特許第5797564号(P5797564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニッタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5797564-酸性添着剤を用いたケミカルフィルタ 図000014
  • 特許5797564-酸性添着剤を用いたケミカルフィルタ 図000015
  • 特許5797564-酸性添着剤を用いたケミカルフィルタ 図000016
  • 特許5797564-酸性添着剤を用いたケミカルフィルタ 図000017
  • 特許5797564-酸性添着剤を用いたケミカルフィルタ 図000018
  • 特許5797564-酸性添着剤を用いたケミカルフィルタ 図000019
  • 特許5797564-酸性添着剤を用いたケミカルフィルタ 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797564
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】酸性添着剤を用いたケミカルフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20151001BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20151001BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20151001BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   B01J20/20 B
   B01D53/04
   B01J20/28 A
   H01L21/30 516F
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-553913(P2011-553913)
(86)(22)【出願日】2011年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2011053101
(87)【国際公開番号】WO2011099616
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2013年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-30525(P2010-30525)
(32)【優先日】2010年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】茂田 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 正芳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅也
【審査官】 近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−333226(JP,A)
【文献】 特開2009−295765(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/101669(WO,A1)
【文献】 中原諒 (大気社),ガス状汚染物質の除去 アンモニア除去用ケミカルフィルタの性能 性能試験と評価,クリーンテクノロジー,日本,1999年 1月,Vol.9 No.1,Page.43-45
【文献】 仁木隆志, 奥井敬造, 永田雅彦, 宮本浩志 (ニッタ),アパタイト被覆二酸化チタンを用いたガス状汚染物質の除去に関する研究,空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会予稿集,日本,2008年,Vol.26th,Page.171-173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00〜20/34
B01D 53/00〜53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体から構成される多数の吸着剤を備え、前記多数の吸着剤の少なくとも一部は、酸性物質の添着剤が添着されており、前記添着剤によって空気中に含まれるシラノール化合物を、二量化して前記吸着剤によって吸着させ、
前記添着剤の添着量は、前記多孔質体に対して、4〜9重量%であり、
前記多数の吸着剤が固着されたフィルタ基材を備え、
前記多孔質体は、活性炭であり、
前記添着剤は、ホスホン酸、硝酸塩、硫酸塩、及び有機酸から成る群から選択されたものを含むことを特徴とする、シラノール化合物除去用ケミカルフィルタ。
【請求項2】
前記吸着剤に前記添着剤が添着されている第1のフィルタ部と、前記吸着剤に前記添着剤が添着されていない第2のフィルタ部とを備え、これら第1及び第2のフィルタ部は空気が通過する方向に沿って上流側からこの順に配置されることを特徴とする請求項1に記載のケミカルフィルタ。
【請求項3】
前記添着剤は、ホスホン酸、硫酸水素カリウム、及び硫酸アルミニウムから成る群から選択されるものを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のケミカルフィルタ。
【請求項4】
前記フィルタ基材が発泡体であり、かつそのセル数が8〜13個/インチであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のケミカルフィルタ。
【請求項5】
前記吸着剤の平均粒径が0.55〜0.65mmであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のケミカルフィルタ。
【請求項6】
前記シラノール化合物は、トリメチルシラノールであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のケミカルフィルタ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のケミカルフィルタによって内部の空気が浄化されることを特徴とする露光装置。
【請求項8】
多孔質体から構成される多数の吸着剤を備えるとともに、前記多数の吸着剤の少なくとも一部が、酸性物質の添着剤が添着されているケミカルフィルタに、シラノール化合物を含む空気を通過させて、前記シラノール化合物を二量化し、前記吸着剤によって吸着させ、前記添着剤の添着量は、前記多孔質体に対して、4〜9重量%であり、前記多数の吸着剤が固着されたフィルタ基材を備え、前記フィルタ基材が発泡体であり、前記多孔質体は、活性炭であり、前記添着剤は、ホスホン酸、硝酸塩、硫酸塩、及び有機酸から成る群から選択されたものを含むことを特徴とする空気浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光工程で露光障害等を引き起こすおそれのあるシラノール化合物を空気中から除去するためのケミカルフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスの露光工程において、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)のようなジシラザン化合物が、フォトレジスト密着剤として使用されることが知られている。HMDSは、例えばガスとしてウエハ表面に吹き付けられることにより、ウエハ表面の水酸基をトリメチルシラノール基に置換させることで、ウエハ表面を疎水化させて、ウエハ表面のレジスト剤との密着性を向上させている。HMDSは加水分解してトリメチルシラノール(TMS)として露光装置内にガス状で浮遊することがあるが、浮遊したTMSはレンズ等に付着して曇りの原因となり、露光障害等を引き起こすおそれがある。
【0003】
露光工程が行われる露光装置のチャンバ内部には、通常、活性炭等の吸着剤を有するケミカルフィルタを通過した空気が供給される。TMS等のガス状不純物は、ケミカルフィルタによって除去されることにより、チャンバ内部は一定の清浄度に保持され、露光障害等が防止されるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2008−181968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、TMSは、低分子量物質であり、活性炭等では吸着し難くまた吸着してもすぐに脱離するため、一般的な吸着剤を有するケミカルフィルタでは、効率的に除去することは難しい。したがって、従来、TMSを必要量除去するために、ケミカルフィルタを厚くし若しくは多層にしたり、活性炭を多量に使用したりする必要があった。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、TMS等のシラノール化合物を効率的に除去可能なシラノール化合物除去用ケミカルフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシラノール化合物除去用ケミカルフィルタは、多孔質体から構成される多数の吸着剤を備え、多数の吸着剤の少なくとも一部は、酸性物質の添着剤が添着されており、添着剤によって空気中に含まれるシラノール化合物を、二量化して吸着剤によって吸着させることを特徴とする。
【0008】
上記添着剤は、無機酸または有機酸であって、例えばリン酸、ホスホン酸、硫酸、硝酸塩、硫酸塩、及び有機酸から成る群から選択されたものを含み、好ましくはホスホン酸、硫酸水素カリウム、及び硫酸アルミニウムから成る群から選択されるものを含む。一方、多孔質体は、好ましくは活性炭であって、また、添着剤の添着量は、多孔質体に対して、12重量%以下であることが好ましい。ケミカルフィルタは、例えば多数の吸着剤が固着されたフィルタ基材によって構成されるものである。上記シラノール化合物は、例えば、トリメチルシラノールである。
【0009】
フィルタ基材が発泡体であり、かつそのセル数が8〜13個/インチであることが好ましく、その場合、吸着剤の平均粒径が0.55〜0.65mmであるとより好ましい。
【0010】
本発明に係るケミカルフィルタは、好ましくは、吸着剤に上記添着剤が添着されている第1のフィルタ部と、吸着剤に上記添着剤が添着されていない第2のフィルタ部とを備える。これら第1及び第2のフィルタ部は空気が通過する方向に沿って上流側からこの順に配置される。
【0011】
本発明に係る露光装置は、上記したケミカルフィルタによって内部の空気が浄化されるものである。
【0012】
本発明に係る空気浄化方法は、多孔質体から構成される多数の吸着剤を備えるとともに、多数の吸着剤の少なくとも一部が、酸性物質の添着剤が添着されているケミカルフィルタに、シラノール化合物を含む空気を通過させて、シラノール化合物を二量化し、その二量体を吸着剤によって吸着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、シラノール化合物が、ケミカルフィルタから脱離しにくい二量体とされたうえで吸着剤に吸着されるので、ケミカルフィルタのシラノール化合物の除去効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のケミカルフィルタが適用される露光装置を示す概略図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るケミカルフィルタを示す拡大図である。
図3】第2の実施形態に係るケミカルフィルタを示す斜視図である。
図4】第2の実施形態の変形例に係るケミカルフィルタを示す斜視図である。
図5】通気実験1を実施するためのカラムを示す模式図である。
図6】通気実験2〜4を実施するためのカラムを示す模式図である。
図7】通気試験5で用いた試験装置を模式的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0015】
10 露光装置
15 内部ケミカルフィルタ
50 フィルタ基材
51 吸着剤
66 第1のケミカルフィルタ(第1のフィルタ部)
67 第2のケミカルフィルタ(第2のフィルタ部)
70A 上流部分(第1のフィルタ部)
70B 下流部分(第2のフィルタ部)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について図面を参照しつつさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るケミカルフィルタが適用される露光装置を示す概略図である。図1に示すように、露光装置10は、その外部チャンバ11内部に、内部チャンバ12と空気循環路13とが設けられた構造となっており、内部チャンバ12の内部には露光本体部20が配置される。空気循環路13は、内部チャンバ12内部の空気を循環させるための通路である。空気循環路13内部には、内部チャンバ12内部の空気の温度及び湿度を一定に保つための調温調湿装置14と、内部チャンバ12の空気を浄化するための内部ケミカルフィルタ15が設けられる。
【0017】
露光本体部20は、照明光学系21、レクチル22、投影光学系23、及びウエハステージ24を備え、ウエハステージ24上には、ウエハWが載置させられている。ウエハWは、下記一般式(1)で示されるジシラザン化合物であるフォトレジスト密着剤によって表面が疎水化された後、フォトレジスト剤が塗布されたものである。
【0018】
3SiNHSiR3 ・・・・(1)
式(1)において、Rはメチル、エチル等の炭素数1〜3のアルキル基であるが、Rのうち一部は水素原子、又はふっ素原子、塩素原子等のハロゲン原子であっても良い。当該ジシラザン化合物としては、上記式(1)においてRが全てメチルであるヘキサメチルジシラザン(HMDS)が一般的に使用される。
【0019】
照明光学系21は、リレーレンズ系、コンデンサーレンズ等を含み、外部チャンバ11の外部に設けられた光源26から出射されたレーザー光を、レクチル22に入射させる。レクチル22は所定のマスクパターンを有するフォトマスクであって、そのマスクパターンは投影光学系23を介して、ウエハステージ24上に配置されるウエハWに結像され、ウエハWに対して露光処理が行われる。
【0020】
空気循環路13内部等には不図示のファンが設けられ、外部チャンバ11内部の空気は、そのファンによって、一定経路Sに沿って循環させられる。具体的には、空気循環路13の空気は、内部供給口16を介して内部チャンバ12内部に供給され、内部チャンバ12内部を循環して、内部排出口17を介して空気循環路13に排出される。内部排出口17から排出された空気は、空気循環路13内部において、内部ケミカルフィルタ15及び調温調湿装置14を通って再び、内部供給口16を介して、内部チャンバ12内部に供給される。また、内部チャンバ12内部の空気は、一部が局部排出口18を介して外部に排気されるとともに、外部の空気は、外部供給口19を介して空気循環路13内部に供給される。
【0021】
調温調湿装置14は、内部供給口16の上流に配置され、空気循環路13から内部チャンバ12内部に供給される空気は、調温調湿装置14によって、一定湿度、一定温度に調整されたものである。また、外部供給口19の上流には、外部ケミカルフィルタ25が配置され、外部からの空気は、外部ケミカルフィルタ25によって、ガス状汚染物質が除去されたうえで、空気循環路13に供給される。
【0022】
図2に示すように、空気循環路13内部に設けられた内部ケミカルフィルタ15は、ポリウレタンフォーム等の発泡体やから構成される三次元網状骨格構造を有し、例えばマット形状を呈するフィルタ基材50に、無数の吸着剤51が公知のバインダによって固着されたものである。なお、フィルタ基材50としては、発泡体の代わりに有機繊維や無機繊維から構成される繊維状基材やハニカム構造体が使用されても良い。本実施形態における内部ケミカルフィルタ15は、以下の構成を有することにより、後述するシラノール化合物を効率的に除去することが可能なシラノール化合物除去用ケミカルフィルタである。
【0023】
内部ケミカルフィルタ15の吸着剤51は、破砕状、粉末状、粒子状(例えば、ビーズ状)等の多孔質体の表面に酸性物質の添着剤が添着されたものである。吸着剤51に使用される多孔質体としては、活性炭、シリカ、ゼオライト、アルミナ、多孔質ガラス等のガス状有機物を物理的吸着により吸着可能なものが挙げられるが、これらのうち活性炭が好ましい。活性炭は、後述するシラノール化合物やジシロキサン化合物を吸着しやすいからである。
【0024】
添着剤としては、無機酸及び有機酸から成る群から選択された酸性物質が使用される。これら無機酸、有機酸の例としては、硫酸銅(II)(CuSO)、硫酸鉄(II)(FeSO)、硫酸鉄(III)(Fe(SO)、硫酸アルミニウム(Al(SO)、硫酸水素カリウム(KHSO)で例示される硫酸塩、硝酸鉄(III)(Fe(NO)、硝酸銀(AgNO)、硝酸アルミニウム(Al(NO)、硝酸マンガン(II)(Mn(NO)で例示される硝酸塩、硫酸、リン酸、ホスホン酸等の無機酸、クエン酸等の有機酸が挙げられる。これらの中では、後述するシラノール化合物を二量化しやすくするために、ホスホン酸や硫酸アルミニウム、或いは硫酸水素金属塩である硫酸水素カリウムが使用されることが好ましく、硫酸水素カリウムが特に好ましい。
【0025】
吸着剤51は例えば、多孔質体を添着剤の水溶液に浸漬し、或いは多孔質体に添着剤の水溶液を噴霧等して、多孔質体表面に当該水溶液を付着させた後加熱乾燥することにより、吸着剤51に添着剤を担持させることにより得られるものである。上記添着剤の多孔質体への添着量は、多孔質体(100重量%)に対して、12重量%以下であることが好ましく、4〜9重量%が特に好ましい。添着剤の添着量を多くし過ぎると、多孔質体の表面が添着剤によって塞がれ、多孔質体のガス吸着能力が低下して、結果としてシラノール化合物の除去能力が低下し、また添着量を少なくし過ぎると、吸着剤51によってシラノール化合物を二量化する効率が低下するため、添着量は上記範囲であることが好ましい。
【0026】
フィルタ基材として使用されるポリウレタンフォーム等の発泡体は、特に限定されるわけではないが、そのセル数が8〜13個/インチであることが好ましい。セル数が8個/インチ未満になると、十分な量の活性炭が発泡体に付着しなくなり、シラノール化合物を二量化する効率や、吸着性能が低下する。また、セル数が14個/インチ以上になると、空隙が小さすぎて、二量化する効率が低くなったり、吸着剤が発泡体に添着しにくくなったりし、さらには圧力損失も大きくなるおそれもある。セル数は、二量化する効率や除去効率をより良好にするためには、10〜11個/インチであることが特に好ましい。
【0027】
また、多孔質体が活性炭等から成るビーズ状の多孔質体である場合には、上記セル数を7〜13個/インチとするとともに、多孔質体の平均粒径を0.55〜0.65mm程度とすることにより、吸着剤の付着量と空隙とのバランスが良好なものに保たれ、吸着性能と二量化率の両方を十分に高めることができる。なお、平均粒径とは、JIS K 1474−5.4準拠の乾式ふるい分け法により測定したものである。また、セル数とは、1インチあたりのセル数の数を目視により測定したものである。
【0028】
上記したように、ウエハWは、ジシラザン化合物によって構成されるフォトレジスト密着剤によって、疎水化処理が施され、また、チャンバ12内部は、一定の相対湿度に保たれる。そのため、内部チャンバ12内部には、ジシラザン化合物の加水分解反応(反応式(2)’参照)によって生成される、化学式(2)のシラノール化合物が浮遊しており、一定経路Sに沿って循環する空気には、シラノール化合物が含まれる。
SiNHSiR +2HO → 2RSiOH + NH ・・・(2)’
【0029】
3SiOH ・・・・(2)
シラノール化合物は、式(2)に示すように、SiOH基を1つだけ有するものである。式(2)において、Rはメチル、エチル等の炭素数1〜3のアルキル基であるが、Rのうち一部は水素原子、又はふっ素原子、塩素原子等のハロゲン原子であっても良い。当該シラノール化合物は、一般的には、HMDSの分解物であって、式(2)においてRが全てメチルとなるトリメチルシラノール(TMS)である。
【0030】
シラノール化合物は、下記式(3)に示すように、脱水縮合することにより二量化される。この脱水縮合反応は、露光装置10内部のように、シラノール化合物低濃度下では通常殆ど起こらないが、上記した添着剤が添着された吸着剤があると低濃度下でも、吸着剤の吸着作用及び添着剤の酸触媒作用により発生しやすくなる。したがって、シラノール化合物の少なくとも一部(通常、半分以上程度)は、内部ケミカルフィルタ15を通過する際に二量化され、二量体であるジシロキサン化合物に化学変化させられる。二量体であるジシロキサン化合物は、シラノール化合物よりも分子量が大きいため、シラノール化合物よりも、内部ケミカルフィルタ15の多孔質体によって吸着されやすく、また吸着された後脱離しにくくなる。
【0031】
すなわち、内部ケミカルフィルタ15は、添着剤でシラノール化合物を積極的に二量化することにより、効率的にシラノール化合物を吸着剤51に吸着させることが可能になる。このように、本実施形態では、吸着剤51によって、効率的にシラノール化合物を除去可能であるので、内部ケミカルフィルタ15の寿命を長くすることができる。
【0032】
2RSiOH → RSiOSiR + HO ・・・(3)
式(3)において、ジシロキサン化合物(RSiOSiR)は一般的に、TMSの二量体であるヘキサメチルジシロキサンである。
【0033】
なお、外部ケミカルフィルタ25は、内部ケミカルフィルタ15と同様の構成を有するケミカルフィルタであっても良いが、添着剤が添着されていない活性炭等の多孔質体が、フィルタ基材に固着されたケミカルフィルタであっても良い。勿論、内部ケミカルフィルタ15は、吸着剤51によってシラノール化合物及びその二量体以外のガス状不純物も除去する。また、経路S上には、他の種類のエアフィルタがさらに設けられていても良い。
【0034】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るケミカルフィルタの構造を示す。第1の実施形態においては、内部ケミカルフィルタ15は、1つのケミカルフィルタによって構成されたが、第2の実施形態では、内部ケミカルフィルタ65は、図3に示すように、第1及び第2のケミカルフィルタ66、67が重ねられて構成される。第1及び第2のケミカルフィルタ66、67は、空気が通過する方向S’に沿って上流側からこの順に配置される。
【0035】
この場合、第1のケミカルフィルタ66は、第1の実施形態の内部ケミカルフィルタ15と同様の構成を有しており、フィルタ基材50に、酸性物質の添着剤が添着された無数の吸着剤が固着されたものである。一方、第2のケミカルフィルタ67は、フィルタ基材50に、酸性物質の添着剤が添着されていない無数の吸着剤が固着されたものである。
【0036】
本実施形態では、2つのケミカルフィルタが設けられることにより、シラノール化合物の除去率がさらに良好になる。なお、第2のケミカルフィルタ67は、流入される空気のシラノール化合物の濃度が極めて低く、酸添着の吸着剤が用いられてもその二量化効果が低いため、無添着のものが使用される。
【0037】
また、第1のケミカルフィルタ66は、吸着剤に添着剤が添着されたことによって、アウトガスが発生しやすくなるが、そのようなアウトガスは、第2のケミカルフィルタ67で吸着・除去される。したがって、第1のケミカルフィルタ66において、添着剤に起因するアウトガスが、内部チャンバ12内部に混入することも効果的に防止される。
【0038】
さらに、第2の実施形態における第1及び第2のケミカルフィルタ66、67は、別体のフィルタ基材50、50それぞれに無数の吸着剤が固着されて構成されたが、図4に示すように、1つのフィルタ基材50から構成されたケミカルフィルタ70であっても良い。この場合、ケミカルフィルタ70の上流側の部分(上流部分70A)に添着剤が添着された吸着剤が固着され、下流側の部分(下流部分70B)に添着剤が添着されていない吸着剤が固着される。
【0039】
また、第1の実施形態では、添着剤が添着された活性炭と、添着剤が添着されない活性炭の両方が混合されて、フィルタ基材50に固着されていても良い。さらに、第2の実施形態のように、第1及び第2のケミカルフィルタが重ねられているような場合において、これらいずれのフィルタにも添着剤が添着された活性炭が固着されても良い。
【0040】
なお、第1及び第2の実施形態において、各ケミカルフィルタは、フィルタ基材に吸着剤が固着されたものでなくても良く、例えば容器やケース中に吸着剤が充填されたものであっても良い。例えば、第2の実施形態では、第1のケミカルフィルタを容器やケース中に添着剤が添着された吸着剤が充填されたものとするとともに、第2のケミカルフィルタを、添着剤が添着されていない吸着剤が、フィルタ基材に固着されたものとしても良い。
【実施例】
【0041】
本発明について、以下実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の構成に限定されるわけではない。
【0042】
[通気試験1]
通気実験1では、図5に示すように、内部に6層のケミカルフィルタ83A〜83Fを重ねて配置したカラム80を用意した。ケミカルフィルタ83A〜83Fとしては、セル数7個/インチのウレタンフォームに、添着剤未添着の活性炭を固着して構成されるギガソーブL(商品名、ニッタ株式会社製)であって、直径19mm、高さ20mmの円柱状のものを用いた。カラム80のエア排出口82側には、エアの流量を調整するバルブ84と、カラム80に通気されるエアの流量を計測する流量計85と、カラム80にエアを通気させるためのポンプ86を接続した。最も上流側のケミカルフィルタ83Aは、約450g/mのTMSを付着させて、TMS発生源として使用した。なお、本通気試験及び以下に示す通気試験2〜6では、活性炭として平均粒径0.64mmのビーズ状活性炭を用いた。
【0043】
カラム80には、10.2リットル/分(面風速0.6m/秒)で、23℃に空調したエアを240時間通気させた。TMSは一部がヘキサメチルジシロキサン(以下、“D2”と略する)に二量化されるとともに、エア通気によりケミカルフィルタ83AからTMSないしD2が脱離して、下流側に流された。
【0044】
通気終了後、ケミカルフィルタ83A〜83Fそれぞれを20mlのアセトン中に入れて、各フィルタに吸着されたガス状有機物を超音波振動により2時間かけて抽出し、GC−FIDによって、フィルタ83A〜83Fそれぞれに吸着されたTMSとD2の量を測定した。また、通気前(0時間)のケミカルフィルタ83A〜83Fに関しても、ブランクとして同様にTMSとD2の重量を測定した。表1には、TMS及びD2それぞれに関し、各層における測定値と、全体の吸着量を100重量%としたときの各層の吸着量の比率(重量%)とを示した。
【0045】
GC−FIDの測定条件は、以下のとおりである。
GC−FID:島津製作所社製、GC−2010
カラム:Inert Cap 1MS 内径0.25mm 長さ60m
カラム温度:40℃で5分間維持した後、10℃/分で280℃まで昇温。その後、280℃で21分間維持。
キャリアガス:He カラム流量:1.16ml/分
注入量:1.0μl 測定時間:50分
【0046】
【表1】
【0047】
表1の結果から明らかなように、TMSは、1層目のケミカルフィルタからその多くが脱離し、その脱離したTMSは3層目のケミカルフィルタに最も多く吸着された。一方、D2はその多くが1層目のケミカルフィルタに保持されたままであり、脱離したものも2層目のフィルタに最も多く吸着された。すなわち、TMSはケミカルフィルタに吸着されにくく、一旦吸着されても脱離しやすいが、その二量体(D2)は、ケミカルフィルタに吸着されやすく、一旦吸着されたものはフィルタから脱離しにくいことが理解できる。
【0048】
[通気実験2]
通気実験2では、図6に示すように、第1〜第7の管部101〜107がこの順で接続して成るカラム100を用意した。第1の管部101はエア注入口を構成し、第7の管部107はエア排出口を構成した。エア排出口には、エアの流量を調整するバルブ108と、カラム100に通気されるエアの流量を計測する流量計109と、カラム100にエアを通気させるためのポンプ110を接続した。カラム100において、第2の管部102内部に、ケミカルフィルタ111を配置した。ケミカルフィルタ111は、TMSを付着させてあり、TMS発生源として使用した。
【0049】
第4の管部104は、その内部に吸着剤112を充填させて、第1のケミカルフィルタを構成した。実施例1〜14、比較例1、2では、吸着剤112として、活性炭に表2の添着剤を添着させたものを使用した。比較例3は、添着剤を未添着であることを除いて実施例1〜14と同様に実施した。比較例4では、吸着剤112としては、ギガソーブR(ニッタ株式会社製)用のビーズ状の酸性イオン交換樹脂を使用した。
【0050】
第6の管部106の内部には、6層のケミカルフィルタ113A〜113Fを重ねて、第2のケミカルフィルタとして吸着層113を設けた。通気試験2におけるケミカルフィルタ111、113A〜113Fとしては、通気試験1で用いたケミカルフィルタと同様のものを用いた。
【0051】
ポンプ110の吸気によって、カラム100に温度25℃、相対湿度55%のクリーンエアを、面風速0.6m/秒(10.2リットル/分)で通気させた。この通気により、ケミカルフィルタ111からはTMSが脱離して、第2の管部102から下流側には、TMSを含むエアが流された。通気は、TMSの通気濃度を2000〜3000ppbとして24時間行った。TMSは、吸着剤の酸触媒作用等によって一部がD2に変化した。通気終了後、通気実験1と同様にして、吸着剤112、及びフィルタ113A〜113Fそれぞれに吸着されたTMSとD2の重量を測定し、その測定値から吸着剤112、吸着層113の全てに吸着されたTMSとD2それぞれの合計を求め、TMSとD2の比率(重量%)を算出した。算出結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

なお、実施例1〜11、13、14及び比較例1〜2において、添着剤の活性炭に対する添着量は6重量%であった。また、実施例12では、リン酸の活性炭に対する添着量は18重量%であった。
【0053】
[通気実験3]
次に、上記各実施例のうち、実施例4、7、9、10〜13、比較例3、4については、実際の使用環境により近づけて効果を検証するために、表3に示すようにTMSの通気濃度をより低く(51ppb以下)して通気実験3を実施した。通気実験3では、通気120時間後における、吸着層113に吸着されたTMSとD2の比率を測定した。その結果を表3に示す。なお、通気実験3では、通気時間、通気濃度以外の条件は、通気実験2と同様であった。
【0054】
【表3】
【0055】
[通気実験4]
次に、通気実験3においてD2への変化率が高かった実施例7、9、13について、添着剤の添着量を3重量%、9重量%、12重量%(ただし、実施例7は9重量%を除く)に変更して、通気実験3と同様の実験を行った。その結果を表4に示す。なお、表4においては、D2の比率(%)のみを示した。
【表4】
【0056】
通気実験2、3から明らかなように、添着剤として酸性物質を用いた実施例1〜13は、未添着活性炭や添着剤として中性物質を用いた比較例1〜3に比べて、D2への変化率が高かった。また、酸性イオン交換樹脂を吸着剤として用いた比較例4は、通気実験2ではD2への変化率が良好であったが、通気実験3ではD2への変化率が著しく低くなった。この結果により、酸性イオン交換樹脂は、実用的な使用環境下では、シラノール化合物を二量化する効果が低いことが推察される。また、通気実験3の結果から、硫酸アルミニウム、硫酸水素カリウム、ホスホン酸は、シラノール化合物を二量化する作用効果に優れ、また、通気実験4から添着剤の添着量は12重量%以下、好ましくは4〜9重量%程度とすれば良いことが理解できる。
【0057】
[通気実験5]
図7に示す試験装置を用いた通気試験5により、実施例A、比較例B,Cを実施して、本発明に係るケミカルフィルタの除去性能を確認した。
[実施例A]
図7に示すように、エア流入側から第1及び第2の管部121、122が接続されたカラム120を用意した。カラム120の排出側には、通気試験1と同様に、バルブ123、流量計124及びポンプ125を接続した。カラム120のエア流入側には、恒温恒湿槽137内部に配置された、TMS発生源135及びケミカルフィルタ136を接続した。TMS発生源135は、上部が開口し内部に液体のTMSが3ml入れられた内部容器138を、通気経路の一部を成す外部容器139の内部に配置して構成した。
【0058】
第1の管部121の内部には、セル数13個/インチのウレタンフォームに、吸着剤として硫酸水素カリウムを添着した活性炭を固着して成る1層のケミカルフィルタを第1のフィルタ131として配置した。この吸着剤において、硫酸水素カリウムは、活性炭に対して8重量%添着されていた。第1のフィルタ131の形状、大きさは、通気試験1のフィルタ83A〜83Eと同様であった。また、吸着剤は、バインダを全体に付着させたウレタンフォームに、無数降り掛けてフォーム全体に均一に固着させた。第2の管部122の内部には、通気試験1のフィルタ83A〜83Eに使用したものと同様のギガソーブLを10層重ねて、第2のフィルタ132を設けた。
【0059】
恒温恒湿槽137内部の空気は、温度23℃、相対湿度50%に維持されており、ケミカルフィルタ136で空気中のガス成分が除去されてクリーンエアとされるとともに、TMS発生源135において気化されたTMSを一定割合で含有したうえで、カラム120に送気された。カラム120において、空気中に含有されるTMSは、一部がD2に二量化したうえで第1及び第2のケミカルフィルタ131、132で捕集された。通気は、10.2L/分、面風速0.6m/秒で338時間行った。
【0060】
通気終了後、通気試験1と同様に、フィルタ131、フィルタ132の各層に吸着されたTMSとD2の量を測定した。表5には、TMS、D2それぞれの各層における吸着量の測定値と、各層におけるTMS+D2の合計吸着量を示した。また、各層における合計吸着量のカラム全体の吸着量に対する割合を吸着割合として%で示すとともに、各層におけるD2/(TMS+D2)をD2変化率として%で示した。
【0061】
【表5】
【0062】
[比較例A]
第1のケミカルフィルタ131における多孔質体として、添着剤未添着の活性炭を用いた以外は、実施例Aと同様に実施した。
【表6】
【0063】
[比較例B]
第1のケミカルフィルタにおけるウレタンフォームとしてセル数7個/インチのものを用いた以外は、比較例Aと同様に実施した。
【表7】
【0064】
通気試験5の結果から明らかなように、添着剤として酸性物質(硫酸水素カリウム)を用いた実施例Aでは、D2変化率が高く、第1のケミカルフィルタのみで吸着割合が90%に達しており、除去性能が高いものとなった。一方、添着剤未添着の活性炭を用いた比較例A,Bでは、D2変化率が低く、また、吸着割合の合計が90%に達するのが第2のケミカルフィルタの5〜6層目であり、シラノール化合物の除去性能が十分ではなかった。
【0065】
[通気試験6]
次いで、通気試験6により実施例B〜Fを実施し、セル数の違いによる除去性能の違いを確認した。通気試験6では、外部容器139の内部に、TMSが入れられた内部容器138に加えて、さらに2つの内部容器(不図示)を配置し、それら内部容器それぞれに5mlのトルエン、10mlのテトラデカンを入れた点を除いて通気試験5と同様の試験装置を用いた。すなわち通気試験6では、カラム120に送気される空気に、TMSに加えて気化されたトルエン、テトラデカンも含有するようにした。また、第1のケミカルフィルタとしては以下のものを用いるとともに、通気時間を168時間とした点を除いて、通気試験5と同様の条件で実施した。
【0066】
実施例B、C、D、Eそれぞれでは、ウレタンフォームとして、セル数6個/インチ、8個/インチ、10個/インチ、11個/インチのものを使用した点以外は、実施例Aと同様のケミカルフィルタを第1のケミカルフィルタ131として用いた。また、実施例Fの第1のケミカルフィルタ131は、実施例Aと同様であり、セル数13個/インチであった。なお、実施例B、C、D、E、Fの吸着剤添着量は、ウレタンフォーム600mm×300mm当たり、それぞれ745g、900g、1130g、1120g、980gであった。実施例B〜Fの結果を表8〜12に示す。
【0067】
【表8】
【0068】
【表9】
【0069】
【表10】
【0070】
【表11】
【0071】
【表12】
【0072】
上記結果から明らかなように、実施例Bのようにセル数が少なくなると、吸着剤の添着量が少なくなり、除去効率が低下するとともにD2変化率も低くなった。一方で、セル数が8、10、11、13個/インチである実施例C〜Fでは、D2変化率が比較的良好で、除去効率も良好なものとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7