、基板上を区切るか、もしくは密閉されたチャンバーごとに組成を変更して検出を行うこととなる。このため、基板上に固定化させる有機分子及び、これと相互作用する作用物質の組み合わせや種類、規模は、基板の数量、カバーグラスやフレーム等の大きさ、形状といった仕様により制限を受けることとなり、こういった仕様を変更する際にはコスト低減の面でも制約があった(特許文献3)。
【0007】
加えて従来より、生体から採取した被験試料を供給して、固定化されたタンパク質と反応する成分が被験試料中に存在するかどうかを検査することができる反応アレイが使用されており、こうした反応アレイにおいては、ひとつの基板上において多検体を同時に検査することが要望されている。このためには、個々の検体に由来する反応液を供給して反応させるための独立した反応単位を基板上に多数個備える必要がある。
【0008】
作用物質は、有機メンブレン上において、有機分子を固定化した箇所を除く範囲への特異的相互作用に基づかない非特異的結合事象を生じ、これによるバックグラウンドシグナルはアッセイシグナルの検出感度低下を引き起こす。仮に独立した反応単位として有機分子を基板上に固定化した箇所に、スポットピン等を用いて作用物質を添加し、有機分子と作用物質とを局所的に反応させることを試みたとしても、局所的に添加される作用物質の量は微量であり、緩衝液中での相互作用は乾燥により妨げられ、かつその検出は困難となる(特許文献4)。これは、有機分子と作用物質の反応に十分な時間が必要な場合、その反応時間中、十分な緩衝液が供給されないことに起因する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−174635号公報
【特許文献2】特開2004−271540号公報
【特許文献3】特開2007−132866号公報
【特許文献4】特開2005−030928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、同一基板上における複数の有機分子と複数の作用物質の相互作用を、水溶液中でのそれぞれ独立した反応単位とすることを可能とし、これにより、複数の有機分子と複数の作用物質の組み合わせや種類を自由に変更することができないといった制限を解決し、また同時に、有機分子を固定化した箇所を除く範囲への非特異的結合事象に起因する検出感度の低下を解決することで、安価に実現することのできるスクリーニング方法としての、有機分子と作用物質の相互作用を検出する反応方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者等は、有機分子を有機メンブレン上に固定化した箇所に、スポットピンにより作用物質を添加して有機分子と作用物質とを緩衝液中で局所的に反応させることで、独立した反応単位とすることにより、異なる基板を用いるか、同一基板上においても、区切られ、もしくは密閉された空間ごとでなければ有機分子と作用物質の組み合わせや種類を変更することができないといった制限を受けることなく、かつ作用物質が有機分子を固定化した箇所以外の範囲に接触することを抑えることによりバックグラウンドシグナルを低減する方法を見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明は、有機メンブレン基板に複数の有機分子を固定化し、ブロッキング処理を行った後、前記有機メンブレン基板を緩衝液で毛管飽和させ、この後、先端に作用物質を採取保持させたスポットピンを、前記有機メンブレン基板に固定化した有機分子の位置に重ねて接触させ、前記スポットピンの先端が接触する部位に前記有機メンブレン基板から緩衝液を滲みださせて液溜を生成させ、前記状態で前記有機メンブレン基板に固定化した有機分子と、前記スポットピンにより重ねて接触させた作用物質と、を緩衝液中で局所的に反応せしめることを特徴とする有機分子と作用物質との反応方法(以下、「反応方法」という)である。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る反応方法において、有機メンブレン基板に複数の有機分子を固定化する工程は、有機メンブレン基板に対し、スポットピンによる接触転写、又はキャピラリー又はディスペンサーノズルによる滴下或いは吸引の何れかの方法を単独又は組み合わせることにより、有機分子を添加して固定化することを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る反応方法において、有機メンブレン基板を緩衝液で毛管飽和させる工程は、有機分子を固定化した有機メンブレンを保水した吸水素材の上に重ねた状態で、もしくは有機メンブレンに直接緩衝液を供給し、毛管飽和させることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る反応方法において、有機メンブレン基板を緩衝液で毛管飽和させる工程は、有機分子を固定化した有機メンブレン基板の一部又は前記有機メンブレンと重ね合わせた吸水素材の一部を緩衝液中に浸漬するか、又は前記有機メンブレン基板及び前記有機メンブレン基板と重ね合わせた吸水素材、或いは前記有機メンブレン基板又は前記有機メンブレン基板と重ね合わせた吸水素材に緩衝液を滴下して有機メンブレン基板を毛管飽和させるものであることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項3又は4の反応方法において、吸水素材は、毛細管現象により緩衝液を吸収し、浸透し、拡散する繊維素材、又は多孔質材からなるシート状であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項1〜4の何れかの反応方法において、有機メンブレン基板を構成する有機メンブレンは、セルロース系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ジエン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアリーレン系ポリマーからなる群から選択されたものであることを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る発明は、請求項6の反応方法において、有機メンブレンは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はニトロセルロース或いはナイロンであることを特徴とする。
【0019】
請求項8に係る発明は、請求項1又は2の反応方法において、有機分子又は作用物質が、生体成分や天然物、アレルギー成分、核酸、アプタマー、タンパク質、抗体、オリゴペプチド、ペプチド核酸、糖鎖、糖タンパク質からなる群の内、少なくとも一つであることを特徴とする。
【0020】
請求項9に係る発明は、請求項1の反応方法において、ブロッキング処理は、人工合成ポリマー、正常血清、牛血清アルブミン、ゼラチン、カゼインからなる群の内、少なくとも一つをブロッキング剤として使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、同一基板上における複数の有機分子と複数の作用物質の相互作用を、水溶液中でのそれぞれ独立した反応単位とすることを可能とし、これにより、複数の有機分子と複数の作用物質の組み合わせや種類を自由に変更することができないといった制限を解決し、また同時に、有機分子を固定化した箇所を除く範囲への非特異的結合事象に起因する検出感度の低下を解決することで、安価に実現することのできるスクリーニング方法としての、有機分子と作用物質の相互作用を検出する反応方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】有機分子と作用物質とを緩衝液中で局所的に反応させる際に有機分子の周囲に液溜を形成した状態を説明する図である。
図2】PVDFメンブレンに固定化した有機分子としてのHSAの濃度(μg/mL)分布と化学発光検出を行って得られた画像及び化学発光検出を行って得られた数値を表したグラフを示す。
図3】PVDFメンブレンに固定化した有機分子としてのヒト血清と、肺がんに対する3種類の単クローン抗体との抗原抗体反応を化学発光により検出した画像である。
図4図3の画像から取得した数値を表したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る有機メンブレンに固定化された複数の有機分子の夫々に対し、作用物質を重ねて反応させる方法について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の説明にのみ限定されるものではなく、適当な改変形態が本発明に含まれ、かかる改変は本願特許請求の範囲に包含される。
【0024】
本発明に係る反応方法は、複数の有機分子を固定化した有機メンブレン基板に対し、作用物質を保持したスポットピンを個々の有機分子に対向させ、各スポットピンによって有機メンブレン基板を押圧することで、該有機メンブレン基板に含まれた緩衝液を浸み出させて、或いは有機メンブレン基板の裏側に重ねて設置された吸水素材に含まれた緩衝液を有機メンブレン基板を介して浸み出させて、有機分子の周囲に緩衝液溜まりを形成すると共に保持した作用物質を有機分子に重ねることで、有機分子を乾燥させることなく緩衝液中で作用物質と反応させるものである。
【0025】
本発明において、有機メンブレン基板に固定化された複数の有機分子を全て同一の種類とすることが可能であり、また異なる複数の種類とすることも可能である。同様に、固定化された有機分子に反応させる作用物質も、1種類又は複数種類とすることが可能である。このように、固定化された有機分子の種類と、反応させる作用物質の種類を適宜選択することによって、同時に多数のサンプルの反応処理を実現できるという効果を発揮することが可能である。
【0026】
(有機メンブレン基板への有機分子の固定化)
上記の如く、本発明は、有機メンブレン基板に固定化した有機分子と作用物質との反応方法であり、有機分子と作用物質との相互作用を検出する方法として採用して有利である。
【0027】
本発明において、有機メンブレン基板に対する有機分子の固定化を如何なる方法で行うかは限定するものではない。例えば、有機メンブレン基板に対し、スポットピンによる接触転写、又はキャピラリーやディスペンサーノズルによる滴下或いは吸引のいずれかの方法を単独で、或いは組み合わせることにより、有機分子を添加して固定化することが可能である。特に、多数の物質を同時に扱える方法であることがより望ましい。
【0028】
特に、有機メンブレン基板に対して有機分子を固定化する際に、繊維素材又は多孔質素材からなる吸水素材の上に有機メンブレン基板を重ねると共に複数のスポットピンを用い、各スポットピンに有機分子を保持させた状態で、有機メンブレン基板に接触させることで、有機分子を転写し、かつ固定化することが好ましい。
【0029】
有機メンブレン基板を構成する有機メンブレンとしては、例えばポアサイズが0.5μm以下の有機ポリマーのメンブレンが好適なものとして考慮される。
【0030】
上記の如き有機メンブレンとして、例えば、セルロース系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ジエン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアリーレン系ポリマーからなる群から選択されたものを用いることが可能である。より具体的には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、又はニトロセルロース、或いはナイロンを好適なものとして採用することが可能である。
【0031】
有機メンブレン基板としてPVDFメンブレンを用いる場合には、あらかじめ親水化処理を行うことが必要である。また、有機メンブレン基板を緩衝液により毛管飽和させたとき、該有機メンブレン基板の表面に水滴が生成したような場合、この水滴を除去しておくことが好ましい。この場合、有機メンブレン基板を緩衝液により毛管飽和させた濾紙上に重ね、該有機メンブレン基板表面の水滴が濾紙に吸収されるまで、濾紙から緩衝液を除去することが望ましい。
【0032】
このように、濾紙から緩衝液を除去することによって、濾紙と有機メンブレン基板を互いに密着させることが可能である。また、濾紙から緩衝液を除去することは、スポットピンから有機メンブレン基板への有機分子の移行を毛細管現象により効率化する点においても有効である。
【0033】
吸水素材は有機分子と作用物質とを反応させる際に必要な液溜を生成させ、かつ有機メンブレン基板の乾燥を防ぐために用いられる。このような機能を持つ吸水素材としては、濾紙や親水性メンブレン或いは親水性ポリウレタンフォーム等の毛細管現象により液体を吸収する繊維素材や多孔質素材を選択的に用いることが可能であり、特に、濾紙を用いることが好ましい。
【0034】
吸水素材として濾紙を採用した場合、該濾紙から緩衝液を除去する際には、例えば、乾いた紙や布、不織布、親水性ポリウレタンフォーム等の繊維素材や多孔質素材を濾紙の一部に接触させ浸透除去させるか、或いは吸引により強制的に除去するか、のいずれかが有効である。
【0035】
毛細管現象により有機分子を有機メンブレン基板に転写するには、スポットピンに採液された有機分子が有機メンブレン基板に転写されるまでの間、スポットピンを有機メンブレン基板の表面に接触させ続けることが望ましい。この際、より多くの有機分子を有機メンブレン基板に転写するためには、スポットピンによる有機分子の採液と採液された有機分子の有機メンブレン基板への転写を複数回行うことが有効である。
【0036】
有機分子を有機メンブレン基板に転写するスポットピンの仕様は特に限定するものではない。しかし、有機メンブレン基板に固定化する有機分子の密度(スポット密度)、及び1回当りの転写量を大きくし得るものであることが好ましい。このため、スポットピンの先端には有機分子を保持するための溝を形成しておくことが好ましい。前記溝としては、スポットピン先端面の中心に予め設定された深さで形成された円柱の溝やスリット、又は円柱の溝とこの溝を直線的に横断するスリット或いは十字状に横断するクロススリットとの組み合わせであることが好ましい。
【0037】
特に、有機分子と作用物質の反応を解析するには、有機メンブレン基板に固定化された有機分子の平面形状を円形とすることがのぞましく、そのためスポットピンの先端に形成する溝の形状は円柱であることが望ましい。そして、スポットピンの先端に円柱状の溝を形成した場合、採液時の空気の逃げ道を設けるために、溝を横断するスリットまたはクロススリットとの組み合わせが必須である。
【0038】
このようなスポットピンの形状としては、先端が円形で、かつ先端部に溝を有するものが望ましく、具体的には、先端外径が0.5mm〜2mmで、先端に直径が外径の50%〜90%で深さ0.5mm〜2mm程度の円柱状の溝を有し、かつ、この溝を横断してスリット或いはクロススリットを組み合わせて形成したものがあり、これらを選択的に用いることが可能である。
【0039】
上記の如き形状を持ったスポットピンは、有機メンブレン基板に固定化された有機分子に作用物質を重ねる際に用いることも可能である。しかし、前記スポットピンが採取保持した作用物質とスポットピン先端に残留した有機分子との混合を避けるために、有機分子を転写する際に用いるスポットピンと作用物質を重ねる際に用いるスポットピンを別のスポットピンとするか、或いは有機分子を転写する際に用いたスポットピンを充分に洗浄して作用物質を重ねる際に用いるスポットピンとして用いることが重要である。
【0040】
本発明において、スポットピンを有機メンブレン基板に接触させたとき、スポットピンの周囲には緩衝液の液溜が形成される。このため、スポットピンは、有機メンブレン基板の表面に液溜を形成するのに充分な窪みを形成し得るように押圧することが必要となる。スポットピンを有機メンブレン基板に対して押圧させる機構は特に限定するものではなく、ばねや空気圧等の付勢手段を採用することが可能であり、またスポットピンの自重を作用させることでも良い。
【0041】
有機メンブレン基板に固定化する有機分子としては、他の物質を補足する性質を持つことが好ましく、生体成分や天然物、アレルギー成分、核酸、アプタマー、タンパク質、抗体、オリゴペプチド、ペプチド核酸、糖鎖、糖タンパク質などを用いることができる。
【0042】
有機分子を有機メンブレン基板に固定化するのに好ましい量を決定するためには、検量線を用意するのが好ましい。たとえば有機分子をメンブレンに固定化した量と、有機分子と作用物質との特異的な相互作用の検出データとの関係を別途求めて検量線データとし、この検量線データに基づいてメンブレンに固定化する有機分子の濃度を求めることができる。
【0043】
有機メンブレン基板において有機分子が存在しない箇所への作用物質の非特異的結合事象が発生することを抑えるため、ブロッキング処理を行うことが有効である。
【0044】
ブロッキング処理としては、その形態は特に限定されずどのような物質を用いてもよい。一般に、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体などの人工合成ポリマー、ウサギ、ヤギ等の動物由来正常血清、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、カゼイン、界面活性剤などが多用されている。本発明においても、これらから選択されるいずれか1種類以上のブロッキング剤を用いるのが好ましく、人工合成ポリマーを用いることがより好ましい。
【0045】
(固定化された有機分子と、作用物質との局所的な反応)
有機メンブレン基板に固定化された有機分子と作用物質とを反応させる際の装置構成について図1を用いて説明し、合わせて、有機分子と作用物質との局所的な反応の進行状況について説明する。尚、同図に示す装置構成は、有機メンブレン基板に対し、有機分子を転写、固定化する際にも利用することが可能である。
【0046】
複数の有機分子8が固定化された有機メンブレン基板2は、緩衝液6により毛管飽和させた吸水素材3の上に重ねられている。特に、有機メンブレン基板2、吸水素材3は支持部材4の上面に載置されており、複数のスポットピン1が有機メンブレン基板2を押圧したとき、この押圧力を支持し得るように構成されている。
【0047】
複数の有機分子8が固定化された有機メンブレン基板2はブロッキング処理が行われ、その後、有機分子8に作用物質9が重ねられて両者の反応が進行する。
【0048】
即ち、先端に形成された溝1aに作用物質9を採取保持した複数のスポットピン1を有機メンブレン基板2に固定化した有機分子8に対向させて接近、押圧させることで、有機分子8に作用物質9を重ねると共に、有機分子8の周囲に有機メンブレン基板2の窪みを形成する。有機メンブレン基板2がスポットピン1によって部分的に押圧されることで、毛管飽和した緩衝液6が滲み出して窪みに溜まり、有機分子8の周囲に緩衝液6による液溜7が生成する。
【0049】
そして、上記状態で少なくとも5分以上、スポットピン1を有機メンブレン基板2に接触させ続けることにより、有機メンブレン基板2に固定化した有機分子8とスポットピン1により重ね打ちされた作用物質9とを、緩衝液6中で局所的に反応させることが可能となる。このとき、有機分子8の周囲に形成された窪みが乾燥することがないように、有機メンブレン基板2、或いは吸水素材3から緩衝液6が連続液に浸み出している。
【0050】
有機メンブレン基板2に作用物質9を添加する際には、該有機メンブレン基板2の表面の水分を除去しておくことが望ましい。具体的には、有機分子8を固定化しブロッキング処理を行った後の有機メンブレン基板2を、緩衝液6により毛管飽和させた吸水素材3の上に重ね、有機メンブレン基板2表面の水分が除去されるまで吸水素材3から緩衝液6を除去する。これにより吸水素材3と有機メンブレン基板2は密着し、かつ有機メンブレン基板2表面の水分が吸水素材3に吸収される。
【0051】
再び緩衝液6を吸水素材3に添加して毛管飽和させた後、先端に作用物質9を採取保持したスポットピン1を有機メンブレン基板2に接触させることで、有機分子8と作用物質9との反応を進行させることが好ましい。特に、作用物質9をより大量に有機メンブレン基板2に添加するためには、スポットピン1による作用物質9の採液と、有機メンブレン基板2への添加、を複数回行うことが有効である。
【0052】
上記の如くして有機メンブレン基板2の表面にある水分を吸水素材3に吸収したとき、これらの毛管飽和状態が損なわれる虞がある。このため、吸水素材3を緩衝液6により毛管飽和させるためには、有機メンブレン基板2或いは吸水素材3の一部に滴下装置5により緩衝液6を滴下するか、有機メンブレン基板2或いは吸水素材3の一部を緩衝液6に浸漬させて毛細管現象により有機メンブレン基板2全体に緩衝液6を行き渡らせることが有効である。
【0053】
滴下装置5は、緩衝液6を収容した容器5aと、容器5aの下部に設けたコック5bとを有しており、コック5bの開度を調整することによって滴下量を調整し得るように構成されている。従って、コック5bを適宜調整することで、有機メンブレン基板2、吸水素材3に対する緩衝液6の供給量を調整することが可能である。緩衝液6の供給量については、スポットピンが有機メンブレン基板に未接触の状態においては、有機メンブレン基板上に液溜を生成させない程度であることが望ましい。
【0054】
本発明では、スポットピン1を有機メンブレン基板2に押圧させて該有機メンブレン基板2に窪みを形成することで、有機分子8の周囲に作用物質9との反応に充分でかつ適切な液溜7を生成させている。このような液溜7を生成する際に必要なスポットピン1の押圧力は、有機メンブレン基板2の弾力性等の条件に応じて異なる。
【0055】
しかし、本件発明者の知見では、スポットピン1を先端外径が1mm、全長が50mm、重量が約1gとし、有機メンブレン基板2として厚さが200μm、ポア径が0.2μm、材質がポリフッ化ビニリデン(PVDF)としたとき、スポットピン1による有機メンブレン2に対する接地圧が、0.05g/mm2程度かそれよりも大きくすることによって、反応に充分でかつ適切な液溜を生成することが可能であった。
【0056】
有機メンブレン基板の有機分子を固定化した箇所に添加する作用物質の量及び、添加する回数を決定するためには検量線を用意するのが好ましい。そこで、作用物質をメンブレン上に添加する濃度及び回数と、有機分子と作用物質との特異的な相互作用の検出データとの関係を別途求めて検量線データとし、この検量線データに基づいて作用物質を添加する際の濃度及び、回数を求めることができる。
【0057】
有機分子と作用物質との相互作用の検出に際して、一般的には標識化合物等を作用物質に直接、あるいは間接的に付加する。この標識化合物として、例えば、これらに限定されないが、発光性マーカー(例えば、生物発光性マーカーもしくは化学発光性マーカー)、放射性マーカー、蛍光性マーカー(例えば、ランタン系列蛍光性材料)、又は酵素等を含む。有用な酵素には、これらに限定されないが、アルカリホスフォラーゼ(AP)、ヒドロペルオキシダーゼ(HRP)、又はβ-ガラクトシダーゼ等が含まれる。前記の酵素は基質と共に使用されうる。
【実施例1】
【0058】
以下、図2を参照しつつ第1実施例により本発明をさらに詳述する。しかし、これらの実施例は、例示のみを目的とするものであり、本発明の範囲を制限するために使用されるのではない。
【0059】
PVDFメンブレン基板に固定化した血清アルブミン(HSA)の検出
1.PVDFメンブレンへのHSAの固定化
PVDFメンブレン(ポア径0.2μm)を50mm×50mmに切断して有機メンブレン基板とし、吸水素材として濾紙を用いた。PVDFメンブレンの親水化を行い、濾紙重量の217%以上の緩衝液(TBS、以下同じ)を含ませた濾紙上に重ね、この後、濾紙重量の210%以下にまで緩衝液を除去した状態で図2(a)の通りにスポットピンによるヒト血清アルブミン(HSA)の添加を行った。HSAの全量がPVDFメンブレンに添加されるまで(約30秒)スポットピンはPVDFメンブレンに接触させ続けた。また、スポットピンによりHSAを添加する回数を増加させることで(本試験においては5回)、PVDFメンブレンに固定化される量を調節した。スポットピンが採液したHSA濃度は、(0、0.39、0.78、1.56、3.13、6.25、12.5、25)μg/mLであり、100μg/mL牛血清アルブミン(BSA),TBSに溶解している。BSAは、夾雑物を含む検出対象を想定して加えている。
【0060】
2.ブロッキング処理及び洗浄
濾紙を取り除き、HSAを固定化した後のPVDFメンブレンにブロッキング液(25mL)を添加し、60分振盪した(50rpm)。ブロッキング剤にはN101(日油株式会社製)を使用し、ブロッキング液の組成は1/5×N101,TBSとした。この後、TBST(TBS,0.1%Tween20)(50mL)による洗浄を行った。洗浄は1分、60rpmで、3回繰り返した。
【0061】
3.HSAと一次抗体との抗原抗体反応
新しく濾紙重量の217%以上のTBSを含む濾紙を準備し、ブロッキング処理及び洗浄を行った後のPVDFメンブレンを重ねた。この後、乾いた紙に濾紙が含むTBSを吸わせてPVDFメンブレン上の水滴を除くとともに、濾紙に含まれるTBS量を濾紙重量の210%以下とした。次いで、PVDFメンブレン上にHSAを固定化した箇所に一次抗体溶液を添加した。一次抗体溶液の組成は、0.001mg/mL Monoclonal Mouse Anti-HSA, 1/100×N101, TBSTとし、図2(a)の塗りつぶした箇所のみに、スポットピンにより添加した。一次抗体溶液の全量がPVDFメンブレンに添加されるまで(今回、約30秒)スポットピンがPVDFメンブレンに接触する状態を維持させ、またスポットピンにより一次抗体溶液を添加する回数を増加させることで(本試験においては5回)、PVDFメンブレンに添加される一次抗体溶液量を調節した。PVDFメンブレン上に添加された一次抗体のうち、未反応の抗体を除くため濾紙を取り除いた後、TBST(50mL)により洗浄した。洗浄は1分、60rpmで、3回繰り返した。
【0062】
4.一次抗体と二次抗体との反応
新しく濾紙重量の217%以上のTBSを含む濾紙を準備し、この濾紙上に一次抗体との反応後に洗浄を行ったPVDFメンブレンを重ねた。次に乾いた紙に濾紙のTBSを吸わせてPVDFメンブレン上の水滴を除き、濾紙部分から再びTBSを添加し、濾紙重量の217%以上のTBSを含ませた。その後、PVDFメンブレン上のHSA及び一次抗体をスポットピンにより添加した位置に二次抗体を添加した。二次抗体の組成は1.3μg/mL HRP-conjugated rabbit anti-mouse IgG, 2% normal swine serum (NSS), TBSTとし、スポットピンにより添加した。今回、スポットピン先端に採取保持した二次抗体溶液は15分PVDFメンブレン上に接触させ続けた。この二次抗体溶液の添加は二回繰り返した。PVDFメンブレン上に添加された二次抗体のうち、未反応の抗体を除くため濾紙を取り除いた後、TBST(50mL)により洗浄した。TBSTによる洗浄は3分、60rpmで、5回繰り返した。さらに、TBS(50mL)による洗浄を行った。TBSによる洗浄は1分、60rpmで、3回繰り返した。こののちTBS(50mL)に15分浸漬し、静置した。
【0063】
5.化学発光検出
二次抗体と反応後、洗浄を行ったPVDFメンブレンにHRP化学発光基質4mLを添加し、1分インキュベーションを行った。その後透明なフィルムに挟み、暗箱内にてCCDカメラにより撮影を行った。本実施例においては、露光時間を5分とした。検出された化学発光画像を図2(b)に、ピクセル数による数値データを図2(c)に示す。
【0064】
上記の検出結果により、有機メンブレン基板にHSAを固定化した位置に一次抗体をスポットピンにより添加した箇所において、固定化したHSA濃度に応じた化学発光強度の変動が観察された。また、HSAを固定化した箇所に一次抗体を添加しない場合は、HSAを固定化していない箇所と比較しても目立った発光は観察されなかった。このことから、スポットピンにより添加した一次抗体は、添加した位置に固定化したHSAと局所的に反応し、隣接した位置に固定化されているHSAとは反応していないと考えられる。また、固定化したHSA濃度に比例して化学発光強度の変動が観察されたことから、本発明は、抗原と反応していない二次抗体の乾燥による有機メンブレン基板への残留を防ぐことを可能とし、検量線の作成においても有効であることを示唆する。
【実施例2】
【0065】
以下、図3、4を参照しつつ本発明の第2実施例について説明する。
【0066】
PVDFメンブレンにヒト血清を固定化することによる抗体スクリーニング
1.PVDFメンブレンへのヒト血清の固定化
PVDFメンブレン(ポア径0.2μm)を100mm×85mmに切断して有機メンブレン基板とし、吸水素材として濾紙を用いた。PVDFメンブレンの親水化を行い、濾紙重量の217%以上の緩衝液を含ませた濾紙上に重ね、この後、濾紙重量の210%以下にまで緩衝液(TBS)を除去した状態でスポットピンによるヒト血清の添加を行った。図3右側に固定化したヒト血清の位置を示している。No.46及びNo.93はがん患者に由来する血清であり、CON-1、CON-2は健常者由来の血清である。コントロールには、TBSのみを5箇所、スポットピンにより添加した。スポットピンにより採液した溶液の全量がPVDFメンブレンに添加されるまで(今回、30秒)スポットピンをメンブレンに接触させ続けた。またスポットピンによりヒト血清を添加する回数を増加させることで(本試験においては5回)、PVDFメンブレンに固定化される量を調節している。スポットピンにより採液したヒト血清はTBSに溶解しており、稀釈率は、1/4、1/8、1/16とした。図3に示す画像の上部に各希釈率におけるスポット位置を示した。
【0067】
2.ブロッキング処理及び洗浄
濾紙を取り除いた後、ヒト血清を固定化したPVDFメンブレンにブロッキング液(50mL)を添加し、60分振盪した(40rpm)。ブロッキング剤にはN101(日油株式会社製)を使用し、ブロッキング液の組成は1/5×N101,TBSとした。この後、TBS,0.1%Tween20(TBST)による洗浄を行った。洗浄は1分、50rpmで、3回繰り返した。
【0068】
3.ヒト血清と一次抗体(肺がんに対する単クローン抗体)との抗原抗体反応
新しく濾紙重量の217%以上のTBSを含む濾紙を準備し、この濾紙上に、ブロッキング処理及び洗浄を行った後のメンブレンを重ねた。次に乾いた紙に濾紙のTBSを吸わせてPVDFメンブレン上の水滴を除き、濾紙部分から再びTBSを添加し、濾紙重量の217%以上のTBSを含ませた。その後、PVDFメンブレン上のヒト血清を固定化した位置にスポットピンにより一次抗体溶液を添加した。一次抗体溶液には、肺がんに対するマウスの腹水から精製した三種の単クローン抗体を用いた。図3に示す画像の左側には肺がんに対する単クローン抗体に付した番号を示す。「control」と記した箇所には上段左から右にかけてNo.8、No.20、No.881の番号を付した抗体に続き、下段にはTBSを二箇所連続して添加している。それぞれの抗体は1/100×N101,TBSTを溶媒として200倍に希釈した。この際、スポットピンにより採液した一次抗体溶液を今回は15分、PVDFメンブレン上に接触させ続けた。この一次抗体溶液の添加は二回繰り返した。PVDFメンブレン上に添加された一次抗体のうち、未反応の抗体を除くため濾紙を取り除いた後、TBST(50mL)により洗浄した。TBSTによる洗浄は1分、50rpmで、3回繰り返した。
【0069】
4.一次抗体と二次抗体との反応
新しく濾紙重量の217%以上のTBSを含む濾紙を準備し、この濾紙上に一次抗体との反応後に洗浄を行ったPVDFメンブレンを重ねた。次に乾いた紙に濾紙のTBSを吸わせてPVDFメンブレン上の水滴を除き、濾紙部分から再びTBSを添加し、濾紙重量の217%以上のTBSを含ませた。その後、PVDFメンブレン上のヒト血清及び一次抗体をスポットピンにより添加した位置に二次抗体を添加した。二次抗体の組成は1.3μg/mL HRP-conjugated rabbit anti-mouse IgG, 2% normal swine serum (NSS), TBSTとし、スポットピンにより添加した。尚、「control」と記した箇所のうち、下段左から二箇所目には二次抗体を添加せず、TBSを添加している。今回、スポットピン先端に採取保持した二次抗体溶液は15分、PVDFメンブレン上に接触させ続けた。この二次抗体溶液の添加は二回繰り返した。PVDFメンブレン上に添加された二次抗体のうち、未反応の抗体を除くため濾紙を取り除いた後、TBST(50mL)により洗浄した。TBSTによる洗浄は3分、50rpmで、5回繰り返した。さらにTBS(50mL)による洗浄を行った。TBSによる洗浄は1分、50rpmで、3回繰り返した。こののちTBS(100mL)に15分浸漬し、静置した。
【0070】
5.化学発光検出
二次抗体と反応後、洗浄を行ったPVDFメンブレンにHRP化学発光基質9mLを添加し、1分インキュベーションを行った。その後透明なフィルムに挟み、暗箱内にてCCDカメラにより撮影を行った。本実施例においては、露光時間を5分とした。検出された化学発光画像を図3に、数値データを図4に示す。化学発光画像の左側から右側の数値データを上から一行ずつ、同図のグラフに左側から順に表した。また、同図のグラフ横軸にはPVDFメンブレンに一次スポット資料として固定化したヒト血清を示し、縦軸は化学発光画像のピクセル数をシグナルとして、その中央値をバックグラウンドの中央値で割った数値を示している。
【0071】
上記の検出結果により、有機メンブレンに固定化したがん患者に由来する血清とスポットピンにより添加した肺がんに対する三種の単クローン抗体との抗原抗体反応が確認された。またこれらの抗体と健常者に由来する血清との反応は確認されなかった。本試験においては、各血清の稀釈率は、1/4、1/8、1/16であり、1/16に希釈した場合において最も高い発光が見られた。本試験においては1/16希釈の血清を有機メンブレンに固定化した際にがん患者に由来する血清を固定化した箇所において最も強い発光が見受けられた。より高い感度と精度が得られる血清濃度、単クローン抗体濃度を更に検討する余地はあるが、本発明が、肺がんに対する単クローン抗体のスクリーニング方法として有用であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、タンパク質に関連した研究用途のみならず、医療、検査、診断や創薬分野に利用して有利である。
【符号の説明】
【0073】
1 スポットピン
1a 溝
2 有機メンブレン基板
3 吸水素材
4 支持部材
5 滴下装置
5a 容器
5b コック
6 緩衝液
7 液溜
8 有機分子
9 作用物質
図1
図2
図3
図4