(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797594
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】プレス成形解析システムおよびそのプログラム
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20151001BHJP
B21D 24/04 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
B21D22/00
B21D24/04 G
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-65569(P2012-65569)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-193119(P2013-193119A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆道
(72)【発明者】
【氏名】岩田 徳利
(72)【発明者】
【氏名】一条 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】蔦森 秀夫
【審査官】
水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−290961(JP,A)
【文献】
特開2003−311338(JP,A)
【文献】
特開2008−90481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00
B21D 24/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板材をプレス成形する成形型に配設されるドロービードのモデリングを省略し該ドロービードが設けられ得るドロービード位置に該ドロービードのモデリングの代替となる等価ドロービードを設定して該金属板材がプレス成形される様子をシミュレーションするプレス成形解析システムであって、
前記等価ドロービードを構成するドロービードパラメータは、前記ドロービードの入口側における該金属板材の状態を指標する入口側指標値を考慮して設定され、
該入口側指標値は、該金属板材に作用し得る断面力である入口側断面力、該金属板材の板厚である入口側板厚、該金属板材に生じ得る相当塑性ひずみである入口側相当塑性ひずみ、および該金属板材と前記成形型との間に生じ得る間隙である入口側板隙量を含むことを特徴とするプレス成形解析システム。
【請求項2】
前記金属板材は、前記ドロービードを通過する際に伸びフランジ変形または縮みフランジ変形を伴う請求項1に記載のプレス成形解析システム。
【請求項3】
前記ドロービードパラメータと前記入口側指標値の関係は、関数またはテーブルにより対応付けられる請求項1または2に記載のプレス成形解析システム。
【請求項4】
前記ドロービードパラメータは、前記金属板材に作用するバウシンガ効果、ひずみ速度依存性またはクーロン摩擦係数の面圧依存性の少なくとも一つ以上を考慮して算出される請求項1または3に記載のプレス成形解析システム。
【請求項5】
前記ドロービードパラメータは、前記ドロービードの出口側で前記金属板材に作用する引抜力、該ドロービード位置で該金属板材に作用する押付力、該ドロービードを通過した該金属板材の板厚減少量、または該ドロービードを通過した該金属板材の相当塑性ひずみ増加量の少なくとも一つ以上である請求項1〜4のいずれかに記載のプレス成形解析システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のプレス成形解析システムに用いられることを特徴とするプレス成形解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等価ドロービードを設定して金属板材のプレス成形をシミュレーション可能なプレス成形解析システムおよびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板をプレス成形した部材(プレス品)が多用されている。このうち、比較的大型で複雑な曲面形状をもつ自動車ボディ等のプレス品は、金型の成形キャビティの外周囲(ダイフェース上)に、突起状のドロービード(絞りビード)を設けてプレス成形される。このドロービードにより、成形キャビティへの材料の流入量等の成形条件が調整される。特に、割れ、しわ、表面ひずみ、スプリングバック(そり、ねじれ)等の成形不良が発生し易い複雑で大型なプレス品ほど、ドロービードの設定が重要となる。
【0003】
このドロービードを含むプレス成形用金型(成形型)は非常に高価である。このため、通常、実際に金型を製作する前に、プレス成形のシミュレーションが十分になされ、ドロービードを含む最適な金型形状が検討される。このシミュレーションの際、実際の三次元形状に沿ってドロービードをモデリングし、金属板材がそのドロービードを通過する過程を十分に再現されると好ましい。しかし、そのような方法では、ドロービードに細かい有限要素メッシュを形成する必要があり、プレス品が大型化するほど、シミュレーションに長時間を要して現実的ではない。そこで、金型モデルからドロービードのモデリングを省略し、金属板材がドロービードを通過した場合と同様な境界条件を与える等価ドロービードを代替的に設定したシミュレーションがなされている。
【0004】
この等価ドロービードの設定により、プレス成形のシミュレーション結果は大きく影響を受ける。このシミュレーション精度を高めるために、等価ドロービードの設定方法に関する提案がいくつかなされている。例えば、それに関連する記載が下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−290961号公報
【特許文献2】特開2000−301263号公報
【特許文献3】特開2005−193292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、ドロービード通過後における材料のひずみとドロービード引抜き抵抗の関係を示す第1設計線図と、そのドロービード引抜き抵抗とドロービードの等価曲げ半径の関係を示す第2設計線図とを用いたドロービードの設計方法について記載している。
【0007】
特許文献2は、ダイフェースとプレス方向のなす角度に応じて、ドロービードの形成箇所における材料流入抵抗(引抜力またはビード力)を補正するプレス成形解析方法について記載している。
【0008】
特許文献3は、金型の押付力と板材の引抜力の対応関係を予め実験的に求めておき、その押付力にプレス成形時のブランクホールドフォースを対応させると共にその引抜力を等価ドロービードのドロービード張力に対応させるプレス成形シミュレーション方法について記載している。
【0009】
しかし、これら特許文献に記載の方法はいずれも、材料の流動方向に作用する力のみを考慮してドロービード部分における材料流入抵抗(引抜力)を求めているに過ぎない。このような方法では、角部のようにプレス成形時に伸びフランジ変形や縮みフランジ変形を生じて材料の幅方向にも力が作用するような場合や、ドロービードを複数平行に配置する場合に、材料流入抵抗を的確に表すことは困難である。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、材料の幅方向にも力が作用するような場合や、ドロービードを連続で通過する場合でも、高精度なシミュレーション結果を得ることができるプレス成形解析システムおよびそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、ドロービードの入口側における板材の状況を考慮して、ドロービードを通過した板材に作用する引抜力等を定めることを思いついた。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0012】
《プレス成形解析システム》
(1)本発明のプレス成形解析システムは、金属板材をプレス成形する成形型に配設されるドロービードのモデリングを省略し該ドロービードが設けられ得るドロービード位置に該ドロービードのモデリングの代替となる等価ドロービードを設定して該金属板材がプレス成形される様子をシミュレーションするプレス成形解析システムであって、前記等価ドロービードを構成するドロービードパラメータは、前記ドロービードの入口側における該金属板材の状態を指標する入口側指標値を考慮して設定され
、該入口側指標値は、該金属板材に作用し得る断面力である入口側断面力、該金属板材の板厚である入口側板厚、該金属板材に生じ得る相当塑性ひずみである入口側相当塑性ひずみ、および該金属板材と前記成形型との間に生じ得る間隙である入口側板隙量を含むことを特徴とする。
【0013】
(2)本発明のプレス成形解析システムでは、等価ドロービードのドロービードパラメータ(適宜、単に「パラメータ」ともいう。)が、ドロービードの入口側における金属板材の状態を指標する入口側指標値を考慮して決定される。このため本発明によれば、従来のシステムとは異なり、伸びフランジ変形や縮みフランジ変形を伴う状態でも、金属板材がドロービードを通過するときの状態が正確に再現され、プレス成形性(材料流入量、板厚減少量等押付力)の予測精度が向上し、ひいては、より高精度なプレス成形シミュレーション結果が得られる。
【0014】
《その他》
(1)本発明は、上述したプレス成形解析システムとしてのみならず、プレス成形解析プログラム、プレス成形解析方法、さらにはドロービードパラメータの決定方法、ドロービードパラメータの解析方法やそのプログラム等としても把握できる。
【0015】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】ドロービード解析に用いたモデリングを示す説明図である。
【
図1B】そのモデリングで、成形型に設けたドロービードでワークを挟み込んだ状態を示す説明図である。
【
図2】ドロービード解析して得られた後方張力と引抜力の関係を示すグラフである。
【
図3】その解析で得られた入口側相当塑性ひずみと引抜力の関係を示すグラフである。
【
図4】その解析で得られた入口側板厚と引抜力の関係を示すグラフである。
【
図5】その解析で得られた入口側板隙量と引抜力の関係を示すグラフである。
【
図7】プレス成形解析して得られたストロークと引抜力の関係を示すグラフである。
【
図8】プレス成形解析して得られたストロークと押付力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で説明する内容は、本発明のプレス成形解析システムのみならず、それに関するプログラム等にも該当し得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0018】
《入口側指標値》
ドロービードの入口側における金属板材の状態を指標する入口側指標値は、例えば、金属板材に作用し得る断面力である入口側断面力、金属板材の板厚である入口側板厚、金属板材に生じ得る相当塑性ひずみである入口側相当塑性ひずみ、金属板材と成形型との間に生じ得る間隙である入口側板隙量などがある。本発明に係る入口側指標値は、これらの少なくとも一つ以上であると好ましい。
【0019】
《ドロービードパラメータ》
プレス成形シミュレーションを行う場合に設定される等価ドロービードを構成するドロービードパラメータは、例えば、ドロービードの出口側で金属板材に作用する引抜力、ドロービード位置で金属板材に作用する押付力、ドロービードを通過した金属板材の板厚減少量、ドロービードを通過した金属板材の相当塑性ひずみ増加量などがある。本発明のドロービードパラメータは、これらの少なくとも一つ以上であると好ましい。
【0020】
《ドロービード解析》
入口側指標値はドロービードパラメータに影響を与える。両者の関係は市販されている解析ソフト等を用いて、ドロービード部分に特化して解析することが可能である。この際、金属板材に作用するバウシンガ効果、ひずみ速度依存性またはクーロン摩擦係数の面圧依存性等の少なくとも一つ以上を考慮して解析されると好ましい。なお、このドロービード部分の解析を行う場合、有限要素メッシュのサイズは、金属板材の板厚(t)の(0.5〜1.0)t程度で行うと好ましい。
【0021】
こうして得られた入口側指標値とドロービードパラメータの対応関係は、関数またはテーブル(表)により対応付けられると好ましい。これにより入口側指標値の変化に適切に対応したドロービードパラメータを用いることが可能となる。
【0022】
両者間の関係を示す関数は、例えば、一次関数または多次関数で表される。また、その関数は、一変数関数で表されても、多変数関数で表されてもよい。もっとも、一変数の一次関数または二次関数で表すと、効率的な処理が可能となり、好ましい。
《成形型》
本発明に係る成形型は、成形キャビティの形態を問わない。もっとも、ドロービードを通過する金属板材に、伸びフランジ変形や縮みフランジ変形による幅方向の力が作用するような複雑なプレス成形をシミュレーションする場合や、ドロービードを複数連続で通過させるような場合に本発明は特に有効である。
【0023】
また本発明に係るドロービードも、その形態を問わない。ドロービードは直線状でも曲線状でもよい。またドロービードの断面形状も、角ビード、丸ビード(シングルビード、ダブルビート)、ステップビード等でもよい。いずれの場合でも、本発明によれば高精度なプレス成形シミュレーション結果が得られる。
【0024】
《その他》
本発明によりプレス成形解析の対象となるプレス品として、例えば、自動車用部材(ドアパネル、ボンネット、フェンダー、サイドパネル等)がある。
【0025】
金属板材は、解析対象となるプレス品に応じて適宜選択されるが、例えば、鉄系板材(鋼板等)、アンモニア系板材、チタン系板材、マグネシウム系板材などがある。なお「〜系板材」は純金属板材と合金板材を含む意味である。
【実施例】
【0026】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0027】
《ドロービード解析》
図1Aに示すように、ドロービード部分のみに着目したモデリングを行い、ワークW0(金属板材)に関する入口側指標値とドロービードパラメータの関係を、FEM解析した。用いた解析ソフトはJSTAMP/NV(株式会社JSOL製)およびJVISION(株式会社JSOL製)である。
【0028】
具体的には、鋼板を想定したプレス成形前のワークW0を、上型D1と下型D2(両者を併せて「成形型D」という。)にそれぞれ設けた凸型ドロービードb1と凹型ドロービードb2(両者を併せて「ドロービードb」という。)で挟み込む場合を仮定した。
【0029】
そして
図1Aに示す状態から、凸型ドロービードb1と凹型ドロービードb2の間に所定の押付力Fpを作用させて、両型間にワークW0を挟み込んだ様子を
図1Bに示した。この状態で、ドロービードbの入口側のワークW1を、出口側へ所定のストロークで引き抜いた場合に、ドロービードbの出口側のワークW2に作用するドロービードパラメータ(引抜力Fd等)を求めた。
【0030】
この際、入口側のワークW1には、後方張力Fbを設定し、入口側断面力および入口側相当塑性ひずみを考慮した。またワークW1の入口側板厚とワークW1と成形型Dのクリアランスである入口側板隙量も考慮した。さらに、ワークW1、W2に作用するバウシンガ効果、ひずみ速度依存性、クーロン摩擦係数の面圧依存性も考慮した。
【0031】
このような前提条件の下で、ワークW1に作用する入口側指標値を種々変更し、それぞれに対応するドロービードパラメータを算出した。得られた結果に基づき、入口側指標値とドロービードパラメータの相関を多変数関数で近似した。このような解析結果の一例として、ドロービードパラメータの一つである引抜力Fdと各入口側指標値との相関関係を
図2〜
図5にそれぞれ示した。
【0032】
図2に示した後方張力(入口側断面力)と引抜力(ドロービードパラメータ)の相関は、入口側相当塑性ひずみ=0、入口側板厚=初期板厚(ワークW0の板厚)、入口側板隙量=0.05として求めた。こうして得た4つの算出結果に基づいて、
図2に示した二次関数を得た。
【0033】
図3に示した入口側相当塑性ひずみと引抜力の相関は、後方張力=0、入口側板厚=初期板厚、入口側板隙量=0.05として求めた。こうして得た7つの算出結果に基づいて
図3に示した二次関数を得た。
【0034】
図4に示した入口側板厚と引抜力の相関は、後方張力=0、入口側相当塑性ひずみ=0、入口側板隙量=0.05として求めた。こうして得た4つの算出結果に基づいて
図4に示した一次関数を得た。
【0035】
図5に示した入口側板隙量と引抜力の相関は、後方張力=0、入口側相当塑性ひずみ=0、入口側板厚=初期板厚として求めた。こうして得た3つの算出結果に基づいて
図4に示した一次関数を得た。
【0036】
《プレス成形解析》
上述した解析により得られたドロービードパラメータを用いて、
図6に示すような実プレス品をプレス成形する際のシミュレーションを行った。この際用いたソフト(プレス成形解析システム)は、JSTAMP/NV(株式会社JSOL製)である。
【0037】
ここでは、従来のシステムでは高精度な解析が困難であったドロービードがカーブした部分(
図6のカーブ部)を想定し、その模擬形状(曲率半径150)をモデリングして、プレス成形シミュレーションを行った。その結果の一例を
図7および
図8示した。
【0038】
図7は、ドロービードを通過したワークの変位量(ストローク)と引抜力の関係を示す。
図8は、そのストロークとドロービードにおける押付力の関係を示す。両図中に示した比較例は、ドロービードの入口側におけるワーク状態(入口側指標値)を考慮していない従来のドロービードパラメータ(ストレート部のドロービードパラメータ)を用いて算出した結果である。また参照例は、等価ドロービードを設定せずに、ドロービードの三次元形状をモデリングしてFEM解析した結果である。
【0039】
《評価》
図7および
図8から明らかなように、本発明に係る実施例のシミュレーション結果は、参照例とほぼ同様な結果となり、従来のシミュレーション結果(比較例)に対して、著しく高精度化されたことがわかる。
【0040】
例えば、
図8に示すように、従来はストロークに伴って押付力が変化していなかったが、実施例ではストロークに応じて押付力が変化しており、参照例と同様な結果が忠実に再現されていることがわかる。
【0041】
従って、上述したような方法で求めたドロービードパラメータを用いれば、ドロービードの形態がストレート状でない場合でも、等価ドロービードを用いたシミュレーションにより、高精度なプレス成形の予測が可能となる。特に、
図6に示したA部のように、ドロービード形状自体はストレートでも、材料端でカーブが現れており、流入材料がドロービードの位置によって不均一となるような部位を含む場合にも、本実施例によればプレス成形を高精度に予測できる。
【符号の説明】
【0042】
b1、b2 ドロービード
D1 上型(成形型)
D2 下型(成形型)
W0 ワーク(プレス成形前)
W1 ワーク(ドロービードの入口側)
W2 ワーク(ドロービードの出口側)