(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の製造方法は、担体と、該担体に担持されたイリジウム、白金、ロジウム、コバルト、パラジウム、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含む触媒の存在下、1,4−アンヒドロエリスリトールと水素との反応により1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物(特に、炭素数4のアルコール類)を生成させる工程(「工程A」と称する)を含むことを特徴とする。
【0023】
[1,4−アンヒドロエリスリトール]
上記工程Aにおいて原料(出発原料)として使用される1,4−アンヒドロエリスリトール(3,4−ジヒドロキシオキソラン)は、エリスリトールの1位と4位の水酸基が脱水縮合して形成される構造を有する化合物であり、下記式(1)で表される。
【化1】
【0024】
上記1,4−アンヒドロエリスリトールは、特に限定されず、例えば、化学合成により製造された1,4−アンヒドロエリスリトールであってもよいし、グルコース等の糖類から発酵技術で誘導される1,4−アンヒドロエリスリトールであってもよい。上記発酵技術で誘導される1,4−アンヒドロエリスリトールとしては、例えば、グルコース等の糖類から発酵技術で誘導されたエリスリトールを原料として使用し、該エリスリトールの分子内脱水反応により生成される1,4−アンヒドロエリスリトールなどが挙げられる。上記分子内脱水反応は、公知乃至慣用の方法により実施することができ、特に限定されないが、例えば、後述の工程Bの方法に従って実施できる。また、上記1,4−アンヒドロエリスリトールとしては、上記工程Aにより得られた反応混合物から回収した1,4−アンヒドロエリスリトール(未反応の1,4−アンヒドロエリスリトール)を再利用することもできる。
【0025】
[触媒]
本発明の1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の製造方法の工程Aにおいて使用される触媒は、担体と、該担体に担持されたイリジウム(Ir)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、パラジウム(Pd)、及びニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも一種の金属(金属成分;以下、「イリジウム等」と称する場合がある)とを含む触媒である。上記イリジウム等は、担体に担持されていればよく、その形態(状態)は特に限定されない。上記イリジウム等の形態としては、例えば、金属単体、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、金属錯体などの形態が挙げられる。中でも、上記触媒は、水素化分解反応の反応性の観点で、担体に担持されたイリジウムを少なくとも含むことが好ましい。
【0026】
上記担体としては、触媒の担体として使用される公知乃至慣用の担体を使用することができ、特に限定されないが、例えば、無機酸化物や活性炭等の無機物担体、イオン交換樹脂等の有機物担体などが挙げられる。上記担体としては、中でも、反応活性に優れる点で、無機酸化物が好ましい。上記無機酸化物としては、例えば、シリカ(SiO
2)、チタニア(TiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、マグネシア(MgO)、これらの無機酸化物の二種以上の複合体(例えば、ゼオライト等)などが挙げられる。上記無機酸化物の中でも、特に、反応活性に優れる点で、シリカ(SiO
2)、ゼオライトが好ましい。なお、上記触媒において上記担体は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0027】
上記担体の比表面積は、特に限定されないが、イリジウムなどの金属を高分散に配置でき、上記金属の凝集を抑制することができ、単位重量当たりの触媒活性を向上することができる点で、50m
2/g以上(例えば、50〜1500m
2/g、好ましくは100〜1000m
2/g)が好ましい。上記担体の比表面積が上記範囲を下回ると、単位重量当たりの触媒活性が低下する傾向がある。
【0028】
上記担体の平均粒径は、特に限定されないが、反応性の点や、連続流通形式で反応を実施する場合の過剰な圧力損失を伴わない点で、100〜10000μmが好ましく、より好ましくは1000〜10000μmである。また、上記担体の形状は、粉末状、粒状、成型(成型体状)などのいずれであってもよく、特に限定されない。
【0029】
上記イリジウム等の担体への担持量(二種以上の金属を含む場合にはこれらの総量)としては、特に限定されないが、イリジウム等と担体の総量(100重量%)に対して、0.01〜50重量%程度が好ましく、より好ましくは0.01〜20重量%程度、さらに好ましくは0.5〜15重量%程度、特に好ましくは1.0〜10重量%程度である。イリジウム等の担持量が0.01重量%未満であると、1,4−アンヒドロエリスリトールの転化率が低下する傾向がある。一方、イリジウム等の担持量が50重量%を超えると、不経済となる場合がある。
【0030】
上記イリジウム等(特に、イリジウム)の担体への担持方法としては、特に限定されず、公知乃至慣用の担持方法により行うことができる。具体的には、例えば、イリジウム等を含有する溶液(例えば、イリジウムの場合には塩化イリジウム酸の水溶液等)を担体に含浸させた後、乾燥させ、次いで焼成する方法により担持させることができる。なお、イリジウム等を含有する溶液の濃度や、担体への含浸、及び乾燥処理の施用回数を調整することにより、イリジウム等の担持量を制御することができる。また、イリジウム等を含有する溶液を含浸させる際の温度、該溶液を含浸させた担体を乾燥させる際の温度は、特に限定されない。
【0031】
イリジウム等を含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後の担体を焼成する際の温度(焼成温度)は、特に限定されないが、例えば、大気中において400〜700℃が好ましく、より好ましくは450〜550℃である。また、焼成する際の雰囲気は、上述のように大気中に限定されず、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、水素等の還元性ガス雰囲気等で焼成することもできる。
【0032】
上記触媒は、担体と、該担体に担持されたイリジウム等と、さらに、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、及びマンガン(Mn)からなる群より選択される少なくとも一種の金属(金属成分;「レニウム等」と称する場合がある)とを含むことが好ましい。上記触媒における金属成分として上記レニウム等を併用することにより、1,4−アンヒドロエリスリトールの転化率を高めることができ、特に、1,2,3−ブタントリオール、1,3−ブタンジオールの選択率を高めることができる。中でも、上記触媒は上記レニウム等として、水素化分解反応の反応性の観点で、レニウムを少なくとも含むことが好ましい。
【0033】
上記触媒に含まれるレニウム等の態様としては、特に限定されないが、例えば、金属単体、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物又は金属錯体の形態(状態)で含まれる態様や、金属単体、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物又は金属錯体として担体に担持された状態で含まれる態様などが挙げられる。
【0034】
レニウム等を担持する担体としては、上記イリジウム等を担持する担体と同様のものが例示される。中でも、上記レニウム等を担持する担体としては、反応活性に優れる点で、無機酸化物が好ましく、特に好ましくは、シリカ(SiO
2)、チタニア(TiO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、マグネシア(MgO)、及びこれらの無機酸化物の二種以上の複合体(例えば、ゼオライト等)から選択される少なくとも一種の化合物であり、最も好ましくはシリカ(SiO
2)、ゼオライトである。また、レニウム等を担持する担体はイリジウム等を担持する担体と同一であってもよいし、異なっていてもよい。中でも、上記触媒においては、より優れた触媒作用を発揮できる点で、レニウム等を担持する担体とイリジウム等を担持する担体が同一であることが好ましい。
【0035】
レニウム等を担体に担持させる場合、その方法は特に限定されず、公知乃至慣用の担持方法を利用することができる。具体的には、例えば、レニウム等を含有する溶液を担体に含浸し、乾燥させた後、焼成する方法等を挙げることができる。また、レニウム等を、上記イリジウム等と同じ担体に担持させる場合は、例えば、イリジウム等を含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後の担体に対して、さらにレニウム等を含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後、焼成する方法等が挙げられる。なお、上記レニウム等を含有する溶液を含浸させる際の温度、該溶液を含浸させた担体を乾燥させる際の温度、及び上記担体を焼成する際の温度は特に限定されない。
【0036】
上記触媒としては、中でも、担体と、該担体に担持されたイリジウムとを含み、さらに、担体に担持されたレニウム等(特にレニウム)とを含む触媒が好ましい。特に、担体と、該担体に担持されたイリジウムと、上記担体に担持されたレニウムとを含む触媒(即ち、同一の担体にイリジウム及びレニウムが担持された触媒)であることが、より優れた触媒作用を発揮することができる点、及び反応後の触媒を容易に回収することができる点で好ましい。
【0037】
上記触媒がレニウム等を含有する場合、レニウム等の含有量が増加するに従って、1,4−アンヒドロエリスリトールの転化率を向上させることができる。また、レニウム等の含有量が増加するに従って、トリオールの選択率が減少し、ジオール、及びモノオールの選択率が高くなる傾向がある。イリジウム等(二種以上を含有する場合にはこれらの総量)とレニウム等(二種以上を含有する場合にはこれらの総量)との割合(モル比、金属換算)[前者/後者]は、特に限定されないが、例えば、50/1〜1/6が好ましく、より好ましくは4/1〜1/4、さらに好ましくは3/1〜1/3である。レニウム等の使用量は、反応温度、反応時間、及び目的とする生成物によって、前記範囲内で適宜調整することができる。
【0038】
特に、上記触媒が担体に担持されたイリジウムと、レニウムとを少なくとも含有する場合、イリジウムとレニウムの割合(モル比、金属換算)[イリジウム/レニウム]は、特に限定されないが、水素化分解反応における転化率の観点で、50/1〜1/6が好ましく、より好ましくは4/1〜1/4、さらに好ましくは3/1〜1/3である。
【0039】
上記触媒の平均粒径は、特に限定されないが、反応性の点や、連続流通形式で反応を実施する場合の過剰な圧力損失を伴わない点で、100〜10000μmが好ましく、より好ましくは1000〜10000μmである。また、上記触媒の形状は、特に限定されないが、例えば、粉末状、粒状、成型(成型体状)などが挙げられる。
【0040】
[水素]
上記工程Aにおいて使用される水素(水素ガス)は、実質的に水素のみの状態で使用することもできるし、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス等により希釈した状態で使用することもできる。また、上記工程Aを経た結果得られる反応混合物から回収した水素(未反応の水素)を再利用することもできる。
【0041】
[工程A]
本発明の1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の製造方法における工程Aは、上記触媒の存在下、1,4−アンヒドロエリスリトールと水素との反応により1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物としての炭素数4のアルコール類(ブタントリオール、ブタンジオール、ブタノール)等を生成させる工程である。上記1,4−アンヒドロエリスリトールと水素との反応は、固体の触媒の存在下、気体状の(気化させた)1,4−アンヒドロエリスリトールと水素とを反応させる気固二相系の反応であってもよいし、固体の触媒の存在下、液状の1,4−アンヒドロエリスリトールと水素とを反応させる気液固三相系の反応であってもよい。特に、炭素−炭素結合の開裂による炭素数が3以下の化合物の生成を抑制する観点からは、上記反応を気液固三相系で進行させることが好ましい。
【0042】
より具体的には、工程Aにおける1,4−アンヒドロエリスリトールと水素との反応は、例えば、1,4−アンヒドロエリスリトールを必須成分として含む原料液と水素とを反応器中に封入して、上記触媒の存在下で加熱することによって進行させることができる。
【0043】
上記原料液は、1,4−アンヒドロエリスリトールの他に、例えば、水や有機溶媒等の溶媒を含有していてもよいし、溶媒を実質的に含有していなくてもよい。上記有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2-ブタノール等のアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などの高極性の有機溶媒などが挙げられる。上記原料液としては、中でも、反応性に優れる点、及び取り扱いや廃棄が容易である点で、溶媒として水を少なくとも含有することが好ましい。また、上記原料液としては、工程Bにおけるエリスリトールの分子内脱水反応により得られた反応混合物や、該反応混合物から必要に応じて酸触媒等を除去した液等を使用することができる。
【0044】
上記原料液における1,4−アンヒドロエリスリトールの濃度(原料液100重量%に対する1,4−アンヒドロエリスリトールの含有量)は、特に限定されないが、5〜98重量%が好ましく、より好ましくは8〜90重量%、さらに好ましくは10〜90重量%、特に好ましくは15〜80重量%である。1,4−アンヒドロエリスリトールの濃度が5重量%を下回ると、1,4−アンヒドロエリスリトールの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、1,4−アンヒドロエリスリトールの濃度が98重量%を上回ると、粘度が高くなり、操作が煩雑になる場合がある。
【0045】
上記1,4−アンヒドロエリスリトールと水素との反応は、酸の共存下で進行させてもよい。即ち、上記原料液は、上述の1,4−アンヒドロエリスリトール、溶媒のほか、酸を含有していてもよい。上記酸としては、特に限定されず、公知乃至慣用の酸、例えば、硫酸、リン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。酸の共存下で反応を進行させることにより、1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解反応を促進させることができる。
【0046】
上記酸の使用量(含有量)は、特に限定されないが、触媒に含まれるイリジウム等(金属換算、二種以上が含まれる場合にはこれらの総量)に対して、0.1〜10モル倍が好ましく、より好ましくは0.5〜3モル倍である。酸を共存させた場合には、反応終了後、当該酸を中和する工程を設けることが好ましい。
【0047】
上記反応においては、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分を共存させてもよい。即ち、上記原料液は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分(例えば、アルコール類等)を含有していてもよい。また、上記原料液には、例えば、1,4−アンヒドロエリスリトールの原料(エリスリトールや該エリスリトールの原料など)に由来する不純物(例えば、長鎖脂肪酸、金属塩、チオールやチオエーテル等の含硫黄化合物、アミン等の含窒素化合物等)が含まれる場合があるが、このような不純物は触媒を劣化させる恐れがあるため、公知乃至慣用の方法(例えば、蒸留、吸着、イオン交換、晶析、抽出等)により、原料液から除去することが好ましい。
【0048】
上記原料液は、特に限定されないが、1,4−アンヒドロエリスリトールと、必要に応じて溶媒や酸、その他の成分を均一に混合することにより得られる。混合には、公知乃至慣用の撹拌機等を使用することができる。
【0049】
反応(水素化分解反応)に付す水素と1,4−アンヒドロエリスリトールのモル比[水素(mol)/1,4−アンヒドロエリスリトール(mol)]は、特に限定されないが、1〜100が好ましく、より好ましくは1.5〜50、さらに好ましくは2〜30である。上記モル比が1未満であると、1,4−アンヒドロエリスリトールの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、上記モル比が100を超えると、未反応の水素を回収するための用役コストが増加する傾向がある。
【0050】
上記反応(水素化分解反応)における1,4−アンヒドロエリスリトールと水素の反応温度は、特に限定されないが、50〜200℃が好ましく、より好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは70〜130℃である。反応温度が50℃未満であると、1,4−アンヒドロエリスリトールの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、反応温度が200℃を超えると、1,4−アンヒドロエリスリトールの分解(例えば、炭素−炭素結合の開裂等)が生じやすく、目的化合物(例えば、炭素数4のアルコール類、特に、1,2,3−ブタントリオール、1,3−ブタンジオール)の選択率が低下する場合がある。なお、反応温度は、上記反応において一定(実質的に一定)となるように制御されていてもよいし、段階的又は逐次的に変化するように制御されていてもよい。
【0051】
上記反応(水素化分解反応)における1,4−アンヒドロエリスリトールと水素の反応時間は、特に限定されないが、0.1〜100時間が好ましく、より好ましくは0.2〜5時間、さらに好ましくは0.5〜4時間である。反応時間が0.1時間未満であると、1,4−アンヒドロエリスリトールの反応率(転化率)が十分に上がらない場合がある。一方、反応時間が100時間を超えると、1,4−アンヒドロエリスリトールが完全に水素化分解されたブタンの生成が急激に増え、例えば、炭素数4のアルコール類(特に、1,2,3−ブタントリオール、1,3−ブタンジオール)の選択率が低下する場合がある。
【0052】
上記反応(水素化分解反応)における1,4−アンヒドロエリスリトールと水素の反応圧力(1,4−アンヒドロエリスリトールと水素の反応における水素圧)は、特に限定されないが、1〜50MPaが好ましく、より好ましくは3〜30MPa、さらに好ましくは5〜15MPaである。反応圧力が1MPa未満であると、1,4−アンヒドロエリスリトールの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、反応圧力が50MPaを超えると、反応器が高度な耐圧性を備える必要があるため、製造コストが高くなる傾向がある。
【0053】
上記反応(水素化分解反応)は、回分形式、半回分形式、連続流通形式等の任意の形式により実施することができる。また、所定量の1,4−アンヒドロエリスリトールから得られる1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の量を増加させたい場合には、水素化分解実施後の未反応の1,4−アンヒドロエリスリトールを分離回収してリサイクルするプロセスを採用してもよい。このリサイクルプロセスを採用すれば、1,4−アンヒドロエリスリトールを所定量使用したときの1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の生成量を高めることができる。
【0054】
上記工程Aにおいては、反応器として公知乃至慣用の反応器を使用することができ、例えば、回分式反応器、流動床反応器、固定床反応器などが使用できる。上記固定床反応器としては、例えば、トリクルベッド反応器を使用できる。トリクルベッド反応器とは、固体触媒が充填された触媒充填層を内部に有し、該触媒充填層に対して液体(工程Aでは、上記原料液)と気体(工程Aでは、水素)とを共に、反応器の上方から下向流(気液下向並流)で流通する形式の反応器(固定床連続反応装置)である。
【0055】
図1は、トリクルベッド反応器を使用した場合の1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の製造方法における工程Aの一例を示すフロー図である。
図1において、1は反応器(トリクルベッド反応器)、2は原料液の供給ライン、3は水素の供給ラインを示す。また、4は反応混合物取り出しライン、5は高圧気液分離器、6は水素リサイクルラインを示す。以下、
図1を参照しながら、トリクルベッド反応器を使用した1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の製造方法を簡単に説明する。
【0056】
まず、トリクルベッド反応器1の上方から原料液と水素とを連続的に供給し、その後、反応器の内部で原料液中の1,4−アンヒドロエリスリトールと水素とを、触媒充填層における触媒の存在下で反応させ、1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物(反応生成物)を生成させる。そして、当該1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物を含む反応混合物をトリクルベッド反応器1の下方の反応混合物取り出しライン4から連続的に取り出し、その後、必要に応じて、高圧気液分離器5により該反応混合物から水素を分離した後、精製工程にて1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物を精製・単離する。また、高圧気液分離器5により分離した水素は、水素リサイクルライン6を通じて、再度トリクルベッド反応器1に供給して反応に再利用することもできる。
【0057】
反応器としてトリクルベッド反応器を採用すると、原料である1,4−アンヒドロエリスリトールを気化することなく、気液固三相系で反応を進行させることができるため、コスト面で有利である。また、トリクルベッド反応器中では、1,4−アンヒドロエリスリトールを含む原料液が触媒表面に薄膜を形成しながら下方に流通するため、原料液と水素の界面(気液界面)から触媒表面までの距離が短く、原料液に溶解した水素の触媒表面への拡散が容易となり、1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物を効率的に生成することができる。また、1,4−アンヒドロエリスリトールと水素の反応生成物からの触媒の分離プロセスも不要で、触媒の再生処置も容易であるため、製造プロセスが簡便でありコスト面で優れる。
【0058】
なお、上記トリクルベッド反応器の材質や形状、サイズ(例えば、塔径や塔長等)等は、特に限定されず、公知乃至慣用のトリクルベッド反応器の中から、反応の規模等に応じて適宜選択することができる。また、上記トリクルベッド反応器は、単一の反応管により構成されるものであってもよいし、複数の反応管により構成された多段反応器であってもよい。上記トリクルベッド反応器が多段反応器である場合の反応管の数は、適宜選択でき、特に限定されない。また、上記トリクルベッド反応器が多段反応器である場合には、当該反応器は、複数の反応管が直列に設置されたものであってもよいし、複数の反応管が並列に配置されたものであってもよい。
【0059】
更に、トリクルベッド反応器の内部における触媒充填層は、必要に応じて、例えば、反応熱による過熱を抑制するために2以上の位置に分割(分離)して配置してもよい。
【0060】
原料液の液基準空間速度(LHSV)は、特に限定されないが、0.05〜100hr
-1が好ましく、より好ましくは0.1〜50hr
-1、さらに好ましくは0.5〜20hr
-1である。原料液の液基準空間速度が0.05h
-1未満であると、1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の生産性が低下する場合がある。一方、原料液の液基準空間速度が100hr
-1を超えると、1,4−アンヒドロエリスリトールの反応率(転化率)が低下する場合がある。なお、上記液基準空間速度は、反応器への原料液の供給速度(体積流量)の触媒充填体積に対する比[原料液の供給速度(L・hr
-1)/触媒充填体積(L)]で表される。
【0061】
本発明の1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の製造方法は、上記工程A以外にも、必要に応じて他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、原料液と水素を反応器に供給する前に、原料液を調製・精製する工程、反応器から排出(流出)された反応混合物(例えば、1,4−アンヒドロエリスリトール、水素、及び1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物等の混合物)を分離・精製する工程等が挙げられる。なお、これらの工程は、上記工程Aとは別ラインで実施してもよく、上記工程Aと一連の工程として(インラインで)実施してもよい。
【0062】
[工程B]
本発明の1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解物の製造方法は、上記工程Aの前に、1,4−アンヒドロエリスリトールを生成させる工程、特に、エリスリトールの分子内脱水反応により1,4−アンヒドロエリスリトールを生成させる工程(「工程B」と称する)をさらに含んでいてもよい。上記エリスリトールの分子内脱水反応は、周知の方法により実施することができ、特に限定されないが、例えば、酸触媒の存在下でエリスリトールを加熱することにより進行させることができる。なお、工程Bは、上記工程Aとは別ラインで実施してもよく、上記工程Aと一連の工程として実施してもよい。
【0063】
上記工程Bにおいて原料(出発原料)として使用されるエリスリトールは、特に限定されず、化学合成により製造されたエリスリトールであってもよいし、グルコース等の糖類から発酵技術で誘導されるエリスリトールであってもよい。中でも、環境への負荷を低減する観点からは、グルコース等の糖類から発酵技術で誘導されるエリスリトールを使用することが好ましい。また、当該工程Bにより得られた反応混合物から回収したエリスリトール(未反応のエリスリトール)を再利用することもできる。
【0064】
上記工程Bにおいて使用される酸触媒としては、公知乃至慣用の酸を使用することができ、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、縮合リン酸、臭化水素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸などの無機酸;p−トルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸;陽イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカアルミナ、ヘテロポリ酸(例えば、リンモリブデン酸など)などの固体酸などが挙げられる。中でも、生成物等からの分離及び再生処理が容易である点で、固体酸が好ましい。なお、上記酸触媒としては市販品を使用することもでき、例えば、固体酸の市販品として商品名「Amberlyst」(ダウ・ケミカル社製)、商品名「ナフィオン」(デュポン(株)製)などが例示される。なお、酸(酸触媒)は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0065】
上記反応(分子内脱水反応)は、溶媒の非存在下で進行させることもできるし、溶媒の存在下で進行させることもできる。上記溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などの高極性の有機溶媒などが挙げられる。中でも、反応性に優れる点、及び取り扱いや廃棄が容易である点で、溶媒として水を少なくとも含有することが好ましい。なお、溶媒は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0066】
上記反応(分子内脱水反応)の反応温度(加熱温度)は、特に限定されないが、40〜240℃が好ましく、より好ましくは80〜200℃、さらに好ましくは120〜180℃である。反応温度を上記範囲に制御することによって、エリスリトールの分子内脱水反応をより効率的に進行させることができる。なお、反応温度は、反応において一定(実質的に一定)となるように制御されていてもよいし、段階的又は逐次的に変化するように制御されていてもよい。
【0067】
上記反応(分子内脱水反応)の時間(反応時間)は、特に限定されないが、1〜100時間が好ましく、より好ましくは2〜50時間、さらに好ましくは3〜30時間である。反応時間が1時間未満であると、エリスリトールの反応率(転化率)が十分に上がらない場合がある。一方、反応時間が100時間を超えると、コスト面で不利となる場合がある。
【0068】
上記反応(分子内脱水反応)は、空気雰囲気下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下などのいずれの雰囲気下においても実施することができる。特に、1,4−アンヒドロエリスリトールの選択率向上の観点からは、不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。また、上記反応(分子内脱水反応)は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれにおいても実施することができる。特に、エリスリトールの転化率向上の観点からは、加圧下で実施することが好ましい。例えば、水を溶媒として使用する場合には、加圧下で反応を実施することにより反応温度を100℃以上に高くできるため、エリスリトールの転化率を効率的に高めることができる。
【0069】
上記反応(分子内脱水反応)は、回分形式、半回分形式、連続流通形式等の任意の形式により実施することができる。
【0070】
上記工程Bにより、1,4−アンヒドロエリスリトールが生成する。このようにして得られた1,4−アンヒドロエリスリトールは、その後、上記工程Aにおける出発物質として使用されるが、工程Bにより得られた反応混合物から公知乃至慣用の方法(例えば、蒸留、吸着、イオン交換、晶析、抽出等)により単離した上で使用することもできるし、上記反応混合物から単離することなく(必要に応じて酸触媒などを取り除いた上で)使用することもできる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0072】
実施例1
[触媒の調製]
二酸化ケイ素(SiO
2)(商品名「G−6」、富士シリシア化学(株)製、比表面積:535m
2/g)を触媒の担体として使用した。上記担体に、イリジウム(Ir)濃度が4.47重量%となるように調製した塩化イリジウム酸(H
2IrCl
6)水溶液を滴下して、上記担体全体を湿潤させた後、該担体を110℃で3時間乾燥させた。そして、このような塩化イリジウム酸水溶液の滴下と乾燥を繰り返して、イリジウムがSiO
2に対して4重量%となるように担持させた。
次に、上記担体(イリジウムを担持させた担体)に、レニウム(Re)濃度が3重量%となるように調製した過レニウム酸アンモニウム(NH
4ReO
4)水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化イリジウム酸水溶液の滴下と乾燥と同様に繰り返して、イリジウムとレニウムのモル比が1/1となるようにレニウムを担持させた。その後、乾燥後の担体を、空気雰囲気下(大気中)、500℃、3時間の条件で焼成して、触媒を調製した。
【0073】
[エリスリトールの1,4−アンヒドロエリスリトールへの変換:工程B]
オートクレーブ中にエリスリトール1g、水4g、及び触媒として商品名「Amberlyst70」0.15gを加え、アルゴン圧5MPa、160℃、24時間の条件で反応させたところ、1,4−アンヒドロエリスリトール(3,4−ジヒドロキシオキソラン)を得た。エリスリトールの転化率は98.6%であり、1,4−アンヒドロエリスリトールの選択率は97.2%であった。
【0074】
[1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解反応:工程A]
ガラス製内缶を備えたSUS316製190mLオートクレーブと、テフロン(登録商標)でコーティングされたマグネチックスターラーチップとで構成された反応器、及び、マグネチックスターラーと電気炉からなる加熱・攪拌装置を用いた。
上記反応器に上記で調製した触媒300mg及び水4gを入れ、1MPaの水素を張り込んだ後に常圧まで排気する水素置換作業を三回繰り返した後、加熱して缶内が200℃となった時に、全圧が8MPaとなるように水素を張り込み、200℃で1時間加熱して触媒を還元した。
還元後、オートクレーブを冷却、開圧し、上記で得た1,4−アンヒドロエリスリトール1g、及び1%硫酸300mgを加え、再度1MPaの水素による置換作業を三回繰り返した。その後、加熱して缶内が100℃となった時点で、全圧が8MPaとなるように水素を張り込み、100℃で4時間加熱して反応を行った(反応圧力:8MPa、攪拌回転数:250rpm)。
反応終了後、オートクレーブを室温まで冷却後、開圧し、排気ガス及び反応液をガスクロマトグラフィーにて分析した。その結果、1,4−アンヒドロエリスリトールの転化率は31.2%;1,2,3−ブタントリオールの選択率は39.2%;1,3−ブタンジオールの選択率は31.1%、2,3−ブタンジオールの選択率は0.7%;1−ブタノールの選択率は7.4%、2−ブタノールの選択率は17.9%であった。なお、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、及び1,2,4−ブタントリオールの生成は認められなかった。このように、実施例1では、ブタンジオールとして1,3−ブタンジオールが選択的に生成し、ブタントリオールとして1,2,3−ブタントリオールが選択的に生成した。
【0075】
比較例1
1,4−アンヒドロエリスリトールの代わりにエリスリトールを使用したこと以外は、上記「1,4−アンヒドロエリスリトールの水素化分解反応」と同様の手順で、エリスリトールの水素化分解反応を実施した。
反応終了後、生成物の分析を行った結果、エリスリトールの転化率は26.4%;1,2,4−ブタントリオールの選択率は36.8%、1,2,3−ブタントリオールの選択率は20.8%;1,4−ブタンジオールの選択率は20.1%、1,3−ブタンジオールの選択率は7.5%、1,2−ブタンジオールの選択率は3.2%、2,3−ブタンジオールの選択率は0.4%;1−ブタノールの選択率は6.7%、2−ブタノールの選択率は4.2%であった。このように、比較例1では、ジオールとして1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、及び1,2−ブタンジオールがそれぞれ相当量生成し、トリオールとして1,2,4−ブタントリオール及び1,2,3−ブタントリオールがそれぞれ相当量生成した。
【0076】
なお、上述の1,4−アンヒドロエリスリトール(又はエリスリトール)の転化率(%)は、反応混合物(原料及び生成物を含む組成物)中の1,4−アンヒドロエリスリトール(又はエリスリトール)の量を測定し、1,4−アンヒドロエリスリトール(又はエリスリトール)の仕込み量からの減少量を算出し、上記仕込み量に対する上記減少量の割合[100×(減少量)/(仕込み量)]として求めた。
また、各生成物(1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1−ブタノール、及び2−ブタノール)の選択率(%)は、上記1,4−アンヒドロエリスリトールの減少量に対する各生成物の量(生成量)の割合[100×(各生成物の生成量)/(1,4−アンヒドロエリスリトールの減少量)](モル基準)として求めた。
なお、各成分(原料及び生成物)の量は、ガスクロマトグラフィー(ガスクロマトグラフ装置:商品名「GC−2010」、(株)島津製作所製)を使用し、下記条件で測定した。
測定条件
カラム:FFAP(QUADREX製)
検出器:FID