(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記速度制御手段は、前記溶接手段の上昇速度が180mm/min以下に抑制されるように前記上昇手段を制御することを特徴とする請求項3又は請求項5に記載のアーク溶接装置。
被溶接鋼板の開先内で溶接ワイヤからアークを略鉛直下方向に発生させて溶融池を形成することにより溶接を行う溶接機を、当該被溶接鋼板に対して相対的に略鉛直上方向に上昇させることにより、溶接開先面を1パス施工で充填させる立向上進溶接を行うアーク溶接装置において用いられる定電圧特性溶接電源であって、
前記溶接ワイヤに電流を給電して前記アークを発生させる電源手段と、
前記電源手段から出力される出力電流をモニターし、当該出力電流の値が予め設定された設定電流値よりも小さい場合に、前記溶接機の上昇速度が低くなるように制御し、当該出力電流の値が前記設定電流値よりも大きい場合に、前記溶接機の上昇速度が高くなるように制御する速度制御手段と、
前記速度制御手段により前記上昇速度が制御された結果、前記溶融池の表面と前記溶接ワイヤとの間の距離が安定的に保たれた状態で、溶接時に前記電源手段から出力される出力電圧をモニターし、当該出力電圧の値が予め判定基準として定められた判定電圧を下回った回数又は時間に関する情報を把握し、当該回数又は時間に関する情報が予め設定された設定基準を上回っている場合に、当該出力電圧の値が高くなるように制御し、当該回数又は時間に関する情報が前記設定基準を下回っている場合に、当該出力電圧の値が低くなるように制御する電圧制御手段と
を備えたことを特徴とする定電圧特性溶接電源。
被溶接鋼板の開先内で溶接ワイヤからアークを略鉛直下方向に発生させて溶融池を形成することにより溶接を行う溶接機を、当該被溶接鋼板に対して相対的に略鉛直上方向に上昇させることにより、溶接開先面を1パス施工で充填させる立向上進溶接を行うアーク溶接方法であって、
前記溶接ワイヤに電流を給電して前記アークを発生させる溶接電源から出力される出力電流をモニターし、当該出力電流の値が予め設定された設定電流値よりも小さい場合に、前記溶接機の上昇速度が低くなるように制御し、当該出力電流の値が前記設定電流値よりも大きい場合に、前記溶接機の上昇速度が高くなるように制御するステップと、
前記上昇速度を制御するステップでの制御の結果、前記溶融池の表面と前記溶接ワイヤとの間の距離が安定的に保たれた状態で、溶接時に前記溶接電源から出力される出力電圧をモニターし、当該出力電圧の値が予め判定基準として定められた判定電圧を下回った回数又は時間に関する情報を把握し、当該回数又は時間に関する情報が予め設定された設定基準を上回っている場合に、当該出力電圧の値が高くなるように制御し、当該回数又は時間に関する情報が前記設定基準を下回っている場合に、当該出力電圧の値が低くなるように制御するステップと
を含むことを特徴とするアーク溶接方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態の目標は、如何なる場合でも最適なアーク長(アーク電圧)が常時一定に保たれるように制御することにある。この目標を達成するために、発明者らはまず適正溶接条件に関する研究を進め、立向上進溶接において、溶込みの確保と良好な溶接金属性能が得られるアーク長条件では、適当間隔で短絡現象が起こることに気付いた。短絡とは、アークが瞬間的に消失して、溶接ワイヤの先端が溶融池面と接触する現象である。
一定時間あたりの短絡回数が多い場合は、アーク長が短いことになるので、溶込み不良が生じた。一方、短絡回数が少ない場合は、アーク長が長いことになるので、溶接金属性能の劣化が生じた。
また、発明者らは、短絡回数ではなく、短絡が起きている時間(短絡時間)を測定して制御すれば、より高精度にアーク長を適正値に保てることも見出した。
この現象を利用し、溶接装置において、電圧をサンプリング、解析、判定し、溶接電源に出力電圧指令を発生する仕組みを発明するに至った。
【0027】
さて、実際の制御であるが、短絡は極めて短い時間の現象であり、アーク消失した電圧ゼロ近傍のタイミングを観測することが技術的に難しいため、電圧がある閾値を下回った時に短絡が発生したとして解析する。本実施の形態では、この閾値を判定電圧V
shortと定義するが、2次側ケーブルの長さ、溶接条件、溶接材料、シールドガス等に応じて、最もアーク長制御が安定する適正値とすればよい。但し、一般的には10〜18Vの間に設定すれば問題なく、ここではV
short=15Vとしている。
【0028】
図1は、短絡回数をアーク長制御パラメータとして用いる場合について示した図である。
この場合は、図示するように、V
shortを下回ってから再び超えるまでを短絡を1回としてカウントし、一定時間Tsあたりに発生した短絡回数をTsで除算することによってN
short[回/sec]を求める。尚、Tsを具体的に如何なる値に設定するかは、制御が最も有効となる値を見出すべく自由である。Tsの値としては、0.1〜1sec程度が有効であるが、0.5sec程度で問題ない。但し、過度にTsが小さければ、N
shortのばらつきが大きくなり、制御が不安定となり易い。一方、過度にTsが大きければ、制御の応答速度が遅くなり、急激なアーク長変動が起きた場合に、即座に対応できずやはり不安定となる。
図1において、Tsが0.5secならば、N
shortは8回/secとなる。算出されたN
shortを設定回数N
setと比較してそれに応じた電圧出力指令を発し、これをルーチンとして連続的に行うことでアーク長は常に適正に保たれる。
【0029】
図2は、短絡時間をアーク長制御パラメータとして用いる場合について示した図である。
この場合は、図示するように、V
shortを下回ってから再び超えるまでの時間をT
short1、T
short2、…として計測し、適当回数分の平均値を算出し、平均短絡時間Ave
Tshortとして比較に供する。具体的には、T
short1、T
short2、…の合計値ΣT
shortを短絡回数で除算することによってAve
Tshortを求める。尚、平均値の算出に用いる短絡回数は制御が最も有効となる値を見出すべく自由である。この短絡回数の値としては、3〜20回程度が有効であるが、5回程度で問題ない。但し、平均値の算出に用いる短絡回数が過度に少なければ、Ave
Tshortのばらつきが大きくなり、制御が不安定となり易い。一方、平均値の算出に用いる短絡回数が過度に多ければ、制御の応答速度が遅くなり、急激なアーク長変動が起きた場合に、即座に対応できずやはり不安定となる。
図2において、算出されたAve
Tshortを設定時間T
setと比較してそれに応じた電圧出力指令を発し、これをルーチンとして連続的に行うことでアーク長は常に適正に保たれる。
【0030】
次に、このような制御の実現方法について、詳細に説明する。尚、エレクトロガスアーク溶接法には、代表的なものとして、1電極型と2電極型とがあるので、ここでは、前者を第1の実施の形態とし、後者を第2の実施の形態として説明する。
【0031】
まず、第1の実施の形態における制御の実現方法について述べる。
図3は、第1の実施の形態における溶接装置1の概略構成図である。
図示するように、第1の実施の形態における溶接装置1は、電極からアークを発生させて溶接するエレクトロガスアーク溶接用の溶接ロボット10と、溶接ロボット10に関する操作及び情報表示を行うための操作表示ボックス20とを備えている。また、溶接装置1は、溶接のための電力を供給する溶接電源30と、溶接電源30から出力される電流を流す2次側ケーブル40とを備えている。更に、溶接装置1は、2次側ケーブル40を流れる電流に基づいて溶接ロボット10における溶接機の上昇速度を調整する速度調整回路50と、溶接電源30から出力される電圧に基づいて溶接電源30による出力電圧を調整する電圧調整回路60とを備えている。
【0032】
溶接ロボット10は、1対の鋼板からなる母材Bの鉛直又はそれに近い方向に延びる開先Gに溶融池Pを形成するための溶接トーチ11と、電極として機能する溶接ワイヤを溶接トーチ11に送給するワイヤ送給モータ12と、開先Gの裏側に装着された裏当て材13と、開先Gの表側に装着された摺動銅板14とを備えている。また、溶接ロボット10は、溶融池Pの表面の上昇により溶接トーチ11とワイヤ送給モータ12と摺動銅板14とからなる溶接機にリンクして上昇するキャリッジ15と、指示された速度でキャリッジ15を上昇させる上昇モータ16と、キャリッジ15の上昇をガイドするレール17とを備えている。
【0033】
溶接トーチ11は、溶接ワイヤを有し、この溶接ワイヤは溶接電源30から電圧が印加されることでアークを発生させる。また、溶接トーチ11は、図示しないウィービングモータにより、矢印Wで示す方向にウィービング可能になっている。
ワイヤ送給モータ12は、溶接ワイヤが巻かれた図示しないワイヤリールから溶接ワイヤを開先Gへ送るために溶接トーチ11に送給する。その際、ワイヤ送給モータ12が溶接ワイヤを送給する速度Fは、後述する設定電流値I
setを換算することによって決められる。
裏当て材13は、開先Gの裏のルートギャップ部分に装着される部材であり、その材質は金属であっても非金属であってもよい。或いは、裏当て材13は設けずに、母材Bが接触するように突き合わせてもよい。
摺動銅板14は、開先Gの長手方向に沿って開先Gに対して相対的に摺動可能な銅板である。この摺動銅板14にはガス供給口141が設けられており、ガス供給口141から供給されたシールドガスがアークを覆うことによって溶接雰囲気内に空気が侵入することを防止する。また、この摺動銅板14には冷却管142も設けられており、冷却管142から流通された水が摺動銅板14を介して溶融池Pを冷却し溶接金属Mとすることを可能にしている。
キャリッジ15は、レール17にガイドされて開先Gの長手方向に上昇する。これにより、溶接トーチ11、ワイヤ送給モータ12、摺動銅板14も開先Gの長手方向(図中白抜き矢印Uの方向)に上昇する。
上昇モータ16は、速度調整回路50からの指令に基づく速度でキャリッジ15を上昇させる。
レール17は、母材B上に開先Gの長手方向に沿って這わせられた鋼材である。
【0034】
操作表示ボックス20は、溶接ロボット10に作業させる際に、例えば溶接条件を指令するために用いられる装置である。ここで、溶接条件には、まず、設定電流値I
set及び判定電圧V
shortが含まれる。また、一定時間内の短絡回数の閾値である設定回数N
set又は平均短絡時間の閾値である設定時間T
setも含まれる。尚、操作表示ボックス20は、図示しないが、液晶等により構成された表示画面と、入力ボタンとを備えている。或いは、操作表示ボックス20は、例えば、低圧の電界を形成したパネルの表面電荷の変化を検知することで指が触れた位置を電気的に検出する静電容量方式や、互いに離間する電極の指が触れた位置が非通電状態から通電状態に変化することによりその位置を電気的に検出する抵抗膜方式等の周知のタッチパネルであってもよい。
【0035】
溶接電源30は、定電圧特性溶接電源であり、ワイヤ送給モータ12が溶接ワイヤを送給する速度Fが決まると、溶接ワイヤを溶融するに足る電流を出力する。
【0036】
2次側ケーブル40は、溶接電源30と、溶接トーチ11が有する溶接ワイヤ又は母材Bとをつなぐケーブルである。2次側ケーブル40は、溶接電源30のプラス側と溶接ワイヤとを接続し、溶接電源30のマイナス側と母材Bとを接続する。
【0037】
速度調整回路50は、2次側ケーブル40を流れる電流をサンプリングする電流サンプリング回路51と、電流サンプリング回路51によりサンプリングされた電流を判定して上昇モータ16に上昇速度指令を発する判定回路52とを備えている。
電流サンプリング回路51は、溶接電源30から出力され2次側ケーブル40を流れている電流I
powerをモニターする。
判定回路52は、電流I
powerが設定電流値I
set未満であればキャリッジ15の上昇速度S
upを低下させる指令を発し、電流I
powerが設定電流値I
setと同じであればキャリッジ15の上昇速度S
upを維持する指令を発し、電流I
powerが設定電流値I
setより高ければキャリッジ15の上昇速度S
upを高める指令を発する。
【0038】
電圧調整回路60は、溶接電源30から出力される電圧をサンプリングする電圧サンプリング回路61と、電圧サンプリング回路61によりサンプリングされた電圧の波形を解析してその解析結果を出力する波形解析回路62と、波形解析回路62による解析結果に応じて溶接電源30に出力電圧指令を発する判定回路63とを備えている。
電圧サンプリング回路61は、溶接時に溶接電源30から出力される電圧V
powerをモニターする。
波形解析回路62は、電圧V
powerが所定の判定電圧V
shortを下回った単位時間当たりの回数N
short[回/sec]をカウントする。或いは、電圧V
powerが所定の判定電圧V
shortを下回り続けている時間の適当回数分の平均時間Ave
Tshort[sec]を求める。
判定回路63は、回数N
shortが設定回数N
setを超えていれば電圧V
powerを高める指令を発し、回数N
shortが設定回数N
setと同じであれば電圧V
powerを維持する指令を発し、回数N
shortが設定回数N
set未満であれば電圧V
powerを下げる指令を発する。或いは、適当回数分の平均時間Ave
Tshortが設定時間T
setを超えていれば電圧V
powerを高める指令を発し、平均時間Ave
Tshortが設定時間T
setと同じであれば電圧V
powerを維持する指令を発し、平均時間Ave
Tshortが設定時間T
setを下回れば電圧V
powerを下げる指令を発する。
【0039】
図4は、第1の実施の形態の溶接装置1に対応する比較例としての従来の溶接装置1の概略構成図である。
この従来の溶接装置1は、
図3に示した第1の実施の形態の溶接装置1において、電圧調整回路60を設けず、操作表示ボックス20で指令する溶接条件に、判定電圧V
short、設定回数N
set、設定時間T
setを含めず、設定電圧値V
setを含めたものに過ぎないので、各構成要素の詳しい説明は省略する。
【0040】
尚、第1の実施の形態では、電圧調整回路60を溶接電源30とは独立した所謂制御ボックスとして構成したが、この限りではない。溶接電源30に電圧調整回路60を内蔵させて専用電源とすると、可搬性、接続性に優れ、より使い易くなる。
【0041】
また、
図3には示さなかったが、電圧調整回路60を制御ボックスとするか、電圧調整回路60を溶接電源30に内蔵するかに関わらず、通常の溶接電源30に必須となっている出力電圧を設定電圧値V
setに調整する電圧調整機能(ダイヤルつまみ又はデジタル式設定による)は、アークスタート時のみ有効とする。なぜならば、一般的に電圧調整機能はアーク長を作業者が意識的に調整させるための機能であるが、本実施の形態ではアーク長が自動で最適に調整されるため、作業者の判断と官能による調整作業は不要となる一方、アークスタート時の瞬間に限っては、その計算機構上、本実施の形態における制御が機能しないからである。即ち、本実施の形態における電圧調整機能はアークスタート電圧を決めるために存在する。但し、電圧調整機能は溶接品質に殆ど影響を与えないので、その重要性は従来の溶接装置1に比べて著しく低下している。
【0042】
次に、第2の実施の形態における制御の実現方法について述べる。
図5は、第2の実施の形態における溶接装置1の概略構成図である。
図示するように、第2の実施の形態における溶接装置1は、電極からアークを発生させて溶接するエレクトロガスアーク溶接用の溶接ロボット10と、溶接ロボット10に関する操作及び情報表示を行うための操作表示ボックス20とを備えている。また、溶接装置1は、溶接のための電力を供給する溶接電源30a,30bと、溶接電源30aから出力される電流を流す2次側ケーブル40aと、溶接電源30bから出力される電流を流す2次側ケーブル40bと、溶接電源30a,30bから出力される電流を流す2次側ケーブル40cとを備えている。更に、溶接装置1は、2次側ケーブル40aを流れる電流に基づいて溶接ロボット10における溶接機の上昇速度を調整する速度調整回路50aと、溶接電源30aから出力される電圧に基づいて溶接電源30aによる出力電圧を調整する電圧調整回路60aと、溶接電源30bから出力される電圧に基づいて溶接電源30bによる出力電圧を調整する電圧調整回路60bとを備えている。
【0043】
溶接ロボット10は、1対の鋼板からなる母材Bの鉛直又はそれに近い方向に延びる開先Gに溶融池Pを形成するための溶接トーチ11a,11bと、電極として機能する溶接ワイヤを溶接トーチ11a,11bにそれぞれ送給するワイヤ送給モータ12a,12bと、開先Gの裏側に装着された裏当て材13と、開先Gの表側に装着された摺動銅板14とを備えている。また、溶接ロボット10は、溶融池Pの表面の上昇により溶接トーチ11a,11bとワイヤ送給モータ12a,12bと摺動銅板14とからなる溶接機にリンクして上昇するキャリッジ15と、指示された速度でキャリッジ15を上昇させる上昇モータ16と、キャリッジ15の上昇をガイドするレール17とを備えている。
【0044】
溶接トーチ11a,11bはそれぞれ溶接ワイヤを有し、これらの溶接ワイヤはそれぞれ溶接電源30a,30bから電圧が印加されることでアークを発生させる。また、溶接トーチ11a,11bは、図示しないウィービングモータにより、矢印Wで示す方向にウィービング可能になっている。
ワイヤ送給モータ12a,12bは、溶接ワイヤが巻かれた図示しないワイヤリールから溶接ワイヤを開先Gへ送るためにそれぞれ溶接トーチ11a,11bに送給する。その際、ワイヤ送給モータ12aが溶接ワイヤを送給する速度F
1は、後述する設定電流値I
set1を換算することによって決められ、ワイヤ送給モータ12bが溶接ワイヤを送給する速度F
2は、後述する設定電流値I
set2を換算することによって決められる。
裏当て材13、摺動銅板14、キャリッジ15、上昇モータ16、レール17については、第1の実施の形態で説明したものと同じなので、説明を省略する。
【0045】
操作表示ボックス20は、溶接ロボット10に作業させる際に、例えば溶接条件を指令するために用いられる装置である。ここで、溶接条件には、まず、設定電流値I
set1及び判定電圧V
short1と、設定電流値I
set2及び判定電圧V
short2とが含まれる。また、一定時間内の短絡回数の閾値である設定回数N
set1又は平均短絡時間の閾値である設定時間T
set1も含まれる。更に、一定時間内の短絡回数の閾値である設定回数N
set2又は平均短絡時間の閾値である設定時間T
set2も含まれる。尚、操作表示ボックス20は、図示しないが、液晶等により構成された表示画面と、入力ボタンとを備えている。或いは、操作表示ボックス20は、例えば、低圧の電界を形成したパネルの表面電荷の変化を検知することで指が触れた位置を電気的に検出する静電容量方式や、互いに離間する電極の指が触れた位置が非通電状態から通電状態に変化することによりその位置を電気的に検出する抵抗膜方式等の周知のタッチパネルであってもよい。
【0046】
溶接電源30aは、定電圧特性溶接電源であり、ワイヤ送給モータ12aが溶接ワイヤを送給する速度F
1が決まると、溶接ワイヤを溶融するに足る電流を出力する。また、溶接電源30bは、ワイヤ送給モータ12bが溶接ワイヤを送給する速度F
2が決まると、溶接ワイヤを溶融するに足る電流を出力する。
【0047】
2次側ケーブル40aは、溶接電源30aと、溶接トーチ11aが有する溶接ワイヤとをつなぐケーブルであり、2次側ケーブル40bは、溶接電源30bと、溶接トーチ11bが有する溶接ワイヤとをつなぐケーブルであり、2次側ケーブル40cは、溶接電源30a,30bと、母材Bとをつなぐケーブルである。2次側ケーブル40a,40bは、溶接電源30a,30bのプラス側と溶接ワイヤとを接続し、2次側ケーブル40cは、溶接電源30a,30bのマイナス側と母材Bとを接続する。
【0048】
速度調整回路50aは、2次側ケーブル40aを流れる電流をサンプリングする電流サンプリング回路51aと、電流サンプリング回路51aによりサンプリングされた電流を判定して上昇モータ16に上昇速度指令を発する判定回路52aとを備えている。
電流サンプリング回路51aは、溶接電源30aから出力され2次側ケーブル40aを流れている電流I
power1をモニターする。
判定回路52aは、電流I
power1が設定電流値I
set1未満であればキャリッジ15の上昇速度S
upを低下させる指令を発し、電流I
power1が設定電流値I
set1と同じであればキャリッジ15の上昇速度S
upを維持する指令を発し、電流I
power1が設定電流値I
set1より高ければキャリッジ15の上昇速度S
upを高める指令を発する。
【0049】
電圧調整回路60aは、溶接電源30aから出力される電圧をサンプリングする電圧サンプリング回路61aと、電圧サンプリング回路61aによりサンプリングされた電圧の波形を解析してその解析結果を出力する波形解析回路62aと、波形解析回路62aによる解析結果に応じて溶接電源30aに出力電圧指令を発する判定回路63aとを備えている。
電圧サンプリング回路61aは、溶接時に溶接電源30aから出力される電圧V
power1をモニターする。
波形解析回路62aは、電圧V
power1が所定の判定電圧V
short1を下回った単位時間当たりの回数N
short1[回/sec]をカウントする。或いは、電圧V
power1が所定の判定電圧V
short1を下回り続けている時間の適当回数分の平均時間Ave
Tshort1[sec]を求める。
判定回路63aは、回数N
short1が設定回数N
set1を超えていれば電圧V
power1を高める指令を発し、回数N
short1が設定回数N
set1と同じであれば電圧V
power1を維持する指令を発し、回数N
short1が設定回数N
set1未満であれば電圧V
power1を下げる指令を発する。或いは、適当回数分の平均時間Ave
Tshort1が設定時間T
set1を超えていれば電圧V
power1を高める指令を発し、平均時間Ave
Tshort1が設定時間T
set1と同じであれば電圧V
power1を維持する指令を発し、平均時間Ave
Tshort1が設定時間T
set1を下回れば電圧V
power1を下げる指令を発する。
【0050】
電圧調整回路60bは、溶接電源30bから出力される電圧をサンプリングする電圧サンプリング回路61bと、電圧サンプリング回路61bによりサンプリングされた電圧の波形を解析してその解析結果を出力する波形解析回路62bと、波形解析回路62bによる解析結果に応じて溶接電源30bに出力電圧指令を発する判定回路63bとを備えている。
電圧サンプリング回路61bは、溶接時に溶接電源30bから出力される電圧V
power2をモニターする。
波形解析回路62bは、電圧V
power2が所定の判定電圧V
short2を下回った単位時間当たりの回数N
short2[回/sec]をカウントする。或いは、電圧V
power2が所定の判定電圧V
short2を下回り続けている時間の適当回数分の平均時間Ave
Tshort2[sec]を求める。
判定回路63bは、回数N
short2が設定回数N
set2を超えていれば、電圧V
power2を高める指令を発し、回数N
short2が設定回数N
set2と同じであれば電圧V
power2を維持する指令を発し、回数N
short2が設定回数N
set2未満であれば電圧V
power2を下げる指令を発する。或いは、適当回数分の平均時間Ave
Tshort2が設定時間T
set2を超えていれば電圧V
power2を高める指令を発し、平均時間Ave
Tshort2が設定時間T
set2と同じであれば電圧V
power2を維持する指令を発し、平均時間Ave
Tshort2が設定時間T
set2を下回れば電圧V
power2を下げる指令を発する。
【0051】
図6は、第2の実施の形態の溶接装置1に対応する比較例としての従来の溶接装置1の概略構成図である。
この従来の溶接装置1は、
図5に示した第2の実施の形態の溶接装置1において、電圧調整回路60a,60bを設けず、操作表示ボックス20で指令する溶接条件に、判定電圧V
short1,V
short2、設定回数N
set1,N
set2、設定時間T
set1,T
set2を含めず、設定電圧値V
set1,V
set2を含めたものに過ぎないので、各構成要素の詳しい説明は省略する。
【0052】
尚、第2の実施の形態では、電圧調整回路60aを溶接電源30aとは独立した所謂制御ボックスとして構成し、電圧調整回路60bを溶接電源30bとは独立した所謂制御ボックスとして構成したが、この限りではない。溶接電源30aに電圧調整回路60aを内蔵させ、溶接電源30bに電圧調整回路60bを内蔵させてそれぞれを専用電源とすると、可搬性、接続性に優れ、より使い易くなる。
【0053】
また、
図5には示さなかったが、電圧調整回路60a,60bを制御ボックスとするか、電圧調整回路60a,60bを溶接電源30a,30bに内蔵するかに関わらず、通常の溶接電源30a,30bに必須となっている出力電圧をそれぞれ設定電圧値V
set1,V
set2に調整する電圧調整機能(ダイヤルつまみ又はデジタル式設定による)は、アークスタート時のみ有効とする。なぜならば、一般的に電圧調整機能はアーク長を作業者が意識的に調整させるための機能であるが、本実施の形態ではアーク長が自動で最適に調整されるため、作業者の判断と官能による調整作業は不要となる一方、アークスタート時の瞬間に限っては、その計算機構上、本実施の形態における制御が機能しないからである。即ち、本実施の形態における電圧調整機能はアークスタート電圧を決めるために存在する。但し、電圧調整機能は溶接品質に殆ど影響を与えないので、その重要性は従来の溶接装置1に比べて著しく低下している。
【0054】
図7は、
図3の速度調整回路50の動作例を示したフローチャートである。
図示するように、速度調整回路50では、まず、電流サンプリング回路51が、2次側ケーブル40を流れる電流I
powerをサンプリングする(ステップ501)。
次に、判定回路52が、電流I
powerを設定電流値I
setと比較する(ステップ502)。その結果、電流I
powerが設定電流値I
set未満であれば、キャリッジ15の上昇速度S
upを低下させる指令を上昇モータ16に発する(ステップ503)。一方、電流I
powerが設定電流値I
setより高ければ、キャリッジ15の上昇速度S
upを高める指令を上昇モータ16に発する(ステップ504)。また、電流I
powerが設定電流値I
setと同じであれば、キャリッジ15の上昇速度S
upを維持する指令を上昇モータ16に発する(ステップ505)。
【0055】
尚、
図5の速度調整回路50aの動作例もこれと同様である。但し、その場合、
図7のフローチャート及び上記説明における速度調整回路50、電流サンプリング回路51、判定回路52、2次側ケーブル40、電流I
power、設定電流値I
setは、それぞれ、速度調整回路50a、電流サンプリング回路51a、判定回路52a、2次側ケーブル40a、電流I
power1、設定電流値I
set1と読み替える必要がある。
【0056】
図8は、
図3の電圧調整回路60の第1の動作例を示したフローチャートである。この第1の動作例では、
図1に示したように、短絡回数をアーク長制御パラメータとして用いるものとする。
図示するように、電圧調整回路60では、まず、電圧サンプリング回路61が、溶接電源30から出力される電圧V
powerをサンプリングする(ステップ601)。
次に、波形解析回路62が、電圧V
powerの波形を解析することにより、電圧V
powerが判定電圧V
shortを下回った単位時間当たりの回数N
short[回/sec]を求める(ステップ602)。
次いで、判定回路63が、回数N
shortを設定回数N
setと比較する(ステップ603)。その結果、回数N
shortが設定回数N
setを超えていれば、電圧V
powerを高める指令を溶接電源30に発する(ステップ604)。一方、回数N
shortが設定回数N
set未満であれば、電圧V
powerを下げる指令を溶接電源30に発する(ステップ605)。また、回数N
shortが設定回数N
setと同じであれば、電圧V
powerを維持する指令を溶接電源30に発する(ステップ606)。
【0057】
尚、
図5の電圧調整回路60aの動作例も、短絡回数をアーク長制御パラメータとして用いるときはこれと同様である。但し、その場合、
図8のフローチャート及び上記説明における電圧調整回路60、電圧サンプリング回路61、波形解析回路62、判定回路63、溶接電源30、電圧V
power、判定電圧V
short、回数N
short、設定回数N
setは、それぞれ、電圧調整回路60a、電圧サンプリング回路61a、波形解析回路62a、判定回路63a、溶接電源30a、電圧V
power1、判定電圧V
short1、回数N
short1、設定回数N
set1と読み替える必要がある。
【0058】
また、
図5の電圧調整回路60bの動作例も、短絡回数をアーク長制御パラメータとして用いるときはこれと同様である。但し、その場合、
図8のフローチャート及び上記説明における電圧調整回路60、電圧サンプリング回路61、波形解析回路62、判定回路63、溶接電源30、電圧V
power、判定電圧V
short、回数N
short、設定回数N
setは、それぞれ、電圧調整回路60b、電圧サンプリング回路61b、波形解析回路62b、判定回路63b、溶接電源30b、電圧V
power2、判定電圧V
short2、回数N
short2、設定回数N
set2と読み替える必要がある。
【0059】
図9は、
図3の電圧調整回路60の第2の動作例を示したフローチャートである。この第2の動作例では、
図2に示したように、短絡時間をアーク長制御パラメータとして用いるものとする。
図示するように、電圧調整回路60では、まず、電圧サンプリング回路61が、溶接電源30から出力される電圧V
powerをサンプリングする(ステップ651)。
次に、波形解析回路62が、電圧V
powerの波形を解析することにより、電圧V
powerが判定電圧V
shortを下回り続けている時間の適当回数分の平均時間Ave
Tshort[sec]を求める(ステップ652)。
次いで、判定回路63が、平均時間Ave
Tshortを設定時間T
setと比較する(ステップ653)。その結果、平均時間Ave
Tshortが設定時間T
setを超えていれば、電圧V
powerを高める指令を溶接電源30に発する(ステップ654)。一方、平均時間Ave
Tshortが設定時間T
set未満であれば、電圧V
powerを下げる指令を溶接電源30に発する(ステップ655)。また、平均時間Ave
Tshortが設定時間T
setと同じであれば、電圧V
powerを維持する指令を溶接電源30に発する(ステップ656)。
【0060】
尚、
図5の電圧調整回路60aの動作例も、短絡時間をアーク長制御パラメータとして用いるときはこれと同様である。但し、その場合、
図9のフローチャート及び上記説明における電圧調整回路60、電圧サンプリング回路61、波形解析回路62、判定回路63、溶接電源30、電圧V
power、判定電圧V
short、平均時間Ave
Tshort、設定時間T
setは、それぞれ、電圧調整回路60a、電圧サンプリング回路61a、波形解析回路62a、判定回路63a、溶接電源30a、電圧V
power1、判定電圧V
short1、平均時間Ave
Tshort1、設定時間T
set1と読み替える必要がある。
【0061】
また、
図5の電圧調整回路60bの動作例も、短絡時間をアーク長制御パラメータとして用いるときはこれと同様である。但し、その場合、
図9のフローチャート及び上記説明における電圧調整回路60、電圧サンプリング回路61、波形解析回路62、判定回路63、溶接電源30、電圧V
power、判定電圧V
short、平均時間Ave
Tshort、設定時間T
setは、それぞれ、電圧調整回路60b、電圧サンプリング回路61b、波形解析回路62b、判定回路63b、溶接電源30b、電圧V
power2、判定電圧V
short2、平均時間Ave
Tshort2、設定時間T
set2と読み替える必要がある。
【0062】
尚、本実施の形態は、本発明を平板の立向姿勢の突合せ継手溶接に適用した例であったが、本発明はあらゆる立向上進溶接に適用可能である。
図10−1及び
図10−2は、本発明を適用可能な溶接の例を示したものである。
即ち、本発明は、
図10−1(a)に示す平板の立向姿勢の突合せ継手溶接の他に、同図(b)に示す角溶接、同図(c)に示すT字継手のすみ肉溶接、同図(d)に示すT字継手の開先溶接、
図10−2(e)に示す丸パイプとフランジの開先溶接、同図(f)に示す丸パイプ同士の円周突合せ溶接等にも適用可能である。
図10−1(a)〜(d)では、各図中の白抜き矢印の方向に溶接を進めることにより立向上進溶接となる。一方、
図10−2(e),(f)では、溶接トーチを時計の約3時の位置に固定して各図中の白抜き矢印の方向に母材を回転させながら溶接を進めることにより、相対的な立向溶接と捉えることができる。但し、この相対的な立向溶接では、電流値による上昇モータによる上昇速度の制御は、電流値による母材の回転速度の制御に置き換えられる。
【0063】
一方、発明者らは、本実施の形態の仕組みを最も汎用的な下向溶接及び水平溶接でも試したが、上手く機能せず、本実施の形態における仕組みは、立向上進溶接で特に有効であることが分かった。それは以下の理由によるものと考えられる。即ち、立向上進溶接では、開先G、裏当て材13、摺動銅板14により四方から挟まれて溶融池Pの逃げ道が無く、かつ、上昇速度が小さいため、溶融池Pの表面と溶接ワイヤとの間の距離が安定的に保てることから、制御が収束に向かい、効果的になり易い。これに対し、下向溶接及び水平溶接では、
図11(a)から分かる通り、アーク進行方向に物理的に遮るものがないため、重力によって溶融池が不規則にアーク前方に流れ込み易く、都度、溶接ワイヤと直下の溶融池面との間の距離が変動するため、制御がその影響を受けて発散してしまい、むしろ大きなアーク長変動を招くことになってしまうからである。つまり、本実施の形態における仕組みは、溶融池面が安定位置を保てることが前提条件となっている。そのため、本実施の形態では、電圧の制御だけでなく、電流のサンプリングによる上昇速度の制御も同時に行うことが望ましい。
【0064】
また、本実施の形態を適用する溶接法としては、最も一般的なガスシールドアーク溶接法が挙げられる。このガスシールドアーク溶接法では、溶接ワイヤをソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤとし、炭酸ガス又はアルゴンと炭酸ガスとの混合ガスをアーク及び溶融池Pの表面に吹き付けて大気から遮断することで健全性を保つ。一方、ノンガスシールドアーク溶接法に本実施の形態を適用してもよい。ノンガスシールドアーク溶接法はセルフシールドアーク溶接法とも呼ばれ、溶接ワイヤを専用のフラックス入りワイヤとすることで、シールドガスを不要とする。ヒューム発生量が多く、溶接金属の靭性もガスシールドアーク溶接に比べると低いという短所はあるものの、ガスの送給系及びその吹き出し口のメンテナンス、ガスボンベ又はタンク設備等が不要となり、簡便であるという長所もある。ノンガスシールドアーク溶接法は、風の強い箇所ではガスシールドアーク溶接法よりも好適である。
【0065】
以上述べてきたことから、本実施の形態の効果は、次のようにまとめることができる。
即ち、従来の立向溶接装置では、設置された環境に応じた設備変更、作業者の技量や無意識的な溶接条件の設定ミス等が起きた場合には、溶接品質に対する悪影響が避けられず、都度作業者による試行錯誤の調整が余儀なくされていた。そのため、作業者は長時間の溶接において付きっきりであった。しかしながら、本実施の形態における立向溶接装置では、溶接品質に大きな影響を及ぼすアーク長を自動的に最適化収束させることができる。従って、作業者は、アーク発生及び装置稼働の後は、自動調整機能のおかげで無監視とすることができ、品質向上とコストダウンを両立し、その価値は多大である。
【0066】
ここで、本実施の形態で用いたパラメータ等の数値限定及びその理由について説明する。
まず、設定回数N
setについて説明する。
設定回数N
setが小さいということは短絡が少なくなるように制御する、即ち、アーク長が長くなるように狙うことを示唆する。アーク長が長ければ、溶込みは深くなる。しかしながら、アーク長が過大であれば、溶接金属合金元素の過度な酸化消費、大気のアークへの巻込みといった現象が起こり、溶接金属の性能が低下する。V
short=15Vとすれば、設定回数N
setが3回未満ではこれらの現象が起きる。
一方、設定回数N
setが大きいということは短絡が多くなるように制御する、即ち、アーク長が短くなるように狙うことを示唆する。アーク長が短ければ、溶接金属の機械的性質は改善される。しかしながら、アーク長が過小であれば、溶融池P内の対流が弱まり、溶込み不良が発生する。V
short=15Vとすれば、設定回数N
setが60回を超えるとこの現象が起きる。
従って、設定回数N
setは3〜60回/secが望ましい。尚、更に範囲を狭めて設定回数N
setを5〜20回/secにすると、溶接金属の性能と深溶込み性のバランスがより良くなる。
尚、設定回数N
set1、N
set2についても同様である。
【0067】
次に、設定時間T
setについて説明する。
設定時間T
setが小さいということは短絡が短時間で解消する(微少な短絡しか発生しない)、即ち、アーク長が長くなるように狙うことを示唆する。アーク長が長ければ、溶込みは深くなる。しかしながら、アーク長が過大であれば、溶接金属合金元素の過度な酸化消費、大気のアークへの巻込みといった現象が起こり、溶接金属の性能が低下する。V
short=15Vとすれば、設定時間T
setが0.1msec未満ではこれらの現象が起きる。
一方、設定時間T
setが大きいということは短絡が長時間持続する(短絡の規模が大きい)、即ち、アーク長が短くなるように狙うことを示唆する。アーク長が短ければ、溶接金属の機械的性質は改善される。しかしながら、アーク長が過小であれば、溶融池P内の対流が弱まり、溶込み不良が発生する。V
short=15Vとすれば、設定時間T
setが1.0msecを超えるとこの現象が起きる。
従って、設定時間T
setは0.1〜1.0msecが望ましい。尚、更に範囲を狭めて設定時間T
setを0.2〜0.5msecにすると、溶接金属の性能と深溶込み性のバランスがより良くなる。
尚、設定時間T
set1、T
set2についても同様である。
【0068】
次いで、上昇モータ16による上昇速度S
upについて説明する。
本実施の形態では、アーク長の安定化を目的として、電圧サンプリング、解析、判定、溶接電源30(30a,30b)への出力電圧指令というルーチンと、電流サンプリング、判定、上昇モータ16への上昇速度指令というルーチンとを同時に繰り返すので、溶融池Pの表面が平滑で安定なほど効果的である。溶接機及び溶融池Pの表面の上昇方向とアーク長の方向とは同一なので、上昇速度S
upが大きくなるほどルーチン期間でのアーク長短縮度合いが大きくなる。従って、本実施の形態における制御の結果として補正される幅が大きくなって粗くなり、アーク長が収束し難くなる。
以上のメカニズムから、上昇速度S
upは小さいほどアーク長安定化制御が良好に作用する。具体的には、本実施の形態における制御は、上昇速度S
upが180mm/min以下のときに有効に作用する。また、上昇速度S
upを120mm/min以下とするとアーク長はより適正に保たれるので、望ましくは、上昇速度S
upは120mm/min以下とするとよい。尚、この上昇速度S
upは、立向溶接としては必要十分な実用領域である。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と対比して説明する。尚、この実施例及び比較例は、上述した数値限定の根拠を与えるものでもある。
【0070】
[実施例1(1電極型)]
鋼板として板厚12mmの炭素鋼鋼板JIS G3106 SM490Bを用い、50°V型、ルートギャップ5mmの開先加工を施して立向上進溶接を行った。ガスシールドアーク溶接法を適用し、溶接ワイヤはフラックス入りワイヤJIS Z3319 YFEG−22C規格材の1.6mmφ径とし、シールドガスはCO
2とした。溶接装置としては、
図3又は
図4の構成を用いた。溶接条件や判定条件を変えて溶接長500mmの溶接を実施し、溶接後に、溶込み性の評価のための超音波探傷試験、及び、溶接金属の性能評価の1つである断面中央部のシャルピー衝撃試験を行った。超音波探傷試験では、溶込み不良が全く無かったものを◎とし、溶込み不良が1〜3箇所にあったものを○とし、溶込み不良が4箇所以上にあったものを×とした。シャルピー衝撃試験では、試験温度−20℃において、47J以上を◎とし、27J以上47J未満を○とし、27J未満を×とした。
下記表に試験結果を示す。尚、表では、ベースとなる条件に対して変更した条件を斜体の太字で示し、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験の結果のうち問題となるものを太枠囲みの太字で示している。
【0071】
【表1】
【0072】
No.A1は、
図3の構成を用い、アーク長を短絡回数に基づいて制御した場合である。No.A2は、
図3の構成を用い、アーク長を平均短絡時間に基づいて制御した場合である。No.A3は、アーク長を制御する電圧調整回路が設けられていない
図4の構成を用いた場合である。これらNo.A1〜A3では、2次側ケーブルが25mでアーク長が最適となるように設定しており、何れも溶接後の超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。
【0073】
No.A4〜A6は、この設定を基準として、2次側ケーブルを50mに延長した場合である。
図3の構成を用いているNo.A4,A5では、2次側ケーブルが25mのときの溶接条件のままであっても自動的にアーク長制御が働くので、アーク長は最適なままであり、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。一方、No.A6のように
図4の構成を用いた場合は、2次側ケーブルが長くなり、2次側ケーブルにおける消費電圧が高くなったので、相対的にアーク電圧が低くなった。そのため、溶融池内対流が弱まり、溶込みが浅くなって超音波探傷試験で欠陥が多く発生した。
【0074】
No.A7〜A9は、逆に2次側ケーブルを10mに短縮した場合である。
図3の構成を用いているNo.A7,A8では、2次側ケーブルが25mのときの溶接条件のままであっても自動的にアーク長制御が働くので、アーク長は最適なままであり、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。一方、No.A9のように
図4の構成を用いた場合は、2次側ケーブルが短くなり、2次側ケーブルにおける消費電圧が低くなったので、相対的にアーク電圧が高くなった。そのため、アーク長が過大となり、溶接金属合金元素の過度な酸化消費、大気のアークへの巻込みといった現象が起こり、溶接金属のシャルピー衝撃性能が低下した。
【0075】
No.A10〜A12は、No.A1〜A3の条件に対して、電圧設定を間違えて低く設定してしまった場合である。No.A10,A11のように
図3の構成を用いた場合、電圧設定はアークスタート条件としてしか作動しないため、アークスタートの瞬間こそややアーク不安定であるが、すぐにアーク長制御が働き、最適アーク長で溶接が進行する。従って、溶込みや溶接金属の健全性は保たれる。一方、No.A12のように
図4の構成を用いた場合は、間違えて設定された低電圧条件のまま溶接が進行するので、溶融池内対流が弱まり、溶込みが浅くなって超音波探傷試験で欠陥が多く発生した。
【0076】
No.A13〜A15は、No.A1〜A3の条件に対して、電圧設定を間違えて高く設定してしまった場合である。No.A13,A14のように
図3の構成を用いた場合、電圧設定はアークスタート条件としてしか作動しないため、アークスタートの瞬間こそややアーク不安定であるが、すぐにアーク長制御が働き、最適アーク長で溶接が進行する。従って、溶込みや溶接金属の健全性は保たれる。一方、No.A15のように
図4の構成を用いた場合は、間違えて設定された高電圧条件のまま溶接が進行するので、アーク長が過大となり、溶接金属合金元素の過度な酸化消費、大気のアークへの巻込みといった現象が起こり、溶接金属のシャルピー衝撃性能が低下した。
【0077】
No.A16〜A19は、No.A1の条件に対して、短絡回数の閾値である設定回数N
setを変化させた場合である。設定回数N
setが最も望ましい範囲にあるNo.A16,A18は、溶込み性能、溶接金属性能共に良好である。しかしながら、設定回数N
setを低く設定したNo.A17では、アーク長が若干長めとなり、シャルピー衝撃試験が合格だがやや低めとなった。一方、設定回数N
setを高く設定したNo.A19では、アーク長が若干短めとなり、超音波探傷試験で合格となるも少数欠陥が生じた。
【0078】
No.A20は、
図3の構成を用いた溶接法において許容される上限の上昇速度を採用した場合である。アーク長制御は有効に働き、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験は比較的良好な値を示した。しかしながら、
図3の構成を用いた溶接法において許容範囲を超える上昇速度を採用したNo.A21では、アーク長制御が溶融池面上昇速度に追いつかず、アーク長が不安定となったため、溶込みも不安定となり、超音波探傷試験で不合格となった。
【0079】
[実施例2(1電極型)]
実施例1と同様に、鋼板として板厚12mmの炭素鋼鋼板JIS G3106 SM490Bを用い、50゜V型、ルートギャップ5mmの開先加工を施して立向上進溶接を行った。ノンガスシールドアーク溶接法を適用し、溶接ワイヤはJIS Z3313 T49YT4−0NA規格材の2.4mmφ径とした。溶接装置としては、
図3又は
図4の構成を用いた。溶接条件や判定条件を変えて溶接長500mmの溶接を実施し、溶接後に、溶込み性の評価のための超音波探傷試験、及び、溶接金属の性能評価の1つである断面中央部のシャルピー衝撃試験を行った。超音波探傷試験では、溶込み不良が全く無かったものを◎とし、溶込み不良が1〜3箇所にあったものを○とし、溶込み不良が4箇所以上にあったものを×とした。シャルピー衝撃試験では、試験温度+20℃において、47J以上を◎とし、27J以上47J未満を○とし、27J未満を×とした。
下記表に試験結果を示す。尚、表では、ベースとなる条件に対して変更した条件を斜体の太字で示し、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験の結果のうち問題となるものを太枠囲みの太字で示している。
【0080】
【表2】
【0081】
No.B1は、
図3の構成を用い、アーク長を短絡回数に基づいて制御した場合である。No.B2は、
図3の構成を用い、アーク長を平均短絡時間に基づいて制御した場合である。No.B3は、アーク長を制御する電圧調整回路が設けられていない
図4の構成を用いた場合である。これらNo.B1〜B3では、2次側ケーブルが25mでアーク長が最適となるように設定しており、何れも溶接後の超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。
【0082】
No.B4〜B6は、この設定を基準として、2次側ケーブルを50mに延長した場合である。
図3の構成を用いているNo.B4,B5では、2次側ケーブルが25mのときの溶接条件のままであっても自動的にアーク長制御が働くので、アーク長は最適なままであり、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。一方、No.B6のように
図4の構成を用いた場合は、2次側ケーブルが長くなり、2次側ケーブルにおける消費電圧が高くなったので、相対的にアーク電圧が低くなった。そのため、溶融池内対流が弱まり、溶込みが浅くなって超音波探傷試験で欠陥が多く発生した。
【0083】
No.B7〜B10は、No.B2の条件に対して、平均短絡時間の閾値である設定時間T
setを変化させた場合である。設定時間T
setが最も望ましい範囲にあるNo.B7,B9は、溶込み性能、溶接金属性能共に良好である。しかし、設定時間T
setを低く設定したNo.B8では、アーク長が若干長めとなり、シャルピー衝撃試験が合格だがやや低めとなった。一方、設定時間T
setを高く設定したNo.B10では、アーク長が若干短めとなり、超音波探傷試験で合格となるも少数欠陥が生じた。
【0084】
No.B11の条件は、No.B1の条件と似ているが、電流の極性を電極マイナス、所謂正極性とした場合である。極性が変わればワイヤ溶融速度が変わるので上昇速度も異なっているが、本実施の形態におけるアーク長制御は有効に働き、問題なく動作した。そして得られた溶込み性能や溶接金属の性能も問題なかった。
【0085】
[実施例3(2電極型)]
鋼板として板厚80mmの炭素鋼鋼板JIS G3106 SM490Cを用い、20゜V型、ルートギャップ8mmの開先加工を施して立向上進溶接を行った。ガスシールドアーク溶接法を適用し、溶接ワイヤとしてはフラックス入りワイヤJIS Z3319 YFEG−22C規格材の1.6mmφ径を2本用い、シールドガスはCO
2とした。溶接装置としては、2電極アークにて1つの溶融池を形成して同時上昇する
図5又は
図6の構成を用いた。溶接条件や判定条件を変えて溶接長500mmの溶接を実施し、溶接後に、溶込み性の評価のための超音波探傷試験、及び、溶接金属の性能評価の1つである断面中央部のシャルピー衝撃試験を行った。超音波探傷試験では、溶込み不良が全く無かったものを◎とし、溶込み不良が1〜3箇所にあったものを○とし、溶込み不良が4箇所以上にあったものを×とした。シャルピー衝撃試験では、試験温度−20℃において、47J以上を◎とし、27J以上47J未満を○とし、27J未満を×とした。
下記表に試験結果を示す。尚、表では、ベースとなる条件に対して変更した条件を斜体の太字で示し、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験の結果のうち問題となるものを太枠囲みの太字で示している。
【0086】
【表3】
【0087】
No.C1は、
図5の構成を用い、2本のアーク長をそれぞれ独立して短絡回数に基づいて制御した場合である。No.C2は、
図5の構成を用い、2本のアーク長をそれぞれ独立して平均短絡時間に基づいて制御した場合である。No.C3は、2本のアーク長の何れを制御する電圧調整回路も設けられていない
図6の構成を用いた場合である。尚、溶接機の上昇速度は手前側電極と繋がる電力供給系からサンプリングされた電流値によって制御されている。これらNo.C1〜C3では、2次側ケーブルが25mでアーク長が最適となるように設定しており、何れも溶接後の超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。
【0088】
No.C4〜C6は、この設定を基準として、2次側ケーブルを50mに延長した場合である。
図5の構成を用いているNo.C4,C5では、2次側ケーブルが25mのときの溶接条件のままであっても自動的にアーク長制御が働くので、アーク長は最適なままであり、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。一方、No.C6のように
図6の構成を用いた場合は、2次側ケーブルが長くなり、2次側ケーブルにおける消費電圧が高くなったので、相対的にアーク電圧が低くなった。そのため、溶融池内対流が弱まり、溶込みが浅くなって超音波探傷試験で欠陥が多く発生した。
【0089】
No.C7〜C9は、逆に2次側ケーブルを10mに短縮した場合である。
図5の構成を用いているNo.C7,C8では、2次側ケーブルが25mのときの溶接条件のままであっても自動的にアーク長制御が働くので、アーク長は最適なままであり、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。一方、No.C9のように
図6の構成を用いた場合は、2次側ケーブルが短くなり、2次側ケーブルにおける消費電圧が低くなったので、相対的にアーク電圧が高くなった。そのため、アーク長が過大となり、溶接金属合金元素の過度な酸化消費、大気のアークへの巻込みといった現象が起こり、溶接金属のシャルピー衝撃性能が低下した。
【0090】
[実施例4(2電極型)]
実施例3と同様に、鋼板として板厚80mmの炭素鋼鋼板JIS G3106 SM490Cを用い、20゜V型、ルートギャップ8mmの開先加工を施して立向上進溶接を行った。ガスシールドアーク溶接法を適用し、溶接ワイヤとしてはフラックス入りワイヤJIS Z3319 YFEG−22C規格材の1.6mmφ径を2本用い、シールドガスはCO
2とした。溶接装置としては、2電極アークにて1つの溶融池を形成して同時上昇する
図5又は
図6の構成を用いた。溶接条件や判定条件を変えて溶接長500mmの溶接を実施し、溶接後に、溶込み性の評価のための超音波探傷試験、及び、溶接金属の性能評価の1つである断面中央部のシャルピー衝撃試験を行った。超音波探傷試験では、溶込み不良が全く無かったものを◎とし、溶込み不良が1〜3箇所にあったものを○とし、溶込み不良が4箇所以上にあったものを×とした。シャルピー衝撃試験では、試験温度−20℃において、47J以上を◎とし、27J以上47J未満を○とし、27J未満を×とした。
下記表に試験結果を示す。尚、表では、ベースとなる条件に対して変更した条件を斜体の太字で示し、超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験の結果のうち問題となるものを太枠囲みの太字で示している。
【0091】
【表4】
【0092】
No.D1は、
図5の構成を用い、2本のアーク長をそれぞれ独立して平均短絡時間に基づいて制御した場合である。No.D2は、2本のアーク長の何れを制御する電圧調整回路も設けられていない
図6の構成を用いた場合である。尚、溶融機構の上昇速度は手前側電極と繋がる電力供給系からサンプリングされた電流値によって制御されている。これらNo.D1,D2は、No.C2,C3とは電極極性の組合せが異なっているが、2次側ケーブルが25mでアーク長が最適となるように設定しており、何れも溶接後の超音波探傷試験及びシャルピー衝撃試験で問題ない値となっている。
【0093】
No.D3,D4は、No.D1,D2の条件に対して、電圧設定を間違えて低く設定してしまった場合である。No.D3のように
図5の構成を用いた場合、電圧設定はアークスタート条件としてしか作動しないため、アークスタートの瞬間こそややアーク不安定であるが、すぐにアーク長制御が働き、最適アーク長で溶接が進行する。従って、溶込みや溶接金属の健全性は保たれる。一方、No.D4のように
図6の構成を用いた場合は、間違えて設定された低電圧条件のまま溶接が進行するので、溶融池内対流が弱まり、溶込みが浅くなって超音波探傷試験で欠陥が多く発生した。
【0094】
No.D5,D6は、No.D1,D2の条件に対して、電圧設定を間違えて高く設定してしまった場合である。No.D5のように
図5の構成を用いた場合、電圧設定はアークスタート条件としてしか作動しないため、アークスタートの瞬間こそややアーク不安定であるが、すぐにアーク長制御が働き、最適アーク長で溶接が進行する。従って、溶込みや溶接金属の健全性は保たれる。一方、No.D6のように
図6の構成を用いた場合は、間違えて設定された高電圧条件のまま溶接が進行するので、アーク長が過大となり、溶接金属合金元素の過度な酸化消費、大気のアークへの巻込みといった現象が起こり、溶接金属のシャルピー衝撃性能が低下した。