【実施例】
【0035】
図1は本発明が対象とする風力発電設備における風速1と発電量2の時系列データを示す。風速は、風況測定器によるものであり、風向き(図示せず)と併せて、観測されるものである。横軸は時間であり、たとえば1分単位でデータが取得される。同
図1において、四角で囲った領域3において発電量の低下が見られる。この低下が起きると、電力の需要予測に合致するよう、速やかに、電力系統側発電機の出力の向上が必要となる。従って、この発電量の低下が予測された時点で、発電量低下予報を出力することが望ましい。本実施例では、この発電量低下の予報を出力する方法について説明する。
【0036】
図2は風力発電設備4と、その周囲に設けた、複数の風況測定器5a〜5hの配置例を示す。風況測定器では、風速と風向きを観測する。地上からの高さも、重要なパラメータになる。この例では、着目した風力発電設備を包囲する配置を示したが、主体となる風向きを考慮して風況測定器を配置すればよい。
図2では複数の風況測定器5a〜5hを風力発電設備4から等距離の位置に等間隔で配置した例を示しているが、実際には地形や周辺の環境の状況により、風力発電設備4からの距離や風況測定器5a〜5hの間隔は、同じでない場合の方が多い。もちろん、風況測定器は、風況を測定可能なものならば、何でもよく、風力発電設備そのものでもよい。いずれにせよ、複数の風況測定手段から、風速と風向きの時系列データが取得される。
【0037】
図3に本発明にかかる過去の風況に関わる時系列データから、未来の風況と発電量とを予測するための風況及び発電量予測システムと予測方法を説明するブロック図を示す。風況及び発電量予測システムは、時系列風況・気象・発電量データ取得部10と、時系列データベース11、風況予測部15、発電量予測部20及び表示部26を備えて構成されている。
【0038】
時系列風況・気象・発電量データ取得部10では、現在の時系列風況・気象・発電量データが、上記風況測定器5a〜5hおよび風力発電設備4自身から得られる。これは、時系列データベース11に取得のたびに毎回蓄積され、過去の情報として活用できる形態になっている。この時系列データベース11に蓄積されるデータには、風況データ12、気象データ13、発電量データ14などがある。気象データ13には、雨や晴れといった天気、気温、湿度、気圧配置などが格納されている。
【0039】
風況予測部15においては、時系列データベース11に格納されているデータを参照して、類似時系列データ選択ユニット16と回帰エンジンによる識別ユニット18により、風況予測がなされる。
【0040】
類似時系列データ選択ユニット16は、時系列風況・気象・発電量データ取得部10から入力される現在の時系列風況・気象・発電量データと類似する過去の時系列風況データ12・気象データ13・発電量データ14をデータベース11から選択する。
【0041】
識別ユニット18では、選択された過去の時系列風況データ12・気象データ13・発電量データ14に対し、回帰式により未来予測を行い風況データ25を得る。回帰の方法は、あとで
図6〜
図9を用いて説明する。
【0042】
得られた風況データ25から発電量予測部20にて発電量予測を行う。表示部26は、時系列データベース11に格納されている風況データの表示や発電量予測部20で予測した発電量低下の発報や発電量波形を画面上に表示し、出力するものである。
【0043】
図4、
図5を用いて、表示の一例を説明する。
図4は、例えば風況測定器5aから得られた時系列風況データの表し方を与えるものである。
図4の円グラフ6では、風速を中央原点からの長さ(たとえば、単位m/s)で表し、風向き(方位)を角度で現している。ある期間の風況データを示している。
【0044】
これに対し、
図5の直交座標系のグラフ8では、風向き(方位7)を角度情報で表わすのは
図4の円グラフ6の場合と同じであるが、風速を横軸からの長さ(矢印のベクトル)で表し、時系列データとして表示していることに特徴がある。この例では、南風と北風の頻度が小さいため、東風と西風がよく分かるように、方位を配置している。逆に南風と北風の頻度が大きく東風と西風との頻度が小さい場合には、南風と北風がよく分かるように、方位を配置すればよく、特の方位性がない場合には、両方のグラフを作成すればよい。発電量予測システムとしては、これらの表記により、風況を表すものとする。
【0045】
上記表示方法は、風況の一つの表現形態である。従って、後述する予測において、この表現形態を観測センサ信号(ベクトル)として扱ってもよい。たとえば、風速と風向きを、
図4の原点を中心とする半径ベクトルで表す。
図5では、時系列の矢印ベクトルが観測データである。
【0046】
次に、風況予測の方法を
図6〜
図9を用いて説明する。
図6は、ガウシアンプロセス等の非線形回帰手法や予測手法による推定を説明する図である。学習データ21と回帰関数22が描かれている。ここで、学習データ21が、現在の時系列風況・気象・発電量データと類似したとされる過去の時系列風況・気象・発電量データである。ここで、類似性は、値としてとり得る範囲で選択したものである。
【0047】
ガウシアンプロセスの解説記事は多いが、ここでは、学会報告「尾崎 晋作, 和田 俊和, 前田 俊二, 渋谷 久恵,異常検出におけるSimilarity Based ModelingとGaussian Processesの関連に関して,パターン認識・メディア理解研究会(PRMU),画像工学(IE),133−138(2011.5)」を参照している。ガウシアンプロセスの特徴は、学習データと類似したデータを選択出力し、かつその信頼性も分散として出力可能なことである。
【0048】
ガウシアンプロセスにおいては、入力ベクトルx
1、x
2、…x
nと対応する出力t=(t
1、t
2、…t
n)
Tが与えられているとき、新しい入力ベクトルx
n+1に対する出力t
n+1を予測する。
【0049】
【数1】
【0050】
ここで、σは分散パラメータ、βはノイズを表わす。(数1)により、出力t
est が予測値として得られる。
【0051】
なお、「Kai Goebe:Prognostics in Battery Health Management, IEEE Instrumentation And Measurement Magazine (2008),Volume: 11, Issue: 4, Pages: 33−40」には、Li−ion蓄電池を対象に、ガウシアンプロセスや後述の粒子(パーティクル)フィルタを用いた蓄電池のRemaining−useful−life(RUL)を推定する技術が紹介されている。
【0052】
技術的な相違点のひとつは、精度を確保すべく、過去にできるだけ遡ることや、データの時間刻み(サンプリング)を細かくすると、いずれも容量の増大を招く。このような膨大な類似時系列データを、事前に、逐一選択する点であり、これにより、(数1)に示した計算、特に逆行列計算の負荷が減り、短期(短時間での)予測を可能にしている。
【0053】
図7に、ガウシアンプロセスによる風況予測の例を示す。同図において、上段の波形701が電力量であり、下段の波形702が風速である。四角で囲んだ部分711と712が、現時点までの時系列データである。期間は、一ヶ月などと定める。もちろん、長い方がいろいろな現象を網羅でき、高い精度を期待できる。時系列の波形を、ベクトルとしてまとめ、Xと表記し、X
1は風速の波形データ、X
2は電力量の波形データを表わしている。
【0054】
図8Aに、予測の段階を示す。電力量の波形701及び風速の波形702に対して、それぞれ四角711と712で囲んだ波形から、ガウシアンプロセスによる風況予測結果を○印721と722で示す。後に、四角711と712で囲んだ波形より右(時間的に遅い)のデータが実際に得られることになる。ここで、時刻の刻みをtとしている。
【0055】
このグラフにおいて、時刻t
2において風速が低下して発電量が大きく低減し、規定の発電量を確保できなくなることが予想される。この予測結果を表示部26の画面上に表示して警報を発すると同時に、上位の電力制御系統に発電量低下予測の情報を発信する。
【0056】
又、
図8Bには、電力量の波形701及び風速の波形702に対して、それぞれ四角711と712で囲んだ波形から、ガウシアンプロセスによる風況予測結果を、(数1)に示した出力t
estの分散の情報も付加して表示したグラフを示す。
図8Bのグラフでは、分散として、現在の時刻801から先の各時刻における電力量の予想値810に対する±3σの値811、812と、風速の予想値820に対する±3σの値821と822とを表示した状態を示している。
【0057】
さらに、
図8Cには、
図5で説明した風向と風速とを予測した結果を示すグラフに、ガウシアンプロセスによる風況予測結果として(数1)に示した出力t
estの分散の情報も付加して表示したグラフを示す。
図8Cのグラフでは、現在の時刻850よりも前(過去)の風向と風速のデータ851のうち四角852で囲んだ範囲のデータから推定した現在の時刻850よりも先の各時刻の風向と風速の情報860をグラフに表示し、(数1)に示した出力t
estの分散の情報として分散の大きさに応じて色を分けて表示した場合を示す。即ち、分散の基準値を予め設定し、推定した風向と風速の分散が予め設定した分散値よりも小さい場合は赤い矢印で表示し、予め設定した分散値よりも大きい場合は青い矢印で表示する。分散の度合いに応じて色分け表示する代わりに、濃淡で表示してもよい。
【0058】
[変形例1]
次に、風況予測の変形例1を
図9〜
図13を用いて説明する。
図9に、変形例1における風況及び発電量予測システムの構成を示す。本システムは、実施例1で
図3を用いて説明した風況及び発電量予測システムの風況予測部15における回帰エンジンによる識別ユニット18を、風況予測部151として認識エンジンによる識別ユニット17に置き換えたものである。
【0059】
この風況予測部151において、認識エンジンによる識別ユニット17を用いて予測を行う場合の動作ブロックを
図10に示す。認識エンジン17に、時系列風況・気象・発電量データ取得部10から風況データや気象データ・発電量データを入力し、過去の時系列風況データ12・気象データ13・発電量データ14をデータベース11から読み出し、認識する。データベース11に記憶された過去の時系列風況データ12・気象データ13・発電量データ14は、認識エンジンによる識別ユニット17の認識エンジンのパラメータを決めるための教示用の学習データとして使用する。
【0060】
認識エンジンによる識別ユニット17においては、時系列風況・気象・発電量データ取得部10から入力した現在の風況データや気象データ・発電量データと、データベース11から読み出した過去の時系列風況データ12・気象データ13・発電量データ14とを用いて、学習によりパラメータが設定された認識エンジンにより風況の予測値251を求め、その結果を発電量予測ユニット201の側へ出力する。
【0061】
図11に認識エンジンによる識別ユニット17の認識エンジンによる識別方法の例を示す。ここでは、k−NN法を挙げているが、時系列データに適用する意味で、時間軌跡を対象にする。過去の時系列データに対し、定めた期間についてこれをベクトル化する。未知パターンとして、現時点までの定めた期間について時系列データをベクトル化し、これと、過去の時系列データのベクトルからの距離を求め、この距離の大小により、未知パターンに近い過去時系列データのベクトルを複数選ぶものである。たとえば、選んだ5個の過去時系列データのベクトルから、時間的に数ステップ先のデータを5個読み出し、これらの重心や、距離の逆数を重みにした重心を、風況や発電量の予測値とする。なお、5個という数値は一例に過ぎない。
【0062】
図12に認識エンジン17による風況予測の例を示す。同図において、
図7と同様に、上段の波形1201が電力量であり、下段の波形1202が風速である。四角1211と1212で囲んだ部分が、現時点までの時系列データである。期間は、一ヶ月や2週間などと定めている。対象とする時系列データは、風況のみならず、気象データも加えてよい。すなわち、気象が似ていて、風況も類似しているならば、時間的に数ステップ先のデータも、予測値として信頼してよいという考えである。
図12の場合は、実施例1において
図7で説明したのと同様に、時系列の波形を、ベクトルとしてまとめ、Xと表記し、X
1は風速の波形データ、X
2は電力量の波形データを表わしている。
【0063】
図13に、予測の段階を示す。電力量の波形1201及び風速の波形1202に対して、それぞれ四角1211と1212四角で囲んだ波形から、認識エンジンによる風況予測結果を○印1221と1222で示す。後に、四角1211と1212で囲んだ波形より右(時間的に遅い)のデータが実際に得られることになる。ここで、時刻の刻みを1としている。
【0064】
[変形例2]
次に、風況予測の変形例2の方法を
図14〜
図18を用いて説明する。
図14に、粒子(パーティクル)フィルタ19による予測の例を示す。
【0065】
図14には、変形例2における風況及び発電量予測システムの構成を示す。本システムは、実施例1で
図3を用いて説明した風況及び発電量予測システムの風況予測部15における回帰エンジンによる識別ユニット18を、風況予測部152として粒子フィルタによる識別ユニット19に置き換えたものである。
【0066】
この風況予測部152において、粒子フィルタによる識別ユニット19を用いて予測を行う場合の動作ブロックを
図10に示す。認識エンジン17に、時系列風況・気象・発電量データ取得部10から風況データや気象データ・発電量データを入力し、過去の時系列風況データ12・気象データ13・発電量データ14をデータベース11から読み出し、認識する。データベース11に記憶された過去の時系列風況データ12・気象データ13・発電量データ14は、認識エンジンによる識別ユニット17の認識エンジンのパラメータを決めるための教示用の学習データとして使用する。
【0067】
認識エンジンによる識別ユニット17においては、時系列風況・気象・発電量データ取得部10から入力した現在の風況データや気象データ・発電量データと、データベース11から読み出した過去の時系列風況データ12・気象データ13・発電量データ14とを用いて、学習によりパラメータが設定された認識エンジンにより風況の予測値251を求め、その結果を発電量予測ユニット201の側へ出力する。
【0068】
(数2)に、時系列データの予測のためのモデルを示す。(数3)から(数6)は、各成分モデルである。
【0069】
【数2】
【0070】
【数3】
【0071】
【数4】
【0072】
【数5】
【0073】
【数6】
【0074】
風力発電に即したダイナミクスを反映したモデルを検討することが重要である。以下、各成分を説明する。
【0075】
図15Aに、風況測定器51a〜51gを用いて、風力発電設備4の周囲で、風況を測定する例を示す。地形等に合わせて、必要な箇所に、風況測定器51a〜51gを配置している。同図において、風力発電設備4の位置に影響する風況を示す。風速と風向きに応じて、風力発電設備4の位置Cで、ベクトル成分の和として表現できる。
【0076】
同様に、
図15Bに、風況測定器51a〜51gを用いて、風力発電設備4の周囲で、風況を測定する例を示す。この場合は、風況測定器51a〜51gで囲む「気柱」30を考え、この「気柱」30への空気の入出力を考え、気柱30全体が受ける風の力を表している。同図の中央の矢印(風況ベクトル)150は、「気柱」30全体の風速と考える。もちろん、気圧の勾配として考えてもよい。上記「気柱」30は、円柱である必要はなく、平面的には、風況測定器51a〜51gの実際の配置に依存した形状をもつ。「気柱」30の高さは、風況測定器51a〜51gの計測可能な範囲の高さである。
【0077】
図16に、風力発電設備4の位置Cにおける、この風況ベクトル150の換算風速をグラフで示す。関数fwで、非線形化している。これが、(数3)に相当する成分である。
図17には、気圧配置から、風力発電設備4の位置Cで気圧の差(勾配)を示す。この気圧の差(勾配)から、関数fpで、非線形化している。これが、(数4)に相当する成分である。(数5)と(数6)は、トレンド成分と別な揺らぎを示すモデルである。2階差分で表したが、何階 差分でもよい。Vはノイズ項である。
【0078】
これらから、(数7)で表わされるシステムモデル、(数8)で表わされる観測モデルなどの状態モデルを生成することを示す。
【0079】
【数7】
【0080】
【数8】
【0081】
詳細は、樋口知之:粒子フィルタ、電子情報通信学会誌 Vol.88, No.12,2005 に詳しい。
図18に、粒子フィルタの動作説明を示す。結果的には、
図13に示すような予測結果が得られる。
【0082】
図19には、風況測定器51aの代わりに、別の風力発電設備4bがある場合の例を示す。この場合も、同じアプローチが使えることになる。
【0083】
上述した実施例及び変形例1、変形例2において、ガウシアンプロセス、認識エンジン、粒子(パーティクル)フィルタなどを用いて説明したが、これらは組合せて使用してもよい。たとえば、予測時刻の最も早い時刻、遅い時刻、平均時刻など、瞬発性、信頼性、いろいろな視点で出力を加工できる。
【0084】
本実施例によれば、風力発電設備4にかかる風速の変動を予測して、それに基づき、電力系統側発電機の出力制御を行うことができるようになる。また、本実施例によれば、風力発電設備4にかかる風速が低下する時点を予測して発報することができる。
【0085】
また、風力発電出力と蓄電池出力の合成出力を事前に電力会社等に通告し、出力一定制御を行う方法では、出来るだけ少ない容量の蓄電池で済むという経済的効果がある。さらには、蓄電池の充放電計画を精度良く立てることができるようになる。また、風速の低下により風力発電出力と蓄電池出力との合成出力が規定の出力に達しなくなることが予測される場合には、その時点を予測して上位の発電制御システムに情報を発信することができる。
【0086】
また、風況データを用いることにより、風力発電設備の保守を行うこともできるようになる。
【0087】
具体的には、風況データに対する発電量の推移を蓄積し、風況データと発電量からなる観測データを対象に、異常検知や異常予兆など、風力発電設備の健康状態を判断できる。もちろん、風力発電設備の制御パラメータも、上記観測データに加えると、より信頼性のある健康診断が可能となる。実現方法は、たとえば、特開2010−191556号公報に記載の部分空間法などが使える。
【0088】
図20にその方法を示す。ここでは、風況データと発電量をセンサデータ40と称している。風況データと発電量からなるセンサデータを入力して(S201)それぞれのセンサデータ40の特徴を抽出し(S202)、センサデータ40間の類似度に着目し、正常事例からなるコンパクトな学習データを生成し(S203)、生成した学習データを部分空間法(LSC:Local Subspace Classifier)(45)でモデル化し、観測したセンサデータと部分空間の距離関係に基づき、観測したセンサデータの乖離度を求め(S204)、これを異常測度として観測したセンサデータの健康状態を判断する(S205)。これにより、発電量を予測しながら、風力発電設備の健康状態を判断できる。より具体的には雷や台風といった自然災害による故障、増速機の歯車や軸受けの劣化、ブレードの疲労など、風力発電設備の健康状態をモニタできる。当然であるが、風力発電設備に別途取り付けた監視用センサ信号も併せて使うことができる。これらの監視用センサ信号は、温度、圧力、回転数、電圧など、故障検知のためのものである。
【0089】
上記風力発電設備の健康状態判断方法は、蓄電池の健康状態判断にも適用できる。このようにして、系統連携に大きな問題を生じる、風速低下による発電量低下、風力発電設備の劣化や異常による発電量低下、蓄電池の劣化や故障による発電量低下などを事前に検知でき、電力系統側発電機の出力制御を行うことができるようになり、顧客への電力供給サービスを円滑に行うことが可能となる。
【0090】
なお、系統連系では、電力会社が供給する電力と同じ品質が要求されるため、風力発電で発生した電圧が過電圧や不足電圧になったり、周波数上昇や低下が発生したりすると、電力会社の系統全体の品質に悪影響を及ぼす。これら不具合を検出する継電器を設置して、電圧や周波数の異常を検出した際に、即座に電力会社系統から切り離している。異常予兆の内容・種類によるが、継電器への制御入力とすることも可能である。
【0091】
上記実施例は、風力発電設備に関して説明したが、太陽光発電も自然エネルギーであり、日射量などを対象に、上述した手法が適用できる。
【0092】
最後に、雲の動きを利用した風況予測を説明する。雲の種類を同定し、それより雲の高さを算出し、次に雲の動きを測定するものである。
図21にその構成を示す。51は、観測用カメラシステムであり、52は、雲の種類、動き測定システムである。雲の高さごとに、その移動速度、方向を算出する。そして、これらの雲の動き情報の記憶領域を、
図14の時系列データベース11内に設け、風況予測部15に入力することにより、風速予測に使う。ここで、下層雲である、積層雲や積雲、積乱雲などが、地上から高度2000m程度の雲であり、これらを対象に、その高度と動きを計測するものである。
【0093】
観測用カメラシステム51に用いるカメラは視野の広いオムニカメラなどが適している。ほかにも、活用できるものがあれば、同様に、
図14の風況予測部15に入力することにより実現できる。鉄道の路線沿いであれば、その風況測定データを入力する。飛行場が近くにあれば、滑走路の近くで得た風況測定データを入力する。気象庁の観測データも同様に、風況予測部15に入力する。時系列データの予測のためのモデル式、(数2)に、これらの成分を追加するだけでよい。
【0094】
上述した実施例は、地形条件や風況観測データ、地表粗度、風車設置条件などの入力に基づき、任意の地点における風況などを予測するシミュレーションへの入力データとして使用することも可能である。シミュレーションソフトとしては、RIAM−COMPACT社のものや、NEDO開発のLAWEPSや、RISO王立研究所開発のWAsPなどがある。空間分解能が粗いことが、弱点であり、これを補間することが可能になる。相互に活用し得ることが、利点となる。
【0095】
なお、シミュレーションにおいて、地形の複雑度が、風況予測精度を左右することが言われている。この指標には、例えば、1. RIX(Ruggedness Index)、2. 起伏量、3. 谷密度、4. 高度分散量、5. 勾配、6. 標高のラプラシアン、7. 表面積比、8. 平均比高、9. 地形の険しさ指数、10.波数領域での計測値などがある(http://homepage3.nifty.com/chacocham/Wind_Note/note/note_019.htm)。本実施例で述べた、過去の風況に関わる時系列データから、未来の風況を予測する方法は、地点それぞれにおいてモデリングするため、上記ファクタに影響を内包することになり、明示的には影響を受けないことが特徴である。言い換えれば、どのような地形においても有効である。