特許第5797601号(P5797601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5797601
(24)【登録日】2015年8月28日
(45)【発行日】2015年10月21日
(54)【発明の名称】車載回路基板収容筐体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20151001BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20151001BHJP
【FI】
   H05K9/00 C
   B60R16/02 650Y
   B60R16/02 610A
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-104091(P2012-104091)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-232547(P2013-232547A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2013年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈良 文典
【審査官】 遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−093322(JP,A)
【文献】 特開2008−064632(JP,A)
【文献】 特開2012−028661(JP,A)
【文献】 特開2010−132202(JP,A)
【文献】 特開平03−149899(JP,A)
【文献】 特開2004−235738(JP,A)
【文献】 特開2003−315716(JP,A)
【文献】 特開平09−186259(JP,A)
【文献】 実開平01−162296(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品が実装された車載回路基板を備え、該車載回路基板を収容する車載回路基板収容筐体であって、
前記車載回路基板が載置される金属製の土台部材と、
前記車載回路基板を覆って前記土台部材に組み付けられる樹脂製のカバー部材とを備え、
前記土台部材は、
矩形の底面部と、
前記底面部の周囲に立設され前記車載回路基板に接することで該底面部と該車載回路基板との間に空洞を形成する枠体と、
前記底面部から前記空洞内に立設され、前記枠体から前記空洞内に向かって突出して形成されている少なくとも1つの壁部とを有し、
前記壁部の高さは、前記枠体の高さより低いことを特徴とする車載回路基板収容筐体。
【請求項2】
前記壁部は、前記底面部の短辺を除く領域に立設されていることを特徴とする請求項1に記載の車載回路基板収容筐体。
【請求項3】
前記壁部は、前記底面部をその短手方向から見たとき、該底面部の長辺の中央に重なる部分を含んで設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の車載回路基板収容筐体。
【請求項4】
前記壁部は、前記底面部の両方の短辺にそれぞれ面する2つの側面を有し、
前記2つの側面からそれぞれが面する前記両方の短辺までの距離は等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の車載回路基板収容筐体。
【請求項5】
前記壁部は、前記底面部の短手方向に延びていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車載回路基板収容筐体。
【請求項6】
前記車載回路基板は、外部コネクタを含み、
前記壁部は、前記車載回路基板をその法線方向から見たとき前記外部コネクタと重なることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車載回路基板収容筐体。
【請求項7】
前記車載回路基板は、電源ラインを含み、
前記壁部は、前記車載回路基板をその法線方向から見たとき前記電源ラインと重なり、または該電源ラインの近傍に位置していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の車載回路基板収容筐体。
【請求項8】
前記底面部は、
一方の長辺と一方の短辺とが交差する箇所に形成された第1グランド端子と、
前記一方の長辺と他方の短辺とが交差する箇所に形成された第2グランド端子と、
他方の長辺と前記一方の短辺とが交差する箇所から離間し、該一方の短辺に形成された第3グランド端子と、
前記他方の長辺と前記他方の短辺とが交差する箇所の近傍に位置し、該他方の短辺に形成された第4グランド端子とを有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の車載回路基板収容筐体。
【請求項9】
電磁波吸収シートを前記車載用回路基板と前記土台部材との間に設けることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の車載回路基板収容筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定周波数で動作する電子部品が実装された車載回路基板を収容する車載回路基板収容筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両には、例えばエアバックなどの各種車載用機器を制御する電子制御ユニット(ECU: Electronic Control Unit)が多数配置されている。電子制御ユニットは、車載用電子機器である制御基板(車載回路基板)を含み、例えば1.6GHz程度の周波数で動作する電子部品が多数実装されている。
【0003】
車載回路基板は、例えばアルミダイキャストの箱型の筐体に収容される。金属製の筐体に車載回路基板を収容することで、剛性などが向上し、車両衝突時に車載回路基板上の電子部品を保護できる。
【0004】
しかし、金属製の筐体を用いると、重量や製造コストが高くなるという問題があった。これに対して、特許文献1には、軽量化や低コスト化を図るために、下方が開口された箱型の樹脂製のケースを採用した筐体が記載されている。
【0005】
この筐体は、上記樹脂製のケース(本願でのカバー部材)と、このケースの開口に蓋をする金属製のカバー(本願での土台部材)とを備えている。電子部品が実装された基板(本願での車載回路基板)は、ケースの開口からケース内に収容されて固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−28661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、車載回路基板を収容した筐体には、周辺の環境に起因して、外部から放射ノイズ(電磁波)が照射される場合がある。この場合、金属製の筐体は、静電遮蔽体として機能する。このため、車載回路基板に実装された電子部品は、放射ノイズの影響を受けず、誤動作が生じ難い。
【0008】
特許文献1では、筐体の一部として樹脂製のケースを採用しているので、筐体は静電遮蔽体として機能せず、放射ノイズがケースを通過する。ここで、車載回路基板は、電子部品が実装された例えば多層基板であるから、全体として見れば1枚の金属板(導電壁)と見なせるが、実際には電子部品間に隙間が存在する。また、電子部品を搭載する基板には配線のためのパターンによる隙間や、金属製カバーと実装基板との間などにも隙間が存在する。そのため、ケースを通過した放射ノイズは、これらの隙間を部分的に通過して、金属製のカバーにより反射され、再び車載回路基板で部分的に反射される。
【0009】
その結果、上記筐体では、車載回路基板と金属製のカバーとの間の空間で共振現象が生じる。特に、共振周波数が電子部品の誤動作する周波数に一致してしまうと、エアバッグ展開が正常に行われないなどの問題が生じる可能性がある。
【0010】
つまり、筐体の軽量化や低コスト化を図るために、筐体の一部に樹脂製の部材を採用すると、放射ノイズの影響を低減することが困難になるという問題があった。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、樹脂製の部材を採用しながら、放射ノイズの影響を低減できる車載回路基板収容筐体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車載回路基板収容筐体の代表的な構成は、電子部品が実装された車載回路基板を備え、車載回路基板を収容する車載回路基板収容筐体であって、車載回路基板が載置される金属製の土台部材と、車載回路基板を覆って土台部材に組み付けられる樹脂製のカバー部材とを備え、土台部材は、矩形の底面部と、底面部の周囲に立設され車載回路基板に接することで底面部と車載回路基板との間に空洞を形成する枠体と、底面部から空洞内に立設される少なくとも1つの壁部とを有することを特徴とする。
【0013】
上記の構成において、外部からカバー部材に向けて放射ノイズ(電磁波)が照射された場合を想定する。電磁波は、外部から樹脂製のカバー部材を通って、さらに車載回路基板に至る。車載回路基板に至る電磁波は、車載回路基板を部分的に通過して上記空洞に至り、金属製の土台部材で反射される。土台部材で反射された電磁波は、車載回路基板で部分的に反射され、その後再度、土台部材で反射される。
【0014】
上記空洞は、金属製の土台部材と、部分的には導電壁と見なせる車載回路基板とで囲まれた空間であるから、いわゆる空洞共振器として機能する。一般に、空洞共振器は、導電壁で囲まれた空間内に、空間の寸法および形状で定まる、ある特定の波長の電磁界のみが成長する共振現象を生じさせる。なお、共振現象に伴い空間内に生じる電磁界の様子を示す共振モードは、空間内の電磁波の共振周波数に応じて多数存在する。
【0015】
上記空洞内では、土台部材と車載回路基板との間で電磁波が反射を繰り返すので、共振現象が生じる。共振現象により、車載回路基板に実装された電子部品が誤動作する共振周波数(例えば、1.64GHz程度)を有する、電磁波(例えば、マイクロ波)が空洞内に発生する可能性がある。つまり、上記空洞を有する筐体では、共振現象により生じた電磁波によって、電子部品の動作が不安定となり、誤動作を生じることがあり得る。一例として、矩形の底面部の長辺、短辺などの長さが、電子部品が誤動作する周波数を有する電磁波の1/2波長(一般的には1/n波長、nは2以上の整数)に一致してしまうと、誤動作が生じ易い。
【0016】
そこで本発明では、土台部材の底面部から空洞に向けて立設する壁部を形成することで、壁部が存在しないとき空洞内で生じると予想される、共振モードの電界および磁界の形成を妨げる。言い換えると、壁部は、上記空洞内の電磁波の共振周波数をずらす機能を有する。したがって、上記車載回路基板収容筐体によれば、樹脂製のカバー部材を採用しながらも、電子部品の誤動作周波数と一致する共振周波数を有する電磁波が、空洞内に形成されることを防ぐことができ、電子部品の誤動作を防止し、外部からの放射ノイズの影響を低減できる。
【0017】
上記の壁部は、底面部の短辺を除く領域に立設されているとよい。これにより、壁部は、底面部の長辺方向に沿った短辺を除く中間部分に存在することになり、電子部品が誤作動を起こす共振周波数に近い共振モードの電界および磁界の形成を妨げ易い。よって、外部からの放射ノイズの影響をより効果的に低減できる。
【0018】
上記の壁部は、底面部をその短手方向から見たとき、底面部の長辺の中央に重なる部分を含むように設けるとよい。これにより、壁部は、共振モードの電界および磁界の形成をより確実に妨げ、問題となる共振周波数をずらし、外部からの放射ノイズの影響をより効果的に低減できる。なお、壁部が、底面部の両方の短辺にそれぞれ面する2つの側面を有する場合には、壁部が底面部の長辺の中央に重なるのであれば、2つの側面からそれぞれが面する両方の短辺までの距離は異なっていてもよい。
【0019】
上記の壁部は、底面部の両方の短辺にそれぞれ面する2つの側面を有し、2つの側面からそれぞれが面する両方の短辺までの距離は等しいとよい。これにより、壁部は、底面部を短手方向から見たときに底面部の長辺の中央に位置する中央部分を確実に含むので、問題となる共振周波数をより確実にずらし、外部からの放射ノイズの影響をより効果的に低減できる。
【0020】
上記の壁部は、底面部の短手方向に延びているとよい。これにより、壁部は、共振モードで生じる長辺方向に沿った電界および磁界に対して直交する向きに位置する。よって、壁部は、共振モードの電界および磁界の形成をより確実に妨げ、問題となる共振周波数をより確実にずらし、外部からの放射ノイズの影響をより効果的に低減できる。
【0021】
上記の車載回路基板は、外部コネクタを含み、壁部は、車載回路基板をその法線方向から見たとき外部コネクタと重なるとよい。これにより、車載回路基板のうち、放射ノイズの影響を受け易いと予想される外部コネクタ付近で、問題となる共振モードの電界および磁界の形成を妨げることができる。よって、電子部品の誤動作が生じ難くなる。
【0022】
上記の車載回路基板は、電源ラインを含み、壁部は、車載回路基板をその法線方向から見たとき電源ラインと重なり、または電源ラインの近傍に位置しているとよい。これにより、車載回路基板のうち、放射ノイズの影響を受け易いと予想される電源ライン付近で、問題となる共振モードの電界および磁界の形成を妨げることができる。よって、電子部品の誤動作が生じ難くなる。
【0023】
上記の壁部の高さは、枠体の高さより低いとよい。これにより、車載回路基板に壁部が接触せず、車載回路基板は、力学的ストレスを受けない。なお、車載回路基板に壁部が接触すると、ノイズ対策としては好ましい。
【0024】
上記の底面部は、一方の長辺と一方の短辺とが交差する箇所に形成された第1グランド端子と、一方の長辺と他方の短辺とが交差する箇所に形成された第2グランド端子と、他方の長辺と一方の短辺とが交差する箇所から離間し、一方の短辺に形成された第3グランド端子と、他方の長辺と他方の短辺とが交差する箇所の近傍に位置し、他方の短辺に形成された第4グランド端子とを有するとよい。これにより、第1グランド端子と第2グランド端子との距離と、第3グランド端子と第4グラント端子との距離とが異なる。よって、電磁波の共振を多少なりとも妨げ、外部からの放射ノイズの影響を低減できると想定される。
【0025】
上記の車載用回路基板と土台部材との間に電磁波吸収シートを設けてもよい。このようにすれば、電磁波が電磁波吸収シートで吸収され、電磁波の共振を多少なりとも妨げることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、樹脂製の部材を採用しながら、放射ノイズの影響を低減できる車載回路基板収容筐体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態における車載回路基板収容筐体を示す図である。
図2図1の車載回路基板収容筐体の分解斜視図である。
図3図2の車載回路基板収容筐体の土台部材を示す図である。
図4図2の車載回路基板収容筐体の車載回路基板の裏面を示す図である。
図5図3の土台部材に車載回路基板を載置した状態を示す図である。
図6】比較例となる土台部材を示す上面図である。
図7図6の土台部材で形成される空洞内に生じる共振現象を説明する模式図である。
図8図7の空洞内に生じる共振モードを例示する図である。
図9】共振周波数をずらす原理を説明する模式図である。
図10】本発明の他の実施形態である、他の土台部材を例示する上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態における車載回路基板収容筐体を示す図である。図2は、図1の車載回路基板収容筐体の分解斜視図である。車載回路基板収容筐体(以下、筐体100)は、図示のように、金属製の土台部材102と、樹脂製のカバー部材104とを備え、内部には車載回路基板106が収容されている。
【0030】
土台部材102は、車載回路基板106を載置する土台となる部材であり、例えばアルミダイキャストで成形されている。土台部材102は、図2に例示するように、矩形の底面部108と、底面部108の周囲に立設された枠体110と、底面部108に立設した壁部112とを備える。また、土台部材102は、底面部108と枠体110とを用いて形成されたグランド端子114a、114b、114c、114dと、筐体100を車両に固定するために外側に張り出したフランジ116a、116b、116cとを有している。
【0031】
カバー部材104は、図2に例示するように、下方が開放された箱型を成す部材であり、その内部に車載回路基板106を収容する。そして、カバー部材104が車載回路基板106を覆って、土台部材102に組み付けられることで、図1に例示する筐体100が組立てられる。
【0032】
車載回路基板106には、所定の周波数で動作する電子部品が多数実装されている。ただし、図2では、車載回路基板106に設置された外部コネクタ117のみを示している。
【0033】
つぎに、図3図5を参照して、筐体100の各部材について説明する。図3は、図2の筐体100の土台部材102を示す図である。図3(a)は土台部材102の上面図である。図3(b)は、図3(a)のA−A断面図である。
【0034】
土台部材102の底面部108は、図3(a)に例示するように、長辺118a、118bおよび短辺120a、120bとで規定された矩形である。ここでは一例として、長辺118a、118bを105mm程度、短辺120a、120bを85mm程度とした。また、図3(b)に例示する枠体110の高さ、すなわち底面部108から枠体110の上端110aまでの寸法Laを5mmとした。さらに、図3(b)に例示する壁部112の高さ、すなわち底面部108から壁部112の上端112aまでの寸法Lbを4mmとした。よって、壁部112の高さは、枠体110の高さより低い。
【0035】
壁部112は、図3(a)に例示するように、短辺120a、120bに平行な側面122、124を含む。また、壁部112は、図3(b)の点線で示す中央部分126と重なっている。中央部分126は、底面部108をその短辺方向(短手方向)から見たとき、底面部108の長辺118aの中央に位置する部分である。側面122は、図3(b)に例示するように短辺120aから寸法Lcだけ離間している。側面124は、図3(b)に例示するように短辺120bから寸法Ldだけ離間している。また、寸法Lcは寸法Ldよりも大きい。
【0036】
第1グランド端子(グランド端子114a)は、図3(a)に例示するように、長辺118bと短辺120aとが交差する箇所に設定されている。第2グランド端子(グランド端子114b)は、長辺118bと短辺120bとが交差する箇所に設定されている。
【0037】
第3グランド端子(グランド端子114c)は、短辺120aに設定されている。グランド端子114cは、長辺118aと短辺120aとが交差する箇所から離間していて、短辺120aの中央から上記交差する箇所に多少近付いた位置にある。第4グランド端子(グランド端子114d)は、短辺120bに設定されている。グランド端子114dは、長辺118aと短辺120bとが交差する箇所の近傍に位置している。なお、これらのグランド端子114a〜114dには、図示のように孔が開けられていて、車載回路基板106およびカバー部材104を組付ける際の締結部としても用いられる。
【0038】
グランド端子114cが短辺120aに設定されているので、図3(a)に例示するように、グランド端子114a、114b間の寸法Leは、グランド端子114c、114d間の寸法Lfよりも小さい。ここで、寸法Lfは、約90mmとした。つまり、寸法Lfは、車載回路基板106に実装されている多数の電子部品が誤動作する周波数1.64GHzの1/2波長である91.4mmに近い寸法であった。なお、波長は、式(1)から算出される。
【0039】
波長=電磁波の速度/周波数≒3×1011/1.64×10=182.8mm (1)
図4は、図2の筐体100の車載回路基板106の裏面を示す図である。車載回路基板106の裏面には、図4に例示するように、例えば電源用IC128と、電源用IC128に接続された電源ライン130とが実装されている。電源ライン130は、車載回路基板106の表面に実装された図中点線で示す外部コネクタ117の一部と重なる位置に存在している。
【0040】
図5は、図3の土台部材102に車載回路基板106を載置した状態を示す図である。図5(a)は、土台部材102とともに車載回路基板106の表面を示す上面図である。図5(b)は、図5(a)のB−B断面図である。壁部112は、図5(a)に例示するように、車載回路基板106をその法線方向(ここでは上方)から見て外部コネクタ117と重なる領域、および電源ライン130と重なる領域またはその近傍に位置している。枠体110は、図5(b)に例示するように、その上端110aが車載回路基板106に接していて、底面部108と車載回路基板106との間に空洞140を形成している。
【0041】
以下、図6図9を参照して、筐体100に外部から放射ノイズ(電磁波)が照射される状況下で、空洞内に共振現象が生じる場合について説明する。なお、放射ノイズが照射される状況としては、例えば車室内に置かれる無線機や、沿道に設置された各種機器から放射ノイズが発生し、この放射ノイズが走行中の車両に照射される場合などが考えられる。
【0042】
図6は、比較例となる土台部材を示す上面図である。図7は、図6の土台部材で形成される空洞内に生じる共振現象の原理を説明する模式図である。図7(a)は、比較例の土台部材を用いた場合に空洞内に共振現象が生じる様子を示している。図7(b)は、図7(a)から土台部材を省略した構成での放射ノイズの様子を示している。図7(c)は、図7(a)に電磁波吸収シートを追加した構成での放射ノイズの様子を示している。
【0043】
比較例の土台部材202は、図6に例示するように、底面部208に上記壁部112が形成されていない点で上記土台部材102と異なる。土台部材202は、図7(a)に例示するように、車載回路基板106との間で空洞140Aを形成している。
【0044】
まず、外部から放射ノイズが照射される状況を想定し、ECUの起動前に、筐体100に向けて放射ノイズを照射した。なお、ECUは、比較例の土台部材202を用いた筐体100に収容された車載回路基板106を含むものとする。そして、放射ノイズ照射中にECUを起動させたところ、ECUが起動しないという誤動作を確認した。また、動作中のECUノイズを照射したところ、ECUの動作が停止するという誤動作も確認した。この誤動作は、共振現象に伴って空洞140A内に発生した放射ノイズの共振周波数が、車載回路基板106に実装された電子部品の動作周波数1.6GHz程度に一致したためと考えられる。
【0045】
具体的には、外部から筐体100に照射された放射ノイズ142は、図示を省略する上記樹脂製のカバー部材104を通って、図7(a)に例示するように車載回路基板106に至る。車載回路基板106は、電子部品が実装された例えば多層基板であり、全体として見れば1枚の金属板(導電壁)と見なせるものの、実際には電子部品間等多くの隙間が存在する。
【0046】
そのため、車載回路基板106に至る放射ノイズ142は、車載回路基板106を部分的に通過して空洞140Aに至り、金属製の土台部材202で反射される。土台部材202で反射された放射ノイズ144は、図7(a)に例示するように、車載回路基板106で部分的に反射され、その後再度、土台部材202で反射される。
【0047】
つまり、上記空洞140Aは、金属製の土台部材202と、部分的には導電壁と見なせる車載回路基板106とで囲まれた空間であるから、いわゆる空洞共振器として機能していると考えられる。一般に、空洞共振器は、導電壁で囲まれた空間内に、空間の寸法および形状で定まる、ある特定の波長の電磁界のみが成長する共振現象を生じさせる。
【0048】
一方、図7(b)に例示するように、土台部材202を除いた構成では、放射ノイズ142は車載回路基板106を部分的に通過するのみであり、電子部品の誤動作は確認されなかった。よって、車載回路基板106の上面から照射された放射ノイズ142が、車載回路基板106の電子部品に直接影響を与えてはいないことが確認された。
【0049】
また、図7(c)に例示するように、車載回路基板106と土台部材202との間の空洞内に電磁波吸収シート146を配置した構成でも、電子部品の誤動作は確認されなかった。
【0050】
この構成では、車載回路基板106を部分的に通過した放射ノイズ142は、電磁波吸収シート146で吸収されつつ、放射ノイズ148aとして土台部材202に至り、土台部材202で反射され、放射ノイズ148bとなる。放射ノイズ148bは、電磁波吸収シート146で吸収され、放射ノイズ148cとして車載回路基板106に至り、車載回路基板106で部分的に反射され、放射ノイズ148dとなる。放射ノイズ148dは、電磁波吸収シート146で吸収されつつ、放射ノイズ148eとして空洞に至る。つまり、電磁波吸収シート146により電磁波が吸収されることで、共振現象が生じなかったと考えられる。
【0051】
したがって、図7(a)に模式的に示す比較例の土台部材202を用いた筐体100では、車載回路基板106と土台部材202とが空洞140Aを介して平行平板を形成し、いわゆる平行平板共振を起こすような共振現象が生じていると想定される。
【0052】
図8は、図7の空洞内に生じる共振モードを例示する図である。共振モードとは、共振現象に伴って空間内に生じる電磁界の様子を示すものであり、空間内の電磁波の共振周波数に応じて多数存在する。図8(a)および図8(b)では、ある瞬間での電界を実線で示し、磁界を点線で示している。
【0053】
図8(a)は、比較例の土台部材202を用いた筐体100の空洞140Aに生じる共振モード150、152、154を模式的に示している。図8(b)は、共振モード150、152、154で示される電磁界と上記土台部材102とを重ねて示す模式図である。なお、図8(a)および図8(b)で各共振モードとして上側に例示する図は、空洞140Aを上方から見た状態を示している。また、各共振モードとして下側に例示する図は、空洞140Aを側方から見た状態を示していて、さらに高さ方向に拡大して示している。
【0054】
共振モード150、152、154は、いずれも代表的なモードであり、電子部品の誤動作周波数である1.6GHz程度を共振周波数と仮定している。上記の式(1)で算出したように、周波数1.64GHzの電磁波の1/2波長、すなわち91.4mmの整数倍の高調波が空洞140A内で定在波として存在し共振することで、共振モード150、152、154に示す電磁界がそれぞれ形成される。なお、空洞140A内に生じる電磁界の様子が共振モード150、152、154のうちいずれのモードに分類されるかは、空洞140Aの寸法および形状に依存する。
【0055】
ここで、土台部材202の底面部208の長辺118a、118b、短辺120a、120bあるいはグランド端子114c、114d間の長さが、上記の電磁波の1/2波長にほぼ一致してしまうと、電子部品の誤動作が生じ易い。上記したように、図3(a)に例示するグランド端子114c、114d間の寸法Lfは、約90mmであり、誤動作を起こした周波数1.64GHzの電磁波の1/2波長である91.4mmに近い寸法であった。
【0056】
そこで本実施形態では、土台部材102の底面部108に上記壁部112を立設することで、放射ノイズの共振周波数をずらし、電子部品の誤動作する周波数と異なるようにして、電子部品の誤動作を防止している。
【0057】
すなわち、図8(b)に例示するように、底面部108の長辺118aに点線で示す壁部112を立設した場合には、共振モード150、152、154に示される電界および磁界の形成が妨げられる。つまり、壁部112が占める領域には、電界および磁界が形成されず、図示は省略するが、共振モード150、152、154に示される電磁界とは異なる電磁界が形成され、その結果、共振周波数がずれることになる。
【0058】
図9は、共振周波数をずらす原理を説明する模式図である。図9(a)は、共振周波数1.64GHzの定在波160の1波長分を代表的に示している。なお、定在波160は、図8(a)に例示した共振モード150、152、154で示される電磁界から形成される。図9(b)は、図9(a)に例示する定在波160が壁部112によって遮られる様子を示している。
【0059】
定在波160の1/2波長毎に現れる節の位置を、図9(b)に例示するようにグランド端子114c、114dと仮定すると、グランド端子114c、114dの間に壁部112が位置する。このため、定在波160は、図9(b)に例示する壁部112の点Cにおいて反射され、図中の波長λとは異なる波長を有する新たな定在波となる。よって、新たな定在波の周波数は、電子部品の誤動作周波数1.64GHzとは異なると想定される。
【0060】
本実施形態によれば、土台部材102の底面部108から空洞に向けて立設する壁部112を形成することで、壁部112が存在しない空洞140A内で生じると予想される、共振モード150、152、154の電界および磁界の形成を妨げ、放射ノイズの共振周波数をずらすことが可能となる。したがって、筐体100では、樹脂製のカバー部材104を採用しながらも、電子部品の誤動作する周波数と一致する放射ノイズが空洞内に形成されることがない。その結果、電子部品の誤動作を防止でき、外部からの放射ノイズの影響を低減できる。
【0061】
壁部112は、図3(a)に例示するように、側面122、124が底面部108の短辺方向と平行であるので、共振モードで生じる長辺方向(長手方向)に沿った電界および磁界に対して直交する向きに位置する。よって、壁部112は、共振モードの電界および磁界の形成を確実に妨げ、共振周波数を確実にずらし、外部からの放射ノイズの影響をより効果的に低減できる。
【0062】
壁部112は、図3(b)に例示するように、底面部108の上記中央部分126を含むので、壁部112は、共振モードの電界および磁界の形成を確実に妨げ、共振周波数をずらし、外部からの放射ノイズの影響をより効果的に低減できる。
【0063】
壁部112は、図5(a)に例示するように、車載回路基板106を上方から見て外部コネクタ117と重なる領域、あるいは電源ライン130と重なる領域またはその近傍に位置している。なお、外部コネクタ117および電源ライン130は、車載回路基板106のうち、放射ノイズの影響を受け易いと予想される。例えば電源ライン130に電界により電流が発生してしまうと回路動作が不安定になると考えられる。よって、壁部112は、外部コネクタ117あるいは電源ライン130の付近で、共振モードの電界および磁界の形成を妨げることができ、電子部品の誤動作を防止できる。
【0064】
グランド端子114a、114b間の寸法Leと、グランド端子114c、114d間の寸法Lfとが異なるので、電磁波の共振を多少なりとも妨げ、外部からの放射ノイズの影響を低減できると想定される。
【0065】
壁部112の高さは、枠体110の高さより低いので、車載回路基板106に壁部112が接触せず、車載回路基板106は、力学的ストレスを受けない。なお、車載回路基板106に壁部112が接触すると、ノイズ対策としては好ましい。
【0066】
上記実施形態では、土台部材102の底面部108の長辺118aに1つの壁部112を立設したが、共振モードの電界および磁界の形成を妨げることが可能であれば、壁部112の配置はこれに限定されない。
【0067】
図10は、本発明の他の実施形態である、他の土台部材を例示する図である。図10(a)は、壁部を多数立設した例を示す図である。図10(b)は、図10(a)とは異なる土台部材を例示する図である。
【0068】
土台部材102Aは、図10(a)に例示するように、底面部108Aの短辺120a、120bを除く領域に立設した多数(ここでは、9個)の壁部112、162a〜162hを有している。言い換えると、壁部112、162a〜162hは、底面部108の長辺方向に沿った短辺120a、120bを除く中間領域に存在することになり、共振モードの電界および磁界の形成を妨げ易い。
【0069】
土台部材102Bは、図10(b)に例示するように、底面部108Bの短辺に立設した2つの壁部164a、164bを有している。この壁部164a、164bは、いずれも底面部108の長辺118a、118bに平行になるように立設している。これにより、壁部112は、共振モードで生じる短辺方向に沿った電界および磁界に対して直交する向きに位置する。よって、壁部112は、共振モードの電界および磁界の形成を確実に妨げ、共振周波数を確実にずらすことが可能となる。したがって、筐体100に土台部材102A、102Bを用いた場合であっても、外部からの放射ノイズの影響をより効果的に低減できる。
【0070】
また、上記壁部112では、図3(b)に例示するように、側面122と短辺120aとの間の寸法Lcは、側面124と短辺120bとの間の寸法Ldと一致しないとしたが(寸法Lc>寸法Ld)、これに限られず、寸法Lcと寸法Ldとが等しくてもよい。このようにすれば、壁部112は、底面部108をその短辺方向から見たとき中央部分126と必ず重なることになる。よって、共振モードの電界および磁界の形成を確実に妨げ、共振周波数を確実にずらし、外部からの放射ノイズの影響をより効果的に低減できる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、特定周波数で動作する電子部品が実装された車載回路基板を収容する車載回路基板収容筐体に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
100…筐体、102、102A、102B…土台部材、104…カバー部材、106…車載回路基板、108、108A、108B…底面部、110…枠体、112、162a〜162h、164a、164b…壁部、114a〜114b…グランド端子、116a〜116d…フランジ、117…外部コネクタ、118a、118b…長辺、120a、120b…短辺、122、124…側面、126…中央部分、128…電源IC、130…電源ライン、140…空洞、142、144、148a〜148e…放射ノイズ(電磁波)、146…電磁波吸収シート、150、152、154…共振モード、160…定在波
図1
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